皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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ことはさん |
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| 平均点: 6.19点 | 書評数: 303件 |
| No.303 | 6点 | 空白の起点- 笹沢左保 | 2025/11/24 00:02 |
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| 「有栖川有栖選 必読! Selection」シリーズで読んだ。
事件が明確になって以降、過去を手繰る筋立ては私立探偵小説のようだ。展開は堅実だが興味を引かれるものなので、一気読み。なかなか面白い。登場人物が少なく、必然的に犯人候補も少ないので、犯人は推定できる。そうすると、逆算からトリックも推定がつくのが、ちょっと弱みかな。 疑問だったのが、視点人物が冒頭だけ違うこと。特に効果があるようにも感じないのに、これはなぜだったのだろう。 |
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| No.302 | 5点 | Iの悲劇- 米澤穂信 | 2025/11/23 21:59 |
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| 連作全体を貫くテーマとして「地方自治の問題」が設定され、各短編にはいつものように謎と解決があしらわれている。謎と解決の部分は、相変わらずの米澤節で、やや小粒な印象だ。全体を通してのミステリ的趣向もあるが、あまりインパクトは感じなかった。
私は、米澤の「青春もの」以外は、どうも琴線にひびかないので、うん、まあ、この点で。まあ、完全に好みの問題だが。 でも、描写や展開がよいので、読みやすく、一気読み。小説としての質は高く、テーマ性と構成の確かさは十分に感じられる作品だった。 |
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| No.301 | 5点 | マニアックス- 山口雅也 | 2025/11/23 18:58 |
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| 1作目の「孤独の島の島」は、設定がよい。海岸に流れ着く物を収集するというのは、なにかロマンを感じるなぁ。
それ以外の作品も、山口雅也らしく収集癖や執着が大なり小なりモチーフになっているが、いかんせん構成が小話的で、あっけない。 山口雅也の作風が好きというのでなければ、あまり刺さらないんじゃないかな。 |
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| No.300 | 6点 | 風よ僕らの前髪を- 弥生小夜子 | 2025/11/23 18:44 |
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| 事前情報からは「学生が主人公の青春物」を想像していたが、全然違った。間違いなく、私立探偵小説の作りだ。
視点人物は20代半ばで、親戚の青年の過去を訪ね歩く。捜査の中心となるのはその青年の高校時代なので、青春物の雰囲気は少しあるが、それ以上に家庭の悲劇の色合いが濃い。捜査を通じて浮かび上がる全体像は、複雑に絡み合う事件と人間関係で構成され、ロス・マクドナルド作品を思わせる読み心地がある。 惜しむらくは、捜査が順調すぎて、色々なことが次々とわかりすぎるきらいがある。また、証言だけに頼り過ぎで、読んでいて虚偽である可能性を拭えないのも気になった。 いずれにせよ、プロモーションがよくなくて、ロスマク好きな人が好みそうなのに、そういう人には手に取ってもらえていないのではないかと思う。 あと、本作はハードカーバーで読んだが、カバーを外した装幀は作中のノートを模しており、なかなかセンスがよい。 |
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| No.299 | 7点 | 殺人出産- 村田沙耶香 | 2025/11/23 17:58 |
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| 「コンビニ人間」がよかったので、他の作も読んでみた。「コンビニ人間」でも、なかなか独特の世界観があったが、本作も個性的。いいなぁ、村田沙耶香。
表題作「殺人出産」はすっかりホラー。角川ホラー文庫に入っていても全然違和感がない。「10人出産すれば1人を殺すことが許される」という異様な世界設定が、完全に日常となっていると感じさせるのが見事だ。村田沙耶香はコンスタントに読もうと思わせる出来だった。 2作目「トリプル」は、性的な異世界設定で、共感できるところが全然なく、私にはとらえどころがなかった。 3作目「清潔な結婚」も、性的な異世界設定でだが、これはすこしわかる気がして楽しめた。短い小品なので破綻もなく、すっきり読める。 4作目「余命」は掌編。これも特殊設定で、設定だけなら既視感がある。しかし、この設定をこの短さで短編集の締めにすることに、センスの良さを感じる。 |
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| No.298 | 4点 | 緋の堕胎- 戸川昌子 | 2025/10/20 00:03 |
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| これは好みに合わなかった。
ちくま文庫で読んだが、帯に官能ミステリとあり、その言葉どおり官能描写が中心で、ミステリとしての興趣はほとんど感じられなかった。 官能描写も、私にはかなりグロテスクに映り、どうも馴染めなかった。ただ、作風には強い個性があり、これを好む読者もいるだろうと思う。 収録作の中では「塩の羊」がよかった。これも、物語上なくても成立する性的な設定があるので、そこが好みでないのだが、それ以外は、モン・サン・ミッシェルをモデルにした舞台や、明かされる構図などは、惹かれるものがあった。 |
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| No.297 | 7点 | 彼は彼女の顔が見えない- アリス・フィーニー | 2025/10/19 17:48 |
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| アリス・フィーニーは「彼と彼女の衝撃の瞬間」につづいて2作目の読了。
「彼と彼女……」は、リチャード・ニーリィのような陰鬱なトーンがあったが、本作はそれほどでもない。けれど、下記のようなところは同様だったので、これがフィーニーの個性と捉えてよいのかもしれない。 登場人物はかなりしぼられている。章立ては細かい。章の切り替え毎に視点人物を切り替え、そこに続きが気になるような「引き」がある。視点人物の語りには、”信頼できない語り手”だろうかと思わせるところがある。作品全体で大きな仕掛けがある。 本作の「大きな仕掛け」については、きっとわかる人も多いだろう。私も、かなり後半になってだが、想像がついた。それでもグイグイ読まされて、かなり面白かった。「引き」をつくるのがうまいからだろうな。 あと、これも「彼と彼女……」と同様なのだが、後から拾い読みしてみると「あれはおかしくないか?」という記述がいくつか見られる。もうこれは、作者が整合性より「続きを読ませる」方に意図的に振っているからだろうから、好きか嫌いかの好みの問題だな。私はいまは好感的にとらえている。 ただ、ラストの展開は好みでないので、「彼と彼女……」ほうが好きかな。 |
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| No.296 | 6点 | 後ろ姿の聖像- 笹沢左保 | 2025/10/19 16:22 |
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| 「有栖川有栖選 必読! Selection」シリーズで読んだが、有栖川のイントロダクションにあるように、前章はフォーマットに則った作りですすむが、中章、終章で、そんなふうに展開させるんだと思わされる展開になる。これも有栖川のイントロダクションにあるが、デビュー20年目の作とのことだが、安定を求めずに挑戦的なプロットなところはすごい。300ページ弱を一気読み。
まあ、登場人物が少ないから、仮説の選択の幅が広くないので、真相の構図は終盤にはおおよそ想像がつくのだが、これだけ一気読みさせられれば文句はない。特に、ラストシーンがタイトルに修練するのはよかった。 |
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| No.295 | 6点 | 人喰い- 笹沢左保 | 2025/10/19 16:19 |
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| まあ、ともかく次々と展開していく。1章「遺書」からはじまり、行方不明者の捜索につづき、なんと爆発が起こる。いやあ、豪快。島田荘司の諸作を思い起こした。
その後も、疑惑の焦点が絞られ、捜査をして、だめになって、とプロットは転々とする。それぞれの仕掛けや趣向は、前例がありそうだが、手数で飽きさせない。読み終わってから、改めて考えると「そんな迂遠なことするかな?」とは思うが、読んでいる間は、スピード感に惑わされて気づかないのは、さすがベストセラー作家。 |
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| No.294 | 5点 | たまごの旅人- 近藤史恵 | 2025/10/19 16:14 |
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| 単行本の帯に「日常の謎」とデカデカと書いていますが、これはほとんど詐欺です。なんの謎もない、普通小説です。いや、それは「この人はこんなことを考えていたんだ」といったところはあるけど、謎としてフォーカスは全然していないので、これを「日常の謎」としたら、すべての小説が「日常の謎」になってしまいます。
ということで、ミステリではないですが、読みやすさは、安定の近藤印。新人旅行添乗員を語り手にして、旅行記と人情噺をうまくミックスし、するすると読ませる。 旅行記の部分としては、アイスランド、スロベニア、バリ、西安と北京ととりあげて、ツアーで周る観光地を描写していく。人情噺の部分としては、「憧れていた添乗員」、「父と確執がある女性」、「ひとり息子の相手を気にする女性」、「嫌いな国に来た男性」といった人をとりあげる。最終話だけは構成が変わって、舞台は沖縄で、観光地は巡らず、人情噺の部分は、語り手自身となる。 見たことのある素材を熟練の技で料理して、最後には「いい話を読んだ」と感じさせる。 「孤独のグルメ」のゴローさんのように、「そうそう、こういうのでいいんだよ」と言いたくなる読み心地。うまいなぁ。 |
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| No.293 | 6点 | 青玉獅子香炉- 陳舜臣 | 2025/08/31 03:24 |
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| やはり表題作「青玉獅子香炉」がよい。それ以外の作は、異国を舞台にして旅情がある作品が多いのは陳舜臣らしくてよいところだが、記憶に残る作品ではないかな。
「青玉獅子香炉」は、時間軸、舞台ともスケールが大きく、読み応えがあり、これはいい。 あと、「青玉獅子香炉」のラストが釈然としなかったので、AI(MicrosoftのCopilot)に聞いてみたら、実に的確な回答があった。なるほどねぇ。 なるほどとは思ったが、主人公は、他者からの評価より、香炉そのものを愛していたと思うので、ここは、再会の感激を描いてほしかったなぁ。 |
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| No.292 | 7点 | 日本扇の謎- 有栖川有栖 | 2025/08/31 03:10 |
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| 有栖川有栖も、初期の頃よりだんだんページ数が長くなっているイメージをもっているが、本作も2、3章は火村たちが関わった初日の捜査で、かなり長い。地道な捜査で長いのに、それを飽きさせないのは、情報の出し方が興味を引くからだろう。この辺はうまいよなぁ。
5章の「急転」で、実際に急転してからは一気読み。面白い。 東京での話が長いのに飽きさせないのは、キャラ作りやエピソードがいいからだろう。結末は、説得力はあるがインパクトがないため、採点はこれ以上はつけ難いかな。 いやでも、面白さのポイントが、アイディアの面白さではなく、小説家としての地力に思えるところは、今後の作品も楽しみにできるなぁ。 |
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| No.291 | 6点 | 鼻- 曽根圭介 | 2025/08/31 03:01 |
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| なかなか不条理でよい。解説で筒井康隆を引き合いに出していたが、(私は筒井康隆をあまり読んでいないのであまり説得力がないが)確かに筒井康隆のイメージに近い。
「暴落」。ディストピア物ととらえればいいのか。これが一番、不条理感がつよくて好き。ある人物の事実と、それが判明したときの展開が、とくに好き。 「受難」。あまりの不幸が不条理。乙一の「ZOO」の中の1篇、「SEVEN ROOMS」を思い出した。 「鼻」。ミステリ的仕掛けが、不条理感を薄めている気がする。3作では一番平凡に感じた。 |
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| No.290 | 7点 | ヴィーナスの命題- 真木武志 | 2025/08/31 02:48 |
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| うわっ、本サイトに書評がなかった。
読了後、ネット検索したら、「長門有希の100冊」「新本格ミステリを識るためのの100冊」に入っていることがわかったが、それにしては読まれていなさそう。私も、昔々に、綾辻が推薦していたので買ったまま、ずっと放置していたのをようやく読んだので、なにも言えないけれど。 作風は、最後に載せられている綾辻の薦が的確で(綾辻の薦って、だいたい的確で、綾辻は読み巧者たなぁと思う)、一部を引用すると、こんな感じ。 ”竹本健治「匣の中の失楽」や……などの先行作品を思い出せつつ……。登場人物のほとんどが高校生で、しかも現実の学校には絶対に存在しないだろうと思われるような連中ばかりなのだが、それがまた良い。確かに現実には存在しないかもしれない。けれど十代の一時期、僕たちはみんな多かれ少なかれ彼らのような部分をどこかに持っていたはずなのだ。それをデフォルメして造り上げた、何とも切なく愛おしい学園世界。” 登場人物が異能をもっていそうだったり、めちゃくちゃ有能だったりする上に、胡蝶の夢を引き合いに出して、それを前提に議論したり、ちょっとした事実と暗合から、とんでもない説明をしだしたりする。極めて変な酩酊感があって、これに似てるのは「匣の中の失楽」かなぁと思う。 よくわからない部分も多く、ネット検索してみると、いくつか考察サイトがあった。考察系のミステリとして、もっと読まれていい作品だと思ったのだが、このあと、作者は新作を出していないせいもあるのかなぁ。 |
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| No.289 | 6点 | 砂漠の悪魔- 近藤史恵 | 2025/08/31 02:25 |
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| プロットの骨組みはすっかり冒険小説だ。近藤さん、こんなのも書けるんだ。多才だなぁ。
ネットを見ると、ロード小説との評もあり、確かにそう。主人公は、事件により身をおとし、命令されて中国に行く。そして、意志をもったり、流されたりして、旅をする。旅の風景は、スケッチのようで、軽い旅情を感じる。心地良いくらいだ。 しかし、設定や背景には、その時の中国の情勢が組み込まれ、社会性がある。この部分が刺さる人も多そうだ。 個人的には、軽やかさと重々しさが喧嘩していて、それほど高い評価でないが、他に読んだ人の感想を聞きたくなるのは間違いない。 |
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| No.288 | 6点 | 魔法人形- マックス・アフォード | 2025/08/18 00:56 |
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| うん、これは他の評者も指摘しているように、この作者はクイーンに似ている。
怪奇的設定はカーに似ているが、それがつかみだけで、中盤にふくらませないので、カーっぽくないし、逆に複雑な状況が判明していく段取りはクイーンに近いし、解決部分は「主人公が、どこに着目して真相を見いだしたか?」が説明されて、まさにクイーン的。この解決はなかなか気が利いていて、かなりの加点ポイント。一部はあからさま過ぎてわかってしまったのが残念だが。 途中の展開は、色々残念なところがおおくて、傑作とはいえないかな。 事件が起きるまでは怪奇的雰囲気を盛り上げるが、事件発生後は事件の検討がメインで怪奇的雰囲気は薄れてしまうし、途中の展開は色々明かされるが、見せ方が上手くないのか、なんだか地味。冒頭の不可能興味は残念なかたちで事実が明かされるし、意外な背景状況が次々と明かされるところは、ホームズ時代のようだし、内容が盛りすぎて前振りもないので、納得感が薄い。埋もれてしまうのも、わかる気がする。 でも、文句ばかり書いてしまったが、好きか嫌いかでは、好きなんだけどね。 |
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| No.287 | 6点 | 奇術探偵 曾我佳城全集- 泡坂妻夫 | 2025/08/17 22:13 |
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| シリーズを通しての感想としては、詰め込みすぎのため、ミステリの興趣が薄くなっている、というところかな。奇術の描写の中で事件が起きるものがおおいが、それらの作品は事件が起こるのが話の中盤になっていて、質疑がなく、即解決となり、あっけなくなっている。
あとは、佳城のキャラがあまりたっていないと思う。佳城がなにを考えているか、伝わるような描写が少ないからだろうな。 他に、佳城を出しておけばシリーズに入れられるので、実験的な作品もあるところは、評価したい。 以下に、各話の寸感。 「天井のトランプ」 奇術の仕掛けとダイイング・メッセージを絡ませた、典型的な佳城譚。まとまりのよい作。竹梨警部が登場。以降、いくつもの作に顔を出す。 「シンブルの味」 壊したものを治す仕掛けをを絡ませた、これも典型的な佳城譚。舞台設定が凝っているのにも、理由があるのもよい。シリーズのベストの1つ。 「空中朝顔」 ミステリでない。短い人情噺。 「白いハンカチーフ」 泡坂妻夫の得意な論理と伏線だが、いろいろ無理が目立つ。テレビ番組のトレースという実験的構成は面白い。 「バースデイロープ」 竹梨警部が登場。事件にほとんど関わらない人物を、主な視点として描く実験作。シリーズのベストの1つ。 「ビルチューブ」 問題のない日常に並行して、裏ですすんでいる事件を終盤で暴く、泡坂妻夫が得意とする構成。事件と関わらないが、「雪まくり」という現象が印象的。「天井のトランプ」の法界と「バースデイロープ」の節子が再登場。シリーズのベストの1つ。 「消える銃弾」 竹梨警部が登場。シリーズで初めて佳城が探偵役として事件を依頼される。奇術の仕掛けが中心なので、鮮やかさに欠ける。串目匡一が初登場。以降は多くの作に顔を出す。 「カップと玉」 暗号解読を軸にした作品。暗号以外はドタバタコメディのタッチ。 「石になった人形」 竹梨警部が登場。奇術の仕掛けが作品の仕掛けと直結している。佳城の立ち位置が特徴的。 「七羽の銀鳩」 日常の謎風の結末に、もうひと捻りするのがよい。その話の落とし方は、いかにも泡坂妻夫の味わい。 「剣の舞」 竹梨警部が登場。冒頭の奇術ショーのエピソードとは、全く別視点で事件が語られ、終盤にきれいにつなげる構成が見事。 「虚像実像」 竹梨警部が登場。奇術の趣向は面白い。事件は、謎と解明より動機に焦点があたっているのが、シリーズでは異色。 「花火と銃声」 竹梨警部が登場。トリックは平凡だが、構成や推理の段取りで楽しませる。 「ジグザグ」 事件が派手だが、必然性は薄いし、趣向や推理にもみるべきものがない。残念な作。 「だるまさんがころした」 謎と解決らしきものはあるが、ミステリは風味付け。ミステリでないジャンルの読み心地。 「ミダス王の奇跡」 手がかりの提示が気が利いている。シリーズとしては、ある仕掛けがあり、重要作。 「浮気な鍵」 竹梨警部が登場。視点人物が途中で入れ替わり、ふたつの話の絡みが興味を引く。トリックはシンプル。最初の視点人物の市塚尚子は面白いキャラ。 「真珠夫人」 事件が起きるが、ミステリ的な推理や解決はほぼなし。あるのは動機の謎だけだで、共感はできるが、小粒すぎる。 「とらんぷの歌」 事件に使われるギミックは面白いが、ミステリ的にはそれだけ。あとは奇術の会の描写を楽しむ話。 「百魔術」 奇術のトリックがそのまま事件のトリックで、ミステリ的にはシンプル。動機が特異で、かつ、ある伏線にもなっているところがポイント。 「おしゃべり鏡」 死体の発見で閉幕という、泡坂妻夫らしいユニークな構成。 「魔術城完成」 やはりこれは、「こんなキャラではないはず」の思いが拭えない。 |
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| No.286 | 5点 | ブロンズの使者- 鮎川哲也 | 2025/08/17 21:43 |
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| 三番館シリーズをつづけて読んでみた。読んだ味わいは「サムソンの犯罪」と変わっていない。
最初の2作「ブロンズの使者」、「夜の冒険」では、小説の盗作問題を中心に据えたり、尾行から意外な展開が起きたりと、ワンパターンの展開を避けようと工夫している。つづけて読んで飽きさせないのだが、ミステリ的アイディアはかなり小粒。 つづく「百足」、「相似の部屋」は、かなり凝った構成でシリーズでも上位にくると思う。本書のベストは「相似の部屋」かな。 後半の2作「マーキュリーの靴」、「塔の女」は、構成が問題編、解答編ときれいに別れている印象で、潔いほど。ただ解答が、整合性のある仮説の域をでないように感じる。 シリーズを通してみると、初期作と比べて、かなりシンプルになってきている。初期の作では、バーテンダーの推理を元に、探偵が裏取りするパートがある作が多かったが、本書では、バーテンダーの推理をきいて終了となっている。 昔に読んだ記憶では、この後の作では、さらにその傾向が強まり、推理クイズ的になっていったイメージなので、もう読み直さないかなぁ。1作目だけ、いつか読み直そう。 あと、今回読んだのは、徳間文庫版だが、解説が中町信で、「マーキュリーの靴」を三番館シリーズのベストに推していて、「やっぱり、中町信はこういうのが好きなんだな」と微笑ましかった。追記すると、徳間文庫版の中町信の解説の各作品の説明部分は、内容に踏み込み過ぎでネタバレになっているところがあるので、先に読まない方が良い。 |
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| No.285 | 5点 | サムソンの犯罪- 鮎川哲也 | 2025/08/10 02:45 |
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| 久しぶりに、鮎川短編集を読んでみた。
ミステリ的には、1つシンプルなアイディアを盛り込むだけで、型通りという感じがするが、事件に工夫があり、物語としては楽しませてくれる。 事件の工夫をあげていくと、主人公の探偵が訪ねた先で事件が起きたり、1つの手がかりから複数の解決を展開させたり、浮気調査が別のものに変わったり、短い中に何人ものアリバイ調査をいれたり、ドッペルゲンガーが目撃されたり、ニセモノに化けたところに事件に巻き込まれたりする。 ベストは「走れ俊平」。事件の特異さが際立っていてよい。 |
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| No.284 | 5点 | 枯草の根- 陳舜臣 | 2025/06/16 00:44 |
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| これは再読。といっても、相変わらずまったく覚えていなかった。
1章で複数の人物の動向並列してが描かれ、どう絡んでいくのかと思わせる。その後もじっくりと人物を描き、事件が起こるのは、300ページ中の70ページというところで、中期クリスティーを思わせる構成だ。 「全体は手堅い作りで、プラス、なにか”ひき”がある」作品というところは、乱歩賞らしい。”ひき”はもちろん探偵役の陶展文。中国人という出自に特色があるが、落ち着いた、ちゃんとした大人といった感じで、最近のミステリのようなキャラ立ちはなく、地に足のついたキャラだ。 ミステリとしては、手がかりをきっちり配置し名探偵が解くというところが、ちゃんとしていて、読み心地がよい。まあ、わかりやすすぎる感が、しなくもない。 作者が書きたかった部分は、動機を語る終章のように感じたが、これはホームズの長編のようで、古典的すぎる。なかなか社会派の動機だが、他のシーンと雰囲気が違いすぎで、違和感を感じた。 |
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