皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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26818. | RE:RE:アガサさんデビュー100周年記念! 早川さんはいつやるの? 弾十六 2020/02/06 01:01 [雑談/足跡] |
クリスティ再読さま 皆さま おばんでした。 こちらこそ恐縮です。今後とも香り高い評文を楽しみにしております。 さて英米の長篇の雑誌連載は、原稿が完成してから出版権とは別に連載権を売る方式のようです。(コリンズの時代はどうだったのでしょう。『月長石』も雑誌連載が初出でした…) アガサさんの『スタイルズ』や『秘密機関』もBodley Headに原稿が売れてから、連載権を別売しています。なのでクリスティ再読さまのおっしゃる通り、長篇は書き下ろしが基本といって間違いなさそうです。(勘違いがあったので、こっそり修正しました。) ハメットの長篇とクノップの関係について、残念ながら基礎知識はありません。(ハメットの長篇を全然読んでませんし、故にハメット伝も未読です… ) これまたクリスティ再読さまご指摘のハメットとヴァンダインとの因縁が脳裏をよぎったので、ここでは二人の関係を調べてみました。 【ハメットとヴァンダインの長篇リスト1926-1934】 ベンスン(ヴァンダイン) 単行本1926 カナリア(ヴァンダイン) 単行本1927 赤い収穫(ハメット) Black Mask 1927-11〜1928-2 (4回分載) 単行本1928 グリーン家(ヴァンダイン) Scribner’s 1928-1〜1928-4 (4回分載) 単行本1928 僧正(ヴァンダイン) The American Magazine 1928-10〜1929-3 (6回分載) 単行本1929 デイン家(ハメット) Black Mask 1928-11〜1929-2 (4回分載) 単行本1929 マルタの鷹(ハメット) Black Mask 1929-9〜1930-1 (5回分載) 単行本1930 甲虫(ヴァンダイン) The American Magazine 1929-12〜1930-6 (7回分載) 単行本1930 ガラスの鍵(ハメット) Black Mask 1930-3〜1930-6 (4回分載) 単行本1931 ケンネル(ヴァンダイン) Cosmopolitan 1932-11〜1933-2 (4回分載) 単行本1933 ドラゴン(ヴァンダイン) Pictorial Review 1933-6〜? (5?回分載) 単行本1934 影なき男(ハメット) Red Book Magazine 1933-12 (長篇一括掲載) 単行本1934 カジノ(ヴァンダイン) Cosmopolitan 1934-7〜? (4?回分載) 単行本1934 ハメットの方はブラック・マスク誌に連載した原稿をKnopf(某Tubeでの発音は何回聴いても「ナップ」)に持ち込み、手直しして単行本出版という流れ、ヴァンダインの方はScribnerに持ち込んだ原稿の連載権を雑誌に売っているようです。 このリストを見ると、文芸出版のクノップ社が『赤い収穫』を出版したのは、スクリブナー社のファイロ ・ヴァンスものの影響(ミステリを売っても恥ずかしくないし、良く売れる、という風潮)も一因だと思われます。もしかしたら『デイン家の呪い』というタイトルも当時の大ベストセラー『グリーン家殺人事件』の影響あり? ここら辺、あまりよく知らないので、ボロが出ない前に退場いたします… |
26817. | RE:アガサさんデビュー100周年記念! 早川さんはいつやるの? クリスティ再読 2020/02/05 11:47 [雑談/足跡] |
弾十六さま、過分なお褒めのお言葉、ありがとうございます。でも、あまり褒めすぎないで、くださいな。純文学系の作品も扱いますが、可能な限り「ミステリ」の視点で頑張って、柔軟に書いていこうとこころがけてます。 アガサさんデビュー、なるほど!第一作、第二作のホントの初出が連載だった、というのは意外ですね。 思うのですが、欧米の出版業界にある、ハードカバーの独特なステータスみたいなものが、エンタメの中でのミステリの地位に強く影響しているようにも思われるのです。日本のリアルタイムの受容がここらの事情がピンときてなかったこともあって、どうも見過ごされがちのようにも思ってます。クリスティでもヴァン・ダインでもクイーンでもカーでも、基本はハードカバー書下ろし作家で、これがドイルやチェスタートンの時代とは大きく違う点のように感じるのです。 なので、ハメットがブラック・マスクの雑誌ライターから、一躍クノップ社のハードカバー書下ろし作家になったこと、というのが実はミステリという商品に関して、かなり革命的なことだったのでは?なんて思うのです。 向こうの出版業界は日本とはかなり様子が違うようなので、そこらのアウトラインをうまくつかめるようなものがあったら...なんては思っていたりします。弾十六さんの実証的なセンスにいつも敬服しているところですが、ここらへんの知識もけっこうおありなのでは? |
26803. | アガサさんデビュー100周年記念! 早川さんはいつやるの? 弾十六 2020/02/03 02:03 [雑談/足跡] |
皆さま、おばんでした。 クリスティ再読さまの『テスト氏』には完璧にやられた… こちらが向こうを張ってポオやチェスタトンの評を書いても、悠々と天空を駆けるその発想と筆致… 全く勝てる気がしません。(←そもそも勝負じゃない。) さて愚痴はともかく、本題です。 今年はアガサ・クリスティのデビュー100周年。そんな事とっくの昔に知ってるよ、と言うあなた。ではデビューした月はいつでしょうか? 英WikiのThe Mysterious Affair at Stylesの項には、冒頭に出版年月が書かれています。アガサさんが原稿を書いたのが1916年で、米国でJohn Laneが1920年10月に、英国ではThe Bodley Head(John Laneが設立)が1921年1月21日に出版。初出が項目のあとの方で明記されています。 The novel received its first true publication as an eighteen-part serialisation in The Times newspaper's Colonial Edition (aka The Weekly Times) from 27 February (Issue 2252) to 26 June 1920 (Issue 2269). なお、アガサさんの第2作The Secret Adversaryも同じくThe Time Weekly Editionの1921-8-12(Issue 2328)から1921-12-2(Issue 2343)までの17回連載が初出です。 いずれも省略などのない、完全版で連載されたようです。 さてThe TimesのColonial Editionとありますが、これではヒットせず、良く調べるとThe Times Weekly Editionが正式名。 たまたま、私は1920年8月27日号(Issue 2278)を持ってるので、この号をもとにして、由緒ある英国日刊紙ザ・タイムズの週刊版がどのようなものであったかを紹介し、アガサさんデビュー100周年の記念といたしましょう。 全世界で販売していたようで、最終ページに各国での代理店がずらり。フランス、イタリア、スイス、スペイン、オランダ、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、ルーマニア、マルタ、キプロス、エジプト、パレスチナ、シリア、トルコ、アデン、インド、シンガポール、インドネシア、中国、日本、ハワイ、カナダ、米国、トリニダード、ジャマイカ、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリア、南アフリカ、シエラレオネ、ナイロビ。(あれ?ドイツが無い…) 日本ではMaruzen K.K., Nihonbashi, Tokyoを筆頭にOsaka, Kyoto, Fukuoka, Sendaiの丸善が取り扱っています。 値段は1部6ペンス。英国消費者物価指数基準1920/2020で44.99倍、1ポンド=6343円で換算すると6ペンス=159円。英国内では年契約で23シリング(=7294円)11.5%引き、海外だと年間30シリング(=9514円)です。 紙面を見ると8月24日(火曜日)までのニュースが掲載されているようです。25日(水曜日)に印刷して各地に送付するという仕組みでしょうか。 サイズは470x310mm、構成は、表紙(The Times Weekly Edition [改行] Illustratedと書かれています)の表裏4ページがやや厚い赤っぽい紙で、1ページ目は広告、2-3ページ目は先週分の補足ニュース、4ページ目にはチェスのコーナーもあります。 本文(普通の新聞用紙)は20ページ。加えてやや上質紙で16ページの写真ページが付いています。 本文1ページ目はロンドンのニュース、2-5は重要ニュース、6は議会関係、7はパリ・ファッション、8は物価、9は投書、10は私信、11はその他のニュース、12-13は小説のページ(この号にはMuriel HineのThe Breathless Momentの第10章(承前)〜第11章(続く)までを掲載)、14は国内ニュースを短く、15は海外ニュースを短く、16-17はスポーツ、18は経済、19は雑多なニュース、20は切手欄と広告。 写真ページにはニュースの決定的瞬間やセレブやファッションやスポーツや映画や演劇など100枚以上の写真(かなり鮮明)が掲載されています。 というわけで、アガサさんはこの紙面で1920年2月に全世界デビューを飾ったのでした。(この欄に掲載された小説にはH. G. WellsのLove and Mr Lewisham (1899-1900)やArnold BennettのDenry the Audacious(1910)があるという。小説の連載は1920年代初め頃まで続いたようです。) このThe Times週刊版、英国を知るにはかなり便利で良いものだと思うので、日本にも結構入ってきていたのではないか、と思います。(日本に届くまでどれくらいかかったんだろう?) 当時、誰かが連載を読んで『スタイルズ荘』の感想を書いたのが発掘されたら面白いですね… ところで、この紙面に第1作、第2作ともに掲載されたというのは、どういう経緯なんだろう。よっぽど期待の新人だったのかなあ。 クリスティ自伝によると、The Weekly Timesの連載権は50ポンドで、その半分の25ポンド(=16万円)がアガサさんに渡された。(『スタイルズ荘』自体は英国で2000部近く売れたが届かず、契約条件により印税は入らなかったらしい。) 「わたしのためにたいへんいいことだ、とジョン・レーンがいった。若い作家にとって、《ウィークリー・タイムズ》が作品の連載をしてくれるのは有望なことだった。」(『クリスティ自伝』より) さて、そろそろ『秘密組織』を読んで感想をアップしなくては… |