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皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

斎藤警部さん
平均点: 6.70点 書評数: 1303件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.903 7点 ゼロ時間へ- アガサ・クリスティー 2019/09/05 06:18
犯人の意外さに参った! アガサって本当に、意外な真犯人を演出するアイデアやら手管の引き出しが奥深いですね。。 そして、おお、伏線の偉大なる公明正大さ! こりゃ「越えてやろう」って後進どもが群発もするでしょう。 事件の真相が構造的に意外なら、物語の結末、いや構造も骨格レベルで大意外。嘆息せずにいられません。 これはアガサならではの照れ隠しなのか、企画のカッチリした堅さをエモーションの柔軟さが上回っている感触も素敵です。。いや、それはやはり真相隠匿の一手段でもあるのだろうな。

ある箇所で、安心感ある思わせ振りにタイミングの意外性が垂直衝突! 「最後まで何が起こるか分からない感」の記録更新を、斬新な構成の力を借りて図ったような野心作ですね。 この、想像以上に表題に相応しい、最後の最後まで謎の圧迫と結末期待値のキラメキが持続し続けるであろう、サスペンスフルな予感。 女史の高名な代表作の隠画、ではないな、真逆トリックを使った作品か?!(大分類では同類になるでしょうが)   

。。。もっと強引にグイグイ来る面白ささえあればなあ!! 充分面白いんだけどさ。。

これ言うと微妙にネタバレ匂わすかも知れませんが、ミステリ上の謂わば’一事不再理’をまさかのシンプリシティで一回だけこねくったようなナニのアレ、と言えるかも知れませんな、本作のメイントリック。

No.902 2点 幻の悪魔- 高木彬光 2019/09/04 03:45
目次を見ると、頁が少ないのに細か目に刻んだ章立ていっぱいでカラフルに愉しそうなんだが、読んでみるとこれが実に無味乾燥で愉しくない。。。私にはダメでした。 埋もれたままでいいですよね、彬光さん。

No.901 8点 サスペンス篇「夜よりほかに聴くものもなし」- 山田風太郎 2019/08/29 06:00
鬼さんこちら 8点
風の底意地悪さが際立つ、業の深いサスペンス逸品。

目撃者 8点
これも風の底意地悪さが光る、不条理味濃いサスペンスフル・ファンタジー

跫音 10点超え
こりゃやべえ。12点も超えました。。。。
(不似合に落語風な最後のオチはまあ、構築美を整えるためのピースか)

とんずら 8点
風の短篇の毒は、久しぶりに読むとほんとすぅ〜っと体に入ってくるな。オチ単体は軽いもんだが、風の因業ずっしりな筆で書かれるとここまでヤバい小説に化ける。

飛ばない風船 9点
風ならではの殺伐力躍動、学問の神通力も借りた意思ある殺人の末、、、、、 このオチか!死ねや!! コントラストの残酷さこそたまらない。 鮎哲のチャンチャン系倒叙を風の疾風スパルタヨットスクールで更生させ尽くした、がオチだけはわざとそのまま放置で実験してみたような剛力作。眩しいぜ。

知らない顔 8点
殺伐ユーモア+慰めペーソスの到達点は思慮唆る重いオチ。

不死鳥 8点
完璧な建築のようでどこか甘いエグ味が光りやがるなと思ったら。。。そういうこと。。いつもの風にも増して動きが速く構成の面白い濃短篇。重要物件に単行本「誰にも出来る殺人」が登場しやがった。最後の台詞、最高だね。。 サザンオールスターズ「栞のテーマ」が頭をよぎります。

ノイローゼ 7点
何気に単純な真相を、毎度馬鹿馬鹿しい小咄でサンドイッチしたしたところ、この面白さですわ。

動機 7点
タイトルとカチカチ進む内容でもってそこまで引っ張っておいて、そんな身勝手なチャッチャカ終わりかー でも途中は面白かった!

吹雪心中 8点
転倒に次ぐ転落、麻痺、死神相撲。極限段階で艶も情も奈落まで吹っ飛んだ男と女の最悪譚。イヤサスの理想地獄がここに。

環 6点
哀れなるユーモアサスペンス。表題に謳うほどクルリと一周などしてないんじゃ。。

寝台物語 8点
いくつかの予見を孕みつつ、最後はカチカチと直角毎に半反転を続けこの終結! いやあ沁みた。そしてあの端緒に戻るのか、戻りたくない。。。。

夜よりほかに聴くものもなし(連作短篇) 7点
単品で書評済み(一篇ずつではないけど)。 いかにも風らしい人間の業の深さを随所に垣間見せつつ読みやすい、面白い連作でサクサク行けますが、例の決め台詞「それでもおれは、君に手錠をかけねばならん」で締める趣向ならばもっと”渋い”雰囲気のディープ人情譚で行ってくれたらなあ、と思わなくはない。意外と心理の飛び道具が露悪的にギラギラ飛び交うよな、渋くない話が多い。あと、唐突にガチガチの本格(トリッキーで面白い)が登場したりもする。読む価値はじゅうぶんありますよ。

No.900 7点 厭魅の如き憑くもの - 三津田信三 2019/08/27 05:25
コージーに過ぎる長い長い怪奇譚の末、まさかそんなちっぽけな真相?。。 と鼻白まずに済み助かった。何しろなかなかに大きなどんでん返しに襲われたもんだ。何処かで見たことあるアレだけど、物語の演出が違うだでに、驚きの感覚もやはり違う。真犯人暴くまでのステップに冗長感アリのため、驚きが微妙に薄れたのは少し残念。でも少し程度。

探偵役が真相を悟ったのが、そのアレの何とかを知る前だ(物語の構造上、そういう事になりますよね?)と思うと、しかも核心暴露へ至るまでの試行錯誤というか推理の執拗な積み重ねを経ているのだと考えると、そりゃあミステリとしての感動もなるほどひとしおだ。 最後に探偵役(ほとんど作者目線)が伏線を丁寧に説明してくれるとこ、まるでイニシエーションなんとかのネタバレ解説サイトのような感触で若干苦笑。でもこれあると助かる。最後のヒョッコリは、もしかして取って付けのオマージュ?おまけにしか見えない(この最終フレーズがどんでん返し最後の大締めにはとても見えない)んですけど、比率的にミステリ要素に較べると軽すぎて。 でもまあ、こういう感想が出てしまうのは私がちっともホラーマンじゃないからに過ぎないんでしょうなあ。

ところどころ、文章構成というか文の置き方が下手ッび過ぎて、誰が何を発言してるんだか分からなくなる箇所散見。もしやこれも叙述欺瞞の一環だか核心かとちょっぴり疑っちゃいました。それと、どうにも昭和の終戦直後が匂わないというか平成感丸出しの文章で、どうしてこいつらガラケーかせめてポケベルで連絡取らないんだろう?交番にキャプテンシステムは無いの?なんてうっかり思ってしまったり。あキャプテンシステムはむしろ昭和末期か。でもこのへんはシリーズ第二作以降順次改善されて行くのかしら?そもそもそこは改善すべきポイントではさらさらない?




【以下本作のトリック核心にさわるネタバレ(特に後半)】


さて、本作の叙述トリックの、心理的ではなく物理的側面のほうの肝となる部分、もしかして一種の洒落から発想が始まったのかな。。? んでこの系統の叙述トリック(心理的側面のほう)って、もの凄く大まかに捉えればブラウン神父の郵便配達のアレの応用篇、と言えるんですかね。 つまり、小説構成のあの部分が郵便配達人に相当する、という意味ですが。

No.899 6点 幸運の脚- E・S・ガードナー 2019/08/09 12:15
「諸君、これが僕の自供だ」

バカな俺を笑ってくれ。 ようやく、俺のペリー・メイスンに出逢えたよ。。。自分にはどうも合わないシリーズだな~と思いつつ、時々ちょっとずつトライして来て良かった。 こりゃ「傾いたローソク」以上に良かったよ。

事件動向にしっかり厚みが有って魅力的。目まぐるしいストーリー展開と乱暴な解決メソッドはハードボイルド調。メイスンのヒーロー性もワイズクラックもHB基準じゃぬるいもんだが、ちょいとソレっぽい本格として充分味わえる。 まあ、これ言うと微妙にネタバレになるかも知れないが、美脚詐欺自体が事件の中心寄りに位置していたらもっと良かったかもな。

古い創元推理文庫じゃ「メイスン」を「イメスン」と誤植してる箇所があって、そこ「イケメン」と空目しちまったのはご愛敬だ。

No.898 8点 鷲は舞い降りた- ジャック・ヒギンズ 2019/08/05 19:28
真夏の生ビール一杯の一体何が素晴らしいのかを数百頁に渉り隠喩だけで詳述した、世界の愛読書。(その大部分は”如何にその瞬間まで我慢すべきか”についての抒情詩であるので、熱中症対策としては極めて不適格)

だが本作の主役酒はブッシュミルズ。ボトルのフォルムとラベルの意匠に威厳への格別なる意志が見てとれるアイリッシュウィスキー。これからもデヴリンはガッツリ呑み続ける事でしょう。本当に困った奴です。

「おれはとつぜん六フィート離れた所に立って、自分が言っていることを聞いていた」

夥しい主役/準主級の放つ台詞の拉致力が半端なさ過ぎて泣きます。 最高の多重逆説を表出したのが、まさかのギラギラキチ●イNo.1だったとは!あのシーンは萌えたなあ! 物語の真ん中あたり、ハードボイルド文体の最高にユーモー溢れる応用篇みたいなくだりが、ひどく良かった。 終結間際の或る台詞、2×2で珍重すべきクアドゥループルミーニングになっちまってるわけですな。。。。あわやリドルストーリーの河口へ沈降かと見紛う幻惑のどんでん返し。そしてやっぱこの、ちょぴっとアメリカン・グラフィティを思わせる、大型エピローグの差し向けて来る眼力。。。。 アーサー・シーマー絡みの或るシーン、原文をチェギラしたぃと思ぅたが、翻訳が充分イカしてることを思い出し、その必要はまるで無いのを悟った。だからこそ、いい爺ィになって原典再読する幸運にヒットされた暁には是非ともそこんとこ、キッチリ落とし前つけたい。 オルガン(バッハ)のシーンは沁みました。。。。

「素晴らしい演技でしたね、中佐」

ああ、本当に素晴らしいプレイでした、登場人物の皆さん。男臭い物語ですが、数少ない女性の皆さんも最高でした。いつか皆で、人生に乾杯でもしませんか。

No.897 7点 ひげのある男たち- 結城昌治 2019/07/30 19:30
「わかりやすく言いますと・・・・・・変なふうに妙なのです」

本作のユーモアはけっこう本気で笑えました。 ごちゃごちゃしてるようで意外とすっきり、ストーリー展開が楽にきちんと見渡せる感じも良い。 露骨にラインマーカー引かれた感じの”明瞭過ぎる手型”の機微がもう少しロジックの四角いリングの中で暴れてくれてもよかったが、、不満とする程でもない。そしてこの大胆不敵な凶器の隠し場所。。あんまり言うとネタバレになるが。。犯人の属性を(作者も、犯人も)最大限に活かした意外性煌めく大型トリックですね! 本作での“ひげ”の現れようを、たとえば某”トランク”や某”樽”の動きのような複雑な意味深さを持たせて操作してみたら、、なんて思わなくもないですが。。

そしてこの締め台詞! ユーモラスな味のあるミステリ、じゃなくて、もうジャンルとして明瞭にユーモアミステリの流儀。それでいてなお本格!!やったね結城昌治!! アリバイに使われた旧いアメリカ映画 「犯人は誰だ」って、ググってみたら本当にあるんですよ(笑)!

ところで私が本作を読んでいて無意識に感じていたちょっとした違和感、その正体はどうやら、こうさんの書かれている
> 登場人物のみが犯人になりうることが大前提となっているのが不自然で
のあたりらしいですな。

本作で結城氏は故意に翻訳調の文体を狙っており、その目的はこの独特の妙にユーモラスな間(ま)を醸し出す事だった、という説もある様です。 (あれ、それって文庫巻末解説に書いてたんだっけ、忘れちゃった)

No.896 7点 臨場- 横山秀夫 2019/07/15 12:54
連城スピリットが垣間見える短篇連作。各話の主人公が異なるせいか、出だしで素敵な違和感を発散する例が多く魅力的。趣向を適度に凝らした各話の構成も訴求力高し。舞台は地方の田舎町(であることが実はミソなんだが、その割に所々田舎より都会の空気が匂ってしまっている。惜しい所)。 通しの裏主人公、”終身検視官”倉石警視(捜査一課調査官)の存在感屹立がとにかく凄い。


「赤い名刺」    7点
”どうしてバレたんでしょうか?”の小ネタ一発からここまで大仰な人間ドラマをでっち上げた、ってんじゃないでしょうね?でもドラマ面のサスペンスは実に迫るものがあり満足。まさかの犯人像も、主人公のナニしたナニに引っ掛けてそのトゥーマッチ意外性(アンフェアと感じさせること)を回避、このやり口が巧い。 

「眼前の密室」    8点
密室トリックは。。。犯罪実行に当たっての切実性と、あまりに意外な犯人設定とよく結び付き、更にはパズルとしても興味津々。冒頭シーンの「なんじゃこりゃ?」感もなかなか引き付ける。悪くないね。 

「鉢植えの女」    8点
安っぽさ×2と重さ×3でバランスは取れた。 ただ、やっぱあのダイイングメッセージ(はっぴいえんどの有名曲を思い出す)には、頭に’バカ’ と付けたくなるアンバランスを感じなくもない、のだが。。やっぱりこの真相奥行き感はいい。 

「餞(はなむけ)」    7点
殺人事件のトリッキーな遂行&看破のなんとも奇妙な軽さ(準バカミス?)と、もう一つの謎事象の胸に迫る重さが、ちょぃとちぐはぐでないか。。でも心は動いたな。 

「声」    8点
シリアスで陰惨な背景なのに不謹慎にも笑ってしまう捜査側の会話シーン(山田風太郎ならうまく昇華させてたろう)。。 まさかの叙述トリックかハハ。。。と”逆に油断”した隙を突かれた。。ここまで業の深い真相は、結末まで脳裏を掠めもしなかった。。。。  

「真夜中の調書」    8点
どうやって自白させたかのディープなハウダニット、かと思いきや、何故◯◯したのかのホヮイだった。。。。ワクワクする設定。アタイは仮説を立てた。仮説の通りだった。。。。にも関わらずその人情噺には流石にノックアウトだ。

「黒星」    7点
事象トリプルで来ましたか。。。 しかもこ~んな変化球!! … 立体的で奥深い構成の人情譚だが、、ちょーっとリアリティ削ったかな。。倉石さん肴に少しやり過ぎたんでないの。こういう設定の人物描写にはほんっと微妙なバランス配慮が肝腎なわけで。。

「十七年蝉」   6点
最後の最後に来て、唐突なこじつけ臭漂う、薄らファンタジーか。 なのに心に残る。 (この題名ならトリッキィな数学趣向を絡めて欲しかったが、流石にムリチューか) 


本格ミステリと警察小説が融合しきれてない犯人設定やら何やらあるよな、と最初は思ったけど、別に両者の従来特性を融合する必要なんてこの世には無いんだよな。 それにしても、倉石検視官の、周囲の人間達が勝手に浮かび上がらせる絶妙な間接描写、および一人だけ完全ハードボイルド流儀の直接描写、この両輪が両輪ともイイんですねえ。。。。 それだけに、時折現れる妙~にバランス悪いとこ(えっ、その展開は、そのネーミングは、そのアレは、ちょっとシブくないよ~、みたいな)が残念でなりませぬ。 8点付けたいんだが7点です。

No.895 7点 死の鉄路- F・W・クロフツ 2019/07/10 06:44
「あなたに対して使ったのと、まったく同じ手口です!」

”仕事ミステリ”の快作。舞台はイングランド南部の臨海鉄道。偽装アリバイを●●のではなく●●●●という素晴らしいトリック!叙述欺瞞もどきの要素があり、中途半端にアンフェアな(ツブシが足りない)所も見えますが、、いっそ完全なる叙述トリッカーに仕上げてたらどんなもんになってたんでしょうか? フリーマンが専業作家に転じて間もない頃、直前まで身を置いた鉄道業界内で起きる連続殺人(なのか?!)を扱った充実の本格推理です。フレンチの人間臭いとこも例により適量見え隠れ(探偵役を他の登場人物に持ってかれ気味だが!)。“目の高さをゆっくり上下するたくましい主運棒と連結棒”のピクトリアルな描写、“面積計”を上手に使いこなす事務所のシーン等々、男心に響く(?)現場報告が続く様は壮観!! アリバイ工作は、、、そっかソレ言うとネタバレになるんでしたね。。

nukkamさん仰る通り、’80年代創元推理文庫の表紙絵(この小説ロマン溢れる危険な構図!)、惹き込まれますねえ~。

No.894 9点 犬神家の一族- 横溝正史 2019/06/29 21:04
精妙なロジックと怨念の起爆が集約された遺言状!! 
絶望的暗黒と大胆なトリックが結託した連続殺人!!

【これちょっとネタバレか】
映画の演出で観ると、真犯人があまりにそのまんまで これってほんとに本格? って思っちまうが、ちっちっちっ、その際どいミスディレクションの肝の部分がごってり残っている原典(小説)で読むと、何気にクリスティ流儀のワケシリな犯人隠匿術に翻弄される愉しみが味わえる。結末知っていても大丈夫。読んでみんさい。

しっかしこの人間関係群の衝撃的キッツさは本当に酷い!! SKKY(こう略すと空みたい)の柘榴顔だの仮面だのSKTKの首が落ちて来るだの、ビジュアル上の怖さもこの心理的怖さを適度に緩和する役割を負っているんでないか?と思うほど。

しっかしKIKSは相変わらずダメだね。。 小説で読むと主役感の半端ない珠代さん、綾瀬はるかが演じてないとは意外です。

【最後に、これはネタバレになりましょう】
某超が付く人気タレント(令和元年初夏現在)の芸名は本作の真犯人から来てるのかと思ったら、そうじゃないんですってね!!

No.893 7点 闇の歯車- 藤沢周平 2019/06/26 00:04
屈託と事情を抱えて馴染みの酒場(門仲だったか)に寄り合う、お互い素性も知らない四人の男達。一人は浪人、一人は商人、他の二人はアウトロー。あるとき、彼らを繋いだのは同じ酒場で出会ったいっけん陽気な差配人。彼に乗せられての犯罪計画。陰気なギャングに仕立て上げられた四人は、それぞれの人生一発逆転を賭けて押し込み強盗の仲間に一枚ずつ咬むのです。 「ここが面白いところですよ、みなさん」 捜査側とのカットバックで大江戸犯罪劇はカラフルに情感豊かに進行し、こいつらまさか地球を回す気でないかと危惧する飛ばしっぷりも時々。(地の文から台詞へのあからさまな地続き語りにシビれる箇所があったな) まあこれ以上のストーリーは言いませんが、 エンディング、、、 こう書いたらもうネタバレでしょうが、、、 やはり周平さんらしい、湿って優しい甘ったるさが目に沁みました。 もっと暗い所に突き落としてくれても、良かったんだぜ。。

No.892 9点 ある詩人への挽歌- マイケル・イネス 2019/06/19 17:25
俺は連城が好きだ。本作の目を見張る反転劇も濃密な文章世界も愛情の対象だ。 クリスマスシーズン、雪に閉ざされたスコットランド古城で起きた偏屈城主の墜落死と来た!(だが館モノとも博多者とも言い難い) 英国式にたっぷりのユーモアがゴシックロマンの中核を浸食。「月長石」を思わす、時系列大いに謎めかせた手記リレー構造(おっと、、いや何でもありませんよ)と重厚でスムゥーズな旨味。謎解きなるモノの「解き」のみならず「謎」そのモンを大事に扱う小説だね。時計と役者の喩えはなかなかグッと来た。 でまァこれはネタバレとは似て非なりと思うんでふつうに書きますけど、真相はaかと思ったらbだった、かと思ったら実はcだった、んじゃなくてほんとはdだった、ってんじゃなくて、aかと思ったらa+bだった(・・途中略・・)結局の所a+b+c+d(±α)だった、という、多重解決ならぬ多段階上乗せ解決の喉越しが何とも魅力あります。 医師がどうしたとか、贅沢がどうしたとか、、ちょーっとばかし作り物の違和感軋むとこもありましたけどね。。気にしませんよ。 極上に良い意味で、最高にキメまくりの時の(クスリやってるって意味じゃありません)連城短篇のスライト劣化版、言い換えれば拡張版、と呼んでしまいたい。  

アンコール章前の実質的ラストシーンが本当に最高の、さり気ない◯◯(or◯◯◯)ダニットの大集結場になっている、こりゃ泣けました。 そしてラスラスの短いアンコール章もまた、繊細にして剛力な淡白い何ものかで溢れています。 そういや終盤の短い活劇シーンも悪くないアクセント。 しかしですな本作、再読してみたらきっと、初読時には単なる雰囲気づくりの文面にしか見えなかったありとあらゆる顕示的伏線の樹皮という樹皮が次々とボロボロ樹幹から剥がれて行く風景の壮観さにしたたか酔わされっぱなし、となる事でしょうな。

教養文庫、二賀克雄氏の巻末解説がまた本作の英国ユーモア精神を引き継いだようで、適所に皮肉を滲ます筆致と確かな内容が実に良い、ホンの数頁です。

No.891 6点 青い記憶- 佐野洋 2019/06/13 12:48
手練れに過ぎて、あまりにスイスイ読めちゃうよ、もっと引っ掛かって立ち止まって考えさせて、みたいなな不満さえもたらしそうな、良く書けたミステリ作品群。文章がスムーズ過ぎて全体的に地味に感じてしまうかも。書くに当たっては悩みの無さそうな、しかし題材は悩みの多そうな不倫がらみのお話がほとんど。(全部だったかも)

赤い蝶・青い猫/密告/細い橋/九回裏二死満塁/重苦しい空/赤い時計/二年ぶりの街/通話記録/暗い偶然/脱がされた/青い記憶  (講談社文庫)

No.890 5点 華麗なる醜聞- 佐野洋 2019/06/13 12:44
アリャ、A氏が二人いるぞ。と思ったら更にもう一人。。 社会派をダシに使い切れなかったのが悪いのか、サスペンスの道筋と糾弾の矛先が大いにずれたまま大爆発無くモヤモヤと終了。ルポルタージュの真似事(あまりに小説臭い!)風に視点がコロコロ替わる構造の面白味も終盤近くで自然消滅。最後の最後でバランス悪さを露呈。でも結末に至る前までは中々に面白く、実にリーダブル。

昭和三十年代中盤の実社会を騒がせた複数事件を組み合わせたモチーフを使いつつなお「これは実際に起きた事象である」振りをしているコンセプトの故か”疑似ドキュメンタリー”の嘘っぽさが溢れ出てしまい、スリルだとか知的興味だとか、大事な何かを削いでしまっている気がする。それでもまず面白いのは、洋ちゃんの底力ですな。

No.889 7点 マルタの鷹- ダシール・ハメット 2019/06/08 21:27
「そんなやつは死んじまってるさ」

本作への評価を押し上げた神髄はその最終章に在るや在らずや。スペードも良いが敵役ガットマンが最高だ、ファンキーガッツマン(m.c.A・T)を思い出す。激烈にして爽快無比な最終章と、そこで生まれた一瞬の弛緩を二段構えで締めに締める、ラストシーン。だがやはり、ミステリ軌道の深い抉りは感知出来ない。冒険のきらめきや拡がりも無い。SFの街も迫って来ない、坂道を感じない。それでも長い短篇の様な鮮やかな蠢きの連続が引き摺り込んでくれる、痛快なる一篇。ヘイ、ヨウ、そっちの、命を賭けて追い求めた幻は、こっちの、無理に叩き出して結局棄てる事になった幻よりも、価値があるのかい?

「用心してりゃよかったものを」 

マイルズ。。。。 お前は本当にクズ野郎だったのかい?

No.888 6点 東京殺人地図- 島田一男 2019/06/06 00:35
ポケベル、デートクラブ、新風営法、新語「ソープランド」、新聞社にもコンピューターシステムの導入により。。。。シマイチ先生の描く昭和末期風景連作(ブン屋モン)。なんもかんも良い意味でチャッチャカチャッチャカ、犯人の意外さに正面から向き合わないのもよしと出来る結果オーライの勢いで快調、晩年が見える歳になっても飛ばしまくり!

死者の身上書/“金魚”殺人事件/夜の猟人/土曜日殺人事件/死神のラブコール/青田刈り殺人事件/山手線の女/死神は夜走る   (徳間文庫)

No.887 7点 血族- 山口瞳 2019/06/04 06:12
「いつか教えてやるよ。」    

ミステリタッチの私小説(私ドキュメンタリ)。昔の両親の写真に関する不審(大震災で焼失したので記憶頼み)と自らの生年月日への違和感を契機に”出生の●●”の疑惑の霧へと斬り込んで行く、既に有名人の筆者(元サントリー宣伝部)。 中程でうっすらと読者への挑戦めいた文言が飛び出ます。続いて叙述トリック宣言らしきものまで登場。。 んで、、これ言うとネタバレですかね? 山口氏がプロパァのミステリ作家ではないとの、更には私小説であるとの判断材料から無意識に導き出されるであろう或る予断ってやつが、なかなか。。また「血族」というタイトルも、物語主題の象徴であると共に結構なミスディレクションとして機能しちゃってます。

ラストシークエンスでいきなり爽やかな救いの風に吹かれるのは良いです。ああ、人生によくあるなあ、こういう場面展開、って思います。たった二行の最終章が、重くも痛くもなく、ただ勇ましくグサッと楔を刺すだけってのが良いです。 その最終章に至る直前、ラス前の一文がまた、最高に沁みるなぁ。。。。

それにしても文春文庫の表紙に何故レイザーラモンRGが?と一瞬思ってしまいました。(作者が掴んだ真相を)早く~言いたい~。。という判じ物かと。まあ悪い冗談ですけど。(作者本人の若い頃らしですな) 

No.886 6点 フォックス家の殺人- エラリイ・クイーン 2019/05/29 23:47
なんですかこの “無限大に拡がり過ぎて解は不能ならぬ不定です” の有様を逆から見たような結末は。 本作まさか ”何を評してもネタバレ” というコンセプトのもとに逆算して作られてないか? 後期クイーン問題どころじゃないんじゃないか(笑)? などと、不思議に奥深さを感じさせるが、感じさせるだけのようでもある一篇。 このコンセプトで、短めとは言え長篇に仕立てた事こそトリックというか、ミソなのかも? 逆エディプスコンプレックスみたいな蛮説をエラリィが持ち出したのは印象的だった。 なんだか青臭くとも不思議に頼れそうなエラリィ。 ふむ、締めづらい。 ♪ Fox hunting on a weekend ..

No.885 7点 レベル7- 宮部みゆき 2019/05/27 22:10
ノークラ オートマ 。。 うすらぬるいサスペンスが不思議と心地良い、平成初期を偲ぶに良い一篇。空気が緩いからこその死角にいつの間にか絡め取られてそうな焦燥感はなかなか得体が知れない。エピローグに担保されているのであろう、いまだ見えざる全貌楼閣の魅惑ダダ漏れ幻想に背中を押され、サスペンスとは別の何物かで満ち溢れる物語は可読性抜群。カットバックされる二つのストーリー両方に登場するあの登場人物のヒカりっぷりったら無え。一方のストーリーでは”目覚めると記憶が無い”若い男女の自分探し assisted by 謎の中年男、他方では失踪した少女の行方を追う大人たち。両者を合わせて呑み込もうとするものの在り処はいったい何処に。。。。

併走ストーリーズがぶつかりそうになるあたりで急遽ユーモア奔出しだすのはいい意味苦笑。終始微妙にゾヅツトゥリックゥがどっかに潜んでねえべかと疑ってしまう思わせぶりな。。 しかし最後の六分の一が激熱だ! いや最後の最後はちょっと緩いかな。真相を無駄に複雑にし過ぎのきらいはあるかな。いちばんの悪役さんさえ最後は妙になんだかハートウォ~ミングで絵空事の国の住民みたい。”実質主人公”の内面やらナニやらにもう一歩踏み込んだ抉りが欲しかったな。 てかむしろその、レベルなんとかを応用した遊びの趣深さと危なさをもっと掘り下げても良かったのでは? 。。。な~んてあげつらったけど、ミヤミユさんの悪い意味のやさしさがいい方向にはたらいたなかなか良い作品、だと思います!

No.884 7点 ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女- スティーグ・ラーソン 2019/05/23 11:41
実績に裏切り無し、流石の娯楽大作。 荘厳なる物語を予感させひとしきり疾走し、絶妙に遅めのタイミングで急速に通俗の領海に舵を切る。カットバックの不規則な間合いが良い。サディストを惨酷無比なサド返しで仕上げるくだりは極上。小説のほぽ真ん中で二人の主人公が初めて相対するシーンはなかなか新鮮だが、そこで急にラノベ風に変身されても困る。すぐ普通の通俗味に戻ったけど。(そのへんだけ小説手触りがちょっとデコボコ)

いかにも本格ミステリ風な大小地図に巨大家系図、数十年前の密閉孤島で起きた大事故と失踪事件、大富豪一族の愛憎劇。。 だが巻末解説にある「第I部(本作)はオーソドックスな密室もののミステリー」というのは大嘘もいいとこで、本格偏愛度の高い人ほど「はァ~あ?」と眉を吊り上げずにいられないでしょう。 ただ、一点だけ際立って本格を感じたのが、、 これちょっとネタバレですけど、、、 或る重要な共犯像、もしやおアガサがインスパイア元の、超おぞましパロディック応用篇沙汰か。。。 ?!!?

物語の幕開けは、飛ぶ鳥を落とす勢いの新興実業家への名誉棄損罪で三か月の禁固刑を言い渡された、経済誌『ミレニアム』の記者兼共同経営者である主人公1のミカエル(♂)が、往年の大実業家老人(今でもかなりの勢力はある)から、その憎っくき新興実業家を撃墜できる致命的大ネタ及びかなりの大金を報酬に、そのむかし若くして行方不明になった(死んだとされている)大姪の死の真相(老人は彼女が死んだものと決めつけている、ようだ)をミカエルの見上げたジャーナリスト魂と技とで暴き出して欲しい、と申し出を受ける所から。

カットバックで並走するもう一つのストーリーは、とある探偵事務所にフリーの調査員として勤務する、心の病を抱えた超豪快天才ハッカーの主人公2,、リスベット(♀)が、大実業家老人がミカエルを前述の用件で雇うに先立っての身辺調査を引き受ける所から始まり、、、、

ミカエルがやたら現代ミステリをチェインリードしてるのがいい。セックスよりミステリのほうが頻度高げなのがいい。ニッポンの東野や連城も読んでいてくれたらなと思う。

寂しさと哀しみのラストシーン。 重要な脇役群(どころか主役級も)についての情報があまりに多く蓋をされたままの終結は、続篇の連発を予想させるに充分。 後続篇では前述の”仕上げられたサディスト”が鬼の復讐に乗り出すらしい。最高だ。   

作者は全体で10部だかなんだかを構想しておったらしいが第3部まで仕上げ、出版前に夭折してしまいました(現在第4部以降は他の作家達によって引き継がれている)。 「カラマーゾフの兄弟」の書かれなかった第二部への逆ノスタルジアに思いを巡らさせるったらありゃしねえです。

ところでエルヴィスの看板、誰かサルベージしてあげて。。

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
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採点傾向
平均点: 6.70点   採点数: 1303件
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