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弾十六さん
平均点: 6.11点 書評数: 447件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.307 5点 つかみそこねた幸運- E・S・ガードナー 2020/06/28 03:36
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第73話。1964年5月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
晩餐会で注目を浴びる美しいデラ。評判が良いドレイクの仕出し屋稼業。ドレイクのコーヒーの好みは砂糖とクリームたっぷり。久しぶりのホルコム(1959年1月刊「恐ろしい玩具」以来)でも活躍は無し。バーガーはメイスンの非行を見つけ締め上げます。法廷シーンは予審、冒頭からバーガーはメイスンを厳しく告発。レッドフィールドの証言をきっかけに、メイスンはバーガーとトラッグを引き連れ仲良く現場を再捜索。最後はメイスンがバーガーに逆捩じを食らわせて幕。全体的に薄い味付けです。
銃は38口径レヴォルヴァ、スミス・アンド・ウエッソン製が登場、詳細不明。
巻末には、1964年11月に虎の門の晩翠軒で開かれた日本探偵作家協会主催のガードナーを囲む会の記録あり(署名「N」による)
(2017年5月20日記載)

No.306 5点 向うみずな離婚者- E・S・ガードナー 2020/06/28 03:27
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第72話。1964年2月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
ハンドバッグを置いていなくなった黒眼鏡の女。デラのランチタイムは12:15-12:45、ガーティは12:45-13:30。意外にもメイスン事務所のセキュリティが甘い。パイロットはラスヴェガス経済とロサンジェルス経済との密接な関係を語ります。関係者全員が黒眼鏡をかける場面がシュール。裁判は予審、後半でバーガー御大が登場しますが、例によって得点を稼げず沈没。最後はトラッグが締めます。プロット自体が単純なので解決も難しくはないのですが不満な出来です。
銃は2丁、同一型式の38口径レヴォルヴァー スミス・アンド・ウェッスン6連発、シリアルC48809とC232721が登場。このシリアルはいずれもKフレームfixed sight1948-1952年製を示し、該当銃はMilitary&Police(M10)です。シリアルC48809はメイスンシリーズ4回目、C232721は2回目の登場。
(2017年5月17日記載)

No.305 6点 恋におちた伯母- E・S・ガードナー 2020/06/27 21:26
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第71話。1963年9月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
事務所に迷い込んだボタンいんこのつがい。ドレイクの料金は1日50ドル(プラス必要経費) メイスンの弱点はエレベーターの中の会話。法廷は予審、地元の検事をいじめ、若い弁護士を助けるメイスン。判事も味方につけ反対尋問やり放題で真相に至ります。解決は鮮やかで、パズルのピースが上手くはまります。
(2017年5月18日記載)

No.304 4点 脅迫された継娘- E・S・ガードナー 2020/06/27 21:21
ペリーファン評価★★☆☆☆
ペリー メイスン第70話。1963年6月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
ここから私見メイスン第五シーズン(最終作まで)。「ガードナー、老いたり…」という感じ。スピード感に欠け、切れ味が悪い。ファン以外にはお薦め出来ない作品群です。
過去の過ちと湖上の活劇。濃い霧が全てを隠します。法廷シーンは予審。地元新聞の記者を煽って真相にたどり着きます。全体的に芯が欠けたぐんにゃりした印象。担当区外なのでバーガーもトラッグも出てきません。
銃は38口径6連発リヴォルヴァー、スミス・アンド・ウエッソン製、シリアル133347(翻訳では最初「携帯許可番号」あとの方では「銃器ナンバー」とあります。原文を見たら最初の方はシンプルにa Smith and Wesson .38-calibre revolver, No. 133347で「携帯許可」に該当する単語はありません) このシリアルは「歌うスカート」に続き2回目の登場です。頭文字無しの数字だけのシリアルは1942年以前、この番号なら.38 Special Military & Police M1905 1st or 2nd changeで1908-1909年製くらいか。
(2017年5月20日記載)

No.303 6点 悪夢の街- ダシール・ハメット 2020/05/02 23:21
1948年(Mercury Mystery No.120)出版。底本はDell #379 (1950) Mapback版のようだ。いずれもEQ(ダネイ)の序文付き。なぜハメット短篇発掘の功労者ダネイの序文は翻訳されなかったのだろう。(ミスマッチだと思われたのか) HPBは1961年6月が初版。1月に死んだハメットの追悼短篇集か。(HPBあとがきの(S)[=菅野 國彦]のちょっと間違ってる初出情報はEQ序文からのネタのように感じる。) (2022-2-12訂正: どうやらこの(S)は当時編集部で孤軍奮闘していた常盤新平のようだ。菅野圀彦だと年齢が合わない)
Dell版の表紙絵はRobert Stanley。地図はRuth Belew、悪夢の町 Izzardの雰囲気が出てる良い仕事。他、本文にもイラスト(Lester Elliot作)がついており、WebのDavy Crockett’s Almanackで7枚全部を見ることが出来る。
初出データは小鷹編『チューリップ』(2015)の短篇リストをFictionMags Indexで補正。K番号はその短篇リストでの連番。#はオプものの連番。
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⑴ Nightmare Town (初出Argosy All-Story Weekly 1924-12-27) K32「悪夢の街」 井上 一夫 訳: 評価5点
初出誌は後のArgosy誌。出だしはすごく良い。米国の小さな町を手探りで進んでゆく感じ。多分、ハメットがピンカートンに雇われて西部の小さな町に派遣された時の心情風景。でもアクションたっぷりの中盤以降はつまらない。悪夢っぽい大ネタは良いのだが、構成に難あり。主人公の妙技はフランス人の言う「シャルロ」の立ち回りを思い出してしまった。(映画にそんなシーンはなかったと思うが…) Dell版のイラストでは長い胡瓜みたいな棍棒にしか見えない。
p12 すもう(wrestle): 米国チームは1924年パリ・オリンピック、男子フリースタイル・レスリングで4階級の金メダルを獲得している。当時、話題になっていたのかも。
p12 十五ドルにたいして十ドル賭けろ(Bet you ten bucks against fifteen): 米国消費者物価指数基準1924/2020(15.13倍)で$1=1662円。
p13 連邦保安官(MARSHAL): Wiki「連邦保安官」に詳細あり。この人は町に常駐してるので Deputy Marshalなのだろう。
p20 大事な、自分にとって本気な場面にぶつかると… 道化役をやっちまうんだが、なぜだろう?: この反省はハメットの本音っぽい。生を受けて33年、世間と渡り合って18年、と主人公は言う。当時ハメット30歳、世間に出たのは14歳の頃なので、大体一致する。ここでは、俺は自意識過剰の子供なのだ、と結論付けている。
p26 五十セント出して指一本見せれば(cost of fifty cents and a raised finger): 831円。密造ウィスキー(1フィンガー?)の値段。
p31 大きなニッケルめっきの廻転式拳銃(a big nickel-plated revolver): なんとなくコルトだと言う直感が… (全く根拠はありません!) 候補は45口径のコルトM1917民間用(ただの妄想)。
(2020-5-2記載)
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⑵ The Scorched Face (初出The Black Mask 1925-5) K36 #17「焦げた顔」丸本 聰明 訳
オプもの。『チューリップ』で読むつもり。Dell版のイラストが不気味。
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⑶ Albert Pastor at Home (初出Esquire 1933秋号) K70「アルバート・パスター帰る」小泉 太郎 訳: 評価5点
『チューリップ』で読んだ。Dell版のイラストにはLeftyと「おれ(Kid)」の姿が。(『チューリップ』に掲載されてるイラストは一部分だけ) (S)の解説ではエスクワイア誌創刊号とミステリ・リーグ誌創刊号の争いで譲ったのはエスクワイアとなっているが、どう考えても高級誌側が譲るとは思えない。『チューリップ』小鷹解説では譲ったのはミステリ・リーグ側になっている。
内容の評価は『チューリップ』参照。
(2020-5-2記載)
おっさん様が発見した「設定的に矛盾」が私の「馬鹿目」では見つからない… 原文はエスクワイア掲載号の無料公開(Internet Archiveのサイトで「esquire 1933」と検索、雑誌34ページ目)で確認できるので、ぜひ結果を教えていただければ…
(202-05-03追記)
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⑷ Corkscrew (初出The Black Mask 1925-9) K37 #18「新任保安官」稲葉 由紀 訳
オプもの。創元文庫『フェアウェルの殺人』で読むつもり。Dell版のイラストは珍しいカウボーイ・ハット姿のオプ。

No.302 6点 R・チャンドラーの 『長いお別れ』 をいかに楽しむか- 評論・エッセイ 2020/05/02 04:06
2013年出版。清水俊二先生は名訳者、という印象をずっと持っていました。でも、本書を読んでみると、ところどころでかなり意訳してます。これならこなれた日本語になりますね。全体的には、概ね原文に即しているようだが、文章によってはかなりばっさり削って訳している。現代なら手抜きと言われかねないレベル。
村上訳は、たいてい原文の意味を正確に把握(柴田先生のおかげ?)してるけど、いつもの締まりのない日本語。まあそこは好き嫌いなのでしょう。(私は大嫌い。←公言する必要無いでしょ?) 時々、誤魔化しも暴露されています。(柴田先生に聞いてないところなのかな?)
英語翻訳のお勉強になる本。でも文章を周りから切り離して取り出してるので、全体の流れを無視してしまいがち。時々、原文で前後を確認した方が良いと思います。正確な文章の把握には大きなコンテキストも必要ですから…
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実例を最初の方から2例ほど。(ページは原書のもの。以下山本解説は一部要約してます。)
【Chandler】第1章p5 へたばったテリー・レノックスを見おろして金持ちの若い女が言うセリフ。
“Perhaps you can find a home for him. He’s housebroken — more or less.”
【清水訳】
◆「家を見つけてやってちょうだい。家もないのとおんなじなんだから」
【村上訳】
◆「おうちを見つけてあげてちょうだい。トイレのしつけはできているから--おおむね」
【山本解説と訳】
housebrokenは大小便のしつけが出来てるの意。more or lessは「まあまあ」くらい。山本訳の提示はなし。
【弾十六のイチャモンと試訳】
女はテリーのことを前段で「迷子の犬みたい」と言っている。なので犬の家捜しっぽく訳すのもありだと思う。文学者さんはこの女が「トイレ」なんて口にするタイプだと思ってるのかな?
◉「飼い主を見つけてあげて。最低限のしつけは出来てる—はず」
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【Chandler】第5章p28 テリーのポケットから自動拳銃を取り出して調べるマーロウ。
I sprang magazine loose. It was full. Nothing in the breach.
【清水訳】
◆弾倉をしらべた。弾丸は一発も撃たれていなかった。
【村上訳】
◆マガジンもはじき出してみた。弾丸はフルに装填されている。乱れひとつない。
【山本解説と訳】
breachの部分は辞書を引いても不明。ブリーチ(breech, 薬室)にはマガジンから送り出された次の弾丸が入る。空なのだから発射された形跡がないという意味だろう。
◆マガジンを抜き出してみた。フル装填されている。薬室にも弾は入っていない。
【弾十六のイチャモンと試訳】
breach(破ること、など)はbreechの誤記?誤植?村上訳はbreachとして、山本訳はbreechとして解釈。私もbreechの誤記か誤植だと思う。
拳銃の薬室(弾丸が収まるところ)はchamberと言う。breechの銃世界での正確な意味は「銃の後ろ側の開口部で弾丸などを込めるところ、大砲の場合なら銃尾の閉鎖機構」反対語はmuzzle。オートマティック拳銃の場合、後ろの開口部はスライドに空いた排莢口から見える薬室後部なので、薬室とほぼ同意。(リボルバーならbreech=シリンダの後ろ側)
原文で描かれてるのは初見の自動拳銃を扱う際の基本中の基本を省略して描いたものだろう。まず銃口を安全な方に向け、マガジンを抜き、スライドを引いて薬室に何もないことを確認する。これでその拳銃は確実に無害であるとわかる。拳銃を扱い慣れてる者ならほぼ自動的にやる動作。
つまり、拳銃の安全確保を行った、というのがこの文章の主たる意味。もちろん、ついでに発射の有無も確認している。(厳密に言えばマガジンと薬室の状態だけを根拠にして、発射の有無はわからない。発射した後で弾を補充する細工は簡単だ。まー上述の状態を見たら、この拳銃は使われてないな、と普通思うが。)
なので意訳せず、愚直に訳せば(上述の意味を理解してる)分かる人には分かる翻訳になり、それで充分な気がする。sprang... looseはマガジンの解除機構を押したら、マガジンがビヨーンととび出した感じの表現。
◉マガジンを解除してはじきだした。全弾装填してある。薬室は空だ。
原文では、この文の直前に拳銃の種類が書いてある。It was a Mauser 7.65, a beauty. I sniffed it. マウザー(モーゼル)の7.65ミリ(=.32口径)、候補はM1914かHSc。どっちも私にはbeautyだが、時代的にシンプルでモダンなHSc(1937)かな。次の文の訳は【清水】私は銃口を嗅いでみた。【村上】匂いをかいでみた。【山本】私はにおいを嗅ぎ…
安全動作を考えると清水訳は不適当。そんなことしてたらいつか怪我するよ。まず拳銃を無害化してから銃身や銃口を確認しましょう!多分、マーロウは顔の近くに銃口を持ってきたくなかったので、大袈裟に鼻を吸って(sniffed)硝煙の匂いがするか確かめたのだろう。
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著者は「文法に拘る方で翻訳家として一本立ちした人を見たことがない。… 文芸作品の文章をすべからく文法で、つまり理詰めで理解しようと…[いうのが]…理解出来ないのだ」(p174) あんまり文法に頼るな、と主張してるのだが、文法苦手なのかな?まずは正確な文章の把握が大切で、ちゃんとした文法は非常に重要な手がかり(良い友達)だと思うのだが… (もちろん私は非常に文法苦手です)
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類書で『3冊の「ロング・グッドバイ」を読む―レイモンド・チャンドラー、清水俊二、村上春樹―』(2010)という本があり、こっちには銃の話が出てくるらしい。翻訳家では無い素人の感想文(←あんたと同じだよな?)という評がアマゾンにあったが、銃のネタがどう書かれてるのか気になる。

No.301 5点 ミステリマガジン1984年5月号- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2020/04/30 01:02
HAYAKAWA’S MYSTERY MAGAZINE 1984年5月号 <337>
短篇特集は「サスペンスフルな夜」と題して4篇。他に「クライム組曲」(意図不明)と題して7篇を収録。234ページ。定価580円。
表紙イラストは岡本 信治郎、表紙・扉・目次構成は島津 義晴と野々村 晴男。表紙にはMECHANICALの文字とゼンマイのネジ、今号のメインは男女が乗った手漕ぎボート、渦に飲み込まれ中。裏表紙の広告は大塚製薬 カロリーメイトとポカリスエット。
ダイアン・ジョンスンの『ハメット伝』は連載4回目、長篇時代(1927〜1928)が載ってる。やっとオプもの全てのBlack Maskヴァージョンを収録(長篇2作の雑誌掲載版を含む)した原書が届いたので、そのネタを絡めて下でコメントするつもり。青山『ハメットダッシュ』は低調。今回の目玉、都筑『出来るまで』に重大事件が記載されており、しばらく色々資料を漁ってみて、やっと謎が解けた。結構興味深いと思うので今回は問題篇として下に書き、次の6月号で解答篇を発表します。他、瀬戸川『睡魔/名作篇』はやはり見逃せない。リレー小説はセイヤーズが前号のお返しにシェリンガムで登場。
雑誌全体の暫定評価は5点として、収録短篇を読んだら追記してゆきます。
小説は14篇。以下、初出はFictionMags Index調べ。カッコ付き数字は雑誌収録順。
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⑴ Wild Mustard by Marcia Muller (初出HMM1984-5書き下ろし)「野生のからし菜」マーシャ・ミュラー 竹本 祐子 訳(挿絵 天野 嘉孝)
海外作家書き下ろしシリーズ第11回。シャロン・マコーンもの。
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⑵ Simple question d'humanite par Catherine Arley (初出Ellery Queen Mystère magazine 1974-12)「心優しい女」 カトリーヌ・アルレー 長島 良三 訳(挿絵 じょあな・じょい)
アルレーの短篇は非常に珍しい、とのコメント付き。仏Wikiには全部で11作がリストアップされている。ebayで見つけた仏EQMMの掲載号(no322)表紙はジェーン ・バーキンか? 同号にはCécile Lacrique, Michel Grisolia, Catherine Arley, Robert Twohy, Alfred Haïk, William Bankier, Vivran, Edward D. Hochの小説が載ってるようだ。残念ながらフランス小説のFictionMags Index風データベースをまだ見つけていない。
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⑶ Waltz by Cornell Woolrich (初出Double Detective 1937-11)「ワルツ」 コーネル・ウールリッチ 田口 俊樹 訳(挿絵 山野辺 進)
掲載誌がなぜDoubleなのか、と言うと長篇一冊分+雑誌一号分の小説が載ってるから、らしい。雑誌表紙にウールリッチの名前無し。
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⑷ The Fantastic Horror of the Cat in the Bag by Dorothy L. Sayers (初出The 20-Story Magazine 1925-5 as “The Adventure of the Cat in the Bag”)「鞄の中の猫」 ドロシイ・L・セイヤーズ 関 桂子 訳(挿絵 畑農 照雄)
20篇の小説が載ってるので20-Story誌。
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⑸ Lonely Place by Jack Webb (初出AHMM 1960-2, as by Douglas Farr)「桃の収穫の季節」 ジャック・ウェッブ 山本 俊子 訳(挿絵 金森 達)
AHMMのクレジットDouglas FarrはC. B. Gilfordのペンネームらしい。つまり俳優ジャック・ウェッブの名義貸しなのだろう。
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⑹ 「黒いレストラン 第2話 RはろくでなしのR」東 理夫 (挿絵 河原まり子)
連載ショートショート。今月の料理(レシピ付き)は生ガキ。
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⑺ Bon Voyage by Dan J. Marlowe (初出AHMM 1969-3, as by Jaime Sandaval)「よい旅を!」ダン・J・マーロウ 望月 和彦 訳(挿絵 つのだ さとし)
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⑻ Aftermath of Death by Talmage Powell (初出AHMM 1963-7)「死後の影響」タルメージ・パウエル 沢川 進 訳(挿絵 細田 雅亮)
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⑼ Here Lies Another Blackmailer by Bill Pronzini (初出AHMM 1974-6)「脅迫者がもう一人」ビル・プロンジーニ 山本 やよい 訳(挿絵 山野辺 進)
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⑽ Children at Play by Angus Greenlaw (初出AHMM 1966-7)「子供たちが遊んでいる」アンガス・グリーンロー 松下 祥子 訳(挿絵 畑農 照雄)
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(11) Object All Sublime by Helen W. Kasson (初出AHMM 1964-12)「崇高な目的」 ヘレン・カッスン 延原 泰子 訳(挿絵 楢 喜八)
本誌に英語タイトルの記載が無いが、FictionMags Indexでそれらしいのは上記だけ。
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(12) Intruder in the Maze by Joan Richter (初出EQMM 1967-7)「トウモロコシ畑の侵入者」ジョーン・リクター 秋津 知子 訳(挿絵 佐治 嘉隆)
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(13) Death of the Kelly Blue by Henry Slesar (初出AHMM 1968-11)「愛犬の死」 ヘンリー・スレッサー 橘 雅子 訳(挿絵 金森 達)
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(14) Ask a Policeman (単行本1933) リレー小説『警察官に聞け』連載第4回 「解答篇4 シュリンガム氏の結論」ドロシイ・L・セイヤーズ(Dorothy L. Sayers) 宇野 利泰 訳(挿絵 浅賀 行雄)
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アームチェア・ディテクティヴ特約の評論
エッセイ・オン・ハードボイルド「伝統は死なず」マイクル・サイドマン 竹本 祐子 訳
モーリス・A・ネヴィルのジョナサン・ラティマー追悼文とともに。近年のハードボイルドについての小文。
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HMM OPENING FORUMとして
『春はかなしいのだ(乾 信一郎)』バードウォッチングの話。
『表情のある機械たち(日暮 修一)』古いカメラと模型の車の話。
『サラリーマンの乱調読書戦術(結城 信孝)』新聞社勤務のミステリ読書の一日の記録。
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Dashiell Hammett: A Life by Dian Johnson (1983)「ダシール・ハメット伝: ある人生」ダイアン・ジョンスン 小鷹 信光 訳 連載第4回「四つの長篇小説(1927〜1928)」以下の日本円換算は当時の米国消費者物価指数を2020年と比較して算出したもの。
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読み物は
『続・桜井一のミステリマップ: スペンサーのボストン』もーちょっと書き込めそうだが… まー全然読んだことないし、興味も無い。
『共犯関係(青木 雨彦)2 銀行員について』ご存知ディック・フランシス『名門』についていつもの雨彦節。
『フットノート・メロディ(馬場 啓一)17 ミステリに於ける食事について』
『ハメットにダッシュ!(青山 南)5 ヴァイタリティ』年代別作品数(1923-1926)の分析。コディ編集長との関係を理解しておらず、見当違いなことを書いている。1925年の作品は「なんか、どこか違う」という感じを受けてるのはスルドいのだが。
『推理作家の出来るまで(都筑 道夫)97 むずかしい仕事』ポケミスのセレクションも任されていた都筑は古い感覚の翻訳者に、注をつけて良いから飛ばさないで完訳して欲しいと依頼するのだが、その翻訳者は「全部ホン訳するとかえってわからなくなる」とうそぶいて全然反省せず、細かいところを抜いた翻訳を続ける。そのため3、4冊は福島正実が初校にびっしり赤入れをして本にした。次の仕事を依頼されなくなったその翻訳者は乱歩に泣きついたが、都筑が赤入りだらけのゲラを見せると流石に乱歩も了解した。さて、問題です。その古い感覚の翻訳者とは誰か? ヒント。新青年時代から翻訳している。乱歩や横溝と親しい。都筑編集時代の前に、ある作家の翻訳を依頼されていたらしく、次はこの作品、などと次々と言ってきた。(都筑は、その作品は既に別の人に依頼していまして…とことごとく断っていたようだ。)
『連載対談 田村隆一のクリスティー・サロン5 オリエント急行の魅力(小池 滋)』
『ペイパーバックの旅(小鷹 信光)17 クラーク・ハワードのThe Arm』
『アメリカン・スラング(木村 二郎)5 ヒット・パレイド』
『フィルム・レビュー(河原 畑寧)ヒッチコック・リヴァイヴァル』
『新・夜明けの睡魔/名作巡礼(瀬戸川 猛資)5』『赤毛のレドメイン』について。前半中盤は色あせていたが、最後のモノローグが素晴らしいという。前回の『僧正』でも似たようなことを言っている。強烈な犯人像がお好きらしい。
『名探偵登場(二上 洋一)17 探偵小説のからくり仕掛人:亜 愛一郎』
『愛さずにはいられない(関口 苑生)5 “性”少女は尊いか?』
『ミステリ漫画(梅田 英俊) 通行人『内面はわからんもんだなあ…』』
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Crime Fileとして海外ミステリ情報を
『Crime Column(オットー・ペンズラー)29 マイク・ハマー、TVに登場』『Mystery Mine(木村 二郎)名無しの作品ファイル』『Key Suspects(西村 月一)デクスターの新作に触るゾ』『ペイパーバック散歩(宮脇 孝雄)ロス・トーマスの「モーディダの男」』『製作中・上映中(竜 弓人)』
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HMM Book Review(書評コーナー)
『最近愉しんだ本(小泉 喜美子) 栄耀の餅の皮』『新刊評(芳野 昌之/香山 二三郎)』『みすてり長屋(都筑 道夫/瀬戸川 猛資/関口 苑生)』『ノンフィクション(高田 正純)』『日本ミステリ(新保 博久)』『チェックリスト&レビュー(山下 泰彦)』
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最後に
『響きと怒り』『編集後記(S/N/K)』

No.300 8点 はじめて話すけど… 小森収インタビュー集- 評論・エッセイ 2020/04/29 19:01
2002年出版。各務三郎(太田博)といえば、早川書房ミステリマガジンには功労者としての扱いが(常盤新平とともに)公式にはされておらず(今もそうなのかな?)何かあったんだろうなあ、とずっと思っていた。日影丈吉さんが編集長交代の数号後にHMMの連載エッセイ中で「太田くんが辞めたそうだ。組合がらみということだが残念…」(未確認引用)と書いていて、ああそうか、組合トラブルだったのか…と納得はしたものの、事情がずっとわからなかった。
最近活躍中の編集者、小森さん(各務の大ファンらしい)がインタビューしてくれてて、すごく面白い。
結局、二人が早川を去った理由はジュニアとの確執らしいので、今でも早川公式はネタに出来ないよね…
他にもHMM関連では石上三登志も収録されています。当時のHMMファン必読。
その他は皆川博子、三谷幸喜、法月倫太郎(アントニー・バークリーについて)、松岡和子、和田誠(この本の表紙絵も担当)のインタビューを収録。
ちゃんと相手の知られざるネタを引き出していて非常に素晴らしいインタビュー集。誰か一人でも引っかかるならお薦めです。

No.299 10点 推理小説の整理学〈外国編 ゾクゾクする世界の名作・傑作探し〉- 評論・エッセイ 2020/04/29 17:06
★★★★★ミステリだけではない美学への入門書(2014年11月9日アマゾンに投稿)
都筑先生に次ぐハヤカワミステリマガジンの立役者(準備は常盤新平さんがしたらしいですが)。 編集長時代には、マンガあり、アニメ評あり、立派な映画評論ありの黄金時代をもたらしました。正統派からは文句が出たのでしょうが… この本も、当時は先進的だったと思いますが、今では真っ当なスタンダード、保守派と思われるくらいの名作をリストアップしています。面白い本を見つける方法も伝授しており、確かに役に立ってます。他にも著者の美学が学べました。大真面目に読みすぎですか?でも田舎の少年にはとても有難かった水先案内だったのです。
(現在、4人が役に立ったって評価いただいています…)
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各務三郎なら私はこっち。1977年7月かんき書房出版。ミステリ(というか大人の小説。札幌の駅地下の書店、弘栄堂にずらっと並んだHPBが眩しかった… 当時もっと田舎に住んでたので…)を読み始めた頃に見つけ、スポンジのように吸い込み、多分いろいろな物の見方に大きな影響をうけているはず。でも書庫の奥にあるのか全然見つかりません。(見つけたらちゃんと読んで追記する予定。上記のアマゾン評も記憶だけで書いています。)
記憶の中ではバランスの良い入門書で、コロンボとかにも触れてたり、後から集めたHMMの太田博編集長時代を彷彿とさせる内容だった、はず。
桜井一の表紙絵も良い。
『ミステリ散歩』は未読なので、この機会にそっちも入手するつもりです…

No.298 5点 ミステリマガジン1984年4月号- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2020/04/27 20:03
HAYAKAWA’S MYSTERY MAGAZINE 1984年4月号 <336>
小特集は「女たちの殺人物語」と題して3篇。234ページ。定価580円。
表紙イラストは岡本 信次郎、表紙・扉・目次構成は島津 義晴と野々村 晴男。表紙にはMECHANICALの文字とゼンマイのネジが毎号描かれているようだ。今号のメインはベルリン風キャバレー・ダンサー。裏表紙の広告は大塚製薬 カロリーメイトとポカリスエット。
ダイアン・ジョンスンの『ハメット伝』は連載3回目、作家修行時代(1921〜1926)が載ってる。稿料について下で結構いろいろ書きました。他は都筑『出来るまで』と瀬戸川『睡魔/名作篇』はやはり見逃せない。リレー小説はバークリーがウィムジイ卿を引っさげて登場。
雑誌全体の暫定評価は5点として、収録短篇を読んだら追記してゆきます。
小説は10篇。以下、初出はFictionMags Index調べ。カッコ付き数字は雑誌収録順。
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⑴ “Murder by Dog” by Christianna Brand (初出HMM 1984-4書き下ろし)「人間の最良の友」 クリスチアナ・ブランド 中村 凪子 訳(挿絵 山野辺 進)
英語タイトルの記載がない。上記はWebサイト“ミステリー・推理小説データベース Aga-Search”にあったものを採用。
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⑵ Mary Postgate by Rudyard Kipling (初出Nash’s and Pall Mall Magazine 1915-9 挿絵Fortunino Matania; 米初出The Century Magazine 1915-9) 「メアリ・ポストゲイト」ラドヤード・キプリング 山本 俊子 訳(挿絵 佐治 義隆): 評価7点
コンパニオンについての話だと解説にあったが、そーなのか? こーゆー話を書くキプリングは只者ではないなあ。途中で泣きそうになりました。実にハードボイルドな文体。翻訳は不安定なのが残念。(最後のほう、ニュアンスを掴みかねてる匂いがする… しかしながら原文を読んでも私の英語力ではよくわからない…) Mataniaの素晴らしいイラストはWebで見つかるので是非。
p40 建物のすぐ裏手で銃声—と二人には聞こえた(a gun, they fancied, was fired immediately behind the house): このgunは大砲だろう。数行あとで「爆弾(A bomb)」と言っている。爆発音が、大砲を発射したようだった、ということ。
p42 鼻先が平になった弾丸(たま)をつめた大きな自動拳銃だった。この種のものは戦争のきまりで敵国の市民に対して使ってはならないことになっている…(a huge revolver with flat-nosed bullets, which latter, ... were forbidden by the rules of war to be used against civilised enemies): 試訳「大きなリボルバーと先端が平らな弾丸—それは…文明国の敵兵士に対して使用を禁じられているものだ…」ハーグ陸戦協定(1899)で定められた弾丸先端は固く尖っていなければならないルール、先端がフラットな弾丸は体内で潰れて拡がり、内部の損傷を悪化させ兵士を不必要に苦しめるためお互いにやめましょう、という国際協定。(野蛮人には適用されない。) この翻訳では意味が取りにくいし、「市民」ではなく「兵士」に対する規定だし(むしろ警察のほうが後ろの市民に2次被害を起こすのを避けるため体内を貫通しにくいフラットノーズ弾を使う)、リボルバーを自動拳銃と間違えている。
(2020-4-26記載)
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⑶ The Woman Who Loved a Moter-Car by Julian Symons (初出The Argosy(UK) 1968-10 挿絵David Knight)「モイラ — 車を愛した女」ジュリアン・シモンズ 水野谷 とおる 訳(挿絵 天野 嘉孝)
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⑷ The Belvedere by Jean Stubbs (初出”Winter's Crimes 3” 1971, ed. George Hardinge)「ファニー — 望楼」ジーン・スタッブス 山本 やよい 訳(挿絵 新井 苑子)
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⑸ Whip Hand by E. S. Gardner (初出Argosy 1932-1-23 as “The Whip Hand”) 「先手を打て」E・S・ガードナー 大井 良純 訳(挿絵 門坂 流)
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⑹ Captain Leopold's Gamble by Edward D. Hoch (初出AHMM 1980-11-19) 「レオポルド警部の賭け」 エドワード・D・ホック 木村 二郎 訳(挿絵 畑農 照雄)
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⑺ 「黒いレストラン 第1話 理想的な夫」東 理夫 (挿絵 河原まり子)
連載ショートショート。今月の料理(レシピ付き)はスプリング・ラム・レッグ・ロースト。
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⑻ A Piece of Cake by Ron Montana (初出AHMM 1981-3-4) 「ケーキの分け方」 ロン・モンタナ 竹本 祐子(挿絵 細田 雅亮)
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⑼ Passport in Order by Lawrence Block (初出AHMM 1966-2) 「逃げるが勝ち?」ローレンス・ブロック 和泉 晶子 訳(挿絵 楢 喜八)
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⑽ Ask a Policeman (単行本1933) リレー小説『警察官に聞け』連載第4回 「解答篇3 ウィムジイ卿の個人的助言」アンソニイ・バークリイ(Anthony Berkeley) 宇野 利泰 訳(挿絵 浅賀 行雄)
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HMM OPENING FORUMとして
『連想ゲーム(岡嶋 二人)』二人三脚の作家の秘密を公開。
『世界のミステリ作家を撮る(南川 三治郎)』文藝春秋のグラビアになった作家たち。撮影の苦労話。実家で文藝春秋を毎号とってたので懐かしいなあ。掲載号は捨てちゃったかな?
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Dashiell Hammett: A Life by Dian Johnson (1983)「ダシール・ハメット伝: ある人生」ダイアン・ジョンスン 小鷹 信光 訳 連載第3回「修行時代—サンフランシスコ(1921〜1926)」以下の日本円換算は当時の米国消費者物価指数を2020年と比較して算出したもの。1921年末のピンカートンからの日給は6ドル(=9504円、フル稼働で月額約24万円)。『マルタの鷹』のプロットはヘンリー・ジェイムズの『鳩の翼』(1902)がヒントだ、という。しかもハメットがジェイムズ・サーバーにそう言ったらしい。『鷹』の前にぜひ読まなくては。しかし内面描写溢れるヘンリー・Jの文章がハメットに(逆の)影響を与えた、というところがとても興味深い。復員局補償金はタコマ時代の最悪期(1919か1920か)に月額80ドル(=13万円、1919年基準)、回復期病院転院時に40ドルになり、退院後(1921年5月頃)は20ドル(=31680円)に下げられた。1922年に遡及適応される追加補償金月額2ドル50セント(=4208円)を勝ち取り(合計額16ドル21セント…何の合計?)、1924年4月末に遡及適応される月額51ドル68セント(=81034円)を得る。しかし5月で打ち切り。Black Mask1924年8月に掲載されたハメットの詫び状、ずいぶん気弱な感じ。(小鷹さんは「ハメット唯一の見苦しい文章」と評している。) 体調がよっぽど悪かったのか。ボブ・ティール殺し(突っ返されたThe Question’s One Answerのことだと思う。結局、別の雑誌に載った)、そんなに酷い作品かなあ? 1926年7月、結核で血を吐いて倒れた時、復員局補償金月額90ドル(=14万円)を得た。パルプ雑誌での稿料は1語2セント。
※ パルプの稿料について、Richard Laymanの”Corkscrew and Other Stories”序文(2016)によると、Black Maskは渋かったらしく(記録が残っていないが)ハメットは1語1セントだったようだ。(他のパルプ雑誌のスター作家は20年代中盤に1語2セント、後半には3セントになったという) ハメットが1語2セントに昇格したとすればショー編集長時代か? (1926年コディ編集長は稿料の値上げを拒否しハメットはBlack Maskを去る。この時、ガードナーが自分の稿料を削ってハメットに上乗せしろ!と提案したのは有名な話。ガードナーにここまで言わせるコディって結構なヤツだったのでは?) ハメット短篇の語数はサットン編集長時代は2篇を除き6000語以下、コディ時代は14000語。1語1セント、14000語として140ドル(=22万円、1926年基準)。比較の対象にはあまりならないが、新人作家フィッツジェラルドがSaturday Evening Post初短篇(1920)で400ドル(=64万円)。気前の良いポスト誌の稿料とは言え、新人作家と約3倍の差。ハメットが自作を「屑」と卑下する気持ちもわかりますよね…
ところで上述の序文を読んで初めて気づいたのだが(←何のために年代順に読んでたんだろうねえ)、サットン時代のオプものには派手な銃撃戦などは全然ない(例外はBodies Piled Up)。死体とアクションが山盛りになるのはコディ時代。よく考えると、コディが掲載拒否した2作のいずれにもそーゆー場面が登場しない。お馬鹿なコディ&副編ノースには作品の品質より血みどろさがウケるということしか理解出来なかったのだろう。(ハメット詫び状の妙なへりくだりぶりは、お前ら、そんなに文章が読めないのかよ?という皮肉だったのか、と腑に落ちました。)
(この項目、2020-4-28大幅に追記)
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読み物は
『続・桜井一のミステリマップ: ワインは死の香り』地図が大雑把すぎる…
『共犯関係(青木 雨彦)1 女神について』映画『ディーバ』についていつもの雨彦節。
『連載対談 田村隆一のクリスティー・サロン4 ジェーン ・オースティンの伝統(小池 滋)』
『ペイパーバックの旅(小鷹 信光)16 M・E・チェンバーのMilo Marchシリーズ』
『アメリカン・スラング(木村 二郎)4 ダウンタウン物語』『フィルム・レビュー(河原 畑寧)「ジョーズ3」の立体度は?』この頃、また3Dがちょっと流行ってたらしい。
『ロジャー・L・サイモンの東京日記(木村 二郎)』『名探偵登場(二上 洋一)16 おしどり探偵—シンとマユコ』『フットノート・メロディ(馬場 啓一)16 ミステリに於ける船旅について』
『ハメットにダッシュ!(青山 南)4 銀色の目の女』『血の収穫』はつまらないがオプものの中短篇は無類に面白い、という感想。
『推理作家の出来るまで(都筑 道夫)96 馬小屋図書館』今回は特許すべき事なし。
『愛さずにはいられない(関口 苑生)4 少年よ試練の壁に耐えてタテ!』
『新・夜明けの睡魔/名作巡礼(瀬戸川 猛資)4』ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』ほとんどSF的にクレイジー、と評している。
『ミステリ漫画(梅田 英俊) 没頭…ってことでしょうかね』
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Crime Fileとして海外ミステリ情報を
『Crime Column(オットー・ペンズラー)28 伝統的“ハードボイルド”の図式』『Mystery Mine(木村 二郎)世界まるごとジョン・D・マクドナルド』『Study in Mystery(山口 勉)カセットで聴くミステリ案内』カセットの時代か。懐かしい…『外国の出版社めぐり9 モロー社』『ペイパーバック散歩(宮脇 孝雄)W・マーシャルの「骸骨詐欺事件」』『製作中・上映中(竜 弓人)』
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HMM Book Review(書評コーナー)
『最近愉しんだ本(紀田 順一郎)劇画的ホラ話の傑作』『新刊評(芳野 昌之/香山 二三郎)』『みすてり長屋(都筑 道夫/瀬戸川 猛資/関口 苑生)』『ノンフィクション(高田 正純)』『日本ミステリ(新保 博久)』『チェックリスト&レビュー(山下 泰彦)』
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最後に
『響きと怒り』『編集後記(S/N/K)』

No.297 5点 ミステリマガジン1984年3月号- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2020/04/26 09:44
HAYAKAWA’S MYSTERY MAGAZINE 1984年3月号 <335>
1983年翻訳ミステリ回顧。特集は「罠をしかけろ!」と題して騙し小説を4篇。234ページ。定価580円。
表紙イラストは岡本 信次郎、表紙・扉・目次構成は島津 義晴と野々村 晴男。表紙にはMECHANICALの文字とゼンマイのネジが毎号描かれているようだ。今号のメインは女流飛行士、飛行機の後部が見えている。裏表紙の広告は大塚製薬 カロリーメイトとポカリスエット。
ダイアン・ジョンスンの『ハメット伝』は連載2回目だが、私が一番興味がある作家以前を書いた第2〜3章(ほぼ全文らしい)が載ってるので、下の方でトリビアも含め詳しく検討。他は都筑『出来るまで』と瀬戸川『睡魔/名作篇』が見逃せない感じ。田村隆一対談にはカンシンシロー先生(乾 信一郎、昔「信四郎」というペンネームも使ってたことから)登場、新青年時代の興味深い話。(詳細は下で)
雑誌全体の暫定評価は5点として、収録短篇を読んだら追記してゆきます。
小説は11篇。以下、初出はFictionMags Index調べ。カッコ付き数字は雑誌収録順。
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⑴ Last Year's Murder by Edward D. Hoch (初出HMM 1984-3書き下ろし)「去年の殺人」エドワード・D・ホック 木村 二郎 訳(挿絵 深井 国)
国さんのイラストが素晴らしい。短篇の価値五割増し。
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⑵ Hurry, Hurry, Hurry! by Paul Gallico (初出Everywoman’s Magazine 1957-1 as “The Faker”)「急げや急げ」ポール・ギャリコ 松下 祥子 訳(挿絵 天野 喜孝)
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⑶ Emergency Exit by Michael Gilbert (初出Argosy(UK) 1968-9 as “Mr. Calder Acquires a Dog” 挿絵David Nockels)「非常出口」 マイケル・ギルバート 汀 一弘 訳(挿絵 野中 昇)
コールダー&ベーレンズ(Daniel John Calder & Samuel Behrens)もの。なお初出のArgosyは同名の米国雑誌とは関係ないらしい。ヘンリー・ウッド夫人のThe Argosy誌(1865-1901)とも繋がりはない。
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⑷ One Down by Carroll Mayers (初出AHMM 1981-4-1)「ワン・ラウンド終了」キャロル・メイヤーズ 嵯峨 静枝 訳(挿絵 細田 雅亮)
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⑸ A Deal in Overcoats by Gerald Kersh (初出Playboy 1960-12 as “Oalámaóa”)「厚塗りの名画」 ジェラルド・カーシュ 山本 やよい 訳(挿絵 楢 喜八)
詐欺師カーミジン(Karmesin)もの。
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⑹ The Iron Collar by Frank Sisk (初出AHMM 1965-6)「鉄のカラー」フランク・シスク 秋津 知子 訳(挿絵 佐治 嘉隆)
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⑺ Hérédité chargée par Frédéric Dard (初出Ellery Queen Mystère Magazine[仏EQMM]1958-2)「悪い遺伝」 フレデリック・ダール 長島 良三 訳(挿絵 じょあな・じょい)
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⑻ La main heureuse par Louis C. Thomas (初出不明)「つき」ルイ・C・トーマ 長島 良三 訳(挿絵 細田 雅亮)
Louis C. Thomas(1921-2003)の長篇デビューは1953年のJour des morts(Thomas Cervion名義)。
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⑼ Dream of a Murder by C. B. Gilford (初出AHMM 1965-5)「殺人の夢」 C・B・ギルフォード 坂口 玲子 訳(挿絵 畑農 照雄)
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⑽ A Burning Issue by Susan Dunlap (初出AHMM 1981-4-1)「後のまつり」 スーザン・ダンラップ 栗山 康子 訳(挿絵 天野 嘉孝)
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(11) Ask a Policeman (単行本1933) リレー小説『警察官に聞け』連載第3回 「解答篇2 サー・ジョン、きっかけをつかむ」グラディス・ミッチェル(Gladys Mitchell) 宇野 利泰 訳(挿絵 浅賀 行雄)
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HMM OPENING FORUMとして
『インスタント・ママ、奮戦す(深町 眞理子)』高校生の甥を預かることになった独身翻訳家。1990年から翻訳者冥利に尽きる大仕事、と予告。ホームズ全集のことでしょうね。『小説『1984年』のミステリー(新庄 哲夫)』オーウェルは探偵小説の愛読者だったか?『下町のお正月(日影 丈吉)』深川の昔の正月風景から。
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Dashiell Hammett: A Life by Dian Johnson (1983)「ダシール・ハメット伝: ある人生」ダイアン・ジョンスン 小鷹 信光 訳 連載第2回「少年—青年時代(1894〜1921)」
私の興味はいつも「その人が完成する前」にある。功成り名遂げてしまった後の話は「あとは皆さんご存知の通りで…」で十分。そんな大事な部分がこの程度(雑誌で14ページ足らず)しか書かれていないのは残念。資料が少なく関係者の証言などは拾えなかったのか。以下の日本円換算は当時の米国消費者物価指数を2020年と比較して算出したもの。
ハメットはボルティモア育ち。当時の人口は508,957(1900年全米6位, Webページ “Population of the 20 Largest U.S. Cities, 1900–2012”による) 14歳(1908)で経済的窮乏で学校を辞めた。1915年頃にはピンカートンの事務員からオプに昇格、週給21ドル(=58968円、月額25万6千円)。西部に派遣されるようになり、一泊50¢か$1(=2808円)の宿で出張をこなした。1918年6月頃、陸軍に志願し、救護自動車小隊(Motor Ambulance Corps)に配属。1918年10月にスペイン風邪に感染。1919年5月、兵役不適格者に認定され、月額40ドル(=65560円)の恩給付きで除隊。ピンカートンに戻るも体調不良で[1919年?]秋にタコマで就労不能の宣告を受ける。銃を発砲し人を傷つけた経験はピンカートン社時代の警備任務時のたった1度だけらしい。
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読み物は
『続・桜井一のミステリマップ: 隅の老人のロンドン』全然、ひねこびて無いので肖像はペケ。ポリーの髪型も当時の英国女性風ではないと思う。
『連載対談 田村隆一のクリスティー・サロン3 新青年のクリスティー(乾 信一郎)』当時タイトルは訳者が勝手につけ、原文も訳者持ち込みだった、という。英国赴任の官僚には探偵小説の読書が義務付けられている、という噂があった。(当たり障りのない会話ネタとして当時使われていたらしい) 途中、田村隆一が、割り箸のせいで森林が破壊されてる!と関係ない話題で一人盛り上がっている。当時の日本の普通の新進作家は初版300部。
『ペイパーバックの旅(小鷹 信光)15 ハント・コリンズの処女作Cut Me In(The Proposition)』エヴァン・ハンターの筆名。
『アメリカン・スラング(木村 二郎)3 ミッキー・マウスがうようよ』『フィルム・レビュー(河原 畑寧)古典的な図式をまもる『銀河伝説クルール』』『名探偵登場(二上 洋一)15 カニさんウマさん名コンビ—蟹沢警部補と相馬刑事』
『新・夜明けの睡魔/名作巡礼(瀬戸川 猛資)3』ミルン『赤い館の秘密』瀬戸川さんもネタバレ嫌い派のようなのでチャンドラーに全面的に同意、と書いて詳しく検討してない。本格ものとして評価しないが好き、という立場。ううむ。瀬戸川さんには父との確執があったのかな?
『ハメットにダッシュ!(青山 南)3 インタルード—ハメット円環』個人的連想ゲームが上手く繋がると嬉しいよね、という青山 南らしいネタ。
『推理作家の出来るまで(都筑 道夫)95 鬼たちの反発』本国から怒られたクリスティー特集は1956年12月号〈6〉。海外版掲載権は作品別に指定されているのか… 当時の翻訳の稿料が明記されている。超トップで四百字250円、ひとりかふたり。200円が何人か。150円が普通だった。新人は120円くらい。社内の場合は100円。当時の挑発的な日本ミステリ界への提言は意図的に、刺激的に書いていた、という。(まーそれは読めばわかる)
『愛さずにはいられない(関口 苑生)3 少年、おい、安っぽくなるなよ』『フットノート・メロディ(馬場 啓一)15 ミステリに於けるドラッグについて』『ミステリ漫画(梅田 英俊) 縄縛』
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1983年翻訳ミステリ回顧、として
『アンケート 私のベスト3』作家・評論家・翻訳家38人の回答。
『リレー対談「本格は当り年、冒険はやや不作」(吉野 昌之VS瀬戸川 猛資/北上 次郎VS香山 二三郎)』
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HMM Book Review(書評コーナー)
『最近愉しんだ本(森 詠)燃えさかる火のそばで』『新刊評(芳野 昌之/香山 二三郎)』『みすてり長屋(都筑 道夫/瀬戸川 猛資/関口 苑生)』『ノンフィクション(高田 正純)』『日本ミステリ(新保 博久)』『チェックリスト&レビュー(山下 泰彦)』
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Crime Fileとして海外ミステリ情報を
『Crime Column(オットー・ペンズラー)27 ‘83年秋の注目作紹介』『Mystery Mine(木村 二郎)栄光のパルプたち』『Study in Mystery(山口 勉)新作ミステリ予告篇』『外国の出版社めぐり8 ハッチンソン社』『ペイパーバック散歩(宮脇 孝雄)スティーヴン・キング「異なれる四季」』『製作中・上映中(竜 弓人)』
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最後に
『響きと怒り』『編集後記(S/N/K)』

No.296 5点 ミステリマガジン1984年1月号- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2020/04/25 22:27
HAYAKAWA’S MYSTERY MAGAZINE 1984年1月号 <333>
女流作家特集。234ページ。定価580円。
表紙イラストは岡本 信治郎、表紙・扉・目次構成は島津 義晴と野々村 晴夫。表紙はMECHANICALの文字、銃を発射する探偵(自動人形?)とゼンマイのネジ。裏表紙の広告は大塚製薬 カロリーメイトとポカリスエット。
フィリップ・ロスの翻訳などでお馴染み(じゃないかなあ)青山 南の「ハメットにダッシュ!」の連載があったのを思い出し、単行本化されてないようなので、掲載年のHMMを大人買い。新たな発見があったけど、昔好きだった青山 南の筆風が今の好みからかなり外れていることに気付いてちょっとショック… 特集の女流作家ではセイヤーズの現行本が『ピーター卿の事件簿』しかないのは残念!いつか全貌を…と張り切ってる浅羽姉さん、これもその後の展開を知るものにとっては感慨深い…
雑誌全体の暫定評価は5点として、収録短篇を読んだら追記してゆきます。
小説は12篇。以下、初出はFictionMags Index調べ。カッコ付き数字は雑誌収録順。
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⑴ A Machine to Say Hello by Henry Slesar (初出 HMM 1984-1書き下ろし)「ハローという機械」ヘンリイ・スレッサー 朝倉 隆男 訳(挿絵 細田 雅亮)
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⑵ Means of Evil by Ruth Rendell (単行本1979)「悪の手段」ルース・レンデル 深町 眞理子 訳(挿絵 山野辺 進)
ウェクスフォード主任警部もの。
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⑶ Akin to Love by Christianna Brand (初出Rogue 1963-4)「愛に似て…」クリスチアナ・ブランド 吉野 美恵子 訳(挿絵 中村 銀子)
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⑷ Silence Burning by Helen McCloy (単行本“The Singing Diamonds” 1965)「八月の黄昏に」 ヘレン・マクロイ 嵯峨 静枝 訳(挿絵 佐佐木 豊)
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⑸ Cardula and the Locked Room by Jack Ritchie (初出AHMM 1982-3-31)「カーデュラと鍵のかかった部屋」 ジャック・リッチー 島田 三蔵 訳(挿絵 畑農 照雄)
ジャック・リッチー(1922-1983)追悼。
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⑹ The Vindictive Story of the Footsteps That Ran by Dorothy L. Sayers (初出 単行本“Lord Peter Views the Body” Gollancz 1928)「逃げる足音」 ドロシイ・L・セイヤーズ 浅羽 莢子 訳(挿絵 佐藤 喜一): 評価5点
ピーター卿もの。仲良くバンターを連れて友人宅へ。二階の足音が気になるピーター卿。謎に魅力が無く平凡作。
p118 誘われても主人と食卓を共にしないバンター: 執事道を追究する男。
p118 一九二一年の平和な夏の日曜の午後(a Sunday afternoon in that halcyon summer of 1921): 本作冒頭のピーター卿の言動からWhose Body事件(私の推定では素直に読めば1920年だが他の情報から考えると1921年か1922年の「11月」)の後っぽい。ピーター卿最初の事件アッテンベリー事件は公式発表によると1921年(季節不明)なので、その後に遭遇した事件だとすれば、一応、年代記に収まるものの、繋がりが悪い。作者の念頭にはWhose Bodyの当初の設定年である1920年があったのだろう。
(2030-4-25記載; 2020-4-26修正)
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⑺ The Golden Girl by Ellis Peters (初出This Week 1964-8-16)「黄金の娘」 エリス・ピーターズ 山本 俊子 訳(挿絵 天野 喜孝)
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⑻ The Listening by Celia Dale (初出AHMM 1981-6-22)「聞こえる」 シリア・デイル 大村 美根子 訳(挿絵 佐佐木 豊)
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⑼ The New Broom by Donald Olson (初出AHMM 1981-10-14)「新米掃除婦」 ドナルド・オルスン 山本 やよい 訳(挿絵 細田 雅亮)
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⑽ Inspector Gothe and the Miracle Baby by H. R. F. Keating (初出Catholic Herald 1970-12-4 as “Inspector Ghote and the Dangerous Baby”)「ゴーテ警部と奇跡の赤ん坊」H・R・F・キーティング 望月 和彦 訳(挿絵 畑農 照雄)
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(11) My Christmas Carol by Budd Schulberg (初出不明)「わたしのクリスマス・キャロル」バッド・シュールバーグ 沢川 進 訳(挿絵 中村 銀子)
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(12) Ask a Policeman (単行本1933) リレー小説『警察官に聞け』連載第1回 問題篇 ジョン・ロード(John Rhode)
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HMM OPENING FORUMとして
『カトリーヌ・アルレー会見記(長島 良三)』来日した機会にインタビュー。アルレーはアイリッシュとハドリー・チェイスから影響を受けた、と言っている。『海原翔ける淑女たち(高橋 泰邦)』大阪帆船祭りの記事。8カ国10隻が集ったイベント。
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読み物は
『第14回バウチャーコン(E・D・ホック/早川 浩)』ニューヨーク開催のレポート。『続・桜井一のミステリマップ: ゴーリキー・パーク』人気企画の連載再開!『メグレのパリ(長島 良三)最終回 パリの女』街娼のインタビュー。『新・夜明けの睡魔/名作巡礼(瀬戸川 猛資)1』あらためて古典を振り返る試み。第1回目は総論。『フットノート・メロディ(馬場 啓一)13 ミステリに於けるブランデーについて』
『ハメットにダッシュ!(青山 南)1 ハンプティ・ダンプティ』オプがチビで小太りだというのに気付いてびっくりしている。
『推理作家の出来るまで(都筑 道夫)93 また多町がよい』EQMM日本語版、刊行前夜のドタバタ。表紙の抽象画採用はポケミスの成功体験から。翻訳者名は田村隆一案では小説の終わりにカッコで記す予定だったが乱歩に反対され撤回となった。誤訳やデタラメ訳が多かった従前の慣習を引きずらなくて良かった、と都筑は感じている。準備の途中で田中 潤司がいなくなった事情はうやむや。
『ジャック・リッチーを悼む(木村 二郎/丸本 聰明)』『連載対談 田村隆一のクリスティー・サロン1 ディクタフォンの秘密(数藤 康雄)』ファンクラブ結成のきっかけを語る。『ペイパーバックの旅(小鷹 信光)13 ジム・トンプスンのThe Killer Inside Me』この時点でポップ1280未読だったとは。『アメリカン・スラング(木村 二郎)1 私立探偵が多すぎる』『フィルム・レビュー(河原 畑寧)二重底の仕かけ』『ミステリがボクを育ててくれた(東 理夫)24 一年一度、一念発起』『愛さずにはいられない(関口 苑生)1 子供の顔は請求書』『名探偵登場(二上 洋一)13 白晢美貌の天才探偵 神津 恭介①』
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Crime Fileとして海外ミステリ情報を
『Crime Column(オットー・ペンズラー)25 探偵はルネッサンス型からスペシャリスト型へ』『Mystery Mine(木村 二郎)尋問自供パート2』『A J H Review(アレン・J・ヒュービン)‘82年下半期の評判作』『ペイパーバック散歩(宮脇 孝雄)P・ディキンスンの「ツルク」』『製作中・上映中(竜 弓人)』
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HMM Book Review(書評コーナー)
『最近愉しんだ本(石川 喬司)裸の特異点』『新刊評(芳野 昌之/香山 二三郎)』『みすてり長屋(都筑 道夫/瀬戸川 猛資/関口 苑生)』『ノンフィクション(高田 正純)』『日本ミステリ(新保 博久)』『チェックリスト&レビュー(山下 泰彦)』
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最後に『響きと怒り』『編集後記(S/N/K)』

No.295 5点 EQMM日本語版 1957年4月号 <10>- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2020/04/25 21:07
表紙は勝呂 忠。広告は裏表紙1ページ色刷り「住友海上火災」、裏表紙の内側1ページ白黒「江戸川 乱歩 海外探偵小説作家と作品」予約注文すると乱歩署名本が手に入るという。
定価100円(地方103円)、132ページ。
カットは吉田 政次。
古い作品が多くて嬉しい号。編集後記で都筑さんが「オールドファンに楽しんでいただく号」と言っています。
EQMM日本語版に載った小実昌さんの翻訳を追いかける企画です。
まだ途中ですが、暫定評価5点として、読んだら追記してゆきます。
以下、初出はFictionMags Index調べ。
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⑴ Crime Without Passion by Ben Hecht (初出The Grand Magazine 1933-9)「情熱なき犯罪」ベン・ヘクト 三樹 青生 訳
同名の映画の原作。
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⑵ The Dusty Drawer by Harry Muheim (初出Collier’s 1952-5-3 挿絵C. C. Beall)「埃だらけの抽斗」ハリイ・ミューヘイム 森 郁夫 訳
EQの解説(EQMM 1956-3)付き。
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⑶ I Killed John Harrington by Thomas Walsh (初出Collier’s 1937-6-12 as “Light in Darkness”)「俺が殺ったんだ」 トマス・ウォルシュ 中田 耕治 訳
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⑷ Pastorale by James M. Cain (初出The American Mercury 1928-3)「牧歌」 ジェイムズ・M・ケイン 田中 小実昌 訳: 評価6点
いかにもなハードボイルド風味の語り口。ただし私立探偵ものではない。田舎の犯罪の話。(だから「田園」というタイトルなのか) 小実昌さんの訳は快調。
p61 二十三ドル: 米国消費者物価指数基準1928/2020(15.09倍)で$1=1658円。23ドルは38134円。
p61 一セント銅貨…五セント貨…十セント貨(pennies... nickels... dimes): 当時のPenny銅貨は3.11g、Nickel貨は5.00g、Dime銀貨は2.27g、ということは$23なら全部Penny貨にすれば一番重くて7153gになる(一番軽くて522g)。7.153キロが全部Dime銀貨なら315ドル相当(=52万円)になるのだが…
(2020-4-25記載)
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⑸ £5000 for a Confession by L. J. Beeston (英初出1929年以前?、米初出EQMM1955-12)「自供書売ります」 L・J・ビーストン 田中 融二 訳: 評価6点
古めかしい意匠だが、野次馬根性を暴き立てられてるみたいで居心地が悪い… 手に汗握る、良い仕事。(2020-4-26追記: 博文館 世界探偵小説全集19 ビーストン集(1929)にこの作品の翻訳が収められているようだ。本作はこの作家としては珍しくない構成らしい。まあ大ネタは手癖としても周りを巻き込むシチュエーションが素晴らしいと思う)
p69 五千ポンド: これがいつの話だからわからないが、訳注では「約500万円」としている。(単純に当時のポンド円レート£1=約1000円を当てはめたもの。ただし日本物価指数基準1955/2015(6.07倍)なので当時の500万円は今の3000万円相当) 初出は1920年代と思われるので英国消費者物価指数基準1925/2020(61.20倍)で£1=8683円、5000ポンドは4342万円。ちなみにEQMMリプリント時の1955年英国基準(26.41倍)なら£1=3747円で、5000ポンドは1874万円となる。(英国物価と日本物価の推移が異なるので、このような結果となった。実感は英国物価で考えた方が適切だと思う。話の中身を考えると億単位が欲しいところだが…)
p70 イングランド銀行発行の100ポンド紙幣: お馴染みWhite Noteのこと。スーシェ版ポワロにもちょくちょく出てきます。100ポンド紙幣はサイズ211x133mm。文字だけのシンプルなデザイン、裏は白紙です。
(2020-4-25記載)
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⑹ The Ministering Angel by E. C. Bentley (初出The Strand Magazine 1938-11 as “Trent and the Ministering Angel” 挿絵R. M. Chandler)「優しき天使」 E・C・ベントリイ 深井 淳 訳
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⑺ Dime a Dance by Cornell Woolrich (初出Black Mask 1938-2)「死の舞踏」コーネル・ウールリッチ 高橋 豊 訳
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⑻ Ransom by Pearl S. Buck (初出Cosmopolitan 1938-10)「身代金」 パール・S・バック 大門 一男 訳
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読み物は
『ぺいぱあ・ないふ: フレドリック・ブラウン 火星人ゴー・ホーム』『海外ニュースCriminals at Large』『みすてり・がいど 第2講 探偵小説とはなにか』
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最後に
『編集ノート(都筑 道夫/福島 正実/田村 隆一/小泉 太郎)』豪華なメンツの編集部ですね…

No.294 5点 EQMM日本語版 1962年8月号 <74>- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2020/04/19 19:12
表紙は勝呂 忠。色づかいはグレー・黒・赤。裏表紙の広告はシキボウ カラーシーツ。
特大号なので定価180円、218ページ。
カットは北園 克衛。7周年記念特大号として、表紙には珍しくロス・マクドナルドとエド・マクベインの名前と作品名を表示。
まだ途中ですが、全体の暫定評価は5点として、短篇小説を読んだら追記してゆきます。
収録された小説は8篇。初出はFictionMags Index調べ。
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⑴ Only by Running by E. S. Gardner (初出This Week 1952-5-11 (+1)二回連載 as “Flight Into Disaster”)「逃げる女」 E・S・ガードナー 田中 融二 訳
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⑵ Ambitious Cop by William Fay (初出Black Mask 1949?; EQMM 1955-3)「野心家刑事」 ウィリアム・フェイ 田中 小実昌 訳: 評価6点
ブルックリンの安アパート、5月の朝。刑事が目をさます。たった一日で街の嫌われ者になったのだ…
なかなか良い話。作中に1947年10月という日付が出て来る。EQMM再録時にブラック・マスクから、としているようだが、Black Mask1948-6から1949-12までを探したが該当作らしきものが見当たらない。小実昌さんの訳は快調。
p24 七ドル: 米国消費者物価指数基準1948/2020(10.73倍)で$1=1179円、$7は8251円。手持ちの金。
p24 三八口径の拳銃: ポリス・スペシャルだと言う。手がかりは全く無いがコルトっぽい。
p26 二二口径: ライフルらしい。
p28 十五セント玉ぐらいの穴: 米国硬貨に15セント玉は存在しない。10セント(Dime, 17.91mm)か25セント(Quarter, 26.26mm)の誤植。どっちかなあ。
p29 イタリア製ベレッタ拳銃: ヨーロッパ戦線からもってかえったもの。デザインがカッコ良いM1934だろう。
(2020-4-19記載)
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⑶ The Master Stroke by Harold R. Daniels (初出EQMM 1960-10)「最高の演技」 ハロルド・R・ダニエルズ 宇野 輝雄 訳
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⑷ Origin of the Detective Business by Newton Newkirk (初出Wood-Morgan Detective Agency 1931?; EQMM 1951-10)「探偵商買ことはじめ」 ニュートン・ニューカーク 稲葉 由紀 訳: 評価5点
小説というより戯文だが… まあ起源なら基本的にその時代からか。
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⑸ Eeny Meeny Murder Mo by Rex Staut (初出EQMM 1962-3)「ど・れ・が・殺・し・た?」 レックス・スタウト 佐倉 潤吾 訳
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⑹ 「かなしい二人」 結城 昌治(絵 東 君平)
<おとなのえほん>ショート・ショート絵物語と題して連載。登場する作者と絵師は毎号異なるようだ。
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⑺ Storm by Ed McBain (初出Argosy 1961-12 as “Murder on Ice” 挿絵Lou Feck)「雪山の殺人」 エド・マクベイン 井上 一夫 訳
87分署シリーズ。
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⑻ Trouble Follows Me by Ross Macdonald (単行本Dodd Mead & Co. 1946, as by Kenneth Millar)「トラブルはわが影法師 第一部 オワフ島」 ロス・マクドナルド 小笠原 豊樹 訳(長篇分載1)
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「自分を語る3」レイモンド・チャンドラー 清水 俊二 訳
書簡集の抄訳
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読み物は
『マイ・スィン(丸谷 才一)11 チャンドラー プレイバック』『隣の椅子(有馬 頼義)45』『Mystery on the wave(刺片子)テレビの優等生』『ミステリ・ニュー・ウェイヴ(sin)エドガーズ決定』『紙上殺人現場(大井 広介)その32』『あんたにそっくり(美術評論家 湯川 尚文)』『狂乱の20年代 めりけん残酷物語(大原 寿人)電気椅子にすわった女』(挿絵 金森 達)『第四回EQMM短篇コンテスト最終審査報告』『審査員選後評(佐藤 春夫、福永 武彦、大井 広介、都筑 道夫)』『東京三面鏡(青木 雨彦)28』『探偵小説風物詩(中内 正利)』

No.293 7点 探偵コンティネンタル・オプ- ダシール・ハメット 2020/04/18 12:23
グーテンベルク21の電子本(砧 一郎 訳)で読了。翻訳は意外と古くなっていないが「ぼく」では若過ぎる。全体的にもう少しこなれた感じに出来そう。是非とも創元社は若い翻訳者を起用してブラック・マスク等の初出テキストに準拠した『シン・ハメット短篇全集』を刊行して欲しい。(←多分、売れないと思う…)
以下は初出順に並べ直し。カッコ付き数字はこの本の収録順。初出データは小鷹編『チューリップ』(2015)の短篇リストをFictionMags Indexで補正。K番号はその短篇リストでの連番。#はオプものの連番。
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⑶ The Golden Horseshoe (初出The Black Mask 1924-11)「金の馬蹄」K30 #13: 評価6点
スピーディーな展開で地に足がついた捜査手法だが、死体は大盛り過ぎ。荒々しい大男のキャラ描写が上手。ダメ男の弱さも理解している。ふと思ったがTV映えしそうな話。1920年代米国を忠実に映像化するなら、オプものは派手だし魅力的な女も出てくるしで良いチョイスだと思う。(2022-2-11原文入手。追加分は❤︎で示した)
p1993/4344 ニッケルめっきした安ものの32口径(❤︎a cheap nickel-plated .32)♠️なんとなくリボルバーな感じ。
p1993 十ドル♠️米国消費者物価指数基準1924/2020(15.13倍)、$1=1662円で換算して16620円。
p2015 ハモウチャ(❤︎Jamocha)♠️悪党の通称。語感が面白いが何由来だろう? 原文発注中。(2022-2-11追記: java+mochaでコーヒー、(クロンボの)間抜け野郎、という意味らしい。発音はジャモウカ)
p2131 となりの部屋にはいり♠️Black Mask誌の原文ではコックニーたっぷりの歌が挿入されている。汚いヤク中街のかわい子チャン、彼氏とへべれけ、このアマ、夜じゅう大騒ぎ… みたいな歌詞。(❤︎2022-2-11追記)
p2421 五ドル♠️ほんのちょっとした手伝いの報酬
p2484 コンビネーション♠️ツナギの下着?パジャマの代わりに身につけようとしている。
p2524 古い黒しあげのピストル♠️お馴染みオプの古いリボルバー。オプならS&Wだと勝手に想像、普段使いなら短銃身のミリタリー&ポリスを推す。
(2020-4-17記載; 2022-2-11追記)
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⑷ Who Killed Bob Teal? (初出True Detective Mysteries 1924-11 挿絵画家不明)「だれがボブ・ティールを殺したか」K31 #14: 評価6点
ブラック・マスクが買わなかった作品。それで実話系雑誌に掲載された。(掲載時の作者名はDashiell Hammett of the Continental Detective Agencyとなっていて実話っぽさを盛り上げている)
探偵らしい捜査と活劇の話。冒頭のネタがラストで有耶無耶、という評価(小鷹さん)があるが、私はこれで良いと思う。当時既に仲間の死がテーマのおセンチ小説は沢山あったはず。現実はこんなもんだよ、とハメットが言ってるような気がする。
なお、Dead Yellow Women(1947)収録のダネイ版は随分語句を削っているが、この翻訳はオリジナル・テキストによるもののようだ。(Don Herron主宰のWebサイトでざっと確認) 単行本は翻訳時(1957)にはダネイ版しか無かったような気がするが、砧さんは正しいテキストをどこで入手したのだろう?
p2749 三二口径(a thirty-two)…小型の自動ピストル(p2923, a small automatic pistol)◆当時のベストセラーはブローニングFN M1910だが、他にも候補は沢山。銃を特定出来る情報は記されていない。
p2789 実名をもち出すことが、迷惑のたねとなったり…◆ここら辺、実話っぽい文章が挿入されている。この雑誌用に追記したような感じ。
p2809 二重にくくれた顎(the cleft chin)◆この訳だと意味不明だが、ケツ顎のこと。「割れ顎」が正しい日本語のようだ。
p2906 二十五ドル◆上記の換算で41550円。妻の全財産。
p3018 三二口径のピストルの弾丸の、封を切ったばかりの箱がひとつ――十発足りなくなっている(a new box of .32 cartridges—ten of which were missing)◆2発発射されてて、ブローニングM1910拳銃にフルロードなら7発マガジンに、1発薬室に、で一応数は合う。でも多分そーゆー意図ではなく、犯人が使う時、手掴みで大体の分を持ってったらそれが10発分だった、ということだろう。(正確に10発使う場合、まずマガジンに7発入れて2発撃つ。そーするとマガジンに4発、薬室に1発入った状態になるので残りの3発をマガジンに込める、という段取り。あまりやる意味が無い…)
p3025 係長(the captain)◆「デカ長」と訳したいなあ。
p3048 通話ごとに料金を入れる式の電話(It’s a slot phone)◆1911年からニッケル、ダイム、クォーターの3スロット式の公衆電話50AがWestern Electric & Gray Telephone Pay Station Co.によって製造販売されている。ダイヤルは無く、まずいずれかの硬貨(普通は一番安いニッケル=5¢)を入れると交換手に繋がり、そこで番号を言って必要な料金のコインを入れるとコインによってベルが違う音を出す。正しい料金の音を確認したら交換手が相手に繋いでくれる、という仕組みだったらしい。(人間の聴力をあてにした機械…)
p3048 ニッケル◆当時の5セント貨幣(Nickel)はBuffalo or Indian Head(1913–1938)、25% nickel & 75% copper、直径21.21mm、重さ5.00g、83円。貨幣面の表示はFIVE CENTS。
(2020-4-19記載; 電話の説明がわかりにくかったので2020-4-24修正)
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⑸ The Whosis Kid (初出The Black Mask 1925-3)「フウジス小僧」K34 #16: 評価8点
カヴァー・ストーリー。表紙の男は小太りではないがオプなのか?(小説にはこーゆー場面はないと思うがオプのつもりで描いてるのだろう) まぎれもない傑作。どんどん物語に引き込まれる。キャラも良い。ハメットの良い仕事です。原文取り寄せ中。(2022-2-11原文入手。追加分は❤︎で示した)
p3180 [1917年の]立ち話から一、二週間たったころ、ぼくは、コンティネンタル探偵社のボストン支社を去って、軍隊生活にはいった。戦争がすむと、シカゴ支社に舞いもどり、そこに、二年ばかりぐずぐずしたあげく、サンフランシスコへ転任した(❤︎A week or two after this conversation I left the Boston branch of the Continental Detective Agency to try army life. When the war was over I returned to the agency payroll in Chocago, stayed there for a couple of years, and got transferred to San Francisco)♣️オプが語る自身の略歴。『デイン家』時点(作中年代1928)でSF歴五年くらいと言っていた。1917-1918軍隊、1919-1921シカゴ、1922-1928サンフランシスコ、といったところか。
p3236 安タバコのファティマ(❤︎Fatimas)♣️1910年代Camelは一箱20本10セント、Fatimaは一箱20本15セントだったようだ。1910年代の広告で見るとMurad 15¢、Duke of York 15¢、Helmar 10¢(それぞれ一箱の値段。何本入りかは書いてないが20本がスタンダードっぽい)。米国物価指数基準1925/2020(14.75倍)で$1=1620円。Wikiによるとファティマは当時のベストセラー(the best-sellingなので一番売れていた、か)。「安」ではなさそう。(2020-4-24追記: Muradの1917年の広告を見ると“Judge yourself—compare Murad with any 25 cents cigarette”と書いてあった。25¢のタバコも数種あったようだ)(❤︎2022-2-11追記: 「安」は翻訳の余計な付け加えだった…)
p3261 十四才♣️こーゆー小僧が苦労してのし上がり大金持ちに、といった話が米国富豪物語に良くある。当時、若年労働者は沢山いた。
p3315 六インチ砲♣️6-inch gun M1897(及びその後継)のことか。米国沿岸警備で使用された大砲。50口径152mm砲(これは銃身の長さが口径の何倍かを示す砲世界の表現。152mm口径の50倍=7.6m銃身。ちなみに戦艦大和の主砲は45口径460mm砲で銃身長20.7m。しかも3連砲。凄すぎる…)。
p3438 筒のずんぐりと短い自動ピストル(❤︎a snub-nosed automatic)♣️原文が気になる。snub-nosed automaticか。(❤︎でした)
p3520 中背というよりは、いくぶん低めの、肌の浅黒い女(dark-skinned woman)… 髪のいろも、インディアンのように黒く、… 浅黒い胸もと(dark chest)には… / …茶いろの肌をした女…(p3606)(原文❤︎)♣️浅黒警察としては正訳だと思う。原文が楽しみ。(❤︎翻訳に誤りなし)
p3606 ジェリー・ヤング♣️今回のオプの偽名。思いついたのだが、使った偽名からオプの本名を探る試みはどうだろう? 偽名は本名から(多分確実に)除外出来るし、イニシャルを無意識に合わせている可能性もある。『赤い収穫』で使ったのはヘンリー・F・ネイル。とりあえずオプの本名はジェリーでもヘンリーでもヤングでもネイルでもない。(イニシャルは合わせていないようだ…)
p3630 四十前後というどっちつかずのとしごろ♣️執筆当時ハメットは31才。
p3653 通話管(speaking-tube)… 玄関のドアの錠をはずすボタン(the button that unlocks the street door, p3660) (原文❤︎) ♣️マンションのインターホンらしい。この時代くらいから普及し始めたものか。当時の映画でこういう場面を見てみたい。通話管は各部屋に別々のチューブを引いていたのだろうか?(一つのマイクを切り替えて使うのか。電話の交換台を応用すれば簡単に作れそう) 正面玄関のドアを開錠出来るボタンが各部屋にあるくらいだから、結構大仕掛け。かなり高級で最新式のマンションなのだろう。(2022-2-10追記: 色々調べると、大きなアパートのintercomはKellogg Switchboard & Supply Companyが1894年に開発したらしい。結構古い技術で、既にドアマンなどの人減らしは始まっていたわけだ。ならばここは電話風の仕組みで、最新型というわけでも無いということか。なおこの技術をオフィスのインターコムに応用したのはAdams Laboratories社の開発で1930年代後半のことだという。こちらは意外と新しい。)
p3712 色の白い女… 色の黒い女(one yellow and white lady…. dark woman)♣️翻訳はyellow抜け。yellow and whiteの意味がよく分からない。(❤︎2022-2-11追記)
p3728 洗濯に使う青味づけ(ブリューインク)(❤︎in blueing)♣️これも原文が楽しみ。
p3738「赤」のバーンズ(“Red” Burns)♣️カリフォルニアのボクサーで1923年と1926年に試合をした。(❤︎2022-2-11追記)
p3938 撃鉄をおこした回転胴式ピストルは、撃鉄のない自動式よりも(❤︎a cocked revolver a lot quicker than …. a hammerless automatic)♣️自動式でも撃鉄はある。cockedとuncockedの対比か。cockは撃鉄が起きている状態でちょっと引き金を引くと発射される。cockしてないと引き金を引ききって撃鉄を起こしてから発射、となるため、正確性と秒単位の時間が犠牲になる。(2022-2-11追記: シングル・アクションとダブル・アクションの違いだね、というとガンマニアっぽいかな)
(2020-4-23記載; 2022-2-11追記)
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⑴ Dead Yellow Women (初出The Black Mask 1925-11)「シナ人の死」K39 #19: 評価7点
Black Maskではカヴァー・ストーリー。初出誌表紙のがっしりとした男はオプなのか?
たくさんの中国人が出てくるが、バランスの良い描写。SFのチャイナタウンの雰囲気が良く出ている。ラスボスのキャラがとても素敵。リアルなホラ話という感じの語り口が楽しい。
p587 ぼくのピストルは三八口径のスペシャルなのだが、その店には、スペシャル用のがなかったので、それよりも射程の短い、威力の弱い弾丸で間にあわせた(My gun is a .38 Special, but I had to take the shorter, weaker cartridges, because the storekeeper didn’t keep the specials in stock)♠️ここのshorterは弾丸の「長さが短い」ということ。38スペシャルの弾丸全長は39.0mmだが、その前身(互換性あり)の38ロング・コルト弾は34.5mmだ。威力(初活力)は前者367ジュールに対して、後者276ジュール。(床井雅美『ピストル弾薬事典』より)
(2022-2-10記載)
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⑵ The Main Death (初出Black Mask 1927-6)「メインの死」K46 #24
これはハヤカワ文庫『コンチネンタル・オプの事件簿』の書評参照。

No.292 6点 名探偵の世紀- 事典・ガイド 2020/04/18 08:22
最近ハメット漬けで、ふとヴァンダインを評した文章が翻訳されてることに気づき、ムック本(1999)を書庫から無事見つけました。
「『ベンスン殺人事件』について」(村上 和久 訳)がその批評です。ヴァンダインこてんぱんですね。続くバウチャー「ヴァン・ダインを評する」(村上 和久 訳)も手酷い仕打ち。優しさのかけらもなく、なんか個人的な恨みがありそうな感じ。まあ言ってることは正論なんだが、こーゆー書き方、EQの諸作品に対してやったことあるかい?と皮肉りたくなる。
ところで引用されてるオグデン・ナッシュの有名なPhilo Vance / Needs a kick in the pance(pantsじゃないんだよね。試訳「ヴァンスに、蹴りだ。おパンスに」)の元ネタ全文が知りたいのですが見つかりません。この一聯だけで完結した冗句なんでしょうか。
さてバウチャーはほっといてハメットの批評です。初出はThe Saturday Review of Literature January 15, 1927。この雑誌での書評は初登場。匿名ではなくDashiell Hammettと署名。その後、6月までほぼ毎月書評が掲載され、ちょっと飛び飛び掲載になりましたが、1928年10月から1929年2月までは毎号のように書評が掲載されています。(ここら辺の詳細はDon Herron主宰のWebサイト “Up and Down These Mean Streets”のHammett: Book Reviewer参照)
原文は“Poor Scotland Yard!”と題して、探偵もの長篇小説五冊(いずれも1926年出版)の書評。取り上げられた作品は順に①False Face by Sydney Horten ②The Benson Murder Case by S.S. Van Dine ③The Malaret Mystery by Olga Hartley ④Sea Fog by J.S. Fletcher ⑤The Massingham Butterfly by J.S. Fletcher. 翻訳はヴァンダインのところだけを抜いたもの。
この翻訳では省かれてしまった冒頭部分は、皮肉な調子で愉快なので、以下再現。
「長いこと民間探偵局に勤め色々な街で働いたが、探偵小説を読むと言った同僚は一人だけだ。『たくさん読むよ。』と奴は言った。『日々の探偵仕事でウンザリしたら、リラックスしたいのさ。日常家業と全く違うもので気を紛らわせたい。だから探偵小説を読む。』
奴なら“False Face”が気にいるだろう。これには日常業務で起こりうる事と全く違う話が書かれている。」
と最初の作品の評に入ります。
原タイトルは、最初の作品が英国もので、信じがたいほど間抜けな組織としてスコットランド・ヤードが描かれていることから。
「…しかしながら兄弟国を笑ってばかりもいられない。同書に出てくる米国シークレット・サービスや、『ベンスン殺人事件』のニューヨーク警察やD.A.も同じ調子なのだから。」
という感じで、この本収録の翻訳冒頭に続きます。
翻訳最後の文に出てくる “「そんなことは思いもよらなかった」といったスタイル”(little-did-he-realize style)は Had-I-But-Known という用語を意識してるのかな?(Howard HaycraftがMurder for Pleasure(1941)にHad I But Known schoolと書いて一般的になったのだと思うが、用語自体はもっと昔に遡るのだろうか?)
チャンドラーのSimple Art(こちらもSaturday Review of Literature 1950)でもそうでしたが、警察はそんなに馬鹿じゃなかろう、というのがいわゆる「ハードボイルド派」に共通した思いのようだ。でもこれは基本的に小説における対比効果を狙ったものだし、ハメットやチャンドラー自身の探偵小説だって警察の手ぬかりは結構ある気がする。(まあ本格系は世間知らずが多いので間抜けさがぶっ飛んでいることは確かだが…)
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他にも楽しい黄金時代のネタが詰まってるこのムック本。新しい世代のために改訂して復刊しても良いのでは?
(他のエッセイや研究は気が向いたら追記します。実は私はこの手の本は苦手です。どこにネタバレが仕込んであるかわからないので… 地雷原で途方に暮れる感じ)

No.291 5点 ミステリマガジン1994年7月号- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2020/04/15 20:57
HAYAKAWA’S MYSTERY MAGAZINE 1994年7月号 <459>
特集:ダシール・ハメット生誕100年記念。234ページ。定価780円。
表紙・扉・目次構成は島津 義晴、表紙は砂浜と海を上空から撮った遠景か。裏表紙の広告はAsahi スーパードライ。
ハメットは忘れられた古典作家で読まず嫌いの若者に紹介する、という趣旨らしい。1994年、私はミステリ界(というか小説界)から全く離れており、毎月購入もしばらく前から辞めていて、書店で手に取ることすら無かったころ。今回、ハメット・マイブームに乗って1年分を一気に某オクで購入しました。エッセイ陣には全然思い入れが無く、読む気が全く起きません…
ハメット作品を(なるべく)初出順に読む試みの一環です。雑誌全体の暫定評価は5点として、収録短篇を読んだら追記してゆきます。
小説は8篇。以下、初出はFictionMags Index調べ。カッコ付き数字は雑誌収録順。
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⑴ The Green Elephant by Dashiell Hammett (初出The Smart Set 1923-10)「緑色の悪夢」ダシール・ハメット 稲葉 明雄 訳(挿絵 山野辺 進): 評価5点
ハメット第13番目の短篇小説。意図はわかるけど、あまり工夫のない話。翻訳は削除の多いダネイ版ではなく、初出雑誌のテキストによるもののようだ。(Don Herron主宰のWebサイト “Up and Down These Mean Streets”のHammett: “The Green Elephant”参照)
p20 五十ドル: 米国消費者物価指数基準1923/2020(15.13倍)、$1=1662円で換算して83100円。
p21 小口径の拳銃(a small-caliber pistol): 何となくオートマチックのような感じ(ただの個人的な印象で根拠なし)。小口径はこの場面なら32口径。25口径では小さすぎる。
p22 千ドル札のほか、色々な紙幣が登場するが、当時の紙幣サイズは額面にかかわらず187×79mm。なおFederal Reserve Noteの場合、裏面は全券種で緑色だった。(Gold Certificateはオレンジ)
p23 全請求書を前払いできる(all bills are payable in advance): 「できる」ではなくて、「先払いする決まりの」ではないかと思う。そーゆー仕組みの風来坊向けの安宿で、その日に出立するつもりで支払いを済ませていた、と解釈すれば、前後がつながる。
(2020-4-15記載)
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⑵ Zigzags of Treachery by Dashiell Hammett (初出The Black Mask 1924-3-1) 「裏切りの迷路」 ダシール・ハメット 小鷹 信光 訳(挿絵 佐伯 嘉隆): 評価7点
オプもの第8作、ハメット第25番目の短篇小説。書評は『チューリップ』参照。傑作。(訳文は『チューリップ』収録のものが、この時点よりさらにブラッシュアップされてるので、単行本で読むのがお薦め)。
(2020-4-15記載)
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⑶ Any Small Measure of Justice by Terry Courtney (初出AHMM 1991-8)「ささやかな正義」 テリイ・コートニー 西田 佳子 訳(挿絵 畑農 照雄)
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⑷ About Time by Linda Evans (初出AHMM 1990Mid-December号)「サマータイム殺人事件」リンダ・エヴァンズ 山内 三枝子 訳(挿絵 楢 喜八)
ヒッチコック・マガジンは1990年12月は2冊発売。普通の160ページの12月号が発売された他、34th Anniversary Special Double Issueとして288ページの増刊号がMid-December号として刊行された。
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⑸ Checking Out by Nick O'Donohoe (初出AHMM 1990-9)「チェックが肝心」ニック・オドナヒュー 夏来 健次 訳(挿絵 浅賀 行雄)
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⑹ Accounts Payable by D. H. Reddall (初出AHMM 1991-6)「支払勘定」 D・H・レドール 小西 恵里 訳(挿絵 桜井 一)
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⑺ The Maggody Files: Spiced Rhubarb by Joan Hess (初出AHMM 1991-6)「ルバーブ・ジャム事件」ジョーン・ヘス 近藤 麻里子 訳(挿絵 大鹿 智子)
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⑻「恵美子の手袋」 山崎 秀雄(挿絵 成田 一徹)
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特集の読み物は
『ダシール・ハメットの生涯(編集部 編)』年表と写真。ダイアン・ジョンスンの伝記から再構成。
『映画『赤い収穫』架空キャスティング(野崎 六助)』なんかズレてる。ほとんど知らないメンツだし…
『映像で観るハメット作品(筈見 有弘)』写真が良い。
ハメットへのオマージュとして短文がいくつか
『廉潔の人(稲葉 明雄)』本号掲載の「緑色の悪夢」を陳腐とばっさり。『冒険者としてのハメット(逢坂 剛)』『一度だけ読んだハメット(片岡 義男)』相変わらずのズルい手口が心地良い。『マイルズ・アーチャーが死んだ場所(田中 小実昌)』『ワールド・ジャンク(楢山 芙二夫)』『ポイズンヴィル発…(船戸 与一)』
漫画『彼ら(いしかわじゅん)』スペード、ニック、オプが登場する四コマx3作。本質を突いている。
作品論『註解『マルタの鷹』(小鷹 信光)』写真が良い。『赤い暴力の現代小説(野崎 六助)』『三人称一視点という錯誤(池上 冬樹)』『シン・マン症候群(木村 仁良)』ディックとドラの掛け合い。
『ダシール・ハメット長篇小説解題』あらすじと短評。
『ダシール・ハメット長短篇作品リスト』単行本『チューリップ』(2015)所載の小鷹リストの元。
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その他の読み物は
『ミステリ漫画(梅田 英俊)』『ミステリアス・プレス ニュース(O)』『海外ミステリ風土記(直井 明)13 ルーマニアIII』『チャイナ・ファンタジー(南 伸坊)16 窓から手』『木村 二郎インタヴュー』二郎さんの顔、見たのは多分初めて…かな?『眺めたり触ったり。(青山 南)28』『読ホリデイ(都筑 道夫)65 伊賀とイタリア』『20世紀を冒険小説で読む(井家上 隆幸)35 核の<聖戦>』『サイコドラマ・サイコパシー(野崎 六助)19 人造のサイコII』『殺しの時間(若島 正)42 本を殺す』『カメレオン日記(香山 二三郎)19 勝負服の研究』『ビデオの冒険者(柳生 すみまろ)65 新ポリス・ストーリー』『午後3時半のウェイブ(吉村 浩二)4』『ミルクが先よ(浅羽 莢子)4 穿鑿は権利?』英国では遺言も公の文書なんだ…『読者登場(浅沼 幾美さん)』『響きと怒り』『編集後記(T、K)』
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クライム・ファイルと銘打って各種情報コーナー
『クライム・コラム(オットー・ペンズラー)144』『書評(北丸 旭、穂井田 直美、岩田 清美)』『洋書入荷情報(丸善、洋書ビブロス)』『音楽情報(百日 紅一郎)』『映画情報(河原畑 寧、竜 弓人)』
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『今月の書評(芳野 昌之、関口 苑生、池上 冬樹、三橋 曉、長谷部 史親、西夜 朗、結城 信孝)』『チェックリスト&レビュー(芝 隆之)』

No.290 5点 EQMM日本語版 1959年10月号 <40>- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2020/04/11 22:59
表紙はクロード・岡本の抽象画、目玉焼きがセンターにある何かの食べ物風? 裏表紙の広告は早川書房 グレアム・グリーン選集の第1回発売。(どこにも早川書房以外の広告無し… 営業苦戦中か?)
秋の特大号。定価150円(地方155円)、208ページ。
カットは金子 三蔵と真鍋 博。ロバート・ブロック特集で3篇収録。
他にもレックス・スタウトやH・C・ベイリーの中篇を収録、ビッグ・ネームばかりの巻。
書庫にあるハメット作品を初出順に読む試みの一環です。
まだ途中ですが、全体の暫定評価は5点として、短篇小説を読んだら追記してゆきます。
収録された小説は13篇。初出はFictionMags Index調べ。
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⑴ Object Lesson by Ellery Queen (初出This Week 1955-9-11 as “The Blackboard Gangster”)「実地教育」エラリイ・クイーン 青田 勝 訳
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⑵ Itchy the Debonair by Dashiell Hammett (初出Brief Stories Magazine 1924-1 as “Itchy”) 「紳士強盗イッチイ」ダシェル・ハメット 森 郁夫 訳: 評価5点
ハメット第18作目の短篇小説。ノン・シリーズ。作者がオプものをどう考えていたか、という楽屋裏なのだろうか。
p15 二千五百ドル: 米国消費者物価指数基準1923/2020(15.13倍)、$1=1662円で換算して416万円。
p20 紳士強盗: 原語はgentleman crook。有名なのはRaffles(1898)やLupin(1905)と言ったところか。
(2020-4-11記載)
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⑶ To Be Found and Read by Miriam Allen de Ford (初出EQMM 1958-12)「探しだされ読まれるために」M・A・ディフォード 小笠原 豊樹 訳
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⑷ Second Honeymoon by Brett Halliday (初出EQMM 1959-7)「二度目の蜜月」ブレット・ハリデイ 田中 小実昌 訳
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⑸ The Unpunishable Murder by Hugh Pentecost (初出EQMM 1959-7)「罰せない殺人」ヒュー・ペンティコースト 稲葉 由紀 訳
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⑹ Fool’s Mate by Stanley Ellin (初出EQMM 1951-11)「好敵手」スタンリイ・エリン 田中 融二 訳
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⑺ Over My Dead Body by Anthony Gilbert (初出The Evening Standard 1951-6-19)「屍を越えて」アントニイ・ギルバート 高橋 泰邦 訳
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⑻ Cry Silence by Fredric Brown (初出Black Mask 1948-11)「静寂は叫ぶ」フレドリック・ブラウン 福島 正美 訳
ブラック・マスク誌のこの号は広告を含め全ページ無料公開、本作には挿絵1枚あり(画家名は記載なし)。
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⑼ Too Many Detective by Rex Stout (初出Collier’s 1956-9-14)「探偵が多すぎる」レックス・スタウト 井上 一夫 訳
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⑽ The Affair of the Zodiacs by H. C. Bailey (初出Flynn’s Weekly Detective Fiction 1927-11-19 as “Zodiacs”)「ゾディアックス鉱山株事件」H・C・ベイリー 宇野 利泰 訳
創元文庫『フォーチュン氏の事件簿』収録作品。なのでそちらでまとめて読む予定。
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(11) Enoch by Robert Bloch (初出Weird Tales 1946-9)「頭上の侏儒」ロバート・ブロック 都筑 道夫 訳
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(12) One Way to Mars by Robert Bloch (初出Weird Tales 1945-7)「片道切符」ロバート・ブロック 豊原 実 訳: 評価4点
ジャズ小説。主人公はトランペッター。ジャズメンなんて皆こーゆー感じ、という描写が陳腐。展開もつまらない。
p182 二ドル八八セント: 米国消費者物価指数基準1945/2020(14.37倍)で$2.88=3914円。切符の値段。随分お得。
(2020-4-11記載)
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(13) The Mannikin by Robert Bloch (初出Weird Tales 1937-4)「瘤」ロバート・ブロック 久慈 波之介 訳
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読み物は『反対尋問(日本探偵小説の匿名時評)』『探偵小説不作法講座 第四講』『黒いノート(松本 清張)12』『深夜の散歩14(福永 武彦) スイート・ホーム殺人事件』『隣の椅子(有馬 頼義)12』『ふたりで犯罪を(映画の話)』『探偵小説風物詩(中内 正利)』

No.289 6点 スペイドという男 ハメット短編全集2- ダシール・ハメット 2020/04/11 17:29
冒頭にエラリー・クイーン(ダネイ)の「サム・スペイド ご紹介」(Meet Sam Spade)という前書きあり。EQMM誌のコメントのような感じの文章。ソフトカバーの単行本”The Adventures of Sam Spade & Other Stories” ed. Ellery Queen (Mercury Bestseller Mystery No. B50, 1944)に収録のもの。この本は7篇収録(Too Many Have Lived K67, They Can Only Hang You Once K68, A Man Called Spade K66, The Assistant Murderer K42, Nightshade K71, The Judge Laughed Last K22, & His Brother's Keeper K73)だが、翻訳の底本であるペイパーバック“A Man Called Spade”(Dell #90 Mapback, 1945)では収録は5篇のみ(K66, K68, K67, K42, K73とEQの序文。なおこのMapbackは#411(1950)と#452(1954)の全部で三つの異版がある。#90の表紙絵はGerald Greggだが#411と#452はRobert Stanleyに変更、裏表紙のMapはいずれもRuth Belewが描いたMax Blissのアパート図面、収録短篇は全て同じ)。これにK7, K17, K20, K26, K71を追加したのが本書、という成り立ちのようだ。結局K71はいったん削除されたが翻訳で戻ったわけである。
なおDon HerronのWebサイトを見ると、2000年以前のハメット短篇集のテキストはダネイ本に基づくもので、初出に手が加えられてることがあるようだ。
以下は初出順に並べ直し。カッコ付き数字はこの本の収録順。初出データは小鷹編『チューリップ』(2015)の短篇リストをFictionMags Indexで補正。K番号はその短篇リストでの連番。#はオプものの連番。★はEQ編1944以外からの収録作品。ついでに今回は米国EQMM再録号も表示。
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⑷ Holiday (初出The New Pearson’s 1923-7; EQMM掲載なし) K7 ★「休日」
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⑽ Bodies Piled Up (初出The Black Mask 1923-12-1; EQMM1947-4 as “House Dick”) K17 #5 ★「やとわれ探偵」: 評価7点
オプもの。冒頭のシーンが大好き。派手でヴィジュアル・インパクトが素晴らしい。途中、まともなデカならどうやって調査するか、というミニ講座あり。多分、探偵小説作家の皆さま方に教えてさしあげましょう、という優しい親切心(「皮肉」と書く)。こーゆーやり方でキチンと捜査したら大抵の探偵小説はあっさり解決しちゃうんじゃなかろうか。
ディック・フォーリイの喋りはまだ普通っぽい。(原文では主語を落とした文が多い感じだが、後年の単語を並べる境地には至っていない)
p321『暗黒の男』(the Darkman): 悪者につけられたあだ名だが、浅黒警察としては気になる。黒髪野郎、という意味ではないか。オプも黒髪なのか。
(2020-4-11記載)
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⑹ The Man Who Killed Dan Odams (初出The Black Mask 1924-1-15; EQMM1949-12) K20 ★「ダン・オダムズを殺した男」: 評価5点
テキストはダネイの所々数語カット版なので、Black Mask版を訳している『死刑は一回でたくさん』(講談社文庫1979、グーテンベルク21電子版が入手しやすい)の田中 融二 訳をお勧めする。訳文の調子も田中訳の方がキビキビしている。
(2020-4-12記載)
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⑼ One Hour (初出The Black Mask 1924-4-1; EQMM1944-5) K26 #9 ★「一時間」: 評価6点
オプもの。詳しいことは『死刑は一回でたくさん』参照。こちらの依頼人は関西弁じゃない。なおEQMM再録時のダネイの直しはほとんど無いらしい。
(2020-4-14記載)
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⑺ The Assistant Murderer (初出The Black Mask 1926-2; EQMM掲載なし) K42「殺人助手」: 評価7点
三人称の不細工な私立探偵アレック・ラッシュもの。ハメットが育った街、ボルティモアが舞台。
捜査方法や探偵センスはオプと同様。複雑な筋を見事にまとめている。キャラの描き方も良い。
p195 料金は一日15ドルと、ほかに実費(fifteen a day and expenses)◆米国消費者物価指数基準(15.88倍)で$1=1811円。
p197 色があさぐろくて(He’s very dark)◆「髪が真っ黒で」という意味で良いかなあ。後の方ではdark young manとか書かれている。(翻訳では「あさぐろい」の連発だが)
p198 五十セント◆ボーイへの情報料
p246 同じ問題をあつかった芝居(One of the plays touched the same thing)◆もしかしてアガサ・クリスティのアレかと思ったが初演1953なので違うようだ。ただしその小説の初出は米国パルプ雑誌Flynn's Weekly 1925-1-31。
(2202-2-13記載)
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⑴ A Man Called Spade (初出The American Magazine 1932-7 挿絵Joseph Clement; EQMM掲載なし) K66「スペイドという男」
American Magazineのこの号、広告も含め無料公開あり。イラストのスペイドは普通っぽい男に描かれている。
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⑶ Too Many Have Lived (初出The American Magazine 1932-10 挿絵J. M. Clement; EQMM1941秋[創刊号]) K67「赤い灯」
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⑵ They Can Only Hang You Once (初出Collier’s 1932-11-19; EQMM1943-3) K68「二度は死刑にできない」
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⑸ Nightshade (初出Mystery League 1933-10 [創刊号]; EQMM掲載なし) K71「夜陰」
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⑻ His Brother's Keeper (初出Collier’s 1934-2-17; EQMM掲載なし) K73「ああ、兄貴」

No.288 5点 EQMM日本語版 1960年4月号 <46>- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2020/04/11 03:11
表紙はクロード・岡本の抽象画。裏表紙の広告はクラボウ ミステリー 影、日本教育テレビ・毎日放送テレビ 毎週金曜夜9.15〜9.45「多才な人間関係の交錯… 迫真のサスペンス…」とある。宣伝写真は米国私立探偵みたいな扮装の男、煙草の煙で表情は隠れている。どんな番組だったのか、ちょっと気になります。
特大号なので定価150円(地方155円)、208ページ。(2、4、7、10は特大号、他は定価100円と最終ページに書いてある)
カットは真鍋 博。ハードボイルド特集。ハメット&マスタースンの中篇がメイン。
書庫にあるハメット作品を初出順に読む試みの一環です。
まだ途中ですが、全体の暫定評価は5点として、短篇小説を読んだら追記してゆきます。
収録された小説は13篇。初出はFictionMags Index調べ。
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⑴ When Luck’s Running Good by Dashiell Hammett (初出Action Stories 1923-11 as “Laughing Masks” by Peter Collinson)「ついている時には」ダシェル・ハメット 田中 融二 訳: 評価5点
ハメット第16番目の短篇。ノン・シリーズ。『チューリップ』所載の小鷹リストではコリンスン名義の記載漏れ(これが最後のコリンスン)。EQMM1959-12再録時にタイトルを変更。ダネイが語句をちょっといじってる可能性もあり。
最初のほうの主人公は中年だと受け取っていました。若々しい感じがしなかった… 敵の食えないキャラが印象的。
p6 四百ドル: 米国消費者物価指数基準1923/2020(15.13倍)、$1=1662円で換算して66万円。かなりの金額。
p8 順風而呼、声非加疾也、而聞者彰: いきなり漢文が出てきてビックリ。荀子、勸學篇第一の引用のようだ。オリジナルはラテン語なのか?原文発注中。
(2020-4-11記載)
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⑵ By His Own Act by Emily Jackson (初出EQMM 1954-8)「誤算」エミリイ・ジャクスン 高橋 泰邦 訳
米国EQMM「最初の短篇」コーナーの紹介作品。
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⑶ Louisville Blues by Albert Johnston (初出EQMM 1954-5)「ルイズヴィル・ブルース」アルバート・ジョンストン 三田村 裕 訳
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⑷ Two-Bit Gangster by Thomas Millstead (1954 初出EQMM 1954-12)「感傷的な殺人」トマス・ミルステッド 森 郁夫 訳
米国EQMM「最初の短篇」コーナーの紹介作品。
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⑸ And the Desert Shall Blossom by Loren Good (初出EQMM 1958-3)「かくて砂漠に花咲かん」ローレン・グッド 稲葉 由紀 訳
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⑹ Hard Guy by Thomas Walsh (Ten Detective Aces 1935-1 as “Framed in Fire”)「しぶとい男」トマス・ウォルシュ 井上 一夫 訳
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⑺ The Marriage Counselor’s Marriage by C. B. Gilford (初出EQMM 1958-6)「結びの神の結婚生活」C・B・ギルフォード 青田 勝 訳
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⑻ Anniversary Gift by John Collier (初出1958?, 米初出はEQMM 1959-4か)「記念日の贈物」ジョン・コリア 大門 一男 訳
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⑼ A Case of Cainapping by A. H. Z. Carr (初出EQMM 1954-7)「猫探し」A・H・Z・カー 高橋 豊 訳
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⑽ Hernand Cortez, Detective by Theodore Mathieson (初出EQMM 1959-7)「名探偵エルナンド・コルテス」シオドー・マシスン 吉田 誠一 訳
歴史名探偵シリーズ第4作。
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(11) The Invisible Loot by Michael Gilbert (Argosy[UK]1959-3 as “Bonny for Value” 挿絵Isn Garrard)「見えざる掠奪者」マイケル・ギルバート 森本 忠 訳
Patrick Petrellaもの。
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(12) The Living Bracelet by Robert Bloch (Bestseller Mystery Magazine 1958-11 as “The Ungallant Hunter”)「生きている腕輪」ロバート・ブロック 都筑 道夫 訳
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(13) The Women in His Life by Whit Masterson (初出EQMM 1958-6)「ギルモア・ガールズ」ウィット・マスタースン 田中 小実昌 訳
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読み物は『悪霊の誕生(開高 健)』『隣の椅子(有馬 頼義)18』『みすてり・らうんじ(扇屋 正造)続・ソフィスティケーテッドということ』『紙上殺人現場(大井 広介)その4』『EQMM翻訳紳士録<1>田中 融二』『新聞記者と探偵—カゴのトリには探偵はできない—(古波蔵 保好)』『ミステリ・ニュー・ウェイヴ』『探偵小説風物詩(中内 正利)』

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弾十六さん
ひとこと
気になるトリヴィア中心です。ネタバレ大嫌いなので粗筋すらなるべく書かないようにしています。
採点基準は「趣好が似てる人に薦めるとしたら」で
10 殿堂入り(好きすぎて採点不能)
9 読まずに死ぬ...
好きな作家
ディクスン カー(カーター ディクスン)、E.S. ガードナー、アンソニー バーク...
採点傾向
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採点の多い作家(TOP10)
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