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弾十六さん
平均点: 6.13点 書評数: 459件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.18 6点 青銅ランプの呪- カーター・ディクスン 2022/03/06 12:34
1945年出版。創元文庫(1983年初版)で読了。翻訳は堅実に見えますが、細かく検討してみるとちょっと不安定な感じ。補っている言葉が多いのですが、ややピント外れに感じるところがありました。
JDC/CDお気に入りの作品。(なんかのインタビューだかで挙げていたんだっけか?) ある意味、意外性のある作品に仕上がっています。破天荒さが不足なので私はちょっと不満ですが、それでもなんだか満足しちゃいました。『欺かるるなかれ』と同様、出鱈目預言者への嫌悪感が著しい(あっしまった、「予言者」ね。田川建三先生に怒られちゃう… 高島俊雄さんならどっちでも同じだよ、と言うと思うけど)。私もこの手の予言や神や霊を利用した金の亡者どもは大嫌い。信じちゃう人がいるから悪いんだけどね。
当時の英国人の日常生活に根ざした事柄が手がかりの一つになっていますが、まあそこはちょっと補強されてるのでギリギリ合格でしょうか(下記p409参照)。
以下トリビア。
英国消費者物価指数基準1935/2022(75.78倍)で£1=11824円。米国消費者物価指数基準1935/2022(20.52倍)で$1=2340円。
作中現在はp10, p353から冒頭のシーンは1935年4月10日。(ただしp59に明白な矛盾あり)
p7 カイロのコンティネンタル-サボイ・ホテル(Continental-Savoy Hotel)♣️1860年代建設のThe Grand Continental Hotelのこと。
p7 十年前の…暖かな四月のある日の午後(on a brilliant warm April afternoon, ten years ago)
p10 一九三四年から一九三五年にかけて… 世界じゅうの目が集まっていた♣️ここら辺の記述を整理して推測すると、発掘事業は1933年10月に始まり、1934年5月までに数多くの財宝を発掘、1934年12月に教授が蠍に刺された、という流れ。作中現在は1935年4月だと思われる。
p15 あのくそいまいましいノエル・カワードの戯曲(a bloody Noel Coward play)
p27 五十ピアストル(Fifty piastres)♣️タクシー代、「もう少しで10シリング(nearly ten bob)」(p28)とH.M.は言っている。10シリング=5912円。当時(1935年)の為替レートで1ピアストル(1/100エジプト・ポンド)=$0.0502=£0.0102、50ピアストルなら£0.510=10.2シリング。翻訳は「ほぼ10シリング」が正しいのかな?
p31 イギリスの五ポンド紙幣(an English five-pound note)♣️当時の英国五ポンド紙幣は片面だけ印刷された白黒のWhite noteでサイズ211x133mm、卿にとってはやりがいのある大きさだったろう。両面が印刷された紙幣(最初のサイズは158x90mm)に変わるのは1957年から。
p33 雑誌<ラズル>(a copy of Razzle)♣️当時1シリングの英国アダルト雑誌のようだ。
p49 六万ドル
p57 ウォルポール… ラドクリフ夫人… “モンク”リュイス
p57 ジェーン・オースティンの書いたささやかな風刺小説(Miss Austen's gentle satire)♣️『ノーザンガー・アビー』のことだろう。昔はオースティンの作品大嫌い(『曲がった蝶番』)と書いてたJDC/CDだが、この作品は読んだようだ。ここは「上質なパロディ」という趣旨だろうか。
p59 四月二十七日木曜日(Thursday the twenty-seventh of April)♣️この日付と曜日なら1933年か1939年が該当。まあp10の記述があるので1935年としておこう。1935年4月27日は土曜日だが… なお、同時期には『一角獣』事件でH.M.はフランスにいたはず、という説がある。(詳細に検討していません)
p59 出入口には緑色の羅紗を貼ったドア(a green-baize door)
p61 登場人物の内なる声を表現するJDC/CDが良くやるこの手法は、原文でもカッコ付き。
p70 車体が長く… 重心が低いライリー(Riley)… クーペの一種(one of those coupes) ♣️12/6または14/6 Riley Ascotか。値段は350ポンド程度。
p78 soignée(ソワニエ)
p80 一万何千ドル
p114 セミラミス・ホテル(Semiramis Hotel)♣️架空のホテル名。A・E・W・メイスンの作品(1917)ならストランド街の超一流ホテルだったHotel Cecil(1896-1930)がモデル。メイスン好きのJDC/CDだから、きっと意識した採用だと思う(p129の描写もそれっぽい)。なおエジプト、カイロには同名のホテルが実在していた(1907-1976)。
p119 グロスターのベル・ホテル(The Bell at Gloucester)♣️実在の由緒あるcoaching innのことか。
p120 <幽霊の間>the Haunted Room
p129 そうぞうしくてむやみに明るいセミラミス・ホテルは、宵闇のテムズ河畔の街灯の列を見おろす位置にあった(The Semiramis Hotel, noisy and glaring, overlooking the lamps of the Embankment in the twilight)
p130 今日は木曜日♣️念を押しているので、曜日は間違っていないのだろう。じゃあ日付が違うのか?
p134 熱帯地用の白のディナー・ジャケット(a white tropical dinner-jacket)
p142 ゴシック・ロマンのコレクション… 『ユドルフォの秘密』(The Mysteries of Udolpho)… 『イギリスの老男爵』(The Old English Baron)… 『吸血鬼』(The Vampyre, a Tale by Lord Byron)
p151 それから三日後の四月十三日は日曜日だったが…(It was three days later, early on the morning of Sunday, April thirtieth)♣️翻訳者の勘違い。「4月30日」ですね。一瞬JDC/CDがまたやらかした!と思ってしまいました。次項p152(Sunday, April thirtieth)でも翻訳者は同じ過ちを繰り返しています。
p153 いつもの青いサージの制服のボタンをきっちり首のところまで止めていた(buttoned up in his usual blue serge)♣️マスターズ主席警部の服装だが「制服」とは思えない。「背広」のボタンをきっちりかけている、という意味では?
p157 そういうふうにはなりえんのじゃよ(It couldn't be right !)♣️翻訳が微妙。試訳「それが正解であるはずがないのじゃ!」まあどっちもどっちですね。
p174 たったひとつの難点は、そういうことは絶対に起こりえんということなのじゃ(The only trouble is, it won't work)♣️同上。試訳「たったひとつ難点がある。その手は効かんのじゃ」こちらは試訳の方がずっと良いと思います…
p174 H・Mの車♣️車種不明。
p192 品のない声(rather a common voice)
p207 サイズは4くらい(size about fours)♣️英国レディース靴サイズ4は日本サイズ22.5cm相当。
p219 オードリーのおチビさん(Little Audrey)♣️ここには関係が無いかも知れないが、Little Audreyは第一次大戦時ごろに遡る残酷なジョークの主人公。酷い事件が起きてもオチはBut Li'l Audrey just laughed and laughed。英Wiki “Little Audrey”参照。
p240 赤のベントレー(the red Bentley)
p244 サマーセット地方の訛り… “故障”が“ごしょう”に(in the speech of Somerset, 'order’ becomes 'arder')♣️英Wiki “West Country English”参照。
p245 赤いベントレーのふたり乗りの車… ラジエーターのキャップにマーキュリーの彫像(a red Bentley two-seater… with a Mercury figure on the radiator cap)♣️Bentley 3½ Litreだろう。値段は最低でも1400ポンド以上らしい。ベントレーのマスコット Flying B は1933年以降 Charles Sykesデザインの二代目に変わった。(初代はF. Gordon Crosbyデザインのようだ)
p253 レインコートとトップコートが組み合わせになった形(a combination raincoat and topcoat)♣️レインコート兼用のオーバーコート、という意味か。
p261 いったいあの男に何が起こった(What happened to this bounder?)♣️bounderは軽蔑的に「奴」という意味らしい。誰のことを指している? 試訳「いったい彼奴に何が起こった」
p261 そして、わしが仮にあれを証明できたとしても、それではたしてすべてが解決するか?(And will it upset the whole apple-cart if I show…)♣️ここも微妙だなあ。試訳「これは全てをひっくり返す事になるのか?もしわしの考えが…」
p276 一撃を加えるためにまっしぐらに前進(headin' for a smash)
p301 ここ、物音のとだえしところ… (Here, where the world is quiet,/Here, where all trouble seems/Dead winds and spent waves riot./In doubtful dreams of dreams)♣️この詩はAlgernon Charles Swinburne作 “The Garden of Proserpine”(1866)から。続く詩も同じ出典。
p343 先生(Maestro)
p353 四月十一日(eleventh of April)♣️この日は冒頭の場面の翌日(p24)、したがって冒頭の場面は4月10日となる。
p401 ここはアンフェア
p409 ここも微妙にアンフェアだなあ。この頁最初のはまあ良いとして、二番目のは前振りが全然無いからねえ。
p411 なんなら、五ポンドかけてもいい(Yes, for a fiver !)♣️賭博好きの英国人。

No.17 6点 爬虫類館の殺人- カーター・ディクスン 2022/01/05 23:46
1944年出版。H.M.卿#15。創元文庫(1972、6版)で読了。
いがみあう男女コンビはJDC/CDお得意の進行。H.M.のドタバタ劇もお馴染み。余計な枝葉を取り払ったシンプルな話に仕上がっています。楽しいながらも傑作には至らない出来ですね。ダグラスグリーンのJDC伝には、あのキャラがJDCの××のイメージだ、とあってちょっとびっくり。
以下トリビア。
作中年代は冒頭に1940年9月6日(p9)と明記。
p6 ロイヤル・アルバート動物園(the Royal Albert Zoological Gardens)… ケンジントン公園のロイヤル・アルバート(Royal Albert, Kensington Gardens)◆いろいろ調べたが架空の動物園。実在のLondon Zoo(Regent's Park)は1828年開園、爬虫類館は1927年開館。
p9 空襲◆ドイツ軍は1940-9-7から57日間連続でロンドン空襲を実行した。
p14 半クラウン銀貨(half-a-crown)◆当時はジョージ六世の肖像、1937-1947のものは.500 Silver, 14.15g, 直径32mm。英国消費者物価指数基準1940/2022(59.65倍)で£1=9307円。半クラウン=2s.6d.=1163円。
p38 真空掃除機(a vacuum-cleaner)◆電化世帯(Wngland & Wales)でのいろいろな家事家電の普及率(1939)をみつけた。真空掃除機は30%、electric cloth “wash boilers”(洗濯機; お湯で汚れを落とす式?)は3.6%、電気湯沸かし(electric water heater)は6.3%、電気冷蔵庫は2.3%、電気調理器(electric cookers、電熱線式?)は16.8%とのこと。真空掃除機の値段は、1938年で高級品£20、普及品£10、安ものが£3〜4程度で、家事労働の低減効果が顕著(掃除婦は時間10ペンス。普及品で240時間分、週6時間なら約9か月で元が取れる)で、訪問販売の成功により普及率が高かったようだ。“Managing Door-to-Door Sales of Vacuum Cleaners in Interwar Britain” (P. Scott 2008)より。
p42 セント・トマス・ホール(St. Thomas's Hall)◆架空の劇場名。
p49 面会謝絶(do not disturb)
p57 紙マッチ… 勘ちがいしてパイプでこすった(paper packet of matches …. he juggled it along with the pipe)◆パイプを持った手に危なっかしくブックマッチを持った、ということなのでは?そこから空いた手でマッチを取り、ブックマッチのヤスリ部で火を付ける手順。
p63 連発ピストル(revolver)じゃない… 自動ピストルだ(automatic)
p64 安全装置(safety-catch)
p72 これは1940年の九月初めの出来事だったので、タクシーをつかまえることができた(a taxi…. since these events took place in the early September of nineteen-forty, he got one)
p73 ベイズウォーター・ロード(Bayswater Road)◆ケンジントン公園の北西角。そこら辺に「ロイヤル・アルバート動物園」がある、という設定。
p75 過去にH.M.が扱った事件がずらずらと。原文だけ示しておきます。
“There's the Stanhope case," continued Carey, "and the Constable case, and the deaths in the poisoned room, and the studio mystery at Pineham. There's Answell and the Judas window, there's Haye and the five boxes. As for the Fane case at Cheltenham…” 各タイトルを略号で示すとTGM、RIW、TRWM、ASTM、『ユダの窓』、DIFB、SIBですね。一応ボカシました。
p89 錠前開けの七つ道具(lock-picks)
p108 マスターズ大警部(Chief Inspector Masters)◆「主席警部」が普通かな?
p109 リジェンツ・パークとかホイップスネイドのような本式の動物園(Regent's Park or Whipsnade)◆Whipsnade Zoo, formerly known as “Whipsnade Wild Animal Park”、英国最大の動物園。1931年開園。
p127 貨物自動車(a lorry)◆トラックと同意だが、英国表現のようだ。
p127 ギルトスパー街(Giltspur Street)◆動物園から7kmほどの距離。
p128 バート病院(Bart's Hospital)◆St Bartholomew's Hospital
p154 ペッパーの幽霊(Pepper's Ghost)◆奇術のタネ。Wiki “ペッパーズ・ゴースト”として項目あり。1862年初公開。
p157 洗濯屋… シャツからボタンを丹念にちぎりとり(laundries … carefully tear all the buttons off your shirt)
p158 三二口径のコルト(a Colt .32)◆自動拳銃。一般にColt .32 Autoの名で知られるColt Model 1903 Pocket Hammerlessだろう。マガジンには8発入る。
p289 ソーセージの中のコーンミール(the corn-meal in the sausage)

No.16 8点 貴婦人として死す- カーター・ディクスン 2021/11/14 11:35
1943年出版。H・M卿第14作。昔のハヤカワ文庫で読了。銃関係の誤訳が多くて、創元新訳と比べたくなりました。なので、トリビアは銃関係の誤訳についてだけ書きます。他にも当時の英国について結構たくさんネタがあるのですが、それは創元新訳を読んだ後のお楽しみ、としましょう。
作品としては、皆さんがおっしゃる通り、強烈な謎と素晴らしい解決及び読後感良しで文句なしの傑作。これ以上、言うべきことはありません。まあH.M.のドタバタは全然趣味に合わないんですけど…
あっ、思い出した。本作で、本文には一切出てこないのですが、警察がパラフィン ・テストを行なっていることは確実。残渣が洗い流された、という可能性を全く考慮していないので、毛穴の奥まで調査出来るパラフィン ・テストなのだろう、と思います。文中(p80)では「燃焼しきらない火薬がはねかえって、手にあとがのこる(unburnt powder-grains that get embedded in your hand)」と書かれています。昔、人並由真さんが問題提起した英国でのパラフィン ・テスト使用のかなり早い例ですね!(作中年代は1940年7月)
さて以下は本題の銃関係の誤訳。
p77 a型32口径(a .32 bullet)♠️勘違いは仕方ないが編集は何をしてたの?aは不定冠詞。
p78 a32口径のブラウニング自動拳銃(a .32 Browning automatic)♠️同上。連続3回も繰り返されてるんだから気付いて欲しい。お馴染みFMモデル1910。
p80 このピストルにかぎって…まあなかにはないこともありませんが…逆発することがはっきりしている(But this particular gun has got a distinct “back-fire”, as some of them have)♠️「逆発」って用語は英和辞書には載ってるが、普通使わない。ピストルは構造上、発火時の高圧ガスが後方に若干漏れるものだが、個体によっても多少の違いはある。問題の銃は、特にガス噴出が多いのだろう。試訳: 特にこの拳銃は、この形式だと結構あるのですが、目立って「後方噴射」を出すのです。(ここは「誤訳」ではなく、ニュアンス違い)
p124 からの薬莢は発射しただけじゃ弾倉からとび出しはせん。止め金を上右へ動かすととび出す(Spent shells don’t just roll out of the magazine when they’re fired. They’re thrown out with a snap, high and to the right)♠️自動拳銃の場合、発射後直ちに自動で薬莢を排出しなければ、タマ詰まりを起こしてしまう。リボルバーなら何らかの仕掛けを手動で排莢するが… (後の方、結構重要な場面で、正しく訳しているのに関連性に気づいていない!) 試訳: 薬莢は、発射後、弾倉からただ転がり出るのではない。勢いよく高く右に向かって排出される。
後の方(p261)で、正しく訳してる部分は「自動拳銃は薬莢を高く右手へはねとばす(An automatic pistol ejects its cartridge-cases high and to the right)」
(ここまで2021-11-14)
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(以下2021-11-20)
創元文庫を入手しました。山口雅也さんの「結カー問答」が付録。JDC/CDファンなら、まあそうだねえ、という内容で、オドロキの知見は残念ながら無い。初代と二代目には全然敵いません。(トンプソン・サブマシンガンについての記述が、ガンマニアとしてちょっと気になりました。タトエとしてピンと来ないのですが…)
さて、お預けとなっていた銃関係の誤訳以外のネタです。もちろん創元では「a型32口径」なんて珍発明はない。上記の誤訳はもちろん正しく訳されているが、ちょっとイチャモン。まずp80早川/p80創元の「逆発」は共通して使っていて残念。創元「燃焼しきらなかった火薬が逆発し、手にめり込んであとがのこる(a back-fire of unburnt powder-grains that get embedded in your hand)」は「燃焼しなかった火薬が後方噴射で手にめり込む」としたいなあ。p124早川/p124創元の創元「高く右後方へ(high and to the right)」も「後」の付加が気に入らない。動画を見ると「若干後方」ですが… (どちらも細かくてすんません)
気を取り直して、まずは作中年代から。
創元では、日付を訳者が勝手に直しています(p22創元/p20早川)。原文はSaturday, the thirtieth of June、ここを創元では「6月29日土曜日」、1940年(これは何度も本文中に明記)の曜日に基づき日付を補正。ここは早川「6月30日土曜日」のように放って置いて欲しかったところです(曜日間違いの可能性もあるし『猫と鼠の殺人』のように著者の誤りから正しい日付がわかる場合もある。ゴルフ格言「あるがまま」を翻訳者の皆さまにもお願いしたい)。
この日付の「ひと月後」(So I waited for over a month)p26創元/p23早川、の土曜日に事件は発生したのです。その二日後が、Monday night in July(p158創元「七月の晩」/p160早川「六月の月曜日の晩」何故ここを間違う?)、ということは1940年7月最後の月曜日の前の土曜日が事件日である可能性が非常に高い。該当は1940年7月27日土曜日です。
でも史実を調べると、米国政府(当時はまだ参戦していない)が欧州から最後に米国人を避難させたのはSS Washingtonで、これは合ってるんですが、時期は1940年6月(イタリア参戦のため)。ジェノヴァ、リスボン、ボルドーなどをまわり、ゴールウェイ出発は6月12日、ニューヨークに到着したのは6月21日です(英Wiki)。残念ですがJDC/CDの記憶違いなのでしょう。
続いてタイトルについて。
“died a lady”は普通の言い方なのか、どういうニュアンスなのか、WEB検索しても本書の例しか出てこない、ということは、かなり珍しい表現なのでしょうか?似た例で”Born a Dog, Died a Gentleman”というのを見つけましたが、愛犬が実に紳士だった、という意味の墓碑名のようです。本文中ではJuliet died a lady(早川「ジュリエットは操を立てて死にました」、創元「ジュリエットは貴婦人として世を去りました」)。何か文学作品からの引用か、と思ったのですが、見当たりません。私は昔からずっと、主人公の女のどこがladyなのかわからなくて、今回再読後も全然腑に落ちません。
以下トリビア。ページ数と訳は早川文庫のもの。全体的に創元の翻訳が良い。早川の翻訳は仕上げがちょっと雑な感じです。
p6 北デヴォン海岸(North Devon coast)… リンマス(Lynmouth)… 索条鉄道(funicular)… リントン(Lynton)… エクスムーア(Exmoor)♠️いずれも実在。この辺りにリン川(East LynとWest Lyn)が流れている。リンコウム(Lyncombe)、リンブリッジ(Lynbridge)は架空地名のようだ。
p8 「わが軍は交戦中(We are at war)」♠️まだ独・英間では実際の交戦をしていない時期。ここは戦争が始まったよ!という切迫感あるニュースの場面。創元「我が国は交戦状態に突入しました」の方がまだ良いが「交戦」は気になる。試訳: 我が国は戦争となりました。
p8 この前の靴をはいていたころ(while I was in the last one)♠️ 創元でも「一つ前の靴を履いていた時」と訳してる。直前の文に靴が出てくるが、ここは靴だと変でしょう?試訳: 前の大戦に従軍していたとき
p8 <世界中で女がお前だけだったら(If You Were the Only Girl in the World)>♠️詞Nat D. Ayer、曲Clifford Greyのヒット曲。ミュージカル・レビュー”The Bing Boys Are Here”(1916-4-19初演Alhambra Theatre, London)のために作られた。某TubeでBuffalo BillsとPerry Comoのとても楽しいヤツを見つけたので是非。
p8 馬車馬亭(Coach and Horses)♠️普通に「大型四輪馬車と馬(複数)」で馬車一式の意味だが、創元「トテ馬車亭」ってなんのこと?詳細はWebで。ちょっとトビ過ぎの訳語。
p8 S・S・ジャガー(S.S.Jaguar)♠️高級スポーツカー。当時ならSS Jaguar 100(製造1936-1939)か。オープン2シーター(米語ロードスター)でえらくカッコ良い。
p11 <岩の谷>ヴァリー・オブ・ロックス(Valley of Rocks)♠️創元の割注で実在の景勝ポイントだと知った。Lynton Valley of Rocksでググると素敵な画像がいっぱい。情景のイメージ作りに役立つ。
p11 踊り人形みたいな真似(play the jumping-jack)♠️創元「ぴょんぴょん跳び回る真似」
p13 女の畜生(the damned woman)♠️創元「あのいかれた女」
p14 弁護士の言うねんごろ(the lawyers call intimacy)♠️お堅く訳して欲しい。創元「弁護士だったら『親密な関係』と」
p22 トムスンとバイウォーターズ… ラントンベリーとストーナー(Thompson and Bywaters… Rattenbury and Stoner)♠️創元は丁寧に注付きでわかりやすい。
p29 タイプ印刷の店(manages a typewriting bureau)♠️創元「事務所を構え、タイピストを雇って」
p51 ティッシュ・ペーパーで覆いをした懐中電灯(an electric torch, hooded in tissue-paper)♠️灯火管制時のやり方。敵になるべく光を見せないようにする、という用心。創元「薄紙の笠をかぶせた懐中電灯」
p64 新式のスピットファイア(a new Spitfire)♠️1940年8月から配備のMk.II(タイプ329)のことか。当時話題になっていたのかも。
p69 片目は義眼(with one glass eye)♠️戦傷なのかも。
p75 靴のサイズ♠️創元では丁寧に割注でサイズ換算している。
p79 硬質ゴムを張ったにぎりのほかはピカピカにみがいた鋼鉄(bright polished steel except for the hard-rubber grip)♠️グリップは黒いが、銃本体は銀色の仕上げ。銃本体が黒スティールだったら、夜に見つからないはずだが、銀色なのでピカリと光って見えた、ということだろう。試訳: 硬質ゴムのグリップ以外はスティールの磨いた銀色で。創元「樹脂をかぶせた握りのほかはぴかぴかに磨かれたスティール製」ハードラバーは天然樹脂でエボナイトのこと。樹脂には人工樹脂もあるので「硬質ゴム」が良い。
p95 ディズニーの漫画に出てくる竜(a dragon in a Disney film)♠️The Reluctant Dragon のUK初公開は1941-9-19(米国1941-1-2)。この文章は1940年11月に書かれたことになっている(p160)ので、JDCの時代錯誤だろう(このアニメじゃない可能性もあるが)。ところでJDCはこのアニメを見たんだろうか?
p107 弾薬… 鉄砲所持許可証♠️ここら辺、ガンマニアとしては興味深い。当時英国で弾丸を買うにはfirearms licenceを店に提示する必要があったのだが、戦争になってそのルールは形骸化されていたらしい。
p108 ピストルの革袋をベルトごと(holster-belts)♠️創元「ベルトごと拳銃のホルスターを」、ここら辺も興味深い。軍人がクラブやレストランや劇場で無造作にホルスター・ベルトをクロークに預けて平気、という情景。将校の拳銃は自弁で、型や口径は好きに選べたようだ(こうすると弾丸の種類が増えて補給に困ることになるんだが…)
p112 土曜日の晩にブリッジやハートを(playing bridge or hearts on Saturday night)♠️ハーツがブリッジと並んで記されている。1939年ごろ米国や英国でルール追加があり、Black LadyとかBlack Mariaと呼ばれたようだ。(英Wiki “Hearts (card game)”)
p123 過去の事件への言及。題名を書かなければネタバレにならない?原文を書いておきましょう。(I’ve seen a feller who was dead, and yet who wasn’t dead. I’ve seen a man make two different sets of finger-prints with the same hands. I’ve seen a poisoner get atropine into a clean glass that nobody touched)
p123 事件の顛末を話してみせる(It would just round out my cycle)♠️創元「わし流のサイクルヒットを達成できる」英国人だし、唐突に野球用語が出てくるかなあ。cycle of legend and saga と解釈して「わしの伝説を完成させるのにちょうど良い」くらいか。
p128 チップにやる銀貨をさぐったが、十シリング札しかない(for silver as a largesse; but he could find only a ten-shilling note)♠️次の文中の十シリングはten bob。戦時中の硬貨不足を表現している?当時の英国銀行10シリング札はEmergency wartime issue(1940-4-2から)でサイズ138x78mm。デザインはSeries A(1928-11-22から)と同じで印刷が赤色から藤色に変わっただけ。なお英国財務省発行10シリング札(1914から)は1933年に通貨使用終了となっている。英国消費者物価指数基準1940/2021(58.79倍)で£1=9173円。10シリングは4586円。
p128 ローマ人がキリスト教徒たちを火あぶりにしたりする教育映画… 女の子たちは着物を着てない…(Tis a educational film, about the Romans that burnt Christians to a stake and all. And the girls ’adn’t got no clothes on)♠️ 「クオ・ヴァディス」だと思われる(p182)。監督Enrico GuazzoniのQuo Vadis(伊Cines 1913)だろうか? 期待して某Tubeで見たけど女性はちゃんと着物を着てた… ここは映画を見る前のセリフなので、宣伝ポスターがワザと色っぽい情景を描いてたという事か。
p142 パッカードのオープンで、うしろに大きな補助席(a Packard roadster with a big rumble-seat)♠️ 「七、八百ポンドもする(p151)」ようだ。創元「パッカードのオープンカーで二人乗りなんだけど、後ろにランブルシートがある」丁寧な翻訳だが「大きな」も重要ポイントなので入れて欲しい。1939 Packard V-12 Roadster rumble-seatで大きな二人用ランブルシートがある素敵なのが見られる。
p197 五、六千ポンド
p160 一九四◯年の夏までは物資もかなり潤沢(Up to the summer of 1940, there was a reasonable plenitude of everything)
p181 二百ポンドもする椅子車
p183 『ポーリンの冒険』第三話(like the third episode of the Perils of Pauline)♠️The Perils of Pauline (1914)全20巻の冒険活劇。主演Pearl White、第3話はOLD SAILOR'S STORY (私は未見だが、こういうの淀長さんがお好きでしたね)
p196 ジョーゼフ・マクロードやアルヴァー・リデル(Joseph Macleod or Alvar Liddell)♠️いずれもBBCのニュースアナウンサー。「大陸にいる(in the land)」ではなく「地上で(聞こえたら)」という意味だろう。創元では丁寧な訳注あり。
p246 「虹のかなたに」(Over the Rainbow)♠️映画『オズの魔法使い』の英国公開は1940年1月(米国公開1939年8月)、レコードはDECCAから1940年3月リリース。“We were all whistling Over the Rainbow in that summer, perhaps the most tragic summer in our history.” 本書の記述からこの曲はジュディの素晴らしい歌声だけじゃなく、当時の人の平和への切実な願いをすくいとってヒットしたのだな、と判る。創元は「虹の彼方に」この表記が日本語での定番のようだ。
p246 モーリス式安楽椅子(Morris chair)♠️デザインの源流は、ウィリアム・モリスの会社が1866年に販売したもの。創元「モリス式安楽椅子」
p247 オーヴァルタイン(Ovaltine)♠️スイス1904発祥(Ovomaltine)、英国1909、米国1915から。ミロみたいな麦芽飲料らしい。日本でもカルピスが「オバルチン」として1977年から販売(80年代に終了か)。創元「オーヴァルティーン」(私は長音はなるべく省きたい派です…)

No.15 6点 仮面荘の怪事件- カーター・ディクスン 2021/05/12 03:28
1942出版。創元文庫で読了。原題はThe Gilded Man「金ピカの男」というような訳が適当か。HPB「神像」はちょっとズレちゃう気がする。
フェル博士ものの短篇『軽率だった野盗』(A Guest in the House, 初出The Strand 1940-10, 創元『カー短編集2』収録)を長篇に仕立て直したもの。比較はネタバレになるので止めておこう。
私には意外なボーナスがあった大ネタ。HMのドタバタも上手に物語に嵌っているが、主人公が間抜けに思えるので全体の印象はそんなに良くない。ミステリ的なアイディアは結構良い。
結末を読んでJDC/CDのコンプレックスがわかったような気がする。ネタバレになるのでボカすが、重要なキャラへの言及が無いのだ。ということはJDCにはそのキャラが非常に身につまされるのだろうか… とりあえずJDCの諸作品からは、ある種の劣等感を感じる、とだけ言っておこう(まあ私の読みは薄っぺらいので全然合っていないとも思います)。
以下、トリビア。原文は入手できず。(2021-8-14追記: 原文を入手した。以下、追記箇所は{8/14★}で表記)
作中年代は冒頭付近に明記。1939年(p28)を迎える直前の木曜(p32)深夜なので1938年12月29日から始まる物語。
貨幣換算は英国消費者物価指数基準1939/2021(67.05倍)で£1=9429円。
p9 女優フレヴィア・ヴェナー(Flavia Venner)… <サロメ>上演中に急死… <サロメ>は彼女のために特に書かれた劇で… 作者は——[彼女は]ヴィクトリア時代のある詩人の名をあげた♣️モデルはSarah Bernhardt(1844-1923)とOscar Wilde(1854-1900)だとバレバレだが、何故か匿名。意外なことにサラ・ヴェルナールによるSalomé(初出1891)の上演は行われていないようだ。
p38 郵便屋ゲーム♣️英Wikiに項目があるPost office (game)か。別名Postman’s knockという若い男女のグループでやる他愛もないキスごっこ。米国では1880年代から流行していたようだ。{8/14★}原文はPostman’s knock
p43 クリケットの速球投手♣️fast bowler。残念ながら、これ以上のクリケットねたは言及されず。JDCは米国生まれなのであまり興味がなかったのだろう。
p49 エル・グレコ…この絵を<池>と命名♣️この画家でこの主題の作品は見当たらず。架空のものか。少し後(p147, p169)にこの絵の詳細な描写がある。{8/14★}原文はThe Pool、もちろん、この英名を持つEl Grecoの絵は存在しない。
p59 ヴェラスケスの<チャールズ四世>… ムリリョの黒ずんだ<ゴルゴダの丘>… ゴヤの<若い魔女>♣️ベラスケスの時代ならフェリペ四世(スペイン王カルロス四世はゴヤの時代)だろうし、ムリーリョの磔刑図も無さそう(全作品を確認していないが…)。ゴヤなら若い魔女の主題はありそうだが。{8/14★}原文はそれぞれVelasquez's Charles IV, … Murillo's smoky Calvary…. Goya's The Young Witch。
p69 ラッフルズかアルセーヌ・ルパン以上の大犯罪者♣️英国らしくラッフルズが先。
p88 十万ポンドを楽に超える♣️短篇では三枚の絵(レンブラント2枚とヴァン ダイク1枚)の価値は「3万ポンド(2億2千万円)」だった。
p88 ミュンヘン協定以来世情が不安定になって、絵は市場にだぶついている
p99 ニッケルの小さな懐中電灯♣️1920年代には単四電池二本を縦に使用するflashlightがあったようだ。(WebサイトFlashlight Museum参照)
p105 カーター・パタスン社♣️Carter Paterson (CP) は英国の運送会社。1860年創業、元はCarter, Paterson & Co., Ltd.だったが、1933年に英国鉄道四大会社(Big Four)が当分の持ち分で支配下に置くことになった。
p116 ダグラス・フェアバンクス♣️Douglas Fairbanks(1883-1939) サイレント映画時代の活劇スター。代表作はThe Mark of Zorro(1920), Robin Hood(1922), The Thief of Bagdad(1924)
p136 バガテル♣️Bagatelle。ピンボールの祖先のような室内テーブル・ゲーム。
p137 一ポンド札♣️当時の札はSeries A(1st issue)と呼ばれるもの(1928-1962流通)。表が左にブリタニカの正面座像、裏が龍を仕留める馬上の聖ジョージ(左右とも同じ)のデザイン。緑色、サイズ151×85mm。
p138 ランズ・エンドからジョン・オ・グローツまで♣️ Land's End to John o' Groats。英国本島の南西端から北東端まで。
p150 フレッド・ペリー♣️Fred Perry(1909-1995) 英国の「テニスの神様」
p150 ラクロッス♣️Lacrosse。今は「ラクロス」が定訳。国会図書館デジタルコレクションに『ラクロッス術・クロッケー術』高見沢宗蔵, 鳥飼英次郎 著(明治35年10月)があった。
p150 ペロータ♣️Basque pelotaとしてWikiに項目のあるゲームの事か。スカッシュ系の壁打ち対戦の球技のようだ。
p150 スピット・イン・ジ・オーシャン♣️Spit in the Ocean。ポーカーの変種の一つのようだ。某Tubeにやり方動画が色々あるが、ここで言ってる当時のイメージと同じものかどうかは不明。
p152 W・G・グレース♣️William Gilbert Grace(1848-1915) クリケット界の大スター。右投げ右打ち。打者、投手、野手の全てに傑出していた。野球で例えるとベーブ・ルースや長嶋茂雄クラスの誰でも知ってる選手だろうか。
p181 ウィーダ♣️Ouida(1839-1908)、本名Marie Louise de la Ramée。代表作は映画化されたUnder Two Flags(1867)、A Dog of Flanders(1872) 日本では非常に有名。
p181 マリー・コレリ♣️Marie Corelli(1855-1924) 売上では同世代のドイル、ウエルズ、キプリングを凌いだ、という。代表作Vendetta!(1886)は涙香により翻案(白髪鬼 1893)され、乱歩の同題小説(1931)の元ネタになった。
p186 チャーリー・ピース… 犯罪の芸術家で、詩人で、ヴァイオリンの名手♣️Charles Peace(1832-1879) その生涯は演劇、小説、映画のネタになったが、それは事実を大幅に脚色したものだった。
p190 ブローディー助祭♣️William Brodie(1741-1788)、エジンバラの押し込み強盗。家具職人組合の長だったためDeacon Brodieの名で知られている(「助祭」ではない)。
p198 エッチング♣️Want to come up and see my etchings?という古いセリフ(男が女を自室に誘う)があって、HitchcockのBlackmail(1929)が初出か。殺されたプレイボーイの建築家Stanford White(1853-1906)が良く使っていた文句、という家族の証言があるらしい。
p202 エドワード・バーン・ジョーンズ卿♣️Sir Edward Coley Burne-Jones, 1st Baronet(1833-1898)、ラファエル前派のデザイナー。サラ・ベルナールの肖像画(制作年不明)あり。
p204 チェスタトン流に逆の方向から♣️JDCが崇めた作家だが、小説中の言及は珍しいかも。{8/14★}原文はthe Chestertonian principle of looking in the wrong direction。
p207 サザビーの特許♣️調べつかず。{8/14★}原文はThe Southerby Patent、やはり調べつかず。
p220 トミー・ファーがジョー・ルイスをノックアウト♣️ウェールズ出身の全英ヘビー級チャンピオンTommy Farr(1913-1986)が、1937-8-30にニューヨークのヤンキースタジアムで世界ヘビー級王座Joe Louis(1914-1981)と闘い15回判定負け(微妙な判定だった)試合の不満が英国人には残っている、という事だろう。
p235 かつて、とても有名だった推理小説中の人物の名前{8/14★}原文はthe name of a character once very famous in fiction、ここは原文通り「ある小説中の」とすべきところだろう。
p240 モンマルトルの<地獄(ヘル)>という馬鹿げた見世物♣️19世紀末Paris(No. 53 Boulevard de Clichy)のCabaret de L'Enfer(1892-1950)のことか。英Wikiに項目あり。{8/14★}原文はa silly exhibition in Montmartre, called Hell。
p249 九ペンス貨幣くらいの[大きさ]♣️当時英国で9ペンス貨幣は存在しないが、イングランドでは約9ペンスの値打ちしかなかった16世紀アイルランドの 1 シリング硬貨(サイズ約33mm)、のことか。米国ニューイングランドでは古いスペインのレアル硬貨のこと(12.5セント相当、サイズ38mm)とも。{8/14★}原文はcop a ninepenny one、ninepennyは「くぎの長さ」で7cmほど、と辞書にあった。
p251 ユダヤの喜劇役者の二人組♣️何のイメージか調べつかず。{8/14★}原文はlike a pair of Hebrew comedians、この表現では情報不足だが、Wikiで調べると当時のユダヤ系コメディアン二人組が二組ほど見つかった。
p252 イザドラ・ダンカン♣️Isadora Duncan(1977-1927)、米国モダンダンスの祖。
p267 ベートーヴェンのコンサート
p268 サイン帳♣️英wikiにAutograph bookとして項目あり。ドイツ16世紀中ごろに源流があり、18世紀末に米国に拡がったらしい。{8/14★}原文はsign my autograph book。
p276 三千ポンド
p296 フェニモア・クーパー

No.14 4点 殺人者と恐喝者- カーター・ディクスン 2020/11/25 00:35
JDC/CDファン評価★★★☆☆
1941年出版。創元文庫の新訳(2014)で読了。
完全にこれはダメ。事前の知識は全く無く読んだのだが、冒頭から凄く良くて第5章までは素晴らしいシチュエーションの一言。でも良すぎて、着地が心配になった。大傑作なら幻の作品にならないよね… それで読むのを辞めて幻の未読傑作としてしまおうか、と思ったくらい。JDC/CDの台無しっぷりを今まで何度も経験してるからね。
まーでもJDC/CDの駄目加減っていうのも憎めないので読んじゃいましたよ。そして第20章でふざけんな!まーよくも… ああいう手しかないならともかく、作者の腕ならあんな風な小細工は不要でしょうが! 魔がさしたのか、戦争でどうでも良くなったのか? 次作『嗅ぎタバコ入れ』(1942)では随分と工夫されてるから、バウチャーの罵倒も結果オーライだろう。
もう一つの方は、いかにもJDC/CDらしい脱力系。ハハハと笑うしかない。
全体的に楽しめたけど、JDC/CDに馴染んでいなけりゃ怒るよねえ。
ところでもう一つ気になったのは、登場人物の心理描写。これすごい事件な訳ですよ、当事者にとっては。でもこころのうちを全く書けない。書くと犯人がわかっちゃうから。探偵小説って、こーゆー場合、とても不便だなあ、とつくづく感じた。(主要登場人物の心理サスペンスものとして書き直して欲しいなあ。)
さて物語の舞台は戦前(1938)、ドイツ軍のロンドン空襲は1940年9月からだから、結構大変な時期の執筆だったのだろう。H.M.も過去を懐かしんでるくらいだ(死に直面すると昔を想うよね)。少年時代のアレコレは作者の実体験というより理想像だろう。JDC/CDって自分をヤンチャ者に見せたい痛痛さがあると常々感じています…
トリビアは後で完成させます。原文未入手。
銃はウェブリー38口径リヴォルバーが登場。表紙の絵でもカッコ良く描かれているが「象牙の握り以外は磨き抜かれた黒い金属製」のはずなのに絵では木製グリップに見えるのがちょっと気になる(←あんただけ!)。象牙グリップは軍用ではないと思われるが、当時Webley Mk IV拳銃はEnfield No.2拳銃に軍制定拳銃の座を奪われていて、民間用に販路を拡大していたようだ。その後Enfieldはパクリだとしてウェブリー社が英国政府を訴えることに。この銃の弾丸は38/200弾として知られる(床井さんの『弾薬事典』では「.380ブリティッシュ・サービス弾」)がダムダム弾違反を避けるため、軍用としては1938年6月以降、弾頭が鉛からフルメタルに変更されている。
p7 レーヨン
p8 縫い取り♣️当時は名前を衣類などに縫い付けるのが一般的か。よくこういう描写があるよね。
p9 一ポンド♣️ 英国消費者物価指数基準1938/2020(67.75倍)£1=8952円。
p12 ブリストルのコルストン・ホールでベニャミーノ・ジーリが歌う♣️ジーリには1937年5月、1938年2月&6月、1939年5〜6月にロンドン録音が残っている(NAXOSで聴ける)。Webで探すとColston Hall, Beniamino Gigli recital 1952-4-20という記録があった。1938年7月15日コンサートの実在は調べつかず。
p20 八月二十三日水曜日
p24 凶運の影は…
p26 晩餐を二度続けて?
p27 精神分析医(サイカアトリスト)
p31『君が眼にて酒を汲めよ』♣️「訳注 イングランド民謡」
p32 離婚にはXの同意が必要だ
p34 晩餐時の正装の決まり
p38 アヒルの鳴き真似♣️出し物としてポピュラーだったのか?(p27でも同様の描写)
p39 ジェスチャーゲーム♣️回答者は一旦ホールに出て皆が打ち合わせるのを待つのだろう
p49 真新しい1シリング硬貨♣️=448円。当時のOne shilling銀貨はジョージ6世の肖像(1937-1947) .500 Silver、重さ5.6g、直径23mm。
<未完>

No.13 4点 弓弦城殺人事件- カーター・ディクスン 2020/02/04 01:09
1933年出版。ハヤカワ文庫で読了。
探偵役のジョン・ゴーントってJohn of Gaunt(1340-1399)と関係あり? JDC/CDの背の高い痩せ型の探偵役は長続きしませんね。建物の図面がないので何が起こってるんだかさっぱりわからない物語。p117で探偵自身が「この家の略図を書いてくれ」と言ってます。ということはオリジナル版には図面があったのか。全体的に中途半端な印象。謎に魅力が無いし、サスペンスも無い。頭のオカシイ城の主人の造型も作りものめいています。解決篇の途中で寝ちゃいました。
以下トリビア。原文は入手出来ませんでした。
作中時間は1931年9月10日(p9)と明記。
現在価値は英国消費者物価指数基準1931/2020で68.57倍、1ポンド=9667円で換算。
銃は「ブラウニングの.22口径… ぴかぴかする玩具… 山羊の足型の引き金のついた小さなピストル」と「.三二口径のスミス・ウェスン」と「.四五口径の標準型のウェブリイ・スコット社製軍用自動拳銃… 挿弾子をみると3発なくなっていた」が登場。.22口径でBrowningの名を冠するポケットピストルは見当たらず。ブローニング・デザインのポケットピストルなら最も成功したFN モデル1906 Vest Pocketの.25口径。(人気銃だったのでColt M1908をはじめ沢山の亜流あるが全て.25口径です。) 「山羊の足型の引き金」は不明。.32口径は詳細が書かれてないので特定不可。.45口径ウェブリイ・スコット社製で自動拳銃(automatic)なら私の大好きなWebley Self-Loading Pistol mk1(1910)、弾丸は.455 Webley Auto弾。「挿弾子」はmagazine clip(7発収納)のことかな?「元ごめのピストル」(p194)は原文breech-loadingだろうけど、普通ピストルには使わない言い方。文脈からリボルバーの事だと思います。(英国の当時の軍用リボルバーは.455 Webley Mk II弾のWebley & Scott社製Webley Mk. VIでトップブレイク式なので「元ごめ」のイメージにふさわしい。)
p7 図書室にあるいわくつきのドイツ製の時計… 弾の痕が残っている: 冒頭のネタ振りはp255で回収されます。(わかりにくい文章なので読み返してやっと気づきました。)
p10 冒険ってどんなことだ?… 小声で… ダイヤモンド6個… オルロフに用心して…: JDC/CDのイメージはいつもこんなの。
p12 スリッパ探し: 輪になる遊戯hunt-the-slipperとは違うようだ。後半(p225)で出てくるが、ここのはスリッパを家のどこかに隠して他の人が探すゲーム。
p15 映画でベン・ハーの役: Lew Wallaceの小説Ben-Hur: A Tale of the Christ(1880)をもとに、戦車レースを中心とした短篇映画Ben Hur(1907 サイレント15分)、長篇映画Ben-Hur: A Tale of the Christ(1925 サイレント143分)が製作されている。
p15 エルストリ: ElstreeはElstree Film Studiosで有名。さまざまな会社の撮影所がHertfordshireのBorehamwoodとElstreeあたりに点在している。Neptune Film Companyが1914年にBorehamwoodに撮影所を開設したのが最初。(英wiki)
p15 外人部隊の士官に扮装: French Foreign Legion(Légion étrangère)が出てくる当時の有名映画はBeau Geste(1926 サイレント、原作P. C. Wren 1924)、Morocco(1930 トーキー、原作Benno VignyのAmy Jolly, die Frau aus Marrakesch 1927)。
p16 サマセットあたり… 西部の人間だもんで、恐ろしく迷信深い: 後ろの方(p167)には「ナイフを十字に置く… 手鏡を落として割る」などの例が出てきます。WebサイトHISTORIC UKにBritish Superstitionsを簡潔にまとめたページあり。
p17 五百年もかかって幽霊ひとつ出せないなんて、この城もまったく能なし: 英国人は幽霊好き。
p38 スティルトン: Stilton cheeseにはPenicillium roquefortiを加えたBlueと普通のWhiteがあるが、ここはBlueの方か。
p40 あの頃は、食後は男ばかりで席を移して、女たちをさんざん心配させたもんだが…: 女性たちの方がDrawing Roomに引っ込む習慣だと思っていましたが…
p40 朝食に… 牛肉とビール… 立派な英国の習慣: 胃もたれしそう。Henry Fielding作の英国の愛国歌The Roast Beef of Old England(1731)を連想しました。
p65『モルグ街の殺人』: 本作にはポオが他にも『盗まれた手紙』(p225),『大鴉』(p239)
p82 電蓄: 12枚のレコードを次々と自動的にかける(p84)機能あり。レコード16枚表裏対応のCapehart Amperion Record Changer(1930)が動いてメカニズムが分かる某Tubeの映像あり。
p82 進め、キリストの兵士たちよ: 賛美歌Onward, Christian Soldiers、作詞Sabine Baring-Gould 1865、作曲Arthur Sullivan 1871。
p91 千ポンドの無記名債権: 967万円。
p91 口述録音器(ディクタフォン): 録音メディアは蝋管。再生しても自然な声には聞こえないようだ。(p103) 「くだらん噂」云々は有名作を批判してる?
p104 一万五千ポンド: 1億4500万円。知人への遺贈額。
p112 ちん: 夫人の犬。名前は呼ばれない。
p125 軍隊ではスエーデン体操と言っていた: Swedish Gymnastics (別名the Swedish Movement Cure)は1800年代初期に詩人でゲーテ、シラー、エッダを研究していたPehr Henrik Ling(1776-1839)により創始された。1880年代に英国陸軍のW. B. G. Cleather大佐が興味を持って導入を計画し、後任のGeorge Malcolm Fox大佐の尽力もあって1900年代に採用された。
p140 ロシヤ小説: Constance Garnett訳The Brothers Karamazov(1912)が英国でのロシア文学流行の嚆矢だという。
p141 グーズベリーののった安皿: ハメットがBlack Mask誌のショーを嵌めたgoose-berry lay(The Maltese Falcon 1929)を連想したのですが、テニスンを作曲家だと思ってるような若者の適当な戯言なので関係ないか。
p142 かくて消えにけり(シク・トランジト): Thomas à Kempis作De Imitatione Christi(1418-1427)に"O quam cito transit gloria mundi"とあるのが早い例らしい。(wiki)
p145 いわしの入った箱: Canned Sardine(イワシの缶詰)のことか?
p163『導け、やさしき光よ』: 賛美歌Lead, Kindly Light、作詞Saint John Henry Newman(1833)、作曲John Bacchus Dykes(1865) 他の作曲家も曲をつけているようだ。
p177 捕手はミットの一枚革の下に厚い牛肉(ビフテキ)を入れ… : 昔の野球のキャッチャーの工夫。豪速球で手が痛くなるのを防ぐには一番良い詰め物らしい。(何かで読んだ記憶があるが、誰のエピソードだったかな… ) ここら辺はJDCの子供時分の思い出か。
p180 イングルズビイの怪談: Richard Harris Barham作、Ingoldsby Legends(1837)、可笑しみある創作伝説集らしい。セイヤーズ にも結構言及あり。
p211 ユンクの『言葉の連想試験』… 嘘発見器: どちらも誤魔化せるし、くだらん、というJDCの結論。
p218 スログ・タブズ: 訳注 呪い言葉の一種。調べつかず。
p224 ウッドハウスの物語: 盗品を自室で発見して、また別の人の部屋に押し込むシチュエーション。どの作品のことか。

No.12 7点 第三の銃弾<完全版>- カーター・ディクスン 2019/08/03 01:54
JDC/CDファン評価★★★★☆
単行本はCarter Dickson名義で1937出版(Hodder&StoughtonのNew-At-Ninepenceシリーズ)、短縮版はJohn Dickson Carr名義でEQMM 1948-1掲載。短篇集(1954)収録時には短縮版が採用されました。(創元『カー短編集2』はこちらを翻訳) 英米版の出版経緯は森英俊さんの解説に詳しく書かれています。
タイトルはバークリーのThe Second Shot(1930)を意識? (先にそっちを読みたいと思ってるのですが、何故か本が見つかりません…) 本作の探偵は痩せて背の高いマーキス大佐。不可能興味の入り組んだ筋で、かなり上手く出来た構成。でも説明がスッと頭に入ってこないところが残念。足跡発見後の見取り図も欲しいところです。人間関係もなかなか上手に配置されてるのですが、ペイジ警部の主観で感情を込めて再構成したら小説的にも面白いのに…と思いました。(そこに興味が薄いのがJDC/CDらしいところ)
私は先に短縮版を読んで、非常に良かったので[完全版]を発注しました。本当は先にこっちを読むべき良作ですね。
以下、トリビア。原文は入手できませんでした。
銃が沢山登場するのでマニアには楽しい話。一挺は「アイヴァー ジョンソンの三八口径リヴォルヴァー」Iver Johnson Safety Hammer DA又はSafety Hammerless DAが候補。いずれも1909-1950製作、トップブレイクの拳銃で38S&W弾使用。二挺目は「ベルギー製ブローニング型三二口径のオートマチック」多分FN M1910(32ACP弾)です。(同じFNのM1900やM1922という可能性もありますが…) 山田維史さんの表紙絵は、銃弾は上が38S&W(実物30.5mm)、下が32ACP(実物25.0mm)のつもり?サイズが変で、形もひょろ長すぎです。描かれた拳銃も小説には登場しないFNブローニングハイパワー(9mm=38口径。絵にある正面バレル下の丸いパーツは間違い。そしてフロント周りのシャープさが足りない!) 表紙絵には内容に沿ったものをカッコよく描いて欲しいところです。
ところで「エルクマン」というドイツの銃器メーカーが見つかりません。「戦時中、銃を大量生産し、今でもイギリスではいくらか出まわっています。」とあるので有名な会社だと思うのですが… 架空名だとしたら候補はBergmann, Mauser(モーゼル), Waltherあたりでしょうか。
p9 一ポンド札: 英国消費者物価指数基準(1937/2019)で67.56倍、現在価値9097円。当時の1ポンド紙幣は緑色のBritannia series(1928-1948)、151x85mm。
p33 非常の世界とも現代主義とも: 創元『カー短編集2』で「ハードボイルド、モダン」と訳されてるところ。戦間期はドライな時代になった、という自覚が世間にあったのでしょう。
p75 ほぼ十フィート離れたところから撃たれて: この推定は無理筋だと思います。(至近なら身体や服の火薬跡などから推定出来そうですが…)
p84 乱暴に帽子をかぶるので… ガイ フォークスのような風貌: Guy Fawkesに訳注がついてるのですが、ここは案山子人形のイメージだと思います。
p99 意外とロマンチックなところがあり… 推理小説を年じゅう読んでいて: メタ探偵小説であるのはラストではっきりします。
p115 ふたりとも手に拳銃を持って… 何年もまえの写真… いわゆる軍用銃: Service Revolverが原文か。だとしたらWebley拳銃だと思います。
p126 五百ポンド: 現在価値455万円。
p127 ヴォクスホール社の大型セダン: Vauxhall Sedan、背の高い車です。
p134 死刑囚のエズモンドは言った。“見たままの世界を受け容れるしかない。”: 調べつかず。
p160 頭の足りない少年が、いなくなった馬を見つける… “おいらが馬だったら、行きたい場所はどこかな…”: どこかで見たような… 出典が思い出せません。
p162 セブンリーグブーツ(訳注: おとぎ話『一寸法師』に出てくる): Hop-o'-My-Thumbはペロー童話(1697)で有名。
p167 私には犯人はもうわかっている。: マーキス大佐がこんな爆弾発言をしてるのにペイジは無関心。JDC/CDは小説を盛り上げるのが下手だと思います。

森さんの解説の最後にあった戯曲Inspector Silence on the Air(1942)[ヴァル ギールグッドとの共同執筆]がとても面白そう。ぜひ翻訳して欲しい!

No.11 4点 一角獣殺人事件- カーター・ディクスン 2019/01/15 21:06
JDC/CDファン評価★★★☆☆
H.M.卿第4作。1935年出版。国書刊行会の単行本で読みました。
1935年5月4日土曜日 ジョージ王在位25周年(Silver Jubilee celebrations for King George V)の2日前の事件。ケン ブレイク38歳。(ということは1897年か1898年生まれなんですね) 変装自在な謎の怪盗という幼児的世界が好きならワクワクする話ですが、馬鹿馬鹿しい!と感じる人なら全く向きません。(もちろん私は大好き派)
いつものように途中まで素晴らしいのですが、中だるみが著しい。なんとも無駄な会話が続きます。そして解決篇、これが結構面白そうなネタをちりばめてるのですが、いかんせん小説自体が全く面白くない。もー少し工夫が出来れば良い作品になったのでは?と感じました。
以下トリビア、原文は参照できませんでした。
p12 ジャズの歌詞の一節: Yes, We Have No Bananasはブロードウェイ レヴューMake it Snappy(初演1922)中の曲。 (この曲の初紹介はブロードウェイ公演終了後の地方巡業のフィラデルフィア1923?) Frank Silver & Irving Cohn作。1923年の大ヒット曲。(Wiki)
p17 ライオンと一角獣: The lion and the unicorn (Roud Folk Song Index #20170)
p24 百フラン: 1935年の交換レート(金基準)は1Franc=0.0135Pound、英国消費者物価指数基準1935/2019は70.61倍、現在価値13401円。お礼としては結構高い。(成功すればさらに百フラン追加の約束)
p24 馬力のあるS.S. 社製の二人乗りの車: S.S. Cars Limitedはのちのジャガー社。エンジンを強化したSS 90(1935年3月)の可能性あり?(限定生産ですが…)
p72 シャンパンはルードレの21年: Roedererのことか。
p90 ポケットからブローニングを取り出すと: 小型サイズのBrowningは数種ありますが一番ポピュラーなのはFN M1910ですね。当時の日本でも単に「ブローニング」と言えばそれ。ラムスデン卿なら9mm(38口径)仕様では?と勝手に想像しました。
p116 バルザックの『風流滑稽談』: Contes drolatiques (1832-1837)
p188 アナトール フランスの『ペンギン島』: L'île des Pingouins (1908)
p188 モーリス ルブランの『怪盗紳士アルセーヌ ルパン』: Arsène Lupin, gentleman-cambrioleur (1907)
p119 『ロビンソン クルーソー』のフランス語訳: 英初版1719年、最初の仏訳は1720年(Thémiseul de Saint-Hyacinthe & Justus Van Effen)、よく知られた版は1836年のPetrus Borel(!)訳。狼狂さん何のつもりでしょうね。是非読んでみたいです。(Wiki)
p132 あんた方は『殺人ごっこ』というゲームをやったことがあるだろうな。: Murder Mystery Gameは19世紀前半ごろから余興として行われるようになったらしい。ボードゲームのCluedoは1948年ごろ。(Wiki) 探偵小説の流行があって余興の探偵ゲームだと思っていました。19世紀前半の発祥が正しいなら、順番は逆で余興から小説へ、ということなのでしょうか。
p154 バルベー ドールヴィイの『魔性の女たち』: Jules Barbey d'Aurevilly, Les Diaboliques (1874) JDC/CDさんも好きねぇ、というラインナップ。
p187 六ペンス賭けてもいい: 前述の換算で現在価値248円。取るに足らない金額ですが…
p222 古い民謡の『マギンティーは海の底』: DOWN WENT McGINTY(1889)のこと?Down went McGinty to the bottom of the seaという歌詞あり。
p225 ブローニングの自動拳銃: p38に出てきたピストル。p90のピストルとは違います。ハイパワー(1935)はまだ流通してなさそうなのでFN M1910なのか。コルトM1911もブローニング設計による拳銃ですが「ブローニング」とは呼ばれないと思います。

No.10 6点 かくして殺人へ- カーター・ディクスン 2019/01/03 19:39
JDC/CDファン評価★★★★☆
H.M.卿第10作。1940年出版。新樹社の単行本(1999)で読みました。
多分この作品の最大のネタは、大抵のレヴューでバラされちゃう「〇〇が××ない」です。きっとパーティかなんかで誰かに「あんた人殺しの血生臭い作品ばかりでサイテー。文学のブの字もない」と言われて思いついたのでは? 作者がニヤニヤして「ばかり…ではありませんな…」と返すのが思い浮かびます。(だから「ネタバレなし!」とうたってるレヴューも一切信用してません。こないだひどいのがありました。(ここのじゃないです) 読み終えた作品の評を読んでたら、今読んでる別の作品のネタバレが! あー‼︎)
1939年8月23日木曜日からはじまる事件。映画作成現場のドタバタぶりといつものラブコメ的な男女のやりとり。全体の楽しい雰囲気はWWII開戦の緊張感から来たものか。大事なことを言いかけて止める手法の連続にはイライラしますが、ネタの盛り上げ方は流石です。大ネタもJDC/CDらしくて(合わない人多数だと思いますが)気に入りました。ただしキテレツな話を求めている人には物足りないですね。(もっと派手な犯行が良いです)
以下トリビア。
p12 二万ポンドのダイヤのネックレス: 消費者物価指数基準1939/2019で64.9倍、現在価値1億8千万円。
p21 ミスター ダンの説が正しいとすれば、潜在意識の下では非常に奇妙なことがおこっているらしい。(If Mr. Dunne’s theory is correct, some very peculiar things go on in the subconcious mind.): 訳注はFinley Peter Dunneのこと、としているが、何か文脈と合わない。自分の体験した予知夢のことを書いて結構読まれたというAn Experiment with Time(J.W. Dunne作1927)のことでは?
p38 つまらなくて馬鹿馬鹿しいあんなトリック、千年経ったって成立しやしないでしょうね。(They are nasty, footling litte tricks that would never work in a thousand years): JDC/CDは流石に良くわかってらっしゃる。
p72『バンジョーを弾く人』(The Banjo Player): 19世紀の部屋に掛かっているありふれた絵という設定。William Sidney Mount作(1856)?
p105 ラム チョップとパイナップル(Lamb chops and pineapple): ダイエット法。2週間で10キロ痩せるらしい。なおこのダイエットを実践したとされてるサイレント時代の女優? Dalmatia Divineは架空人物っぽい。
p109 チェスター(Chester): 米国タバコの銘柄。Chesterfieldなら有名ですが…
p173 ティペラリ(Tipperary): It’s a Long Way to Tipperary(1912), Jack Judge&Harry Williams作詞作曲。ミュージックホール起源。英国ではWWIを象徴する歌。
p180 50本入りのプレイヤーズ(Player’s): 英国タバコメーカー。銘柄は書いていない。
p180 1ポンド6ペンスの妥当な料金(the modest sum of one and sixpence): タクシー代。現在価値9352円。歩いて行ける距離にしては結構高め。でもこの英語表現だと1シリング6ペンスだと思います。(その場合は684円)
p262 一万五千ドル: 米国消費者物価指数基準1939/2019で18.09倍、現在価値3014万円。
p266 ビッグアップル ダンス(dance the Big Apple): 1937年米国で大流行。某Tubeにわかりやすいのがあります。輪になって陽気に踊るのが特徴かな。
p267 鉛で出来たシリング貨(a lead shilling): 本物は.500シルバー、重さ5.6g、直径23mm。当時のジョージ六世コインの裏のデザインはイングランドとスコットランドで違ったようです…
p273 あなたって本当に、何とやらの息子ってところね(you are a crafty old son of a so and so): 翻訳が難しいですね… 試訳「古狸なbナンチャラの息子」
銃は38口径のリボルバー(a .38 revolver)が登場。メーカー等記載なし。
最近WWI前の作品ばかり読んでたので、実に快調に読めました。
(2019-1-4追記)文庫版は全面改稿らしいです。書店で見たら、タクシー代は1「シリング」6ペンスに直っていました。Mr. ダンの訳注も削除されてました…

No.9 7点 九人と死で十人だ- カーター・ディクスン 2018/12/17 05:02
JDC/CDファン評価★★★★★
H.M.卿第11作。1940年出版。創元文庫で読了。訳者は同じですが国書刊行会版の全面改稿とのこと。
実に見事な傑作。小説が上手くなった感じ。特に船内部の描写がとても生々しい。ついに作家覚醒か?(でも同時期のほかの作品はそうでもない。これだけ何故か際立っています)
ただし、語り手が別の者に変わる部分が欠点。マックス視点に統一すればもっと傑作になるのに…
1941年1月19日金曜日から物語が始まります。注釈がいかにもJDC/CD。大ネタも素晴らしい。散りばめられた小ネタも良く、最後までサスペンスを持続させています。最後のアクションシーンは全く余計ですね。(JDC/CDはこういう演出が大好きですが、犯人があえてそんなことする?という感じです)
ではトリビアです。原文未参照。
p22 ガスマスク: gasmask uk 1939でWeb検索すると当時のが見られます。英国では1939年に毒ガス爆撃に備えて全家庭配布(3800万個)を行ったらしい。(結局使う機会はなかった…)
p40 風と共に去りぬ: 当時の大ベストセラーだから英語の勉強に使っているということですね。
p69 10〜15セントのインク壺: 10セントは食パン基準1940/2018で現在価値2.4ドル、272円。
p69 遥かなるワバッシュ川 (On the Banks of the Wabash, Far Away): 訳書の注釈の通り。
p72 偽造指紋が使われた事例は世界のどこを探してもない…: えー。赤い拇指紋事件は?ノーウッド建築士事件は?
p109 クールヴォワジェ事件、ボーデン事件、ウォレス事件: François Benjamin Courvoisier 1840, Lizzie Andrew Borden 1892, William Herbert Wallace 1931 全部、血まみれ事件らしい。
p151 ナポレオンというゲームを教えてもらう… : どのようなものかは不明。
p169 ボタン磨きの<クリーン オー>: 不明。
p183 シャッフルボード(shuffleboard): スティックを使うペタンク・カーリング系のゲームのようですね。英国16世紀の記録あり、とのこと。
p188 ボーイ(boy): 辞書によると確かに≪古俗≫champagneと出ていました。
p190 デッキテニス(deck tennis): 英語Wikiに詳しい解説あり。
p215 とりあえず1ポンド置いていく: 多分破格の散髪代。(少し前のところで「以前、三倍の料金をもらった」という記述あり) 消費者物価指数基準1940/2018で現在価値54.37ポンド、7764円。
p217 ペンシルヴァニアの大洪水: 1936年3月のThe Great St. Patrick’s Day floodのことでしょうか。
p241 シェイクスピア型の頭蓋骨: あの肖像画のラインに似てるということか。
銃はリボルバー、22口径のライフル銃、45口径のリボルバー(英国の船なので実は455口径か)が登場。いずれも詳細不明。語り手が見てもいないのに「リボルバーの発射音が轟いた」と書いてあるけど、拳銃の銃声、の意味でしょうね。ゴルゴ13でもたった一発の発射音だけでリボルバーなのかセミオートマチック(自動拳銃)なのか、わかるわけがない。(いやゴルゴなら音の大きさや持続時間や反響などから拳銃の種類から口径まで聞き分けるのかも)

No.8 5点 読者よ欺かるるなかれ- カーター・ディクスン 2018/12/09 09:53
JDC/CDファン評価★★★☆☆
H.M.卿 第9作。1939年出版。HPBで読了。
魅力的なタイトルの「読欺」(ラノベ短縮風なら「ヨカルナ」か) 1938年4月29日金曜日の事件と明記。題名に違わず、とてもゾクゾクする発端。でもみんなが聴きたい「誰が?」を何故そこで追求しないかな?という疑問が… 今までは一人の女性に忠誠を誓う語り手でしたが、このころから二人の女性に挟まれる状況を登場させてる印象。(「猫と鼠」など)JDC/CDもちょっと大人になったのでしょう。いつものように被害者の書き込みが不足、そして超能力ネタをもっと盛り上げられたのでは?と思います。大ネタはいかにもこの作者らしいヤツですが前フリの小ネタが残念。(読心術を簡単に扱いすぎ) ラストはセリフ過多で消化不良。
「ヒトラーやムッソリーニを殺す」ネタや、終幕のH.M.の憂いが、大戦前の不穏な時代を感じさせる作品でした。もっとブッとんだのが読みたいですね。
以下トリビア。原文入手出来ていません。
p115 ピーター キント(Peter Quint): 「ヘンリー ジェームズの『ねじの回転』に出てくる」今、南條訳を読んでるのでちょっとびっくり。(南條訳ではピーター クウィント)
p117 タットラー誌(Tatler): 週刊誌。1シリング。白黒60ページ。舞踏会、チャリティー、競馬、狩猟、ファッション、ゴシップを掲載。写真が豊富なヴィジュアル誌のようです。1シリングは現在価値3.17ポンド(1939/2018消費者物価指数による) 日本円で462円。
p133 戸棚のなかに、ビールの大瓶が、半分ほど残っていた: 冷やして飲むものではないのでしょうね。
p191 ジョン ビールの唄: ここではアコーディオンで弾かれます。不明。
p192 意気なヘルメット横ちょにかぶり/巡査(ボビイ)ピールは朝から陽気: みんなで歌ってるので有名な歌?不明。
p201 ほぼ5000ポンド: 裁判一件にかかる費用。上述のレートで現在価値4620万円。
本作にはH.M.が扱った過去の事件への言及が結構ありますが、宇野先生は注をつけていません。以下[ ]内は評者。
p93 アンスウェル事件[ユダの窓]、ヘイ事件[五つの箱の死]
p114 30年のダーワース事件[黒死荘]、31年のクリスマスの映画スター事件[白い僧院]、マントリング卿の密室事件[赤後家]
p208 ランカスター ミュウズの事件: これだけ何だかわかりません…

No.7 4点 五つの箱の死- カーター・ディクスン 2018/11/11 04:49
JDC/CDファン評価★★★☆☆
H.M.第8作。1938年出版。HPBで読了。
名門校出だがパッとしないポラード再登場。キャラを書き分ける気がないJDC/CDなので印象に残りません。昔の事件への言及(ファンへの目くばせ)が所々にあり、でもそーゆーのって作家に焼きが回ってる感じで嫌な予感が… やっぱりな結末でした。
発端の異常なシチュエーションは良い、中盤の小ネタも良い。(五つの箱はワクワクしますよね) JDC/CDお馴染みの、偶然にも犯人が特定できない目撃証言とか重要容疑者が残した文書あたりから怪しくなって、全員集合!犯人はお前だ!で「?」、大ネタはズッコケ。(絶対、誰か気づくはず。警察の捜査能力も低すぎです…) これで良し!とする作者の神経って… まー実にJDC/CDらしいんですが。
トリヴィアは原文なしなので不発。
p51『船頭さん、岸辺へ着けて』p180『船頭、船を岸に着けよ』: 同じ歌だと思うのですが、何故違う訳に?(2018-11-19 追記) Pull for the Shore, Sailor (Philip Paul Bliss作 1873)でしょうか。タイタニック号の沈没時に歌われたらしいです…
p146 クルーガー空気拳銃: Kluger, Kruger, Krugelで調べましたがヒットせず。
翻訳もセリフが古臭くて微妙な感じですが、作品自体がダメなので新訳は望めません。駄作でも全然オッケー!というコアなJDC/CDファン向け。

<ネタバレになるかも?>
家庭用のアレが普及したのは1930年代らしいです。1922年だとT型フォードの1.5倍の値段でした…

No.6 7点 ユダの窓- カーター・ディクスン 2018/11/10 06:21
JDC/CDファン評価★★★★☆
H.M.第7作。1938年出版。ハヤカワ文庫で読了。
メモのへんな合いの手「ガブリ ガブリ わあい」(Gobble gobble. Phooey.) 一体なんですかね?
まともな人がこんな殺害方法や密室トリックを思いつくかな?というのが最大の難点ですが、作中に引用される「犯人はどうでもいい、どうやった?」というセリフに共感してしまうのがJDC/CDファン気質。
強烈な状況設定から始まり、中盤の小ネタが素晴らしい。大ネタは何故か皆さんクイズで知ってて(私もそうなんですが)その妙なポピュラリティが面白いと思います。
英語をよく知らないのですがjudas windowは普通に使われる言葉なのでは?「(独房の戸などの)覗き穴」という通常の意味を、ジムはユダの窓が大嫌い、のくだりで割注などを使って示すべきだと思いました。(ジムの発言がイミフになっちゃいます)
銃は(私の大好きな)ウェブリー&スコット自動拳銃38口径が登場、M1910ですね。ポケットに気軽に入れて持ち運ぶには、ちょっと大きめです。(大きさ203x173mm、重さ1kg)

No.5 5点 孔雀の羽根- カーター・ディクスン 2018/11/05 20:50
JDC/CDファン評価★★★☆☆
H.M.第6作。1937年出版。創元文庫(1980年)で読みました。
マスターズが再び不可能犯罪に出会う!という冒頭は素晴らしいのです。中盤の小ネタも効いています。珍しくキャラ立ちしてる登場人物もいます。でも解決篇は残念な出来でした。手抜かりや見落としを期待する不可能犯罪では面白くありません。いつものように2回目の犯行はやっつけ仕事。(ただし二度目の予告からの展開は素晴らしい) p304の解説は「そんなの知らねーよ!」と全員がツッコみを入れる内容ですね。
銃はレミントン六連発拳銃1894年製が登場。Remington Model 1890 New Model Army(弾は.44-40 Winchester)でしょうか。
p173 旧式のレミントン用弾薬で<ダック>: 不明。
p36「トールボットの二人乗り自動車」はTalbot(タルボ)のことだと思います。
p203 フリート街裏手の聖ブライズ教会(St. Bride’s Church): この近くにH.M.お気に入りの酒場<グリーン マン>があります。

<追記: 2018-11-29>
チェスタトン「奇商クラブ」の最初の方に、
…「十個の茶碗」(Ten Teacups)については、むろん一言の解説もあえてするつもりはない。(語り手のクラブ遍歴について回想する部分。「十個の茶碗」とは社交クラブの名前)
これが原題の由来ですね。さっき再読していて気づきました。

No.4 6点 パンチとジュディ- カーター・ディクスン 2018/11/03 23:52
JCD/CDファン評価★★★☆☆
H.M.第5作。1936年出版。HPB(1959)で読みました。
当時の国際情勢を反映したようなスパイ・スリラーかと思ったら不運なスコットランド人ケンが酷い目にあう冒険ドタバタ劇。結構起伏に富んでいて楽しい読書でした。ネタには皆さんガッカリされているようですがJDC/CDとしては上手く扱っている方だと思います。
原文が手に入らなかったので調査が全く行き届いていませんがトリヴィアです。
p170 そしてメクリン教会の塔から半の時鉦が鳴り渡った/そしてジョリスが沈黙を破った、『まだ時間はある!』: 何かの詩?らしいのですがわかりませんでした。
p174 アンニイ ローリイ: Annie Laurie 詞William Douglas 曲Alicia Scott(1834/5) The song is also known as "Maxwelton Braes".
p201 『オイ、気取り屋』H.M.は引用した。: 何の引用か不明。

(2018-11-11追記)
And from Mecheln church-steeple we heard the half-chime,
So, Joris broke silence with, ‘Yet there is time!'’

How They Brought the Good News from Ghent to Aix
a poem by Robert Browning (Dramatic Romances and Lyrics, 1845)
かなり有名な詩らしいですね。

No.3 5点 赤後家の殺人- カーター・ディクスン 2018/10/31 23:07
JDC/CDファン評価★★★☆☆
H.M.第3作 1935年出版 創元文庫(1960)で読みました。
弓弦城を再読してないのですが、冒頭から判断すると続編的な感じ。まー誰が誰でも全然関係ないので気にする必要はありません。
発端にはゾクゾクさせられますが新アラビア夜話(スティーブンソン)を先に読んでたほうが良いかも。(本編とは関係なし。雰囲気作りですね)
いつもの通り人物描写が下手なのでごたつく序盤、なかなかスリリングな中盤を経て、全員集合、謎解きが始まるよ!という流れ。(最後は大勢で押しあいへし合いという変な場面)
小ネタはまあまあ、でも大ネタが残念。警察の見落としを期待してはいけません。それにあのトリック(p387)はないでしょう。
フランス革命ネタは作者の趣味全開ですがいささか退屈。興味深かったのはロイヤル スカーレット事件(p312)これ書かれざる事件なのかなぁ。
全体的にバラバラなネタのごった煮な感じです。インスピレーションと飽きっぽさが同居するJDC/CDらしい作品ですね。
以下トリヴィア、原文は参照出来てません。
p124 タラッタラッ、大きな悪狼が…(H.M.の鼻歌): 「三匹の子豚」(ディズニー1933)のWho's Afraid of the Big Bad Wolfかな?{★R3/10/16追記}原文“Ta-ta, big bad wolf; who's afraid of—” 「バイバイ、悪狼」だったのね。
p172 ラ マルセイエーズ: 歌詞は結構血なまぐさいです。
p306 海の妖女たちはどんな歌を歌ったか…: Sir Thomas Browne, "Urn-Burial"(壷葬論)ですね。モルグ街のエピグラフで有名。
p344 ルール ブリタニア(支配せよ、大英帝国)Rule, Britannia: イギリス国歌、スチュアート党が愛好、と宇野先生が注釈しています。詞James Thomson、曲Thomas Arne(1740)
名言が一つ: イリュージョンは真理よりよっぽど貴重ではるかに美しい(p366) JDC/CDのモットーですね…{★R3/10/16追記}原文the illusion is much more valuable and fine a kind of thing than the ass who wants to upset it

No.2 7点 白い僧院の殺人- カーター・ディクスン 2018/10/30 01:58
JDC/CDファン評価★★★★★
H.M.卿第2作 1934年出版 創元文庫(1977年)で読みました。
状況設定はプレーグコート黒死荘とネガポジの関係?姉妹編といった印象です。いかにもJDC/CD的な工夫たっぷりで小ネタを上手く散りばめて大ネタでドカンといった感じの良くできた探偵小説なのですが、いつものように被害者を上手く描けていません。美人女優で誰もが夢中になるような女ですよ… こんな美味しい小説的ネタをスルーするのがJDC/CDです。警察の捜査能力が低すぎなのと、階段事件の顛末がアレなのがちょっと不満。それに良い設定が多いのにイメージが絵としてはっきりと浮かばないのは描写がゴタゴタしてるからだと思います。(例えばJDC/CDの人物描写で外見がパッと想像出来たことがあります?)

No.1 8点 プレーグ・コートの殺人- カーター・ディクスン 2018/10/27 20:06
JDC/CDファン評価★★★★★
H.M.卿第1作目 1934年出版 今回読んだのは2012年の新訳
40年前ハヤカワ文庫(仁賀訳)で読んでいるのですが、H.M.が被害者の部屋を調べるシーンを朧げに記憶していた以外、ほぼ全部忘却の彼方。印象的な殺人方法も犯人もすっかり忘れていました。
注釈が読みずらい(是非同じページ内で処理して欲しい)のを除くと新訳は非常に良質。そして肝心の内容も抜群です。不可能犯罪はこのくらい設定に凝らないとリアルにならないよ、とJDC/CDがニヤついています。ただしいつもの通り2回目の犯行が雑。そして生きている時の被害者が描かれていないのが残念。マリオンや偏屈婆さんの描き方も物足りないです。小説的に良いネタをぶん投げてしまうJDC/CDの悪い癖ですね。
本作のマスターズの設定を読んでJDC/CDの怪奇趣味の正体がわかりました。オカルト・バスターズなんですね。ユリ ゲラーに対するランディの立場です。もし本物の不可能犯罪が存在したら超自然現象を肯定せざるを得ないのです。そこら辺も本作では明快に描かれていてJDC/CD入門に最適かつ最高傑作ではないか、と思いました。

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弾十六さん
ひとこと
気になるトリヴィア中心です。ネタバレ大嫌いなので粗筋すらなるべく書かないようにしています。
採点基準は「趣好が似てる人に薦めるとしたら」で
10 殿堂入り(好きすぎて採点不能)
9 読まずに死ぬ...
好きな作家
ディクスン カー(カーター ディクスン)、E.S. ガードナー、アンソニー バーク...
採点傾向
平均点: 6.13点   採点数: 459件
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