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[ SF/ファンタジー ]
妖星伝(一)
鬼道の巻
半村良 出版月: 1998年09月 平均: 9.00点 書評数: 1件

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祥伝社
1998年09月

No.1 9点 2020/05/06 14:21
 幕府中興の祖・八代将軍徳川吉宗の治世から九代家重の御世にまさに遷り変らんとする延享年間。元は神道と対を成しながら反体制の異端と誹られ、密教と強く集合しつつ千年の時を経てなお、人知を超えた技を伝える暗黒の集団・鬼道衆。
 黄金城に住まう外道皇帝を中心にして東西南北各三門、各々の方角を守ってきた鬼道十二門も、最高指導者の長き不在に歪みを生じ、十二門筆頭にして東方陽明門の主・宮比羅(クビラ)の日天と、他の門から早くに離れた〈はぐれ鬼道〉ながら南北両門を取り込み、新たに鬼道を取り仕切らんとする第七位の西方段天門・因陀羅(インダラ)の信三郎の両派に分かたれていた。
 大盗・日本左衛門に大名屋敷を襲わせて金品を奪い去り、より領民から搾り取るよう仕向ける一方で、幕政に不満を持つ者を使い百姓たちを焚きつけ、全国を一揆の嵐で包み込まんと策動する日天。他方で動くのは、権力に食い込み小姓頭取・田沼意次に肩入れし、内から幕府を根腐れさせんとする信三郎。相争う敵同士とはいえ、悪を奉じ世の乱れと流血を望むのは、どちらも変わらない。彼らにとってはこの世の本質は地獄であり、人間を幸福という幻想から覚ますために殺し犯し憎み合わせることこそが、真の救いへの道なのだ。
 まっぷたつに割れた鬼道十二門の争いに揺らぐ日の本。そして日天が戯れに淫女に堕とし、自らを斬った夫と共に燃えさかる劫火に消えた母親の胎内から、鬼道衆が千年に渡り探し求めた不即不壊の存在・外道皇帝がその産声を上げた・・・
 (一)巻は雑誌「小説CLUB」昭和四十八(1973)年九月号から、昭和四十九(1974)年八月号連載分まで。あまりのスケールに長期の中断を余儀なくされた作品で、最終(七)巻「魔道の巻」が出版されたのは、(六)巻「人道の巻」完結から13年後の1993年のこと。結末に賛否はあれど、小松左京『果てしなき流れの果てに』光瀬龍『百億の昼と千億の夜』などと共に、日本SFベスト3の座を占めると目されるもの。
 正直前半の伝奇部分も面白くはあっても山風や五味先生の域には至らず、7点弱ぐらいの感触だったんですが、物語も半ばを過ぎて〈第二の外道皇帝〉が誕生するに至り、尻上がりに盛り上がってくる。
 まあそっちのタネはすぐ割れるんですが、間髪入れず鬼道千年の謎が秘められた〈紀(鬼)州胎内道〉の探索を依頼された桜井俊策と播州浪人・栗山定十郎、及び鬼道衆の二重スパイ・朱雀のお幾らの珍道中が始まり、新しく補陀落(ポータラカ)星人の憑依した元殺人鬼・石川光之介改め、星之介がメンバーに加わる。
 お幾の口から語られる鬼道の伝承、博学多識の俊策の歴史・修験道・書物その他で得た知識、それに補陀落星人の科学が突き合わせられて、徐々に真実が浮き上がる。この辺はウソツキ作者の独壇場。続いてシレっと彼らを攻撃する謎のUFOが現れる。完全時代劇であると同時に、SFであることを微塵も隠してないですね。そのあたりは栗本薫『グイン・サーガ』に似ています。
 さらに問題の紀州胎内道ではエログロ系で始まった物語が、補陀落星人=星之介との対話を経て次第に哲学問答と化していき、最後には人類の未来の姿、〈人間のなれのはて〉を見せつけられる。鬼道衆のお幾が「あたしはもういやだ」と泣き喚くぐらいの惨状。ここで登場人物たちを絶望の淵に叩き込んで第一部完。それでいいんかい。

 「鴉たちよ、生きるがいい。命を食い合い、死ぬまで争って生きるがいい。(中略)なまじ知恵など持たぬほうが幸せだぞ」
 「見ろ。知恵のない鴉が啼いている。泣け、泣け。鴉の勘三郎だ」

 国枝史郎『神州纐纈城』にインスパイアされて始まった大長編。正邪の価値観を逆転させた異様な物語はまだまだ続きます。


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半村良
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