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[ 本格 ]
スミルノ博士の日記
レオ・カリング
S・A・ドゥーセ 出版月: 1963年01月 平均: 5.25点 書評数: 4件

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東都書房
1963年01月

No.4 7点 人並由真 2021/08/20 05:37
(ネタバレなし)
 1917年のスウェーデン。元弁護士で辣腕の私立探偵として名を馳せるレオ・カリングの友人である「ぼく」は、この親しい名探偵が扱った事件の記録を、一冊分まとめようと思う。そこでカリングが資料として提示したのは、高名な法医学者で細菌学者でもあるワルター・スミルノ博士が記した日記だった。「ぼく」は関心を抱き、1916年の2月に起きた殺人事件について語るスミルノの手記を読み始める。

 1917年のスウェーデン作品。
 現状で唯一の完訳のはずの東都書房の「世界推理小説大系」版(ドイツ語からの重訳ながら完訳)で読了。
 大昔にこの本は買ったはずだが、例によって家の中から見つからない。博文館の小酒井訳のボロボロの文庫本(数十年前に500円で買った)はすぐ出るが、どうせならやっぱり完訳の方で読みたいと思い、少し前にwebで手頃なのを探していたら、箱付き・元パラフィン付き、月報に登場人物名入りの栞付き、さらにスリップまで残っているデッドストックに近い美本が2000円で購入できた(嬉)。神様ありがとう、ぼくにスミルノ博士を会わせてくれて。

 というわけで半年ほど前に(改めて・汗)入手した本作を、ようやく読んだが……なんだ、巷の不評がウソのようにオモシロいでないの(笑)。少なくとも評者は、十分に楽しめた。

 いや確かに、(中略)に(中略)させるなよ、警察、とか、あとあとでそういうことが問題になるのなら、それはもっと早めに……とか、ツッコミどころはいくつかあるし、この大ネタを前提にするならやはり脇の甘い面もある。
 しかし何より、(中略)な意味で、この作品は成立するのかな? この時代から、ちゃんとそこまで気をつかっているのか? と懸案していたら、その辺はちゃんとクリアしていました。
 評価の基準をソコに置いちゃアマイでしょ、と言われればそうかもしれないけれど、評者的には結構な納得感です。
(なお、この作品の構造は、アレもさながら、さらにアレの方にも影響を与えたのでは……とも思ったけれど、英語に翻訳されたのは実はけっこう遅いんだよな。)

 ちなみにこの作品は、今後も日本での改訳・新訳が出たとしても(なんか20世紀の末に創元が新訳で出す気があったというウワサは、ネットで目にした)何の予備知識もない、素で読まれることは、もうなかなかありえないだろう。
 けれどそれでも、20世紀の頭に本国で初めて読んだミステリファンなら、かなりのサプライズは感じたんじゃないかとは思うよ。先に脇が甘い、叙述の詰めが甘い、と書いたけれど、一方で読者をこの着想で仰天させようという作者なりの演出は、ちゃんと図られているし。

 あと、予想以上に食えないレオ・カリングのキャラクター(終盤の芝居がかった外連味は、北欧作品とはいえ、いかにも黄金時代らしくていいなあ)もさながら、サブキャラの登場人物たちの、妙に人間臭い描写も味がある。
 スミルノの婚約者のお嬢様ヘレナ・スンドヘーゲンの某キャラへのイキな計らい(あれはポジティブな行為だよね)とか、最後であれもこれも(中略)する人物像とか、作者が作者なりに、劇中人物の駒の配置を楽しんでいる感触がある。
 
 繰り返すけれど、もし今後も新訳や復刊本が刊行されたとしても、アノ名作の影からはまず永遠に逃れられない作品だとは観測するが、ソレはソレとして、翻訳ミステリファンなら、いつかどっかのタイミングで読んでおいてもイイ一編だとは思います。
(まあそれはそのまま「誰でも面白い」「楽しめる」というのとは、決して同意ではないんだけれどね・汗)
   
【追記】「大系」版の宇野利泰訳に今さら文句を言っても仕方ないのだが、プロローグ部分に登場するカリングの名前が未詳の友人(作者ドゥーゼの分身か?)の一人称が「ぼく」。そしてスミルノの日記での一人称も「ぼく」。これはややこしいので、どっちかを「私」にするとか差別化して欲しかったなあ。当時の編集部の配慮不足を実感した。

【追記:2021年8月21日】
 本サイトのおっさん様の、この作者ドゥーゼの『生ける宝冠』のレビューを拝見するに、このカリングの友人「ぼく」というのは、新聞記者のトルネというレギュラーキャラのようですね。いま気づきました(汗)。おっさん様、ありがとうございます。そうですか……。『夜の冒険』の方を先に読んでおけば、良かったのですか。そっちも持ってたのに(涙)。

No.3 6点 nukkam 2014/09/10 11:14
(ネテバレなしです) 軍人で画家そして南極探検にも参加したことがあり、ミステリー作家としては私立探偵レオ・カリングのシリーズを書いたスウェーデン作家による1917年発表の本書(シリーズ第4作)は某作家の某有名作よりも早く某有名トリックを使ったミステリーとしてミステリー研究家やマニア読者間では有名です(但し本書よりも更に前にこのトリックを使った作品もあるそうです。まあこのトリックを本書で初めて知ったという読者はさすがにそうはいないと思いますが)。あまりにもお馬鹿な警官や大げさな感情表現には小説としての古さを感じるところもありますが、自動車や電話が登場するなど舞台描写は案外モダン(オースチン・フリーマンの「ダーブレイの秘密」(1926年)ではまだガス灯や馬車が描かれていますからね)。黄金時代以前の1910年代の本格派推理小説としては回りくどさが少なく、予想以上にプロットが引き締まっています。

No.2 3点 江守森江 2011/02/04 04:12
※今更読んでもしょうがないレベルな作品で、各所の推理評論等でもネタについては書かれているのでネタバレ配慮はしません。
当然ミステリとしてのネタは知っていたし、入手の困難さを考えるなら、わざわざ探し読む程ではないとの評判も知っていた。
昨今、日本でも翻訳ブームが到来しそうな北欧・スウェーデン作家だが、これは復刊されないだろう。
某サイトでの駄作認定に逆に興味をそそられアチコチの図書館検索で蔵書を見つけ出した(貸出不可で館内閲覧だけだが都立中央図書館には別の書籍で3冊ある)
広尾まで出向いて読んで来たがはっきり言って交通費(地下鉄運賃)の無駄だったかも?
これなら谷崎潤一郎やクリスティ「アクロイド」がオリジナル扱いされるのも納得(意外な犯人を設定しても怪しい行動をしまくる為に意外さが帳消し)
横溝正史が同種の技法を用いた作品では「アクロイド」より、こっちに影響を受けたらしいが何とも腑に落ちない。
入手困難だが、どうしても読みたい作品なら国会図書館や都立図書館まで出向けば何とかなりそうだと分かったのが本作で唯一の収穫だった。

No.1 5点 おっさん 2010/12/09 12:01
スウェーデンのコナン・ドイルと称され、1913年から29年にかけて、14本の長編ミステリを書いたS・A・ドゥーセの、四番目の作品にあたり、1917年に刊行されています。
実際に読んだ人は少なくても、ちょっとしたミステリ・ファンならタイトルは知っている、という一品。
ミステリ史上に残る、ある有名作品のトリックの前例だと言われているんですね。でも実際に読んでみると、その有名作品より、日本作家の別な長編に趣向が似ていたりします。
トリックのフェアな扱い方は特筆ものですが、残念ながら解決の仕方が下手。後半のストーリーがグダグダなんですよ。
マニアなら押さえておきたいタイトルですが、復刊が望まれる、とまでは言えないのが辛いところ。


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S・A・ドゥーセ
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