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斎藤警部さん
平均点: 6.68点 書評数: 1248件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1068 6点 R.P.G.- 宮部みゆき 2021/07/05 12:54
存在感あり過ぎの裏主役が結局どうなるのか気になる。物語としてそこほぼ一点突破。だからこそ、騙されたのか。。。裏主役の思いの分厚さが最後に明かされる所が核心か。それ含めての騙しの構造だからこそ、気付かなかったのか。。。それとやはり、特徴ある呼ばれ方をする人物の存在が目眩ましになっちまったかな。題名の比喩する所、深い方はともかく、浅い方が犯人にとってこれほど残酷な攻撃力を発揮するとは。片方の殺人動機の熱さは(ミステリとして)尊びたい。意外性ではない。●●の人がそこまで●●出来るか、というかするもんなのか、という違和感はチっとある。 いろいろ踏まえて締めの台詞が何とも、大きな結び目を作って終わるようで、残る。

No.1067 8点 しぶとい殺人者 鬼貫警部と四つの殺人事件- 鮎川哲也 2021/07/02 11:05
青樹社がノベルズ版(BIG BOOKS)で’86年末に刊行した中篇集、と書いてるがむしろ長めの初期短篇集。

いかにも昭和末期、80年代ど真ん中らしいおどけた表紙絵(戯画化された鬼貫が、物語に登場する或る証拠物件(?)を突き付けている)が目を引きます。(やたら子ども受け良し)
表紙絵はともかく、読んでみるとあらためて鮎川哲也の相当に独特な、詩情にまで至る淡い、淡過ぎないユーモアとペーソスが本格推理とがっちり手を握った安定感あるスリルを堪能する事が出来ましょう。


悪魔が笑う
舞台は哈爾賓(ハルビン)。アリバイトリックは小味ながら一捻り。人情とその逆転に哀れなる味わい。B級っぽさがあるが、悪くない。

誰の屍体か
この奥深さ、趣深さ、流石です。締めも良いね、紛うこと無きクラシック。ずばり本題そのままの題名にも重み有り。殺人凶器らしき三つの道具が別々の(微妙につながりある)人物に同時に送られて来る、という稚気溢れる発端にさえ、そんな緻密な計算があったとは。。稀代の偏屈者って、そういう事か。。終盤、意外性の高いグロテスクなシーンが爽やかに語られるのは、驚くとともに笑った。被害者(誰?)の恋人と思しき第二の探偵役も存在が光る。振り返れば、細やかな手掛かりがあちこちなんだよな。しかしこの前代未聞(?)の心理的アリバイトリック、大胆な事したもんだねえ。。 

一時一○分
言い訳無用の簡潔なタイトルに見合う、速球勝負にして奥行きのある物理的(補完部分は心理的)アリバイ&真犯人偽装トリックの一篇。締めの文章が胸を突く。。。

碑文谷事件
どこかすっとぼけた前半から、後半の急な発熱が魅力。強烈な不可能興味!実はちょっとした叙述の戯れまで。。アリバイ偽装はかなりの複雑構造。中には薄氷を踏む所もあって。。(それにしては、あの大胆な席外し。。) そっか、逆●●●●●●まで登場か。。 全体通してみると”長旅の時代だったからこそ成立する盲点”のトリックというのが、素晴らしく味わい深いですね。。或るミスディレクションが単なる飾りじゃなくてほぼ核心、という裏を突いた行き方も巧み。●●●●の要素にシレッと覚醒剤が登場したのは笑った(流石に昔のお話)。 最後、ようやく重い腰を上げて犯罪の動機を語り出す鬼貫。だがあの一言だけは言うのを憚った鬼貫。余韻が大き過ぎです。。


著者による「ハルビン回想----あとがきにかえて」は、ほぼ地名や街の構成を淡々と説明したものだが、どうにも、どこからかセンチメントが溢れ出ている。

山前譲氏の解説「凡人探偵鬼貫警部」は、五つのサブタイトル 1 鬼貫の登場 2 鬼貫の実像 3 鬼貫の推理 4 鬼貫の虚像 5 鬼貫の哀愁 で区切って順序立て学術的に解説しているようだが、やはりどういうわけだか情緒に訴えるところ強く、鬼貫警部(見た目以外ほぼイコール鮎川さん)の人物像がセンチメンタルに迫って来る切なさが嬉しい。

No.1066 6点 いつか誰かが殺される- 赤川次郎 2021/07/01 07:03
角川映画版はかなーーーり大胆に仕立て直してあるんですね。 主演の渡辺典子さん(原作は誰が主役か見えにくいけど)、多分あの人の役なんだろうなあ。。とぼんやり予想してたら、ま、ま、まさかの!!!! そこまでやるのか。。 凄くいい意味でーー

さて本作、企画性の高い或る趣向(いいタイミングで明かされる)を知らずに読み始めたほうが愉しかろう。登場人物と因縁深い死刑囚の脱走騒ぎに始まり、尾行対象がトランクをすり替えたとか、貧しい探偵がボコられたとか、警官が浮気者だとか(?)忙しないカットバックで小出しにされる犯罪、悪意、違和感のユーモアこってりなタペストリーが織り成す切迫型リーダビリティの襲撃に休む暇なし。特に出だしの数十頁、事態の構成要素が複雑怪奇に重なり合って進む割に、不思議とスッキリ見せるのが上手いな。。と思ったがそれは実は逆で、意外とシンプルな物語構造を、トリッキーな順列や角度のチラ見せで暫時露出するから実際よりずっと複雑に見えてるのかも知れない?そんなある種の恩着せがましさもミステリのテクニックと思えば大歓迎! 読んでる間は最高で8点まで行きそうと胸が弾んだが、そこまで上等なもんでもなかった。とは言え実に手練れのベストセラー作家らしい素晴らしき快作でありまする。 思わず肩入れしてしまう悪党や変人もいれば、下水道に投げ込みたくなる悪党もいる。 あっと言う間に読めちゃうよ。 後味陰惨、って人も普通にいると思いますが。。(私も若干そう)  

しかしながらタイトルと内容に結構な齟齬を感じてたんですが、頭に「こんな事してると」って付けるといいんですかね。。「誰か」ってのはピンポイントで「あの人」の事だったりして。。 または、不特定多数の。。 もしかして、ちょっと社会派要素入ってる?(最後の方の台詞に滲み出てねえが。。)

No.1065 7点 鍵のかかった部屋- ポール・オースター 2021/06/29 16:44
スーツケースいっぱいの原稿を遺したまま失踪した、昔の親友。。。。その原稿を出版社に持ち込むか否かは、彼の妻の言伝で、批評家である主人公の判断に委ねられた。 やがてその小説が予想以上の売れ行きを見せ、主人公と親友の妻、幼子が一緒に暮らし始めた頃、既にこの世に存在しないと思われた親友から、主人公に一通の手紙が届いた。。 この後一気に繰り広げられる、冷ややかなスリルに満ちた、大いにサスペンスフル且つカラフルにして病理的なストーリー運びは、、書かずにおきましょう。 「ミステリの雰囲気と私立探偵小説の形を借りた非ミステリ小説」らしい終結部では、とことんこじらせてしまったヤバい人達が最後の心理的ひと暴れを決めてくれます。 1986年米国産。 世に言われる様な文学的感興は、私の嗜好では然程ありませんでしたが、それよりも独特の強いサスペンス感を美点とし、この点数です。 いちおう言っときますが密室殺人とかは出て来ません。

No.1064 5点 現場捜査官- 島田一男 2021/06/25 11:35
「現場」の読みは「げんじょう」。 ‘79年の捜査官シリーズ第五弾。 主役チーム科捜研の面々が鑑識や刑事部長(デカチョウ)達と屈託のない協力体制で事件に取り組む、明るい警察小説。
会話や地の文のウィットもミステリの妙味も、流石に飛ばし過ぎてカスレたのか若干薄味だが、まだまだ悪くない。 ちょっとした恋愛要素を深く掘らない匙加減も良し。

現場よ語れ/妖女の路/誘拐犯の顔/浴槽の女/嫌な家族/白い蜃気楼  (光文社文庫)

推理小説としては、一に「妖女の路」、二に「嫌な家族」、このあたりが謎に奥行き有りでよろし。

No.1063 6点 ダン・カーニー探偵事務所- ジョー・ゴアズ 2021/06/23 05:52
クルマ絡みの金銭トラブル(ローン未納)専門の探偵事務所所長/所員達が警察小説風に繰り広げる問題解決(クルマの回収)ショートストーリーズ。 ‘67~’68と時期の早い最初の四作「メイフィールド事件簿」「ページ通りの張りこみ」「ペドレッティ事件」「ジプシーの呪い」は目立った引っ掛かりも無く(悲劇は起こるが)サラサラ読ませてもらう、悪くない。 ’69の五作目からギアシフト(ミステリ度合も上がる)。 中盤からぐんと深みを増す「マリア・ナヴァロ事件」は最後まで痺れさせてもらった。ネタバレは言えないが飛び切り変わった趣向の「影を探せ」。人種問題がガタガタ回ってエンディングでじんわり来る「黒く名もなき吟遊詩人」。パズルのような結末オーライ感が痛快「オバノン・ブラーニーの事件簿」。慌しいヴァイオレンス喜劇「フル・ムーン・マッドネス」の最後はやさしいラヴで〆(!)。小粋と呼ぶには激し過ぎるエンドに目を瞠る熱い騙し合い「不具者と貧者」。案件に一ひねり、スペクタクルなドタバタ小咄「深紅の消防車」。 追い詰められる(時に、逃げ切る?)者達には当然ながらそれぞれの事情。哀れを誘ったり怒りに火を点けたり。 まあ何しろダン所長を筆頭に各メンバーの人情味あるキャラクターと行動が素晴らしい(中には大馬鹿者もいるが)。 悪くない一冊。

No.1062 8点 有限と微小のパン- 森博嗣 2021/06/21 11:44
“忘却の海の向こう側で待っていた巨大な球形のスクリーンが、慎ましく霞んだ水平線の彼方に、懐かしい太古の明晰を描こうとしていた。”   

素敵な◯◯の中に醜悪な◯◯が闖入し、◯◯の方を宥め賺そうとした物語。 ◯◯の方の殺人◯◯が些末なものとして、せめてもの暗示だけで済まされるって(これだけの頁数を抱えておきながら)。。 最後、あれほど輝く存在感を放っていた人々や(建築や)事象の諸々があっさりと霞んでしまう、強烈な隠喩の大きさよ。。

最後に遺される、雄大な寂しさに心地よく包み込まれる感覚がたまらない。 しかも、そこにはしっかりとミステリの巧妙で巨大な落とし前が。。 この結末は、ひょっとしてある有名な西洋童話へのオマージュでしょうか。

時差云々の件は、わざと露顕させるためのトリックにしてもちょっと面白い。 天才がそんなセコいアレしてたってのも、愛嬌があって良い。(おまけに天才は、あんな事もしっかりこなしていたはずだ。。!)

こんな形でシリーズ完結させられてみると、番外に近い異色作 「今はもうない」 の立ち位置が、弥が上にも切なさを増して、もうたまらんな。。  そっか、あの人のイニシャルって..

「西之園君、今度こそ懲りただろう?」

No.1061 6点 青春の蹉跌- 石川達三 2021/06/07 18:01
社会の現実は把握し難い上に変転を続ける。現実主義に徹したつもりがその肝腎の部分が見えなかった、原石としてはピカ一と言えるエリート予備軍の貧しい青年が、若気の至りと呼ぶにはあまりに重大な失策を犯し、その●●を●●に●●までの緊張に満ちた生活と犯罪を追う物語。冒頭から三分の一程度は、観念に取り付かれた独白エッセイ(作者本人の弁とは異なる)が延々ゴツゴツ続く様で小説らしくもないが、その後一気にサスペンスフルなダーク・ストーリーが起伏も豊かに疾走を始める。 何かある毎にその事象を法律の条文に照らして解釈する場面も趣在り。 最後の最後に或る人物を「今こそ殺してやりたい」と思うに至る反転、その方が却って救いになるんだかならないんだか、いやはや。。 二度にわたる弁当の差し入れは泣けました。 しかし、一番最後の台詞、主人公はどんな気持ちで聞いたのだろうか。。(まさかそんな台詞で締めるとは驚きました!)

No.1060 7点 流星の絆- 東野圭吾 2021/05/28 20:01
“そのタイトルを見て、◯◯は胸が熱くなった。”

主舞台は横須賀/横浜。 クライム、サスペンス、ダメ押しに◯◯ダニット! 一気呵成、豪速球がホップする味わい! 出だしの悲劇性もあっという間に吸収されて。。ちょっと見よりずっとサイケな話かも。。との予感に震える。 幼少の頃、ペルセウス座流星群が流れた雨の夜に両親を惨殺された3兄妹が、養護施設を出所後、司令塔と2トップで役割分担し殺害犯人断罪と復讐のゴールへと向かう物語。 バイタルエリアでは時効成立と言う悪魔との競争があり、証拠●●と、恋愛抑圧と、いくつものすれ違いに、隠し玉。。 そこへ絶妙のタイミングで多方向からの違和感がボディバランスを崩しに掛かる。 儚いチャンス、一発で仕留めるんだ。。

「有明さん、もう一度やってみる気はありませんか」 「えっ?」

○○系叙述トリックの逆を張ったような”重要ポイント(アレの違いの事)”がドラマチックな転換場面でもどかしく(??… いやその逆だ!!)活きてきたシーンでは眼を見開いた!! タイトルのナニが情緒や精神的なものだけじゃなかった(ちょっとした決め手にもなる)、ってのが渋いね。 テクニカルな小技も本当にそこかしこ。「傘の指紋」のロジックは小技ながら、、行き着く先がドラマチック! 犯人そのものへの驚愕は(「あ、そうつながったんだ~~」って感慨はあったが)薄かったけど、「告白書」(新しく書いたほう)には泣けました。。犯人に気付いたアレの伏線の小説的なセコさも(その大胆な置き場所には感心!)、笑い泣きでした.. 残りページもわずかなゴール前のごたつきもありながら、最後は見事なオーバーヘッドを決めてくれました。

「それ以上、こっちへ来るな。誤解を招く」

真相を知って振り返ると、真犯人のさり気ない行動がすごく沁みるシーンがあったんですね。。 やっぱ、洋食屋におけるハヤシライスの存在ってのは格別なものです。(あ、だけどよく考えたらこの「ハヤシライス」こそ最強の●●●●●になってたんだよなあ。。!) しかし、クサナギと加賀って..w 最後にアレのカタを付ける所、トンチが効いてて最高です。終わりのほうで意外といい味出した再登場チョイ役もいたな(隠れファンいそう)。 ちょっと、唐突に道尾秀介みたいな真っ白エンディング感もありましたが(&ラストセンテンスの洒落た落とし!)、最後に気持ちの整理ってやつがどうなってんだか見えない重要人物(複数人!)もいるのですが、偶然力が発揮され過ぎな所も目に付くのですが、、この際まあ良がっぺっよ! 惜しいな、あと一歩で8点だった。

「大丈夫、まだ若いからさ」

No.1059 7点 牧師館の殺人- アガサ・クリスティー 2021/05/26 16:16
"いつか私が人を殺す仕事をやるとしたら、恐るべきはこのミス・マープルだろう。"

実質容疑者がいっぱいいて楽しいぞ!! 実質容疑者から外れる人々も含め、それぞれの思惑や事情、行動に人間関係のカラフルな錯綜が最後にピーーッと整頓される綺麗な風景は、涙が出るほど爽やか。 犯人の心理的偽装トリックはなかなか唸らせるものがあるけれど、如何せん同じ村に心理洞察のスペシャリストが住んでいたわけで不運でした。 随分とギャフンな物理トリックも堂々登場しますが、気にしなくていいでしょう(?)。 それにしても、こんな人の悪い犯人設定(犯人そのものじゃありませんよ)をミス・マープルのデビュー作にぶつけてくるなんて!! ユーモアの横溢も特筆したい所。 さて本書、妙にタイトルがバタくさいなあ青崎有吾の新作、なんて思って手にした人はいませんか。

No.1058 8点 ロートレック荘事件- 筒井康隆 2021/05/24 06:48
“全員が声にならない息を、あっ、と、呑んだ。彼らは一様に、今まで何かに覆われていた眼が本来の視力をとり戻したかのような表情をした。” .. アンフェアなんじゃない。 ただちょっと、やり方が面倒なだけだ。

最後に明かされたドラマで一気に燃え上がりました。 特異に過ぎる犯行動機の暴露だけでは、ここまで心を揺さぶりはしませんでしたね。

読者側はともかく、登場人物達にとって本事件真犯人の意外性は如何なるものであるか、をよく考えると、あるテーマ的なものが浮かび上がりますよね。更に、登場人物の中でも特に或る人物にとってその辺がどんな思いだったのかを思えば。。とんでもない考え落ちの地雷を忍ばせた作品と言えましょう。

アレの目眩し及びヒントとしては、、従兄弟にとって「◯◯の◯◯」が不自然でない事とか、「◯◯」の合う合わないとか、見取り図上で「ある事」を巧妙に目立たなくするやり方とか、唐突に姿を現す「被害者視点」の章とか、ある章からある章への繋ぎの妙とか。。 そっかー、或る人物にダミーの●●感を押し付けてるって構造でもあったのか(そこが肝かな)。。 何より或る人物の特性とそれに付随する特殊状況があるわけですが。。 うーむ、こりゃ実生活で応用出来るライフハックでいっぱいですな。
 
でもね、警部から犯人特定根拠をもっとこってりと演説してもらってから、衝撃の真犯人名指し! というスリリングな場面を作ってもらってもよかった気はします。

アレをネタバラシするのに一章まるまる使って丁寧にやってくれてるのは、ちょっと長いかも。動機の説明も兼ねているから全篇カットは出来ないけど、もう少し「中略」「以下略」的な書き方もあったのでは? なんてね。

まさか、最後の一文に不謹慎なブラックユーモアを滲ませちゃいないよな。。ってちょっと心配もしました。(「●●●の時に●●が必要か?」的な)

無駄無く本題、本題、本題の連続で、独特の冷たい格調に満ちた作品でした。

No.1057 5点 ストーリー・セラー- 有川浩 2021/05/21 20:18
チクショウ●みてえに微妙だな!! サイドビーは後から追加てどういう事じゃ?! (流石にイニシエーションなんとかは期待しなかったが) ギャフンじゃねえよマイケルムーアじゃねえよ。。 特殊設定日常のサスペンス(おかしな言い方)で一気通貫じゃねえのかよ。。 別に知的興味で締めてくんなくていいよ。。 リドルストーリーの振りして振り逃げかよ。。 じゃあなんで俺は5点も献上してんだよ!? だけどまあ、夫婦の物語にはちょっと感動もしたんですよ。。

『脳を知的な作業に使えば使うほど脳の生命維持機能が衰弱する奇病』って、凄いねえ。

No.1056 6点 高台の家- 松本清張 2021/05/19 07:34
高台の家    
急に来るんだもんなあ、心臓に悪いよ、ほんと最高よ。 一見さりげない締めがまた強力! 
ロシア語によるアジア史専門書の古本を辿って。。という導入部が独特です。古本から或る富豪の「高台の家」と繋がりが出来た主人公は、本の元持ち主が数年前に事故死しており、その若い未亡人は元持ち主の両親と豪邸に暮らし続けており、美貌の未亡人のもとには文化サロンの様に青年たちが集まって来ている事を発見。或る日、主人公は青年の一人に呼び止められ、予想外の質問を受ける。。 振り返って見れば、欺瞞のマトリョーシカのような構造が魅力的な短い中篇。

獄衣のない女囚
薄暗い導入部から、徐々に妙~に艶笑ユーモラスな筆致へズルズル、、と緩んでいた所へ一撃!
若さ溢れる男子部と草臥れかけた女子部とに分かれた「独身者アパート」。或る日女子部の風呂場で居住者ではない女の絞殺死体が発見される。被疑者の意外な私生活が憶測される中、その後も意外な死者が続出し。。 振り返れば、殺意のマトリョーシカだ。。。 犯人最後の名台詞は鮮烈! シリアスとコミカルのちょっと不器用な?混濁も魅力の長い中篇。

文春文庫のカップリング。

No.1055 7点 第四の扉- ポール・アルテ 2021/05/17 23:15
フランスの新本格と言われる’87年作。不可能興味より展開の意外さ派手さで魅せる。舞台装置がおどろおどろしい割に軽い雰囲気と「押すなよ押すなよ」みたいなお約束の序盤展開に苦笑していたら、折り返し少し前から、まるでカードの代わりに生身の人間を使ったクローズアップマジックのようなひどくトリッキーな見せ場が次々とフラッシュし始めた。。観察者効果の暴走みたいなエピソードも凄まじい。こりゃ確かにカーの新型モデルと称されもしよう。ところが良いのか悪いのか、本格アイテムをこんだけ思い切って詰め込んだ割にはなんだか軽い。結果的に、ショートショート一発ネタを長篇の体裁でキメるにはどうしたら良いのか、という研究発表のよう。 そして最後の一撃は、事象aの指摘より、むしろ事象bに関するオープンエンディングの凄みこそ、響き渡った。。

密室トリックはまるで熱くない(題名で堂々ネタバレ?してる通り)。各アリバイトリックはどれもまあまあ緩い。だがしかし凄いのは、それら全てを包み込んでの飛翔を見せつけるこの構成の妙に支えられた、と言うよりむしろ破壊された(?)、アンチ叙述トリックの犠牲にでもなったような(?!)灰汁のように浮かび上がった何物か。。 それとやはり特筆すべきは、探偵役のある意味「スルー」のような独特の立ち回り方か。(探偵役と言えば、もうひとつ?重要なトリックもあるわけですが。。) ところでこのタイトル(原題直訳)、アレの事だけでなく、物語全体を包含する比喩的意味合い等はあるのでしょうか??

No.1054 6点 どんなに上手に隠れても- 岡嶋二人 2021/05/14 17:55
「テレビというのは、凄いですね。今の正直な気持ちを言いましょうか。私はね、誰よりも今、テレビを逮捕してやりたい気分ですよ。日本中のテレビを残らず逮捕してやりたい」

スタスタ行ける誘拐エンタテインメント。狙われたのは’80年代中盤女子アイドル。明るくも甘過ぎないユーモア良し。知的スリルでがっちり離さない高速展開に、要所で光るヴァイタルなフェイント。事象の鍵を裏で握ってそうで気になるアーミージャケットの写真家、魅力的です。ヘリコプターと木箱の違和感とか、、じりじり来ます。 終わりが近づいても、真相の焦点が何処に向かうのかなかなか明かしてくれない意地の悪さが最高です。

「どうして、こいつらは、こうなんでもかんでも派手にやりたがるんだ? まったく手に負えない連中だ」 

警察除く登場人物群のグループが、被害者擁する芸能事務所、スポンサー会社、被害者両親の三組を中心に、それぞれ何とも歯がゆい微妙な読者疑惑を継続分担。 最後に来て見事に、或る事をずらしてみせたわけだ。。 そこには微妙〜~な肩透かし的要素もあるんですが。。犯人に多少の唐突感ありですが。。やや呆気なく”詰んだ”かなと思いますが。。誘拐被害者の気持ちが何とも淡泊ですが。。アリバイのアレはもうトリックとも言えないテキトーなもんですが。。それでもこの、最後に視線の先を水平方向に45度だけズラされる感覚はなかなか新鮮。やっとストーリーが落ち着いたかと思ったらコレですもん、最後まで重心ずらすフェイントで抜かれた感じです。 ラストシーン、心理のちょっとした謎?をオープンにして、動きながら終わるのがいい感じです。。

「ただ、オレにはやはり、この事件は根本的なところで狂言臭い感じがしてならないね」 

No.1053 6点 グリーン車の子供(講談社版)- 戸板康二 2021/05/12 00:08
“老優がこういうと、金四郎は、にぎり拳を目に当てて、男泣きに泣いた。”


演劇、歌舞伎、狂言、能、舞踊、オペラ、、著者の本業(演劇・歌舞伎評論家)を自然と活かした、芸能世界ならではのお話が実に巧みに、余裕ある叙述で記された温かな物語群。 謎解きやサスペンス、伏線に反転も柔らかめで一向に構わない。 まるでその筋のファン雑誌か業界紙に連載されたかのような風情だが、初出は様々な小説誌。 どの作も、ラストセンテンスの機智ある優しさが印象的です。

とは言うものの、野暮な言い草ですが、全体的にやたら手掛かりなり伏線があからさまだったり、カチカチの推理小説と思って読むと何気にギャフンだったりするトコも目立つのですよ。。 そこは品の良さで丸め込まれちまうってトコですかね。 後年作になるにつれ、ちょこっとミステリ風味付けした「ちょっといい話」みたいになります。 しかし、全体のイメージで「日常の謎」短篇集などと括ってしまうには、あまりに痛ましい一篇も入り込んでいるんですがね。。


滝に誘う女
手が赤いとか子供を機敏に助けるとか、細かい手掛りからホームズばりにポイントを突きまくるやり過ぎ感はともかく、最初に大枠で掴んだ心理的違和感から被害者の隠れた属性をするすると引き出す機微はなかなか。 

隣家の消息
庭師(?)がどうとか、手掛かりがあからさまに過ぎるミステリ真相はズッコケ大将だが、物語の優しい締めは悪くない。

美少年の死
この動機を「うん、わかるわかる」と納得させる気か(笑)。 ある小道具を移動した理由が光る。

グリーン車の子供
貫禄の日常ホワットダニット古典。 読後、伏線の夥しさに唸る。 しかし、手の込んだ事を。。

日本のミミ
音楽が彩りを添える、ちょっとした酒場人情ドラマ。 女性心理の読み違えにはちょっと笑った(そこが大伏線にしても。。) 消えたサインのトリックに文句言っちゃいかん(笑)。 

妹の縁談
専門知識頼みとは言え、歌舞伎の演目に掛けたアレはなかなか渋い。多重解決ならぬ多重展開(?)もどきの趣向がサスペンスを盛った!

お初さんの逮夜
最後に明かされる小粋な日常心理トリックも然る事乍ら、その少し前に現れる人情トリック(!)の大きさに心動く。。 ドラマ性ある駄目押しまで。。 本作がいちばん好きですね。 

梅の小枝
奔放な若い娘がカラフルに登場して。。日本画の作法に纏わる手掛かりのトリックが綺麗な人情譚。

子役の病気
手掛かりに関して微妙にぎしゃくした所もあるが、、なんともあたたかく微妙な、歌舞伎界ならではのリドル・ストーリーもどき。。なのだろうか。。

二枚目の虫歯
ミステリ的にはほとんどバイリンガル空耳ネタ一本。 面白噺だが、あれこれ軽くて締まり無し。

神かくし
泣かせる人情話だが、泣かせ所にもう少し裏ってやつがあればな。。 ここまでくるともうミステリ云々は結構ですから、って感じですけどね。


小泉喜美子さんの巻末解説、やはり得意分野である所為か、やたら生き生きと「語って」おり、時折うざい程でした(笑)。

No.1052 6点 拳銃を持つヴィーナス- ギャビン・ライアル 2021/05/07 06:54
このタイトルは何かor誰かの隠喩か??.. という疑惑と興味に引っ張られちまうのがミソ。 ユーモアと心理的冒険を両輪に、所々HB式描写もある(これが地味にイイ)。銃撃などアクションシーンは控えめ。主人公が銃器骨董商なだけあって、銃そのものへの愛着や蘊蓄はこってり。とにかくユーモア充溢な事もあり、途中からすっかり軟派なラブコメタッチに流れっぱなしかと思ったが。。。ま、ラストシーンはこれで良しだべ?決して格好良くもなければ男の琴線に触れて仕方ないわけでもないが、その前の女の台詞の印象深さにかなり助けられてるって構造かな。。 絵画密輸のサスペンスがもっと強く締め付けてくれたら良かったし、記憶喪失に纏わるホワットダニット乃至ハウダニットんとこ、折角のミステリ核心部分なんだから、もう少し粘っこく解き明かしてくれてもよかった。明かされる人物相関図、事件全体像はさほど熱くもなければ、意外性でぶん殴られる程でも、機微が滲みる類でもない。ヒーロー性が薄く、ピカレスクでもジゴロでもない、ちょっとぬるい主人公(そのくせ最後に唐突な名探偵気取り!)。ヒロインには言うまでもなく、チョイ役の筈の巨漢醜男ビジネスマンにも喰われてませんかね。 とは言え台所で武器を造る共同作業シーンなどほとんど歴史的に良いし、全体通して充分面白い。けど何かしらピリッとしないんだな、ライアルさんへの期待値が邪魔をして。 まあでも「拳銃」と「絵画」がミステリ興味の核心部分で間違いなく緊密に結び付く、得も言われぬトリッキーさ加減はニヤリとさせてくれた。 “さあ、葉巻に火をつけよう” 

No.1051 6点 殺人は女の仕事- 小泉喜美子 2021/04/28 23:37
万引き女のセレナーデ・・・長すぎるコント。こんな緩い話の味付けのため、ひと一人障碍者に。。 4点
捜査線上のアリア・・・モノクロ日本映画の様な人情犯罪ドラマ。腐れ縁の草臥れた男女に挟まれ、少年が話の鍵を握る。題名と内容、雰囲気に違和感。 5点
殺意を抱いて暗がりに・・・エンドが豪快過ぎるイヤミス。夜中、マダム達の不毛な集まりを抜け出した女は。。。実体験を元にしてるって、一体どこの部分だ。。(だいたい想像付くけど) 5点
二度死んだ女・・・これは沁みる。またイヤミス主人公に墜ちそうな女かとヒヤヒヤしたが、、含みを持たせて綺麗に終わった。音楽が人を救うような話。 7点
毛(ヘアー)・・・結末意外性より構造のお洒落さを選んだな。独特の希望の光で終わる、○○関係のお話。赤ん坊への愛情描写がわずかな仄めかし以上にあればよりディープだった。でも、これでいいのかな。 5点
茶の間のオペラ・・・母と姑と娘と嫁の物語。イヤミスとイイミスの間を往復しつつ、、こ、このエンドは斬れ味あり! 7点
殺人は女の仕事・・・ひどくサディスティックな気分にさせてくれる爽快イヤミス。舞台は出版業界。全七話の主人公の中で、この女こそ抜きん出て愚か者。これも実体験ベースだそうですが。。(だいたい想像付く) 6点

青樹社ビッグ・ノヴェルズ。 男子よりは女子に、少女よりは熟女に受けそう。

No.1050 7点 九尾の猫- エラリイ・クイーン 2021/04/26 23:33
とても本格ミステリとは思えないよな、疑惑を呼ぶ謎の構成へと妙に早いタイミングから雪崩れ込むのは何故だ?! 構成の妙と言うより妙な構成じゃないか!? まさか。。いろんな意味で、まさか。。 言ってみりゃ停滞の部分が長すぎて、ページ数の問題じゃあないんだけど、その部分が詰まらなくはないんだけど、ちょっとつまづいてやしないか、、鮎川哲也「白の恐怖」のアソコを彷彿とさせる。。などと疑いと期待の眼で見張っていたら。。。。 終盤、舞台が欧州に移ってからの展開というか、重みある対話はなかなかにスリリングじゃないか。最後に博士がエラリーへ向ける言葉の花束も熱い! あの時代あの時節にわざわざ対面にこだわったのも納得だが、現代のテクノロジーを以てして果たしてテレミーティング対応は可能だろうか。。

「クイーンくん。 理解できるだけの科学的知識がきみにあるんだろうか」

やはりあの、被害者の年齢が徐々に下がって行く、その年齢差に一度だけ大きな隔離がある、女性は全て既婚者、この伏線であり謎の解かれるシークエンスにこそ最強の本格ミステリスプラッシュが在った。そこに較べたら、表面上はより重そうなアノ要素など、見掛け倒しとまでは言えないが、軽いもんだ。。とは言えそこに根差す大ホワイダニットの構造とエナジーは本格ミステリ興味を確実に支持、加速している。 パニック小説的要素も力強い味付け。しかし、あの絶対的アリバイに誰も気づかなかったのはどうかしてますぜ。。

“まさにその場で<猫>事件は終わると思った、とふたりの刑事はあとになって言った。申し分のない状況だった。”

ミッシング・リンク。。。そうか、○○だけは誰もが”例外無く”する事なんだよな。。もしやEQ(著者の方)はそこから閃いて、xxxパターンと巧妙に結び付けたのかな。。そこへ身の毛もよだつ動機の噴出を結び付けたのか。。

それにしても、物語の始まりはとんでも無き不謹慎犯罪ファンタジーの様相から。。ファンタジーやったら何でもええんかいや?! まるでその補償でも望むように迸るユーモアの言い訳じみた云々かんぬん。。よくもそんなとっから少しずつしゃあしゃあとユーモア冒険イェイイェイみたいなテクスチュアに転がり込んだものだな、恥知らずが!! と冒頭数十頁は苦笑の連続でしたが、、それで最後はこれだもんな。。その手の権威(?)金田一さんが見たらどう思うんでしょうか。 あと題名を「丸尾の猫」と見間違えると一気にちびまる子ちゃんの世界がひろがる事は否めないです。


最後、ネタバレになりますが。。。。 もう少し、あの若い二人なり誰なりにそれとなく疑惑を寄せるディヴァイン風?クリスティ風?ミスディレクションがあっても愉しかったと思います。

No.1049 9点 アンクル・アブナーの叡智- M・D・ポースト 2021/04/22 23:40
アメリカ開拓時代。危うい治安環境でキリスト教に縋る心情が濃い空気の中、法治と民主主義への道を手探りする志ある者たちが牽引する、他のミステリでは得られないこの独特の熱気と真摯な緊張感、そして暗闇の中で出逢う眩しい光の感慨。どれも掌編サイズでありながら何故か重厚無比な魅力を誇って憚らない、所謂黄金期に少し先行する、古典的本格ミステリ集です。

ドゥームドーフ殺人事件/手の跡/神の使者/神のみわざ/宝さがし/死者の家/黄昏の怪事件/奇跡の時代/第十戒/黄金の十字架/魔女と使い魔/金貨/藁人形/神の摂理/禿鷹の目/血の犠牲/養女/ナボテの葡萄園

「藁人形」の真犯人特定に至る、ポースト独特の痛み。「養女」のハウダニット暴露へぎらぎら、じりじりと至るスリル。 「ナボテの葡萄園」の結末に向かっての熱すぎる大進行劇。 等々等々。。。。

語り手の少年(アブナーの甥)の成長を追って時系列に、オリジナル短篇集から抜粋+追加で再編成した創元版『アブナー伯父の事件簿』と異なり、早川版のこちらは収録順含めオリジナル短篇集そのままの翻訳(そのため時系列は行ったり来たり)。大クライマックス「ナボテ」を最後に持って来る気持ちは分かるが、同作を早々と前半に置く創元『事件簿』の方が全体通しての緊張感は上回っているかと思わなくはない。

某作の古式ゆかしい物理トリックが突出して知られる不幸があるが、実際は、仮に表面は物理的でもどこまでも心理に軸足の、人間心理の動きを神の摂理に照らし合わせて事件と人生の解決に持ち込もうとする気概の作品が多い。 探偵役アブナーの、コミュニテイでの申し分無い名士というかヒーロー性も特筆出来よう。

「理性とは人間特有のものなんだ。神が理性を必要とするなんて、万が一にも考えられん。理性とは、真実を知らん人間が、一歩一歩真実に近づいてゆく手立てなのだ。」

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.68点   採点数: 1248件
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