皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
バードさん |
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平均点: 6.17点 | 書評数: 332件 |
No.172 | 8点 | 空飛ぶ馬- 北村薫 | 2019/11/01 09:58 |
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この優しい雰囲気がいい。更にそれが読者にふつふつと伝わる文章力が見事。また、全体的に文章が上手いのか伏線が良い意味で物語に隠れており、推理パートで伏線が回収されると、そういう意味だったのか!となる。
デビュー作でこのクオリティって凄いわね。北村さんのファンになったかも。点数は各話の平均+1点(デビュー作補正)。 文学と落語の引用が多く、教養の無い私はそこでにやりと出来なかったのが悔しい。94年の創元文庫での安藤さんの解説にもあるようにぜひ時間をおいてから再読したい本です。 収録作毎の書評 ・織部の霊(7点) 切腹の伏線が重要。私は本のページを破っていたのかと思いました。 ・砂糖合戦(6点) 「私」が微妙に円紫さんに対抗意識を持っているのが微笑ましい。事件の動機は逆恨みだが、現代では逆恨みってのは馬鹿にできない犯罪の動機になりつつあるね。 ・胡桃の中の鳥(6点) 正ちゃんが良いキャラ。仮に事件が無くても女子大生と円紫さんの旅だけで間が持ちそうなのが凄い。 ・赤頭巾(6点) 本短編集の中では暗めの話でいわゆるふつーのミステリの空気に近いが、この作品群の中では逆にそれが個性になっている。話は6点だが以下の何気ないやり取りが本短編集の中で一番気に入っている。 円紫「和食にしますか、洋食にしますか、それとも中華?」 私 「和食が好きです」 円紫「そんな気がしました」 私も読んでてそんな気がしましたもん。 ・空飛ぶ馬(8点) これと「織部の霊」は読者も推理可能だったのかな、と思う。木馬を消した人物はヤマ勘でも分かるが、消した理由はきちんと途中のヒントを拾わないとわからない良作ミステリ。 |
No.171 | 5点 | 神様ゲーム- 麻耶雄嵩 | 2019/10/28 13:37 |
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麻耶さん本2冊目。「貴族探偵」が良かったので期待していたが、残念ながら本作はあまり好きでない。読後のどんより感は道尾さんの「向日葵の咲かない夏」に似ている。
「オリエント急行」でも感じたことだけど、斬新さと称して突飛なことをすれば必ず面白いというわけではない。本作では神様が推理無用で事件の真相を明かすが、要は作者が言ったからこれが答えです、というような乱暴さがあり私にとってはイマイチでした。 基本点は4点で最後に意表を突かれたのでその分1点足す。(犯人は父親と予想してたので。) 余談だが、本作のようにお子さんを客層にするなら、このような変化球本でなく、もっと教科書的な探偵小説(クイーンのように犯人当てゲームができるような)の方がいいんじゃないかしら。ミステリのお約束に慣れていない読者がこの本を読んでも、いつの間にか事件が片付き、ぽかんとするだけだと思う。 |
No.170 | 5点 | アリバイのA- スー・グラフトン | 2019/10/25 10:06 |
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この本の一つ前に読んだ「双頭の悪魔」の中でアリス達が話題に出していたのでスー・グラフトンのデビュー作である本書を読んでみることに・・・、というわけではなく元々次はこれを読むつもりでした。偶々だが、触発されて読んだみたいな順番になったわね。
本書はこてこてのハードボイルド系。ハードボイルド嫌いな方は間違っても読まない方がいいかも。ただし本書はハードボイルドが売りのいわゆる広義のミステリに分類されるかと思いきや、物語の核である謎はフーダニットが中心、事件の裏に仕組まれた読者を驚かせる意外性など、従来の本格ファンもおいてけぼりにしない要素を多く内包していると思う。(訳者あとがきによると作者はクリスティを目標にしているようなので、その影響かも。) 全体としてそういう良さを感じた反面、個人的に惜しいと思う点が四つある。 1) 主人公が真実を解き明かす方法がヤマ勘のように見える。いわゆる論理が無いような気がするが・・・。(私の読み方が甘いのかな?) 2) 冒頭の1パラグラフは余計。主人公の行動を公式にネタバレしているのでクライマックス場面のハラハラ感が減少。 3) 中盤までの関係者を一人ずつ当たるパートが長すぎてだれる。丁寧に書く人数をもう少し減らした方が良かったのでは、と思う。 4) 人物同士の関係が分かりにくい。結構終盤まで登場人物一覧に戻りながら読みました。 1), 2)はミステリとしてイマイチだし、3),4)は世界観に入り込むのに障害となるので総合的に4点くらいの印象。その一方上記に書いたような本格読者向きの良さもあるし、本作でデビューした主人公キンジーの今後の活躍も気になるので1点おまけした。 |
No.169 | 8点 | 双頭の悪魔- 有栖川有栖 | 2019/10/19 17:33 |
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質のいい犯人当て小説を世に出している新本格作家は?と聞かれたら誰だろう?私的には「孤島パズル」を書いた有栖川さんは筆頭候補者の一人である。
本書は三回もの読者への挑戦状付きで非常に楽しませてもらった。(その分読むのに4週間くらいかかったが。) 豪勢な犯人当て×3をもってして基本点を10点とする。ただし犯人当てクイズを売りにするからにはその論理を多少厳しく評価してみる。 (以下ネタバレ) 挑戦状の事件ごとに評価 ・小野殺し(第一の挑戦状) 犯人が単独犯なら(これ重要)、江神のロジックで犯人を絞れる。私も推理が的中。感心した点も文句を言いたい点もないのでここ単体としては±0。 ・相原殺し(第二の挑戦状) 相原が自ら手紙を右後ろポケットにしまうのは不自然という点から、小学校で密会することを伝える手紙が一度犯人に渡ったという、望月の推理には感心したので+1。(相原が手紙を渡せていなかった場合を私は捨てきれませんでした。) アリスの推理は私も的中。しかしここは有栖川さん(作者)に一つ文句がある。犯人特定パートにてアリスが 「相原さんが手紙を書いたのが四時。僕たちについて宿を出たのが六時。その間、宿の外部の誰とも接触していません。書いた手紙をどうするつもりだったんでしょうか?」 (p.533 十三章 3(1999年 創元推理文庫))と言い、これを起点に相原が手紙を渡せた相手を限定していく。しかし挑戦状より前の情報で相原が四時~六時の間に宿に籠っていたという記述はない。 該当場面を見ると四時頃に相原が手紙を渡した場面から、飲み会の場面に移りその会話の中で六時頃に相原とアリス達が宿を出たという情報がでる。警察の事情聴取パートでもこの時間帯の相原の行動を明記している箇所はない。つまり読者は 「四時~六時の間に相原が直接犯人(例えば診療所にいる中尾や保坂)のもとに出向いて小学校で密会することを伝えようとするも、何らかの理由で直接会えなかったので、念のため用意した手紙を犯人宅のポストにいれた」 というストーリーも作れる。 これは挑戦状の前に必要な情報に不足ありと言えるだろう(-2)。 ・八木沢殺し(第三の挑戦状) これは別解があるように思える。どういう別解かというと犯人=千原由衣という解である。 「マリアがピアノの音を聞かなかったのはおかしい。(作中の江神の推理と同じ。)ゆえに犯人は八木沢がピアノを弾けない状態にあると知っていた。八木沢がピアノを弾けない状態とは眠っている状態、つまり音楽室に入る前に飲んでいたコーヒーに睡眠薬を仕込めた人物千原由衣が犯人である。」 という推理である。これが頭によぎったため犯人を千原由衣と真犯人の二択で絞れなかった。上記の推理のネックは小野殺しの事件の顛末を盗み聞きした人物Xと千原由衣がイコールでない点であるが、X=殺人犯は作中でも江神の推測で終わっているので否定材料にはならないと思う。 この別解は動機の点で苦しいが、可能性が否定されないうちは-1です。 あと犯人特定の決め手となった、死体とピアノに香水をふりかけたという行動に犯人のメリットがなく、全登場人物の行動の中で一番不自然な行動と思うので-1。 ・事件全体について 交換殺人が行われていたというのは相原殺人の犯人の家から小野の耳が出てきたあたりで想像できたので±0。しかしそれを直接二人がやっていたのではなく、仲介人がいた、というのは完全に意識外で二つの事件の結び付け方としては面白く、非常に驚きだった(+1)。 しかし一連の事件が複数人の共同犯罪とすると小野殺しの犯人に異議をさしはさむ余地がでてくるんだよね。例えば第一の犯人(小野殺し)と第二の犯人(相原殺し)の間で 第一の犯人「俺が香水をかけておくから、後から鍾乳洞に入り、においを頼りに小野のもとに行き、殺せ。」 第二の犯人「了解。」 というやりとりがあれば、第二の犯人を小野殺しの犯人とすることもできる。(第一の事件の段階で橋は落ちていない。)それに実は他にも別解を作れる。総合的にこれも-1。だから共犯ものは苦手なんよ。犯人達の自由度が上がって別解が増えすぎるから。 ・最後に勝手な思いつきで勝手に加点 第一の犯人が小野の死体を岩棚の上に担いだ理由は、もちろん共犯者と思っている第三の犯人(八木沢殺し)を容疑圏外に外すためだろうが、それ以上に愛するあの人を容疑圏外に外したかったのではないかと思う。これは作中で話題になっていないので真相は不明だが、なんとなくこの解釈は気に入っている(勝手に+1)。 以上で合計8点。真面目にロジックで勝負をしてきた作者にはこのくらい真面目に採点します。いつもより厳しめかもだが、これはこれでということで。 |
No.168 | 6点 | ミッキーマウスの憂鬱- 松岡圭祐 | 2019/10/12 15:26 |
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他の書籍で紹介されていたので手に取った本書。当初はミステリと認識しておらず本サイトで書評を書く気は無かったのだが、解説に痛快なミステリー小説とあったので書評を書くことに。
本書の特徴はディズニーランドのバックステージをほどほどにリアルに書いた点で、読んだ者は皆おそらく、この話どこまで事実なのかな?と思うだろう。しかしゲストに夢を提供するキャスト達の仕事ぶりを見るにその真偽を追求することは本書の楽しみ方と違うのだろう。読者はそういう細かい点は気にせず、キャスト(松岡さん)の魔法にかかって夢の国(本書)の物語を満喫すべきなのだろう。 肝心の物語であるが、夢を見ていた新人の主人公がディズニーランドの裏の現実を知り、当初は複雑な感情を抱くものの、だんだんと自らの仕事の意義を見出す話で、悪く言うとそれほど新規性や意外性がある話ではない。しかし始めは単なる世間知らずな雰囲気の主人公が最終的に仲間やゲストを思って行動する立派なキャストになる成長過程は単純に読後感がよくおすすめ。 東京ディズニーランドの経営会社と現場のキャスト達との戦いという点は組織対個人の要素があり、書き方こそ大分違うものの横山秀夫さんのストーリー展開に似ているかもしれない。 |
No.167 | 5点 | ミステリー傑作選・特別編6 自選ショート・ミステリー2- アンソロジー(出版社編) | 2019/10/08 12:05 |
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前作「自選ショート・ミステリー」の正統続編で、出来はいい意味でも悪い意味でも前作と変わらない。
全体的な評は「自選ショート・ミステリー」の書評と同じなので、以下特に気に入った個別作品の書評。 新保博久 「雨のち殺人」 本短編集で一番出来が良いと思った。女性を脱がして視聴率を稼ぐ天気予報という、今だと少し問題になりそうな番組設定で読者を導入し、奇抜な番組を利用したアリバイ工作がシンプルながら光る。そしてそんな工作が天気予報キャスターのまさかの行動で裏目にでるという展開。 物語のオチとしても十分かつ、周到なアリバイ工作も予期せぬ展開の前には無力ということを思い知らせる良い終わり方と思う。 斎藤肇 「足し算できない殺人事件」 短い話に二つの叙述トリックをねじ込んだせいか、非常に読みにくい。それに叙述のやり方が結構力技というか、美しさを感じないやり方なので特別優れたミステリとは思えない。しかし、雰囲気ホラーでお茶を濁す作品が多い中で何とかミステリとして爪痕を残そうとしてる感じがし、結果的には割と好きな話です。 依井貴裕 「奇跡」 結婚式の二次会で、客の手品師が披露した奇跡のネタが本短編の謎である。手品はネタが割れるとしらけるというのが定番だが、この手品のネタはそうでもなく、寧ろよくそんなリスキー(手品師とその友人の花婿にとって失敗した時のリスクが大きい)な手品をやったなあと感心させられるものである。読後感がすっきりしているのも本短編の魅力。 高井信 「不思議な能力」 不思議な能力として、あんなくだらん能力を紹介されたら主人公みたいに呆れるしかないでしょう(笑)。呆れかえった主人公が浴びせる最後の言葉が皮肉とユーモアの利いた返しで気に入った。 上記4つからは落ちるが、新津きよみさんの「ホーム・パーティ」、斎藤栄さんの「星の上の殺人」、篠田節子さんの「春の便り」あたりも気にいっている。 |
No.166 | 4点 | 超・殺人事件―推理作家の苦悩- 東野圭吾 | 2019/09/24 10:12 |
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本書はミステリの短編集よりも推理作家周りのブラックジョーク集である。(もちろんミステリ要素のある話もあるが。)
今回ブラックジョークの潜在的な難しさについて少し思うところがあったので少し書いてみる。ブラックジョークの基本は他人の不幸は蜜の味という奴で、人間の嫌な性質を利用している。 この「他人の不幸」が曲者で、決して「自分自身やその周辺の不幸」ではジョークとして成立しない。そしてこの他人か自身の周辺かの線引きは完全に個人の性質に依存するため、万人受けするブラックジョークなるものは原理的に存在しないのである。 なぜこんなことを思ったのかというと、このケースが本書で私自身に当てはまりまして。 問題は二番目の「超理系殺人事件」と四番目の「超高齢化社会殺人事件」で、まず「超理系殺人事件」の方は理学を学んでいる身としてどうにも「他人の不幸」と思えず、どにかく馬鹿にされているように感じた。同様に「超高齢化社会殺人事件」の方も周りに認知症の方がいるため、それを茶化した終わり方にもやもやを感じた。 もちろんジョークなんだからそうカリカリするなと言われればそれまでだが、本書はどうしてもこの二編に引きずられ全力で楽しめなかった気がする。(他の話は結構好きなのもあったけどね。) なのでこれまで読んだ東野さん作品の中では低めの点数とするが、あくまで個人の感想なので(悪徳セールスみたいな言い訳だけど)、これから読む方は私の感想などは気にせず是非「他人ごと」として本作のジョークを楽しんでほしい。 上記二編以外の感想 ・超税金対策殺人事件 これは単純に笑った。主人公の仕事がなくなるオチだが、そりゃあんなひどい仕事をしたらそうなるよね(笑)。 ・超犯人当て小説殺人事件(問題篇・解決篇) 本短編集の中でミステリ要素が一番強い話。叙述トリックに気が付くことを犯人あてに組み込むという技巧が光る良短編。オチもそりゃそうだ(笑)という感じでコメディ要素もいい。 ・超予告小説殺人事件 小説の展開通り殺人が起こるが、最後は作者自身が小説の展開通り死んでしまうというオチ。 昔ジャンプで連載していた「アウターゾーン」にありそうな話。結構好きです。 ・超長編小説殺人事件 上手さとかはなく、ひたすらページ増設によるごリ押しのパワーギャグですね。本短編集中で一番ブラック要素が薄いと思う。全体の中では微妙。 ・魔風館殺人事件(超最終回・ラスト五枚) 体をはった一発ギャグならぬ、小説をはった一発ギャグ。読む前に目次を見ないほうが良いと思います。 ・超読書機械殺人事件 東野版の「笑ゥせぇるすまん」。ミステリ要素はないが、本読みとして心にとめておきたい話ではあるかな? |
No.165 | 7点 | Zの悲劇- エラリイ・クイーン | 2019/09/22 14:25 |
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(再読シリーズ7)
ドルリー・レーンシリーズも折り返しの本書、出来や面白さは別に自分にとって思い入れのある一冊です。(そういえば書評を書いていなかったのに気が付いたので、今回読み直し書くことに。) というのも、実は解決編の手前まで読んで少し考えて放置、内容を忘れたのでまた最初から読む、というのを何度かやってしまった。(まるで電車で寝過ごして、戻るもまた寝過ごして目的の駅を通り過ぎるという感じ。) おかげで図らずとも問題編の内容をほとんど覚えることになった。これだけ時間をかけたのだからなんとか犯人当ててやる、と後半は意地にもなり、おかげで犯人当ては無事成功しました。しかし、作中の論理でまずいだろうと思う点があるので、下でつっこませていただく。 ・本書の論理の穴 私が当てられたように読者が「登場人物」の中から犯人を当てるのに必要なヒントは十分提示されていると思う、そこは流石のクイーンというところ。 しかし、クイーン作品だからあえて厳しめに評価するが、私は本書のロジックには穴があると思う。 解決編によると真犯人は監獄の関係者で夜勤担当でない、また水曜日に殺人ができない理由があったという。これについては穴などない。ただし水曜日に殺人ができない理由をスカルチの死刑があったからと決めつけるのは強引じゃなかろうか? もちろん普通に本書を読めば水曜の死刑に立ち会ったのだろうと推測できる。しかし犯人はスカルチの死刑とは無関係な用事で殺人を行えなかった可能性を本書では否定していない(と思う)。 私は登場人物紹介の中以外に犯人がいるはずないというメタ要素から、容疑者をマグナスに絞れた。しかし登場人物紹介を見られない作中のキャラクターは他の監獄関係者も網羅的に調べ、そのうえで水曜日に殺人ができない理由はスカルチの死刑があったためだ、と論理的に導かないといけないと思う。 |
No.164 | 7点 | DEATH NOTE アナザーノート ロサンゼルスBB連続殺人事件- 西尾維新 | 2019/09/14 20:12 |
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(再読シリーズ6)
部屋の片づけをしていたら昔読んだ本書がでてきた。掃除そっちのけで読んでしまったが(おい!)、「DEATH NOTE」のスピンオフとしては満点に近い出来ではないか。あくまで他人の褌なので7点としてるが「DEATH NOTE」ファンなら是非一読を。 本書の犯人であるビヨンド・バースデイは死神の目を持っているという設定だが、デスノート無しの事件で死神の目の設定をこれだけ活かすとはお見事である。またLというキャラクターを漫画で知っているからこそ引っかかる例の仕掛けが面白い。 スピンオフとして気になる点は、南空ナオミの性格が原作から想像されるものより若干ユーモラスな風になっている点かな。ナオミが主人公として物語を引っ張る以上少し盛られるのはしょうがないか。(まぁ原作での出番が少ないし本書のキャラ付けも好きだけどね。) 密室を作った理由や、藁人形の役目などミステリとしてもいいと思う。ただ西尾さんらしい言葉遊びは少し過剰かなとは思ったわね。 |
No.163 | 6点 | 生首に聞いてみろ- 法月綸太郎 | 2019/09/07 20:40 |
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法月作品はそれほどたくさんは読んでいないが、これまで読んだ作品のアベレージを踏まえある程度期待値を上げて臨んだ本作。
ストーリーの展開は長さを感じさせない動きのある話で面白かった。 また、律子と結子の入れ替わりは予想してなかった(堂本と同じく結子が母親と考えていた)ので、そこは上手く裏をかかれたかな。ただそれ以外、特に石膏像の首の真相はかなり早い段階で予想でき、ミステリとして少し先が読めすぎたきらいがあった。(これは私と同じように予想する人が多そう。) あと私は気にならなかったけど、最大の謎の一つである首を切った理由に不満がある人も多そうと感じた。行き当たりばったりの中で、見立てのためにそこまでやるのは結構な労力だろうしね。 細かい点を見ると上手なんだけど、ミステリとして派手さに欠ける作品という印象。(作中の事件は相当派手なんだけどね。) |
No.162 | 2点 | きみのために青く光る- 似鳥鶏 | 2019/09/03 07:37 |
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初の似鳥さん作品だが、本作の文章とかキャラクターの感じはどーーにも好きじゃない。
悪い意味で現代作品の雰囲気(二番煎じというか上辺な感じというか・・・)を感じてしまった。青藍に光るってだけで病気のコンセプトも無いし、ストーリーは簡素な感動もので大していいと思えず。好きな方もいると思いますが、すみません。 |
No.161 | 6点 | 2分間ミステリ- ドナルド・J・ソボル | 2019/09/01 21:17 |
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軽い推理クイズ本として中々面白い。こういう本好きなんだよね~。私は合間合間に解いて4ケ月くらいで解き終わりました。
知識と頭の柔らかさの両立が必要なので、どんなに勘のいい人でも正解率7~8割が限界かな。(全問正解はかなり厳しい。) ネタバレすると一気に読む価値無くなっちゃうんで、問題内容には触れずに私の正解・不正解だけ記録しておきます。(例外的に和訳が苦しかったと思われる問題だけ印をつけておく。)皆さんぜひ私の正答率を超えるよう頑張ってください。 〇33 ×29 △9 勝率0.53 以下は次に解くときに比較する用の記録です。書評でないですがすみません。 01 ○ 02 ○ 03 △ 04 × 05 ○ 06 ○ 07 △ 08 × 09 △ 10 × 11 ○ 12 ○ 13 × 14 × 15 ○ 16 △ 17 △ 18 △ 19 × 20 ○ 21 ○ 22 × 23 ○ 24 × 25 × 26 ×(和訳で良さが激減) 27 ○ 28 ○(和訳で良さが激減) 29 ○ 30 ○ 31 ○ 32 × 33 △ 34 ○ 35 ○ 36 ○ 37 × 38 × 39 × 40 × 41 × 42 ○ 43 × 44 ○ 45 ○ 46 ○ 47 × 48 ○ 49 ○ 50 ○ 51 × 52 × 53 ○ 54 × 55 × 56 ○ 57 × 58 ○ 59 ○ 60 ○ 61 × 62 △ 63 × 64 ○ 65 △ 66 ○ 67 × 68 ○ 69 × 70 × 71 × |
No.160 | 9点 | ハンニバル- トマス・ハリス | 2019/09/01 20:59 |
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あのハンニバル・レクター博士の名前を冠した本作、胸糞悪い展開も多いし、グロ描写も容赦がないが、とても楽しめた。
本作の素晴らしさは二つあり、一つ目はメインキャラのキャラクター性の濃さ。二つ目は実在の舞台を活字から感じさせる情景描写だ。 特にキャラクターに惹かれたのでそこを中心に書評を書く。 レクター博士、クラリス、メイスンあたりのキャラクターは特に特徴があり、他に類をみない個性を感じた。 レクター博士は間違いなく極悪人なのだけど、嫌いになれない。というかあれだけの悪人なのに本書を読むと好感を抱くという絶妙な書かれ方で、作者の上手さが光る。 クラリスは一貫して誇り高いFBI捜査官なのだが心の奥底にレクター博士に共鳴するなにかを潜ませている。最終盤のクレンドラー殺害を見るに彼女の最後のストッパーは抜けてしまったのだろうか・・・。 メイスンはまず見た目を想像したらダメだった(笑)。悪趣味な悪役は世にたくさんいるが、ここまで本人の力がない悪役は珍しいだろう。よくもまああんな恐ろしい復讐思いつくわ。レクター博士への復讐方法はともかく、恨みはもっともだが。 自分なりにキャラクターを読み解いたつもりだが、おそらく本書で彼らの情報をいくら知っても、共感はできないのだろう。 最後の方の博士の 「自分がどんなにこの女に関する知識を深め、その内面に食い込もうとも、この女の気持ちを完全に読み取ったり、この女をわがものにしたりすることは到底不可能だろう」 という独白が本書の全てを表すのだと思う。 上記書評のように濃いキャラが織りなす緩急のきいた物語に大満足なのだが、本書にはミステリ要素が全くないので、このサイトで満点をつけるわけにはいかないだろう。ということで9点。 |
No.159 | 8点 | 愚者のエンドロール- 米澤穂信 | 2019/08/21 12:13 |
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本格ミステリでは殺人事件を扱うものが多く、それは事件の深刻さを使って読者を物語にのめりこませる策の一つである。古典部シリーズはそういった殺伐さが無いため、あっさり目の印象を受ける人が多いだろう。しかし、あっさり読めるがガチガチの伏線と謎解きが本書にはある。
・お見事ポイントその1 奉太郎の推理 2年F組の途中までのビデオから導きだされる犯人は奉太郎の推理どおりカメラに写っていない7人目しかありえないだろう。これはビデオ視聴者から見れば叙述トリックになるわけだが、他の5人に犯行が不可能な以上アンフェアではない。読んでる私も同じ推理にいたった。 ・お見事ポイントその2 出題者(本郷)のミステリレベル ビデオを見ての推理は奉太郎の解答で間違いない。しかし、本郷が叙述トリックを使うことはありえない。つまり奉太郎の解答は間違いということになる。これは現代の新本格になれたミステリファンの性質を逆手にとった素晴らしい仕掛けだと思う。(このしかけで+1点。)出題者が常にミステリ玄人とは限らないのだ。 ・お見事ポイントその3 では、なぜビデオを見ると奉太郎の結論になっちまうのか? これも学生のいい加減さが発端になっており無理のない理由である。シャーロック・ホームズ短編集とアンケートの伏線から、ビデオが本郷の意図していない仕上がりになっている所まで読みきれる真の"探偵"はどのくらいいるのだろうか?(私は奉太郎の推理が限界でした。) 米澤さんの作品は「氷菓」、「インシテミル」に続いて3冊目だが、圧倒的に本書の出来が良いと思います。 |
No.158 | 7点 | 日本傑作推理12選(Ⅰ)- アンソロジー(海外編集者) | 2019/08/19 22:58 |
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古い時代のミステリは現代から見ると古臭く感じるものも多く、本作もそういった側面が当然ある。(私の平均点は6点弱。当時のファンが読めば+1~2点といったところか。)
その一方現代視点でも上手い!と感じさせる作品も多数あり、クイーンの選球眼の良さが伺える。 戸川さんの「黄色い吸血鬼 THE VAMPIRE」が少しホラーテイストだが、他にはポーや乱歩の好きな怪奇趣味全開の話はなく、ほぼ全てがリアルな舞台設定の話である。これは当時のミステリのはやりを反映しているのだろう。 60~70年代のミステリが系統的にまとまっている上で、クイーンや編集委員の説明もしっかりある本書は、当時の作家の個性を把握できる良本である。ということで総合点は各話の平均点+1の7点で。 (以下個別の書評) 石沢英太郎 「噂を集め過ぎた男, TOO MUCH ABOUT TOO MANY」 7点 全員が共犯というわけではないが、腹に一物ある連中が部分的に本当のことを言えず、それによって殺害動機が隠蔽され、警察が困るという点が面白い。最終的に犯人がぼろ(?)を出すが、金をせしめる手口はお見事。犯人が被害者の筆跡を真似た手紙を送るシーンがあるのだが、筆跡というのはどのレベルまで模倣すると警察を欺けるのだろうか。これは話のあらではないけど疑問に思いました。 松本清張 「奇妙な被告, THE COOPERATIVE DEFENDANT」 8点 普通犯人は警察に捕まらないように試行錯誤するものなのに、あえて警察に捕まってから無罪を勝ち取るために工夫をこらしていたというパターンは初めて読んだ。なので本当は7点くらいの面白さだけど、初めて補正分1加点。ただし現代で同じような策を講じてもほぼ100%失敗するだろう。科学捜査の発展により、直接証拠を完全に隠蔽するのがとても難しい時代になりつつあるからね。 三好徹 「死者の便り, A LETTER FROM THE DEAD」 4点 好きな人には悪いがオチが気に入らない。主人の敵を討つのに新聞社に手紙送ってもしょうがないような気がしてならない。手紙の消印の仕掛けはシンプルで良いと思う。 森村誠一 「魔少年, DEVIL OF A BOY」 5点 読みやすい文章でさくさく読めた。その点は加点ポイント。しかし、本作はオチがかなり序盤で読めてしまった。短編なのでしょうがない側面もあるが、ミステリで先を完全に読まれるのはやはり手痛い失点だろう。実は英語タイトルのA BOYが結構なネタバレなのよね。魔少年が素直に大野宗一をさすならTHE BOYになるもんな。こういうの見ると、やっぱり日本語って英語に比べて曖昧で、人を騙しやすい(つまりミステリ向きな)言語だなぁ、と思ったり。 夏樹静子 「断崖からの声, CRY FROM THE CLIFF」 5点 事件の真犯人は元々容疑者が少ないので明らか。この話のメインの謎は一見アリバイが成立する中どうやって殺したかという点。トリック解明部分を読んで文句はないけど、特に面白いとも思えなかった。 西村京太郎 「優しい脅迫者, THE KINDLY BLACKMAILER」 6点 非常に読みやすい小話で、オチも明快。保険金目当てであえて殺されるというのは、現代視点だと目新しい話とは言えないが、短編でさくっとまとまってる本作は高評価。ひき逃げしてるし、自業自得なのかもしれんが、結果的に人を殺めることになった床屋の店主は災難ね。現実でやましいことをネタに脅迫されたらどのように対処するのが正解なんだろうか?ま、まぁ私にゃあ脅迫されるネタなんてないけどね!はは・・・(冷や汗)。 佐野洋 「証拠なし, NO PROOF」 7点 未必の殺意の一種だけど、こういう事件ってどのくらい現実であるのだろう?もし、現実でこういう感じで人を殺したら、罪人にならないにしても、それ以前と同じようにのほほんと暮らせるのかな?なんとなく江戸川乱歩さんの「赤い部屋」に似たしかけと感じた。(話の雰囲気は大分違うが。) 笹沢左保 「海からの招待状, INVITATION FROM THE SEA」 6点 もう少し事件を複雑にすれば長編にも使えそうな設定(イニシャルに共通点がある見知らぬ男女が集められて、過去の事件について討論する)で、社会派全盛の中で古き良き探偵小説の雰囲気を感じた。短編だからしょうがないかもしれないが、解決があっさりしすぎで、少し物足りない。招待主(久留米鈴子の姉)が招待客の中に混ざっているというのは途中で予想していたパターンの一つだった。一つ、招待状の名前に海を使った理由だけが最後まで読んでも分からなかった。(読解力が足りないのぉ。) 草野唯雄 「復顔 FACIAL RESTORATION」 6点 復顔法にあまりなじみがなかったので新鮮だった。ググったところ復顔の際にネックになるのは耳(軟骨のため白骨化すると残っていないことが多い。)と瞼(一重か二重かで顔の印象が大きく変わる)らしい。現在はこれまで作り上げてきたデータを用いたコンピュータグラフィックスによる「復顔像作成システム」が導入されているそうなので、本書の主人公のような職人はおらんのかも。これ復顔法について調べただけで、話の書評じゃないかも・・・(汗)。 戸川昌子 「黄色い吸血鬼 THE VAMPIRE」 4点 おどろおどろしさがでており本短編集の中で一番ホラー色が強い作品。私は雰囲気重視のホラーよりミステリはそれほど好みじゃないのでこの点数。吸血鬼の正体が最初の数ページで分かったのもあり、うまいと思えなかったのも評価が低くなった要因。ただ、世界観がはまる人はぞくっとできると思う。 土屋隆夫 「加えて、消した WRITE IN, RUB OUT」 8点 漢字の形を上手く使っており、しかけは全く見破れなかった。クイーンも短評で触れているが、海外のミステリファンにうまくこのしかけを伝えるのは大変そうだ。前半から中盤にかけては主人公による妻の他殺を疑わせるように誘導しつつ、地の文で自殺を強調し、読者を(いい意味で)混乱させ、ラストに探偵が見破れなかったネタ晴らしをして読者に上手いと思わせる構成がお見事。短編ミステリのお手本のような構成かと。本短編集で一番好き。 筒井康隆 「如菩薩団 PERFECTLY LOVELY LADIES」 4点 調子のぬけるマダム?達の大胆な犯行からのえげつなさ。この普通じゃない組み合わせは筒井さんらしく面白い。 しかし、面白い設定なのだが、終わりの唐突感がすごかった。起承転結の"起"で終わってないかこれ?ブラックユーモア的なお話と思えばありだけど、ミステリの一つとして見るとあまりにも、投げっぱなしだろう。既読の筒井ミステリ(「ロートレック壮」と「富豪刑事」)よりもその点で下かと。 |
No.157 | 5点 | 三匹のおっさん- 有川浩 | 2019/08/16 10:29 |
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私が読んだ初有川作品。全体としてまぁまぁ楽しめたけど、少し物足りないという印象。
まず、私の嗜好がどうしても変化や新しさに向いているので、水戸黄門のようなワンパターン戦法(あとがきを見るにあえてとっているようだが)が好みからは外れている。かつ勧善懲悪物なので、登場人物が(敵役を除いて)善人なのだけど、いい子ちゃんのテンプレート的キャラが多く目新しさがない。 上記のようにオリジナル色という点に物足りなさを感じた作品かな。三匹のおっさんも若者二人もかわいいだけにもう一声ひねりが欲しかった。 最後に私個人の反省点。ブランド品になっちゃいかんね。年取ると説教される機会がどんどん減るので自分で性根を省みないといけないなぁ。私のために説教してくれた親や先生がどれだけありがい存在だったか。 |
No.156 | 7点 | 奇面館の殺人- 綾辻行人 | 2019/08/13 15:55 |
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待望の館シリーズ9冊目。文庫版の後書きにあったように最近のシリーズ作品(黒猫、暗黒、びっくり)より、シリーズ初期作品(十角、水車、迷路)に近かった。特に本館にはマイベスト館である迷路館の正統続編感がある。ただし残念ながら似た雰囲気の迷路館には劣ると感じた。それでも十分楽しめたけどね。
館のしかけがふんだんに利用された事件だけに、これまでのミステリの知識だけで全てを見通すのは難しいかもしれない。(被害者の首を切った理由や犯人が内線でサロンから人払いをした理由など。) 一方、館固有の要素がない謎(客人達に面を付けた理由や被害者の指の破棄理由)はわりかし単純なので、予想できた人も多いのではと思う。犯人当てはかなりきちんと読んでないと難しいかなあ。 お家芸である叙述トリックは本作品ではかなり控えめという印象。驚きといより、「は・・・?なんじゃそりゃ!」と思った。 最後の方の鹿谷の 「たとえば地の文で、使用人以外の登場人物をどう呼び分けるとか、その辺の面倒をちょっと想像しただけで眩暈がしそうになります。ましてや、つまらない悪戯っけを起こして、たとえば”同姓同名の”という事実を読者に対して伏せてしまおうなんて考え出したら・・・・・・」 という台詞は完全に綾辻さんの代弁で笑っちまった。ロートレック壮の解説風自慢に近くて褒められたものではないけど、建前的には鹿谷の台詞なんでセーフっすかね(笑)。 |
No.155 | 5点 | びっくり館の殺人- 綾辻行人 | 2019/08/10 08:59 |
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(再読シリーズ5)
他の館シリーズに比べるとメインのしかけがこじんまりとしているのは事実だが、単品のミステリ、ホラーとしては結構上手いと感じた。 ミステリとして関心したのは、あおいの発した虐待というワード。俊夫がリリカの役を演じていたことを隠しながら話がつながるように組み込みつつ、実際は人形役をやらせられていたということへの台詞。そうすることで事件の際に読者に対し密室を提供でき、ただの単純な殺傷事件をミステリの事件へと昇華させたのである。 昔読んだときはホラー色が強く、いまいちと感じたが、今回の再読で、本書のミステリとしての良さに気づけた。 |
No.154 | 6点 | ジキル博士とハイド氏- ロバート・ルイス・スティーヴンソン | 2019/08/08 23:27 |
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世界で一番有名な二重人格ものかな?私の知識が足りないので自信ないが・・・。
ネタバレなしで読むのはもはや難しい本。私も例にもれずネタバレした状態で読んだので、私にとって本書に謎はなかったです。なのでそれを踏まえての書評になる。 人間の持つ普遍的な裏表に具体性を持たせてできた本小話は、日本昔話などに通じる面白さがある。誰もが心に潜む自分のハイド氏について考えざるを得ない良い本だと思う。 余談:私はおそらく幼少期にドラえもんでネタバレされたのだと思う。たしかジキル・ハイドという性格を真逆にする秘密道具があったはず。 |
No.153 | 6点 | クライマーズ・ハイ- 横山秀夫 | 2019/08/08 23:01 |
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全体的には結構楽しめた。ただし、序盤、中盤、終盤全部を楽しんでたかというとそうでもない。正直中盤あたりは読んでてかなりだれた。(というのも特ダネか!?残念、記事にはなりませんの繰り返し。)
そもそもマスコミは情報を加工して程度の差はあれど偏向報道してるんだから、新聞だって所詮、とてもノンフィクションに近い作り物。その作り物に正義だの真実なんだのを読者に押し付けるのは記者のエゴでしょ。悠木がいかにそれらしいことを吠えても、記者の内部争いを白い目で読んでいた自分がいて、いまいち登場人物に感情移入できなかったのである。だから途中まではイマイチと感じていた。 しかし、望月彩子の投書をめぐっての最後の60ページくらいはお見事。大事な言葉を切らずにそのまま採用した悠木を他の記者たちが庇うのは当然でしょう。最後の最後でようやく登場人物と価値観を共有できて楽しめた。 横山さんの作品は64に続き2冊目だけど、僅差で64の方が好きかな。(10点満点の点数上では同じ点だけどね。) |