皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
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平均点: 6.70点 | 書評数: 1341件 |
No.1201 | 6点 | 白昼堂々- 結城昌治 | 2023/07/14 23:53 |
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本気で読者を噴き出させに掛かるユーモアの切っ先は鋭く、勢い余って物語のスリルまで少なからず削ってしまっている。だが問題無い。人情に溢れどうにも憎めない持たざる者達(男女多数)が入り乱れる犯罪ドタバタ群像劇。昭和中期の話だが『百貨店』という現代では様変わりしてしまった商業施設がメインの舞台だけに、何とも時代がかった、ほとんど時代小説と呼んで構わない様なムーゥドに満ち満ちた作品である。
福岡の筑豊炭田廃坑を背景に、失業の余波でスリの道に追いやられた、通称 "泥棒村" の住人たち。一人更生し東京の百貨店で保安係として働いていた往時のスリ仲間が、彼等と再会し、、、 より利幅が大きく、更に良心の痛みも少なかろう仕事、すなわち百貨店での万引きビジネスを持ち掛ける。。。。というお話。 何だか呆気ない、ユーモアよりペーソスが勝(まさ)っちまったラストシーンは、人並由真さん、tider-tigerさんも仰る様に、ちょっとバランス崩してますかね。色んなものが萎んじゃったね。 といま、今でも読んでみる価値は充分ある面白本と言えましょう。 |
No.1200 | 7点 | PK- 伊坂幸太郎 | 2023/07/02 15:04 |
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蹴球W杯アジア予選、圧力を掛けられる大臣、圧力を受ける小説家、阻止すべきパンデミック、特殊能力を持つ者たち、倒れ続けるドミノ。。。。この小説は作りが独特だ。カットバックで進行する短篇×3による連作、さもなくば長篇、というだけでもない。バカ話の比率高くも不思議と濃密な物語世界。頁は少ないが大作感あり。
本作のSF的着想は果たして(小説内の)現実側に立脚するものか、幻想側なのか、割り切れないモヤモヤと拡げた風呂敷を置き去る場所は、いったい何処なのか、快く惑わせてくれた。 全体を見渡すヒントは、ふざけた会話やドタバタエピソードのオブラートに包まれ、大胆に提示されている。 「通り魔界の伊能忠敬みたいなものではないですか」 "どうしてそこで、伊能忠敬が出てくるのか私には理解できなかった。" PKだけに '外すなよ、外すなよ' と固唾を呑んで見守りもしたものだが、、私にとっては見事な結末の収まりでした。 割 り切 れない残滓も完成図の大事な一要素であろう。 |
No.1199 | 7点 | 完全なる首長竜の日- 乾緑郎 | 2023/06/24 19:49 |
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「ほら、やっぱりあれは嘘だった。●●●●●●●じゃないか。少年はそう思いました。だけど……」
予断は油断に繋がる。 不意に襲い掛かり、見せつける様に安定増幅する違和感の正体さえ懐疑の対象。 確かに、この幻想旋回には読者意識への侵食性がある。 "言いながら、私の目から大粒の涙が零れ落ち、テーブルの上にいくつもの斑点を描くのが見えた。" 自殺未遂の結果長期に渉って昏睡状態の「弟」と、"センシング" 技術の力を借りて彼と意思疎通を図ろうと試みる「姉」とを主軸に回る、ドラマチックSFサスペンス。 「だけど?」 まさかの◯◯テーマ(そしてそれに付随する・・)が実は中心に在る事を巧みに劇的に隠蔽し続けたのが、この小説の表層のような本質のような、ある大トリックの企て。 文章、構成共に良し。冒頭、主人公の故郷である南の島の描写、この質感が早々に期待を持たせてくれる。 性格破綻していそうな●●の言動に何らの裏も無かったのは、ミステリ的に多少物足りなかった。 ラストシーンは、色んな意味で、果たしてどうかな。。 しかし、さびしいぜ。。。。。。。。。。。。 |
No.1198 | 6点 | スタジアム 虹の事件簿- 青井夏海 | 2023/06/11 17:04 |
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探偵役のマダムは、亡夫からプロ野球チームオーナーを継いだものの当人は完全なる野球音痴。それでも足繁くスタジアムに通う彼女は周囲の観客から少しずつ野球のルールを学び、また野球の試合に纏わる種々のシーンをヒントに、周りの観客席から漏れ聞いた様々な「事件」への深い洞察をさり気なく披露し、時に市井のトラブル解決に寄与、時には警察の事件捜査へも協力する結果となる。
以下は連作短篇個別コメント。似たような感想ばかりなので全体一つに纏めようかと考えたが、何故か一作ずつ個包装で評したくなる不思議な愛おしさに押し切られた。 幻の虹 誘拐事件も使いよう。犯人側は意外とフィージブルかも知れないが、探偵側はかなりの無理筋。でも憎めない。 見えない虹 隠し事を秘めた文通から展開する物語。一話目でどことなくパターンが読めた気がして油断していたら、おっと、こりゃ存外ディープな真相宿してるのかも知らないぞ、ひっくり返しが果たしてどこまで続くのか興味津々。。と期待したものだが、、まさかの中途半端な肩透かし。この展開なら、途中から連城マジック的真相を夢見てしまうよなあ。。だが、主人公二人のあり様がミステリ的には捻り無く最後まで完走したのはある意味意外。恋愛小説としては小説の枠外にまだ物語が残っている。そこが美点。 破れた虹 謎1は緩い直球でミステリ性極薄。謎2は、野球の伏線こそ大いにしぼんだものの、しっかり構築された推理が魅了する(絵空事の匂いも嗅げなくはないが)。謎1と謎2がかすりもしないのは物足りない。謎1に因むまずまずの感動という置き土産が光って終了。どうも構造的にちぐはぐだが、何故にこうも許せてしまうのか。 騒々しい虹 野球の試合を観るため親に隠れたアルバイトで金を稼ぎたい少年。彼が思い掛けず巻き込まれた、バイト先での留守電脅迫事件。本作もやはり、深みのありそうな謎があっさり薄味に解決されるのはミステリとして歯がゆい。だが少年の成長物語としては意外と読ませる。少年にいろいろ教えてくれた探偵役のポジショニングか絶妙。 ダイヤモンドに掛かる虹 恋愛(?)と殺人(?)となかなか複雑でディープな相互関係をチラチラ見せつつ、またしても、この。。。ミステリとしての肩透かし感と物語としてのまずまずの深みとの、微妙に角度がずれて補完し合いきれていないもどかしさよ。。いや、そうは言ってもこの恋愛(?)物語側のミステリ的着地点は予想外に深いものがあった! 全篇を通して、パラダイス・リーグ(パ・リーグ)弱小球団「東海レインボーズ」のペナントレース奮戦記(そして親会社の・・)としても読めるよう構成されている。このパ・リーグの描写がなんとも箱庭的で、とても全国トップリーグの話と思えない筆の弱さはあるが、爽やかな感動をもたらすストーリーの力でどうにか補完出来ている、のではなかろうか。 個別書評に書いた通り、いろいろと良い素材を活かし切れない嚙み合わせの稚拙さなど目立つものの、自費出版デビュー作という事情を考慮せずとも、それらを越えて天空にやさしく輝く虹が、この連作短篇集には掛かっている。 |
No.1197 | 6点 | 動く指- アガサ・クリスティー | 2023/05/27 18:24 |
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風よ、教えてくれ。 私はこの物語で、クリスティにミスリードされていたのだろうか。。。
小さな田舎町(セントメアリミードに非ず)を混乱の渦に投げ込んだのは、連続する匿名の『誹謗中傷手紙』投函事件。やがて二人の人物が命を落とす。この町で療養中の傷痍軍人である独身青年は、同行者たる彼の妹にまで届けられた匿名の手紙 .. あなたたちは実の兄妹ではく云々なるいやらしい内容 .. をきっかけに事件解決へ向け、爽やかな恋愛模様を交えつつ、ゆるりと動き出す。。。。 ミス・マープル登場の遅いタイミングに、大らかなる旨味あり。 鮎川哲也の長篇(鬼貫や星影の登場にチキンレースの如くギリギリまで待たされがち、全てではないが)を思わせる。 大きな捻りを擁しているかの様であり、実はそうでもない?物語構造。 それも悪くない。 二周回って?意外性の枯れた?真犯人像。 だがそれもまた良し。 ロジック重視派でない私でさえ "もう少し推理が欲しい" と願ってしまう、論理の道筋の儚さ。 許します。 唐突な『冒険解決』も責めはしません。 最後の台詞、凄く良い。 日本人には?厄介な、二人のミス・バートン(Miss Burton & Miss Barton)が「主要登場人物表」に掲載される小説でもあります。 |
No.1196 | 5点 | 七日間の身代金- 岡嶋二人 | 2023/03/14 00:28 |
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ハナから違和感まみれの誘拐事件は、意外なような予想通りのような、それでも興味津々の急展開を見せ、新たな違和感が鈍痛の如くじわじわと押し寄せる。そして或る分水嶺より俄然噴き出した、不可能犯罪興味。。。。
誘拐モノと密室モノの融合へと果敢に乗り出し、だが何気に地味な展開に流れた感はあるが、密室抜け穴の逆説的趣向はなかなかの味わいだ。 真犯人特定のタイミングが微妙に早く、何気にちょっとした 残りページ のトリックめいたものが燻り薫残したような。。気はしなくもありません。 ボイラーの修理と来たな。。 探偵役男女の演っている音楽がまるで聞こえて来ないのはチョイと残念。この二人が明るいラブコメ調なのはやはり、事件背景の陰惨さ(!!)とバランス取るためでしょうかね。お陰で楽しく読める作品に仕上がっているわけです。 |
No.1195 | 6点 | 死が二人を別つまで- 鮎川哲也 | 2023/02/08 23:58 |
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昭和四十年頃の十短篇。角川文庫。
汚点 小味な偽装アリバイ崩し。まさかの◯◯ネタで雪崩れ込む真相暴露は憎めない。表題「汚点」の物理的意味合いが興味を誘う。舞台が某地方都市なのはそういったわけか。。 蹉跌 某ホームズ譚を思わす奇想背景から脅迫者の殺害へ。随分とギャフンな瑕疵(これは仕方ない..)からアリバイが崩れるが、スズメ焼きの香りが手伝ってか妙にコージーなスリルがある。 霧笛 東京へ戻る客船での連続殺人/傷害事件。容疑者の一人が書いた素人推理小説の筋書通りに事件が起きる。凝った割には何処か地味な趣向と、何気に意外な真犯人。豊富な容疑者構成を含むその枠組み故に割と分厚いミステリを期待させられるが。。 鴉 表題のカラスに纏わる雑談に挟まれた犯罪小噺。事件発生までの筋運びに奇想あり。 Nホテル・六◯六号室 ミステリ作家、鯉川哲也先生の作中作という作りを隠れ蓑に、弱過ぎるアリバイトリックをゴリ押し発表したよな小品。ドサクサついでの?後出し無理矢理設定は笑った。 伝説の漁村・雲見奇談 穏やかな旅情の果てに、虚をつく巨大物理トリックへの予感。。果たしてその結末は。。 プラスチックの塔 手掛かりの意外な展開と、犯人の機転。殺人の動機となった別箇の犯罪も上手に絡ませ、良い意味で手堅い一品。 死が二人を別つまで 表題作は流石の貫禄。他の作には見出せぬ、硬質なストーリーと逆説孕んだ分厚い反転が魅力です。老人ホームでの結婚式に始まる、或る強欲殺人の疑惑。登場人物群の有機的配置も頼もしい。タイトルは泣けますね。 晴れのち雨天 陳腐なネタは使い回し?もいいとこ。そこへわざわざ因縁ドラマを被せて来た。軽い隠喩の方を表に出したタイトルに、通例とは異なるダブルミーニングの妙味が無くはない。 赤い靴下 殺人動機に捻りあり。後出しと捩じ込みの証拠出しは無理があるが、興味は引く。◯◯◯ガスって。。本作、ミステリの大オチより前段階で中オチの様な事実が明かされるけど、ドラマとしては中オチの方がずんと重い。タイトルのへの想いが暖かくクローズアップされるエンディングは、果たして救いとなるのか。。 |
No.1194 | 6点 | 文豪ナビ 松本清張- 評論・エッセイ | 2023/01/09 19:36 |
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新潮文庫「文豪ナビ」シリーズより。
短い長篇ほどの限られた頁数の中に、ジャンル別代表作紹介、某著名作家の熱過ぎるコラム「永遠の灯台」、本人による講演「私の発想法」、映画・ドラマ評論、某有名女優インタビュー、権田萬治による評伝等、コンパクトにヴィヴィッドに構成された充実の中身は、入門者にも愛読者にもアピールする魅力を持つ。画像資料も程よく充実。良い意味で手堅い一冊。 そこのあなた、今年、清張デビューしてみませんか? |
No.1193 | 7点 | 華麗なる誘拐- 西村京太郎 | 2022/12/31 23:58 |
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人質は日本国民全員! 身代金は五千億円! 退屈と無駄の無い抜群のリーダビリティでブッ飛ばすのは、ありきたりの予想を粉砕する意外性あるストーリー。 まさか「アレ」では・・・との疑惑も少なからずよぎった。 まさかの地点でまさかのツイストも急襲。 左文字探偵夫妻登場シーンなど少しほんわかするが、決してユーモアに傾ききらない絶妙なバランス。 身代金回収法その2(その3?)にはクスクスしたが。。そこからの奇想天外な展開は、いつしかまるで寓話のように発展。 そして更に伸びる怖るべき逆説の味わい。 ただ、最終コーナーに至ってのドタバタ失速は、勿体ないぞ。。。。とわざわざケチ付けたくなるくらい、最後の最後を除いてはまっこと面白さ炸裂、疾走するエンタテインメント快作! |
No.1192 | 6点 | 陽気な容疑者たち- 天藤真 | 2022/12/26 01:09 |
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「死んだ当人となんで知恵くらべをせにゃならんのです? 一枚ならいい。二枚ならまだ辛抱します。三枚とは何です! ひとをバカにするにも程がある!」
蓋然性もぐらつく微妙な密室構成。この構成要素の面倒臭さは最早ユーモア演出のために強いて画策されたものかと思えば。。。ん!? 嫌われ者で飛び切りの変人である田舎の鉄工所老社長が、労使対立の先鋭化する只中、トーチカ風のエキセントリックな密室にて変死。容疑者多数、事件の後も何故かご陽気に宴会など開いている。 主人公はこの鉄工所清算のため東京より派遣された計理事務所の「事務員」だが、何度もしつこく「計理員さん」と呼ばれちゃうのはなかなかのユーモア醸造ポイント。 「つづけて死ぬわけがないでしょ。一ぺん死んだら、次の晩はもう死んでるわけだもの。」 でもまあ、ユーモア言うても時々仄暗いところもあり、そこがまた魅力。 労組が活躍したり、障碍者雇用の話も出るが、社会派要素は薄いか。 巡査との物侘しい、短くもやけに万感押し寄せる別れのシーンは記憶に残ります。。 "空がパッと明るくなった。西の山塊の影に沈んだ日が突然のように最後の光を放ち、満天の雲が火がついだように赤々と燃えたのである。眼下の桃谷村は一面に赤い余映を浴びて、この世の竜宮城のように輝いた。生れてから見たこともない、壮大な夕焼けだった。" 主人公と探偵役、更には犯人、おまけに証人、(実はもう一人、扇動者?)との関係性がなんとも、微妙というか、斬新、なのではなかろうか! 真相の独特なスッキリしなさ加減を、その斬新さで宥めているような気もするのです。 「……実のところ、わたしがあなたの役割に確信をもったのは、さっきあなたと会ったあの瞬間です。」 メイントリックについては、ア●●のアレとアレの要素をうまいことリンゴ味オブラートで包み込んだような。。あと古典密室のアレとか。。何気に「●●続」にも通ずるアレトリックも無いとは言えませんな。。 |
No.1191 | 6点 | 鑢- フィリップ・マクドナルド | 2022/12/10 23:00 |
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時の財務大臣が自宅にて殺害さる。 適量のユーモアに支えられ物語のステディな滑り出しは心地良し。 序盤から手早く違和感摘出だの推理だのを繰り出して来る、退屈排除の頼もしさ。
人間臭い恋愛要素、三つの内二つはちょっと煩いかな、とも見えたが。。 物語〆の台詞はなかなか粋だ。 さて大きく構えた真相解明演説。犯行現場偽造の機微、アリバイ潜在意識の妙味など良し。●●●解決の熱さも効いた! 心理的物理アリバイトリックは、シンプルなのは良いが、ちょいとギャフンかも。。肝腎の「鑢」を巡っての考察は、もう一押し欲しかったかね。 英国上流階級を舞台に、本格ミステリ黄金時代、フェアプレイを重んじる長篇推理黎明期の作品です。 |
No.1190 | 5点 | 推理小説の整理学〈外国編 ゾクゾクする世界の名作・傑作探し〉- 評論・エッセイ | 2022/11/21 23:41 |
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分かりやすくサブジャンル毎に整理して語ってはいるものの、「分類学」なんて大仰に構えないで、ぐっと個人的嗜好に寄り添った「整理学」の方角を向いているのが本書の美点か。
古い本ですが初読。個人的に、本格に関してはそれなりに読んだ後の復習用、それ以外のジャンルでそれなりに未読の多いトコについては予習用として、それなりに愉しく読みました。 少しばかりゴチャついた構成も魅力。 軽いエッセー乱打に、深みも覗えるジャンル考察(特にスパイ小説と短篇集)。 <サスペンス小説・犯罪小説>の筆頭に『嵐が丘』を置いているのは熱い。 |
No.1189 | 7点 | 秋の花- 北村薫 | 2022/11/13 20:48 |
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たった五文字、最後の「台詞」の沁み渡り具合、これに尽きる。。。。
文芸の薫り芬々の言葉選び、比喩、洞察やら煩悶、テーマ性で濃厚に濃密に埋め尽くされた、或る女子高生(主人公の後輩)の死の謎に向かう物語は、挙句いっけん手触りの合わないスーパーな探偵役により、シンプルな真相を呆気なく暴露される。ただ、真相に意外性は意外とあった。そしてその後、ラストシーンへと一歩一歩踏みしめながら至る、万感の生成り色の想いは、光り輝く浄化の真髄を見せてくれる。 教科書落書きのトリック?は、決して取って付けなわけでなく、優しい賑やかしのようなものか。読後振り返れば、これもやはりかけがえの無い癒しのパッチとなっていた。 |
No.1188 | 5点 | 葬送行進曲- 鮎川哲也 | 2022/11/05 14:15 |
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毎篇「読者への挑戦」が挟まれる事もあり、一見小味な推理クイズ風だが、小説としての中身もそこそこ詰まっており、そこそこ意外な結末もあり、無味乾燥に堕ちてはいない。 「失策倒叙」モノが目立つが、フーダニットやホワットダニットも混じる。 しかしいちばん面白いのは、「読者への挑戦」の(いい感じに肩の力抜けた)トボけたヴァリエーション加減かも知れません。
葬送行進曲/尾行/ポルノ作家殺人事件/詩人の死/赤は死の色/ドン・ホァンの死/死人を起す/新赤髪(あかげ)連盟 (集英社文庫) |
No.1187 | 6点 | 御手洗潔のメロディ- 島田荘司 | 2022/10/31 13:38 |
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IgE
バカロジック、バカ真相に唐突な科学社会派演説。ちょっとセコいトコもあるけど、まぁ悪かない。 SIVAD SELIM 石岡が思いっきりふさぎ込んだ後、最後、一気に飛翔する美しい音楽ファンタジー。タイトルの分かり易さは、わざとですね。 ボストン幽霊絵画事件 逆トリック?からの家族の悲劇×心理的物理トリック? 小味な展開からドラマチックな結末へ。哀しみに化けたユーモアと、最初っから哀しいユーモア発露の掛け合わせ。 さらば遠い輝き レッツゴー近況報告。レオナが女性受けするようになった契機の作とか。そうであろうよ。ほんの微かでいいから、ミステリ要素の薫りが欲しかったかな。 ミステリ/非ミステリにこだわらない事にこだわった、というわけでなく、いい意味の寄せ集めでこうなった、という経緯の短篇集のようですね。 結果、ファンブックのような一冊に。 |
No.1186 | 4点 | ある疑惑- 佐賀潜 | 2022/10/26 00:56 |
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最終章「意外な犯人」ってのが・・色んな意味で笑わせてくれるのですが・・斬れ味勝負の短篇みたいな表題『ある疑惑』もなあ、思わせぶりなんだか何なんだか。
都内の小学校を舞台に、教組のストライキ賛成派反対派、PTAの無関心、文部省との闘争、そこへ、時に美しい、時に醜い男女関係が絡み、やがて傷害と殺人の連続事件発生!! 本格ミステリ興味は厚くないです。サスペンスはそこそこ熱い(かな?)。しかし結末前に大っぴらなヒントを晒すのは、いかがなものか。おかげで最終コースのスリルは大きく損なわれたな。でもまあ、主役準主役級の人間はよく描けていましたかね、特に男子がね。碁を打つシーン、何気に良し。 さて私は、本書のジャンルを「社会派」とさせていただきましたが。。 |
No.1185 | 6点 | 兇悪の浜- ロス・マクドナルド | 2022/10/14 13:04 |
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「それは彼女に限ったことじゃないよ」
「それ、わたしへの皮肉?」 いかにもHBな錯綜ストーリーの末に明かされたのは、もしかしたら、無意識に(?)変容された「家族の悲劇」なのかも。 何気に意外性ある真犯人/真相でした。 ハリウッドの風がまるで吹いてないけど、これ以上話をややこしく蛇行させないのが正解かも知れません。 でもって、犯罪動機構成のキッツ過ぎる灰褐色の深淵が、本作の主役でしょうか。 ”マチスの絵の複製の前に来ると、急にはげしいノスタルジーを感じた。平静で秩序ある世界、生命を奪ったり奪われたりすることのない世界へのノスタルジーだ。だが、それは、永遠に沈まぬ太陽と同じく、瞼の中にしか存在しない。” |
No.1184 | 5点 | 禁断の魔術- 東野圭吾 | 2022/09/30 06:24 |
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【長篇の方です】 オープニングから多方面へ散らばるカットバックで興味津々。ところが呆気なくストーリーは収束し、犯人捜しミステリとチラリズム犯罪小説?の併走めいた体で結末まで真っしぐら。このさり気ない構造の持つ読者牽引力はなかなかだが、うむ、全体的に、謎も人間ドラマもプチ社会派要素も浅く見えて、ズブとはハマれなかったな。それでも最後の見せ場、湯川の取った大胆な行動は爪痕残した。最高に泣かせる野球ジョークも光った。エピローグ、その大胆な行動について意見が分かれるくだり、ここの内容がいちばん分厚いかな。或る人物のとあるホワイダニット(犯罪にあらず)、最高に熱いタイミングで明かされた。 |
No.1183 | 6点 | 船から消えた男- F・W・クロフツ | 2022/09/25 00:58 |
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夢の ”ガソリン不活性化” に関する(巨大なマネーを産み出すのは間違いない)画期的発見をした化学者二人組が、実用化(≒企業への売り込み)へ向けた研究継続に必要なキャッシュの出所を接点に、婚約中の男女、および女性の親戚に当たる資産家とタッグを組み、研究も実を結びいよいよ大金を当て込んだ売り込みに乗り出したその時・・・アイルランド海を挟んだ或る重大事件に巻き込まれて行く様をクールに、恋愛模様を綺麗に交え描いた好篇。
物語の転機となった或る “隠し事” の機微がミステリとしてどう機能して来るのか、その展望に興味津々。 捜査する側とされる側、その故意混じりのすれ違いを打ち出す趣向が面白い。 中盤から犯罪小説的展開を内蔵し出すのも実に熱い。 裁判シーン、それ自体のスリルもまずまずながら、物語のポイントを整理するのに良し。 結末は若干もやもや。これだけのページ数を掛けた割には小ぢんまりと真相暴露されたもんですが、 ”シャープペンシル” の一件で持たせたひとくさりはそれなりのスリル有り。 ミスディレクションで引っ張ったアリバイトリックは小味ながら堅調。 まさか “あの人” が真犯人では?? なんて方向にちょっと引っ張られもしましたよ。 フレンチの、事件に対する付かず離れず(?)のスタンスも面白い。 爽やか過ぎるエンドは本作のある意味小さくまとまった感とよく調和している。 見せ場を絞った北アイルランド旅情も程良し。 そうそう、肝心な事を敢えてオープンにして終わらせたのも、本作に一種の深みをくれていると思います。 |
No.1182 | 6点 | ある朝 海に- 西村京太郎 | 2022/09/17 12:14 |
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表題が、加山雄三の哀感ほとばしる名曲「ある日渚に」を思わせる、京太郎さん海洋期の意欲作(意欲は買いたい)。
英国から米国へ、大西洋を渡る豪華客船がシージャックされた。若く多国籍な犯人グループの要求は、南ア黒人の解放に向け、国連が実効ある手を(今度こそ本気で)打つこと。 いっけん地味な犯罪小説 with本格もどき&社会派もどき要素、のようであるものの、最後には『困難千万な或る事』を実行するための、グイッとえぐって来る大トリックが明かされる。これに魅惑されるかどうかが評価の別れ目でしょうか。 ただ、その折角の大トリックさえ可惜あっさり提示されるもんだから、ちょっとなかなか。 “南アの黒人達が一般的に無気力” という冒頭の描写が何気なミスディレクションになってもいましょう。でもそこすら地味にポッと弾けてミステリ的には終わりなような。もったいないな。 なーんだか、京太郎さんの優しさが優しさだけで完結しちゃったのかな、ミステリの要素として働いてなさ過ぎのような感じを受けました。 最後、強烈にしみじみさせて終わってくれたらまた違ったろうが、踏み込みの浅い社会派アクセサリーを付けて終わり、なんて言ったら厳し過ぎ寂し過ぎでしょうか。 海洋京太郎でも「赤い帆船」や「消えたタンカー」のようにめくるめく謎とプロットとトリックとサスペンスの圧に翻弄される黄金長篇に比べたら随分と薄味なもん、けどやっぱ、面白いんですよね、四捨五入で6点に届くと思う。5.7くらい。 冒険小説的にとても魅力的な人物が軸として登場するのは、好感度高い。 頻出する “コムミュニスト” の表記には面喰らいました。 |