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[ SF/ファンタジー ]
妖星伝(四)
黄道の巻
半村良 出版月: 1998年10月 平均: 9.00点 書評数: 1件

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祥伝社
1998年10月

No.1 9点 2020/06/04 07:39
 両性具有の破戒仏と化した外道皇帝は、淫風に桜井俊策と父母の静海・久恵を巻き込み、彼らの死とともに田沼屋敷から消え去った。そして日蓮宗不受布施派の師弟・日円と青円は、日円が会得する沈時術(時間停止術)の本質に迫り、鬼道衆に先んじて遂に千年の本拠地・黄金城に辿り着く。だがそこは皇帝によって作り出されたこの世ならぬ場所、陋と呼ばれる亜空間だった。
 この世にくくりつけられた小さな袋というべきその空間では、死んだはずの静海たち三人が日円一行を出迎える。外道皇帝の主観の世界である陋では、どんな事でも起こり得るのだ。皇帝はその場所で彼らにある役目を与えようとしていた。
 夢術の使い手・頭(こうべ)の夢助の感知した怪夢と、精神攻撃を受けた天道尼が快楽中に発した言葉から、黄金城の出現を知った鬼道衆・宮比羅(クビラ)の日天と因陀羅(インダラ)の信三郎も、異界との接点である伊那松沼二十一ヵ村に急行するが、妖怪長者の夢を通じて黄金城内へ達した信三郎は、聖域の番人である赤目に撃退されてしまう。もともと陋に生を享けた者である赤目たちは、生身のままで紀州胎内道と幽界とを自在に往来できるのだ。鬼道衆は松沼の十五ヵ村を皆殺しにし村人たちと入れ替わったものの、黄金城には手を付けられなかった。
 一方恋人と引き裂かれた元鬼道の朱雀のお幾は、美濃・郡上の一揆を指揮する栗山定十郎と共に、亡き俊策の行方を探し松沼を彷徨う。三保の松原で鬼道衆に敗れ地に伏した天道尼も、つかの間の安らぎを求めて漁師・春吉に抱かれていた。
 そして彼らの全てを巻き込む百十年に一度の大祭・鬼道地獄祭も、凶花・泥食いの北上と併せ、間近に迫っていた――
 (四)巻は雑誌「小説CLUB」昭和五十一(1976)年十一月号から、昭和五十二(1977)年十月号まで。時代背景は宝暦七(1757)年から宝暦八(1758)年にかけて。田沼意次が美濃国郡上藩主・金森頼錦の裁判(郡上一揆)にあたるために一万石の大名に取り立てられ、御三卿清水家にも食い込み着々と足場固めをしている頃のこと。一揆侍・栗山の努力は全て、鬼道衆による田沼躍進のために利用されていきます。
 仏典準拠の科学的考察もますます快調。大いなる流れの現実世界である劫(頌劫)と、卑小にして閉ざされた世界である陋(呪陋)。極大と極小、虚実の意味を絡めた時空論はやがて、滅びからの救いとなる霊的進化への道を指し示す事に。地球妖星化の元凶である外道皇帝の目的とは、いったい何か? そして飽くなき権力を欲する鬼道の政商・平田屋藤八が掴んだ、黄金城への扉を開く鍵となる徳川秘蔵の詰将棋図「将軍詰め」の意味とは?
 未曾有の大河伝奇SF「妖星伝」。次巻鬼道地獄祭篇「天道の巻」にて、事実上の完結を迎えます。


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