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ミステリ初心者さん
平均点: 6.20点 書評数: 377件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.337 6点 はじまりの島- 柳広司 2023/03/27 23:18
ネタバレをしております。

 進化論で有名なダーウィンが探偵役で、ガラパゴス諸島が舞台となるクローズドサークルという、かなり特殊な設定に惹かれて買いましたw 私は進化論についてはほとんど無知で、猿が進化して人間になったやつ…ぐらいしか知りませんでしたw
 特殊な状況ではありますが、よくあるクローズドサークルのミステリの流れを踏襲しております。不可解な殺人事件が起きて、連続殺人事件になって、探偵役がいて、ワトソン役と事件を調べていって…。意外な犯人とどんでん返しがあります。
 通常のクローズドサークルと違うのは、合間に進化論的な話や、宗教学、民俗学、生物学?やゲテモノグルメwみたいな話もありました。そのどれも衒学めいてなく、それほど本筋から離れないのでしつこくなく、テンポも悪くなかったです。
 ダーウィンとアールの、伝説のスペイン人ドン・カルロス探し冒険もよかったですねw

 推理小説部分について。
 犯人当てよりも不可能犯罪やアリバイトリックの系統のミステリだと思うのですが、その部分はちょっといまいちでしたw 
 亀が死体を運ぶのは何となく予想できたのですが、都合よくちょうど泉まで運搬してもらえるかどうかは運が絡む気がしますし、ややバカミスのノリですねw
 また、紐が縮んで時間差で首を絞める…のは知識がいる問題かと思いますし。

 総じて、推理小説としては微妙だったものの、それ以外の本としての魅力は高く、面白かったです。フエゴ人も初めて知りましたが、あんなにも奇怪な格好をする民族が実際にいたのですね。

No.336 6点 血染めのエッグ・コージイ事件- ジェームズ・アンダースン 2023/03/17 20:55
ネタバレをしております。

 非常に濃厚な推理小説でしたw 
 500を超えるページ数に、多すぎる登場人物で、序盤は人物を覚えるのもストーリーを追うのも大変でしたw ただ、軽く読み返してみても、あまり無駄なページがないです。やや本題に入るのが遅くてテンポが悪い感じもありますが、すべての要素がストーリーに絡んでいます。
 事件の夜が始めってから、一気にミステリ的になって楽しくなりました。あまりにも複雑すぎましたがw 
 大団円…とまで行かないまでも、ラストの展開は同情できる犯人に対しては救いがあるような気がするため、終わり方も爽やかであるのもいいところですね。

 推理小説的には、やはりドンデン返しの真犯人が一番の魅力でした。途中で主観の文章がある人物が犯人だったため、自然と心理的に犯人から外しておりましたw のちのウィルキンズ警部の解説によると、自分の見逃していた伏線も多くあって感心しました。
 あとは、カノン砲をつかった大胆(やや馬鹿ミスw)なトリックも魅力でしたね! ウィルキンズ警部はカノン砲から血痕を発見していたと後から言ってましたが、これはヒントとしてほしいところでしたね(書いたらバレてしまうのですがw)。
 ドンデン返しが素晴らしい一方で、犯人当ては難易度が高すぎて私には無理なように感じました。館に泊まるほぼすべての人間が事件の夜に秘密の行動をしており、嘘つきが多すぎる点、二人の死体に二人の殺害犯、犯人に不幸な・幸運な偶然が起こりすぎている点、どこまで読んだらいいのかわからない本(挑戦状がない)点があります。ウィルキンズ警部が詩でヒントを出しますが、そこからデウルーが真相にたどり着いたようなのですが、あの時点では到底無理なように思えますw 私は警部の詩が登場した時点で先を読むのをやめ、時間を掛けて事件の夜のタイムテーブル的な物を作ってしまいましたw その時間があれば、今頃別の作品をもう一冊読み終えられたところですが;;

 総じて、かなり良く練りこまれた本格推理小説ですが、犯人当ては楽しめませんでした。クイーン国名シリーズとしてではなく、クリスティーの小説だと思って読めばかなり楽しめる本でした。

No.335 6点 愚者のエンドロール- 米澤穂信 2023/03/12 20:15
ネタバレをしております。

 まったく前情報なしで買ったため、シリーズものとは知りませんでしたw 氷菓は名前だけ知っていて、読んだことはありません。これを機に、シリーズを1から読んでいくのもいいですね。

 高校が舞台の話だけあって、青春小説のような、ライトノベル?のような、さわやかな作品でした。ページ数も無駄に長くなく、テンポもよく、一気に読了できました。
 アニメ化されている?のか、二重の表紙になっており、そちらはアニメの絵でした。文章からはアニメのような印象やキャラ付けも若干あるものの、そこまでしつこくないので、アニメ的な小説が嫌いな人でもそれほど抵抗なく読めるかと思います。

 物語の流れは、脚本担当が病気で倒れて解決編がなく未完になっているミステリー映画の解決を試みるというもの。映画製作をしたクラスの人物たちが自説を披露するのですが、その矛盾点をさがして否定する流れです。我孫子武丸の探偵映画のような作中作の展開、バークリーの毒入りチョコレート事件のような多重解決を思い出しましたが、しっかりとあとがきに触れられておりましたw

 私は、カメラマン犯人説はありそうなものだと思いました。それは、過去に似たような発想の推理小説を見たことがあるからでした。ただ、縄の件を失念しておりましたw 縄の件を除いても、「本郷にこの結末は書けない」というレベルでのヒントが多くあり、フェアさを感じました。
 カメラマン犯人説はミステリ映画的には矛盾がないものの、違和感のようなものがのこり、隠された真相によってドンデン返しが起こる…という、多重解決の王道を征くラストなのはよかったです。ただ、隠された真相によるミステリ映画としての出来は悪く、本郷が倒れなくても女帝が動かざるを得ないのも納得ですねw ミステリ映画をこの小説の一番の謎としてとらえた場合、読者からしたらすこしガッカリ…だと思います。

 総じて、非常に読みやすい小説であり、他の作品も読んでみたくなりました。一方で、作中作の映画の結末がどのような物であったとしても、オリジナリティもあまりなく、密室ものとしてもいまいちでした。

No.334 5点 日曜日の沈黙- 石崎幸二 2023/02/22 08:23
ネタバレをしております。

 メフィスト賞受賞作品には、よく"究極"とか"天才"とかいう文字が出てきますねw 
 紹介文には、殺人劇や推理合戦などの文字が書いてあり、また表紙も黒を基調とした重苦しそうな印象のデザインだったため、本の内容の軽さというか明るさに驚きましたw 探偵役石崎と、それを振り回す女子校生ミリアとユリのキャラクターが漫画的であり、ほぼギャグミステリ(ユーモアミステリ?)のノリです。そのため、非常に読みやすく、ほぼ一瞬で読み終えられた気がします。

 メフィスト賞受賞とのことですが、推理小説的にはやや薄味でした。
 殺人劇による推理は楽しむことができません。自殺とのことですし、ミステリになっていませんでした。死んだ人物と死因と凶器による暗示もつまらないですし、それによる推理合戦もやっぱりつまんないです。
 来人の死の真相、究極のトリック、幻の7作目の行方についてが本作品のメインの謎になりますが、これも読者が推理を楽しむ類ではありませんでした。

 総じて、ほぼほぼミリアとユリのキャラクターを楽しむ本でしたw ギャグ(ユーモア)ミステリというと、東川篤哉さんの作品をいくつか思い浮かべますが、そちらはミステリとしてしっかりとしていた(私の読んだ作品においては)のですが、こちらはミステリとして薄味過ぎたのが良くありませんでした。
 とはいえ、楽しく読められるシリーズものを見つけられてよかったです。何作か買って、ページ数の多いミステリや重いテーマのミステリを読んだ合間にこのシリーズを読みたいと思いますw
 関係ない話ですが、ミリアとユリのキャラクターが似すぎていると思います。もうちょっと喋り方や性格に個性を持たせるか、なにかパーソナルデータが欲しいところでしたw

No.333 5点 クリムゾンの迷宮- 貴志祐介 2023/02/15 20:59
ネタバレをしております。

 非常に読みやすい文書で、スリリングな展開のため、ほとんど一気に読了できました!
 前半はサバイバル的な要素が強かったですが、参加者が一堂に会してから別れてから一気にゼロサムゲーム化?してホラーやサスペンス感が強まりました。

 一方で、こういうタイプの王道ストーリーや流れを踏襲しすぎているというか、この作品ならではの個性に欠けるような印象がありました。大友藍は露骨に怪しく、主催者の息がかかっているのはありがちすぎますね。カメラ内蔵義眼は気づきませんでしたが…。

No.332 6点 悪魔はすぐそこに- D・M・ディヴァイン 2023/02/07 21:01
ネタバレをしております。

 大学内の過去のスキャンダルと、現在の2つの殺人事件が発生します。
 主に4人の視点から書かれ、登場人物も多く、またストーリーの大部分は現在の事件よりも過去のスキャンダルに重点を置かれているため、なかなか読みづらさを感じました;; スキャンダルが犯人当てへの鍵になっていることはわかりますが、どうも興味がわかなくて;;

 推理小説的要素について。
 犯人当てのロジックはちゃんとしており、フェア度が高いです。ただ、長編にしてはささやかというか、淡泊というか、もうすこしほしかったところw この作者の作品は、犯人当てに対してのフェア度が高いがロジックは一点集中していることが多いですね。
 犯人当てよりも、意外な犯人、ドンデン返しが持ち味だと感じました。私は頭ではピーターを容疑者から外しておりませんでした…が、やはり犯人が判るシーンでは驚いてしまいました。思えば、ピーターの述懐の「一度父に救ってもらった」や、ピーターの母が手紙を焼いたシーンは極めて重要なヒントでした。読了後、それに気づかず悔しかったですね!

 総じて、読みづらさを感じてしまいましたが、本格度・フェア度の高い作品でした。伏線やミスリードがこまかく多くあり、高水準ではありましたが、欲を言えば犯人を断定するロジックが本全体にあるともっと好みでした。

No.331 6点 黒祠の島- 小野不由美 2023/01/28 13:05
ネタバレをしております。

 ほぼ一つの島の中で物語が完結する推理小説です。クローズドサークルとは異なるかもしれませんが、ある程度の閉鎖空間っぽさが楽しめます。
 現代の時間軸の小説ではありますが、舞台となる島では結構特殊な宗教や因習みたいなものがあり、民俗学ミステリーっぽいです。また主人公に対して排他的な態度をとる島の住民もいるため、雰囲気が異様で良いです。ただ、戦前・戦後を舞台とした民俗学ミステリーよりかはその辺の雰囲気がやや普通?というか、異様さやおどろおどろしい感じは欠けます。現代を舞台とした小説でそれをやるとリアリティがないせいでしょうかね? そのため、前半はやや退屈なページもありました。

 推理小説的要素について。
 まず、麻里と志保が本土の時点で入れ替わっていたという、大きな驚き要素がありました。叙述トリックと呼べるのかどうかはわかりませんが、それに近いような仕掛けでした。
 また、入れ替わりのドンデン返しを考慮した論理的な犯人当てがありました。たいがいの小説は叙述トリックと論理的な犯人当てが両立されていませんが、この作品はそれができていて貴重です。
 私は、麻里と志保の入れ替わりは察することができましたが、そこから犯人を当てることはできませんでした。浅緋の推理はなるほど説得力がありましたが、それは犯人のミスが偶然の不幸も絡んでいるので、読者が推理するには難易度が高いと思います(負け惜しみですがw)。

 総じて、小説の雰囲気がよく、かつ本格度の高い良い推理小説でした。ただ、犯人を当てるには難易度が高すぎると思う点、登場人物紹介がなくアリバイ検証もメモが必須クラスに複雑な点(事件も3~4回は起こっているし)、個人的に序盤が退屈だった点がマイナスでした。
 すごい個人的なことですが、式部と葛木の再開シーンを書いてほしかったのですがw いや、恋人というわけでもないし、ないほうがいいのかな…。葛木についてもう少し描いてほしいですねw

No.330 6点 レーン最後の事件- エラリイ・クイーン 2023/01/12 18:36
ネタバレをしております。

 これまで、レーン4部作を読んできませんでしたが、このたび遂に読破しました!
 気合を入れて読み始めましたが、なかなか殺人が起こらず、読み進めるのに苦労しました;; シェイスクピア関連の話は、あまり興味がわきませんでした…。犯人当てに関してだけ言えば、300ページぐらいがほぼ無駄なページとなっており、前半のシェイクスピア関連のトレジャーハント(?)のような歴史ミステリのようなものが楽しめるか否かがこの本の評価につながりそうですw 私はイマイチ楽しめませんでした。

 推理小説的要素について。
 まず、なんといっても、これまで名探偵として君臨してきたレーンが犯人であるというのは、この本だけでなく、4部作を巻き込んだ大ドンデン返しでしたねw 今では探偵役犯人系統の推理小説もよく見るので珍しくはなくなったのですが、当時はみんな騙されたのではないでしょうか? 実は私は、レーン最後の事件というタイトルから、ある程度メタ的な予想をしてしまいましたw ただ、それは事前にいくつかの探偵役犯人系統の本を読んだからです。
 また、探偵役犯人だけにとどまらずに論理的にそれにたどり着けるようになっているのが、エラリー・クイーンが並みの小説家ではない証拠ですね! 国名シリーズ並み…とは言いすぎかもしれませんが、ちゃんと論理的に犯人にたどり着けるようになっております。私はメタ的にレーン犯人の可能性に気づきましたので、アラーム時計のロジックには気づきました。細かい点は少々逃してしまいましたがw

 難癖をつけるとするならば、手斧で暴れまわるレーンがあまりにもドワーフで、名探偵にそぐわない気がするということですw 壊された時計の時間を狂わせておくぐらいはしそうなものですが…。レーンのセリフである、犯罪者は本質的にみんな愚鈍…みたいなセリフは自己に向けたものかもしれませんが。

 総じて。
 探偵が犯人であるようなドンデン返し系統の小説は論理性が犠牲になるか、叙述トリック一本釣りな作品が多いです。しかしクイーンの作品はちゃんと論理的に犯人を指摘できるつくりになっており、ドンデン返しと犯人当てが両立した良い作品と思います。ドンデン返しと犯人当ては相性が悪く、両立する作品は少ないと思います。
 ただ、もう少し小説全編にわたって犯人当てのヒントがちりばめられていたらもっと高評価でした。前半は好みではなく、やや退屈でした。
 ちょっと厳しめかな?と思いますが6点で!

No.329 5点 鍵のかかった部屋- 貴志祐介 2022/12/29 06:12
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 読みやすくい密室がテーマの短編集です。驚きが大きい物理トリックが多いです。また、最後の1編を除いて、犯人が狙った通りの(偶然の余地がない)密室なのでフェア度が高いです。ヒントも適度に出ています。
 ただ、総じて、密室の謎が明らかになった時の感想は、「それって本当にできるの?」という感じです。物理法則的な話ではなく、私がいまいち想像できないような感じでした。

・佇む男
 なかなか強固な密室です。男の子の目撃者のカーネルサンダース発言から、死後硬直が利用されたことはわかりましたが、私の死後硬直に対しての知識が浅くて本当にできるのか疑問でした。また、寝かせた状態し死んだ人が、死後硬直が解けて座ると、検死でわからないのか?とも思いました。

・鍵のかかった部屋
 これも、部屋内部の気圧を高めたことだけはわかりましたw なぜ気圧が高まったのか、またガムテープを静電気で張り付けたか…などは一切わからなかったのですが。

・歪んだ箱
 やや、トリックのために用意した家といった感じですが、欠陥住宅にしたことはなるほどと思いました。ちょっとバカミスっぽいですね。

・密室劇場
 全体的にユーモアミステリのノリがあります。すこし毛色がちがう作品ですが、榎本と純子のあらたな一面が見られたようで良かったです。純子はその前の歪んだ箱で、大分アホっぽくなりましたがw

No.328 6点 月明かりの男- ヘレン・マクロイ 2022/12/19 23:57
ネタバレをしております。

 精神科医ウィリング博士が探偵の推理小説です。精神科医だけあり、容疑者の心理面の分析の文章がよくでます! また、私の想像よりも大分若いのか(?)ほのかな恋愛要素もありましたね!
 また、時期が戦時中なためか、途中からスケールの大きい話になっていきました。

 本格色が強い作品でした。心理実験の途中の犯行であり、犯人にとってイレギュラーな要素がありました。また、ホールジー君が夢遊病者?なのかてんかんなのか、それも読者や犯人にとってイレギュラーな要素で、複雑な犯行現場でした。その辺は、なんだかカーみたいですね。
 また、3人目撃者が居ながら、3人ともまるで違う特徴の犯人を証言しました。これは非常に不可解で、興味をそそられました。

 以下、難癖部分。
 3人とも食い違う証言や、ホールジーの要素は、カーならば飛びっきりのトリックやドンデン返しに利用されるところですが、この作品ではあまりそういったことがありませんでした。なので、その部分では残念でした。あくまで各登場人物の心理面のヒントのみでした。物的証拠ではないので、純粋な犯人当ての決めてにはならず、また犯人がこさえたトリックもほとんどなかったです。
 ラスト、論理によって犯人を追いつめる展開があり、犯人を一人に断定できる作品ではあります。しかし、犯人の証言の地理的な矛盾については地図が添付されていないため非常にわかりづらかったです。また、タイプライターの問題は知識がいる事ですし、現在の私たちではちょっと難しいかと思います。

 総じて、本格愛を感じる作品ではあったものの、証言の食い違いは魅力的な謎にならず、大きなトリックもなく…ちょっと地味な印象を持ちました。各登場人物が隠している謎と、その背景が明かされている感じはアガサっぽくて、その部分が好きな人はもっと高評価をつけると思います!

No.327 5点 彼女らは雪の迷宮に- 芦辺拓 2022/12/11 10:11
ネタバレをしております。

 読みやすい推理小説を求め、クローズドサークルに惹かれて買いました(笑)。小説中にもクローズドサークルファンの話が出てきますが、あそこまでクローズドサークルにこだわりがないものの、私も大好きです。そして、この作品もまた読みやすかったです。
 ただ、この作品はただのクローズドサークルではなく、殺人や死体も出てこないし携帯電話もつながるといった、お約束を破った作品です。殺人が起こらないだけあって、雰囲気は明るく、ちょっとしたユーモアミステリのようです。反対に、殺人が起こらないのでサスペンス性には乏しいです。

 推理小説部分について。
 推理小説のプロローグほど信用できないものはないですね(笑)。プロローグを信じるなら、クローズドお約束の全滅なのですが、シリーズキャラの新島ともかが死ぬはずもなく…。
 私は、状況と雰囲気から新島ともかが偽物だとわかり、そこから結末をいろいろ妄想しておりましたが、まんまと作者の手のひらの上で踊らされた形でした(笑)。作者が本当に隠したかった本命叙述トリック…を隠すための小粒叙述トリックにすぎませんでしたね。
 この小説一番の大きなトリックである、映画セットを使った場所移動は面白かったです。前々から私が妄想している、こんなトリックがあったらいいな~と思うものの一つには映画セットを利用した叙述トリックがありました(笑)。この主観人物を運び、いつの間にか場所を移動させているが主観人物は気づかづに読者に伏せられるトリックは、現実的に可能なのかすこし疑問ではありますし、似たような趣向のトリックを他にも読んだことがあります。

 一向に殺人が起こらず、この小説はどういうふうに着地するのだろう…と思いきや、すでに大トリックは起こっていました。読みやすかったし、驚きもありました。ただ、もう少し見せ方が良かったら、もっとびっくり仰天させられる小説になったかもしれないという気もします。また、結果、過去に二人殺している犯罪を犯した集団は、結局罰が与えられなかったのはモヤモヤしたかもしれません。

No.326 6点 盗まれた街- ジャック・フィニイ 2022/12/05 00:22
ネタバレをしております。

 書評を書いたと勘違いしておりました(笑)。ちょっと前に読んだため、少々忘れてしまいました…。
 サスペンス・ホラー・SFの要素が入っておりますが、どれもしつこくなく、最小限の説明でテンポが良く、本題に入るのも早かったです。非常に読みやすくスイスイページが進みました。
 初めて成り代わる前の莢人間?を見つける→ベッキィのほぼコピーを見つける→マニーが論理的な解決?を主人公に提示する…主人公や街の住民などの集団的な妄想や暗示…?→莢人間の指紋がないことの説明ができない、という流れが非常に面白かったです。一度、超常現象など化学で説明できるバカバカしい!みたいな展開ってありがちですよね(笑)
 主人公たちが街に帰ってきたとき、思ったよりもずっと状況が悪く、街の人間すべてが敵になったかのような状態ですね。バットロングやマニーもすでに敵だったときの絶望感ったらないですね(涙)。

 知人が入れ替わったように思うという妄想が実際にあるのですね! 勉強になりました。

No.325 7点 黒牢城- 米澤穂信 2022/12/04 10:15
ネタバレをしております。

 戦国時代のミステリです。荒木村重が信長を裏切って籠城したころ。安楽椅子探偵は牢屋に入れられた黒田官兵衛。大河ドラマの軍師官兵衛を見ていたのためか、非常に読みやすくすいすいページが進みました!
 荒木村重というと、創作物では、有能ではあるが裏切り者で、妻よりも茶器を優先させる非道な人物! 果ては自分だけ逃げた臆病者! みたいに書かれがちだと思います。しかし、この作品の荒木村重は頭が良く、一個人の武もあり、落ち着きもあり…なんだかかっこよく描かれております。新鮮でよいです。
 時代小説としても楽しめるレベルだと思います。籠城の雰囲気はこれまでみた歴史小説ではあまり見てこなかったので、これも新鮮でした。籠城開始直後はよく従っていた将兵たちが、援軍が一向に来ないことで疑いを持つようになって、徐々に村重も追い詰められていきますね。

 推理小説部分について。
 大きな事件は3つ起こり、いずれも不可能犯罪の連作短編です。最後の1つは、連作短編特有の物語全体を絡めた謎を意外な真犯人(?)、安楽椅子探偵だった官兵衛の真の狙いなどが明かされます。
 3つともトリック自体はそれほど独創的な物でもありません。ただ、伏線やミスリードなど、本格度が高いミステリとして楽しめるのに、変にミステリめいていなくて、それでいて歴史小説に大きく偏っていることもなく、それが非常にバランスがいいです。伏線の張り方が歴史小説によくあるちょっとしたことが伏線になっていたり、読んでいてとても自然でした。

 私は、節々に出てくる千代保(だし)が露骨に怪しいと思いましたが、各3つの事件の伏線を回収できませんでした;;

 総じて、歴史小説としても、推理小説としても楽しめる一冊でした。同作者の折れた竜骨などもそうですが、推理小説以外の部分でも高レベルなところが素晴らしいです。推理小説家としての腕と小説家としての作品の幅がどちらも高いレベルでした。ただ、単純に本格推理小説としてみた場合、3つの事件の謎が既存の推理小説を凌駕するものでなかったため、7点としておきました。

No.324 5点 狂骨の夢- 京極夏彦 2022/11/15 09:01
ネタバレをしております。

 分冊版を買いました。3冊に及ぶ超大作でした…。正直、少し疲れましたね(笑)。
 読み進めるたびに謎がどんどん増えてき、明らかに現実ではありえないような状況ばかりになります。すさまじく散らばっている謎たちが、はたしてうまく収束するのか不安でしたが、最後には一つにまとまっていくのが見事でした。

 このシリーズは本格推理小説として捉えないほうが楽しめるとはおもいます。しかし、推理小説的要素が無いわけではありません。小説上朱美が一人のように見えて、実は二人という、よくみるオーソドックスな叙述トリックが使われておりました。思えば、大量のヒントがありました。私はこれに気づかずに悔しい思いをしました。登場人物たちは皆、宇多川と朱美の二人をにみていませんし、隣家の親切な夫人などは非常に怪しんでおりました。なのに、この叙述トリックがわかりませんでした(涙)。

 1000年や500年に渡る悲願を果たそうとする人たち、父親の病を治そうとする人、勘違いで復讐をする人…。すさまじく多いイベントが絡み合って力作であると感じます。しかし、これらにはいまいち興味がそそられず、途中で読むのが苦痛に感じてしまった部分もありました。
 また、前作や前々作と比べ、小説的な厚みは今作が一番ですが、やや質が異なってしまい、それが自分の好みと違ってしまいました。推理小説的な試みは前々作、圧倒的なインパクトとホラー感は前作にそれぞれにあり、それと比べると大分魅力が落ちてしまったように思えます。これは私の好みであり、今作のほうが好きという方も多いと思いますが。

 あとは、私の好きな榎木津と関口の登場が少なかったのもやや不満でした。京極堂の関口に対する偉そうで辛辣な態度にもイライラします。

No.323 6点 Zの悲劇- エラリイ・クイーン 2022/10/05 22:50
ネタバレをしております。

 XとYの悲劇を読んでからすさまじく長い時間が経ってしまいました(笑)。X、Yとそれぞれ趣の異なった名作ですが、ZはややXよりの、もっというと国名シリーズ初期のような細かい論理の積み重ねによる消去法で犯人を指摘するタイプの推理小説でした。本格度は極めて高く、早川版あとがきいあるおうに、国名シリーズに使うはずだったものを流用したのではないかと疑惑がもたれるぐらいです。

 珍しい?ことに、神の視点でもなく、レーンの視点でもなく、ペイシェンスという女性が主観の文章でした。それにより、若干のサスペンスや冒険、恋愛の要素も加わり、なんだかみずみずしい小説になっていました(笑)。

 殺人が早くに起こるものの、すこし社会派なストーリーが続いたため、社会派が苦手な私にとってはやや読みづらさを感じました。
 レーンの推理は見事だったものの、あまりの細かさにピンとこないことも多々ありました(笑)。
 また、私の苦手な右手左手問題もありました。これは小説によってまったく異なった話や論理になってしまい、あまり好きではありません。
 さらに、医者ならば生死の確認をミスするはずがない…というのは何となくわかりますが、あれって素人でも判断を誤るものなのですかね…? ほとんどの人がそうだと思いますが、そういった経験が皆無なので、なんとも想像に難しかったです。

 電気椅子での処刑のシーンは、クイーンがわざわざ書くのなら推理に必要なシーンなのだ…と予感しつつも、1から10までまるでわかりませんでした。私の推理は、推理と呼べるものすら形成できない完敗でした(笑)。

No.322 7点 求婚の密室- 笹沢左保 2022/09/25 11:35
ネタバレをしております。

 非常に読みやすい文章とプロットですいすい読み進められ、あまり時間をかけずに読了できました。
 金も権力もある人物が曰く付き(?)な関係の者を多く招待したパーティーで、場所を移さず割とすぐに殺人事件が起こります。余計な部分が少なく、テンポもよかったです。
 途中、法廷ではないですが、2人の婿候補による推理バトルが楽しめます(笑)。ページ数や展開からそれが真相ではないことは予想がつきますが、こういうものが取り入れられていると事件の概要がスッと頭に入ってくるのでうれしいですね。

 推理小説部分も優れていました。
 密室というだけあって、どうやって殺したか?がメインの謎になってきます。共犯であり、子供を使っているので、ややアンフェアなのかもしれませんが、真相を読んだときは思わず膝を打ちました(笑)。ミネラルウォーターのボトルがプラスチックであったことはもっともっと考えなければなりませんでした(笑)。60歳の被害者が人2人分(しかも若子はやや肥満)を壁づたいとはいえ肩車できたは疑問ですが、これは私の思考の盲点をつかれました!
 私は富士子の特殊な生い立ちやキャラクター、絵になるとかそういうことで犯人だと決めつけておりました(笑)。しかし、アリバイや密室の謎がまったく解けず、白旗でした(笑)。私もロープで脱出したかと考えましたが、途中の推理バトルでその説が登場してがっかりと安心を味わいました(笑)。

 総じて、本格度の強い推理小説で満足しました! 読みやすく、密室らしい密室、意外な(?)犯人と意外な殺害方法。少々ロマンチックな要素もありましたね…私にとってはベッドシーンがしつこくてもう少し軽いほうがよかったですが(笑)

No.321 5点 火天風神- 若竹七海 2022/09/18 19:21
ネタバレをしております。

 台風によりリゾートホテルが閉鎖空間になり、死体や暴漢や火事などスリリングな要素が多数登場するオーソドックス(?)なパニックものでした。
 登場人物がかなりおおく、主要キャラクターに関してはその背景も書かれるため、かなりのページ数があります。しかし、あまり読みづらさを感じなかったです。

 よく映画に出てくるような要素が多数あり、ツボを押さえている作品だと思いましたが、ページは進むもののなぜだかあまり面白さを感じませんでした…。映画でパニックものというと、無条件で面白いような感じなのですが(笑)。それとも、この本が映画化されれば印象が違ってくるのでしょうか? ミステリが映画よりも小説の媒体のほうが向いているのに対し、パニック物は小説より映画のほうが向いているのでしょうかね?

 ラストは大団円とはいかないまでも、多くのキャラクターに希望のあるエンディングなのはよかったです。ただ、丁寧に背景を書かれているキャラクターに関しては、意外なほどあっさりと終わってしまったのが気になりました(笑)。

No.320 7点 危険な童話- 土屋隆夫 2022/09/06 18:52
ネタバレをしております。

 個人的には警察が主観の文章の小説が苦手で、読見進めるペースが遅くなってしまうことが多いのですが、この本はそれほど苦もなく読み進められました。登場人物が適度に絞られていて、小説的には犯人が分かり切っており、余計なアリバイの捜査などがカットされているところが良かったです。
 作風は極めて本格度がつよい推理小説でした。細かくて数が多いアリバイトリックが主で、それほど大がかりな大トリックではないのですが、考えてもなかなかわからない工夫を凝らしたもので、大変満足しました。
 凶器や警察への手紙など、逮捕されることをトリックに組み込んだ犯人はあっぱれでした。

 危険な童話というタイトルにもある通り、童話を用いて子供を操り、遠隔操作のようなトリックが印象的でした。警察は子供にも注目していたので、犯人にとっては危ない橋ではありますが、虹の色などで出す順番を指定していたりするところもアイディアを感じました。また、小説内で少しずつ童話が書かれており、それがヒントになっている構成もセンスを感じました(笑)

 総じて、細かくて緻密なトリックを味わえる、本格推理小説でした。大トリックやドンデン返しがないものの、それが逆にシブく感じます。より読みやすく、よりドラマティックな感じがある鮎川作品のような(笑)。唯一、好みで無い点を挙げるとすると、犯人に同情してしまう事件の背景や、ラストがやりきれません。執念で犯人を追いつめた木曾刑事も無念でしょうね(涙)。

No.319 6点 殺意の集う夜- 西澤保彦 2022/08/30 19:28
ネタバレをしております。

 西澤保彦さんの作品は、読みやすいものが多いです。本作もかなり読みやすく、かつクローズドサークルなのもあり、読了までにさほど時間がかかりませんでした。
 本格推理小説というよりかは、テンポが良すぎるサスペンスの色が濃いです。登場人物全員がいわくあり気であり、なにかしらの嘘があります。そのため、あまり犯人当てを楽しむことはできません。まさに、殺意の集う夜といったところ。ただ、ラストに大きなドンデン返しがありました。

 ドンデン返しについて。
 私は、登場人物の名前(特に主人公格のマリ)がはっきり表記されてないので、露骨に怪しんでいました。しかし、なぜか性別の錯覚トリックに行きつきませんでした(涙)。これだけ多くの性別の錯覚トリックを用いた本を読んでいるのに…。どうやら私は、男性→女性より、女性→男性のパターンのほうが苦手で当てられないようです。
 警察・三諸の視点の智恵殺しの犯人である男が出てこないのも疑うべきでしたね。あとは、登場人物の名前に漢数字が使われていますが、六が出てこないのもヒントなのでしょうね。

 総じて、読みやすくテンポが良く、衝撃の展開でサスペンスチックな良い作品でした。ただ、推理小説としては、性別の錯覚からのドンデン返しは非常によく見るトリックであり、既視感がつよいです。もうすこし、個性が欲しかったところです。

No.318 5点 死者はよみがえる- ジョン・ディクスン・カー 2022/08/22 22:47
ネタバレをしております。

 新訳版を買いました。新訳にもかかわらず、やや読みづらさを感じてしまいました(笑)。訳が悪いというよりかは、場面の移り変わりが急だったり、本の始まりの時点ですでに2つの殺人が終わっているためかもしれません。

 推理小説部分について。
 かなり意外な犯人でした(笑)。これは当てようがないと思います(笑)。フェアかアンフェアか言われれば…まあアンフェアなのかもしれませんね(笑)。
 被害者の首にタオルが巻かれていたり、ジェニーが特殊な方法で絞殺(?)されているのを見て、逆に両手が使えない人間が犯人ではないかと一瞬だけおもいました…。が、すぐに犯人候補から外してしまいました。ロドニー殺しの際に使ったベッドのくぼみは、ヒントがありましたかね…?
 また、非常階段からリネン室の窓へ行けるなど、思いもよりませんでした。かなり大きなミスリードであり、私もまた7階に居た人々の中に犯人がいると錯覚しました。たしかに、リネン室には誰も入られませんから、犯人が入ったとするならば外から…なのでしょうが、あの図から外から入られるなどとても想像できませんでした(笑)。これもなにかヒントがあったらよいのですが、ありましたかね?
 極めつけは、留置所に隠し抜け道がある点(笑)。ここの部分はカーも困ったでしょうね(笑)。強引さを感じました。

 既読の方に少しヒントをもらいつつ読みなおしましたが、ロドニー殺しにおけるベロウズの犯人の証言から、「証言の犯人の容姿が警察に似ているな?」と思い、警察官と勘違いしたのではというところまで考えました。画像検索すると、なるほどベロウズの証言と警察の容姿が似ております。ただ、登場人物に載っている警察はハドリー警視だけですし、到底犯人とは思えない…。私の思考はそこで止まりました(笑)。

 総じて、読者が犯人を当てるにはかなり難しい…アンフェアに近い小説でした。しかし、カーらしいドンデン返しや意外な犯人が存分に楽しめる作品でもあります。私の好みは本格推理小説ですので、5点としておきましたが、もっと高い点でも納得できる本です。

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ミステリ初心者さん
ひとこと
 有名な作品をちょこちょこ読んだ程度のミステリ初心者です。ほとんど、犯人やどう殺したかを当てることができません。


 高評価・低評価の基準が、前とは少し変わってきました。
 犯人を一人に断定で...
好きな作家
三津田信三 我孫子武丸 綾辻行人 有栖川有栖 鮎川哲也
採点傾向
平均点: 6.20点   採点数: 377件
採点の多い作家(TOP10)
アガサ・クリスティー(16)
三津田信三(14)
歌野晶午(13)
綾辻行人(11)
エラリイ・クイーン(11)
東野圭吾(10)
東川篤哉(10)
鮎川哲也(10)
西澤保彦(9)
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