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[ SF/ファンタジー ]
妖星伝(五)
天道の巻
半村良 出版月: 1998年12月 平均: 10.00点 書評数: 1件

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祥伝社
1998年12月

No.1 10点 2020/06/14 13:18
 来たるべき鬼道地獄祭のため伊那松沼十五ヵ村に腰を据えた鬼道衆たちは、赤目に守られた陋と呼ばれる亜空間=黄金城の扉を開こうと焦っていた。そして消失した外道皇帝に続き、ナガル、ムウルの二人の補陀落(ポータラカ)星人たちもまた、肉体を捨て新たな眠りに就く。そんな鬼道の動きを横目で窺うのは、権力欲に憑かれた政商・平田屋藤八。かれは鬼道の少年・頭(こうべ)の太郎を従え、宮比羅(クビラ)の日天と因陀羅(インダラ)の信三郎に先んじて黄金城を手に入れようとしていた。その手にあるのは謎の詰将棋図「将軍詰め」。
 一方、桜井俊策にひと目逢いたいと、噂を追ってはるばる松沼まで辿り着いた朱雀のお幾は、夢の世界を伝ってついに黄金城に達するがその城門は開かれず、門の寸前で足踏みを繰り返すだけだった。しょせん愛は虚像と彼女は悟り、俊策に別れを告げると、かつて暮らした信州上田へと向かう。皇帝により黄金城に導かれた日蓮宗不受布施派の師弟・日円と青円は、そんなお幾の姿に無限の哀しみを覚えるのだった。
 その頃、外道皇帝に対する反存在・天道尼を地獄祭の女王に据えんとする因陀羅の信三郎は、天の橋立で性の求道者・出雲の女之助に出会う。女之助と意気投合した信三郎は、永遠の女性を探し求めるかれと天道尼とをひそかに噛み合わせようと目論むが――
 (五)巻は雑誌「小説CLUB」昭和五十二(1977)年十一月号から、昭和五十四(1979)年一月号まで。時代背景は宝暦十(1760)年六月九日、徳川九代将軍第一の寵臣・大岡忠光が心臓発作で死去し、同月二十五日に九代家重が息子・家治に将軍職を譲り隠居するまで。目の上のこぶであった上司の死により田沼の前途は限りなく、舎弟・意誠(おきまさ)を一ツ橋家の家老に据えて後ろ盾も盤石。忠光の病死も作中では、平田屋に代わり田沼に食い込んだ政商・黒金屋正五郎の仕業とされています。ちなみに死んだ大岡忠光は、先代吉宗に重用された名奉行・大岡忠相の同族。
 凶花・泥食いもとうとう関東方面に到達し、大飢饉の訪れも間近に迫るころ。女之助と一体化し念力を失った天道尼はそのまま鬼道衆に連れ去られ、〈祭主さま〉として松沼の四道台(地獄祭の中心となる建物)に安置されることに。その指先から発した淡紅色の光はやがて松沼全土を満たし、光の屏風となって一種の結界(墺羅)を形成します。
 皇帝同様両性具有の身となり、生ける破戒仏と化した天道尼。四道台で繰り広げられる空前の淫祭。今まさに開かれんとする黄金城の扉、そしていよいよ明かされる秘伝の詰将棋「将軍詰め」の秘密とは――?
 いや盛大かつ壮絶にバカバカしくて、凄えわこりゃ(笑)。考えてみりゃあの『亜空間要塞』の作者だもんなあ。今回最大瞬間風速で見事山田風太郎超え達成したんで、久々に10点を進呈します。これさっぴいても時空論最高潮だし、間違いなく空前絶後の作品ですな。


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半村良
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