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26428. | RE:硝煙反応まとめ~ありがとうございます(^_^) 人並由真 2019/12/01 13:17 [雑談/足跡] |
弾十六さま こんにちわです。 気合いの入った長文のご調査レポート、そして論考 誠にありがとうございました! 一読させていただいて、まずいきなり、 その情報量の多さに圧倒されるばかりです!! もう少し長い感想は一両日内に改めて 書かせていただきますね(._.) まずは一言先にお礼まで。 重ねてありがとうございます。 人並由真 拝 > [ 弾十六さんのコメント ] > 人並由真さま おばんでした。 > > お待たせしました。(←誰も待ってない…かも) 最近、面白いネタを見つけたのでやっと完成しました。残念ながら英国情報は拾えず、米国の状況だけのまとめですが、結構、興味深い内容になったと思います。(なお引用の表記方法などは自己流です。) |
26423. | 硝煙反応まとめ 弾十六 2019/12/01 01:16 [雑談/足跡] |
人並由真さま おばんでした。 お待たせしました。(←誰も待ってない…かも) 最近、面白いネタを見つけたのでやっと完成しました。残念ながら英国情報は拾えず、米国の状況だけのまとめですが、結構、興味深い内容になったと思います。(なお引用の表記方法などは自己流です。) 1. 用語について ここでは硝煙反応テストのうち、パラフィンワックスを使うものを「パラフィン・テスト」(paraffin test, dermal nitrate test)、銃を撃った時に身体や衣服などに残る火薬等の微小物質を「GSR」(Gun Shot Residue, 射撃残渣, FDR=Firearm Discharge Residueとも言う)と呼びます。 『火薬類の極微量分析』中村 順(科学警察研究所) 化学と教育 44巻8号(1996)によると「昔は射撃残さの検出にグリース反応を用いた(硝煙反応とよばれたが,誤解されやすいのでこの用語は使われない)」そうです。(「煙」が誤解の元か?) なおグリース反応は「亜硝酸イオンの存在で赤色になる」と書いてあります。(青色のはずですが…) 2. 歴史 1911年 WellensteinとKoberがジフェニルアミン反応の青色呈色を使ってGSRのnitrate検出実験(made with a Browning pistol)を行い、報告書を1911年5月に発表。(この試薬はGuttmannによるもの?) ※ 使用銃はFN1910かな? 1914年 キューバのGonzalo Iturrioz博士(chemist)が衣類に残るGSRを採取するためにパラフィン(a plain surface of paraffin)をスポンジのように使うことを提案。(博士は以前からその方法を使ってたという。) それまでは衣類などの繊維の中に付着している微細物質を取り出すのが難しかった。提案を試してみると、警察のラボが捕捉出来なかったGSRを検出できた。 1922年 Jose A. Fernandez Benitez(Cuban Laboratory of Legal Chemistry、上記の件で検出に失敗した当事者)がGSRの採取をパラフィンで対象者の手などから行ったことを報告。[Agunas consideraciones sobre las manchas producidas por los disparos de armas de fuego, Revisión de Médico Legal de Cuba I (1922)] Iturrioz博士のアイディア(paraffin impression)を発展させ、色々試した結果を発表したらしい。(論文未読) この報告はフランス(Balthazard 1923、Iturrioz博士への言及なし)など海外でも評判になった。 1931年 Teodoro Gonzales(Mexico City Police Laboratory)がIturrioz博士の方法を応用し、溶けたパラフィンをブラシで対象者の手の甲に塗って、固まったワックスからGSRを検出する方法を実践。 1933年 Gonzalesがこの方法を米国に紹介しPolice Department of Milwaukeeで実演。J. Klucheskyにより報告されthe dermal nitrate test, the diphenylamine test, the Gonzales testと呼ばれるようになる。 [以上、Dermo-Nitrate Test in Cuba (Israel Castellanos 1943)、及び、Chemical Analysis of Firearms, Ammunition, and Gunshot Residue 2nd edition (James Smyth Wallace 2018)] ※特にCastellanos 1943は黎明期のエピソードが詳しく書かれてて面白い。(パラフィン使用のきっかけはChief of Police of the Republic, General Armando de la Riva殺害という大事件だった。そのため警察ラボの分析結果に不満を持った地方検事が、民間の専門家に、より高度な証拠分析を依頼したようだ。) 1935年 ダラスでパラフィン・テスト採用。[Warren Report 1964(3H 494)] 1935年 FBI会報で、パラフィン・テストが「近年幅広く採用されている(current widespread use)」と表現。[“Diphenylamine Test for Gun Powder”, 4 FBI Law Enforcement Bull. 5 (1935)] ※下も同じ引用元かも。 1935年 FBIがテストの有効性への疑義(厳密なテストではないので、条件付きで使用すること the test was not specific and had reservations about its use)を表明。 1936年 パラフィン・テストに基づく証拠が法廷で取り上げられた最初の例。銃発射の証拠として採用。Commonwealth v. Westwood, Pennsylvania [Evidential Implications of the Dermal Nitrate Test for Gunpowder Residues (Edwin C. Conrad 1961)] ※ 殺人の3時間後にテスト。容疑者のパラフィン・グローブから七つの点反応(主として人差し指) 手を洗ったのかな?少なすぎる気が… 1954年 パラフィン・テストが証拠として採用された二度目の例 Henson v. State, Texas [上記Conrad 1961] ※詳細が書いてないが、逮捕時にテストされたというから、結構時間が経過していたように思われる。反応の量は不明。 1955年 パラフィン・テストは、確定不能(inconclusive 陽性反応はあるが決め手不足)の判断が分析官の経験値で大きく異なる実験結果が出た(客観的な根拠が確立していない)ため信頼性に疑問あり、との論文。[Unreliability of Dermal Nitrate Test for Gunpower (Henry W. Turkel & Jerome Lipman 1955)] ※冒頭「サンフランシスコ検死官事務所では数年来(for some years: どのくらいの期間か)銃による不審な死亡事件の場合、自殺他殺を問わず全てのケースでパラフィン・テストを実施してる」と書かれています。 1959年 パラフィン・テストが証拠として採用されなかった例 Brook v. People, Colorado [上記Conrad 1961] 自殺を疑われた死者の手からnitrateは検出さなかった。殺人の容疑者はパラフィン・テストを拒否。法廷はパラフィン・テストの信頼性が低いという理由で容疑者のテスト拒否を認めた。上記Turkel & Lipman 1955も根拠となった。 1959年 プライマー(弾丸の発火薬)由来の成分(antimony, barium & lead)を検出するGSRテストがHarold HarrisonとRobert Gilroyにより開発される。火薬の使用が銃によるものだという確実性は高まったが、誤検出の可能性という課題は依然として残った。[Gunshot Residue Tests (Paul C. Giannelli 1991)] 1968年 インターポール会議で、パラフィン・テストは時代遅れという結論となった。(the paraffin test should no longer be used) [以上、注記がない項目はBev Fitchett's Guns Magazine/Chemical Analysis Of Firearms/Paraffin Test(Last Updated on Sun, 14 Oct 2018)より] 3. 一般に広まったのはいつごろか 実は「大統領を撃った男」Lee Harvey Oswaldがパラフィン・テストを受けていたのです。最初期の事件への疑問本 マーク・レーン著『ケネディ暗殺の謎 : オズワルド弁護人の反証』邦訳1967年(Rush to Judgment 1966)でも5ページ分を費やしてそのことに触れています。(第一部 12 パラフィン・テストと手型検出p65-71) [私は未見。内容を確認したいと思ってます…] ウォーレン委員会の報告書は1964年に一般公開されており、オズワルドのテスト結果も様々な無罪説・陰謀説でも取り上げられていて、事件の衝撃を考えると、米国や日本において「パラフィン・テスト」(硝煙反応)が一般に広まったのは、この事件からだと考えて間違いないでしょう。(映画『ダラスの熱い日』(1973)には取り上げられてたかなあ。) ウォーレン委員会の委員も当時(1964)よく知らなかったらしく、FBIの証言者に“Is this a test that has been conducted by law-enforcement agencies for some time. Is it a new test?”(捜査機関が昔からやってるテスト?最近のもの?)と尋ねているくらいです。 4. 若干の考察 (1)なぜキューバ? 1949年の資料でも田舎ではロウソク(原料はパラフィンワックス)照明がまだ多かったというキューバ。身近に豊富な物質だったので、パラフィンを使うという発想が生まれたのか。 (2)パラフィンを使う理由 上記Conrad 1961によると、パラフィンの熱で毛穴が開き、奥に残っているGSRが検出可能だという。通常の手洗いでは流せないので、三週間前のものでも見つかる(異論あり)としている。 でも、もしそんなに長く保存されるのなら、「確か以前に火薬を使ったよ。でもいつのことだか覚えてない」というあやふやな抗弁でも成立してしまうような… (3)確実性 法廷で取り上げられた最初の例はたった7つのnitrateの微粒子だけで証拠採用しています。でも、これが有罪の唯一の証拠だったらどうだったか。パラフィン・テスト賛成派のConrad 1961論文でも、nitrateが他の理由で手に付着する状況を多数例示しています。 (4)心理的効果 ウォーレン委員会に面白い証言があります。(3H494) FBIがパラフィン・テストは信頼性が低くて…と発言すると、じゃあ何でそんなテストを1935年からずっと続けてんの?という当然の疑問が。 それに対するFBIの回答。 CUNNINGHAM: There may be some law-enforcement agencies which use the test for psychological reasons. DULLES: Explain that. CUNNINGHAM: Yes, sir; what they do is they ask, say, "We are going to run a paraffin test on you, you might as well confess now," and they will — it is — Mr. DULLES: I get your point. 容疑者にブラフをかけるため、ってぶっちゃけてます。 実はペリー・メイスンでパラフィン・テスト初出の『おとなしい共同経営者』(1940)の中でもブラフっぽい使われ方をしています。 LA警察出身のウォンボー『センチュリアン』(1971)のセリフ(Not worth a shit...)が当時(1960年代)の警官の本音、と以前書きましたが、SFではTurkel & Lipman 1955にあるように疑わしい全ケースでパラフィン・テストをしてたから、LAでも同じだったかも。不確実で法廷でも採用されにくい証拠を、めんどくさい手順でとり続ける… いやまさにクソですね。 (5)オズワルドのパラフィン・テスト結果 両手は陽性で頰は陰性だった、とか、いや全部陰性だったとか、色々と情報が乱れ飛んでいて、面倒なのでちゃんと調べてません。まーでも政府側にオズワルド単独犯説を推進するバイアスは確実にあったのだから、パラフィン・テストはダメだ、という実際以上の評価がなされたように思われます。 (6)探偵小説への影響 実人生はともかくとして、トリック小説を書くには厄介なネタですよね。防御策を施さないと、誰が撃ったか、という謎が簡単にわかってしまう。現代の科学分析ではどこまで確実になってるんでしょうか。 5. あとがき オズワルドの例を発見してから良い資料が続々と見つかりました。キーワードがWeb調査のキモですね。適切なワードを指定しないと全然ヒットしない。(でも昔の資料探しに比べたら本当に天国です。) 全ての文献が電子化されて欲しい!(特に日本は決定的に遅れてる気がします。) 6. おまけ 私はほぼ飛行機に乗らないし(寝台特急「北斗星」が無くなったのが非常に残念)、海外旅行の経験もないのですが、日本の空港でもGSRテストがまれに行われてるみたいです。torontotuusin.blog108.fc2.com/blog-entry-380.html 全く知りませんでした。(多分この人の場合は、弾丸のプライマー由来の成分が検出されないので全く問題ない。) |