皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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パメルさん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 654件 |
No.314 | 6点 | 46番目の密室- 有栖川有栖 | 2020/11/09 19:39 |
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推理作家・有栖川有栖とその友人の犯罪学者・火村英生のコンビシリーズ第一弾。
密室を扱ったミステリばかりを発表する推理小説作家・真壁聖一から、クリスマスパーティーに招かれた有栖川と火村は星火荘へ向かった。そんな中、完全な密室の中で真壁は殺されてしまう。自分の考えた46番目の密室トリックで殺されたのか。 タイトルのとおり、密室に焦点を当てた作品かと思ったが、メインの対象としては扱われてはいない。その他の様々なデータを集め、それらを組み合わせて犯人を導き出すというロジカルな謎解きが楽しめる。有栖川と火村のやり取りも楽しいし、テンポも良くリーダビリティが高く好印象。 |
No.313 | 4点 | 灰色の虹- 貫井徳郎 | 2020/11/01 10:10 |
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身に覚えのない殺人の罪に着せられ服役した主人公の江木は、刑期を終えた後、復讐を誓う。やがて、裁判の関係者たちが次々と変死した。警察は江木に疑いを向けるが、警戒の隙をつくように犯行は続く...。
この作品は冤罪というテーマを真正面から扱ったミステリ。現実には、強引な捜査をした警察官や検事、誤った判決を下した裁判官などは、形ばかりか謝罪することはあっても自分の人生で償いをすることはない。その意味で、本書の展開は殺されて当然といったカタルシスを感じるかもしれない。 しかし、復讐のための殺人なら許されるのかという問いが、結末に近づくにつれて重くのしかかってくるため、読み心地は痛快さからは程遠い。人間の罪の罰について真摯な考察を重ねてきた作者ならではの力作といえるでしょう。 現実の司法の闇は一般人の想像を超えて深い。その前では本書における司法の歪みの描写すら、まだ甘いように感じてしまう。また、先が読めてしまう展開に、最後の真相も予想通りでミステリとしては今ひとつ。そして、このストーリーにしては冗長に感じる。 |
No.312 | 6点 | 山魔の如き嗤うもの- 三津田信三 | 2020/10/27 19:22 |
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刀城言耶シリーズ第四弾。忌み山で続発する無気味な謎の現象、正体不明の山魔、奇怪な一軒家からの人間消失、刀城言耶に送られてきた原稿には、山村の風習初戸の成人参りで恐るべき禁忌の地に迷い込んだ人物の怪異と恐怖の体験が綴られていた。
不可解な密室からの人間消失、地蔵歌の見立て殺人、アリバイトリックなど、いかにも本格らしい趣向で、その醍醐味を満喫させてくれる。 土俗、怪奇、因習、オカルト趣味、閉塞感を独特の恐怖の演出で禍々しさも迫力満点。 舞台設定の醸し出す雰囲気は好みだし、息もつかせぬ展開に複雑で魅惑的な謎解きに多重のどんでん返しに強く惹かれる。横溝正史氏のある作品を想起させる仕組みがあり、知っている人ほど誤った方向に誘導されるかもしれない。前作に比べ、随分と読みやすくなったし精緻な構図と構成の妙を堪能できる。 ただ、前作に比べ切れ味がなく、手法にやや物足りなさを感じた。また、前作でも思ったが現場となった土地や屋敷内などの位置関係を示す地図が欲しいと思った。 |
No.311 | 6点 | 黒百合- 多島斗志之 | 2020/10/22 08:59 |
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ノスタルジックな味わい深いミステリで時代と場所の異なる二つの話が交互に語られている。まず最初の章で語られるのは、一九五二年、十四歳の「私」が六甲の別荘地で過ごした夏の思い出。父の友人の息子・一彦とともに池で遊んでいたとき、香という少女と出会った。私と一彦は、一目で彼女に恋心と抱いた...。
章が変わり、昭和十年ヨーロッパの視察旅行中の私鉄会社社長一行が、ベルリンの終着駅で相田真千子という若い女性と出会う逸話がつづられていく。 少年時代の輝きに満ちた夏のひとときや初恋の甘い追憶、そして六甲の避暑地の風景が繊細に描き出されている一方で、戦前に起こった悲劇が、さらに人知れぬ殺人事件へと連鎖する暗い人間模様が物語られていく。犯人は誰なのか判然としないまま、やがて驚愕の結末へと向かう。 まるで、丁寧に織り込まれた色違いの美しい布地を大胆に重ね合わせたようなストーリー。最後に浮かび上がるのは、それまで見えなかった黒百合の鮮やかな模様だ。技巧を用いたミステリであると同時に、郷愁あふれる青春小説としての味わいが深く胸に残る。謎解きより仕掛けに面白味を感じる人向けといえるでしょう。 |
No.310 | 6点 | 天空の蜂- 東野圭吾 | 2020/10/17 10:23 |
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超大型特殊ヘリコプターが何者かに奪われる。ヘリコプターには爆薬が満載され、原子力発電所の真上でホバリングをしている。犯人は「日本にある全ての原子力発電施設を停止し、再び稼働できない状態にせよ、そうしなければ、ヘリを墜落させる」と脅迫してきた。
非常に難しく、デリケートなテーマを扱った緊迫感に満ちたサスペンスミステリ。「Not In My Back Yard」こと「NIMBY」。その意味は、「施設の必要は認めるが、自分の居住地区には建てないでほしい」。原子力発電所は周囲への影響が大きく、健康上のリスクが大きい施設。その反面、多くの人々に恩恵をもたらす施設でもある。「存在しないことによる安全性」か「存在することによる生活の利便性」か。 東日本大震災の前と後で読んだかで、読後感は違うのではないでしょうか。しかし、はっきりと答えが出たわけではない。考えさせられる作品であった。 |
No.309 | 7点 | 動機- 横山秀夫 | 2020/10/12 08:52 |
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警察官・殺人の前科者・新聞記者・裁判官が主人公で組織の中で悪戦苦闘し、胸が苦しくなるような仕上がりの4編からなる短編集。表題作の「動機」はもちろんのこと、その他の作品もそれぞれ動機がポイントになっている。その中で気に入った2作品の感想を。
「動機」推理作家協会賞受賞作。警察内部の事件を捜査する管理部門の人間が主人公。警察手帳が盗まれ、責任者として名誉を挽回するために内偵に奔走する。警察内部の軋轢や人間関係がリアルで、展開もめまぐるしいので飽きさせない。最後のオチは少し気に入らない点もあるが...。 「逆転の夏」女子高生殺しで前科のある男が、電話で見知らぬ相手から殺人を委託される。自分が一寸先は加害者または被害者になるかもしれない、そんな意識が克明に描かれており心理描写が丁寧で好印象。先が読めないスリリングな展開にプロットも捻りが効いており、どんでん返しもお見事。犯罪者の社会復帰問題についても考えさせられた。ミステリとしても人間ドラマとしても濃厚で満足。長編として、じっくり読んでみたかったと思った作品。 |
No.308 | 5点 | しらみつぶしの時計- 法月綸太郎 | 2020/10/07 09:23 |
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名探偵・法月綸太郎が登場しない9編と名探偵・法月「林」太郎が登場する1編の計10編からなるノンシリーズの短編集。
捻くれた密室もので脱力系の「使用中」、ダメ人間が奇妙な交換殺人を目論む「ダブル・プレイ」、ブラックな味わいで笑える「素人芸」、秀逸なロジックが味わえる頭の体操的パズル小説の「盗まれた手紙」、サスペンス風に展開しておきながら、異様なロジックでオチはダジャレネタという表題作の「しらみつぶしの時計」、切なくて哀しい叙情的な青春ミステリの「トゥ・オブ・アス」は佳作~秀作。ベストは「盗まれた手紙」。 「四色問題」と「幽霊をやとった女」は過去の名作のパスティーシュ。バレバレのネタなのでミステリとしての出来は今ひとつ。「イン・メモリアム」と「猫の巡礼」は幻想小説?ミステリとはいえない、または弱いと思う。 |
No.307 | 6点 | i(アイ)―鏡に消えた殺人者- 今邑彩 | 2020/10/02 09:03 |
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怪奇小説と本格推理小説が融合した貴島刑事シリーズ第一弾。
編集者の的場は、作家の砂村が待ち合わせ場所に現れないため、仕事場を訪れると刺殺されていた。 砂村の書きかけの短編が冒頭に挿入されており、それがホラー的な雰囲気を醸し出している。殺害現場も部屋は密室であったこと、血染めの足跡が、あたかも鏡の中に入ってしまったかのように鏡の前で消えていること、残された遺稿には鏡に怯える自伝的小説があったこと。 この怪奇的な謎をどのように手掛かりを掴み、推理し真相に近づいていくのか、そのプロセスが面白く読ませる。謎を少しづつロジカルに解明し、思いがけない真相に辿り着く。そこからさらに、動機と遺稿の謎を巡って、もう一捻り加えて異様な構図を露にし驚かされる。リーダビリティは高いし、プロットも丁寧で好印象。ただ、最後の全てがひっくり返るようなどんでん返しは、少し強引に思える。 |
No.306 | 5点 | 貴族探偵対女探偵- 麻耶雄嵩 | 2020/09/27 09:09 |
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自分では推理をせず、他人に任せながら「私の使用人だから自分の推理だ」と主張する貴族探偵と高名な探偵を師に持つ駆け出しの女探偵、高徳愛香が対決する5編からなる短編集。
女探偵が行く先々に貴族探偵が現れ、事件が起き、毎回お決まりのパターンで展開し着地するという点は好みが分かれるでしょう。最終話のオチは良かったですが。 事件の構図やトリックはオーソドックスで、トリックよりロジックといった人向けという印象。ロジックは良く出来ている。「むべ山風を」は一部の推理に強引さを感じるが...。 余談ですが、女探偵の高徳愛香の名前が四国四県の「高知・徳島・愛媛・香川」からとっているように思うのだが、何か意味があるのだろうか? |
No.305 | 6点 | 弁護側の証人- 小泉喜美子 | 2020/09/22 10:34 |
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ヌードダンサーのミミイ・ローイこと漣子は、矢島財閥の御曹司の杉彦に見初められ玉の輿に乗った。漣子は決して財産目当てで結婚したわけではなかったが、周囲の反発が凄かった。そんな中、矢島財閥のトップであり、杉彦の父親である龍之介が殺された。その後、容疑者は逮捕され一審で死刑判決が下された。
「あっと驚くどんでん返し」、「あなたは絶対に騙される」など書店のポップに誘われて購入したが、しっかり騙された。一瞬ですべてがひっくり返る鮮やかな構成。しかも、伏線が全て別の意味を持つことに気付く。真犯人は誰なのか?弁護側の証人とは誰なのか?事件の真相とは一体何なのか?そんな疑問を一気に崩壊させるようなカタルシスは、爽快で傑作と呼んでいいと思います。 現代でこそ、類型的な作品が多くみられるが、叙述トリックがあまり存在していなかった当時の衝撃は凄まじかっただろうと想像できる。ただ、驚きのカタルシス以外に特に語る部分がない小説ともいえる。 |
No.304 | 6点 | 念力密室!- 西澤保彦 | 2020/09/17 09:42 |
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6編からなる連作短編集。この6編の設定は全て、犯人の超能力(サイコキネシス=念力)によって鍵が閉められ、現場が密室になったというもの。
主な登場人物は、美人警部の能解、チョーモンイン(見習)の神麻、売れない作家の保科。チョーモンインとは、超能力者問題秘密対策委員会の略であり、超能力を不正使用するエスパーを摘発するのを専門とする。 能解が科学捜査関係の、神麻が超常現象関係の、それぞれ事件に関するデータを持ち寄り、それに基づいてブレーンである保科が推理する。 通常のミステリだと密室に関しては、どのようにして密室がつくられたのかというハウダニットを推理するのが多いと思うが、この作品は超能力を使用して密室をつくっているので、何のためにというホワイダニットが中心の謎となっていて興味深く読むことが出来た。 奇想天外が連続する謎の見せ方も本格ミステリとして愉しませてくれるが、いつの間にか何かある度に、保科家に集まる能解警部と神麻嗣子の奇妙な三角関係もコミカルで目が離せなくなるでしょう。 |
No.303 | 7点 | 密室の鍵貸します- 東川篤哉 | 2020/09/12 09:58 |
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タイトルからビリー・ワイルダー監督の傑作コメディ映画「アパートの鍵貸します」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。この作品も映画に負けずユーモアたっぷり。
作者がつくった架空都市・烏賊川市が舞台。主人公の戸村流平は、彼女の紺野由紀にフラれてしまう。その噂を聞いた茂呂に誘われ「殺戮の館」という映画のビデオを持って、家に遊びに行くことになる。しかしその晩、紺野由紀が殺される事件があり、アリバイを証明してくれるはずの茂呂までも殺されてしまう。 軽妙な語り口で緊張感がない、とぼけた感じの作風なので好き嫌いは分かれるかもしれない。ただ、その語り口こそが充分な効果をあげて、大きな仕掛けが隠されているというトリッキーな作品。 個性的な人物造形、周到な伏線の張り方、小道具の使い方も実に巧妙。小難しいことなく、リーダビリティが高い作品なのでミステリ入門書として最適だと思います。 |
No.302 | 7点 | 狩人の悪夢- 有栖川有栖 | 2020/09/08 09:28 |
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作者と同姓同名の有栖川有栖が、人気ホラー作家である白布施正都との対談をきっかけに、彼の邸宅へ招かれる。「夢守荘」と名付けられたそこには、眠ると決まって悪夢を見てしまう悪夢の寝室があり、有栖はその部屋に泊まって一晩を明かす。翌日、右手首のない女性の死体が発見される...。
手首の切断理由は?壁に残された血の手形の目的は?現場にあった弓矢、流れていた音楽など、不可解な要素を合理的にロジックを積み上げて犯人、犯行方法を導き出していくプロセスは美しい。また思いがけないことが実は事件の重要な鍵になっており衝撃が大きい。 真相が全て明らかになると同時に、ある人物への悲哀溢れる半生と犯人が絶対悪ではなかったことを仄めかす逸話を添えて幕となるエピローグなど謎解きと人間ドラマが愉しめる。 ただ、事件自体は派手な演出や奇抜な要素が盛り込まれているわけでもないし、登場人物も少ないため地味に感じる方もいるだろうし、フーダニットとして愉しめないかもしれない。 |
No.301 | 6点 | 罪の声- 塩田武士 | 2020/09/03 19:27 |
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「どくいり きけん たべたら 死ぬで かい人21面相」などと書いた青酸ソーダ入り菓子をばら撒き、全国の消費者を不安に陥らせた。その社会を揺るがした昭和の大事件、グリコ・森永事件をモデルに、それをヒントにした程度ではなく、細部までそっくりそのままの設定にし、その裏で何が起きていたのかという仮説を提示する小説になっている。
まず、作者の取材力と緻密で迫力ある描写に驚かされた。さまざまな関係者によって、もう一度語られていき、当時の事件が生々しく蘇ったような臨場感に包まれる。(作者はこの事件を小説にしたいと思い新聞記者になったらしい) 本作は、実際に起きた事件の詳細について知識があればあるほど楽しめる仕掛けとなっている。当然、知らなくても分かるように描かれているが、事件のポイントを知っているかどうかで、仮説の衝撃度が違ってくる。 決して悪くはないのだが、ノンフィクションの緻密なドキュメンタリー的検証部分とフィクションである犯人家族の人間ドラマが、どうも馴染んでいない感じがしてしまった。 ※余談ですが、今年秋(10/30より)小栗旬、星野源出演で映画公開だそうです。 |
No.300 | 6点 | Dの殺人事件、まことに恐ろしきは- 歌野晶午 | 2020/08/29 09:23 |
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江戸川乱歩作品のトリビュートに挑んだ7編からなる短編集。
スマホやSNSをはじめ、最新のテクノロジーが重要な役割を果たしており、人間の狂気や狡猾さもバージョンアップした、懐古趣味に留まらない刺激的なリニューアルが施されている。どう現代的なアレンジを加えていったのかを確認するごとに、作者の感性と技巧に唸らされるばかり。 どの作品も、まともな人間が一人も登場することなく、シュールでブラックさが際立ち、情け容赦のない結末で後味悪い読後感を残す。救いのなさが増幅されている感じ。イヤミス好きな方はぜひ。 本作を読み、江戸川乱歩という作家及びその作品群は、それ以後のミステリ作家に計り知れないほどの影響を与えているのだと改めて思いました。 |
No.299 | 6点 | 許されようとは思いません- 芦沢央 | 2020/08/22 09:22 |
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タイプの異なる気味の悪いどんでん返しが楽しめる5編からなる短篇集。
丁寧な心理描写で登場人物に共感を持って読んでいると、いつの間にか心の中に闇が入り込んできたり、おぞましくも温かったり優しいけどやはり怖かったり。人の愚かさ、本性をじっくり描いており、一編一編密度が濃い。 ラストの締め方も、予想外の方向に一気にひっくり返したり、じわじわと意味が分かってくる恐怖を味わえたりとさまざま。そして、どの編も鍵となる女性たちを端正な筆致で描き、深みと恐怖をより一層際立たせている。恐るべき動機、構図の反転で破壊力抜群のイヤミスが楽しめる。 ひとつ気になった点(おかしな記述と思った)...文庫版でP54の13行目...警察はこんなこと言わないのでは? |
No.298 | 6点 | GOTH リストカット事件- 乙一 | 2020/08/16 10:25 |
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語り手の「僕」と森野夜は、お互い殺人や自殺、虐待などを魅力的に感じているという、普通の神経では考えられない感性で繋がっている。
ラノベ風な雰囲気があり、2人ともどんな状況でも感情を表に出すことなく、淡々とストーリーは進んでいく。この得体の知れない不気味さが堪らない。(ホラーを読むときの怖いもの見たさが湧いてくる)また、歪んだ美意識、一筋縄ではいかないストーリーを描き上げた筆力、トリッキーでアクロバティックは仕掛けは好印象。 ただ、人物造形が一種独特な世界観なので、小説として整合性に一部欠陥があるという印象を受けた。 |
No.297 | 8点 | 生還者- 下村敦史 | 2020/08/09 09:36 |
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世界第3位の標高を誇るカンチェンジェンガに登っていた日本人4名の遺体が回収された。増田直志の兄、謙一もその中の一人だった。その後、奇跡的に相次いで2人の生還者が見つかる。しかし、2人の言い分は全く違っていた。また、直志は兄の遺品であるザイルに不審を抱く。
人間の持つ主観により、真実が見えにくくなる。何が事実で、何が虚構か、最後まで目が離せない。迫力満点の雪山の描写に加え、謎が謎を呼ぶ展開や二転三転していくミステリの面白さに加え、兄と弟の確執、ある人物のトラウマ、「生還の罪」に取りつかれた者たちが辿る闇を描き切った人物造形が錯綜するプロットを支えている。 伏線が見事に回収され、全ての謎が明らかになった時、山への真摯な思いも浮かび上がり、晴れ渡った景色を山から見下ろすような爽快な気分になった。ミステリとしても人間ドラマとしても満足な出来。 余談ですが、寒い時期に読む場合、防寒対策を万全にしておかないと凍えてしまうかもしれません。 |
No.296 | 7点 | medium 霊媒探偵城塚翡翠- 相沢沙呼 | 2020/08/02 08:38 |
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本ミス1位、このミス1位、本屋大賞にもノミネート、帯の「すべてが伏線」という惹句に綾辻行人氏、有栖川有栖氏も絶賛、そして何よりこのサイトでの評価がとても高いということで、文庫化まで待つことは出来ませんでした。
推理作家として難事件を解決してきた香月史郎と死者の言葉を伝えることが出来る霊媒師の城塚翡翠が力を合わせて事件に立ち向かう。設定にSF的趣向があり、ラノベ風な雰囲気があるので読者を選ぶかもしれない。 香月史郎と城塚翡翠が事件を解決するたびに、インタールードという幕間のようなシーンが差し挟まれる構成になっている。キャラクターが苦手で、あまり楽しめないなと読み進めていたが、最終話でそれまでのストーリーの印象が見事なまでにひっくり返るような衝撃的な真相が待っていた。ヒロインのキャラクターだけでなく、各話の事件の解決に至る推理までもが鮮やかに違うものに変化するというのには驚かされた。 |
No.295 | 5点 | 密閉教室- 法月綸太郎 | 2020/07/27 09:40 |
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作者のデビュー作。シリーズ探偵である作者と同姓同名の法月綸太郎は登場しない。
ある朝、女生徒が学校に来ると、教室でクラスメートが倒れており死亡が確認された。さらに、あるはずの机と椅子が全て消失していた。不可解な状況の謎を、ロジカルに解明していく本格推理小説であり、青春小説でもある。 自殺なのか他殺なのか、密室の謎、机と椅子の消失と提示された謎は魅力的。真相を突き止めるために、ミステリマニアのクラスメイトが推理していく。中盤までは、オーソドックスな推理小説を読んでいる感じで進むが、終盤になると作者らしい?捻くれた展開になり楽しい。 真相が明らかになった時、現実的ではないとは思いながらも、納得できる部分もあり、まずまずといったところ。 ただ、無駄な描写が多く、文章がぎこちない。プロットも洗練されていないので、点数はこの程度か。 |