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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1631件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.591 7点 バンディッツ- エルモア・レナード 2009/08/09 19:55
題名の『バンディッツ』は“盗賊”の意味で、本作では主人公ジャックと元修道尼のルーシー、そしてかつて刑務所仲間だった元銀行強盗のカレンと元警官のロイたち一行を差す。
最初読んだ時はレナードにしてはストレートな設定だなぁと思った。ジャックが強盗団を結成すべく、ムショ仲間を仲間に引き入れ、大佐の金を強奪するという方向性が早くも見えたからだ。

しかしやはりレナードはレナードである。一筋縄では参りません。この強奪計画が判明した106ページから誰が423ページの結末を予想できるでしょう?
いやぁ、ものすごいね、こりゃ。人間という物は思ったとおりに動かないのさ、だからこそ人間なのさと嘯くレナードのしたり顔が目に浮かぶようだった。

しかし、この作品、レナードの先の読めない展開が悪い側に出たという印象は拭えない。
本作のプロットが判明する100ページ辺りまでの面白さから、「これは!」と期待するところがあったのだが、それ以降の展開が実にのらりくらりとしており、なかなか強奪計画の全容が見えてこない。実際最後の380ページ当たりになって始めてシミュレーションが行われるくらいだから、レナードはそこに重きを置いていないのだろう。でも逆にこれが私には不満で、まるで皮が美味しいのに中身がスカスカの饅頭を食べているかのような印象が残った。

No.590 7点 スティック- エルモア・レナード 2009/08/08 23:33
『スワッグ』でフランクと組んで武装強盗を働いたスティックのその後の物語。
いやあ、先の読めない感はさらに拍車がかかってますな。

最初はムショ上がりの冴えない男だったのが、死地から逃げ延びた事で逆に己自身を見つめなおし、自動車泥棒を行おうとしたところで、バリーと知り合い、運転手に落ち着き、そこで株投資の世界に興味を持ち始めたかと思うと、バリーの付き合う愛人、妻、そして投資アドヴァイザーのカイルの3人と寝てしまうのだ。更にはバリーと主従の関係が逆転し、そしてバリーが企画した新作映画への融資をだしにチャッキーを獲物にして一大詐欺を起こそうとするのだ。
こんな物語に最後きちんとオチがつくのだからものすごい。
こういう話を読むとレナードが作ったのではなく、あたかもそういう話が実際にあってそれをレナードが小説にしたとしか思えない、それほど「作っていない」感じがするのだ。
しかし、あえて苦言を呈するならば、やはり行き当たりばったりで書いているなあという気持ちは払拭できない。
以前とは違い、さすがに色々読んできている現在では終わりよければ全て良しという手には乗らないぞという捻くれた思いが強く残るのだ。
まあ、こういう小説は有りといえば有りだがね。

No.589 7点 ビー・クール- エルモア・レナード 2009/08/07 22:41
あの『ゲット・ショーティ』のクールな元高利貸しチリ・パーマーが帰ってきた!
前回高利貸しから見事映画プロデューサーに転身し、映画を製作してヒットさせたチリが今回扱うのはロックのインディーズレーベル。

しかし、あまりに映画化を意識した作りになっていることがいささかやり過ぎた点に感じる。
アメリカエンターテインメント界を題材として扱うチリ・パーマーシリーズは面白いことは面白いのだが、今回はちょっとあざとかった。

しかしこの時レナード御齢75歳。なのに内容が若い、若い!随所に現代アメリカン・ポップス(原書が出版された1999年当時の)を縦横無尽に語るのがすごい。なんとスパイス・ガールズを語り、しかも彼女らの歌の好みについても語るのだ。俺の周りにはこんな75歳いないぞ!!

No.588 8点 アウト・オブ・サイト- エルモア・レナード 2009/08/06 19:52
とにかく登場人物が洒落ている。
活きている。
どんどん引きずり込まれる。
フォーリーのクールさは映画版のジョージ・クルーニーぴったりだし、キャレンの凛々しさは確かにジェニファー・ロペスだなぁ。本作ではフォーリーは50前、キャレンはどうやら白人という設定みたいだがこのキャスティングは素晴らしいと改めて思った次第。

車のトランクの中に銀行強盗と女連邦官が一緒に閉じ込められるというワン・アイデアがこれほど面白く働くとは思わなかった。水と油の職業の者同士が恋に落ちるというパターンは山ほどあるが、これほど奇抜でしかも説得力のあるシチュエーションは初めて。
ここから織りなされるそれぞれの思いの道行きが大人のムードを醸し出しながらも初々しさを持ち、そして再び出会った時に爆発的な化学反応を起こす、このストーリー・テリングはやはり超一流。
ただ2人の恋の盛り上がり方に比べ、結末がドライで呆気なく幕引きになるのが残念。

No.587 9点 追われる男- エルモア・レナード 2009/08/05 23:21
舞台はイスラエルとレナード作品の中では異色。
しかし今回は題名が示すように、追われる男と追う輩の追跡劇。
本書もレナード初期の作品であり、今の作品と比べると構成はシンプル。それ故に今の作品には無い面白さを兼ね備えている。
特に今回は主人公デイヴィスがカッコイイ!
最後のセリフも見事決まった!

No.586 8点 ミスター・マジェスティック- エルモア・レナード 2009/08/04 22:39
この話、一言で云うならば
「おれのメロンの収穫を邪魔するんぢゃねぇ!!」
である。
レナード初期の作品は非常に物語り構成がシンプルで、最後の対決まで一気呵成に突き進む。
殺し屋とメロン農場主がどうして対決するのか、その成行きが現在のレナードの先の読めないストーリー展開の下地として既に見られるのが興味深い。
とにかくミスター・マジェスティックがカッコよく、こんな農場主は日本にはいません!

No.585 6点 スワッグ- エルモア・レナード 2009/08/03 22:56
“成功と幸福をつかむための十則”、武装強盗として成功するための10ヶ条を思いついたフランクと知り合った自動車泥棒スティックが強盗稼業に乗り出す物語。
ただ、物語はレナードのこと、予想外に展開し、ひねって歪んで展開する。
この武装強盗というアイデアは面白いものの、主人公フランクに感情移入できなかったのが瑕。

No.584 7点 ハートの4- エラリイ・クイーン 2009/08/02 20:26
第2期クイーンシリーズと云われているハリウッドシリーズの1冊である本作はきらびやかな映画産業を舞台にしているせいか、物語も華やかで今まで以上に登場人物たちの相関関係に筆が割かれ、読み応えがある。

この頃、実作者のクイーン自身、ハリウッドに招かれ、脚本家として働いていたが、そこで要求されるのは緻密なロジックよりも面白おかしい登場人物たちが織成す人間喜劇というドラマ性である。
その特徴が顕著に現れていると思われるのは本書の最後にポーラをクイーンが外に連れ出すシーンだ。王子とお姫様を匂わすキスシーンも交え、非常にドラマチックで映像的である。それまでの作品で人が人を裁くことに対し、苦悩していたクイーンが独りごちてシリアスに終わる閉じられ方から一転している。

しかし逆に云えば、語られる内容は華やかだが、核となる事件は非常に凡庸である。
使い古された遺産相続に起因する動機に、明白すぎる犯人。
久しぶりに犯人も解ってしまった(犯人が親族だったかどうかは見過ごしていたけれど)。

また題名が象徴するトランプのカードによる脅迫というのも今までにない演出だ。非常に映画向きの演出だといえる。

こういうのは個人的には好きなので歓迎したいが、クイーン=緻密なロジックというフィルターが邪魔をして、本作の評価を辛くしている。
謎とストーリー双方がよければ文句なしに満点なんだけど。

No.583 10点 ゲット・ショーティ- エルモア・レナード 2009/07/26 20:15
映画化もされ、ヒットしたレナードの傑作!
レナードの映画好きとレナード・タッチがマッチして、非常に小気味よい作品となっている。こんなに面白い本があるのかとずっと思いながら読んでいた。
そして今回も予想外に物語は進むが、この結末はもう物語の神様がレナードに下りてきたかのように散りばめられた布石がカチッと嵌る。
チリ・パーマーは数あるレナード作品で最も好きなキャラクターになり、作者もよほど気に入ったのであろう、続編『ビー・クール』も書かれている。
なお、題名の意味は「あのチビを手に入れろ」。
チビの正体はすぐ解るが、それも素人が遭遇する芸能界のあるギャップを表していて面白い。
映画版は別の結末で閉じられるが、それもまた秀逸。

No.582 4点 プロント- エルモア・レナード 2009/07/26 01:21
題名の意味はイタリア語で「もしもし」。そう、電話での応答挨拶だ。
本作はそういう意味でもイタリアを題材に扱っているのだが、なんか全体的に話が散漫に感じる。
レナードには珍しく、主人公のハリーがなかなか動かないキャラクターだったのだ。
厚さの割にはコストパフォーマンスの低い作品だ。

No.581 9点 スプリット・イメージ- エルモア・レナード 2009/07/24 22:41
レナードの作品に出てくる悪党というのは、ワルなんだがどこか憎めない人間くさいところがあるというのが定番だが、本作で出てくる富豪の男は今までにない、共感できない男であるのが特徴的だ。
自由気ままに暮せる金と、何もしなくても女が言寄ってくる容姿を備えた男。しかし渇望していたのは殺人への衝動。
当時サイコパス物が流行っていたが、これはレナード版サイコパス物。
最後の最後でギリギリに振り絞られた弓から矢が放たれる如く、怒濤の殺戮へ転じる展開は手に汗がにじんだ。
意外な人物が亡くなり、呆気に取られたが、幕切れは爽快感すら漂う。

No.580 8点 ムーンシャイン・ウォー- エルモア・レナード 2009/07/23 22:41
禁酒法統治下のアメリカを舞台にしたレナードの初期のウェスタン小説。
ムーンシャインはここでは酒税取締官に見つからないように密造者が月明かりの下で蒸留酒を作っていたことから、そのお酒を指し、密造者はムーンシャイナーと呼ぶ。なんとも詩的な表現ではないか。
そんなお酒に関する知識と密造者による蒸留酒のこだわりなどもふんだんに盛り込まれており、さらにはレナードには珍しく物語がシンプルで、題名どおり、一気に決闘へ雪崩れ込むのも小気味よい。
ラストも鮮やかで、逆にこの頃のレナードを取り戻してほしいなぁと思ったくらいだ。

No.579 6点 ザ・スイッチ- エルモア・レナード 2009/07/22 19:46
有閑マダムともいうべき奥さんが誘拐される事で、自分の中の“スイッチ”が入るという、実にレナードらしい作品。
レナードが上手いと思うのは男性作家なのに、女心の機微とか真理の綾とかを絶妙に描くところだ。
単に金持ちなだけ、何の過不足のない生活だけでは女性は繋ぎとめられないのだ。
「ストックホルム症候群」を扱った、とまでは行かないが、一般人が突然犯罪に巻き込まれて、非日常が破られ、自分の中の知らない自分が目覚めるなんてことを、こうも自然に描くとはなぁ。

しかしあの結末はなんなんだろう?最後の最後まで楽しんだのに、「へっ?」と思わず呟いてしまった。

No.578 3点 マイアミ欲望海岸- エルモア・レナード 2009/07/21 23:05
なんとも陳腐な邦題である。なんか別のジャンルの本と勘違いしそうだ。
これはまだレナード初期の作品で、先の読めない展開は健在なものの、どちらかといえば何も考えずに書いているような感じがしないでもない。
読者をいかに裏切るかがレナードの腕の見せ所なんだけど、これは途中で放棄したとしか思えないほど雑。
キャラクターもほとんど記憶に残らなかった。

No.577 8点 キャット・チェイサー- エルモア・レナード 2009/07/20 22:39
タイトルの「キャット・チェイサー」とは主人公がかつて属していた海兵隊の部隊の俗称。
あまりこの食指の動かなかったタイトルだったが、読むとこれがクイクイ読み進む。
主人公の兵士時代に自分を狙撃しながら、とどめを刺さなかった少女兵士の悪夢を払うために、彼の地サント・ドミンゴに訪れるが、そこで始まるのは悪党共のバトル・ロイヤル。
全く予想も付かない展開ながら、主人公のかっこよさが徐々に引き立っていき、読後はもうすっかり魅了されてしまっていた。
絶版になっているのが非常に残念!

No.576 7点 ラム・パンチ- エルモア・レナード 2009/07/19 19:06
レナードにしては主人公の「貌(かお)」が見えなかった。悪役のオーディルの方が存在感があった。いや主人公はマックスでも良かったのだが、パートナーであるウィンストンが魅力的な設定にも拘らず、ストーリーの原動力に何ら寄与していなかったのが余りにも惜しい。

映画も観たが(タランティーノ監督の『ジャッキー・ブラウン』)、やっぱり同じように主人公の男が全然魅力的でなかったなぁ。

No.575 4点 タッチ- エルモア・レナード 2009/07/19 01:15
レナードの最たる特徴は一癖も二癖も、また更に三癖もある連中が錯綜し合い、共鳴し合い、またまた反転し合い、全くどういう風に収束していくのか皆目見当がつかない点にあるのだが、今回は宗教というテーマ1本に絞ったためか、宗教についての衒学小説になってしまったきらいがあり、エンターテインメント性に欠けた。

No.574 2点 バーネット探偵社- モーリス・ルブラン 2009/07/17 22:15
モーリス・ルブランの息抜きのために書かれた短編集という印象が濃い。
元来、話のスケールを大きくする作家なので短編と云えども過去の因縁を絡ませ、物語に膨らみを持たせようとしているがこれが見事に失敗している。元々長編向きのアイデアを短編に無理矢理纏めたような、飛躍的な展開が実に白けさせるのだ。
昔ながらの超人的思考力探偵というのは今更ながら辟易だ。

No.573 7点 トリプル・クロス- ブライアン・フリーマントル 2009/07/16 19:27
フリーマントルが自身のノンフィクションルポルタージュ作品『ユーロマフィア』で述べていた、複数の国に君臨するそれぞれのマフィアによる犯罪ネットワークの構築、これが本書の主題である。
これにダニーロフの愛人ラリサの敵討ちが加わり、更にベルリンでのFBI捜査官の大量虐殺なども起こり、事件は派手さを増す。
米独露三国の共同捜査を敷きながら、常に相手の上を行くロシアマフィアの頭オルロフ。これが最後の最後で決定的な証拠が発覚し、捕まる。

しかしここで私は疑問に思ってしまった。
今までFBI、ロシア民警を嘲笑うかのように悉く出し抜いてきた慎重なマフィアが尻尾を掴まれるにしてはなんともお粗末な証拠である。
物語運び、世界情勢を正確に把握した堅牢たるプロット作り、そして最後にサプライズを決して忘れないフリーマントル。
上手い。確かに上手いが、今回はちょっと脇が甘かったかなぁ。

No.572 5点 三十棺桶島- モーリス・ルブラン 2009/07/16 00:57
「モーリス・ルブランの手による江戸川乱歩風味」といった趣の物語。
忌まわしい伝説が伝わる島に監禁された愛息を救うべく、島に渡った母親、悪の首領が支配するその島には壮大な地下迷宮(!?)が存在し、万能の力を持つ「神の石」が眠る…。ほら、乱歩以外何物でもない!
しかも、珍しく主役のルパンは何と、物語の3/4を過ぎた辺りから登場という異例の展開。

なのに安っぽいんだなぁ、これが…。

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