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青い車さん
平均点: 6.93点 書評数: 483件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.19 7点 ひらいたトランプ- アガサ・クリスティー 2016/03/03 16:14
評論家の霜月蒼氏は「ここには殻しかない」と書いてあまり評価していませんが、僕は隠れた佳作だと思っています。
カードが推理の鍵を握っている点ではヴァン・ダインの某作を思い出させます(あっちはポーカーで本作はブリッジ)が、こちらの方がより事件とゲームが密接な関係にあります。プレイ中にすぐ近くの椅子に座った被害者を刺殺するという劇的な演出が抜群で、ダインなら華美なペダントリーで文章を飾り付けるところですが、アガサはハッタリを用いず盛り上げています。この辺からも特色の違いがわかり面白いところです。
容疑者はわずか四人だが全員が以前人を殺した疑惑がある。この設定も実にいいです。犯人が誰かが見どころではないところは『五匹の子豚』と通じるところがありますが、本作の面白みは次々と容疑者たちに疑いを向けては再考を繰り返すプロットで、人物の感情を紐解く『五匹の子豚』より乾いたところにあります。
最後のポアロの推理も、作者の女性ならではの細やかさが感じられ見事です。別にブリッジのルールを知らなくても読めるので、少なくともアガサのファンなら読むべきです。

No.18 6点 書斎の死体- アガサ・クリスティー 2016/02/22 23:38
キレのあるトリックがコンパクトな長さにすっきりまとまった作品。ふたりの被害者の爪など、さり気ないヒントの提示もまずまずの面白さです。ミス・マープルはあまり積極的に事件に介入しない探偵というイメージがありますが、今回は比較的出番が多く、冴えた推理を見せてくれます。全体的にそつがない出来ではありますが特筆すべき点もあまりないのでクリスティーの標準は超えていない印象ですかね。

No.17 8点 ホロー荘の殺人- アガサ・クリスティー 2016/02/22 23:13
本格ファンにはあまり好まれないかもしれませんが、ユニークかつ感動的な事件の構図の妙が素晴らしい隠れた名作です。目立たないながらもしっかり散りばめられた手がかりの配置も見事。何より特筆すべきなのが他に類を見ないダイイング・メッセージであり、それがまた感動を誘います。はやみねかおる氏の解説にもある通り、ポアロの推理が見られるのもいいです。登場させなければよかった、と作者はコメントしたそうですが、名探偵というガジェットが大好物な僕としては彼が出てくるだけで嬉しくなります。

No.16 9点 杉の柩- アガサ・クリスティー 2016/02/22 22:57
今回ポアロが登場するのは長い第一章が終わってからで、主役となるのは恋敵を殺した罪がふりかかったエリノア・カーライルです。彼女はやってないに違いないと思う一方で、状況的には彼女がやったとしか思えないことから、読者はハラハラさせられっぱなしで読むことになります。毒殺トリックはアガサ女史の薬物の知識が活きたものではあるものの一般の人にはわからないものですし、動機もわかり辛い上に地味で印象に残りません。しかし、本作は作者一流のストーリー・テリングを堪能すべきでしょう。これほどヒロインに感情移入した作品は他にありません。

No.15 8点 満潮に乗って- アガサ・クリスティー 2016/02/22 22:42
読み返してみると、事件のプロットがけっこう入り組んでいることに気づきました。派手さはないものの、大小のトリック、意図せぬ偶然が絡み、すべての真相を見破るのはかなり困難と思われます(アリバイトリックはさらりと描かれていますが、なかなか巧妙)。若い男女のロマンスはクリスティーが得意としたテーマで、何度となくやっていることなのですが、飽きずに読ませることに成功しています。今回はとりわけローリイの頼りなさ、優柔不断さが目立ちますが、僕は同性として現実の男ってこんなもんですよ、と言いたいです。爽快で微笑ましい結末も素晴らしい秀作。

No.14 10点 ABC殺人事件- アガサ・クリスティー 2016/02/21 21:32
 ちょっと高得点すぎるかもしれませんが、大好きな作品なので。リアリティはまるでない事件ではあるものの、だからこその魅力というか、なんでもアリの推理小説のロマンが詰まっています。スピーディーかつサスペンスに溢れた展開は現代でも模範となるものといっていいのでは?クリスティーにしては珍しいサイコ・キラーものですが、陰惨さはなく、あくまでもプロットに勢いをつける効果を果たしているのも素晴らしい。そして何よりもポアロの「フェアではない」という犯人への糾弾の言葉、爽快な結末は最高です。
 もうひとつ。この『ABC』には同じクリスティーに原型とでもいえる作品が存在するのは衆知のことです。つまり本作は下手すれば「焼き直し」「二番煎じ」と評されかねません。ただ、クリスティーは元ネタにさらにスケープゴートの用意というネタを加えることで完成度を高めています。見事な発展を遂げた名作です。

No.13 6点 牧師館の殺人- アガサ・クリスティー 2016/02/15 23:28
ミス・マープル初登場作品。田舎の小さな村を舞台に、嫌われ者の老軍人が殺害されるという設定はいかにも古き良き探偵小説といった趣です。犯人特定のロジックに根拠が乏しいクリスティーにありがちな弱さはあるものの、最後にパズルのピースが綺麗にはまる快感は健在です。ただし、ハッタリがなく地味な印象は否めません。もっともクリスティーはヴァン・ダイン流の衒学的描写やディクスン・カー流の怪奇趣味とはそもそも無縁で、わざと無駄な装飾を省いているともとれます。

No.12 7点 ポアロのクリスマス- アガサ・クリスティー 2016/02/15 23:04
トリックが前面に押し出されたクリスティーにしては珍しいタイプの作品。あまり話題には上らないものの、実は他のどれよりも犯人が意外な異色作でもあります。「もっと凶暴な殺人を」というリクエストから生まれたそうですが、私はこんなのも書けるんですよ、という作者の表明を見せられた気がします。

No.11 5点 パディントン発4時50分- アガサ・クリスティー 2016/02/15 22:52
最後、伏線らしい伏線もなく急転直下犯人が判明するという構成上の問題が本格ファンからの支持を得られない原因でしょう。単純に読み物としてみれば、死体の出所から屋敷に疑いを向ける展開や、ミス・マープルの代わりに活躍するアイルズバロウ女史の冒険はちゃんと面白く、傑作の素質は十分あります。もっと推理のとっかかりがあったなら評価も違ったのでは。

No.10 6点 邪悪の家- アガサ・クリスティー 2016/02/10 21:57
今の読者からすると、犯人は見え見えかもしれません。(僕はまだ子供の頃NHKのアニメ版で既に犯人を知っていたので、どれだけわかりやすいか判断できませんが)。また、メインの仕掛けは秀逸であるものの、イギリス人ならともかく日本人にはまず予測できないためあまり感心することができません。そこが国内では評価が辛くなっている原因であり、損をしています。本国の読者にとっては申し分なくフェアだったのでしょうし、勿体ないですね。総合すると、初期のクリスティーの作品群の中では一枚劣るものの、破綻なくまとまったまずまずの出来と思います。

No.9 8点 死との約束- アガサ・クリスティー 2016/02/10 21:39
ナイルと同じ中東ものですが、こちらも地味な存在ながら上質かつクリスティー的な作品です。冒頭の「彼女を殺さなければならない」の言葉をはじめ、読者を惑わす手がかりの数々が真相を見えにくくしています。そして、真犯人を指摘するポアロの推理では何気ない描写が記憶の底から蘇る快感が味わえます。爽やかな読後感も素晴らしく、それでいて嫌味でないのがまたいいです。これ見よがしでない、さりげない技巧は女性ならではで、中期らしい円熟したクリスティーの魅力があります。

No.8 6点 雲をつかむ死- アガサ・クリスティー 2016/02/07 21:35
トリックの古臭さも含め、独特の雰囲気と味のある作品です。飛行機の中という当時としては先鋭的だったであろう舞台設定もそれに一役買っています。謎解きにおいても、乗客の持ち物から犯行方法を推理してみせるところなど、いかにもクラシカルな推理小説といった感じで好ましいです。それだけに、追い詰めた犯人が口を滑らせて犯行を認めてしまうという締まりの悪い終わり方は惜しいです。

No.7 6点 三幕の殺人- アガサ・クリスティー 2016/02/07 21:21
毒殺の方法はあまりにあっけなく、トリックとは呼べないほど単純なものです。また、動機の設定も新鮮といえば新鮮ではありますが、おそらく許せない人もいるでしょう。しかし、別のあるアガサ・クリスティーの名作は本作をベースにしたことが明らかであり、そちらと読み比べてみるのも一興だと思います。

No.6 7点 スタイルズ荘の怪事件- アガサ・クリスティー 2016/02/05 22:36
アガサ・クリスティーのデビュー作にして、早くも彼女の持ち味が発揮されている秀作です。毒物による犯行方法の目くらましはもちろんのこと、犯人隠蔽のトリックはいかにもクリスティー的で、のちの作品でもこのテクニックは応用されています。「灰色の脳細胞」をもつポアロの推理力もしっかり見せつけられています。

No.5 10点 五匹の子豚- アガサ・クリスティー 2016/02/05 22:19
クリスティー作品を「素人が読むもの」とちゃんと読みもせずに軽視しているような人にお薦めしたい名作です。容疑者がわずか五人に絞られているためフーダニットとしての意外性はほとんど捨てていると言ってよく、代わりに彼らそれぞれの描写が非常に丁寧です。これを読めばアガサが単なるトリック・メイカーではなく、むしろストーリー・テリングに秀でていることがよくわかるでしょう。登場人物全員に何かしら魅力があるのですが、すべてが明らかになったとき浮かび上がる犯人の心情が特に輝きます。

No.4 10点 オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー 2016/01/31 19:03
 私にとってナイルに次ぐナンバー2のクリスティー作品です。この題材ではアンフェアなことがやり放題にも思えますが、ポアロは見事論理的に真相を探り当てています。さまざまな記述が最後になって活きてくる細かい技も作者ならではでしょう。一つ触れておきたいのは、TVドラマ版では本作はかなり後半になって作られたということです。ドラマで最後に見せたポアロの険しい表情は最終作『カーテン』を意識したものであることが見て取れ、そういう意味では制作側は非常に原作を理解していたといえます。

No.3 9点 アクロイド殺し- アガサ・クリスティー 2016/01/31 18:51
この手のトリックを始めたのがクリスティーかどうかは不明ですが、おそらくもっとも本格的かつ巧妙な使い方を開発したのは彼女が最初だと思います。僕は運悪く犯人を知って読んでしまったため魅力は半減でしたが、伏線を確認しながらの読書も意外と面白いものでした。アンフェア気味な記述に走らず、読者に推理の余地をちゃんと与えているのも好印象で、いかに細心の注意を払って書いてあるかがわかります。ただ、その他のトリックは今読むと古びているところも多いので最高点は控えます。

No.2 10点 そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー 2016/01/27 22:25
サスペンスフルな展開、巧みな心理描写、最後に明かされる強烈な犯人像のインパクト、すべてが一流です。クリスティーが華麗なプロット作りに秀でていることを示した最高の例だと思います。たとえトリックが古びてもこのスピード感あるストーリーの構築は永久に推理小説のお手本となるものでしょう。

No.1 10点 ナイルに死す- アガサ・クリスティー 2016/01/20 23:04
 ストーリー運び、読者をミスリードするテクニック、どちらも非常に上質で、かつ「クリスティー的」であると思います。頭から200頁を超えても事件が起きませんが、読み返すとむしろこの小説の真の見どころはこの事件が起きるまでにあるとも分かりました。鮮やかな情景描写や船の上を舞台にした謎解きのムードも素晴らしく、個人的に作者のベストは何かと訊かれたら迷わず本作を挙げます。

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青い車さん
ひとこと
正面からロジックで切り込むタイプの作品を愛好しています。ただ、横山秀夫『半落ち』なども夢中になったので、面白ければ何でも読む、というのが本当かもしれません。
雰囲気重視の『悪魔が来りて笛を吹く』『僧正...
好きな作家
エラリー・クイーン、アガサ・クリスティー、D・M・ディヴァイン、横溝正史、泡坂妻夫...
採点傾向
平均点: 6.93点   採点数: 483件
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