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[ 本格/新本格 ]
九龍城の殺人
月原渉 出版月: 2022年08月 平均: 5.33点 書評数: 3件

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新潮社
2022年08月

No.3 5点 ミステリ初心者 2024/02/21 01:26

ネタバレをしております。

 個人的にツユリシズカシリーズの印象の強い方です。事前にシリーズではないと調べてから買いましたが、タイトルがあまりにもそれっぽいので勘違いされることも多いかと思いますw
 また、○○の殺人のようなタイトルだと、ツユリシズカシリーズと同じく本格色の強いものだと期待しがちですが、本作は本格というよりかは香港映画のような(?)すこしアクションがあってドキドキハラハラがあり友情ありみたいな…うまく言えませんが、本格ミステリとはちょっと違った趣がありました。強くて美しい女性が多数登場し、ちょっとしたチャーリーズ・エンジェルです(一回も見たことないけどw)。
 九龍城というと、とても密集した違法建築と汚さ、犯罪や麻薬が横行していてひどい状態だけどもなぜかとても魅力的にみえるものですが、本作に出てくる九龍城は一部を除いて権力者が設えたキレイな空間が良く出ます。九龍城特有の異質さを利用したトリックなどを期待すると肩透かしを食らうかもしれません。

 推理小説的部分は、それほど良いものではありません。
 大きく2つの要素がありました。城と呼ばれる施設の風呂場の殺人についてと、主人公フーの母親や出生についての謎です。
 風呂場のロン殺しについては、容疑者がみな一人では殺人が行えない時点でうっすら感づきました(完全にはわかりませんでしたが)。むしろ、ホンファが犯人ではないことを指摘する部分が本番かもしれません。
 フーの母親入れ替わりは、まあよくある類の驚きなので、ミステリ的価値は感じませんでした;;

 総じて、非常に読みやすく読後感もいい本ですが、ミステリとしてはいまいちな感じでしたw

No.2 5点 虫暮部 2023/06/09 12:44
 殺人周りのアレコレはたいしたことない。多指の件もあまり上手く使えていない。本格ミステリではなく、“主人公のルーツへ向かう魂の遍歴に伴う異郷冒険活劇” みたいな読み方のほうが楽しめたかも。その場合このタイトルは不適格だ。

 もう一つ。英題が単数形、つまり殺人は一件のみ? ならば普通は溺死が事故だろうが、そこは裏をかいて来るだろう。事件の責任を問われて苦しい死を賜るよりはと、潔く自らを処したところ、恨みを持つ者が遺体を辱めたのである。と私は推測した、虚しく。

No.1 6点 人並由真 2022/10/10 17:40
(ネタバレなし)
 1980年代の香港。「わたし」こと18歳の娘・新垣風(あらがき ふう)は、母の訃報を知らせるため祖母がいるこの地に来た。風を迎えに来たのは又従姉妹でインド系の香港人シャクティ・サマンサだ。シャクティは同い年の風をフーと呼び、すぐに密な関係になるが、一方で肝心のフーの祖母・雪麗(シェリー)との対面はいささか複雑なものだった。シャクティもシェリーも香港の女系暗黒組織「風姫(フェンジェン)」の一員で、特にシェリーはその組織の長だったのである。やがてフーはシャクティの仲介で、弱者のために「聖女」として尽くすやはり18歳の美少女・紅花(ホンファ)と対面。ある相談事を受ける。そしてそんな彼女たちを待っていたのは、男子禁制の空間での奇妙な密室殺人? だった。

 シズカシリーズと同じ新潮文庫からの書き下ろしで、題名だけ最初に知った時はメイド探偵、海を渡る、の巻かと予想したが、まるで違った。主人公は一人称の語り手を務める、大陸系のハーフである日本人娘のフーで、メインキャラは彼女をふくむ若い娘の美少女トリオ。ほかにも味のあるサブキャラが何人か登場する。

 正直、事件の真相の一番の大ネタは見え見えで、だったらこれしかないだろ、と思ったらズバリ当たった。とはいえその前後にもサプライズや仕掛けはいくつも設けられ、自分が当てた部分だけを自己採点するなら100点満点で60点程度の得点か(あ、これは本書の採点ではなく、読み手の自分の方の採点である~どうでもよいが・汗&笑)。
 たしかにミステリ要素の中技小技、そして種々の小説的な旨味(うまみ)で稼いだ種類の一作という印象。

 後半の主舞台となる九龍島の閉鎖空間「城」の中でのストーリーが、1980年代時点(英国からの香港返還の少し前)での現代のおとぎ話みたいに語られる趣もあり、そういう意味で一風変わった新本格パズラー。良くも悪くも百合要素でキャッキャウフフの作品でもある。
 某・男性キャラの終盤に明かされる素性と、それに関連したさりげない伏線が、なかなか効果的でもあった。

 これはこれで良かったが、次はまた、シズカシリーズの新作をお願いします。


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月原渉
2023年06月
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