皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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Tetchyさん |
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平均点: 6.73点 | 書評数: 1624件 |
No.584 | 7点 | ハートの4- エラリイ・クイーン | 2009/08/02 20:26 |
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第2期クイーンシリーズと云われているハリウッドシリーズの1冊である本作はきらびやかな映画産業を舞台にしているせいか、物語も華やかで今まで以上に登場人物たちの相関関係に筆が割かれ、読み応えがある。
この頃、実作者のクイーン自身、ハリウッドに招かれ、脚本家として働いていたが、そこで要求されるのは緻密なロジックよりも面白おかしい登場人物たちが織成す人間喜劇というドラマ性である。 その特徴が顕著に現れていると思われるのは本書の最後にポーラをクイーンが外に連れ出すシーンだ。王子とお姫様を匂わすキスシーンも交え、非常にドラマチックで映像的である。それまでの作品で人が人を裁くことに対し、苦悩していたクイーンが独りごちてシリアスに終わる閉じられ方から一転している。 しかし逆に云えば、語られる内容は華やかだが、核となる事件は非常に凡庸である。 使い古された遺産相続に起因する動機に、明白すぎる犯人。 久しぶりに犯人も解ってしまった(犯人が親族だったかどうかは見過ごしていたけれど)。 また題名が象徴するトランプのカードによる脅迫というのも今までにない演出だ。非常に映画向きの演出だといえる。 こういうのは個人的には好きなので歓迎したいが、クイーン=緻密なロジックというフィルターが邪魔をして、本作の評価を辛くしている。 謎とストーリー双方がよければ文句なしに満点なんだけど。 |
No.583 | 10点 | ゲット・ショーティ- エルモア・レナード | 2009/07/26 20:15 |
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映画化もされ、ヒットしたレナードの傑作!
レナードの映画好きとレナード・タッチがマッチして、非常に小気味よい作品となっている。こんなに面白い本があるのかとずっと思いながら読んでいた。 そして今回も予想外に物語は進むが、この結末はもう物語の神様がレナードに下りてきたかのように散りばめられた布石がカチッと嵌る。 チリ・パーマーは数あるレナード作品で最も好きなキャラクターになり、作者もよほど気に入ったのであろう、続編『ビー・クール』も書かれている。 なお、題名の意味は「あのチビを手に入れろ」。 チビの正体はすぐ解るが、それも素人が遭遇する芸能界のあるギャップを表していて面白い。 映画版は別の結末で閉じられるが、それもまた秀逸。 |
No.582 | 4点 | プロント- エルモア・レナード | 2009/07/26 01:21 |
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題名の意味はイタリア語で「もしもし」。そう、電話での応答挨拶だ。
本作はそういう意味でもイタリアを題材に扱っているのだが、なんか全体的に話が散漫に感じる。 レナードには珍しく、主人公のハリーがなかなか動かないキャラクターだったのだ。 厚さの割にはコストパフォーマンスの低い作品だ。 |
No.581 | 9点 | スプリット・イメージ- エルモア・レナード | 2009/07/24 22:41 |
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レナードの作品に出てくる悪党というのは、ワルなんだがどこか憎めない人間くさいところがあるというのが定番だが、本作で出てくる富豪の男は今までにない、共感できない男であるのが特徴的だ。
自由気ままに暮せる金と、何もしなくても女が言寄ってくる容姿を備えた男。しかし渇望していたのは殺人への衝動。 当時サイコパス物が流行っていたが、これはレナード版サイコパス物。 最後の最後でギリギリに振り絞られた弓から矢が放たれる如く、怒濤の殺戮へ転じる展開は手に汗がにじんだ。 意外な人物が亡くなり、呆気に取られたが、幕切れは爽快感すら漂う。 |
No.580 | 8点 | ムーンシャイン・ウォー- エルモア・レナード | 2009/07/23 22:41 |
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禁酒法統治下のアメリカを舞台にしたレナードの初期のウェスタン小説。
ムーンシャインはここでは酒税取締官に見つからないように密造者が月明かりの下で蒸留酒を作っていたことから、そのお酒を指し、密造者はムーンシャイナーと呼ぶ。なんとも詩的な表現ではないか。 そんなお酒に関する知識と密造者による蒸留酒のこだわりなどもふんだんに盛り込まれており、さらにはレナードには珍しく物語がシンプルで、題名どおり、一気に決闘へ雪崩れ込むのも小気味よい。 ラストも鮮やかで、逆にこの頃のレナードを取り戻してほしいなぁと思ったくらいだ。 |
No.579 | 6点 | ザ・スイッチ- エルモア・レナード | 2009/07/22 19:46 |
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有閑マダムともいうべき奥さんが誘拐される事で、自分の中の“スイッチ”が入るという、実にレナードらしい作品。
レナードが上手いと思うのは男性作家なのに、女心の機微とか真理の綾とかを絶妙に描くところだ。 単に金持ちなだけ、何の過不足のない生活だけでは女性は繋ぎとめられないのだ。 「ストックホルム症候群」を扱った、とまでは行かないが、一般人が突然犯罪に巻き込まれて、非日常が破られ、自分の中の知らない自分が目覚めるなんてことを、こうも自然に描くとはなぁ。 しかしあの結末はなんなんだろう?最後の最後まで楽しんだのに、「へっ?」と思わず呟いてしまった。 |
No.578 | 3点 | マイアミ欲望海岸- エルモア・レナード | 2009/07/21 23:05 |
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なんとも陳腐な邦題である。なんか別のジャンルの本と勘違いしそうだ。
これはまだレナード初期の作品で、先の読めない展開は健在なものの、どちらかといえば何も考えずに書いているような感じがしないでもない。 読者をいかに裏切るかがレナードの腕の見せ所なんだけど、これは途中で放棄したとしか思えないほど雑。 キャラクターもほとんど記憶に残らなかった。 |
No.577 | 8点 | キャット・チェイサー- エルモア・レナード | 2009/07/20 22:39 |
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タイトルの「キャット・チェイサー」とは主人公がかつて属していた海兵隊の部隊の俗称。
あまりこの食指の動かなかったタイトルだったが、読むとこれがクイクイ読み進む。 主人公の兵士時代に自分を狙撃しながら、とどめを刺さなかった少女兵士の悪夢を払うために、彼の地サント・ドミンゴに訪れるが、そこで始まるのは悪党共のバトル・ロイヤル。 全く予想も付かない展開ながら、主人公のかっこよさが徐々に引き立っていき、読後はもうすっかり魅了されてしまっていた。 絶版になっているのが非常に残念! |
No.576 | 7点 | ラム・パンチ- エルモア・レナード | 2009/07/19 19:06 |
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レナードにしては主人公の「貌(かお)」が見えなかった。悪役のオーディルの方が存在感があった。いや主人公はマックスでも良かったのだが、パートナーであるウィンストンが魅力的な設定にも拘らず、ストーリーの原動力に何ら寄与していなかったのが余りにも惜しい。
映画も観たが(タランティーノ監督の『ジャッキー・ブラウン』)、やっぱり同じように主人公の男が全然魅力的でなかったなぁ。 |
No.575 | 4点 | タッチ- エルモア・レナード | 2009/07/19 01:15 |
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レナードの最たる特徴は一癖も二癖も、また更に三癖もある連中が錯綜し合い、共鳴し合い、またまた反転し合い、全くどういう風に収束していくのか皆目見当がつかない点にあるのだが、今回は宗教というテーマ1本に絞ったためか、宗教についての衒学小説になってしまったきらいがあり、エンターテインメント性に欠けた。 |
No.574 | 2点 | バーネット探偵社- モーリス・ルブラン | 2009/07/17 22:15 |
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モーリス・ルブランの息抜きのために書かれた短編集という印象が濃い。
元来、話のスケールを大きくする作家なので短編と云えども過去の因縁を絡ませ、物語に膨らみを持たせようとしているがこれが見事に失敗している。元々長編向きのアイデアを短編に無理矢理纏めたような、飛躍的な展開が実に白けさせるのだ。 昔ながらの超人的思考力探偵というのは今更ながら辟易だ。 |
No.573 | 7点 | トリプル・クロス- ブライアン・フリーマントル | 2009/07/16 19:27 |
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フリーマントルが自身のノンフィクションルポルタージュ作品『ユーロマフィア』で述べていた、複数の国に君臨するそれぞれのマフィアによる犯罪ネットワークの構築、これが本書の主題である。
これにダニーロフの愛人ラリサの敵討ちが加わり、更にベルリンでのFBI捜査官の大量虐殺なども起こり、事件は派手さを増す。 米独露三国の共同捜査を敷きながら、常に相手の上を行くロシアマフィアの頭オルロフ。これが最後の最後で決定的な証拠が発覚し、捕まる。 しかしここで私は疑問に思ってしまった。 今までFBI、ロシア民警を嘲笑うかのように悉く出し抜いてきた慎重なマフィアが尻尾を掴まれるにしてはなんともお粗末な証拠である。 物語運び、世界情勢を正確に把握した堅牢たるプロット作り、そして最後にサプライズを決して忘れないフリーマントル。 上手い。確かに上手いが、今回はちょっと脇が甘かったかなぁ。 |
No.572 | 5点 | 三十棺桶島- モーリス・ルブラン | 2009/07/16 00:57 |
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「モーリス・ルブランの手による江戸川乱歩風味」といった趣の物語。
忌まわしい伝説が伝わる島に監禁された愛息を救うべく、島に渡った母親、悪の首領が支配するその島には壮大な地下迷宮(!?)が存在し、万能の力を持つ「神の石」が眠る…。ほら、乱歩以外何物でもない! しかも、珍しく主役のルパンは何と、物語の3/4を過ぎた辺りから登場という異例の展開。 なのに安っぽいんだなぁ、これが…。 |
No.571 | 7点 | 八点鐘- モーリス・ルブラン | 2009/07/14 21:42 |
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内容は、確かにヴァラエティに富んでいる。
物的・心理的トリックを駆使した本格物から、サイコ・スリラー物まで、アイデアもいい。 まあ、でも大人になった現在、かなり苦しいものがあるなと痛感した。大人になって読んで実感できるものと云えば、この八つの物語、全てリュパンがオルタンスを口説くためだけの前工作に過ぎないという点だ。 いやはや、ここまで投資する恋があるとはねぇ…。 |
No.570 | 3点 | 続813- モーリス・ルブラン | 2009/07/13 22:07 |
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前作『813』で棚上げされていた数々の謎が、この続編では次々と明らかにされていってるんだけど、間を置いてしまったので既にその謎自体忘れてた(爆)
本当は評価すべき立場ではないんだけど、もう多分読まないと思うから、オイラのこの作品の評価はもうこれでいいや。 |
No.569 | 3点 | 赤い数珠- モーリス・ルブラン | 2009/07/12 19:26 |
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本作の導入部は秀逸。今まで欲求不満ばかり感じていたので、「おおっ、今度こそは!」と期待したが、やっぱり最後は尻すぼみ・・・。
色々こねくり回して、退屈しちゃうんだよなぁ。 サービス精神旺盛なのは解るけど。 |
No.568 | 2点 | 特捜班ヴィクトール- モーリス・ルブラン | 2009/07/12 00:38 |
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またこの趣向かと呆れた。
押並べてルブランの諸作はどんなヒーローを出しても、最後は全てルパンだったという真相に結実する。 そして本書もその例外ではない。 こういう真相はもはや驚きをもたらさず、ルパン1人に詰め込みすぎだろう…という諦観めいた感慨を受けた。 |
No.567 | 7点 | 緑の目の令嬢- モーリス・ルブラン | 2009/07/10 22:25 |
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評価は少しサーヴィスした。
その理由はラストの湖から遺跡が登場するシーンが胸を打った。これは恐らく宮崎駿があの名作『カリオストロの城』のラストシーンで採用したのではないかと推測される。 そう、このシーンを読んだ時、映画のあの場面が目に浮かんだのだ。 ストーリーはいつものルブラン調で特記するものはないが、もうこのエンディングだけで十分だ。 |
No.566 | 8点 | 姑獲鳥の夏- 京極夏彦 | 2009/07/09 23:01 |
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一読、実に真っ当な本格ミステリというのが率直な感想だ。元々ミステリとは始祖ポーが、明らかに怪物の仕業である、または説明のつかない怪奇現象の類いであると思われた事象を実に明解な論理で解き明かすことを主眼にした文学形態である。
つまり人々が恐れていた謎という闇の部分に論理という光を当て、人智の物とする行為。 この京極堂こと中禅寺秋彦の「憑物落とし」は正にこの行為そのものである。 だからこの妖怪シリーズは妖怪というモチーフと物珍しさ、憑物落としという興趣くすぐる演出で新たな本格という風な捉えられ方をしたが、実は黄金期ミステリ時代への原点回帰的作品なのだ。 そして全編に繰り広げられる薀蓄、これまた薀蓄の波。 しかもこれらの薀蓄が実に最後に有機的に働く。 そして親が娘に成す因果の業の恐ろしさ。この辺りのロジックのおぞましさは耽美な美しささえ感じさせる。 が、それでもメインの二十ヶ月間も妊娠している妊婦、密室から失踪した夫の行方という謎の真相はいささか、いやかなり乱暴すぎる。 私も心が五感に及ぼす作用の事は重々承知しており、この真相を全くの暴論と唾棄しようとは毛頭思わないが、やはり本格ミステリという様式に則った作品でこれをやってはならんだろうと思う。 なぜならこの実際にある物が見えないという心理的フィルターを利用すれば、何も苦労せずに不可能犯罪が書けてしまうからだ。 やはり死体が隠されているのならば、巧妙に隠匿されなければならない。 そしてそれを万人の読者が納得できる形で作者は謎を解き明かしてくれなければならない。 これがホラーならばまだ十分許容できたが、本作は本格ミステリであるから、この真相は受け入れがたい。 でもこの独特の世界観とキャラクターの魅力は抗し難い。今後もシリーズを読み続けるつもりだ。 蛇足だが、蛙のような赤ん坊は、某有名マンガ家のこれまた某有名医療マンガに前例あり。私はそれを読んでいたのですぐに解ってしまった。 |
No.565 | 6点 | 謎の家- モーリス・ルブラン | 2009/07/08 19:27 |
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女優とモデルが誘拐されて連れられた謎の家、それは2つの誘拐事件を結ぶ接点だったという、ルパン物とは思えないミステリ風味溢れる作品。
更にルパンと敵との手に汗握る攻防戦とルブランのサービス精神はここでも旺盛。 ただなんとも読みにくい文章で、理解に苦しむ事しばしば。 しかし作品ごとに身分を偽る探偵役というのも考えてみれば面白いな。 |