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クリスティ再読さん
平均点: 6.43点 書評数: 1253件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.49 6点 可愛い悪魔- ジョルジュ・シムノン 2021/11/25 07:14
シムノンで一人称独白体、って結構珍しいと思う。限定三人称は多いんだけどね。
主人公は「有罪ならゴビヨーに相談しろ!」という評判の辣腕弁護士。でもブ男、父もハンサムな有名弁護士だが、主人公は庶子。自分の師匠に当たる大物弁護士から妻を奪って自分のものにする....なんてハナレ技を演じた過去があるが、実はその妻の自己実現が、オトコをプロデュースして出世させること! 主人公の一見「成り上がり」の順風満帆人生も、本人にすればなかなか外見どおりではない屈折の人生だったりする....

いや、たぶんシムノン、自分を重ねたと思うよ。そういうリアリティ。

友達と組んで宝石店強盗を働いた小娘イヴェットが、警察に追われてゴビヨーの元に飛び込んできた。事務所で股を開くイヴェットに、なぜかゴビヨーは執着し始める。強引な弁護でイヴェットを無罪にすると、イヴェットをアパルトマンに囲って、二重生活を始めることになる....妻はゴビヨーのキャリアを支配さえできればいい、と超母性的とでもいうような夫婦関係でもあり、ゴビヨーの浮気には寛容なのだが、イヴェットへの溺れ具合には内心ヤキモキしているようでもある....

つまり、こういう三角関係がすべて。映画に合わせて「可愛い悪魔」なんてイヴェットを呼びたくなる(バルドーだ)のかもしれないのだけど、実のところこのイヴェット、そんなに大した女でもないんだと思う。

人間は時として動物として行動したいという欲求がある

というゴビヨーの「自身の成功に反逆したい!堕落したい!」という欲求がイヴェットに投影されて、こんな愛欲にのめり込んでいるのだろう...自分には別な人生もあったのでは?という自分への懐疑が、こんなドラマを引き起こす。
そういう興味の作品だから、「こういう状況から何が起こるのか?」実際、何が起きても全然不思議じゃないのだけども、何かが起きざるを得ない。それを甘んじて待ち受けるのが、この作品の醍醐味。

No.48 7点 メグレの初捜査- ジョルジュ・シムノン 2021/11/11 22:57
「メグレの回想録」はメグレの結婚で終わるので、本作が扱うのは新婚のメグレが所轄署の署長秘書として関わった事件から、特捜部の刑事に任命されるまでの話。けっしてメグレがただ若くて「刑事くん」な話じゃなくて、シリーズ中でも屈指の変化球だと思う。
要するに「貫禄のないメグレ」なのである。だから、上司の署長やら刑事たちやら、さては事件の関係者に至るまで、「坊や」扱いでナメられること....「コイツ、デカだ!」と気づかれたギャングに、あわや攫われて殺されかける危機一髪なシーンまであり。後年のメグレじゃ、絶対お目にかかれない展開の連続で、ヘンに面白い。
で、こういう苦い思いをして、屈辱も胸に秘めながら、

もしぼくが治安警察局に入るようなことがあったら、ぼくは誓って、所轄署の憐れな連中に対して軽蔑のそぶりなぞ絶対見せないぞ。

と心に誓ったりする。確かに後年のロニョン刑事に対する態度など、メグレという男の人格の一貫性をうまく描写している。「運命の修理人」という比喩が登場するのが、この作品というのもシリーズ構成としてウマくできてるな~と思わせる。

あと没落した伯爵家に生れながらヤクザになった男のイキな生きざまとか、その相棒が憎めないあたりとか、メグレが付き合うことになる暗黒街の住人達のキャラ描写もみょーにカッコいい。
決して「メグレの回想録」みたいな愛読者サービスみたいな内容ではなくて、変化球ながら独立した価値がある。

No.47 5点 メグレの途中下車- ジョルジュ・シムノン 2021/10/30 11:14
メグレは国際会議の帰途に、学生時代の親友の元を訪れようと、ヴァンデの地方都市フォントネ=ル=コントで途中下車した...その街は連続殺人に揺れており、友人は予審判事としてその渦中にあった。行きがかり上、メグレは事件に巻き込まれていく...

という話。ポイントはメグレの学生時代の親友だったシャボ。学生時代には苦学生のメグレは違い、素封家の息子らしくメグレにとってやや眩しい存在だったようだけが、今ではすっかり地方都市のしがらみに囚われて、責任ある立場を占める代わりに老化の兆候も見せている...というあたり。まさにこの地方都市の、没落した上流階級と、成り上がり者の入り婿、しかし一般市民は成り上がり者をいつまでも嫉妬と猜疑の目で見つづけ、何かきっかけがあったら暴動やリンチがおきかねない....という地方都市らしいややこしい階級対立が背景にある。
「おれはおそろしい(心配だ)」という発言は、このヴァンデ県の街が、フランス革命当時の「ヴァンデの反乱」の中心地、ということもあって、そういう連想がメグレにも働いたんじゃないか、という気もする....悲惨な内戦の舞台なんだよね(深読みかな?)。
で、友人のシャボは、成り上がり者として上流階級からも庶民からも排斥される男の数少ない友人でもあるのだが、この男の息子に殺人の容疑が....という展開。地方都市の人間関係のややこしさと、かつての学友が見るからに平凡な男になっていった失望感のようなものが、この作品の陰鬱さを強めている。
庶民から成りあがってもプルジョアになりきれない男の哀歌みたいなものがシムノンお得意のテーマなんだけども、地方都市を舞台に陰湿な階級対立の層として描いてみせたあたり、一種の「社会派ミステリ」みたいに読むのがいいんじゃないかと思う。

No.46 6点 港のマリー- ジョルジュ・シムノン 2021/10/18 21:44
集英社のシムノン選集というと、全12冊のうち半分ほどは文庫になって、メグレじゃないシムノンの本格小説を70~80年代あたりで楽しむにはお手軽なシリーズだったのだけども、実はこのシリーズ、翻訳者が妙に豪華で面白い。「日曜日」は生田耕作だし、「かわいい悪魔」は中村真一郎、「片道切符」は詩人の安東次男で、本作はと言うと....やはり詩人の飯島耕一である。詩とシュルレアリスム以外の翻訳はこの人、珍しい。評者とか学生時代には飯島耕一って愛読したんだよ。シュルレアリスム出身だけども、意外なくらいに平明で「こじらせて」ないあたりが、何か琴線に触れたんだ。
いや、そういうあたりが、実はシムノンに向いている、といえばそうかもしれない。

すべては言うならあっという間に運んだ。というのもマリーは潮の満ちてくる時というものを心得ていたからだし、彼女は海の荒れがしずまって、どのあたりで満ちるはずかも知っていたからだ。そして男たちというものはともづなをとくまえに、気のゆるむ瞬間が、つまり橋をあげる時がある、というのを知っていたからだ。

この小説の最後くらいの描写である。するすると書かれているけども、実にイメージ豊かで「散文詩」と言ってもいいくらいの美がある。

でこの小説、かなりヒネった恋愛小説で、ミステリ色は薄い。ノルマンジー半島の漁師町、ポル・タン・ベッサンで父を亡くした少女マリーは「スールノワーズ(食えない子、何を考えているかわからない子)」と呼ばれていた。気のいい姉オディールが女中奉公から主婦に納まった相手、シャトラールはシェルブールで映画館やカフェを経営するやり手の実業家だが、マリーの父の葬儀で、マリーに目を付けた....芯の強いマリーはシャトラールの誘惑をガンして撥ねつけるのだが、シャトラールはマリーの身辺に付きまとう。マリーを崇拝する青年がシャトラールを襲撃するなど、人間関係がコジれていくのだが...という、一見どう見ても「恋愛劇」に見えないのだが、実はこれ恋愛小説、というシムノンらしいロマンチックがゼロの恋愛小説だったりする。
この話の中で際立つのは、やはり「何を考えているかわからない子」マリーの、独特の芯の強さ、自立を求める個性といったものだ。結果的にはやり手で女遊びも盛んなシャトラールを手玉にとったことになるのだが、「男女の闘争」を真剣に捉えたマリーに、シャトラールはしてやられたようなものだ。でもそのマリーの姿に「爽やかさ」みたいなものを感じるのが、面白い。
シムノンという本当に「女をよく知っている」男性作家ならではの、超変化球の恋愛小説として楽しむといいと思う。

No.45 6点 紺碧海岸のメグレ- ジョルジュ・シムノン 2021/10/03 16:12
皆さまご無沙汰しております。復活いたします。

復活にメグレ、というのも評者らしいでしょう。初読。「自由酒場」なんて読んでるわけありませんよ(苦笑)。

ヴァカンスだ!緑やオレンジに塗られた船縁に寄りかかって、波紋のゆらめく水底を見つめたり....。傘松の木陰で、大きな蠅のうなりを聞きながら昼寝をしたり...。
知り合いでもない男、たまたま背中をナイフで一突きされた人間のことなど、知るもんか!

第一期メグレは結構アウェイの作品が多いように感じるのだけど、特に本作、メグレらしからぬ陽光のコートダジュール! 相棒の刑事も遊び人風、街は3月というのにヴァカンス気分...とメグレにしてはやりにくいったらありゃしない。気分はノらないまま、しかし被害者がどこかしら自分に似ている、と感じるあたりでメグレはこの事件の真相に自然と肉薄していく...

舞台は華やかなリゾートなんだけども、裏通りの常連さん向けシケた「リバティ・バー」がメインの舞台になるあたりが、いかにもシムノンらしい。「モンマルトルのメグレ」だって観光地の裏にあるストリップ小屋が舞台だし、「ストリップ・ティーズ」でもカンヌの裏通り。しかも被害者はシムノン定番の、社会的成功を収めても、急に成りあがったブルジョア社会が嫌になって、自らドロップアウトしたがる男....シムノンらしさは全開。

なので、シムノンっぽい雰囲気を味わうのはオッケーなんだが、事件や展開はもう一つのところがある。被害者に元スパイの経歴があるとか、プチブル的引退生活とか、この部分があまりちゃんと話として効いていない。当初の構想から、「リバティ・バー」の自堕落だけど居心地のいいあたりに、あとでシムノンの筆がウェイトを移したとか、そういう事情があるのでは。

でも次作が第一期メグレのほぼ最終作「第一号水門」。この作品だと引退が迫って自らの進路に迷うメグレの姿が描かれるわけで、本作の「ヤル気ないメグレ」にも、実はそういう「リタイアを目前にした惑い」みたいなものがあって、それを被害者に投影しているのでは...なんて思う。実は評者もちょっと身に染みる。なので少々甘めに6点。

ちなみに被害者が放蕩の末に流れ着く「飲んべえの最後の頼みの綱」、この「リバティ・バー」の象徴のようなゲンチアナ(リンドウ科の植物の根)って、作中だと苦く「アルコールが入ってない」そうだけども、これを使ったリキュールで「スーズ」という酒がある。苦みがあって爽やか、評者は大好き。メグレも飲んでほしいなあ。

No.44 7点 メグレと宝石泥棒- ジョルジュ・シムノン 2021/02/14 11:47
どうせならで「メグレたてつく」から連続して読む。話が続いているようなもので、「たてつく」で登場した引退したギャングとその愛人の話。このギャングは表向きの正業が繁盛して有名レストランのオーナーにまでなっているが、宝石泥棒の組織者の疑惑をメグレはずっと持ち続けていていた。でも一切しっぽをつかませないまま、襲撃を受けて半身不随。車椅子の生活で愛人のアリーヌの介護を受ける一見平穏な日々。しかし、今も起きる宝石泥棒を陰で操るのはこの男、とメグレは目星をつけていた....「たてつく」でこの元ギャングとアリーヌが意図しない鍵を握ることになったのだが、「たてつく」の解決後すぐに、この元ギャングが射殺された!

こんな話。いきなり元ギャングの射殺から始まるので、「宝石泥棒」では生きた姿は登場しない。というわけで、皆さんの低評価っぷりを見ると、やはり「たてつく」「宝石泥棒」は連続して読まないと、この元ギャングのマニュエルの、メグレとの腐れ縁に近いキャラを理解しづらくて、面白く感じにくいようだ。マニュエルは「影のボス」と言った感じの悪党なんだけど、適当にメグレとも付き合いがあるので、チンピラの情報を教えてくれたりして、メグレとも持ちつ持たれつの関係にある。で、「たてつく」ではこういう「犯罪者との癒着」とも捉えかねられないメグレの「古いデカ体質」が、官僚的な若い警視総監には嫌われていて...という背景があったのが隠し味で効いている。
シリーズで繰り返し描かれることだけど、メグレって新聞報道を介して、社会的な有名人なんだよね。だからメグレの「古いデカ体質」を嫌う人もいれば、「伝説のメグレ!」と崇拝する向きもあるわけだ。今回事件を担当する若い予審判事アンスランは「崇拝」側で、メグレと一緒にビストロに入ってランチすると妙に感動していたりするのが苦笑。メグレは河岸の自室で部下を指揮するより、こんなビストロで事件を指揮するのが、似合ってる。この「古い」メグレにふさわしく、以前からのマニュエルとの因縁を含めて「メグレのもっとも長い捜査」なんだそうである。

そういう意味で、実は「たてつく」とうまく対比もついていて、「たてつく」で積み残した話が「宝石泥棒」で決着する。この「古いメグレ」の今風の科学的・組織的な捜査とは違う、経験的で即興的な捜査がテーマになる本作、実のところ「即興の名手のシムノン」が、「たてつく」でマニュエルとアリーヌを描いたところで、方針転換して「たてつく」の話に変わった、なんて想像もしたくなるのだ。

ぜひ「たてつく」と連続して読むことを、お勧めする。

No.43 7点 メグレたてつく- ジョルジュ・シムノン 2021/02/13 22:33
メグレ、ハニートラップにかかる?
そんな冒頭である。出勤したメグレは若僧の警視総監に呼び出される。政治家筋からメグレに苦情が来ているのだそうだ。政界有力者の姪をホテルに連れ込んだ、というのがその内容。確かに昨晩メグレは電話でおびき出されて、酔っ払った娘をホテルに送って行ったのだが...誰がメグレをハメようとしているのか?
というわけでメグレは直接この件の調査をするのを禁止される。定年も近いから、メグレは地位に恋々とするようなことはないが、それでも自分をハメた狙いが分からないことには、どうにもおさまりが付かない。ごく親しい部下や、後期に登場する仲良しの医者パルドンの協力を得て、メグレは「自衛」する。その結果、意外な犯罪をメグレは掘り当てることになる....と、メグレ自身が当事者となるサスペンス、意外な真相、それにメグレが行き当たるプロセス、と後期の作品ではなかなかの秀作になると思う。
ちなみに本作の次に書かれた「メグレと宝石泥棒」は本作と前後編みたいな恰好になっているが、評者は一緒に手に入れて抜かりは、ない。「宝石泥棒」と本作で登場人物が重複して、「宝石泥棒」の冒頭で本作のネタバレを喰らうことにもなるので、ここは評者も連続して読んで楽しむことにしよう。

No.42 7点 メグレと幽霊- ジョルジュ・シムノン 2020/11/20 13:52
評者ご贔屓のロニョン刑事が登場する巻。ただし冒頭ですでに就寝のメグレの元に、ラポワントが訪れて、ロニョンが撃たれたことを知らせて始まる...まあだから、ロニョンは事件解決まで意識不明のままなので、ロニョンが直接登場することはほとんどないのだけど、逆に本作だと最大の重要人物として、単独で誰にも捜査内容を明かさずに内偵するロニョンの屈折したキャラ、それから大した病気でもないのに病身のフリをして夫の気を引こうとするその妻との関係が描かれて、ロニョン・ファンの評者なぞ大喜び。
しかも、ロニョンが撃たれる直前に独身女性の一人住まいのアパートをずっと訪れていた...なんて事情が分かるから、「いやロニョンも隅におけないね」というミスディレクション(でもないが)。いや堅物ですって。そこもまた、いい。で、中盤からロニョンが狙っていたターゲットが浮かび上がってきて、撃たれた直後にロニョンがつぶやいた「幽霊..」という事件の真相が暴かれる。
事件真相もちょっとした隠ぺい工作もあって、素直に真相が割れるわけではなく波乱がある。評者シムノンの手持ち本はもうないので、久々のメグレになってしまったが、「メグレらしい」作品で面白い方の作品になると思う。

「私は、人間を収集してますよ....」

「人間収集家」メグレらしく、本作も「ヘンな奴ら」が多数登場。「ヘンな奴ら」が皆いとおしい。

No.41 6点 メグレ警視のクリスマス- ジョルジュ・シムノン 2020/03/01 21:00
「溺死人の宿」は「殺し屋スタン」とか「ホテル北極星」と同じ1938年作だから、第二期に中短編中心に書いていた頃の短編。「メグレのパイプ」は「メグレ激怒する」と合本で出たものだそうなので、第三期の開幕を告げる作品になる。「メグレのクリスマス」は短編のメグレ物としてはほぼラストで、最後から2作目、とこの短編集は日本独自編集とはいいながら、節目節目の作品を集めた、という印象がある。
「溺死人の宿」を含む1938年の短編集は「メグレ夫人の恋人」「メグレの退職旅行」に相当するから、短編としては充実していたあたりからの選択、と見ていいだろう。陰鬱な話で、ややひねった真相がある。けどしょーもない男だな。
「メグレのパイプ」は、後年の「老婦人の謎」に冒頭の設定を転用しているが、あっちの殺される老婦人の方がずっと可愛げがある。こっちは息子に抑圧的なタダの嫌な老女。息子の大冒険は....あれ、「激怒する」に似たような場面がなかったっけ。合本で出てるはずだけど、いいんだろうか。でもメグレのパイプを盗んだ理由が秀逸。こういうの、ファンは大喜び。
「メグレのクリスマス」は言うまでもなくクリスマス・ストーリーで書かれたものだが、サンタクロースの訪問を本当に受けちゃった療養中の少女の話。けど、その裏には..とこの少女の複雑な家庭環境に絡むあまり後味の良くない真相がある。おめでたくはないが、メグレ夫人の母性を感じさせるところが読みどころだろうか。
個人的には「メグレのパイプ」が好きだが、それぞれのレベルは高い。

No.40 6点 メグレと老婦人の謎- ジョルジュ・シムノン 2020/02/17 23:03
メグレは好きでも評者は後期はあまり読んでなかった...本作は最後から4作目になる。ページ数も200ページほどで短いし、事件もシンプル。
メグレにわざわざ会いに来た老婦人の訴えは、いかにもの妄想っぽいものだった。メグレは若いラポワントに老婦人の応対を任せるが、老婦人は帰宅するメグレを待ち伏せまでして訴えるのだった...自分のアパートに侵入するものがいると。メグレには老婦人が狂っているようには見えなかった。近いうちに訪問するとその場で約束したが、訪問の前にこの老婦人が殺された、という報告がメグレのもとに届いた!
老婦人の訴えを真剣に取り上げなかった負い目を抱えたメグレが、老婦人が殺された理由を追っていくのがミステリの主眼。この理由はなかなか意外で面白い。短いから登場人物はかなり少なくて、少ない人物をキャラをしっかり立てて書いている。戦後のメグレは完全に「サザエさん時空」に入っているわけで、この70年代の最終期の作品でさえも、ラポワントはいつまでもいつまでも若僧のままで、メグレに叱られっぱなし。でも老婦人の姪の子はバンドマンで、

見物するというよりも、聞くために。というのは、三人のバンドマンがオーケストラと同じような大きな音をたてていたからだ。ギターを弾いているのがビリーだった。あとはドラムにコントラバスだ。バンドマンは三人とも長髪で、黒いビロードのズボンにばら色のシャツだった。

と、ヒッピーがたむろするカフェで演奏するのをメグレは見る。スリーピースのロックバンドだろ、これ(たぶんベース→コントラバスで誤訳)。「イギリス人は上手い」なんて言ってるよ(苦笑)。どのバンドのことかしら。ヒッピー華やかりし頃、メグレにだって時代は反映している。

No.39 6点 メグレ、ニューヨークへ行く- ジョルジュ・シムノン 2020/01/18 21:17
退職後のメグレ。父に対する漠然とした危機の雰囲気を捉えた息子の依頼で、メグレはニューヨークに旅することになった。ニューヨークに到着したら、息子は姿を消すし、その父と面会したメグレはけんもほろろの扱いを受ける...依頼主をなくしたメグレは、ニューヨークという「場違いな場所」を漂流する...そんな雰囲気の話。
まあとはいえ、この父というのもフランスからの移民で、過去の事件が蔭を落としている背景もある。だから必ずしも場違い、というほどでもないのだが、なかなか話の焦点が絞れてこないので、五里霧中の中を、それでもメグレは動揺せずに歩み続ける。
キャラとしては泣き上戸の探偵デクスターとか、老芸人たち、不良新聞記者など、ニューヨークにもシムノンっぽい登場人物はいるものである。最後にメグレが国際電話を一本かけて事件の真相を暴く、なんて演出も結構。この電話にもなかなかの味がある。

No.38 6点 メグレ激怒する- ジョルジュ・シムノン 2020/01/08 22:59
メグレはパリ司法警察勤めの設定なのだが、「第一号水門」だと引退間近の姿が描かれ、さらにいくつか引退後のメグレを主人公にした作品が少しある。第一期最終作の「メグレ再出馬」('33)、第二期の中編たち、第三期開始の本作('45)、次の「メグレ氏ニューヨークへ行く」('46) と、あたかも第三期は引退後のメグレで行こうか?なんて悩んでいたみたいだ。とするとパリ司法警察のメグレが復活するのはその次の「メグレのバカンス」 になるけども、これも休暇中の事件だったりするしね。ホントの「現役復帰」は「メグレと殺人者たち」になるんだろう。まあだから、第三期メグレは時代設定がいつなのか、よくわからないといえばわからない。けどメグレの事件は時代を超えてるから、気にはならない。
本作は権高い老婦人に鼻面を引き回されるように導かれた家には、メグレのかつての同級生が婿入りしていた...けして親しかったわけではないが、今になって顔を合わせると、ブルジョアに成りあがった同級生は実に嫌な奴になっていた。この家の娘が溺死した事件の調査を老婦人に命じられたのだが、かつての同級生はメグレに手を引かせようとする...
と、同級生でも「友情」とかそういう話ではない。この同級生は父親が税務署勤めだったために「税金屋」のあだ名で呼ばれていたような功利的な男である。で、メグレがこの旧友に「激怒」するのか、というと、実はそういうシーンはない。ただラストはある人物が「激怒」して話が収束するようなものである。メグレはこの家族でまずい立場にあった人物を救う活躍をするのだが、事件の結末には関与しない。それでもメグレが「サン・フィアクルの殺人」みたいに手をこまいて...という印象ではない。
なんか評者書いていて「はない」が続きすぎているな(苦笑)。そういう変則的でオフビートな話だが、ちゃんと話が収まるところに収まっている。

No.37 6点 メグレと首無し死体- ジョルジュ・シムノン 2020/01/08 01:04
皆さんのおっしゃるように、狭義のミステリの観点だと「何だこれ」になるタイプの作品である。他のメグレ物だと「火曜の朝の訪問者」とか近いかなあ。それより意外性の方向がトンデモない方を向ている感じ。
ビストロの女将として火の消えたような生活を続けるカラ夫人の、特異なキャラクターがすべての作品である。メグレは第一印象で奇妙な違和感を感じて、まるでカラ夫人に恋するかのように、カラ夫人の元に通い詰めるのだが、妙な転調の気配が見えるのは、やはりカラ夫人がしっかり身なりを整えて別人のように参考人として連行される場面だろうか。
メグレ夫人がこのメグレの心の揺れを敏感に感じるのがさすが。

「お前がおれを面白がっているみたいだ。それほどおれが滑稽かい?」
「滑稽ではないわ、ジュール」
彼女が《ジュール》と呼ぶのはまれだった。彼に同情したときしか、こういういい方をしない。

そして本作では宿敵コメリオ判事との軋轢を、一種の「階級対立」みたいに描いているのだけど、メグレというのは「庶民の名探偵」なのは言うまでもない。本作は、若い日のメグレが「運命の修理人」になりたい、と思った、と直接書かれたという点でも重要な作品なんだけど、そうしてみるとこの「運命の修理人」に、あまり形而上的な神秘性を求めない方がいいような気がするのだ。水道のパイプを、時計を修理するかのように、「運命」を修理する職人、という味わいでメグレを見たら、それらしいように思う。

No.36 7点 メグレと奇妙な女中の謎- ジョルジュ・シムノン 2020/01/04 17:53
「謎のピクピュス」同様「EQ」に掲載されたまま未刊行の第二期の長編である。いやこれ、別に名作でも何でもないが、実に小洒落た話。大好き! メグレの父性っぽい魅力がキラキラする作品である。
事件はパリ郊外の新興住宅地で起きた引退した勤め人「義足のラピィー」老人殺しを巡る話なんだが、実質この老人の女中のフェリシイとメグレとの奇妙な関係がすべて。フェリシイはちょいと天然さんの「夢見る乙女」。ファッションもヘンにズレているし、行動も思い込みが強くて頓狂。老人の生活について一番よく知る女なのだが、メグレに妙な敵意を抱いちゃったから、話がコジれるばかり。メグレはフェリシイが事件に何も関わってないことは最初からお見通しなのだが、フェリシイは気が付かないうちに事件の大きなカギを握っていたのだ...

伊勢えびを背中に隠しながら、
「ねえフェリシイ....重要な問題がある....」
彼女はすでに警戒しはじめている。
「マヨネーズ・ソースを作れるかね?」
傲慢な笑み。
「それじゃ、すぐに作って、このムッシュウをゆでてほしい」

とメグレも反抗期の娘に対する父親みたいに、フェリシイに伊勢エビを御馳走するのだ。御馳走を食べて、フェリシイが目覚めたとき、事件はすべて解決し、メグレはフェリシイにカフェ・オ・レを作って持って行って、そして去っていく。
何という洒落た話だろう!こんなのも書けるシムノン素敵。今一つ目立たない第二期メグレもなかなか隅におけない。

No.35 7点 メグレと謎のピクピュス- ジョルジュ・シムノン 2020/01/03 11:55
年末年始で帰省して大掃除とかしてたら、大昔の「EQ」が出てきたよ。で見たらねえ、おいしい作品が実に山盛りになっていた。シムノンでも本作、「奇妙な女中の謎」、クリスティの戯曲「殺人をもう一度」、スタウトでも「ネロ・ウルフ対FBI」「シーザーの埋葬」など、ちょっとここらで寄り道したくなる作品多数発掘。「メグレ激怒する」の文庫も買うことなかったな...で一番手は本作。メグレ第二期の長編で、単行本としては未刊行。
殺人予告を見つけて通報した男は自殺を図る、その殺人予告通りに女占い師が殺される。その現場には耄碌した老人が閉じ込められていた...この老人は資産家の妻と娘に虐待されているようだった。事件を見つけたのは「三文酒場」みたいなパリ郊外の船宿のおかみ。その船宿にメグレは赴くが、そこで何かが?
と、話が実に多岐に広がっていって、「話、畳めるの?」と読んでて不安になるくらい。
けど、シムノン、これをちゃんと畳んでみせる。犯行予告も老人の謎も船宿の役割もちゃんとつながっていて、メグレはとりとめのない出来ごとの裏にある犯罪組織とけち臭い詐欺行為を暴き出す。お手際お見事の秀作。大名作とまでは思わないが、単行本にしないのは損失の部類。

No.34 5点 メグレと火曜の朝の訪問者- ジョルジュ・シムノン 2019/12/28 00:59
本作は結構変化球だ。初メグレで本作を読んだら??になるに違いない。
メグレの元を別々に踵を接して訪れた夫婦の話である。だから何がどうして...がはっきりしないこともあり、メグレも読者もどうもすっきりしない。メグレは気になりながらも、民事不介入というか、事件が起きているわけでもないので正面切っての介入もできず、不安な気持ちで事態を見守るばかりである。そして悲劇が起きる。メグレも犯人を推理するというよりも、なりゆきの結末をつけるために真相を引き出すだけのことだ。

責任と無責任の間には、あえて踏み込んでいくことが危険な領域、不分明で暗い領域があるものだ

とこの夫婦の「戦い」にメグレは踏み込むことができなかったのだ。ある意味、「メグレの失敗」を描いた、珍しい作品になるように思う。
なので事件の顛末以上にメグレの描写にウェイトがある。メグレ物というよりも同時期の一般小説側に近いテイストを感じる。
(ううん、評者どっちかいうと、男の方に問題が多いように感じるなあ...こういう男、結婚しちゃいけないような気がする。何となく、の思い出だけど、評者河出の50巻のメグレシリーズが出たときに、確か本作を真っ先に読んじゃって??になったような気がするんだ。そのせいか、実は手持ちにはビニールのかかった版が一冊もない。当時ハマらなかった責任は本作にあるのかも)

No.33 6点 港の酒場で- ジョルジュ・シムノン 2019/11/19 01:58
シムノンの港好き、船好きは頻繁に作品舞台になることからもうかがわれるのだけど、本作はタラ漁船の船長殺しを扱って、プロレタリア文学風の味わいさえあるような作品だ。
出港時に水夫がマストから落ちてケガをするわ、途中で見習い水夫が波に攫われるわ、ベテラン船長はらしくもなく自室に閉じこもりっきりで、高級船員たちと険悪な情勢になり、一匹もタラのいない漁場でムダな漁をするわ、一転タラがたくさん獲れたが塩が足りなくて傷んでしまうわ..と散々な出漁だった「大西洋号」がフェカンの港に帰ってきた。その帰港の夜、船長が港に投げ込まれて殺された...この漁の間船長と険悪な仲になっていた電信技士に容疑がかかる。メグレは幼馴染の教師に頼まれて、この技士の容疑を晴らそうと非公式に事件に介入した。メグレ夫人と技士の婚約者とともに、海辺のホテルに滞在するメグレの捜査は...
という話。なので3か月間船に閉じ込められる船員たちの間での人間関係をメグレが探っていくことになる。この頃の古典ミステリっていうと、テンプレ的なブルジョア家庭で、リアリティ皆無の「お仕事」な小説がフツーだったわけだけど、シムノンのリアリズムは地に足がついてて他の作家とは隔絶しているとさえ思うよ。

ぼくらのまわりには、明けても暮れても灰色の水と冷たい霧ばかり。そして、いたるところに、タラのうろこと、はらわた。口のなかには、いつもタラを漬ける塩水の、胸のむかむかするような味があります。

こういう小説。ミステリとしての真相はどうこういうものでもないが、最後真相を掴んだメグレは、婚約者の父の小商人根性がうっとおしくなって逃げだすのがご愛敬。
初期の創元から今は亡き旺文社文庫でなぜか出てたレア本だったけど、今は電子書籍があるみたいだ。けど、旺文社文庫で手に入ったので、電子書籍デビューはお預け。残念。

No.32 7点 黄色い犬- ジョルジュ・シムノン 2019/09/15 17:50
さて「黄色い犬」で評者の手持ちシムノンが尽きる。何となく手持ちがあるうちは図書館本とか借りづらくてね....初電子書籍で「港の酒場で」とかもチャレンジしたいな。
ジャンルが何となく「本格」になってるようだ。最後で関係者全部集めてメグレが謎解きするから、かもしれないが、論理的な...とは言えない解決というか、一般的な「推理」じゃないから「本格」はムチャだと思う。
というか、評者に言わせると「シムノンらしい」のは、短い小説なのに、登場人物の「行動原理が変わる」ところにあるように思うんだ。本作だとある人物「復讐」がベースにあるんだけども、結局復讐する意味がなくて復讐を止めてしまうし、いろいろな事件が必ずしも犯人の狙い通りの結果、というわけでもない。だから実質「推理不能」な部類の事件だし、シムノンの狙いもそんなところにはない。
じゃあ本作で何が印象的か?というと、それはやはりホテルの酒場の女給エンマ、

エンマは、もどって来ると、その場のようすにはいっこうに無頓着に、勘定台のうえへ顔を出した。目にくまのある面長な顔だ。くちびるはうすく、ろくに櫛もいれていない髪のうえから、ブルターニュふうの頭巾をかぶっているが、それが絶えず左のほうに落ちかかり、そのたびごとにかぶりなおしている

と描写される「幸薄さ」満開のもう若いとは言えない女性の肖像だったりする...田舎町の有力者たちのお手軽な愛人として無残な年を重ねていく、希望のない女。そしてホテルに腰を据えてエンマを召使みたいに扱う、自堕落で心気症な非開業の医者であるドクトル。うらぶれた行き場のない中年男女の運命が、「黄色い犬」を象徴とする事件によって変わっていくさまが見どころなわけだ。実際初登場で

メグレは、勘定台の下にねそべっている黄色い犬に目をとめた。さらに目をあげると黒いスカートにつやのない顔がみえた。

とエンマと黄色い犬は内密に結託しているかのようなのである。この黄色い犬が媒介するささやかな運命の時を、メグレと共に目撃することにしよう。

No.31 8点 男の首- ジョルジュ・シムノン 2019/08/15 14:50
評者もシムノン手持ち札がさすがにそろそろ尽きてきた。なので大定番のこれを投入。言うまでもなくメグレ物としては特殊作品である。もともと戦前に本作の映画化「モンパルナスの夜」が日本でもヒットして、シメノン人気が燃え上がったことから、何となく代表作化しているだけのことである。しかしね、本作はメグレ以上にジャン・ラデックのキャラクターが極めて印象的なことで、特殊作品だけどシムノンの傑作の1つにはちがいない。

(ネタばれ... けど推理に重点が全くない作品だからお許しを)
考えてみればウルタン犯人に納得しなかったメグレが、わざわざ職を賭けて脱獄させたことで、一旦は完全犯罪を達成したラデックに「もう一度、世の中をひっかきまわしてみたい」という自己顕示欲を刺激しちゃったわけだから、何とまあ罪作りなことなんだろうね。しかも「罪と罰」みたいな良心とか道徳とか愛じゃなくて、自己顕示欲の延長線での「捕まりたい」欲望を抑えれなくなったラデックが、自分の「カッコいい破滅」を求めてメグレをわざわざ挑発する....生き急ぎ死に急ぐ、神に挑むようなロマン派的なキャラクターに、評者とか学生の頃は結構イカれたもんだったんだがね。今思うとさすがに青臭いなあとも顧みるんだが、シムノンもこれを書いたのは28の歳。やはりシムノンの青春の決算という色調が強いんだろう。
ただし本作の持っている「青春の毒」は後の作品でも、繰り返し現れるので、そのバリエーションを愉しむのもいいだろう。同じネタでもシムノンの成熟によって、多彩な切り口が現れてくる。「雪は汚れていた」とか「第一号水門」を併読すると味わい深いと思う。
(中盤の「キャビアを好む男」あたりのカフェ・クーポールのシーンは、本当に凄い。映画で演出してみたいくらいだ...)

No.30 6点 メグレと口の固い証人たち- ジョルジュ・シムノン 2019/06/01 14:02
あれ、本作不人気だなあ。雰囲気暗めだからかな...舞台が晩秋で湿っぽいのにメグレが合わないわけじゃなし、このくらいは悪くないと思うんだけどね。
老舗というか古めかし過ぎて倒産寸前のビスケット会社を経営する一家で、押し込み強盗を疑われる状況での主人の死体が見つかった。メグレが出動するが、若い予審判事があれこれメグレに指図したがるわ、この一家は捜査に非協力的でいきなり弁護士を雇って捜査を監視させるわ...とメグレも手足を縛られたような捜査が続く。
けどね、メグレは「私は何も考えない」「メグレ流の捜査なんてない」というスタンスだから、こんな外的制約にだって動じない。家族に対する尋問をせずに、周囲から外堀を埋めていくかのように、徐々に状況をメグレは把握していく。最後は若い判事に花を持たせる余裕あり。
キャラとしては、家風を嫌って家出した一家の長女が、レズビアン・クラブの男装バーテンになっていて、なかなか素敵(苦笑)。シムノンも「家モノ」がたまにあるけど、抑圧されてヒネた息子と疎外された嫁、奔放で距離を置きたがる娘って構図はお得意。今回はハジけちゃう母親(「ドナデュの遺書」とか「サンフィアクルの殺人」とか)はなし。

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クリスティ再読さん
ひとこと
大人になってからは、母に「あんたの買ってくる本は難しくて..」となかなか一緒に楽しめる本がなかったのですが、クリスティだけは例外でした。その母も先年亡くなりました。

母の記憶のために...

...
好きな作家
クリスティ、チャンドラー、J=P.マンシェット、ライオネル・デヴィッドスン、小栗虫...
採点傾向
平均点: 6.43点   採点数: 1253件
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