皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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いいちこさん |
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平均点: 5.67点 | 書評数: 557件 |
No.197 | 8点 | 明治断頭台- 山田風太郎 | 2015/09/30 11:15 |
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維新直後の混沌とした時代背景と弾正台を活かしたプロット、当時の文物を活かした豪快かつ鮮やかな物理トリック、実在の人物を活かした興味深いエピソードの挿入など、舞台設定とその活用に抜群の冴え。
そのうえで連作短編集として納得性と衝撃度の高い真相を演出。 物理トリックの完成度に甘さを感じてこの点数としたが、「妖異金瓶梅」を超える傑作と評価 |
No.196 | 7点 | 炎に絵を- 陳舜臣 | 2015/09/25 20:38 |
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一見してミステリとしての緩さを装いながら、衝撃の真相に辿り着く騙しの技術は絶品。
作品の各所にご都合主義が散見される分、減点せざるを得ないが、必読の佳作と評価 |
No.195 | 6点 | だれもがポオを愛していた- 平石貴樹 | 2015/09/25 20:38 |
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強固なロジックで真相を解明するプロセスや、敢えて翻訳調の文体を選択する等、考え抜いて描かれた作品であることは間違いない。
一方、犯人が残した手がかりが少なく謎解きの難易度が極めて高い、ポオの作品をある程度読破していることが作品を楽しむうえでの前提となっている点など、読者に課されたハードルは高い。 パズル性を全面に押す作品構成からしても、読者によって評価が大きく割れる、毀誉褒貶の激しい作品 |
No.194 | 5点 | 蒲生邸事件- 宮部みゆき | 2015/09/25 20:37 |
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タイムトラベルや2・26事件といった魅力的で大がかりな舞台装置を用意した長尺の意欲作ではあるが、十全に活かしきれておらず、平々凡々とした軽量コンパクトな結末に収斂。
エンタテインメントとしてのデキを否定するものではないが、ミステリとしての斬り込みは至って浅いと言わざるを得ない |
No.193 | 5点 | 遠きに目ありて- 天藤真 | 2015/09/25 20:36 |
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ほのぼのとした独特の読後感には好感。
一定水準に達しているものの、安楽椅子探偵モノでもあり、豪快・トリッキーな真相・トリックとならざるを得ず、ミステリとしては大味さ・弱さを感じる |
No.192 | 6点 | 涙流れるままに- 島田荘司 | 2015/09/11 19:14 |
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(以下ネタバレを含みます)
ヒロイン通子の半生を丹念に描きたい、冤罪事件の惨禍を描き出すことで持論である死刑制度廃止を広く世間に訴えたい、吉敷と通子に幸せになってもらいたい、という想いありきの作品で、本格部分のコアは極めて小さく添え物程度。 シリーズ集大成の位置付けから、ハッピーエンドが半ば既定路線として推測されるなか、本格ミステリとしての伏線が予定調和的に回収される様は、エンターテインメントとして面白みや緊迫感に欠けると言わざるを得ない。 以下は個人的な好みの問題ではあるが、通子の半生はあまりにもショッキングで悲劇的ではあるものの、本人が長年にわたって真実に向き合わず常に逃げ回ってきた、どうしようもない意思の弱さが招いた、文字どおり自業自得とも言えるもので、自らの職を賭して冤罪事件の解決に挑み、通子の問題を悩み抜きながらも、これさえも解決に向けて手を差し伸べた吉敷の高潔さ・意思の強さ・責任感を考えると、2人が何事もなかったかのように結ばれる結末には違和感。 また、警察の吉敷に対する処遇も、気持ちはわかるがあまりにも荒唐無稽で、警察に懲戒解雇されながらも民衆のヒーローとして、親子3人天橋立でひっそりと暮らす結末が相応しいように思う。 作者のほとばしるような想いと筆力を鑑みてこの評価 |
No.191 | 5点 | 砂の器- 松本清張 | 2015/09/02 13:37 |
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個々のアイデアは決して悪くないのだが、うまく連結させられておらず、本格ミステリとしての完成度やバランスは大いに疑問と言わざるを得ない。
犯人が残した手掛かりが少なすぎる一方、ある登場人物が不可解極まる大胆な行動を取るなど、偶然に偶然が重なるご都合主義で小さな手掛かりが積み重ねられていく。 トリックはリアリティを補強する工夫に乏しく、無理筋の印象を禁じ得ない。 世上評価される社会差別への斬り込みは十分な深度とは言えず、抒情性あふれるリーダビリティは悪くないが、中盤以降の中だるみも見られるところ。 「映画は素晴らしいデキ」「映画が原作を越えた希有な例」と評価されるが、一方で原作のデキがいま一つなのも間違いない |
No.190 | 7点 | さよなら神様- 麻耶雄嵩 | 2015/09/02 13:36 |
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無謬の神様が冒頭に真犯人を明らかにするため、探偵たちは「当該人物がどのように犯行をなし得たか」を究明する、一風変わったハウダニットが並ぶ連作短編集。
各短編を思い切って荒唐無稽な真相とすることにより、神様が真実を保証していることを前提としなければ到底真相に到達できず、警察が特定した犯人が誤っているとしても、神様の存在を前提とできない故に、真犯人を告発できない。 神様の設定を存分に活かしきった挑戦的かつブラックな作品集であり、とりわけ「バレンタイン昔語り」の衝撃的な真相は本作の白眉。 例によってこの作者にしか書き得ない強烈な作品 |
No.189 | 6点 | 一の悲劇- 法月綸太郎 | 2015/08/27 18:09 |
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登場人物が極めて少ないにもかかわらず、その大半に犯人と疑うに足る可能性を残しつつ、中盤にあからさまに怪しい人物を撒き餌として配し、最後にどんでん返しを連発。
犯行手順・トリックの鮮やかさ、ミスリーディングに導く手際のいずれもが巧妙。 プロットの性質上、腰を抜かすようなサプライズは演出できていないものの、水準を超える佳作と評価 |
No.188 | 6点 | 双月城の惨劇- 加賀美雅之 | 2015/08/27 18:08 |
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第一の犯行は、城の建造経緯を巧みに活用した物理トリック、犯人の狙いを隠蔽する逆説的な構図が抜群。
反面、第二の犯行以降は、真相が複雑で、フィージビリティや合理性にも強く無理が感じられ、かつ手掛かりにも乏しいと褒めるべき点がない。 ハウダニットに重点を置いた作品とは言え、真犯人を特定する根拠が2点しかなく、その2点が非常に露骨であるなど、フーダニットとしてはかなり物足りなさを感じる。 全体としては力作の評価でよいものの、二階堂氏が絶賛するほどの水準とは言えない |
No.187 | 4点 | 七人の証人- 西村京太郎 | 2015/08/27 18:08 |
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プロットは極めてトリッキーで興味深いのだが、看過し得ない瑕疵があまりにも多い。
まず無人島に犯行現場を再現し、関係者全員を昏倒させてそこに拉致したという舞台設定が、あまりにも無理筋。 獄死した犯人の父親による真相解明は、非常に強引で論理性に乏しいにもかかわらず、その誘いにまんまと乗って真相を吐露する証人たちの愚かさ・不出来さにも強い違和感。 そのうえ、無人島で連続殺人事件が勃発するのであるから、その犯行の杜撰さもさることながら、発生の事実自体が真相を強く示唆するヒントとならざるを得ない。 以上、着想の妙は買うのだが、華麗なる失敗作と評価 |
No.186 | 8点 | 天帝のつかわせる御矢- 古野まほろ | 2015/08/27 18:07 |
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いい意味で大きく裏切られた作品。
デビュー2作目で下振れするケースは枚挙に暇がないが、これほど上振れするケースは初めて。 まず、物語として、本格ミステリとして、(一旦)しっかりと着地している点が大きい。 ルビ塗れの異様な文体は、慣れてしまえば却って立体的に感じるとさえ言えなくもない。 衒学趣味を1作目よりセーブし、その中に真相の伏線を巧妙に散りばめることで、プロットとの連動性を高めた。 推理合戦はその網羅性といい、緊迫感といい、読み応え十分。 最終盤の伝奇SF的展開によるプロットの破壊は、もったいないとは思うものの、一旦構築したうえでの破壊であるため、1作目とは異なり致命的な減点にはならない。 この荒唐無稽な展開をシリーズものとしてどのように収斂させるのかは、今後の展開を待ちたい。 主人公の人物像とか、随所に散見される文学的な表現等、肌にあわない点は感じるが、それは好き嫌いの問題であり、本作の評価を引き下げる理由にはならない。 作品全体を俯瞰して言うなら、一部の熱狂的ファンが称する「本格の申し子」とまでの評価には抵抗があるものの、「黒死舘殺人事件」にはじまる暗い水脈をバックボーンとして継承しつつ、そのうえに堅固な本格ミステリを建築し、流行りのライトノベル的センスでインテリアを施すことで、一個の新たな世界を作り上げた構築力・オリジナリティは瞠目すべきものと評価 |
No.185 | 8点 | 刺青殺人事件- 高木彬光 | 2015/08/27 18:06 |
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個々のトリックや犯人特定に至るロジックに突出した点はないものの、プロットの完成度や、個々の材料を有機的に連動させてミスリーディングに誘い込む手際が抜群。
古典と呼ぶに相応しい水準の正統的な本格ミステリと評価 |
No.184 | 5点 | 危険な童話- 土屋隆夫 | 2015/08/11 16:30 |
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警察の捜査過程が不用意かつ不可解であり、犯人が仕掛ける個々のトリックの合理性とフィージビリティにも相当程度に無理を感じる。
本サイトでは、作品の持つ独特の抒情性が高く評価されているものと理解するが、本格ミステリとしては完成度が低く無理筋の印象が強い |
No.183 | 7点 | 遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? - 詠坂雄二 | 2015/08/11 16:28 |
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あらかじめ犯人がシリアルキラーであることを示し、その人物像を追う犯罪小説の形式を採用していること自体が、強烈なミスディレクションとして機能しており、プロットは非常に秀逸。
一方、犯人像が理性的・合理的すぎるため、人物像の反転は所期の効果を挙げたとは言い難い。 ホワイダニット1点勝負の作品でありミステリとしての核は小さく、ご都合主義的なアリバイ工作等、細部に綻びも感じる |
No.182 | 7点 | 狂骨の夢- 京極夏彦 | 2015/08/07 20:47 |
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前2作のファンタジックな世界観が影を潜め、よりリアリスティックな、いわば土着的な色彩が濃くなったためか、本格ミステリとしての性格を強めており、その点で嗜好にフィット。
登場人物・事件が丹念かつ網羅的に描写され、披露される衒学と事件が一体感を増していることから、これまで以上に「やたら長いが無駄が少ない」構成となっており、1個の読物としての完成度・リーダビリティは明らかに向上。 一方、提示された謎の怪奇性は抜群なのだが、事件をあまりにも複雑にしすぎたのが大きな難点。 こうした謎がすべて一点に収斂する解決は圧巻であり、伏線の回収の妙は以前にも増して見事ではあるのだが、真相があまりにも壮大すぎてリアリティに乏しく、無理筋の印象が非常に強い。 以上を総合すれば、世評では前2作に見劣ると言われているものの、互角以上の力作と評価 |
No.181 | 4点 | 首断ち六地蔵- 霞流一 | 2015/07/30 20:13 |
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徹底的に多重解決にこだわった連作短編集。
荒唐無稽な物理トリックの多用やリアリティの欠如は作風として理解。 ただ、各短編とも最低4回以上の“解決”を盛り込んでいるため、やむを得ないとはいうものの、ロジックは至ってルーズで、個々の解決の完成度は低水準。 連作短編としてのどんでん返しは、章立てから十分に予測可能なうえ、その内容も「これだとつまらないけど…」という予測どおりの古典的なもの。 意欲・密度を買ってもこの評価 |
No.180 | 9点 | 夏と冬の奏鳴曲- 麻耶雄嵩 | 2015/07/28 18:05 |
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(以下、ネタバレを含みます)
一般にミステリは、提示された謎が解決されることが暗黙の前提となっているところ、本作は「その長大な本編がまるごとダミーの謎と解決に充てられており、真の謎の解決は随所に伏線として散りばめられているだけで明示されない」という点において、他に類を見ない徹底的なアンチ・ミステリである。 主題は孤島の連続殺人であるが、これ自体が著者が仕掛けた罠(ダミーの謎)でしかない。 「犯行とその解明が遅々として進行しない」「犯行の全体像は異様な舞台設定とは裏腹に底が浅い」「荒唐無稽を極める雪上密室トリック」「地震の頻発や真夏の降雪といった異常現象に全く説明が付けられない」など、不可解な点が散見されるが、これもひとえにダミーの謎であることを示唆する一種のヒントではないかと思われる。 真の謎は最終盤に浮かび上がってくるが、本編が終了したあとに突如登場するメルカトル鮎の一言がすべてを解決する。 ただし、その解決はあくまでも主人公に対するもので、読者に対しては明示されないまま、一見するとさらに謎が拡散したような印象さえ残しつつ閉幕する。 しかし、随所に配された伏線を手掛かりに解釈すれば、人によってはある程度合理的な“真相”に到達することが可能となっている(はず)。 この異様とも言える奇想の徹底、巧緻極まるテクニック、絶妙なバランス感覚には、ただただ脱帽せざるを得ない。 毀誉褒貶が激しく、解説で巽昌章氏に「本格推理小説への許しがたい裏切りとみなされることのある問題作」と評されるのも当然であろう。 しかし、アンチ・ミステリとして1つの頂点を極めた金字塔的作品であることもまた間違いない |
No.179 | 1点 | 黒死館殺人事件- 小栗虫太郎 | 2015/07/24 20:35 |
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ミステリとは「提示された謎に対して解決が与えられる作品群」を指すと解するところ、本作は謎が提示され、その解決が与えられている点において、ミステリであると理解。
従って、私が本作の真価の片鱗さえも理解していないであろうこと、著者が既存のミステリの枠組みなど意識していないであろうことを前提としつつ、あくまでもミステリとして以下のとおり評価。 まず、解明プロセスは、殺人事件の発生にもかかわらず、探偵がひたすらゲーテの「ファウスト」はじめ中世ヨーロッパの衒学を披露し、容疑者への心理戦に終始するという異様なもの。 衒学が難解なのはやむを得ないとしても、その量があまりにも膨大過ぎるため、確信犯的に説明不足に陥り、読者の理解を拒絶するものにならざるを得ない。 こうした合理性・論理性のないアプローチを続け、実証的な捜査を全く進めない間に、殺人事件が続発し、しかも手口がエスカレートしていくにもかかわらず、捜査方針を一向に変更せず、登場人物がほぼ死に絶えた最終盤に至って唐突に真犯人が指名される。 膨大な衒学を除去して一連の犯行を俯瞰するなら、合理性・フィージビリティを無視した、荒唐無稽というべき物理トリックを一貫して使用し、それを登場人物の特異体質というご都合主義で支えた楼閣でしかない。 また、恐らく意図的に登場人物の詳細な描写を避け、ロボットのように描く作風を選択した結果、これだけ凶悪な連続殺人事件にもかかわらず、サスペンス的な盛りあがりに欠け、犯行動機も十分に説明される訳ではない。 こうした点はすべて本作の強烈な個性であり、意図的にそのように書かれたであろうことは百も承知。 ただ問題なのは、面白くないのである。 著者の博識は手放し・無条件で認めるが、衒学を詰め込めば面白い作品になる訳ではない。 本作の場合は、あまりにも膨大な衒学が却って犯行の全体像やプロセスの理解を妨げており、主客転倒していると言わざるを得ない。 いわばミステリの骨格を持った難解極まるファンタジー小説であり、ミステリ読みにとっては、何とか読み切ったという徒労感だけが残る作品。 繰り返しになるが、本作の強烈な個性とその存在意義は認め、敬意を払うものの、面白い作品とは断じて言えず、この評価が相応しいと判断 |
No.178 | 7点 | 新参者- 東野圭吾 | 2015/07/21 17:51 |
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ミステリとしての核は小さいものの、舞台設定も含めた構想力の高さと、ストーリーテリングの妙が際立っている。
後半の短編はやや見劣りするが、作品全体として高水準を維持しているのは間違いない。 しかし、著者の力量の高さを認めるが故に、グリグリの本格で勝負してもらいたい気持ちは強い。 |