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青い車さん
平均点: 6.93点 書評数: 483件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.39 8点 検察側の証人- アガサ・クリスティー 2020/01/13 10:29
 少ない材料でしっかりドラマとミステリ的サプライズを味わわせてくれます。終盤の逆転につぐ逆転にはやられました。錯綜した手掛かりや人間関係がない分、見る側を混乱させないところも戯曲として優れている傑作です。

No.38 6点 終りなき夜に生れつく- アガサ・クリスティー 2020/01/13 10:23
 アガサの優れたストーリーテラーとしての一面がよく出ている秀作だと思います。全体的に乾いた感じなのですが、旨み・コクのようなものが滲み出る文体が好きです。原題「ENDLESS NIGHT」を「終りなき夜に生れつく」とした訳も洒落ています。

No.37 6点 象は忘れない- アガサ・クリスティー 2017/03/09 13:17
 同じ回想の殺人をめぐる『五匹の子豚』より話題にならない本作ですが、解決編の反転の見事さはそれに劣らない質を維持しています。夫婦の心中事件と若い男女のロマンスを、雑多な感じは全くなくまとめ上げているプロットが実に巧みです。現在進行中の事件がない、しかも過去の事件は一応解決済み、という派手さのない題材を好んで使用するあたりがアガサ・クリスティーならではと言えるでしょう。また、ポアロの結びの一言が爽快で、そこも作者らしさが滲み出ています。

No.36 7点 死者のあやまち- アガサ・クリスティー 2017/03/09 12:56
 ミステリーでよく使われるふたつのトリックの合わせ技や、周到な伏線の配置とその回収によって読み手の意表を突く、アガサ・クリスティーの面目躍如の秀作です。かなり後期に書かれた作品で、新鮮味はあまりありません。しかし「彼女らしさ」は衰えを知らず、ミステリーの女王の風格を示しています。
(以下、ネタバレあり)

 この小説に対する唯一にして最大の不満は犯行動機です。クリスティーではよく出てきますが、「口封じの殺人」は怨恨、報復、狂気といった動機に比べ話が盛り上がりにくく、事件の性質上仕方ないとはいえ物足りなく感じます。

No.35 5点 メソポタミヤの殺人- アガサ・クリスティー 2016/09/25 18:44
 クリスティー作品の中では希少な、一種の密室を扱うことによってハウダニットの興味が強くなっている作品です。ただ、そのためメイン・トリックがその魅力の中心になったことで、どこか大味な印象を受ける部分もあります。そういう点では、あまり細かい誤導を得意とするクリスティーっぽくないと思います。一方で意外な犯人の設定はいかにもクリスティーらしく、最後ポアロの推理で明らかになるその正体には驚かされました。あと、今日見たドラマ版では遺跡発掘の様子が丹念に描かれており、雰囲気のいい良作に仕上がっていました。

No.34 7点 エッジウェア卿の死- アガサ・クリスティー 2016/07/22 18:13
 『青列車の秘密』では手口とその書き方がまだ完成されていないように思っていましたが、こちらも解決篇で明かされる犯行方法だけ取り出せば非常に古典的。ただし、すばらしいのはいかにもアガサらしい細かな矛盾点を見つけるポアロの着眼と、裏の裏をかいた意外な犯人が浮かび上がる逆転です。書かれた年代を考慮すればかなりの作品ではないでしょうか。

No.33 5点 青列車の秘密- アガサ・クリスティー 2016/07/22 18:03
 トリックは「なんだ、そんなことか」と思う人も多そう。事実、僕もそうでした。作者は似通った手法を何度か使っていますし、その料理の仕方はのちの洗練された書き方には遠く及ばないと思います。それでも、プロットは初期の作品なのに既にかなりしっかりしています。そのあたりはさすが。女性登場人物の描き方もいいです。

No.32 6点 もの言えぬ証人- アガサ・クリスティー 2016/07/22 17:53
 『ポアロのクリスマス』や『葬儀を終えて』『パディントン発4時50分』のような、クリスティーに数多い一族内部の描写が目立つ長篇です。ただ、内容は長さの割に淡白で、最終的な犯人にも驚きはありません。やはり問題なのは巻末の解説にもある「むつかしい説明を要する毒」です。当然それがあっては素直になるほど!とは感心できず、へえ、そうなんだ、で終わってしまいます。霜月蒼氏は高く評価していたので、意外と大人な読者には深みがわかるのかも。近いうちに丁寧に読み返したいです。

No.31 7点 マギンティ夫人は死んだ- アガサ・クリスティー 2016/07/18 17:32
 騙しのやり口がミスディレクションの達者なクリスティーらしく、もはや老獪ささえ感じます。老婦人が殴り殺され、要領が悪く冴えない青年が逮捕される、という派手さはまったくない事件でありながら、終盤の畳み掛けるような推理にはやはり感心させられました。TVドラマ版も原作の伏線をちゃんと盛り込んだいい出来だったのでオススメしたいです。

No.30 5点 魔術の殺人- アガサ・クリスティー 2016/07/18 17:23
 タイトルから大がかりな奇術的トリックが楽しめるのかと思いきや、蓋を開けるとかなり単純で古典的な手口でした。少年犯罪者たちの施設という特殊な環境に今ひとつ必然性がないのも惜しいです。マープル・シリーズはポアロよりも本格度が低めなものが多いですが、これは『牧師館の殺人』などの犯人当てと比べても一歩譲る出来だと思います。ただ、それでも作者の得意とする若い男女のロマンスや、それがいつも通りハッピーエンドで終わるのは読んでいてホッとするものがあります。

No.29 5点 動く指- アガサ・クリスティー 2016/07/18 16:59
 ミス・マープルの出番は少なく、今回の主役は完全に舞台となる町に移り住む兄妹です。特に妹の姿が生き生きと描かれる様は悪くありません。ただし、そもそもアガサ・クリスティーはこれ見よがしに大袈裟なのは嫌いなのかもしれませんが、事件は他に例がないほど地味です。誹謗中傷の手紙を除けばアイディアらしいアイディアはなく、クイーンにおける靴や帽子のような推理のとっかかりもありません。作者の密かなお気に入りだったそうですが、瑞々しい小説としての魅力はいいものの、ミステリーとしては二軍の出来となってしまうと思います。

No.28 8点 鏡は横にひび割れて- アガサ・クリスティー 2016/07/17 21:27
 動機の謎一本で勝負しているため、下手をするとかなり薄味になりかねない構成です。ですが、そういう意味では、本作はかなりよくできていると思います。犯人側のドラマと濃密に関係した虚しくいじらしすぎる動機で、美しくも哀しい余韻が後を引きます。村の住人たちの会話という本筋とはまったく関係ないパートも楽しめます。あと、印象的なタイトルも興味を惹かれていいですね。

No.27 9点 ゼロ時間へ- アガサ・クリスティー 2016/07/17 18:59
 このサイトでは評価が分かれていますね。僕はクリスティーのノンシリーズの中では屈指の傑作と思っています。殺人の起きるタイミングが意外と早く、「冒頭で言っていたことと違うじゃないか」「タイトルに偽りあり」とする人もいるようですが、それは誤った読み方では?『ゼロ時間へ』のトリックは、その相応しくなさそうなタイトルにあるんじゃないでしょうか。
 中盤であれ?と感じたと思ったら、最後の最後そのタイトルが再び活きてくる。実によく練られた構成だと思います。犯人のどす黒い悪意にはぞっとしますし、バトル警視のカッコよさもすばらしい。名探偵という存在が大好きな僕も満足のいく味わいがありました。

No.26 4点 ビッグ4- アガサ・クリスティー 2016/07/17 18:49
 アヴェレージの高いアガサ・クリスティーの中では非常に珍しい、ほぼ誰もが認める失敗作とされている作品。今回冷静に読んでみると、明らかに作者の本領でないスパイ小説で、他の作品群で見られるポアロの推理の冴えは完全に影を潜めています。間違ってもこれをアガサのベストに挙げる人は少ないであろう出来ですが、あらかた名作を読んだ後に、「こんな変なのも書いてたんだな」と思いながら番外篇として読むのが正しいかもしれません。

No.25 8点 愛国殺人- アガサ・クリスティー 2016/06/11 20:11
 気に入らない人がいるのもわかります。批判する論者の意見で多くを占めるのが政治絡みの描き方が薄っぺらいというもので、それは至極もっともです。
 しかし、アガサ・クリスティーにそんな面白さを求めるのはナンセンスではないでしょうか。本作に関してはいくつものトリックを贅沢に盛り込んだ凝った謎解きを喜んで読むべきです。特に関心したのは顔の潰された死体の扱いで、その答も作者らしいさりげないヒントがあり好ましく感じました。
 そして、もうひとつ話題になるのが犯行の動機です。スケールがでかいようでいて詰まるところ実に卑しいもので、不思議な読後感を残します。そういう意味で『愛国殺人』はよくできた邦題と言えます。今日BSでドラマ版の再放送を観ましたが、そっちではポアロの犯人に対する糾弾の言葉があり、なかなかに爽快でした。

No.24 7点 葬儀を終えて- アガサ・クリスティー 2016/04/27 22:32
 メイン・トリックとそれに伴うミスディレクションの巧みさはクリスティー作品中随一。わかってしまえば実にシンプルな話なのに、読んでいる間はそれを悟らせません。そういう意味では『ナイル』に近いところがある作品といえるかも。
 それにも関わらず7点に留めたのは、ロザムンド、スーザン、マイクル、グレゴリー、ジェームズといった主要人物を頭の中で整理するのに時間がかかり、なぜか作者の小説にしては珍しく読みづらさを感じる部分があったためです。

No.23 9点 白昼の悪魔- アガサ・クリスティー 2016/03/06 21:29
派手な趣向に頼らずとも面白い作品は書けることを証明した作品です。
トリック自体は発表当時ですでに手垢の付いたものだったのではないかと思います。しかし、さり気ない手がかりの分散配置はまさに女流作家ならではのセンスを感じます。そしてそれらが最後すべて意味を持っていたことがわかる解決篇は快感。クリスティーの伏線を「ただのほのめかし」と批判する人もいますが、彼女はクイーンやクエンティンのようなガチガチの本格作家ではありません。手がかりになりそうにない事象を手がかりとする繊細な職人芸を素直に楽しむべきです。その最たるものは冒頭のポアロのセリフ、犯人が我々に与える先入観です。
『ナイルに死す』とシチュエーションがかなり近いのが興味深いです。しかし『ナイル』がミスディレクションで大きなトリックを覆い隠しているのに対し、『白昼の悪魔』では細かい技巧に注力しており、異なる魅力があります。

No.22 6点 予告殺人- アガサ・クリスティー 2016/03/06 21:15
ミステリーの評価は時代によって移ろうもののようで、本作は後年評価が下がってしまった典型に思われます。
トリックは独創的で、他の代表作と肩を並べられるものといっていいでしょう。実験まで行って執筆したという裏話も面白いです。しかし、いかんせんストーリーが平板で、クリスティーにしては珍しくあまりグイグイ読ませる勢いがありません。逆に推理の対象となるのが第一の殺人のみで、第二の殺人はあくまで成り行きで付随したものに過ぎない、という悪い意味でクリスティーにありがちな弱点も気になります。犯人も特に意外ではなく(動機まで推理するのは難しいけど、勘でピンと来てしまう感じ)、フーダニットとしての魅力も薄いです。
現在、マープル・シリーズのベストに挙げる人とイマイチとする人に大きく分かれています。僕は擁護したい派ですが、アガサならこれよりも面白いものは沢山あるよ、というのが本音ですかね。

No.21 7点 ポケットにライ麦を- アガサ・クリスティー 2016/03/04 23:38
犯人に意外性はない、というよりそこは狙っていない作品。動機もクリスティーとしては特に珍しくないパターンです。しかし、マープル・シリーズの中では本格ミステリーとしてもっともソリッドな作品と言っていいと思います。ミス・マープルが可愛がっていた少女が殺されたことで、怒りを見せる珍しい作品としても有名です。
今回、事件のモチーフは作者も何度か使っているマザー・グース。もっとも有名な童謡殺人といえば『そして誰もいなくなった』ですが、『そして誰も~』ではあくまで演出上のギミックであったのに対し、本作においてはトリックの要です。そのメイン・トリックは小粒なもののよく練られています。錯誤を与える効果に加え、無関係なようで犯人には必要だった殺人を紛れ込ませることで動機を見えにくくする効果を挙げています。
リーダビリティの高さは相変わらずで、軽い口当たりですがしっかりパズラーの醍醐味も備えた佳作です。

No.20 6点 ゴルフ場殺人事件- アガサ・クリスティー 2016/03/04 23:18
ポアロ・シリーズ第二長篇。邦題も原題の『MURDER ON THE LINKS』ともに味気ないのが残念。特にゴルフ場を現場にする必然性もないですしね。
内容の方は、トリックの骨格が非常によくできています。何人もの人間の思惑が交錯することで複雑化する事件は実にクリスティー的です。ポアロも重要人物の過去を探り、そこから理路整然と謎を解き明かしてくれます。
ただし、その描き方は後の作品よりも劣ります。他の傑作で見られるような、巧みな人物描写や繊細な伏線はまだ完成されていません。他のサイトでもっと円熟した時期に書かれれば傑作になり得た、という意見を見かけましたが、そこは同感です。
その他には、ヘイスティングズ大尉の恋を読むことができる、というファンには嬉しい見どころがある作品です。

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青い車さん
ひとこと
正面からロジックで切り込むタイプの作品を愛好しています。ただ、横山秀夫『半落ち』なども夢中になったので、面白ければ何でも読む、というのが本当かもしれません。
雰囲気重視の『悪魔が来りて笛を吹く』『僧正...
好きな作家
エラリー・クイーン、アガサ・クリスティー、D・M・ディヴァイン、横溝正史、泡坂妻夫...
採点傾向
平均点: 6.93点   採点数: 483件
採点の多い作家(TOP10)
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