皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
|
みりんさん |
|
|---|---|
| 平均点: 6.66点 | 書評数: 502件 |
| No.482 | 7点 | 死者のノック- ジョン・ディクスン・カー | 2025/09/21 23:13 |
|---|---|---|---|
| 結婚5年目の夫婦は互いの浮気を容認し、冷え切った関係となっていた。そんな中、夫の浮気相手と思われる女性が窓とドアの閉め切られた密室で死んでいた。驚くべきことに、その殺害状況はウィルキー・コリンズの未発表作品「死者のノック」に記された密室殺人と同じ状況であった…
やはり密室は読む手を加速させる。コリンズ(未読)の未発表作品を出した理由は特になかったように思われるが、個人的にはお手本のようにシンプルな心理密室で上手いと思ったし、誤訳(?)には気づかなかった… 鍵穴が貫通している&ペンなどで外から押せば内側に刺さっている鍵が取れるというのは確かによく分からない鍵の構造ではある。 世界で初めて(ほんとか?)読者に推理材料を提示したフェアな探偵小説『月長石』とやらが気になったが、800ページもあるんかいな…要検討。 【ややネタバレ】 密室以外では、夫婦を中心に複雑な男女関係が色濃く描写されており、被害者はただの傍迷惑な奴であるが、その異常な性格によって事件の構造がやや複雑になっている。警察の最後の処理は賛否が分かれるでしょう。被害者は確かにやな奴ではあるが、これはちょっと甘くないかなあ… あれ、ところで「死者のノック」ってタイトルはどういう意味だったんだ? ※創元推理文庫の文字が小せえとハヤカワを持ち上げていたが、昔はハヤカワも文字小さかったんだな…スマン創元 |
|||
| No.481 | 7点 | 疑惑の影- ジョン・ディクスン・カー | 2025/09/21 09:22 |
|---|---|---|---|
| 序盤は毒殺の罪で逮捕された無実の女性を救う王道の法廷ミステリー。弁護士である冷笑系・ナルシスト・自己中心的で自惚れの激しい弁護士・バトラー(情にアツい一面もある!)が主人公である。その女性にしか機会のなかった殺人事件を、バトラーの機転で無罪判決を勝ち取る。
ここまでは文句なしに面白い。二つ目の事件でもバトラーは第一容疑者の別の女性の潔白を証明しようとする。フェル博士が登場し、なにやら事件の背景には悪魔崇拝教団が深く関わっているという展開に…ごろつきや教団達とのバトル描写で露骨に失速。 典型的な竜頭蛇尾作品で4〜5点が妥当だと思っていたところ、終盤に物語は急展開を迎えて、竜頭蛇体竜尾となる。 【完全にネタバレ】 最初に疑われた(投獄された)者が結局は黒幕で、時間差によるアリバイトリックという展開。これはアレですよねアレ。共犯者によるアリバイトリックなのでいくらでも貶すことはできる…が、バトラーの「ぼくは決して間違わない」というセリフの信憑性が"彼女は無実である"という地の文を上回るというミスリードが最終盤まで効果的であった。犯人とバトラーの二人だけのオトナな世界でアクセル全開、劇的なクライマックスを迎える…好み。 |
|||
| No.480 | 6点 | 眠れるスフィンクス- ジョン・ディクスン・カー | 2025/09/20 14:50 |
|---|---|---|---|
| 諜報機関に属していたため、都合上4んだ事にされていた語り手ホールデンが復員し、数年ぶりに旧友ソーリィと恋人シーリアに再開する場面から始まる。「なにか特別な任務で遠くへいらしていたのね。」恋人の第一声に込められた思いは後に如何ほどのものであったか分かる。
ホールデンは旧友の妻であり恋人の姉であったマーゴットが脳出血で4んだと聞かされる。旧友ソーリィは病死と説明するが、恋人シーリアはソーリィの虐待を苦にしての自死であると完全に意見が食い違っており、ホールデンは旧友と恋人のどちらを信頼するか悩んだ挙句に殺人という結論を出す。 物語の核となるのが二者択一の苦悩。旧友が正しければ恋人は精神異常者であり、恋人が正しければ旧友は殺人犯となる。ホールデンが大切な人が狂っているかもしれないと悩み続けながらも、事件を推理していく展開が実に面白く三気読み。そして、この二者択一の決着の付け方は流石だと思った。 他の方も書いているように納骨堂の密室のカラクリは特に本筋とは関係ないので、とってつけたようでもったいない。一つ目の事件の方も、浴槽水浸しの論理などはよく出来ているが、過去作の使い回し感もあってミステリーとしては微妙かな。 石橋を叩いて渡る善人よりも向かうみずな犯罪者の方がなんて…女心はわからんね。カーおじさんもそんな経験あり? |
|||
| No.479 | 8点 | 囁く影- ジョン・ディクスン・カー | 2025/09/19 20:05 |
|---|---|---|---|
| 最近のカーやたら面白いなあ。アイデア命のミステリー作品なのにシリーズ中盤からエンジンかかっていくって珍しいんじゃね。
殺人クラブに招かれたマイルズは、主賓の大学教授から6年前に古塔の頂で起こった不可解な刺殺事件の話を聞く。犯行時間にその塔には誰も入った者がおらず、塔の死角から上空20mをよじ登ることも不可能。動機を持つ容疑者として真っ先に浮かび上がったのが被害者の息子の婚約者フェイ・シートンだった… 【ネタバレ】 マイルズはフェイ・シートンを司書として迎え入れると、同じ家にいた妹マリオンが「囁く何者か」への恐怖で心肺停止する事件が起こり…と徐々に十八番の怪奇性が増していく。戦争が影を落としていることもあって雰囲気は暗め。 何番煎じかの○○○○○トリックも6年前の事件と現在の事件の間に戦争を挟むことで見事に決まっている。塔の上での不可能犯罪はあの作品を思い出したが、レインコート・胸壁の岩・ブリーフケースなどの小さな謎の集積でとびきりの謎を創出する趣向や登場人物の細かな描写に伏線を忍ばせる(伏線の数が尋常じゃない!)手腕に恐れ入った。マイルズが赤毛の薄命美人フェイ・シートンに魅了され、彼女の潔白を信じ、闇雲に追い続けるという儚いロマンス要素もこの薄暗い雰囲気とマッチしている。 |
|||
| No.478 | 7点 | 死が二人をわかつまで- ジョン・ディクスン・カー | 2025/09/11 08:24 |
|---|---|---|---|
| 語り手ディック・マーカムは婚約者が実は過去に3人の元夫を殺害していることを知らされる。それはあのフェル博士ですら未解決に終わった3つの密室毒殺事件であった。その翌日、その話をした病理学者の男が、過去の事件と同じように鍵の掛かった密室で毒死しているのが発見された…
なんでカーってこんなに序盤からワクワクさせるのがうまいんだろうな。実はレジェンド本格作家というだけでなく優れたストーリーテラー? 【完全にネタバレあり】 タイトルやメタ的に考えると明らかに犯人は2人の女のうちのどちらか。乱歩の唱えるカーの3本の矢は不可能興味・怪奇趣味・ユーモア。ここに犯人(結末)の意外性を加えたい、というのもこのシリーズで当てずっぽうでさえ犯人を正解した記憶がないから。 病理学者の筋書きを信じている者がいると警察に信じ込ませるためだけに施した思いつきの密室。毒殺なのに「犯人が部屋に不在」パターンではない。古典的なものと心理的なものを複合させた見事なるミスディレクション。 タイトルの「death」とは毒死ではなく老衰のことだったのか! |
|||
| No.477 | 7点 | 猫と鼠の殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2025/09/10 00:17 |
|---|---|---|---|
| 『テニスコートの謎』あたりから続いている、怪奇を封印してワンアイデアを膨らませるシンプルなカーおじさん(誰かの受け売りです)も嫌いじゃないねぇ…
自身の下す判決に絶対の自信を持ち、犯罪者を断罪する無慈悲な判事は、娘の婚約者が元脅迫者の悪人と知り、手切れ金を渡すことを男に持ちかける。翌日、男は判事の家で射殺死体となって発見されるが、その現場には銃を持った判事が佇んでいた。もし判事が犯人ならば、なぜ司法の専門家ともあろう者が自身が疑われる状況を作ったのか?判事は黒か?白か?という展開である。 【ネタバレ】 被害者の執念深い復讐心があのような特異的な状況を作り、いつもは安全圏から断罪する判事を第一容疑者に引き摺り下ろしたという皮肉なオチが面白い。 頭脳明晰なフェル博士であっても、状況証拠だけでは、司法の専門家には敵わない。名探偵もお手上げなのは完全犯罪なんかではなく、物的証拠を掴ませないことなのか。ラストはなぜ告白書を燃やしたのだろう? |
|||
| No.476 | 8点 | 連続自殺事件- ジョン・ディクスン・カー | 2025/09/07 22:18 |
|---|---|---|---|
| うむ、既読作では今のところカーのNo.2だ。『幽霊屋敷』の解説で「カーの第三期はトリックひとつを核によりシンプルなストーリーを組み立てた1940年代」と記述されていたが、本作もシンプルさ(何より読みやすい!)が功を奏していると思う。フェル博士がシリーズを通してMVP。
【ネタバレはないけど展開がほぼバラされます】 スコットランドに住む資産家の遠縁が19mの塔から落下死し、その相続についての相談で二人の歴史学の教授が招待される。二人の教授は学術的知見の食い違いから犬猿の仲であったが、同じ寝台列車に乗り合わせたことで…同じ部屋に男女が2人…何も起こらないはずはなく… とただの屋敷相続もののコード進行にはならず、冒頭から飽きさせない工夫がされている。酔っ払いによる新聞記者の襲撃シーンなど、本作はファルス・ロマンス・ミステリーの塩梅が絶妙だと思った。ミステリー要素は以下。 資産家の老人は密室の中で自分の意思で窓から飛び降りたとしか思えない状況。だが、仮に自殺だったら自身に賭けた多額の保険金は降りない。家族への愛情が強い老人が妻と弟を一文無しで放り出すだろうか?一方で、保険金目当ての他殺だった場合も、自殺に誤解される密室にする必要性がなくなってしまう。 本作がユニークなのはHowではなくWhyだ。自殺でも他殺でもメリットがない。唯一の線は怨恨であるが、老人を1番恨んでいた相手も密室状況下で死亡する。ちなみにこちらのトリックはかなり好き。 自殺すると地獄に堕とされるという宗教観を持つ妻は夫の他殺を願ってやまない。そのためにフェル博士が犯人をどう処置したか?これで本作がNo.2になった。お前ラブコメ好きなだけじゃね?と言われても仕方ない。 |
|||
| No.475 | 6点 | 震えない男- ジョン・ディクスン・カー | 2025/09/07 08:19 |
|---|---|---|---|
| テニスコートに引き続き(評判ほど)悪くはないっスね。
新訳の『幽霊屋敷』の方で読みました。馬鹿の一つ覚えみたいに毎度書評でカー!カイキ!カー!カイキ!と書くのも恥ずかしくなってきましたが、いかにもな舞台なのに怪奇性がほぼ皆無ですね。解説の方がその理由を推察しているのが興味深いです。 【ネタバレ】 いわくつきの幽霊屋敷に招待された6人が奇怪な銃殺事件に巻き込まれ、目撃者の1人は「拳銃がひとりでに壁からジャンプして被害者を撃った」と証言する。 ほう、これ斜め屋敷やからくり館系の先駆けだったりするんですかね? 高度や狙撃の調整はどうやったの?とトリック自体はかなり酷いが、フーダニットでなんとか体面を取り繕っているカンジダ。実行犯ではない方はかなり狡猾で、フェル博士と頭脳戦を繰り広げるところが見どころ。本書冒頭の「『アクロイド殺し』の真相に触れられている」という警告のせいで、アクロイドされることは読めていたが、少し違う型なのは良かった。 |
|||
| No.474 | 6点 | テニスコートの謎- ジョン・ディクスン・カー | 2025/09/06 17:04 |
|---|---|---|---|
| 四角関係ダブルス、特殊な遺産相続、テニスコート上での雨密室殺人、無実な二人による懸命な偽装工作とカー作品のなかでは非常にテンポよく物語が進行していく。
道中の密室の仮説はギャグシーンのように描かれているが、最後に明かされる唖然のトリックをフェル博士が真面目に解説しているのが笑えた。『ゴルフ場』は特に意味はなかった記憶があるが、本作はテニスコートじゃないと成立しないネタなのもいい。 うん、笑えるところが多くて実に面白かった。これに『緑のカプセルの謎』と同じ7点をつけるのは流石に…との思いで控えめにしたが(苦笑) |
|||
| No.473 | 7点 | 緑のカプセルの謎- ジョン・ディクスン・カー | 2025/09/06 08:27 |
|---|---|---|---|
| 解説によると、黄金期の探偵小説は空前の毒殺ブームだったらしい。だが個人的に「毒殺」ってミステリーでやられると面白みに欠けるんだよな。時間差で密室もアリバイも簡単にできちゃうし、不可能性の純度が数段階落ちる。
しかし本作は違う。なんと寸劇の最中に、観察者3人の目の前で堂々と殺人が行われるからだ。さらに、容疑者全員には鉄壁のアリバイがある。 寸劇は「人間の観察力が如何に信用ならないか」を問うためのテストであり、至る所に罠が張り巡らされているのがポイント。真相には関係しないが、時計の影のアイデアが面白かった。 アリバイのアイデアについては、(見抜けなかった腹いせとかではないが)標準的な類いのもので特段驚きはなく、どちらかというと1つ目の毒殺事件の動機の方に感心した。 不可能性の高い犯罪を描いているだけで8点をつけたくはなるが、『曲がった蝶番』『夜歩く』のような怪奇的な演出に欠けるので少し物足りない(『三つの棺』くらい突き抜けていると別に気にならんが)。カーおじさんもそろそろオカルトネタが尽きたのかな。 |
|||
| No.472 | 8点 | 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー | 2025/09/03 18:39 |
|---|---|---|---|
| 沈みゆくタイタニック号事件の最中、身元の入れ替わりがあったと主張する男。どちらが本物の資産家ジョン・ファーンリーなのか?相続人を巡って不可思議な殺人事件が起こる。
『魔女の隠れ家』のように序盤から怪奇を充満させて読者を引っ張るわけではない。屋根裏に封印された自動人形の調査から徐々に加速していく珍しい型。犯人は衆人環視の中でどのように殺人を遂行したのか?がメイン…と思いきや…本題は「曲った蝶番」に帰着するのだ。 ポオの『メルツェルの将棋指し』に触発されて思いついたのかな? 『死者はよみがえる』のせいでフェアプレイなんて些細な要素に思えてきた。驚けたら勝ちだ。被害者当てから犯人当て、動機に至るまで終始カーに裏をかかれた作品。 金色の自動人形がプリントされた創元の装丁がイイネ(珍しく)。 関係ないですがタイタニックってすこぶる面白いですよね。本作のせいでもう一度見たくなりました。 |
|||
| No.471 | 7点 | 死者はよみがえる- ジョン・ディクスン・カー | 2025/08/29 19:20 |
|---|---|---|---|
| 草。これ真相当てられた奴いねえだろw
いや待て。このサイトのプロ達ならこのくらいは当てて当然なのか?と姿勢を正して皆さんのレビューを拝見すると、20人中20人が敗北しているようでホッとした。 タイトルから、ポーに影響を受けた死者蘇生ミステリーかと期待したが、やや滑稽味のある無実倒叙系ミステリー(巻き込まれ型と言うのですね)のような始まり方をして、謎が謎を呼ぶ展開に…その内のほとんどはハドリーの概要説明や容疑者の供述で紐解かれますが… 密室なのか非密室なのか境界があいまいのまま真相に辿り着くと実に本意の密室に着地して感動した。この密室に関してはかなりフェアだ。そこから論理を辿ると、確かに動機以外は解ける人がいてもおかしくはない。 小密室・アンフェアさ・タイトルの意味も含めて結構気に入ったんだが8点を付けると負けな気がする。 |
|||
| No.470 | 7点 | アラビアンナイトの殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2025/08/26 21:05 |
|---|---|---|---|
| 長い。カーの500ページってクリスティーの1000ページと読了に要する時間は同じだからな。ほんで見取り図ついてないの創元推理文庫だけなのか…文字もバカみたいに小せえし、アンチになりそう。っぱ海外ミステリーはハヤカワだな(短絡的思考)
メインの内容は3人の警察関係者による事件の概要説明で、三人の断片的で異なる証言を組み合わせて1つの筋道を立てるというような趣向ではないのが残念。実に不評な本作、道中は確かに退屈だが、謎解きおよび真相に限って評価するとかなり面白いと思う。 【以下ネタバレ注意】 特に、犯人とは別の人物Aが、犯人とは別の人物Bを庇う(恩に着せる)ために捨て身のアリバイ工作をし、その結果、犯人とは別の人物Cが心強い味方となるというなんとも奇妙な展開。手がかりの明確な開示と論理においては、同国のライバル・クイーン(さほど読んでないが)を意識している?石炭や手紙、過剰なアリバイ証言など、何気ないものが手がかりになる展開が結構好き。 本作は珍しく、ハドリーの推理が善戦している。 |
|||
| No.469 | 9点 | 三つの棺- ジョン・ディクスン・カー | 2025/08/21 08:05 |
|---|---|---|---|
| このオッサン、密室の巨匠みたいに評されるけど『夜歩く』とせいぜい『火刑法廷』くらいしか読んだことなかったんだよな。子分達の方がよっぽどぶっ飛んだ密室(ウナギとか)書いてんぞと突っ込みたかったんだが…本作は認めるしかないな(何様)
ランポール君が久々に復活し、相変わらず影が薄い。そして新訳なのにやはりカーは読みづらい。 まず、密室からの仮面男の消失事件はその不可解性が群を抜いている。次にやや魅力は落ちるが、衆人環視の雪密室で、至近距離で起こった銃殺でなぜ犯人を目撃した者がいないのか?という謎。過去の脱獄事件、兄弟間の因縁、動機の不在により、事件は更に複雑怪奇の様相を呈する。 【以下 完全なるネタバレ】 当初の犯人の計画でも十分に魅力的で"ありえそうな"不可能犯罪足り得たが、サービス精神旺盛なカーおじさんはこれだけでは足りないと思ったのだろう。必然性・蓋然性を捧げてまで、互いに憎み合う被害者と犯人、<二つの棺>の共同作業がこの一世一代とも呼べるイリュージョンを創出した。結果、魔術や幽霊の存在を疑うほどの神秘に到達した。『死時計』もこのくらい分かりやすくすれば傑作になったのでは? ところで、実はかの有名な密室講義は読めていない。作品の一部を読まずに評価するのも失礼と思ったが、作品名が出た時点でネタバレを危惧して、読み飛ばしてしまった。いつか必ずこの講義も読みたいのだが、古典の密室を網羅したと確信できるのはいつになるのだろう?その時に追記するかも。 密室講義の前の、「"実現可能性"や"リアリティ"を探偵小説に求めるべきではない(意訳)」「魔法のような密室に本当の魔法を期待してガッカリする」 というのには同意。数多の密室は解かれずに密室のままでいいのかもしれない。過去に魔法のような密室トリックを経験したのは本作を含めてまだ片手で数えられるほどだ。この巨匠にこれより凄い不可能犯罪は描けるのだろうか?巨匠にとっても一世一代にはならないのだろうか?10点を付けないのは他作品への期待。楽しみに読んでいきたい。 |
|||
| No.468 | 6点 | 死時計- ジョン・ディクスン・カー | 2025/08/18 21:45 |
|---|---|---|---|
| 時計師の家で起こる刺殺事件。同じ部屋には銃を持った男と元警察官。月に照らされた怪しい人影。本領発揮とまではいかないが、久々にスリリングなミステリーに回帰した。
「悪魔的想像力に長けたその人間は、そいつ(時計)を、墓場へ進みゆく時間の、文字どおりの象徴として見てとったのだ。毎日数十回は見てきたはずのものを…」 こいつはいいね…知略に長けた冷酷な犯人が凶器に選んだのはなんと時計の針。この(略)はなんとなくポアロシリーズを連想させた。今まではあんまり魅力がなかったフェル博士がここにきて面目躍如なのも良かった。 ただ、なんで見取り図ねーんだよ、犯行現場思い浮かべづらすぎ…トリック難しすぎ… で-1点。 |
|||
| No.467 | 6点 | 盲目の理髪師- ジョン・ディクスン・カー | 2025/08/14 10:34 |
|---|---|---|---|
| 政治家の爆弾発言を残したフィルム、エメラルド像の盗難…消えた女の死体…シリーズ初のドタバタコメディと安楽椅子探偵フェル博士。外交官、元船長、推理作家、操り人形師の姪が船上を引っ掻き回し、思いも寄らぬ展開の連続。期待していた人間消失はややズッコケ気味だが、シリーズ随一のリーダビリティーとユーモアが魅力の作品。前作からなぜか方向転換?フーダニットものとして、丁寧に伏線が配置され、脚注付きで回収されていく。まあまあ面白い。ただ、『夜歩く』や『魔女の隠れ家』のような作風を期待してしまっている自分がいる。 | |||
| No.466 | 6点 | 剣の八- ジョン・ディクスン・カー | 2025/08/12 17:16 |
|---|---|---|---|
| フェル博士の3作目なのに書評数8とマイナー寄りの作品。読み終わった直後ですら、既に中盤あたりの記憶が抜け落ちている。この薄味さと偶然的要素が事件を複雑にさせる感じ、既読作で1番近いのは『四つの兇器』かな。「大好物のザリガニスープ(まずそうw)に手をつけなかった」という謎から構築されるロジックは堅牢とは言い難い(好きな食べ物を最後まで取っておく私のような人もいる!)が、直感的推理としてはよく出来ており、良質なフーダニットものと言える。解説の霞流一氏はこの作風転換はクイーンの<奇蹟の1932年>に触発されているのではと推察している。
ヴァン・ダイン並に影の薄い語り手のランポール君、もうクビですか? |
|||
| No.465 | 6点 | 帽子収集狂事件- ジョン・ディクスン・カー | 2025/08/11 22:56 |
|---|---|---|---|
| 読んでる途中に思い出したがこれだ!!昔読もうとしたけど途中から文章が頭に入ってこなくて断念したヤツ!!このオッサンはやめておこうと決意した苦き思い出の作品との思わぬ再会。新訳パワーでなんとか読めたが、ページ数が同じでもカーはクリスティーの2倍くらい時間がかかるようだ(笑)
帽子の盗難とデュパンシリーズの未発表原稿以外には特に目を引くものはなく、殺人事件は実に平凡なものです。また、道中は不可能興味を唆られるわけでもなく、『魔女の隠れ家』のような禍々しさもなく、一つ良さをあげるとしたら、舞台が霧が立ちこめるロンドン塔というところでしょうか。 フェル博士が「〜だわ。」とお嬢様言葉になる時が2回くらいあるのなぜ? 【以下直接的なネタバレ】 唐突に意外な犯人とそのアリバイトリックが示されて驚きました。今や犯行現場の錯誤はアリバイ崩しものの鉄板ネタなわけですが、江戸川乱歩が絶賛したのは当時としては初出だったからなんですかね?1934年なら既に手垢のついてそうなネタな気がしますがねぇ…それとも、不可能犯罪であることを強調せずにフーダニットとして勝負したことなのかなあ。もし始祖だったら+2点しますが、確かめようがないよねこういうの。 今作のフェル博士あんまいいとこなしだな。 |
|||
| No.464 | 7点 | 魔女の隠れ家- ジョン・ディクスン・カー | 2025/08/09 15:14 |
|---|---|---|---|
| 監獄の長官を代々受け継ぐスタバース家のとある儀式と死に様に関する言い伝え、断頭台のある<魔女の隠れ家>の禍々しい演出がとても上手い。怯懦な女性と語り手との出会いからも壮絶な事件の幕開けを期待させる。冒頭から実に引き込まれた。私は古い作品を読む時に「この時代の作品の犯人の意外性といってもせいぜいコイツ程度だろう」という油断が生まれる。現代読者としての傲慢さが私を迷路に追い込むのだ。今作もまさかそんなサプライズがしっかり用意されているとは微塵も思わず、素直に感心した。アンリ・バンコランシリーズとは明白に違うというのはそういうことネ。
それは好ましいことだが、ダークヒーロー感のあるバンコランの方がフェル博士より好きだなあ。 あと古い翻訳で読んだからか、(めちゃくちゃ×3)読みにくかった。カーは一文一文が重く、やはり気軽には読めないので、連休中に読んでいこう。 |
|||
| No.463 | 7点 | ベンスン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2025/08/07 17:38 |
|---|---|---|---|
| 綿密に計画された犯罪は個の心理から構築される唯一無二の芸術品…心理の追跡は物的証拠や状況証拠よりも尊い…
なんと心理探偵は1926年に既に誕生していたのか。ポアロが心理云々を重視するようになったのは確か中期あたりから(?)だし、ロジャー・シェリンガムとはどっちが先なのだろう。 黄金時代の幕開けと称されているが、幕開けから既にこんなに皮肉られまくってるのジャンルとして煮詰まりすぎだろう。やや弱めの多重解決要素まであるし。今や英国のバークリーと共に米国では忘れ去られた悲しき作家らしいが、いまだに本格が根強い孤高の島国ではいつまでも読まれ続けられるのではないか。 |
|||