皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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Tetchyさん |
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| 平均点: 6.73点 | 書評数: 1634件 |
| No.594 | 10点 | ネームドロッパー- ブライアン・フリーマントル | 2009/08/12 19:51 |
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| 旅先での一人旅の女性とのアヴァンチュール。そんな珍しくもない、誰にでも起こりそうな情事が思いもよらぬ災厄をもたらす。そんなありきたりな設定に被害者を身分詐称を生業とする詐欺師に持ってきたところにフリーマントルのストーリーテラーとしての巧さがある。
そして本作ではフリーマントルの手による法廷ミステリの側面を持っているところも読み所だろう。 法廷シーンで繰り広げられる原告側、被告側双方がやり取りする揚げ足の取り合い、トラップの仕掛け合いはものすごくスリリングである。言葉の戦争だとも云えよう。 元々フリーマントル作品には上級官僚が自らの保身、自国の保身のために行う高度なディベートが常に盛り込まれており、すごく定評がある。このフリーマントルのディベート力が裁判という舞台に活かされるのは当然であった。逆に云えばなぜ今までフリーマントルが法廷物を書かなかったのかが不思議なくらいだ。 そして他人の名を借りて身分を偽り、それが偽造パスポートや偽造運転免許証、さらに社会保障番号を知ることで他人に成りすましていたジョーダンが本人であるハーヴェイ・ジョーダンとして訴えられることで、改めて借り物の人生を過ごしてきた自らについてアイデンティティの再認識が成される。だからこそのあの最後のセリフが活きるのであろう。 最近のフリーマントル作品は皮肉な結末が多かったが、本作では非常に胸の空く思いがした。こういう小説を読みたかったのだ。 近年のフリーマントル作品の中でもベストだとここに断言したい。 |
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| No.593 | 6点 | キューバ・リブレ- エルモア・レナード | 2009/08/11 23:14 |
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| レナードの手による歴史小説。スペイン支配下にある1900年直前のキューバを舞台となっている。時代的にはアメリカがスペインからの支配から脱却しようとしている反政府軍を支援し、キューバの独立戦争勃発の前後を描いている。
レナードの物語の特徴として先の読めない展開と各登場人物たちの軽妙洒脱な会話。悪人なのにどこか憎めない奴らといった際立ったキャラクター造形が挙げられるが、今回はいつもの作品と違い、なんとも大人しい感じがした。特に軽妙洒脱な会話と、憎めない悪人どもといった部分が成りを潜め、どこか単調な感じがした。 しかし先の読めない展開については健在。 それでもやはり物足りないのは敵役どもの結末。なんかカタルシスが感じられない。レナードの物語の交わし方は知っているんだけど、やっぱりスカッと感は欲しいわな。 |
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| No.592 | 7点 | 身元不明者89号- エルモア・レナード | 2009/08/11 00:36 |
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| 長い間、東京創元社が翻訳権を取得しながらも発行しなかったのだが、21世紀も7年を過ぎてようやく日の目を見ることとなった。小学館がレナード作品を上梓しだしたことが契機になったのか、定かではないが、とにかく喜ばしいことだ。
30年前に書かれた本書は、まず主人公となるライアンが令状送達人になった成り行きから、ライアンを取り巻く人間達を描き、そしてライアンが人生の転機となる出来事に遭遇するという至極真っ当な物語展開を繰り広げる。 今回は主人公のライアンよりもむしろ敵役のペレスの方が一枚も二枚も役者が上である。最後、1セントの利益も得られずにライアンから屈辱を与えられながら、ライアンに仕事の依頼をする図太さ。あれこそ本当の男だろう。 自分が何をすべきか解っている男なのだ。 私のレナード作品の評価は主人公を好きになれるかどうかにかかっているようだ。そういう意味ではちと物足りない作品であった。 |
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| No.591 | 7点 | バンディッツ- エルモア・レナード | 2009/08/09 19:55 |
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| 題名の『バンディッツ』は“盗賊”の意味で、本作では主人公ジャックと元修道尼のルーシー、そしてかつて刑務所仲間だった元銀行強盗のカレンと元警官のロイたち一行を差す。
最初読んだ時はレナードにしてはストレートな設定だなぁと思った。ジャックが強盗団を結成すべく、ムショ仲間を仲間に引き入れ、大佐の金を強奪するという方向性が早くも見えたからだ。 しかしやはりレナードはレナードである。一筋縄では参りません。この強奪計画が判明した106ページから誰が423ページの結末を予想できるでしょう? いやぁ、ものすごいね、こりゃ。人間という物は思ったとおりに動かないのさ、だからこそ人間なのさと嘯くレナードのしたり顔が目に浮かぶようだった。 しかし、この作品、レナードの先の読めない展開が悪い側に出たという印象は拭えない。 本作のプロットが判明する100ページ辺りまでの面白さから、「これは!」と期待するところがあったのだが、それ以降の展開が実にのらりくらりとしており、なかなか強奪計画の全容が見えてこない。実際最後の380ページ当たりになって始めてシミュレーションが行われるくらいだから、レナードはそこに重きを置いていないのだろう。でも逆にこれが私には不満で、まるで皮が美味しいのに中身がスカスカの饅頭を食べているかのような印象が残った。 |
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| No.590 | 7点 | スティック- エルモア・レナード | 2009/08/08 23:33 |
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| 『スワッグ』でフランクと組んで武装強盗を働いたスティックのその後の物語。
いやあ、先の読めない感はさらに拍車がかかってますな。 最初はムショ上がりの冴えない男だったのが、死地から逃げ延びた事で逆に己自身を見つめなおし、自動車泥棒を行おうとしたところで、バリーと知り合い、運転手に落ち着き、そこで株投資の世界に興味を持ち始めたかと思うと、バリーの付き合う愛人、妻、そして投資アドヴァイザーのカイルの3人と寝てしまうのだ。更にはバリーと主従の関係が逆転し、そしてバリーが企画した新作映画への融資をだしにチャッキーを獲物にして一大詐欺を起こそうとするのだ。 こんな物語に最後きちんとオチがつくのだからものすごい。 こういう話を読むとレナードが作ったのではなく、あたかもそういう話が実際にあってそれをレナードが小説にしたとしか思えない、それほど「作っていない」感じがするのだ。 しかし、あえて苦言を呈するならば、やはり行き当たりばったりで書いているなあという気持ちは払拭できない。 以前とは違い、さすがに色々読んできている現在では終わりよければ全て良しという手には乗らないぞという捻くれた思いが強く残るのだ。 まあ、こういう小説は有りといえば有りだがね。 |
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| No.589 | 7点 | ビー・クール- エルモア・レナード | 2009/08/07 22:41 |
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| あの『ゲット・ショーティ』のクールな元高利貸しチリ・パーマーが帰ってきた!
前回高利貸しから見事映画プロデューサーに転身し、映画を製作してヒットさせたチリが今回扱うのはロックのインディーズレーベル。 しかし、あまりに映画化を意識した作りになっていることがいささかやり過ぎた点に感じる。 アメリカエンターテインメント界を題材として扱うチリ・パーマーシリーズは面白いことは面白いのだが、今回はちょっとあざとかった。 しかしこの時レナード御齢75歳。なのに内容が若い、若い!随所に現代アメリカン・ポップス(原書が出版された1999年当時の)を縦横無尽に語るのがすごい。なんとスパイス・ガールズを語り、しかも彼女らの歌の好みについても語るのだ。俺の周りにはこんな75歳いないぞ!! |
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| No.588 | 8点 | アウト・オブ・サイト- エルモア・レナード | 2009/08/06 19:52 |
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| とにかく登場人物が洒落ている。
活きている。 どんどん引きずり込まれる。 フォーリーのクールさは映画版のジョージ・クルーニーぴったりだし、キャレンの凛々しさは確かにジェニファー・ロペスだなぁ。本作ではフォーリーは50前、キャレンはどうやら白人という設定みたいだがこのキャスティングは素晴らしいと改めて思った次第。 車のトランクの中に銀行強盗と女連邦官が一緒に閉じ込められるというワン・アイデアがこれほど面白く働くとは思わなかった。水と油の職業の者同士が恋に落ちるというパターンは山ほどあるが、これほど奇抜でしかも説得力のあるシチュエーションは初めて。 ここから織りなされるそれぞれの思いの道行きが大人のムードを醸し出しながらも初々しさを持ち、そして再び出会った時に爆発的な化学反応を起こす、このストーリー・テリングはやはり超一流。 ただ2人の恋の盛り上がり方に比べ、結末がドライで呆気なく幕引きになるのが残念。 |
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| No.587 | 9点 | 追われる男- エルモア・レナード | 2009/08/05 23:21 |
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| 舞台はイスラエルとレナード作品の中では異色。
しかし今回は題名が示すように、追われる男と追う輩の追跡劇。 本書もレナード初期の作品であり、今の作品と比べると構成はシンプル。それ故に今の作品には無い面白さを兼ね備えている。 特に今回は主人公デイヴィスがカッコイイ! 最後のセリフも見事決まった! |
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| No.586 | 8点 | ミスター・マジェスティック- エルモア・レナード | 2009/08/04 22:39 |
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| この話、一言で云うならば
「おれのメロンの収穫を邪魔するんぢゃねぇ!!」 である。 レナード初期の作品は非常に物語り構成がシンプルで、最後の対決まで一気呵成に突き進む。 殺し屋とメロン農場主がどうして対決するのか、その成行きが現在のレナードの先の読めないストーリー展開の下地として既に見られるのが興味深い。 とにかくミスター・マジェスティックがカッコよく、こんな農場主は日本にはいません! |
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| No.585 | 6点 | スワッグ- エルモア・レナード | 2009/08/03 22:56 |
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| “成功と幸福をつかむための十則”、武装強盗として成功するための10ヶ条を思いついたフランクと知り合った自動車泥棒スティックが強盗稼業に乗り出す物語。
ただ、物語はレナードのこと、予想外に展開し、ひねって歪んで展開する。 この武装強盗というアイデアは面白いものの、主人公フランクに感情移入できなかったのが瑕。 |
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| No.584 | 7点 | ハートの4- エラリイ・クイーン | 2009/08/02 20:26 |
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| 第2期クイーンシリーズと云われているハリウッドシリーズの1冊である本作はきらびやかな映画産業を舞台にしているせいか、物語も華やかで今まで以上に登場人物たちの相関関係に筆が割かれ、読み応えがある。
この頃、実作者のクイーン自身、ハリウッドに招かれ、脚本家として働いていたが、そこで要求されるのは緻密なロジックよりも面白おかしい登場人物たちが織成す人間喜劇というドラマ性である。 その特徴が顕著に現れていると思われるのは本書の最後にポーラをクイーンが外に連れ出すシーンだ。王子とお姫様を匂わすキスシーンも交え、非常にドラマチックで映像的である。それまでの作品で人が人を裁くことに対し、苦悩していたクイーンが独りごちてシリアスに終わる閉じられ方から一転している。 しかし逆に云えば、語られる内容は華やかだが、核となる事件は非常に凡庸である。 使い古された遺産相続に起因する動機に、明白すぎる犯人。 久しぶりに犯人も解ってしまった(犯人が親族だったかどうかは見過ごしていたけれど)。 また題名が象徴するトランプのカードによる脅迫というのも今までにない演出だ。非常に映画向きの演出だといえる。 こういうのは個人的には好きなので歓迎したいが、クイーン=緻密なロジックというフィルターが邪魔をして、本作の評価を辛くしている。 謎とストーリー双方がよければ文句なしに満点なんだけど。 |
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| No.583 | 10点 | ゲット・ショーティ- エルモア・レナード | 2009/07/26 20:15 |
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| 映画化もされ、ヒットしたレナードの傑作!
レナードの映画好きとレナード・タッチがマッチして、非常に小気味よい作品となっている。こんなに面白い本があるのかとずっと思いながら読んでいた。 そして今回も予想外に物語は進むが、この結末はもう物語の神様がレナードに下りてきたかのように散りばめられた布石がカチッと嵌る。 チリ・パーマーは数あるレナード作品で最も好きなキャラクターになり、作者もよほど気に入ったのであろう、続編『ビー・クール』も書かれている。 なお、題名の意味は「あのチビを手に入れろ」。 チビの正体はすぐ解るが、それも素人が遭遇する芸能界のあるギャップを表していて面白い。 映画版は別の結末で閉じられるが、それもまた秀逸。 |
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| No.582 | 4点 | プロント- エルモア・レナード | 2009/07/26 01:21 |
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| 題名の意味はイタリア語で「もしもし」。そう、電話での応答挨拶だ。
本作はそういう意味でもイタリアを題材に扱っているのだが、なんか全体的に話が散漫に感じる。 レナードには珍しく、主人公のハリーがなかなか動かないキャラクターだったのだ。 厚さの割にはコストパフォーマンスの低い作品だ。 |
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| No.581 | 9点 | スプリット・イメージ- エルモア・レナード | 2009/07/24 22:41 |
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| レナードの作品に出てくる悪党というのは、ワルなんだがどこか憎めない人間くさいところがあるというのが定番だが、本作で出てくる富豪の男は今までにない、共感できない男であるのが特徴的だ。
自由気ままに暮せる金と、何もしなくても女が言寄ってくる容姿を備えた男。しかし渇望していたのは殺人への衝動。 当時サイコパス物が流行っていたが、これはレナード版サイコパス物。 最後の最後でギリギリに振り絞られた弓から矢が放たれる如く、怒濤の殺戮へ転じる展開は手に汗がにじんだ。 意外な人物が亡くなり、呆気に取られたが、幕切れは爽快感すら漂う。 |
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| No.580 | 8点 | ムーンシャイン・ウォー- エルモア・レナード | 2009/07/23 22:41 |
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| 禁酒法統治下のアメリカを舞台にしたレナードの初期のウェスタン小説。
ムーンシャインはここでは酒税取締官に見つからないように密造者が月明かりの下で蒸留酒を作っていたことから、そのお酒を指し、密造者はムーンシャイナーと呼ぶ。なんとも詩的な表現ではないか。 そんなお酒に関する知識と密造者による蒸留酒のこだわりなどもふんだんに盛り込まれており、さらにはレナードには珍しく物語がシンプルで、題名どおり、一気に決闘へ雪崩れ込むのも小気味よい。 ラストも鮮やかで、逆にこの頃のレナードを取り戻してほしいなぁと思ったくらいだ。 |
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| No.579 | 6点 | ザ・スイッチ- エルモア・レナード | 2009/07/22 19:46 |
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| 有閑マダムともいうべき奥さんが誘拐される事で、自分の中の“スイッチ”が入るという、実にレナードらしい作品。
レナードが上手いと思うのは男性作家なのに、女心の機微とか真理の綾とかを絶妙に描くところだ。 単に金持ちなだけ、何の過不足のない生活だけでは女性は繋ぎとめられないのだ。 「ストックホルム症候群」を扱った、とまでは行かないが、一般人が突然犯罪に巻き込まれて、非日常が破られ、自分の中の知らない自分が目覚めるなんてことを、こうも自然に描くとはなぁ。 しかしあの結末はなんなんだろう?最後の最後まで楽しんだのに、「へっ?」と思わず呟いてしまった。 |
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| No.578 | 3点 | マイアミ欲望海岸- エルモア・レナード | 2009/07/21 23:05 |
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| なんとも陳腐な邦題である。なんか別のジャンルの本と勘違いしそうだ。
これはまだレナード初期の作品で、先の読めない展開は健在なものの、どちらかといえば何も考えずに書いているような感じがしないでもない。 読者をいかに裏切るかがレナードの腕の見せ所なんだけど、これは途中で放棄したとしか思えないほど雑。 キャラクターもほとんど記憶に残らなかった。 |
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| No.577 | 8点 | キャット・チェイサー- エルモア・レナード | 2009/07/20 22:39 |
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| タイトルの「キャット・チェイサー」とは主人公がかつて属していた海兵隊の部隊の俗称。
あまりこの食指の動かなかったタイトルだったが、読むとこれがクイクイ読み進む。 主人公の兵士時代に自分を狙撃しながら、とどめを刺さなかった少女兵士の悪夢を払うために、彼の地サント・ドミンゴに訪れるが、そこで始まるのは悪党共のバトル・ロイヤル。 全く予想も付かない展開ながら、主人公のかっこよさが徐々に引き立っていき、読後はもうすっかり魅了されてしまっていた。 絶版になっているのが非常に残念! |
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| No.576 | 7点 | ラム・パンチ- エルモア・レナード | 2009/07/19 19:06 |
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| レナードにしては主人公の「貌(かお)」が見えなかった。悪役のオーディルの方が存在感があった。いや主人公はマックスでも良かったのだが、パートナーであるウィンストンが魅力的な設定にも拘らず、ストーリーの原動力に何ら寄与していなかったのが余りにも惜しい。
映画も観たが(タランティーノ監督の『ジャッキー・ブラウン』)、やっぱり同じように主人公の男が全然魅力的でなかったなぁ。 |
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| No.575 | 4点 | タッチ- エルモア・レナード | 2009/07/19 01:15 |
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| レナードの最たる特徴は一癖も二癖も、また更に三癖もある連中が錯綜し合い、共鳴し合い、またまた反転し合い、全くどういう風に収束していくのか皆目見当がつかない点にあるのだが、今回は宗教というテーマ1本に絞ったためか、宗教についての衒学小説になってしまったきらいがあり、エンターテインメント性に欠けた。 | |||