皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 青春ミステリ ] 祝祭の子 |
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逸木裕 | 出版月: 2022年08月 | 平均: 8.33点 | 書評数: 3件 |
双葉社 2022年08月 |
No.3 | 8点 | HORNET | 2022/11/30 23:46 |
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十数年前、新興宗教団体「褻」のトップ・石黒望は、子供たちに殺人技術を仕込み、多くの信者らを殺害させて行方をくらました。事件で生き残った子供は「生存者」と呼ばれ、年齢から司法で裁かれないことで世の標的となった。時が経ち、事件も風化しだしたころ、石黒望死亡のニュースが再び事件を思い起こさせ、「生存者」たちへのバッシングを呼び起こす。そんな中、「生存者」たちが何者かに命を狙われる事態が立て続けに起こる。誰が、何のために今頃復讐を始めたのか―。「生存者」の一人である夏目わかばは、十数年来再開した仲間たちとともに、自分たちをねらう「刺客」の正体をつきとめにかかる。
<ネタバレ> 仲間たちの中に真犯人「刺客」が存在することは概ね予想できたし、それが誰なのかも予想通りだった。とはいえ、タイミングドンピシャで(偶然?)昨今の話題が題材となり、非常に興味深い物語だった。過激派が暗躍し、学生運動の全盛により激動的だった時代を端緒にしたストーリーは筆者お筆力もあって読み応え十分で、世に(本サイトでも)高評価なのがうなずける一冊だった。 |
No.2 | 9点 | 虫暮部 | 2022/10/12 12:46 |
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一気読みしそうなところ、読み終えるのが勿体無くて敢えて途中で切って三日間に引き伸ばした。
非常に乱暴な比較をしてしまうと、佐藤究『テスカトリポカ』よりも上。理由は、こちらの方が密度に絶妙な波があり、世界に浸り切っても疲れないから、ではなかろうか。 登場人物に気持が寄り添いそうになるたびに、作者は容赦無くひっくり返す。足場をどんどん削り取るから、読者も追い詰められて息を潜めるしかない。それでも尚、“暴力の楽しさ” が感じられるところがなんとも怖い。 先生の計画が必要以上に迂遠な感はある。口ばかりの彩香にイライラ。いつ誰を切り捨てるか繰り返し考えた、私は将文だ。 “正当性を確保した人間が、大手を振って悪を叩けるときの、怒りながらも緩んでいる、醜悪な顔” 。 的確な表現だな。凄いな。 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | 2022/09/29 15:22 |
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(ネタバレなし)
1990年。カリスマ的な青年宗教家、天谷大志を教祖とする宗教集団は、幹部となった元学生運動家の女性・石黒望の働きもあって、最大期には70人もの教徒が山梨県の一角に集う一大コミューンとなった。だが2004年のある夜、石黒はそのコミューンで養育していた十代前半の男子女子5人を率いて、30数名の教徒を惨殺する凶行「祝祭」を起こす。さらに14年後、洗脳されていた被害者、そして元殺人者「生存者」としてその後の人生を生きてきた、26歳の美女・夏目わかばたち。そんな成長した5人の「生存者」を巻き込む謎の「祝祭」が、いまふたたび始まろうとしていた? 逸木作品はデビュー以来、現在まで著作が10冊。評者はそのうち、気がついたらこの新刊で6冊ほど読んでいたが、そのなかでは本作が頭ひとつふたつ抜けたベスト作品ということになった。 500ページ強の紙幅に書かれた物語は物量だけでなく内容的にも非常に手ごたえのあるもの。インターネットで本書を読了後に目にした作者インタビューによると構想に8年かけたのち、相を煮詰めて昨年から今年にかけて「小説推理」に連載。さらに書籍化に合わせて改稿しているという。 正義とは、善とは悪とは、贖罪とは、そして人間が恒常的に抱える暴力の欲求とは、などの命題にひとつひとつ現在の作者の視点で(それぞれに相対化の事象を見せながら)訴えていくストーリーはあまりにも重い。が、同時にそれをちゃんと第一級のエンターテインメントとしてまとめてあげてある手際が素晴らしい。この厚さ、中味で、途中で一度休止はしたものの、ほとんど最後まで一気読みであった。 ミステリ的な仕掛けに関しては、作者がまず何よりこれはミステリなのだと語っている(先のインタビューから)ように、中小多くのネタが仕込まれているが、個人的にはその辺はおしなべてストーリーを読みやすく面白くするためのギミックであり(それでいいのだが)、本作の勝負所は順当に重い真摯な文芸、種々のテーマの方にある感覚だ。 いちばん心に響いたのは、この世に聖人なんかそうそういるはずもなく、相対的に自分の優しさや誠実さを切り売りできる「善人」しかいないのだ、という作者のメッセージ。だが作者はそれをむしろ最終的には(以下略)。 いずれにしろ、大変に手ごたえのある優秀作であった。船戸与一などの作品でいえば『猛き箱舟』あたりの、作家が化ける瞬間を読み手に実感させる、そういう躍進作というところ。 まちがいなく今年の収穫のひとつでしょう。 |