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斎藤警部さん
平均点: 6.68点 書評数: 1248件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1108 7点 おれたちはブルースしか歌わない- 西村京太郎 2021/11/19 18:24
“おれには、それを許せそうもない。  おれたちには、やっぱり、ブルースが似合うんだな。”

「シンデレラの罠」盗作事件!(←歌の題名です) 更には私立探偵が殺されたり、犬が消えたり現れたり、恋する青年がアダな年増女に翻弄されたり、呑気に構えているとアッと言う間に連続殺人が、、、意外とジェットコースター、コロンボ(刑事)まで怪しく見えて来る堂々の展開!! 妙に身体的特徴の光る人物が二人もいるのは。。 真犯人、真相ともども隠匿の技はな~かなかに熱い! 京太郎さん、軽いタッチで油断させといて、本気で書きやがったな!(笑) 思いも寄らない人物の、物語内での化けっぷりにも、このヤング文体に紛らせといてしっかりと伏線が! いやー、真相巻き返しの術、凄かった、ナメて掛かった甲斐があった(笑)。   

著者初期(鉄に行く前)のおどけた青春ミステリ。若き日の十津川さんが出て来てギター弾きながらおどけるわけではないです。
主人公たちがブルースバンドって感じがまるでしないのと、何にしろ音楽がまったく聴こえて来ないのは、、まあミステリの面白さで許せますよ。

No.1107 6点 カックー線事件- アンドリュウ・ガーヴ 2021/11/17 11:20
バカ証拠(笑)、バカ解決(笑)。 主人公(ではないね、その父親)はダブルの事件に巻き込まれたくせして妙にのんびり、やたら緩やかなコージーサスペンスのようでいて、どうも何やら腹に一物あるような、、って期待した。。そこんとこ作者にミスディレクションの気はあったのだろうか。(私には◯◯◯の◯が終始どうにもニオった!) ちょっと接ぎ木したように現れる本格ミステリ展開は、ロジックのポイントが所々枝葉末節に見えて退屈気味だが、水運系の描写が愉しくて救われる。忙しなく爽やかなエンディングにも救いがあるが、やっぱどっか全体の構築に貫禄が無いというか。でも可愛げあって憎めない作品。 題名からして一応鉄道ミステリでもあるので、読み鉄の方は余裕あったらチェックしといていいかも。

No.1106 8点 弔鐘はるかなり- 北方謙三 2021/11/12 05:54
“この男は俺と同じことをしようとしている。◯◯を◯◯◯出すということだけではない。なにか別のものだ。言葉にはならなかった。”

真の「復讐対象」が誰/何なのか、極限まで煮詰めんとする男の物語。 万感迫るラストシークエンスで急転回して、沈着の中に衝撃宿るサドゥンエンド、そこに唐突感が漂わないのは、猛烈な小説家魂が最後まで読者を抑え込むから。 驚くほど純ハードボイルド文体で描かれた登場人物群の鮮やかで立体的なこと! 微妙な翳りが際どい危うさを発する「或る脇役」が実は、、一連の事象と直接の何の関係も無いというポイントは、クリスティ流人間関係トリックに通じる大きなミスディレクションとして機能していよう。 人間関係といえば、最後に明かされる、主人公にとり、そして本小説にとり巨大な真相暴露となるさり気ない台詞と、それを受け止めたその後の会話と、、、このへんはもう本当に最高のハードボイルド記念碑、伸された。 北方謙三ミステリ作家としてのデビュー作にして仰ぎ見る完成度と魅力の坩堝だが、今度こそ売れるためのクソ努力がこれだけプレシャスな果実をアウトプットしただなんて、どこまで素敵な話なんだろう。 私が北川景子を割と好きなのは、北方謙三を無意識に思い出させる語呂の近さに負っている部分もある、という深層心理にも気付かせてくれた。

キーホルダーに付いた鈴の鳴る ’サラン’ という音、何度も登場しますが、癒されますね 。。。  「いい音だ。時々振ってみるのはあんたの癖だね」 ← この台詞。。。。
表題の意味、かなり深い所まで考えさせられます。 「はるか」なのは、何と何の間の距離なのか。 一つには、◯◯を越えた或る距離の意味合いも含まれているのかな。。

“人間にはそういう河があるものだ。ただ渡るためだけに必要な河が。”

最後に、これはネタバレに通じそうですが、、、、 或る重要人物が、実は一度も登場しない!! 。。。。 何から何まで想像させて、泣かせてくれます。

No.1105 7点 或る家の秘密- スティーヴ・ロビンソン 2021/11/10 04:57
アトランティック・クロッシング。。本作の終盤に差し掛かった頃、ロッド・スチュアートの同名アルバムがFMから流れて来た偶然には感動した。それも一枚丸ごとの大盤振る舞い!

主人公はやり手の「家系調査士」JTことジェファーソン・テイト。全米一を自認するが、ここへ来て若手ライヴァルの追い上げが激しい。今回の顧客はイングランド系アメリカ人の富豪。本人直系の先祖は難なく割れたが、その兄と妹で独立戦争末期にアメリカからイングランドへ渡った一族とその後裔にあまりにも不審な黒い霧を発見したJTは強烈な職業興味に押され、苦手な飛行機で英国に渡り、調査の周辺で起こる連続不審死に遭遇し、自分の命まで狙われ始める。。

重みのある渋い作品を想像していたら意外と軽くてヤングフィーリングなお話でしたが、終始エキサイティングで文句無く面白かったです。活劇シーンも、謎ガジェットの存在感も充実。魅力的キャラクターズも色鮮やかに書き分けられました。過去の大きな謎と現在の中くらいの謎がカットバックで並走するスリルはなかなかのもの。過去の真相の或る意外性の部分、所謂人間関係トリックのシラッとバッサリ応用篇みたいな所は、最後まで堂々騙され一片の悔い無し!

現在の真犯人は確かに意外ですが、その立ち位置であまり驚けない、意外性のコスパは確かに低い、でもこのストーリーのパースペクティヴでは充分満足。大きな分岐点でもある、或るシーンで主人公、主人公の仕事のライバル共々そこまで軽々しく騙されるわけないだろう、って唐突にリアリティがグシャグシャッとなっちゃう所、読者目線であまりに不審過ぎて、ひょっとしてハイパーどんでん返しの巨大伏線かと疑っちまいましたよ。そこんとこの悪い違和感を除けば相当に優秀なエンタメ作でしたね。。でも更に敢えて言えば、過去の犯人というか悪人の人間ドラマがページ数的にあっさり通過され過ぎの感はある。もっとじっくりじっとり掘り下げてくれてもエンタメの速度が落ちはしないと思うが。。とは言えその部分を含んだ⚫️⚫️の悲劇という大テーマ的な部分はやはり熱く、派手めなエンタテインメントたる本作に深いインパクトの加勢を与えてはいる。 プロローグの本当の哀しみは、過去の真相が分かってこそ、考え落ち的にずっしり来るわけだ。。

第一級の家系調査士である主人公が自らの血縁両親を捜しているという設定も旨い。シリーズ後続作でいつかその謎が解かれるのだろうか。 ノンケ男女同士の熱い友情と軽い恋愛が並列で描かれるのも良いですね。恋愛の方は友情に較べるとかなりどうでもいい扱いですが、こちらも後続作での発展があるのか、寅さんみたいに一作毎の淡い行きずりが続くのか、、まどっちでもいい。 そうそう主人公がそこそこおデブちゃんの筈なんだが、殆どそういう感じ出てない。キャラクター上の必然性も特に無い気がするんだが。 飛行機恐怖症の方は、アトランティック・クロッシングの味付けに丁度良かったかも知れない。

No.1104 6点 往復書簡- 湊かなえ 2021/11/03 03:40
手紙の交換が進むにつれ、過去が深堀りされ、謎解きや葛藤を経、何某かの結論に至る三つの連作短篇(文庫版は+α)。 手紙のきっかけは学生時分の影深いインシデント。 『第一話』の真相は予想外だけど、驚くわけじゃない。これはこれで「どダークな真相」という捉え方もありそうだが、個人的にはかなりのギャフン作ですね。ここで長篇の第一部終わり、ってんなら期待するけど。(実際そう勘違いして、続きにすっげ期待しちゃったんスけどねww)仕切り直して『第二話』は、随分深くまで掘った暗黒真相の果てに。。なんじゃこのさわやかエンディングはw こんなんじゃもっと人間ドラマに寄せた普通文学+ミステリ風味チョイの方がいいんじゃないか、と思ったが。。『第三話』にはミステリ魂埋まってました!三作中もっともさり気ない導入から犯罪領域に急カーヴするタイミングのスリルは強力。「時●」ってやつの使い方も絶妙。「●る」という言葉のダブルミーニング的なとこ、ヤられた。奥の深い真相暴露は横溝の某短篇を彷彿とさせたかも(?)。 文庫で追加になったという『エピローグ』、色々●●って(?)愉しいですが、考えオチ過ぎて(?)もやもやエンドだった『第三話』に泣ける落とし前を付けた、って解釈でいいのかな?

No.1103 6点 地獄の道化師- 江戸川乱歩 2021/11/01 20:56
犯人の意外性より、犯人像の鮮烈な悲劇性ですね。通俗なものではありますが、通俗ならではの刺さり具合です。それはまた、犯人が物語の中で実は一度も■■を■■ていない(■■でもないのに!)という異様な事実にも染め上げられてありましょう。 ミステリー三昧さんも書いておられますが、最後の最後まで確定容疑者を一人に絞らせない周到な技が光ります(或る人物が■■■■のまま、というのが大きいかな)。こんだけ毒々しい物語の末にバッサリしたエンドも良し(妖怪人間ベムを彷彿)。サイズ感含め「一寸法師」との喰い合わせは確かに良いですな。

No.1102 6点 黒後家蜘蛛の会1- アイザック・アシモフ 2021/10/30 07:56
会心の笑い
古典的真相を疑わせて思いっ切り引っ張った挙句、そっちを攻めるのか。。しかもそっちを先にバラす。。よく見りゃ違和感伏線も(際どい所だが)あるんだな。。シリーズの始まりがコレとは、何気な怖さを与えてくれる。

贋物(Phony)のPh
この俯瞰解決の手法、他の不可能犯罪に対しても応用すべきですね。 というかアレか、そこは逆か。

実を言えば
は? 何かの皮肉ですか?(本作だけはちょっといただけない)

↑ 個別コメントは最初の三作で書く気が蒸発しました。。。 と言っても決してつまらないのではなく、いちいち書かなくても本書はもう大丈夫だな、と。(何がもう大丈夫なんだ) 仮に短い推理クイズの形式でプレゼンしたら不発のギャフンで終わりそうなネタを人物描写や蘊蓄披露も豊かな物語世界の中に注ぎ込み、質実な分析と推理とで味のある終結まで持って行く様子にはこのシリーズ独特の沸々とするスリルが宿っており、読みだしたらやめられなくなる、だが単なる中毒性とは違った魅力があります。 各作締めのヘンリーの台詞の、しみじみし過ぎないさり気なさは素晴らしいですね。 必ずしも「日常の謎」ってわけじゃないのもポイントかな。

「解答が出揃いましたところで、ときたまわたくしは、どうやらそうむずかしく考えることはないと見当を付けまして、複雑なところを通り抜けて単純な真実に行き当たることがあるのでございます。」

No.1101 7点 地を這う虫- 高村薫 2021/10/27 19:00
元ノンキャリ刑事達(年代はまちまち)、第二の労働人生に起きたサスペンスフルな事象を追う、四つの物語。
彼等の仕事は、警備員、サラ金取り立て、政治家運転手、守衛(昼夜掛け持ち)。

愁訴の花/巡り逢う人々/父が来た道/地を這う虫  (文春文庫)

文庫裏表紙に謳われる『深い余韻をご堪能ください』に偽り無し。 主人公の過去から繋がる、現在の不可解な或いは違和感光るインシデントを看過出来ず、今なお消えない刑事魂に突き動かされ巻き込まれ正面から取り組む男達。 背後から吹き付ける冷たいサスペンスと、人間ドラマを邪魔しない匙加減の絶妙なツイスト。 読後に持続するじんわり感は強力。
短篇集で表題作だけ異色の作、ってのはままある事ですが、本作の場合もそれですね。 最後の「地を這う虫」は際立ってミステリ色強く、ある種幾何学パズルの趣も窺える。ユーモア有り(ろんさん同様”台帳”には笑いました)、まさかのアクション有りで、人間ドラマも割と明るい側面を押し出す。 だが決して先行三作に較べ軽くも浅くもなく、むしろ個人的にはこの表題作がいちばん心に残りましたね。 (ミステリ色の強い作品、実はもう一つあります。 まあ四作どれも充分ミステリですが。)

No.1100 8点 屍蘭 新宿鮫III- 大沢在昌 2021/10/25 18:04
ホップする剛速球で文句無し!じっくり行きたいがスタスタ読めてしまうのが恨めしい。早い段階で深い謎を惜し気も無くバラして行くリスキーな(?)展開も納得、この勢いと重さの共存あってこそ成り立っている。時折の硬い説明文さえエンタテインメント天然色。ラストがちょっと爽やか過ぎかと感じたが。。題名の意味に、最後の最後で花開かせる手綱さばきは見事。女子力の強い物語だが、そこは女子達のみならず某ノンケ男子の造形や行動も大きく寄与していよう(この人物、いいねえ)。

いくら状況をナニしたからと言って気が付けば周りは鮫島の味方ばかりになっていたり、あんな最強武器をあんな無防備な持ち歩きしていたり、ヘンな所も数ありますが、、物語が見事にぶっ飛ばしています。 晶の音楽がさっぱり聞こえて来ないのも、まあ気になりません。 ところで、先頃ジャガー星に帰還された千葉のジャガーさんの若い頃、今と違ってバリバリのハードロッカー(パンク寄り)だった頃の楽曲を久しぶりに聴いてみて、晶のやってる音楽にもしかしてちょっと近いんじゃないのか、なんて想像してしまいました。 当時の晶、ジャガーさんのこと知ってたかな。。(実は対バンしてたりとか)

No.1099 5点 覆面作家は二人いる- 北村薫 2021/10/22 13:20
やっぱり、タイトルが引っ張りますよね。いらぬ先回りで憶測してしまうので、その分ミステリ度が嵩上げされましたかね。 時折過多に思えたユーモアも、琴線ヒット率は個人的に高かったッスね。実際けっこう笑ったね。

「 『俺は十九だ』 といって殴りかかってきたんだ」
兄貴は、さらに首をかしげた。
「そりゃあ、おかしな話だな」

にしてもあらためて随分とフェミニンな作風ですこと。表紙絵や挿絵の彼女がいかにも’女性目線で可愛い女性’て感じなのも拍車を掛けてるな。 この彼女、どういう発達障害か知らないが、やっぱ世の中は、真ん丸なんじゃなくどっか引っ込んでどっか出っ張ってる人達が補完し合って成り立ってるんだなあと、中にはこの彼女みたいな凸凹の直径比が極端な人もいていいんだよなと、思いました、半分冗談スけど。

謎解きとしては、最後の表題作はちょっと良かったですね。。 ただ、バードさんおっしゃるように、謎の焦点がばらけてもったいない感じはします。(私なんざ「年増のチンピラに絡まれた事件」も謎インシデントの一つにカウントしてましたよ)

No.1098 7点 応家の人々- 日影丈吉 2021/10/20 06:40
“あの童女のおもかげのほかに、この陰惨な事件の連続から、守るべき思い出の何ものもないのをさとった。”

作中作の斬れ味、作中作中作の濃艶さ。現実(作中)世界とのリンクも闊達(ところが構成の妙はそこだけじゃない)。作中の現実とは、一人の女性の周囲に、新旧夫の二人を含み、あまりにも短期間に連続して起こる夥しい不審死。ストーリー途上にはまさかの匂わせミステリかと危惧させる展開もあり、捨て置けないトラベル&タイムトラベルミステリーの趣もあり。多種多様なルビの氾濫も手伝い、言い逃せない読み辛さはある。だが、こりゃあ短かめの長篇ながらも贅沢にゆっくりと味わいたい作品。とか言ってると最終コーナーにかかり唐突に一気に燃え盛る本格ミステリ魂の火炎放射が凄い。まさかの鮮烈物理トリック、それも明瞭伏線付きだった! … 造形にちょっと靄がかかった探偵役の主人公が最後になって急に閃きまくるのは、読者一般には見えなくとも、当時のディープ台湾に浸っておればこそ嗅ぎ出すことの出来たアレに対する機微がそこに遍在していたから、って事でしょうか。。その事実が最後に浮かび上がる、歴史がかった重めの捲り感こそがミソなのかも。 それにしたってこの終結! これを■■だと騒ぎ立てる人もあろうが、意外過ぎて粋で、何と言ったものですかね。

南十字星の見える南台湾 .. 日本領だったころの .. を舞台とした、苦くも起伏に満ちた回想と、現在の..    の物語です。 題名のちょっとした違和感も、最後には切なく茫洋と解消。 主人公がファム・ファタールに傾き過ぎないのも頼もしく、また良い意味で逆に歯がゆく、素晴らしいバランス。 旅をしたな、という粗く爽やかな感慨が残る。 作者による、その品格と裏表のとぼけたあとがきもよろしい。

No.1097 6点 象牙色の嘲笑- ロス・マクドナルド 2021/10/15 11:04
いいですね、事件全貌の一部だけチラ見せ続けて誤誘導するトリック。そこに時間の経過が被さるもんだから。まるで「群盲象を評す」の四次元版のよう。このパズル興味を輝かせるものこそ、物騒で手の早いそれなりのHB的魅力、そして明暗の人間ドラマ。なかなか小気味良い(?)屍体消失トリックも鮮やかでした。

No.1096 9点 造花の蜜- 連城三紀彦 2021/10/11 13:40
やべ、俺もう死ぬかも。。 誘拐事件らシきモのをモチーフに、妖異で濃厚なスクリュー展開が緊張緩めず延々と味わえた奇蹟の作品。余裕で大きくうねる二重螺旋ストーリー、容赦無いターン、裏を抜けるパス連打の躍動に、いつしか時系列までうねり始めた。。 疑惑妄想の乱反射も凄まじく、結果、ゴージャス過ぎる死にネタの数々を置き去りに。。!! すると半分も行ってないのに早くもドンデン返し、の連続、と言うよりむしろ。。。ですよ!?(当然のように大小いくつもの謎を引き摺ったまま)。 連城は読者を誘拐しようと、或いはむしろ読者に誘拐されようとしたのではないか。 被害者、加害者(この線引きが凄まじい)の思惑、行動に加え警察稼働の部分も冷静ながら熱く、読みどころには事欠かない。 おっと、何なんだよその言葉のぶつけ合いトリック。。。。さて、いつの間にか(?)一部、二部の罠なのか何なのか。。 最終章(かどうかも分からない地平)に読み進むのが怖い!! かへり見すれば、モーツァルトの交響曲第40番(出だしが超有名なやつ)を髣髴とさせる、途中まで緻密に張り詰めまくっていたのを、最終楽章だけ一気に力を抜いて、でも充分キャッチーではあって、全体のバランス取るような、そんな構成だったかも。 しかしこれ地方新聞の連載でやられたら、参りますな。 連城の犯罪ファンタジーに宿る、謎のリアリティ押し切り感覚は凄いです。それを長篇でやり切ったのが本作。

No.1095 8点 ねじれた家- アガサ・クリスティー 2021/10/05 20:50
短い最終章、最後の台詞に大真相のほのめかしが宿る。そう、真犯人意外性より大真相の異様さで圧倒する小説。真犯人がものすごーーーい後になってやーっと暴露される構成も、この真相あってこその必然性、並びに演出有効性。まるでコンクリート打ちっぱなしの店のように露骨に晒された伏線ならぬ大ヒントの数々。探偵役不要(?!)の物語ながら、ある種の探偵役は主人公父親の警視庁副総監か。⚫️⚫️⚫️な真犯人が⚫️⚫️⚫️される結末も衝撃的。ちょっとアンチミステリな趣向も見え隠れ。なーんか探偵役らしき人物がずーっとふわふわしててピリッとしない筋運びだなー(そのくせ面白い!)、マザーグース感、館モノ感まるで無いし、と思ってたら、、そういう真相に繋がったってわけですか。。!! そこんとこ、真相分かってみればもはや不要だったんじゃないかと錯覚する大きなミスディレクションとしても充分成立していたんですね。際立って特殊な物語構造が魅惑の源泉です。本作もまた、アガサらしい堂々の企画一本勝負と言えましょう。(若い頃ほど露骨でないのも味がある)

No.1094 7点 ミイラ志願- 高木彬光 2021/09/30 22:00
こりゃあいい。サスペンスに滋味溢れる歴史/時代娯楽九連作です。

ミイラ志願■兇賊は死罪を免れようと仏門を叩き、即身仏となる難行を志願する。和尚はあっさりと受け入れる。痩せ細っても俗気が滅しない兇賊。怖ろしい結末。
偽首志願■影武者と信長公の唯一の違いはある食物の嗜好。トリックにトリックを重ね、トリックに溺れる武将たち!
乞食志願■蹴鞠芸人として生を全うしたい、義元の嫡男。ミステリ性はほぼ無いが人生の良い話。しかし脇役が中心に来る終結は、あまりに重い。
妖怪志願■関ケ原前夜、武将たちに家康を滅ぼすべく次々とアドバイスを送る謎の者。この大オチは異色作と言えましょう。
不義士志願■複雑な事情で、吉良邸討入りから外され、事後も不如意な目に遭う赤穂の義士。ところが。。。。 この結末は眩しい。
飲醤志願■太平の世、頑健無比の大男を抹殺するにはどうしたらよいか。 バカサスペンスに剛毛が生えた様な話。
首斬り志願■明治の首斬り役人に強力な跡取りが現れた! 和やかな導入からまさかの反転、ミステリ性の高さは随一。
女賊志願■幕末から明治、刺青に纏わる歴史の謎を解き明かしてみると。。。 或る人生に纏わる心の謎が赤々と現れた。。
渡海志願■会話のミスディレクションがニクい。。幕末、密航を企てた動機は、そこか。。。。歴史に深く軸足挿したハウダニットが最後に炸裂! 一方の主役、長崎奉行の英明が限りなく尊い。

No.1093 7点 九人と死で十人だ- カーター・ディクスン 2021/09/27 22:01
ある物質の『過ぎたるは何とやら』に着目した鮮やかな逆転(!)物理トリック、の実行失敗(!!)が作り出した不可能状況の魅惑、あまつさえもう一つの大トリックが不可分に結んでいたとは。。(アレが盲点になってた、チェックもされなかったというのは、、人数を考えると無理も無いのか..??)まあ、この物理トリックは実践云々より、想像上でこそ価値のある事象ですかね。(だがもう一つの方のチェック機能が働かなかった件は、若干無理があるような。。いや、この特殊状況下だからこそ逆に見逃され易かったのか??) あまりに鮮やかな犯人指摘シーンは、たとえソレがアレだとしても、この一瞬の眩暈は珍重したい! 適度なユーモアに戦時ならではの緊張もアシストし、撓み無用の良い雰囲気。HM卿もしっくりはまる。 動機は、それなりに深くも見えたが、ミステリ軸で検討すると、どうってもんでもないかな。。 まあ、クリスティとはまた違う、ちょっとした人間関係トリックというかナニにはやられましたかね。 目を引くタイトルだけど、計算違わない。。? なんてね。何気な●●●●●●●●●になってるからいい、のかな?

No.1092 7点 真珠郎- 横溝正史 2021/09/22 21:14
告白書の書かれたタイミングに妙味あり! 犯人意外性より、真相意外性とその騙し絵の奥深さ。首無し屍体を取り囲むミスディレクションは秀逸。前半は、天変地異のさなか敢行された残虐殺人を巡るパニック冒険譚。ゆりりんも登場する後半は、主人公の周囲でばかり起きる連続殺人を巡るサスペンスフルな推理劇。この構成もコントラスト鮮やか。探偵役の比重が妙に軽いのも味のうち。戦後の本格横溝黄金期にそれぞれの作品内へと巣立って行く諸要素が詰まった、戦前横溝の力作と言えましょう。

角川文庫併録の「孔雀屛風」
悲恋と◯◯◯◯心、この一見合い馴染まない様な二つの心理が百年以上の時を超えて。。、。日常の謎めいたスタートから、あっと言う間に犯罪の暗雲が立ち込める。古文書や文語調手紙の緊張感も巧みにはまり、締まり良くもロマンスに心温まる好短篇。「真珠郎」の後には良い清涼剤。 しかし、罪な恋人たちだ。。

No.1091 6点 殺人症候群- リチャード・ニーリィ 2021/09/18 14:38
最終章には心ふき飛ばされたなあ。。。(一瞬、■■かと思った。。) そして、否応なく考えさせられました。

このような真相を巡って、周りが如何に目星を付け捜査を進めて犯人捕獲に至るか、の一挙手一投足が興味の中心に来ましたね。 そこに至る前の"犯人やりっぱなし"の部分にもっと硬質のサスペンスがあればなあ。。 でも充分、詰まらなかァない代物。

本作を「妻に」捧げる作者、ちょっと怖いです。 本作一番のポイントは、実はそこかも知れません。

No.1090 9点 冤罪者- 折原一 2021/09/15 05:46
いやー諸君、どいつも人間臭くて大いに結構!! 一くん、やったね! Gの重みでグリグリ来るジェットコースターサスペンスは、乱反射を止めないイヤミス魂の遍路。 これやばい。ビッチリやで。。。。 何らかの怪しさを持つ重要人物群(どいつも癖ツヨ)の重要度がだんだん均等になって来る切迫感が気持ち悪いんだよなあ、最高に。てかそのお蔭で色々見えにくくしてるんだね、凄いねえ。。。 「幕間」の効果もそれぞれ堅調、時に爆発、カッコツケのギミックに終わりようが無え。 叙述トリックではない、は言い過ぎかも知れんが、それに立脚しきってない、飽くまで目眩しの一つとして逞しく消化している、このぶっとい頼もしさたるや。 強烈なのが何度も襲うエピローグも圧巻。(ク●フ●の「●に●●●●く●●い」を思わせるシーンがあった..) 面白すぎ読み易すぎてあっと言う間だったのが、内容のあまりの充実具合に、二週間半くらい掛けて読んだような錯覚が起きています。時間は伸び縮みする、ってのはこれですね。 一くん、話題の森●一くんにも爪のアカ、テキーラに混ぜて呑ませてやって!!

No.1089 7点 罪への誘い- ミシェル・ルブラン 2021/09/10 02:41
ロックンロール革命以前(発刊は’59だが..)と思しきレコード会社を舞台とした、謎と疑惑の乱反射も眩しい素敵なクライム・ストーリー。老いた初代社長には腹違いの二人の息子。共に同社社員であり、微妙な対立関係にある二人が揃って食指を動かすのは録音技術主任のハクいスケ。三十路にもなって軟派の不良で麻薬中毒、未成年暴行であわや新聞沙汰になりかけ巨額の口止め料を無心に来るようなグズグズの弟に、十も年上で小心者の兄(販売部長)は、、とうとう何かがプツリと切れた。。。。

「どうやらあなたにはアリバイ必要なようですな。それもうんとしっかりしたアリバイが。アリバイは何ですか?」

いやはや、二百頁ほどアッと言う間に読んでしまう爽快痛快やばいお話でした。結末を待たず中盤早くから激しく腰振るように二転三転するストーリーの動体エネルギーは大したもので、通底するカラフルなユーモアもそこに上手く融合。あれ、そこでいきなりまた90度旋回するの??。。とか何とか振り回されていると、、ようやくそこにトゥッサンが乗り出してからのカットバック畳み掛けが尊い!! と、思った矢先に、アレ、何だこれトボケてらあ! ところがさ、勝負は始まったばかりなんだなあ。仮に見え透いた結末に雪崩れ込もうとも、これだけ楽しませてくれたなら大いに満足さ、って殊勝にも思ったもんだが、果たして。。。。 そっか、ささやかな叙述トリックがあったのだね! と振り返ったのも束の間、そこ随分大胆にやったもんだなーと。でも叙述トリックより叙述ギミックの方が光ってるね。大伏線の大胆な置き場も、完全に目眩しされてました。 ほんのちょっぴり、イニシエーションなんとかを折り目つけるとこ変えて折りなおしてみたような、そんな感じもしました。(適当に言ってます) ちょっとした自作カメオ出演も面白い。 弁護士流エジプト文字、いいね! そんでもって、いっやー、最終盤に至っての、この、真犯人と探偵役のタイミング最高の攻防! 何より、突如発熱するエンディングと、深みに響くラストセンテンス。。。。人間の哀しみ。。。。 このコントラストにヤラれるのよ。 しかしだな、よりによって、まさかそんな所に、笑うほどの致命的証拠が!!

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.68点   採点数: 1248件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(55)
松本清張(53)
鮎川哲也(50)
佐野洋(38)
島田荘司(36)
西村京太郎(34)
アガサ・クリスティー(33)
エラリイ・クイーン(25)
島田一男(24)
F・W・クロフツ(23)