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[ SF/ファンタジー ]
楽園伝説
半村良 出版月: 1975年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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ノン・ノベル27
1975年01月

KADOKAWA
1979年07月

祥伝社
1986年07月

講談社
1999年02月

No.1 7点 2021/01/29 08:31
 マンモス企業・超栄商事のエリート課長伊沢邦明は、失踪中のかつての上司・島田義男の轢逃げ事件に出くわしたことから、巨大な地下組織の存在を知る。その組織は、大企業の秘密をネタにサラリーマンの楽園(パラダイス)を作ろうとしていた。平凡なサラリーマン生活に飽きていた伊沢は組織に接触し "王者の愉悦" に耽溺する・・・
 しかし、楽園をめぐり利害の対立する組織対組織の戦いは熾烈をきわめ、やがて伊沢自身もその渦中に巻き込まれていくのだった。伝奇推理の旗手・半村良が、直木賞受賞後最初に放つ長編 "伝説シリーズ" 第三弾!
 〈伝説シリーズ〉三作目にして半村良の第11長篇―― のハズなのだが、何故かオフィシャルサイト「半文居」(https://hanmura.com/)の著作リストには無い。本サイトの書籍データでも出版月は「1975年01月」となっているが、手持ち本の奥付には「昭和50年3月20日 初版第1刷発行」と記されている。この年には『雨やどり』での74年度下半期直木賞受賞を受けて、代表作『妖星伝』一部二部や『戦国自衛隊』『死神伝説』『夢の底から来た男』など、確認しただけでも六長篇三短篇集が刊行されており、かなり混乱していると思われる。とりあえず上記のNON NOVEL版裏表紙の解説を信じて、『亜空間要塞の逆襲』に続く十一冊目の長篇としておく。
 シリーズ中でも第二作『英雄伝説』と並んで評価の高い作品。内容もそれに違わず、謀略スリラー風の出だしから主人公の立場も二転三転していく。各社の機密情報を持ち寄って超党派の連合組織を構築し、現代サラリーマンを集めた秘密結社、奴隷たちの楽園を作り上げるという「パラダイサー」の発想は秀逸だが、読み進むとそれすらも既成権力の企みのうち、という事が判ってくる。だが「パラダイサー」の中にも〈シダ〉と呼ばれる彼らの預かり知らぬ組織が組み込まれており、その僅かな綻びがやがて静かな、しかし圧倒的な侵略の波へと繋がっていき・・・
 凝った筋立てと陣営を替える毎に切り替わる、主人公・伊沢の視点と認識の変化が読み所。初版袖の〈著者のことば〉によると伝説シリーズは「どれもタイトルは物語の入口だけを示し、その先までの道案内にはならぬよう心がけている」「もともとSFをふつうの小説と同じように読んでもらうことが、SF作家としての私の願いだった」とある。〈伝奇推理小説〉を謳ったシリーズだが、やはり半村はこれを日本SFの一作品として描いているようだ。ただ本書は、スリラーとして見てもなかなか秀逸。瑕瑾があるとすれば〈髭だらけの男〉こと林の正体が、最後まで不明な事くらいか。間接的なマインドコントロールの発想は、同年発表の海野十三風謀略SF『不可触領域』に、更に引き継がれてゆく。採点はやや甘くして7点。


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半村良
1998年12月
妖星伝(七)
妖星伝(六)
平均:6.00 / 書評数:1
妖星伝(五)
平均:10.00 / 書評数:1
1998年10月
妖星伝(四)
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妖星伝(三)
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1998年09月
妖星伝(二)
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妖星伝(一)
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1994年10月
フォックス・ウーマン
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1979年08月
都市の仮面
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1979年04月
英雄伝説
1977年07月
下町探偵局
平均:5.00 / 書評数:1
どぶどろ
1976年01月
女たちは泥棒
1975年06月
戦国自衛隊
平均:7.00 / 書評数:3
1975年01月
となりの宇宙人
楽園伝説
平均:7.00 / 書評数:1
夢の底から来た男
1974年01月
不可触領域
1973年02月
黄金伝説
平均:6.00 / 書評数:1
1973年01月
産霊山秘録
平均:7.00 / 書評数:2
1972年11月
軍靴の響き
平均:6.00 / 書評数:1
1971年11月
石の血脈
平均:7.00 / 書評数:2