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みりんさん
平均点: 6.65点 書評数: 449件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.449 7点 千年のフーダニット- 麻根重次 2025/07/16 21:22
物語の2/3ほどは秘境冒険小説+プチミステリみたいな感じでワクワクしながら楽しく読んでいたが、研究所が千年間コールドスリープさせる理由が脆弱(なぜ千年?)だったり、千年後の世界が想像を超えるものでなかったりと節々に安っぽさはあった。ホワイに関してもたっぷりページを割いて、背景を掘り下げ、犯人の執念と狂気に説得力を持たせていたら…と惜しく思う。しかしながら、真相自体は紛れもなく一級品で、非常に優れた密室ミステリ。もし某1990年代の作品を読んでいなかったら凄まじい衝撃を受けて、さらに高い点数をつけていたと思う。この設定でクローンを使わなかったことも素晴らしい。
疫病神ながら予想しておくと、今年の本格ミステリベスト10とかにランクインするんじゃないですかね(^^)

あと、装丁もうちょっとがんばれよ

No.448 5点 妖刀地獄- 夢野久作 2025/07/15 16:28
『名娼満月』以外にはいずれも刀が物語に深く関わってくるということで、『少女地獄』や『瓶詰地獄』にあやかってこのようなタイトルをつけたと思われる。中身は夢野久作が生涯で書いたたった5つの時代小説を全て収録。他のアンソロには一切載ってない激レア5品。

『斬られたさに』
3回読んだがモヤモヤ。
特に若侍の最期のセリフ「女役者」はどういうこと?本当は仇討の免状を盗んだ掏摸女であるが、友川家の長女であるかのように演じていたとそのまま受け取って良いのだろうか。平馬の悟った真実の武士道とは一体何だったんだろう。決して復讐の連鎖を悔やんだわけではなさそうだが。
『名君忠之』
藩主・黒田忠之は家臣である与九郎が薩摩藩から恩寵を受け取ったことに憤慨し、処刑を命じるところから始まる。
この話は与一の動機が謎に包まれています。死んだ両親に呪いをかけられていたのか、それとも自分が助かる道はこれしかないと悟ったのか。どちらにせよ遊女を手にかける必要はなかったのでは。結果、祖父の死に感極まって泣き出し、元凶である忠之も情に絆される始末。
『名娼満月』
最上級の美貌を持つ花魁・満月を3人の男が奪い合い、その戦いに破れた商人と武士がタッグを組んで満月を貰うための金を集めるという話。1クールの感動オリジナルアニメのようなフツーすぎるオチで逆に異色作まである。
『狂歌師 赤猪国兵衛』
記憶が正しければ、夢野久作の中で唯一の探偵小説だと思われる。探偵小説アンチの夢Qなので、その造形はやはり一筋縄ではいかず、掃溜から手掛かりを習得する非人(乞食)探偵を採用。内容は王道で、蔵元の娘が胴体を真っ二つに斬られた事件を解決するというもの。この乞食探偵はロジックが強引で、どちらかというと掃き溜めで集めた情報を開示していく物知りおじさんというイメージだ。解説によると都筑道夫の砂絵センセーに近いらしい。読んでみるか。
解説によると、非人というワードが引っかかり掲載を拒否されたらしい。この探偵によるシリーズものになる噂も…

No.447 5点 ジョーカー・ゲーム- 柳広司 2025/07/13 13:44
スパイ養成所であるD機関の人間は、日本帝国軍の信条とはかけ離れた考えを持ち、まるでゲームのように諜報戦を鮮やかに制していく。表題作は信念に囚われた軍人には一生見つけることはできないという日本帝国版『盗まれた手紙』だと感心しました。
何よりも魅力は何手先も読む明晰さと非情に徹する冷酷さ、その実行力を持つ結城中佐で、それが発揮された『ロビンソン』がお気に入り。

No.446 3点 N・Aの扉- 飛鳥部勝則 2025/07/13 02:48
絶版本で困っていたが、なんと引越し先の図書館にあった…が…うーん…作者のミステリ観というかエッセイとして読めばなかなか興味深いかも。江戸川乱歩や横溝正史のお気に入り作品談義はそこそこ楽しかったし、村山槐多とかM・R・ジェイムズとか聞いたこともなかった(本サイトでも書評数1件のみ)ので、読んでみようかなとも思った。
飛鳥部作品を読んで、作家の内面が気になるレベルにまで気に入ったら本作を読むべきかな。そうじゃない方には、とにかくお勧めしない。
3作目にこれ書いたんだ…

※なんと今年に電撃復活を遂げるそうです!

No.445 7点 風果つる館の殺人- 加賀美雅之 2025/07/12 13:34
アンリ・バンコランのせいで久々にシャルル・ベルトランが読みたくなった。他にいるかは知らんが「日本のジョン・ディクスン・カー」の1人。たぶん。

ああ!!なんということだ!!悪意に満ちた酸鼻な連続殺人の真相と犯人の狡智に長けた世界に類例のない恐るべき奸計が白日の元に晒された時、[電撃にも似た/雷に打たれたような/爆弾が破裂したような]<衝撃/戦慄>が私を覆い尽くした。
加賀美雅之といえばこれよこれ。※ ↑ちなみにこんな記述は文中に一切ありません。
たまに恥ずかしくなるけど、このやたらに仰々しい文章が癖になる。

『双月城の惨劇』や『監獄島』には一歩及ばずともハウダニット作家としての矜持というか、トリック(主に物理)に対する偏執的な愛にヒジョーに好感が持てる。今作は四つの不可能犯罪とそのトリック。珍しく加点法で

①15m上空で首吊りと巨人の足跡が残された謎 +3 
「品物」が分からなくてググったよね普通に(苦笑)
②迷路の中の透明人間密室 +1 先行作が脳裏をよぎる
③衆人環視の風呂密室 +2
④38年前の迷路密室 いや〜これは… さすがに…+0
動機やその他複雑小ネタ満載で+1点
合計7点 

①がおそらく著者の自信作と思うが、③はシンプルながら館の特徴を活かしたトリックで結構感心した。
ああ、もうこの作家の長編は読めないのか…この新本格なのに古めかしく野暮で仰々しくて豪華な不可能犯罪のフルコース料理は味わえないのか(泣) 本格好きの多いこのサイトの方々が急逝を惜しんでいる理由がわかりますね。

No.444 6点 黒死館殺人事件- 小栗虫太郎 2025/07/05 12:29
444作目の書評に相応しい奇書をようやっと読んだ。某作家は「本格ミステリー小説の理想系は幻想的もしくは詩美性のある謎が論理的に解決される物語である」と提唱している。『夢殿』や『後光』でも感じたが、この理想の究極形は90年前に既に小栗虫太郎が構築・完成させていたのでは? まるで宇宙際タイヒミュラー理論のように(適当)、論理的とはあくまで小栗宇宙での論理であるが…

最初の100ページくらいまでは過剰な装飾物(プレンティペダントリ)を流し読み(フローリード)すれば、探偵小説の骨格(ミステリボーンステイタス)だけを追うのはさほど難しくはない。発光する遺体(シャイニングコープス)・遺体に刻まれた創紋(マーク)・黙示録の見立て殺人(ポエジーマーダ)などに興奮(ワクワク)しながら読み進めていた。しかし、中盤からプレンティペダントリがボーンステイタスになり、フローリードさせられた結果、ミステリボーンステイタスが完全にドンノウしてしまった。
ふう…疲れた
捏造もあるとはいえ、インターネットもない時代にどうやってここまで調べ上げられたか、はたまたその熱量はどこから来るのかというのが本作最大の謎である。
アンチミステリ感はなかったかな。博学で聡明な法水麟太郎だが、今作に限っては酷い時の金田一耕助よりも無能だったというのがアンチ要素?あと、法水だけでなく支倉や熊城など小栗宇宙に登場する人物がなぜかみな法水のワケワカメ衒学を理解しながら対等に会話していくのは小栗虫太郎の狙い澄ました高度なギャグですよね?
3奇書の面白かった順 ドグ>キョム>オグ

※すごく"合理的"にこの事件を解説しているブログがあって、それを読むと小栗虫太郎がまあまあちゃんと考えてるんだなあというのが分かった。このブログを読まなかったら3点とかだっただろう。

No.443 4点 四つの兇器- ジョン・ディクスン・カー 2025/06/30 21:13
アンリ・バンコランシリーズ第五作。
人狼、蠟人形、髑髏城などで彩られていた怪奇的・退廃的な雰囲気が今作でなぜかガラッと変わった。作風だけでなくあの悪魔的な名探偵も何処へやら消えてしまったようだ。犯行現場に残された四つの凶器の謎は込み入りすぎていて難解だったが、賭博シーンは中々面白かった。
いまのところ不可能犯罪の巨匠というよりは、オカルトの他に犯人の意外性に拘っているように思える。

No.442 6点 蠟人形館の殺人- ジョン・ディクスン・カー 2025/06/30 21:10
アンリ・バンコランシリーズ第四作。
かつてバンコランがギロチン送りにした殺人鬼が蠟人形として蘇る。サテュロスの蠟人形に抱かれて死んだ貴婦人。舞台装置のオカルト感はこれまででも圧倒的で、淫らな秘密社交クラブに潜入する展開はシリーズ随一の臨場感とリーダビリティを誇る。 『皇帝のかぎ煙草入れ』と同じく読者には明白なヒントが示されるが、真犯人には意外性があり、わかる人にはわかるトリックアートのよう。 アンリ・バンコランは悪魔(メフィストフェレス)の名にふさわしい探偵だ。

No.441 8点 髑髏城- ジョン・ディクスン・カー 2025/06/30 21:08
アンリ・バンコランシリーズ第三作。
これは面白い!! ライン河畔に聳え立つ髑髏城。バイオリンが奏でるアマリリスと共に炎に包まれながら転落する城主。2人の探偵による推理合戦(未遂)。しかし、この怪奇雰囲気を凌駕するほどに悪魔的な真相が用意されていた。犯人の辿り着いた悲しい真実とその時の絶望、実行に至るまでの途方もない逡巡、そして、悪魔面のバンコランが垣間見せた人間性に強く惹かれた。
加賀美雅之の『双月城の惨劇』はこれに大きく影響を受けたのかな。

No.440 4点 絞首台の謎- ジョン・ディクスン・カー 2025/06/30 21:06
アンリ・バンコランシリーズ第二作。カーはどうやらスロースターターだったようだ。
読了後は、冒頭の怪奇幻想的な雰囲気で惹きつけて、強引に辻褄を合わせた時の江戸川乱歩作品みたいだという感想を持った。しかし、謎解きの核を怪奇幻想譚の一部にする狙いがあるという解説を読んで納得。 この頃の怪奇>探偵の不等号が後年の不可能犯罪の巨匠という評価と乖離を生んでいるのかもしれない。

No.439 6点 夜歩く- ジョン・ディクスン・カー 2025/06/30 21:03
世界各地(スウェーデン・フランス・中国)に芽吹いたジョン・ディクスン・カーの弟子達の作品がやたら面白いので、ついに本家を読んでいく。

アンリ・バンコランシリーズ第一作 。
なるほど『皇帝のかぎ煙草入れ』はイレギュラーな作品でカーの作風はこんな感じなのか。古典的なトリックの組み合わせで(というか古典か)、現代の作家がやれば無理筋になるところをこの退廃的な雰囲気で上手く演出している。エドガー・アラン・ポーの『アモンティリヤードの樽』のネタが登場するのも嬉しい。

No.438 8点 変調二人羽織- 連城三紀彦 2025/06/29 18:16
このサイトの出版年を信仰しすぎるあまり、処女作は『暗色コメディ』だと勘違いしていた。お恥ずかしい。 
いわれてみると『暗色コメディ』ってらしくなかったもんなあ…

表題作は真っ白な丹頂鶴が東京を飛び去る冒頭の叙述から著者の凄まじい熱量とこだわりを感じる。やっぱり探偵小説お好きなんですねぇ…
明治と現代のカットバック技法が最後に全てを氷解する『六花の印』はその抒情性も含めて傑作と思う。
『ある東京の扉』はミステリへの自己言及性の高さが著者らしくないと感じたが、なかなかなトリックと、諧謔的なオチにさす連と唸らされた。ただ、このお話は短編集の中でも浮いてしまっている印象が拭えない。著者の得意とする愛憎渦巻く夫婦関係のお話では『メビウスの環』『依子の日記』があり、いずれも鮮やかな反転であった。
国内オールタイムベスト短編みたいな企画があったら、連城サンだけで何作ランクインするのだろうと気になりますな。

No.437 6点 妖女のねむり- 泡坂妻夫 2025/06/29 18:05
アーサカさんの第七長編。幻想とロマンスの塩梅が『湖底のまつり』に近い。
樋口一葉の未発表小説の発見から始まる。戦時中という特殊状況が生んだとある奇蹟に発展し、最終的には輪廻転生の真偽を問うミステリとなる。思想を超えて信念を貫いた者の究極の動機の一つと言えるのではないか。どっかの作家が"観念の動機"と読んでいたものかな(うろおぼえ)

No.436 6点 一次元の挿し木- 松下龍之介 2025/06/29 18:03
「このミス」はどうも合わないという自覚はあるのだが、本作の持つ謎の壮大さに惹かれて読んだ。冒頭の神秘性は島田荘司っぽい。しかし、この不可解さを説明するには(タイトル的にも)これしかあり得ないだろうと珍しく予想が的中してしまい、不完全燃焼になってしまった。本作は謎の解明よりも、終盤のスリラーに身慄いさせられた。アカデミックな雰囲気もいい感じ。島田荘司もこのくらいのコンパクトさだったらいいのかもしれない。

No.435 7点 写楽 閉じた国の幻- 島田荘司 2025/06/29 09:41
読書メーターに私が投稿した感想を引っ張ってきてるので上巻と下巻に分けます。

<上巻>
10ヶ月で140作品を版行し、忽然と姿を消した天才浮世絵師・写楽は出自・経歴・人柄に至るまで全てが謎に包まれている。  Who is Sharaku? 今作はその200年来のミステリーが解かれてしまうのだろうか?歴史ミステリーゆえ敬遠してきたが、傑作の予感! 
※ちなみに写楽が世界三大肖像画家の1人という言説は完全なガセらしい

<下巻>
"どのように考えてもどこかに破綻が生じ、隘路に迷い込む" かのアゾート殺人を彷彿とさせる歴史ミステリーだ。 あとがきによると初出の説でないことが悔やまれるが、"閉じた国の幻"をここまでドラマティックに演出した事で優れたエンタメへと昇華したと思う。面白かった! 

ところで島田荘司って高飛車で地位が高くて聡明でお嬢様系の強い女性に偏った嗜好があるよね。今どきこんな口調で喋る女の人いるのか?笑 逆にちょっと主婦に対して扱いが雑に感じる。

No.434 7点 御手洗潔のダンス- 島田荘司 2025/06/29 09:31
タイトル通り御手洗潔が小躍りするような謎が詰め込まれた短編集 。どいつもこいつも面白い。
特に2つ。『山高帽のイカロス』は空を飛ぶ幻想画家が20m上空で死亡するという衝撃的な導入と真相でグッと引き込まれた。 『とある騎士の物語』くらい強引なトリックとロマンスが組み合わさると島田荘司といえばこれだなあと安心します。

No.433 7点 展望塔の殺人- 島田荘司 2025/06/29 09:28
読み落としていた吉敷竹史シリーズ!しかし吉敷はほとんど名前だけの登場であり、シリーズものの楽しみはない。 表題作の展開は『奇想、天を動かす』を想起させる。受験戦争は「父親の経済力」と「母親の狂気」だと40年前に島田荘司によって既に問題提起されていた。 乱歩『目羅博士の不思議な犯罪』の島荘版とも呼べる『死聴率』や、亡霊と偶然と奇想が光る『発狂する重役』が特に面白い。

No.432 7点 切り裂きジャック・百年の孤独- 島田荘司 2025/06/29 09:27
あの猟奇殺人鬼がベルリンにも出没。100年の時を経ても、人間の卑小さが不変である限り、時代の特異点のような凄惨な事件は起こり得る。世界で最も有名な未解決事件に本格味溢れる真相と雰囲気を味付けしたのは流石。今作のコンパクトさを御手洗潔シリーズでも見習って欲しいところ。解説でも言われている通り、島田荘司という作家は夢を託せるミステリ作家だなとしみじみ。

No.431 7点 天国からの銃弾- 島田荘司 2025/06/29 09:23
粒揃いの中編が3つ。どれも平均以上に面白いが、表題作『天国からの銃弾』は出色の出来栄え。 高度経済成長期の魔都"東京"で蔓延る虚飾・天下り・利権・薬物・風俗を題材にここまでミステリーとして面白くするのは流石としか言いようがない。島田荘司の小説家としての最盛期はこのあたり?

No.430 8点 天に昇った男- 島田荘司 2025/06/29 09:21
珍しくミステリーではなく、冤罪や死刑制度に対するアンチテーゼとして書かれた作品(あとがきによると) 『涙流れるままに』などでも繰り返し用いられる島荘の一大テーマと思われる。今作は作品の雰囲気を損なうほど主張は強くなく、男の波乱の生涯と儚いロマンスにもの悲しくなった。 島田荘司って童話みたいなモチーフのお話が毎度上手くて引き込まれる。

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みりんさん
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