皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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りゅうぐうのつかいさん |
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平均点: 6.29点 | 書評数: 84件 |
No.24 | 5点 | わるい風- 鮎川哲也 | 2016/03/07 17:36 |
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「青いエチュード」、「わるい風」、「いたい風」、「殺意の餌」、「MF計画」は犯人視点の倒叙もので、いずれも犯人の見過ごしていた矛盾点を鬼貫警部が最後に指摘する。
「夜の訪問者」は、濡れ衣を着せられ、事故死した夫の無罪を証明してほしいとの依頼を受けた私立探偵が、事件に潜むいくつかの謎を解き明かし、鬼貫警部に真犯人を告発する話。 「まだらの犬」は、この短編集では一番の長編だが、容疑者が二転三転。本格ミステリーというよりも、刑事の捜査における苦労話、警察小説の趣きが濃い。アリバイトリックはちょっと凝り過ぎで、さほど妙味はない。 「楡の木荘の殺人」と「悪魔が笑う」はハルビンで起こったアリバイトリックに関する事件で、トリック自体は平凡。 突出した出来栄えの作品はなく、しばらくすれば忘れてしまいそうな話ばかりであった。 |
No.23 | 7点 | メソポタミヤの殺人- アガサ・クリスティー | 2016/03/01 17:44 |
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発掘調査の宿泊施設で起こる殺人事件。
「悲劇的な魔力」を持つ被害者、被害者に嫉妬する女性関係者、被害者の魔力にひかれる男性関係者。ポアロが関係者全員に被害者の人となりを聴き取り調査し、被害者の人物像を浮き彫りにしていく過程は面白いし、脅迫状の差出人、窓から覗いていた人物の正体、音が届く範囲の違いの謎など、様々な謎が盛り込まれている点も高く評価ができる。 人物の造形、謎の盛り込み方、探偵の調査内容など、本格ミステリーとしての作り込みに関しては、ハイレベルな作品であると感じた。真相はかなりの無理筋だが、それでも楽しめる作品であった。 (ネタバレ) ①チェスタトンが考えそうなトリックだが、被害者が窓から首を出す保証がなく、確実性に欠ける。 ②犯行の様子を南側の建物にいた人物に目撃される危険性がある。 ③犯人は、列車事故で顔が損傷した考古学者に成りすましているが、職場で考古学者の顔は知られているはずであり、成りすますことには無理がある。 ④年月が経っているとはいえ、元夫を別人と見間違えて再婚するという設定には無理がある。 |
No.22 | 4点 | 黒猫の三角- 森博嗣 | 2016/02/23 12:27 |
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コミックというか、ライトノベルのような軽い文章。変てこな名前ばかりで、全く興味の持てないキャラクターの登場人物たち。登場人物間の、何の面白みもない会話内容。冗長きわまりない捜査過程の描写や、無駄に多い喫煙シーンの描写。明らかにページ確保のための水増しで、半分以下のページに充分圧縮できる内容と感じた。
犯人は相当な危険を冒して殺人を実施しており、あくまでも結果オーライででき上がった密室。犯人の告白する連続殺人の動機も理解できる代物ではなかった。ただ一点、犯人の言動の矛盾を突いた紅子の推理は鋭く、評価できるのはその部分のみ。エピローグで、事件の記述者が「動機の理解できない殺人」に関して述べているが、自作品における殺人動機の不明確さへの弁明なのだろうか。 |
No.21 | 7点 | ヘラクレスの冒険- アガサ・クリスティー | 2016/02/15 19:29 |
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多少こじつけとも感じられるが、ヘラクレスの12の難行になぞらえた12の事件。
ポアロの頭脳的な策略や、ヒューマニズムを感じさせる心にくい解決手法が味わえる作品集。 人生相談や身の上相談、教訓話といった、ポアロよりもパーカー・パインが登場した方がふさわしいと感じる話が多いが、楽しめた。 特に、予想外の真相に驚かされる「ステュムパロスの鳥」と「クレタ島の雄牛」、ポアロがトリックを仕掛ける「アウゲイアス王の大牛舎」が面白い。 「ネメアの谷のライオン」 人間の認知機能の限界をうまく扱っている。 「レルネーのヒドラ」 事件関係者の聴き取り調査でポアロは違和感を感じ、犯人に気付く。 「アルカディアの鹿」 愛する人を探してほしいという、雲をつかむような青年の依頼をかなえるために奮闘するポアロ。愛する人は意外なところに。 「エルマントスのイノシシ 」 凶悪な殺人犯と一緒に雪の山頂ホテルに閉じ込められたポアロ。 誰がその凶悪犯か? 「アウゲイアス王の大牛舎」 ポアロの策略が鮮やかに決まり、政界のスキャンダルを見事解決。 「ステュムパロスの鳥」 ステュムパロスの鳥とは誰のことか? 予想外の真相に驚いた。 「クレタ島の雄牛」 狂人の血統とは、そのことだったのか。 「ディオメーデスの馬」 麻薬を扱っている影の人物とは? 「ヒッポリュトスの帯」 名画盗難事件と女学生の失踪事件とのつながりの謎。 絵がどのように処理されたのか、良くわからなかった。 「ゲリュオンの牛たち」 ミス・カーナビが再び登場し、新興宗教の教祖を相手に活躍。 「ヘスペリスたちのリンゴ」 酒盃を取り戻したポアロが、依頼者に要求したこととは? 「ケルベロスの捕獲」 麻薬の意外な隠し場所。 |
No.20 | 6点 | さよならドビュッシー- 中山七里 | 2016/02/09 13:49 |
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文庫本の帯に書いてある文章を読んで、先入観を持っていたため、この作品のミステリーの核に当たる部分には、すぐにピンときた。それを読んでいなければ、もっと驚くことができただろう。ただし、このような間違いが実際に起こるとは思えない。警察で厳密に確認されてあるべきはずのことではないだろうか。
階段や松葉杖に細工をした人物、母親を殺した人物に関する岬の推理もあまり説得力のあるものではなかった。 一方、ピアノ演奏に関する描写は、表現力豊かで極めて饒舌。ピアノを弾く人、クラシック音楽が好きな人には、楽しめる内容だと思うが、そうでない人には、全く関心が持てないだろう(自分はピアノは弾けないが、クラシック音楽を聴くのは好きであり、ここで取り上げられている曲は、練習曲以外は聴いたことがある)。 ミステリーとしてよりも、ピアノ演奏に関する描写を味わい、主人公の音楽を通しての成長物語として捉えるべき作品ではないだろうか。 |
No.19 | 7点 | 暁の死線- ウィリアム・アイリッシュ | 2016/01/31 05:02 |
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わずか5時間25分の物語。この短い時間の間に、これだけの出来事が起こったというのは信じられないくらいだ(実際、信じられない!)。
しかしながら、二人の出会いに始まり、奇妙な殺人事件との関わり方、そこから脱け出すための必死の闘いへと、話を膨らませていく作者の手腕は実にすばらしい。 微に入り、細を穿つ懇切丁寧な状況描写、情景描写、心理描写。これが作者の真骨頂。多少、くどいとも感じられるが。 ご都合主義で、いかにも小説上での出来事としか思えないストーリー展開ではあるが、手に汗握るサスペンスミステリー。 Tetchyさんの疑問だが、金庫の中身を盗むために浴室の壁に開けた穴からクィンの仕業だとわかること、前日の午後にクィンが屋敷を訪問した際にクィンがベルを鳴らしつづけていたことを配達員が目撃していたことなどが作中に書かれています。 |
No.18 | 9点 | 真珠郎- 横溝正史 | 2016/01/25 21:01 |
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横溝作品を数多く読んできたが、個人的には作者のベスト5に入る優れたミステリーだと感じた。
最後の方で、由利先生が椎名に対して「あなたは絶対に、御自分の眼で見られたこと以外には、信用してはならない」と語る場面がある。そのとおりで、真相を知ると、事件の様相ががらりと変わり、驚かされる。 この真相に持ち込むためのストーリーの組み立て方に作者の力量を感じた。 悪魔の心を持った美少年、真珠郎の存在が、幻想的で幻惑的な雰囲気を醸し出している。 短編の「孔雀屏風」は、二つに分け隔てられた屏風をめぐる美しくも悲しい物語で、こちらもすばらしい。 (真珠郎のネタバレ) 複雑な構図を持つ犯罪計画であり、犯人の告白を読むまでは、真相の全貌がわからなかった。 見事な首なしトリックで、それを実現させるための人物配置が巧妙。 第二の殺人事件以降に、乙骨が真珠郎の翳におびえる場面があるが、乙骨は真珠郎の正体を知っているわけであり、おびえる必要はなく、不自然ではないだろうか。 |
No.17 | 5点 | 雲をつかむ死- アガサ・クリスティー | 2016/01/19 19:31 |
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飛行機の客席見取り図を付け、11人の乗客と2人の乗務員の全員について、犯行の可能性と動機をつぶさに検討する、本格志向の作品だが……。
終盤までは楽しめたが、真相はいただけない。 他の方も書かれているが、このような殺人トリックで騙せるとは思えないし、うまくいかなかった場合のリスクが大きすぎる。 また、事件の背景にある人間関係だが、警察の捜査で明らかとなることであり、計画に無理を感じる。 終盤になって、ようやく明らかとなる「あの人物」の存在も、普通は警察がとっくに訊問していて、その正体がばれているはず。 また、事件に関係する人物がこんなにもうまくつながっているというのは、ちょっと出来過ぎ。 (ネタバレ) 空さんの指摘ですが、白衣が入っていたアタッシュケースは、荷物置き場に置かずに、座席近くで保管していたと考えれば、矛盾はないと思います。 |
No.16 | 6点 | スナーク狩り- 宮部みゆき | 2016/01/11 16:36 |
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他者への恨みをリンクさせた、スピード感のあるサスペンス小説。木田クリニックで関係者が出会う場面が山場。ストップモーションのように感じさせる迫真の描写で、子供(竹夫)の存在がキラリと光っている。慶子が修治に説明した銃の取扱いに関する注意が、真相にうまく活かされている点が上手い。結末は悲惨で、やりきれない。カタルシスが得られず、まとめ方としてはあまり上手ではないと感じた。 |
No.15 | 3点 | 完全殺人事件- クリストファー・ブッシュ | 2016/01/04 18:13 |
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非常にわかりにくい話であった。
これだけストーリーテリングが下手だと、新人作家であれば編集者に最後まで読んでもらえないだろう、と思った。 アリバイトリックも拍子抜けするものであり、完全にタイトル負けしている。 捜査の過程も冗長かつわかにりくく、読むのが苦痛であった。 |
No.14 | 5点 | 魔球- 東野圭吾 | 2016/01/04 18:10 |
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東野圭吾さんの作品としては、平凡な内容。
最後まで読んでも意外性はないし、人間ドラマとしての深さも感じられなかった。 人間ドラマとしての深さが感じられない理由としては、事件の背景にある動機が肯定できないことが大きい。 爆弾設置事件の真相、愛犬が先に殺されていた理由、ダイイングメッセージ等のミステリー的仕掛けもそれほどのものではなかった。 「魔球」がこの作品のキーワードなのだが、それが作品の意味として、ピタリとはまっているとは思えない。 |
No.13 | 6点 | 歯と爪- ビル・S・バリンジャー | 2016/01/04 18:06 |
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最後まで読んで、「その女アレックス」に似ていると感じた。書かれた時期を考えると、「その女アレックス」の方がこの作品に似ているのだけれど。
奇術師夫婦の出会いからの物語と、裁判の様子とが交互に語られ、一見何のつながりもないように見えるこの二つの話がどうリンクのするだろうか、と興味をそそられる。 さらに、袋綴じの存在が、どんな凄いどんでん返しを用意しているのだろう、という期待をいやが上にも盛り上げる。 期待を持ちすぎると、拍子抜けする。 真相は、凄いどんでん返しではなく、一見何の関係もないような話をうまく結びつけたものだ。 しかし、こんな方法で、本当に主人公は復讐を果たせると思ったのだろうか? |
No.12 | 6点 | 片想い- 東野圭吾 | 2016/01/04 18:02 |
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「肉体としての性」と「実際の性」とのギャップに苦しむ人物を中心人物に据えて、その解決を模索した社会派推理小説、そのように感じた。
気になったのは、その中心人物である美月が、直情径行で、あまりに単純な人物として描かれている点だ。 最初はミステリーという感じはしなかったが、美月が行方をくらましたあたりからミステリーらしくなり、事件の背景にジェンダー問題を解決するための大掛かりな企てがあることが判明する。その企ては結局挫折し、結末には救いがない。本当の問題解決のためには何が必要であるのか、提案や考察がなく、置き去りにされている点にちょっと不満を感じた。 末永睦美と相川冬紀という二人の脇役の存在と、その発言が光っている。 タイトルの「片想い」とは、誰の誰に対する片想いなのであろうか。個人的には、中尾の「女性としての美月」への片想いではないか、と思った。 |
No.11 | 6点 | ピーター卿の事件簿- ドロシー・L・セイヤーズ | 2015/12/08 18:52 |
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かなり不思議な謎が提示されるが、おおまかな真相に関しては予想しやすい話が多い。
しかしながら、それぞれに工夫があって、楽しめる短編集。 「鏡の映像」 これだけの「世にも奇妙な物語」の真相は、これしかないだろう。 「ピーター・ウィムジー卿の奇怪な失踪」 話が急に切り替わるところがある。そこがちょっとわかりにくい。 「盗まれた胃袋」 胃袋を遺産として残した男の謎。 「完全アリバイ」 アリバイトリックの方法に関しては概ね予想どおりであった。 「銅の指を持つ男の悲惨な話」 マリアの身体的特徴がうまく真相に活かされている。 「幽霊に憑かれた巡査」 このようなトリックで本当に人をだますことができるのか、疑問ではあるが。 「不和の種、小さな村のメロドラマ」 ある人物がピーター卿を利用しようとするが、ピーター卿を甘く見過ぎて墓穴を掘る。 |
No.10 | 7点 | 貴族探偵- 麻耶雄嵩 | 2015/12/01 18:26 |
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事件の調査だけでなく、推理までも使用人にさせてしまう貴族探偵。
この人を食った、馬鹿馬鹿しいとも言える設定がいかにも作者らしい。 いずれも良くできているが、個人的一推しは「ウィーンの森の物語」。 「ウィーンの森の物語」 犯人の心理を「裏の裏の裏」まで深読みする複雑な論理構成。「バッグに残された指紋」と「現場に残された糸」から導かれる推理がすばらしい。 「トリッチ・トラッチ・ポルカ」 大胆なアリバイトリックに意表を突かれた。 「こうもり」 メイド田中の説明で出てくる人物名に「あれ?」と思い、最後の一文に驚く。 「加速度円舞曲」 運転手佐藤が、犯人の思考から積み重ねられた行動の連鎖を鮮やかに解明する。クイーンの「チャイナ橙の謎」を連想した。 「春の声」 三すくみの殺人の謎の真相は確かにこれしかなさそうだ。納得。 |
No.9 | 9点 | 終りなき夜に生れつく- アガサ・クリスティー | 2015/11/23 13:24 |
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クリスティーの著作を読むのはこれで30作品目だが、物語としての出来栄えに関してはこれまでで一番と言える。
事件はなかなか起こらないし、真相はクリスティー作品にありがちなもので、身構えて読んだ読者には予想しやすい真相と言えるだろう(私もこの真相通りに予想していたわけではないが、そのうちの一部の真相に関してはずっと疑いを持っていた)。 しかしながら、作品全体が醸し出す雰囲気や、人物配置の妙が素晴らしく、結末にも独特の味わいが残る。 人物では、マイケルの母親、建築家といった脇役の存在が光っている。 エリーの歌う「幸せとよろこびに生れつく人あり 終わりなき夜に生れつく人あり」という歌詞がもの悲しい。 結局、主人公は「終わりなき夜に生れつく人」であったということだ。 |
No.8 | 6点 | マリオネットの罠- 赤川次郎 | 2015/11/16 17:36 |
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冒頭の猟奇的な事件、雅子という謎めいた女性の存在、修一と雅子の失踪後に起こる連続殺人、美奈子の療養所への潜入捜査等、スピード感のある展開で、引き込まれる内容。
事件の犯人や背景が徐々に明らかとなり、ただのサイコサスペンスのように感じられ、着地点がなかなか見いだせず、結末が予想しかねた。 終章での上西の指摘には確かに驚いたが、伏線が不明瞭すぎるので、この真相は予想しにくい。 美奈子は、徹頭徹尾、報われない女性であった。 |
No.7 | 5点 | 九マイルは遠すぎる- ハリイ・ケメルマン | 2015/11/09 18:35 |
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最後まで読んで振り返った時に、どんな話なのか覚えていたのは表題作と「梯子の上の男」だけであり、個人的にはいささか退屈で、印象に残らない作品集であった。
確かに、ニッキイは与えられた事実だけから論理的推理を展開するが、その推理はいささか強引だし、わかりにくい(短編なので致し方ないのだろうけれど)。その真相もほとんどが感心するほどのものではなかった。 「九マイルは遠すぎる」は、出てくる地名の地理的関係がわからないので、その推理過程に興味が持てず。偶然耳にした言葉を、聴いたという事実さえも覚えていないというのはいかがなものだろうか。 「わらの男」は、誘拐犯人が指紋を意図的に残した理由が実にわかりにくく、何度も読み返した。 「梯子の上の男」だけは伏線が巧妙で、最後の一文が印象的であった。この短編集では一番面白かった。 なお、私の読んだハヤカワミステリ文庫の192頁4行目(ありふれた事件)で、「叔父のフランクがなにかと力になってくれていたけど、そのフランクが、…」の箇所の『フランク』は『ジョン』の誤りのはずだ。 |
No.6 | 5点 | 龍は眠る- 宮部みゆき | 2015/11/03 15:20 |
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「クロスファイア」と同様に超能力を持った登場人物の物語であるが、「クロスファイア」の方が超能力を持った人物の悲哀や生きにくさがうまく表現されていたのに対して、こちらは上滑りというか、切実に伝わってくるものがなかった。冒頭のマンホールの事件なども、現実にはありそうもない話だと感じた(車のエンジンが水をかぶるといけないからマンホールを開けるとか、ポルシェにマンホールを開けるためのヴァ―ルが積んであるとか)。他にも、不自然な設定がいくつかある(口がきけない七恵の家に電話があること、空き巣の調査に来た警察官が「大事なものはどこに隠していますか」と訊くことなど)。
また、宮部さんの作品でいつも感じることだが、男性がうまく描けていないと思う。総じて、実際の年齢よりも幼稚で、浅薄な印象を受けてしまう。 最終ページに近付くにつれて、真相も見当が付いてしまい、ミステリーとして特に取り上げるようなところはないし、最後まで読んでも、結婚対象として不適格の烙印を押された主人公が何かを掴んだとは感じられなかった。 |
No.5 | 5点 | ハロウィーン・パーティ- アガサ・クリスティー | 2015/10/25 10:17 |
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クリスティーがこの作品で描きたかったのは、独特な犯行動機を持つ犯人像であったのだろうか。
ハロウィーンパーティーで起こった殺人事件と、被害者が目撃したという過去の殺人事件に関する関係者の取り調べが中心の話。本筋と関係のない事件が含まれていたり、不必要と思われる登場人物が出てきて、拡散しすぎ、未整理、冗長と感じる部分があった。 特にこれといったトリックが使われているわけではなく、ポアロの推理も根拠薄弱で、最後まで読んでも成る程と思うようなところはない。パーティーの主催者が花瓶を落とした理由も推測どおりであった。 ミステリ作家オリヴァ―は、作者自身なのだろうか。自作の登場人物に関して言及する箇所があり、興味を引いた。 |