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[ SF/ファンタジー ] 妖星伝(三) 神道の巻 |
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半村良 | 出版月: 1998年10月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
祥伝社 1998年10月 |
No.1 | 8点 | 雪 | 2020/05/23 09:33 |
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ナガルの小太郎とムウルの星之介、〈お宝さま〉こと転生者・外道皇帝。三人の補陀落(ポータラカ)星人の意志により、東西鬼道の和は成った。造怪術の術くらべによりこれまでの確執を捨て、鬼道千年の本拠地・黄金城を探し求める宮比羅(クビラ)の日天と因陀羅(インダラ)の信三郎。
そして彼らに闇の旦那こと飛行皇帝(転輪王)を加えた、四人の補陀落星人たちの精神のたたかいは、夜空に泛ぶ四天王の姿を取り天空を揺らす。この星の進化に介入し、地獄そのものにした罪を問われる外道皇帝。だが彼はじりじりと大きさを増して闇の旦那を追い、四天王像は皇帝をナガルとムウルが支える三尊のかたちに変化した。転生を繰り返す真の外道皇帝の力は、三者をも圧倒するものなのだ。 しかし因果律を操ったが故に、皇帝を滅ぼす反存在となる歪もまた生まれていた。それは鬼道につらなる黒金屋正五郎の娘・天道尼。彼女はこの世の外に生を享けたものを外魔と断じ、外道皇帝と等しき超常力をもって鬼道衆を駆逐する。 一方、闇の旦那に逆心を植え込まれた因陀羅の腹心・平田屋藤八は、この世で最も強大な権力を摑むため、信三郎と日天を蹴落とし天道尼とも繋がろうとしていた―― (三)巻は雑誌「小説CLUB」昭和五十(1975)年九月号から、昭和五十一(1976)年九月号まで。時代背景ははっきりしませんが、田沼意次が三千石の下賜を受け禄高五千石となったばかりとあるので、おおむね宝暦五(1755)年頃のことでしょうか。作中では足利学校所蔵のUFO伝承「降魔録」全十二巻のうち一巻を、将軍家に献上した見返りとされています。 鬼道十二門筆頭として古来からの序列や掟を墨守してきた東の日天。それに対しこれからは情報が要になると見抜き、門の垣根を破って遠視・遠話・遠聴の諸術を配下に習得させ、個人同士の戦いから組織戦への移行を進める西の信三郎。守旧派と革新派、それぞれのトップとして対立する両者ですが、〈組織の硬直化〉を実感するにつれ、日天もいろいろ思うところが多かったようです。戦いの中で既に実力を認めていることもあり、和解後の拗れは一切見られません。 そんな彼らから弾き出された格好なのは、紀州胎内道を抜けた朱雀のお幾。信三郎に抱かれ鬼道衆間の二重スパイを務めていた彼女ですが、日天の子・双子のかたわれ朧丸に犯されることで桜井俊策との縁(えにし)も終り、再び江戸へと向かう恋人を見送ります。俊策はそのまま妹・久恵、鬼道衆・静海の夫婦と共に、〈お宝さま〉を田沼屋敷で見守る事に。 仏典を題材に語られる時間・空間論〈時とは物事が変化すること〉〈物の変化がなければ、時は流れない〉により、核心部分が姿を見せる第三巻。最後はこう閉じられます。 その時すでに、広大な宇宙の一角で、そのような考えをまったく覆す、異常なものが発生していたのであった。 それは、意志を持った時間、であった。 |