皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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斎藤警部さん |
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| 平均点: 6.69点 | 書評数: 1409件 |
| No.529 | 7点 | 雲なす証言- ドロシー・L・セイヤーズ | 2016/04/20 02:33 |
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| 話も最終ラウンド法廷シーンに至り、味方どうしの不思議な証言合戦に目を瞠る。捕われの兄の証拠提示をぶっつぶそうとする弟(ピーター卿)の意図は何?
『実は○○でした』だけの結末だったら苦笑で終わろうが、何故○○とは見えない(××と見える)状況に導くような証言群がもたらされたのか、という経緯の複雑さが面白くてね、どことなくカー「三つの棺」の真相をもうちょっとシンプルと言うか工程少な目にしたような、いや事件は全く異なるモンなんですけどね、そんなものにちょぃと近いフレイヴァを感じてしまいましたよ。 ゆるやかに歩み出すようで序盤より無駄口を排し、無駄口とは似て非なる拡がり豊かなユーモアと論理遊戯のみを披瀝するスタイル(解説にもあったが彼女のコピーライター経験が活きているのかも)でいつの間にか古風でロマンティックな物語が展開。 しばぁらく積読してた本なんだけど、読前はなんだか退屈そうな気がしてね、ちょっとヘヴィな別の本(非小説)読む時の、上質な退屈が取り柄のチェイサーっぽくやってやろうと思ったんだが、読み始めたらこれがアナタ、面白くてねえ、すっかりこっちがメインになってしまったのですよ。 『橋と壜』のグレッグ・スミスって主人が気になる(実は『橋と壜』は聞き間違い)。 「広場のあんだらほう」も何だか。。 あとその、ピーター卿だか誰だったか口ずさんでたバッハの複雑な一節ってのが何の曲のどの部分なのか、気になるわァ〜 |
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| No.528 | 6点 | 歪んだ朝- 西村京太郎 | 2016/04/19 01:08 |
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| 第一長篇「四つの終止符」より更に前、最初期の隠れた名短篇である表題作は、社会的テーマをミステリ興味そのもので染め上げており秀逸。叙情性が強く、それなりの文学的感慨もある。
歪んだ朝/黒の記憶/蘇える過去/夜の密戯/優しい脅迫者 (角川文庫) 表題(作)のインパクトの割にバラけた雰囲気の統一感無き作品集だが、悪くはない。 ドタバタサスペンスからちょっと感動の終結に至る「優しい脅迫者」は(締まりが甘く、さほど出来が良いとは言えないが何故か)忘れ難き味わい。 読ませるデビュー作「黒の記憶」が収められているのも特筆事項。 |
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| No.527 | 7点 | 遭難者- 折原一 | 2016/04/18 12:26 |
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| 【敢えてネタバレをはさみつつ】
登山登録、各種届、捜索記録、哀しみの手記、告別式次第 等々。。 凝りに凝った構成(オリジナルハードカバーでは製本意匠にまで及ぶ)は叙述の罠に非ずして、物語に奥行きを与えるための温情ある一種賑やかしのギミックだった。。従って山岳ミステリそのものに興味薄い人にとっては最後にガックリ来るのも致し方無し。 自分も、お山のお話が好きだからこそ、このまさかの逆反転(!)に感慨(逆感慨?)もあったし山岳ならではのサスペンスやミステリ興味に引き摺られて7点も献上したものの、そうでなかったら「ぬるい結末だなぁ~、でも途中まぁまぁだったから」と5点も行きゃいい所だったことでしょう。 某氏こそ怪しいんじゃないか、名前からして。。 などと目星を付けつつ読者目線の捜索は進行。中途より「探偵役」「引き継いで第二の探偵役」と見える人物による叙述群が不穏な雲行きを告げるが。。 ラストシーン近くの「聞いてくれたかしら」には明るい気持ちで泣けました。本当に、こだまのように繰り返し泣けたなあ。。勢いで参考資料のページまで泣けて来るよ。一々の叙述ギミック(言葉を換えて繰り返すがトリックではない)が感動のラストシーンに収斂してくれて本当に嬉しい。 一君にありがちなしゃらくさい叙述引っ掛けとは一線を画する渋い作品でもあるし、ぜひ山好きの老い先短い父に読ませたい所。文庫解説を、山と渓谷誌元編集長神長幹雄氏が書いてらっしゃるのがまた泣かせる。彼がミステリに相当の理解と洞察を見せてくださったのも最高だ。 また繰り返しっぽくなっちゃうけど、前述の”凝りに凝った構成”に絡まってもしや/まさかと思った性別錯誤云々。。が全くの読者勇み足だったのは。。そりゃあ構わないが、そこだけでなく全くヒネリの無いナニだったのは。。ま個人的には結末良しで全て良いんだけど、またまた繰り返しになりますが、叙述トリックに引っ掛かって愉しみたい人で、且つ山岳ミステリに興味の無い人(私の場合は前者にのみ該当なのでセーフ)には薦められません。本サイトでの低評価(私が採点する直前で平均3.33点!)にも不思議は無し。 |
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| No.526 | 10点 | ブラウン神父の童心- G・K・チェスタトン | 2016/04/13 01:13 |
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| シャーロック・ホームズをビートルズに喩えるとすると
ブラウン神父を喩えるべきはボブ・ディランではないか。 前者は熱狂的ファンが世界中に凄まじい人数いる。 後者は熱狂的ファンの数は限られるかも知れないが 仮に本人が意識していなくとも 根本的なところで影響を受けてしまっているミステリー作家/ロックアーティストの割合が 前者とは比較にならないくらい高いのではないか。 という事に、あるとき思い当りました。 さて、本短篇集、文章の襞と言う襞にミステリの三大栄養素(それは何だ!?)や各種ビタミンやミネラルがびっちりと詰まっています。「ブラウン神父」が「黒死舘」より遥かに多くの新たな推理小説をインスパイアして産み出した事に、流石の乱歩さんも異論ありませんよね? 形の上では新教側、しかし実態は旧教にほど近いイングランド国教会が支配的なかの国での緩やかなマイノリティとして生きるカトリックの神父さん。このスタートラインの立ち位置からして、ただ単に物事を逆さまにするのではない、奥深い逆説言論の濃縮ジュースが今にも噴出しそうで、むずむずして来るではありませんか。 我が旧約聖書。。 ←いい加減なイメージですみません |
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| No.525 | 10点 | 白夜行- 東野圭吾 | 2016/04/12 05:50 |
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| こないにオモロい小説、無いで。。。。。。。。 ジョーが燃え尽き飛雄馬は去るも清張新作まだまだ出る、既に第四次の中東戦争、ジャイアンツ九連覇も長嶋不振、そないな時代、皆の心に何かが起こる予感ですって。。準主役級、重要脇役群多数登場し丁寧に印象深く書き分けられるが、主役の二人だけ一切の直接心理描写を棄てた徹底ハードボイルド文体で描かれる為まるで奥行きある切り絵細工の様に明らかに他から浮かび上がって(時に奥まって)見える、彼らが何を話し合い、お互いをどう思っているのか、一切触れられず。。 苦笑を噛み殺す、か。。泣き声を受け「0から9に変更」やて。。! 桐原はなかなか面白い奴だ、圭吾さんはこういうのが好きなんだろうね、なんて序盤は呑気に構えていたもの。。 主要登場人物(のベアまたは三人以上)が次々に入れ替わるエピソード繋ぎのタペストリーはよく出来たDJセットにも通じる小気味良さだ(元々は連作短篇集だってんだから!)。気付かないうちミステリの毒素にじわじわやられて行く仕組みだナ。 悪知恵実行はピカイチでもいざと言う対人振る舞いは最低のバカが登場、まさかそれすらも故意なのか。。 読後、いや読了ちょぃ前から目に入るもの九割方がこの物語のアナロジーと映って仕方無かった。大阪の刑事が東京風煮込みのうまさを認めるシーン、沁みたねえ。お次は納豆の天ぷらと来た!山手線田町駅近くの大阪風串揚げ屋でも納豆包み串揚げやっとったな。ぐいっと来た台詞「私は誰の敵でもありませんよ。」
セブンイレブン日本上陸一号店、ゲームプログラムにも著作権が必要や、聖子ちゃんカット似おぅとるよ、阪神優勝の年の大阪の物語、バブルか。。 終盤に至るにつれ 時の流れが等比級数ばりに加速しやがる(この長さの小説でやられるとエネルギーの大きさも甚大だ、クソ!)。昔の事件捜査経緯をつらつら語るセミ半七捕物趣向の部分もまた良し。。そして終結部(と言っても全体が長いだけに長い!)で濃縮あらわに本格推理海域へと舵を切る。サムシングってやつがキラキラだ。。これは東野圭吾が松本清張の域に突入した作品ではないのか。「砂のなんとか」を彷彿とさせられずにいらりょうか?だが清張の裏を張って(いや、これは書かないでおこう)。残りページがか細くなっても結末予想が全く落ち着かないこの泡立ち感こそ清張マナーへのオマージュそのものか?そのくせ行方知れずの嫌な予感ドミノ倒しは一部の隙も無いんだぜ?最終ラウンドで初めて顔を見せたまさかのチョイ役がやっぱり、まさかの鍵を握る動きを見せるのか!?あまりにも意外な人物って誰や誰や!!これぁもはや、体感的に大河ドラマやないかーーー(墜落) 悲劇ながらもあっさり済ませたラストはね、いかにも「小説は終わっても登場人物の生活は終わらない(死んだ者を除いて)」という大事なことに意識を向かせるかの様でね、良いと思いますよ。推理クイズもどきの消失トリックを挿んで来るのさえ、哀しい結末と相俟って絶妙な道具遣いになっているしね。 雪穂さん、これからが本番やね。 |
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| No.524 | 6点 | 結晶世界- J・G・バラード | 2016/04/12 03:15 |
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| 隠喩の鬼やで。。。。。。
この「重大事」への過渡期の蠱惑的光景は何を目的に延々と書かれたろう?(文章は短いが読むのに時間が掛かる) 例えば日本がこれから速やかに徴兵システム(皆兵ではなく狙い撃ち制?)へ移行するとしたら、やはりその過渡期だけはこれほどまでに観察する人をじっとりと魅惑し麻痺させてしまうのだろうか? そういうことの隠喩にこの物語を引くべきだろうか? 「三つの三角関係」という構図は結晶構造にとって数学的意味を持つか? 幾何学的仄めかしの数々。。「小数点以下第何位と決断と」の看過し切れない関係。「最後の」という言葉が象徴性を匂わせ幾度も使われる物語終盤。。露天商が商売上がったりになった理由。。! そしてこの不思議な別れのラストシーンだ。 たとえば「白夜行」の主役ふたりはこの本を読んでいただろうか。 そういやこの話には「生きる屍の死」を思わせる流れが少し有るが、「死」の意味は違う。。(と言い切れるだろうか) ああ、この物語の奥の深さは、岸田今日子さんにライヴ朗読でもしていただかない限り真髄の理解が難しい作品ということなのかも知れません。個人的に読中面白さに夢中になる類ではないが、読了後一気にずしりと載って来られる作品。忘れられないね。 再読はしたくない。映画を観たい。 |
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| No.523 | 5点 | 水晶の栓- モーリス・ルブラン | 2016/03/31 23:56 |
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| 大袈裟に煽るばかりで手に汗は握らないが、敵役どぶろっく、いやドーブレック氏独特の不気味な存在感に引っ張られるサスペンス小説。
例の隠し場所は。。。。 如何にも時代小説がかった(?)場所で別段驚きゃしないんだけど。。 これ実際に目の前で「そこ」から出されたら驚くだろうなあ。 |
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| No.522 | 6点 | ルパンの告白- モーリス・ルブラン | 2016/03/30 12:30 |
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| ジュヴナイルでちょこちょこ読んでたかも知れないが。。 具体的な記憶には無い。 高校ん頃だったか、あらためて創元推理文庫を読んだ時の印象が強い。その印象とは。。ホームズ短篇の面白どころを一通り読み直した後で 「おお、ルパンがホームズみたいな事やってる!」 的な、いい意味でホームズ短篇の質の良い代用品のような。宇多田ヒカルがなかなか新曲出さなかった隙を突いた倉木麻衣のような、サム・クック亡き後のオヴェイションズの様な。まあ流石にホの字さん初期の様なワン&オンリー力は無いけど、詰まらなかったりガッカリさせられたりはしない。やはり、ホの字もそうだが結末のみならず(冒頭はもちろん)途中の色んなところに意外性ってやつがチャキチャキ登場するのが良い(緩い意外性も多いが)。 ロックスター的派手派手しい大個性の探偵役が細切れな事件解決に勤しむ短篇集ってのも乙なもの。 あまり高得点はあげられないけどね、ごめん。 | |||
| No.521 | 7点 | 少女- 湊かなえ | 2016/03/29 12:09 |
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| こういうのは無理にミステリと決め付けず行くのがいいよ ふふ〜ん えっ?! って騙されるからね。
キーワードの「因果応報」が似合うもの、とてもそうは言えない理不尽なもの、直接間接、意識無意識、正気狂気(?)、いくつもの痛め付け合いが躍動するストーリーはミステリ枠だからこそゆったり愉しめる暗黒世界。湊さんという人、シャーリー・ジャクスンの嫌嫌煉獄をより強力な(本格めいた)ミステリ興味で糖衣コーティングして、甘く(ミステリっぽく)したぶん嫌ァぁ~な毒性も丁度いいぎりぎりまで上げておきましたよ、いいですね患者さん? みたいな感じがしますよ。それにしても読みやすい。自由律短歌のの分かり易い連なりをすらーっと流され読みする様に高速熟読してしまいました。 【ここよりネタバレの要素芬々】 物語のほぼ中間地点で二手に別れたストーリーが早くも合流してしまうのはオッと思いました。Vでなく、ましてⅡでもなくYの形で行くのね(まさかのXではなかろうな)。。と単純に捉えて済むものでもありませんが。 主人公たる二人(+もう一人?)の少女たちの性格等書き分けが明瞭で無いため、交互に一人称で来られても混乱しがちなのは故意なのか恋なのか。。まるで誰かと誰か(と誰か?)が実は同一人物では?? と無意識に疑わせてるみたいじゃないか。。物語の中にちょっとした入れ替わり趣向があったり、誰と誰が同じ人(及び、何かと何かが同じもの)と明言したり仄めかしたり、そのへんとの合わせ技なのかしら。。 ま、かなり最後の最後まで「あれ、紫織って子の役どころは?登場人物のバランス悪くない??」って不思議に思っちゃってましたからね、やっぱりしっかり騙されたってわけですね。面白いですよ、この人の本。 ちょっと分かりにくいかなって思うのはね、あの親子の「その後」ごく短い間がどうだったかってのと、あの教師が何故「盗作」したのか、っての、この二点についての説明と言うか納得させが生煮えなんじゃないか、ってね。 さほど気にはならないけどさ。 |
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| No.520 | 4点 | 誰がロビンズ一家を殺したか?- トマス・チャステイン | 2016/03/28 13:14 |
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| 複雑で難易度高いのはいいけれど、これを当てっこ懸賞でやられても何が何だか五里霧中で萎えること萎えること。もっとチラリズムというか真相(少なくとも真犯人)見えそで見えない際どい所で読者に挑んでくれたらなあ。でもそれだと「正解者の中から抽選で50名様に魚肉ソーセージ半年分プレゼント」みたいになっちゃうからダメだったのか。私もボナンザさんに同じく、今となってはやはり正解篇付きの文庫本が欲しい所ですね。
んで問題文がやっぱり普通の推理小説じゃなくて、長~~い推理クイズ(アメリカによくある「話の長い推理クイズ(ゲーム?)本」の極端なやつみたいな)的風情なのが、単に小説に懸賞付けたのとは違うってのをはっきりさせてていいんだけど、そのやり方がどうも何かしらうざったい。どうせカタルシスもセンスオヴワンダーも無い、ややこしいだけの真相なんじゃないの? って思っちゃってね。 |
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| No.519 | 6点 | その子を殺すな- ノエル・カレフ | 2016/03/28 11:25 |
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| マドンナ・ウナボンバ(いけねえ、爆弾だ)!
ちょいとドタバタなタイムリミット・サスペンス。敵方ギャングを抹殺する為の爆弾を仕掛けたサッカーボールが『運び屋の失態(Échec au porteur ←仏語原題)』により、或る少年が別れた父親(少年は離婚と知らない)からプレゼントされたばかりの大切なボールと入れ替わった!!厄介な事に二つとも同型の新品だ!行く手にはもどかしいすれ違いがいっぱいだ!!四つ昔前のコード型スリラーなのかこれは!?!? 半ばより警察小説の色合いがせっかちながらも濃厚に参戦! 親子の愛情や男の友情物語が無骨ながらも細やかに。造形豊かなちょい役共もよく動き喋り、考えを巡らし勘違いをし、魅力たっぷりだ。。主人公は入れ替わる。だから誰なんだそのスタンって黒幕(?)はよ!? 「自動車競走選手」「片輪者」「キャマンベール(チーズの名)」「ちんばを引く」等々、古きを懐かしむには良い翻訳語もちらほら(新訳は出てるんでしたっけ?)。サッカー攻撃陣のインナーってのはトップ下の事か? 或るおかみさん曰く「(亭主は)あれでもアナーキストだったんですよ」って。。ジョークなのか違うのか気になる台詞。 警官が、恋人の安否を憂うジャクリーヌの耳にいきなり受話器を当てがうシーンも印象深い。 悪ガキがパトカーに乗って夜間のパリ市内を突っ切って行くシーンは本当に楽しそうだ!それも車中じゃ電話による父親の証人訊問が進行中! イチロー主演の古畑任三郎ワンシーンを思わせる病院の場面もあった。 誰やねんジュリアンて。レノンの息子か? 最初からネタバレされてる爆弾ドカンの条件は。。時間でも無けりゃ、高度ならぬ、温度か!そこだけ取りゃ大味な推理クイズのネタにもならあな。しかし結末は。。ブラウン神父の逆説力はスリラー乃至サスペンス方面にも多大なる影響の手を。。ってか? この結末も充分推理クイズっぽいんだけどさ。 物語は本田翼のショートヘアの様にバッサリ終わった。 予想外に不幸な死人も何人が出た。 さようなら、楽しかったよ。 ところで古い創元推理文庫のカバー(白帯+パラフィンの上に紙カバーという過渡期の二重装丁は初見)、日下弘さんのイラスト、仏語/英語で言うfootball(サッカー)じゃなくて米語のfootball(アメフト)の楕円ボールになってますよ!! |
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| No.518 | 6点 | クロフツ短編集1- F・W・クロフツ | 2016/03/25 02:12 |
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| 抒情と言ったら大げさ、薄っすら漂う雰囲気が魅力的。そこに倒叙ミステリクイズ的タイムリミット感に後押しされたスリルが噛み合い、通常の短篇集には見られない密かな愉しみを撒き散らす。言ってみりゃきれいな推理クイズ本。シムノン「13の秘密」に通ずる良さがあります。原題’Many a Slip(失敗いっぱい)’なる本国英国での企画短篇集。
床板上の殺人 /上げ潮 /自署 /シャンピニオン・パイ /スーツケース /薬壜 /写真 /ウォータールー、八時十二分発 /冷たい急流 /人道橋 /四時のお茶 /新式セメント /最上階 /フロントガラスこわし /山上の岩 /かくれた目撃者 /ブーメラン /アスピリン /ビング兄弟 /かもめ岩 /無人塔 (創元推理文庫) 真相が明かされてみれば本当にちょっとした、常識の延長の様な解決の話が目立つが、そんな日常感さえ愛おしく味わえる対象になっているのはやはり作者の誠実にして端正な筆運びに依るもの。わたしは最後の二篇「かもめ岩」「無人塔」がその犯罪舞台のうら寂しい仄暗い口数の少ないムードも手伝ってか、特に印象深い。そんな二篇で〆るのがいい。 こういう本こそ何度も読み返しちゃうんだよな。。 |
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| No.517 | 7点 | 閉鎖病棟- 帚木蓬生 | 2016/03/23 10:23 |
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ミステリの ミの字を見せて 他は棄てり 冒頭に悲劇的エピソードを三章。それぞれ時代も異なり、いかにも物語の長い道程の何処かでミステリ的収束を見せそうな期待が煽られる。 と思えば何よこの、序盤でいきなり重たい伏線これ見よがしの起き去り! まさか、瞬殺で回収されるとか。違った。では脚の長い伏線で人生劇場を演出ってわけなのか。。? 四章からは精神科病棟の賑やかな日常と時折の非日常の描写が、それまでの三章との断絶も無く淡々と始まる。 この文章が凄くいいわけだ。 冒頭エピソードに登場した人達もそうでない人達も様々な角度で交差し合い助け合いながら今日を生き、時には明日を見つめ、過去を思うこともある。 殺人は いつになったら 起こるやら 病棟内、最初に出て来るドウさんとチュウさんはベトナム人の名前かと思ったよ。ストさん、サナエちゃん、お辞儀婆さん、ちょっと怖いダビンチ、医師くずれのハカセ、昭八ちゃんと甥の敬吾さん、嗚呼秀丸さん、嗚呼クロちゃん。。外来の島崎さんはまだ少女。新しい担当医は前任の嫌な男と違って話の分かる素敵な女医さん。婦長も意外にいい奴。一人だけ大悪役のヤクザにさえ最期に作者はこっそり優しさを注入。萩病棟のジンちゃんてのはまさか元ピンクルのジンちゃんじゃないかと心配したもんだ。 他にもいっぱい、記憶に残る魅力的な人間たちに出遭いましたよ。 サスペンスなど 時には野暮さと 周五郎 (字余り) 物語の舞台は実のところ「開放病棟」でありながら表題は「閉鎖病棟」。この齟齬には何らかの隠喩が込められていますね、きっと。 (開放より閉鎖の方が題名インパクトがあって売れそう、というのも一つにありましょうが) 結末や あゝ結末や 始まりや 西内まりや 竹内まりや TBS社員を辞めて医者になって後に兼業作家になったという不思議に贅沢な履歴を持つこの人の作品、まだホンの少ししか読んでいませんが、書評等から察するに、ミステリ視線で見た場合、それぞれの作品でどれくらいミステリ度合い、サスペンス度合い等が強いか、実際に読んでみないと分からない(書評だけでは分からない、読者によって感じ方、捉え方がかなり違う)というタイプの作家さんの様な気がします。 ミステリの つもりで読んで 悔い無し (字足らず) |
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| No.516 | 6点 | 動機と機会- 土屋隆夫 | 2016/03/18 02:43 |
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| 動機と機会 /ゆがんだ絵 /午前十時の女 /寒い夫婦 /地獄から来た天使 /天国問答
(天山文庫) 一見かっちりしたコンセプトに基づく企画短篇集らしきタイトルを持つ本書ですが、決してそういうわけではありません、がそんな事にお構いなく流石に面白い信頼の土屋印文芸ミステリ短篇集です(ちょっと軽め)。ま、傑作撰とまでは言えませんがね、それなりに 高いレベルで それなりに。 |
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| No.515 | 6点 | 九十九点の犯罪 あなたも探偵士になれる- 土屋隆夫 | 2016/03/18 01:45 |
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| 夫か妻か /開いて、跳んだ /九十九点の犯罪 /見えない手 /民主主義殺人事件 /わがままな死体 /Xの被害者
(光文社文庫) 土屋氏らしい陰影は匂えど、比較的軽いショートミステリー集。中でも質の良い推理クイズの様な趣きが愉しい表題作「九十九点の犯罪」と「Xの被害者」がやけに印象的、文学と推理クイズの融合とでも言いましょうか。社会派近代史ミステリ「民主主義殺人事件」のラストで犯人が漏らす一言も忘れ難し。 統一性に乏しい寄せ集めみたいな一冊だが、それぞれの作が明暗はあれど輝いている。傑作撰とまでは行きませんがね。 |
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| No.514 | 7点 | 五番目のコード- D・M・ディヴァイン | 2016/03/17 14:00 |
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| 表を見れば、何だか妙に古のソウルシンガーっぽい名前の登場人物がいっぱい、中でも ダンカン・エドワーズってのは唄えそうだなあ(ってか本作発表('67)十年近く前に多くの犠牲者を出したチャーター飛行機事故、ミュンヘンの悲劇、で亡くなった早熟のマンUキャプテンと同名だ!)と思ったら最後にまさかのレナード・コーエン警部!!(同名カナダ人歌手の方は本作発表翌年に音盤デビュー)と思うと第一の(名付きの)登場人物が登場人物表ではチョイ役みたいなとこに記載の人か、何だこれ!?さてその次に登場するは表にさえ登場しないカートライト夫人とな!おいおい俺たちキャンディキャンディ世代にとっちゃカートライトと言えば大地主カートライトさんだぜ!?ひげづらだぜ!?キャンディに庭師と間違われるんだぜ!?超チョィ役おやじ(たしか名前しか出ない)でエンジェルツリーさんだと!?!?俺の心の中の架空の人物エンジェル・フィツパトリック・ピュアハートさん(アイルランドの町役場で働く独身中年おやじ)を思い出すじゃないか!!
要するに、この小説めっちゃオモロそう! ツカミのプロだね、プロキャッチャー! しかし この登場人物混乱させっぷりこそ、初めてのバック宙的キラメキの叙述革命、に寄与する基礎固めの何らかではあり得ぬか!? 違うかなぁ。。おっと序盤からいきなり来たよ、ナニが。いや序盤と呼ぶには微妙に遅い、のがニクいんだよ、めちゃめっちゃ光ってる伏線、たーまんねーなー。 少し読み進んで、この登場人物表(決して少なくはないが)の中に本当に八人もの哀れな犠牲者が押し込まれているのかとふと疑問、ぁ違うか、題名通り五人で終わるのかな? 未遂で終わった最初の被害者がもっかいやられて今度は死んじゃう、とかって事は無いのか? 途中、急に、連続のはずの殺人が割と途絶えるんだよな。。 警察小説ならぬ記者小説(新聞社小説)らしい鮮やかな属性の縁取りもうっすらと快適に。登場人物表に出て来ない夥しい人数の魅力的な各新聞社、学校関係者も動くこと動くこと。 さて結末は。。 あああー そういうことね、ァんだょ正統派じゃねえか って(笑) つまり 軽~ぃ叙述トリックがあったってわけかぃ。。 微かにクリスティを思わす小さな企画のポイントがあるよね、ふふん、まちょっと尻すぼみなトコはあるけど、愉しく緊張途切れず読んだからな、いいんじゃないか? ロジッカーでないおいらでさえ「もうちょっとロジックで追い詰めたらどぅよ?」って思っちゃった節もあるけど、まあいいさ。 主人公が前の職場を去った理由、背景は最後まで仔細語られずかよ、シリーズものでもないのに。。 主人公の人物造形は。。まあ普通かしら。それこそ一皮剝いたら結構アクの強かった「ダンカン・エドワーズ」をもっとヒつこく描写して欲しかったね。そして 今季はマンUでもリヴァプールでもない、まかさのレスターが首位独走中だ。。。 未来はどうあれ、その時点ではハッピーな物語のエンディング。やはりレナード・コーエンの「ハレルヤ」(‘84)を心の中でしみじみ唄って〆だ。(歌詞最初の方で、いかにも隠喩ありげな言葉遊び風に’五番目の(the fifth)’とか’コード(cordじゃなくてchord)’とか出て来るんだけど、偶然だべえな) |
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| No.513 | 6点 | 恐怖の谷- アーサー・コナン・ドイル | 2016/03/16 12:00 |
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| 飽くまで私の好みで言えば。。 緩やかな失速ラインを描いた短篇と逆に、後に行くほど面白さを発揮するホゥムズの長篇、って思います。(少なくとも短篇については大方と同じでしょうか)
さてさてやはり、ホゥムズ四長篇の中では最後のコイツが一番のお気に入り。 例の「第二部:過去の因縁話」も物語全体の構成要素としてしっくり嵌っているし興味も深い。「緋色」よりはずっと好きだ。 思えば幼い頃も、「バスカヴィル」ほどのワクワクはないものの、結構好きな冒険物語だった。ただ「第二部」を置く意味がさっぱり分からず、おかげで作品全体としての印象はちょっと落ちた。今は「犬」より「谷」がいい。 |
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| No.512 | 5点 | バスカヴィル家の犬- アーサー・コナン・ドイル | 2016/03/16 11:41 |
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| 暗闇の中でキラキラ何かが光っているよな雰囲気が好きだ。 幼少の頃、長篇ホームズでも例外的に気に入ってたな、何ともワクワクさせてくれるサムシングがあってね。決して謎解きがどうとか、意外な結末にどうとか、そういうんじゃないんですけどね。やっぱ何を措いても雰囲気っすよ雰囲気。全ては雰囲気を最高に持って行くための手段。ミステリとか小説に限らない事だろうがね。
とか言っといてやっぱ点数はこんくらい。 |
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| No.511 | 5点 | マラコット深海- アーサー・コナン・ドイル | 2016/03/15 11:24 |
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| サー・アーサー最後の小説はノン・シリーズSF。 チャレンジャー教授の代わりにマラコット博士が登場、主人公の壮健なる青年を巻き込んで深海探索、ところが事故が起き、想定外の超深海へと沈み切ると、そこには思いがけず、退廃を極めた"人間社会"が存在していた。。 そして色々あって(笑)。。 爽やかなラヴ・ストーリー的結末で〆るカラフルな作品(深海にて何らかの出逢いがあったわけやね)。 何かがこうガツンと来るわけでなく、厳しい文明批評こそ有るもののセンス・オヴ・なんとかのセの字も嗅ぎ当たりませんが。。上質の退屈と共に短い小説をゆっくりと時間を掛けて読んでしまったものです。 | |||
| No.510 | 9点 | 半七捕物帳- 岡本綺堂 | 2016/03/15 09:30 |
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| 明治のサム・ホーソーンか、江戸のシャーロック・ホームズか。
冒険と謎解きの瑞々しいA級融合は後者、心地よく複雑な物語視点の構造は前者を思わせる、戦前日本栄光の古典ミステリ作品群です。 江戸末期の探偵譚を明治期に追想して語る、という形式のストーリーを大正~昭和初期にかけて紡ぎ出す、というそれだけでもう、過去と大過去の並走感が、思わず身を委ねたくなる分厚さを各物語に付していますね。更にそれを平成グローバルストラテジック格差社会の現代に読むとなったら、これはもう自ずと浮かび上がるメタ・メタ感覚に虹の向こうまでスイッと飛ばされちまう。。 ってなもんです。 無駄と撓みは無く、スリルと知的興味、人間味と温かさが充満する豊かな短篇時代小説世界に、いつか君も、出遭えますように。。 とりあえず私がまとめて読んだ事があるのは『講談社大衆文学館 半七捕物帳』(北原亞以子編)で、目次は下記の通り。 十五夜御用心 /金の蝋燭 /正雪の絵馬 /カチカチ山 /河豚太鼓 /菊人形の昔 /青山の仇討 /吉良の脇指 /歩兵の髪切り /二人女房 編者のセレクション力も手伝っているとは思いますが、やはり磐石の9点相当かと。 |
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