皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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青い車さん |
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平均点: 6.93点 | 書評数: 483件 |
No.223 | 9点 | シャーロック・ホームズの回想- アーサー・コナン・ドイル | 2016/08/14 21:23 |
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カドカワ版の新訳で読了しました。単純に内容として強く記憶に残ったのは『シルヴァー・ブレイズ』『黄色い顔』あたり。三谷幸喜脚本の人形劇に採用されていた『ギリシャ語通訳』『海軍条約文書』が読めたのも嬉しかったです。あとは古風な暗号解読が絡んでくる『グロリア・スコット号』も味わい深くて好み。もうひとつカドカワ版で特筆すべきなのは、異色作にして問題作の『ボール箱』が収録されていることです。
一部の作品でアイディアの使い回しをしているなど、純粋に面白い作品は『冒険』より明らかに減っていますが、それでも楽しく読めたので得点はちょっと甘めです。 |
No.222 | 7点 | エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン | 2016/08/07 20:29 |
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クイーン屈指の大トリックと緻密な伏線に、爽やかな読後感まで揃った『神の灯』。エラリーのとった心理テスト的な罠が印象的な『宝捜しの冒険』。犯人の失言とあるアイテムから紡ぎ出すロジックにキレがある『がらんどう竜の冒険』。以前も用いたアイディアを奇抜な犯行に応用してみせた『暗黒の家の冒険』。ミステリーとしては薄味でも小説として読ませる『血をふく肖像画の冒険』。毒殺トリックがユニークで、かつ論理の土台もしっかりしている『人間が犬をかむ』。こちらは銃の使い方が見どころなショートショート的作品『大穴』。意外なロジックで犯人を唯一人に絞り込むクライマックスに迫力がある『正気にかえる』。アメリカ銃~でもあった灯台下暗しな隠し場所が肝の『トロイヤの馬』。
『神の灯』が圧倒的に世評が高いですが、個人的なベストは『正気にかえる』です。全体の水準は冒険の方が上だと思うものの、それでもこれだけの面白さを維持しているのはさすがです。 |
No.221 | 6点 | 準急ながら- 鮎川哲也 | 2016/08/07 18:59 |
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地道な捜査や、アリバイを見破る推理とその崩壊の繰り返しだけで読ませてくれます。カメラフィルムなどの知識が乏しいため読んでいて理解するのがやや大変でしたが、そこがまた昔の推理小説を読んでる満足感がありました。結果的にトリックはわりと小粒なものの、この作者らしく破綻なく練られていると思います。ただし、動機の説明があっさりと片付けられているところに物足りなさもあり、そこは少し減点対象です(それは直前に読んだ『人それを~』と比べたら、の話ですが)。 |
No.220 | 9点 | 人それを情死と呼ぶ- 鮎川哲也 | 2016/08/04 12:38 |
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『黒いトランク』『りら荘事件』も良かったですが、仕掛けの切れ味は本作はそれらにも勝ると思います。鬼貫警部の出番が少なく、彼絡みの見せ場が少ないという不満もどうでもよくなるほどでした。
終盤に差し掛かるまでは単純なアリバイ崩しものかと思って読んでいました。容疑者の的も絞られ、さほどインパクトもなく締めくくられるのではないかと。しかし、最後の最後の逆転は見事!犯人の意外性でなく、犯行の意外性で魅せる傑作でした。すばらしいのは、ただ驚かせて終わりではなく犯人側のドラマもしっかり描いてみせたところで、本格推理の良さに加え物語としての深みもあります。印象的なタイトルの付け方もトリッキーかつ美しく、迷いなく鮎川作品でいちばんに人に薦めたい作品です。 |
No.219 | 7点 | ペトロフ事件- 鮎川哲也 | 2016/08/02 23:59 |
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鬼貫警部はホームズ、金田一などと比べエキセントリックさに欠け、堅実な捜査と思考が強みの紳士型刑事。そのため読者によってはアクがなくつまらないキャラクターと取られることもあるようです。けど、言葉の節々から見られる人間性の温かみには親しみが持て、僕は星影龍三よりずっと好んでいます。この『ペトロフ事件』は満州にいた少し若い頃の彼が見られる貴重な作品です。
内容に関して触れると、プロットはこの時代にしてはかなりよくできています。容疑者となる三人の甥のアリバイ調べから始まり、一人のアリバイを崩したかと思えばそれは別の一人をかばうためで、その人物の犯行も否定され、残る一人はもっとも強固なアリバイに守られていて……。ストーリー構成がすばらしく、かつ複雑すぎず適度に利いたひねりで楽しませてくれます。 ごく普通の鉄道トリックかと思いきや、意外と単純なところに真相があり、最後の展開にも気が抜けません。書かれた当時の満州の雰囲気も楽しめるし、短くサクッと読めるのもいいです。 |
No.218 | 7点 | 靴に棲む老婆- エラリイ・クイーン | 2016/07/24 22:57 |
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『Yの悲劇』のハッター家の再来を思わせる、狂った一族を中心にした事件にエラリーが挑戦します。犯人は見え見えとの声もありますが、拳銃の工作は単純そうでなかなか練られています。また、何よりどんな事件でも純粋にロジックを積み重ねて犯人を導き出す姿勢はやはりエラリー・クイーン、といった感じです。ファン投票ベスト10は伊達ではありません。そして、あの人物が初めて登場する記念すべき作品でもあるのでファンは要チェックです。 |
No.217 | 8点 | 十日間の不思議- エラリイ・クイーン | 2016/07/24 22:39 |
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登場人物が少ないため、「誰が犯人だろうか」と考えながら読む楽しみはほぼありません。僕は別の本で笠井潔氏が犯人をバラしているのを先に読んでしまいましたが、本作に関してはそれはまったく問題になりませんでした。内容の方は、ライツヴィルもの一作目の『災厄の町』と同様に、割とゆったりと展開していきます。殺人事件そのものがなかなか起きず、本格好きが喜ぶような華々しいプロットとは到底言えません。
ただ、そのなかなか殺人が起こらないという構成が魅力と言えなくもないかもしれません。地味ながらも不穏なストーリーが、終盤になって急激に本格ミステリーに変貌します。それも、クイーンが後年に拘ったあのテーマの一種と呼べるようなもので、最初読んだときはとても新鮮でした。 もうひとつ興味深いのが、犯人指摘の後、エラリーが犯人にある行為を許してしまうところです。アガサ・クリスティーも初期の代表作で同じことをしていますが、ポアロもエラリーも法の裁きに信頼を置いていない、ということでしょうか? |
No.216 | 7点 | 災厄の町- エラリイ・クイーン | 2016/07/24 22:08 |
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飯城勇三氏によれば、『災厄の町』は「二度読んで面白さがわかる」そうです。個人的に本作は初読時あまりピンと来なかったのですが、今日パラパラと読み返してみました。
僕があまり楽しめなかった原因には、推理の醍醐味が薄いこと、そして人間ドラマに今ひとつ乗れなかったことがあります。特にエラリーがあまりに精彩を欠いているのが気になりました。『エジプト十字架』事件を解決した彼が終盤まで手も足も出ないままだったのには違和感が拭えません。ドラマの方も刺激的な展開が起きる訳でもなく、割と地味に、淡々と進んでいる印象です。 ただ、ラスト一行「今日は母の日だぜ」のセリフにはどうしようもない切なさ、哀しさがあり、最上の締めだと思います。推理もあの手紙の手がかりは非常に秀逸。そこらへんはさすがクイーンといえます。 |
No.215 | 6点 | 日本庭園の秘密- エラリイ・クイーン | 2016/07/24 21:42 |
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(直接的な説明は避けていますがネタバレ気味です)
『日本庭園の秘密(ニッポン樫鳥の謎)』の肝は何と言っても○○に見えて実は××だった、という点に尽きます。そして裏にそれを仕向けた人物がいた、というのも凝った趣向です。初期クイーンは直球の本格ばかりだと思われがちですが、実際は基本のパズラーの核はあってもけっこう色んなアイディアに手を出しています。大袈裟に言ってしまえば、現在のミステリーの教科書に載るような手法を網羅しているかのようです。 僕は幸せなことにこの手のパターンは本作が初だったので、解決篇には興奮を覚えました。ただ、「傑作の本格推理」を求めて読むとがっかりするのもわかります。そこが、ニッポン樫鳥が代表作に比べて評価がパッとしない原因なのでしょう。 |
No.214 | 7点 | エッジウェア卿の死- アガサ・クリスティー | 2016/07/22 18:13 |
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『青列車の秘密』では手口とその書き方がまだ完成されていないように思っていましたが、こちらも解決篇で明かされる犯行方法だけ取り出せば非常に古典的。ただし、すばらしいのはいかにもアガサらしい細かな矛盾点を見つけるポアロの着眼と、裏の裏をかいた意外な犯人が浮かび上がる逆転です。書かれた年代を考慮すればかなりの作品ではないでしょうか。 |
No.213 | 5点 | 青列車の秘密- アガサ・クリスティー | 2016/07/22 18:03 |
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トリックは「なんだ、そんなことか」と思う人も多そう。事実、僕もそうでした。作者は似通った手法を何度か使っていますし、その料理の仕方はのちの洗練された書き方には遠く及ばないと思います。それでも、プロットは初期の作品なのに既にかなりしっかりしています。そのあたりはさすが。女性登場人物の描き方もいいです。 |
No.212 | 6点 | もの言えぬ証人- アガサ・クリスティー | 2016/07/22 17:53 |
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『ポアロのクリスマス』や『葬儀を終えて』『パディントン発4時50分』のような、クリスティーに数多い一族内部の描写が目立つ長篇です。ただ、内容は長さの割に淡白で、最終的な犯人にも驚きはありません。やはり問題なのは巻末の解説にもある「むつかしい説明を要する毒」です。当然それがあっては素直になるほど!とは感心できず、へえ、そうなんだ、で終わってしまいます。霜月蒼氏は高く評価していたので、意外と大人な読者には深みがわかるのかも。近いうちに丁寧に読み返したいです。 |
No.211 | 8点 | 叫びと祈り- 梓崎優 | 2016/07/22 16:40 |
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ざっくりと各篇の感想を。
『砂漠を走る船の道』は文句なしの傑作。この現代にここまで読み手を驚かせる動機を発明したのはすごいです。遠い異国の人間の、異常な論理に驚愕しました。 『白い巨人』はあくまで相対的にではあるもののやや落ちる出来。彼女がどう消えたのか?に関しての謎は拍子抜けです。小説としてはまずまず。 続く『凍れるルーシー』はラスト一行の衝撃が凄まじい作品です。地に足の着いた謎解きと、非科学とが合わさった奇妙な味が楽しめます。 『叫び』も一話目と同様に異常な論理から生まれた動機が軸です。ただし、前者のインパクトに霞んでしまった気もします。 そして締めの『祈り』が何と言っても印象的でした。こういうエンディングがあるだけで満足感は変わってきます。蛇足という人もいますが。 総括すると、異国ばかりで事件が起きる、という趣向に必然性があってどれも水準は高いと思います。ベストは意外と『凍れるルーシー』だったりします。 |
No.210 | 7点 | マギンティ夫人は死んだ- アガサ・クリスティー | 2016/07/18 17:32 |
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騙しのやり口がミスディレクションの達者なクリスティーらしく、もはや老獪ささえ感じます。老婦人が殴り殺され、要領が悪く冴えない青年が逮捕される、という派手さはまったくない事件でありながら、終盤の畳み掛けるような推理にはやはり感心させられました。TVドラマ版も原作の伏線をちゃんと盛り込んだいい出来だったのでオススメしたいです。 |
No.209 | 5点 | 魔術の殺人- アガサ・クリスティー | 2016/07/18 17:23 |
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タイトルから大がかりな奇術的トリックが楽しめるのかと思いきや、蓋を開けるとかなり単純で古典的な手口でした。少年犯罪者たちの施設という特殊な環境に今ひとつ必然性がないのも惜しいです。マープル・シリーズはポアロよりも本格度が低めなものが多いですが、これは『牧師館の殺人』などの犯人当てと比べても一歩譲る出来だと思います。ただ、それでも作者の得意とする若い男女のロマンスや、それがいつも通りハッピーエンドで終わるのは読んでいてホッとするものがあります。 |
No.208 | 5点 | 動く指- アガサ・クリスティー | 2016/07/18 16:59 |
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ミス・マープルの出番は少なく、今回の主役は完全に舞台となる町に移り住む兄妹です。特に妹の姿が生き生きと描かれる様は悪くありません。ただし、そもそもアガサ・クリスティーはこれ見よがしに大袈裟なのは嫌いなのかもしれませんが、事件は他に例がないほど地味です。誹謗中傷の手紙を除けばアイディアらしいアイディアはなく、クイーンにおける靴や帽子のような推理のとっかかりもありません。作者の密かなお気に入りだったそうですが、瑞々しい小説としての魅力はいいものの、ミステリーとしては二軍の出来となってしまうと思います。 |
No.207 | 8点 | 鏡は横にひび割れて- アガサ・クリスティー | 2016/07/17 21:27 |
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動機の謎一本で勝負しているため、下手をするとかなり薄味になりかねない構成です。ですが、そういう意味では、本作はかなりよくできていると思います。犯人側のドラマと濃密に関係した虚しくいじらしすぎる動機で、美しくも哀しい余韻が後を引きます。村の住人たちの会話という本筋とはまったく関係ないパートも楽しめます。あと、印象的なタイトルも興味を惹かれていいですね。 |
No.206 | 9点 | ゼロ時間へ- アガサ・クリスティー | 2016/07/17 18:59 |
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このサイトでは評価が分かれていますね。僕はクリスティーのノンシリーズの中では屈指の傑作と思っています。殺人の起きるタイミングが意外と早く、「冒頭で言っていたことと違うじゃないか」「タイトルに偽りあり」とする人もいるようですが、それは誤った読み方では?『ゼロ時間へ』のトリックは、その相応しくなさそうなタイトルにあるんじゃないでしょうか。
中盤であれ?と感じたと思ったら、最後の最後そのタイトルが再び活きてくる。実によく練られた構成だと思います。犯人のどす黒い悪意にはぞっとしますし、バトル警視のカッコよさもすばらしい。名探偵という存在が大好きな僕も満足のいく味わいがありました。 |
No.205 | 4点 | ビッグ4- アガサ・クリスティー | 2016/07/17 18:49 |
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アヴェレージの高いアガサ・クリスティーの中では非常に珍しい、ほぼ誰もが認める失敗作とされている作品。今回冷静に読んでみると、明らかに作者の本領でないスパイ小説で、他の作品群で見られるポアロの推理の冴えは完全に影を潜めています。間違ってもこれをアガサのベストに挙げる人は少ないであろう出来ですが、あらかた名作を読んだ後に、「こんな変なのも書いてたんだな」と思いながら番外篇として読むのが正しいかもしれません。 |
No.204 | 7点 | 詩的私的ジャック- 森博嗣 | 2016/07/17 13:20 |
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密室殺人がいくつも登場してきますが、それらはどれも理系知識に基づいたトリックですぐさま見抜かれます。そのため本作はシリーズでは珍しく、密室を作った理由が大きな謎となっています。最終的にその解は若干やりすぎな感もあるものの、見たことのない類のもので僕はわりと好きです。余談ですが、一部のトリックは鮎川哲也やアガサ・クリスティーも似たものを使っています(といってももちろん単なる借用でなくうまく応用してます)。 |