皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1121件 |
No.681 | 7点 | 悪の五輪- 月村了衛 | 2020/02/24 17:27 |
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1963年、初のオリンピック開催を控える控える東京は、国威高揚に沸き立つ一方で社会情勢は混沌としていた。そんな中、映画好きヤクザの人見稀郎は、オリンピックの記録映画の監督に、中堅監督の錦田を後任にねじ込むよう親分に命じられる。政治家、財界関係者、土建業者や右翼、警察までもがオリンピック利権をめぐってうごめく中、人見は金や女、人脈を使った根回しなどに奔走し、巨大利権の獲得に東奔西走する。
前回の東京オリンピック時代の日本を舞台にした小説はいくつかあるが、戦後昭和の熱気や混沌が感じられて面白い。人見が裏の世界の大物に接触し、気に入られて引き立てられていく展開はちょっと「サラリーマン金太郎」みたいな都合のよさはあるが、特にこの時代に跋扈していたであろう裏社会権力の息遣いがリアルに感じられる。実在のタレント名や大物フィクサーが実名のまま登場しているのも興味深かった。 結末は現実に即した内容で、どうせフィクションなら・・・とは思ったが、熱い展開に惹きつけられて一気に読めてしまう魅力は感じた。 |
No.680 | 5点 | 殺す人形- ルース・レンデル | 2020/02/11 17:12 |
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「十六歳の誕生日を間近に控えた冬、パップは悪魔に魂を売った」-冒頭の一文は「ロウフィールド館」に劣らず魅力的だったが、今回はその後の展開がそれに耐え得なかった。
パップは中盤で常識的になり、狂気に走るメインは姉のドリー。ワイン(アルコール)への依存がどんどん深くなり、次第に壊れていく様はレンデルらしくよく描けていて楽しめたが、全体的に必要以上に冗長。 何よりも、伏線として描かれているニートのディアミットが、いつになったら本線に絡んでくるのかと思っていたが、結局最後偶然にぶつかっただけというのが消化不良だった。 |
No.679 | 5点 | DRY- 原田ひ香 | 2020/02/11 16:59 |
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北沢藍は上司との不倫が原因で夫と別れ、十年ぶりに実家に戻った。だが男にだらしない母と、がめつい祖母は相変わらずで、刃傷沙汰まで起こして事件になっていた。その沙汰を治めたのは、隣に住む藍の幼馴染、馬場美代子。彼女は祖父の介護に尽くす孝行娘として近所でも評判だった。ところが、十年ぶりに美代子との親交を深めていく藍は、彼女のおぞましい秘密を知り、愕然とするー
想像するとぞっとするような話だけど、昨今の驚愕するような事件を見ていると、あながち小説上の絵空事とは言い切れないかもしれない…と思ってしまった。 生活に困窮しながらも一応人並みの常識や倫理観をもっていた人間が、少しずつ麻痺していく様子が描かれているが、現実の犯罪者もこんな感じなのかもしれない。 |
No.678 | 6点 | マーダーズ- 長浦京 | 2020/02/11 16:39 |
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商社勤務の阿久津清春は、ある夜、ストーカーに襲われていた女を助ける。女は数か月前に合コンで一度会っただけの女性だったが、すぐに自分は尾行されていたのだと勘付く。「尾行していた理由をいえ。いわなきゃ――」と言う阿久津に女はかぶせた。「私も殺す?」――そう、阿久津は過去に、誰にも知られず人を殺していた――。
大切な人を奪われた復讐に、あるいは自分を守るために過去に殺人を犯しながらも、犯行は発覚せず普通に生活する者たち。そうした者たちに、玲美は十七年前に行方不明となった姉の行方を探すよう依頼する。「従わなければ、あなたたちの犯罪の証拠を公表する」と脅して。およそ現実的ではない劇場的設定だが、まぁ素直に面白い。もと放送作家らしい作風とも言える。 似たような死亡状況の事件を洗い出し、その関係者を洗い出すうちにつながりが見え、それらをあたっていくうちに真相に近づいていく――という展開もかなりご都合主義なところはあるが(一本の線がすべてアタリ、という流れが)、かといって進んで戻っての現実的な展開があっても冗長になるだけなのでこれはこれでいいのだろう。 かなりバイオレンスな場面も含め、とにかく映像化に向いているストーリーだと感じた。 |
No.677 | 7点 | 神とさざなみの密室- 市川憂人 | 2020/02/11 16:07 |
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時の政権に異を唱える若者団体「コスモス」で活動する凛は、気付くと薄暗い部屋に縛られ監禁されていた。状況が呑み込めずにいる中、なんと隣の部屋には「敵」ともいえる右翼的団体のメンバーが同じく閉じ込められている。しかも、直前の記憶がない2人の前には、横たわる男の死体が―
誰が、何のために、敵対する二人を密室に閉じ込めたのか?そして、この身元不明死体の正体は? ― いかにも現政権をモチーフにしている内容で、その点をどう感じるかは人それぞれだが、政権打倒を目指す市民団体VS右翼思想の一派という現代的な題材は興味深く、しかもその敵対する2人+男の死体という不可解状況は、謎の提示として非常に魅力的だった。 社会思想的な内容もふんだんに盛り込まれている本作だが、何を目的に誰が仕組んだことなのか、という謎解きも十分機能しており、両面で堪能できる作品だった。 監禁中にスマホでつながっていた「ちりめん」の存在とその正体が一番印象的。 |
No.676 | 6点 | メインテーマは殺人- アンソニー・ホロヴィッツ | 2020/02/11 15:48 |
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葬儀社に、自分の葬儀の依頼に来た老婦人が、その日の午後に殺された。偶然とは思えないこの事件の捜査に携わることになったホーソーンは、刑事をクビになりながらも請われて捜査に参加している男。そのホーソーンが、主人公のもとにやってきて言った。「この俺の捜査を本に書いて欲しい」―
インパクトのある物語のスタートから事件はさらに展開し、主人公とホーソーンは順次捜査を進めていく。登場からイヤな奴っぽかったホーソーンだが、その卓越した捜査能力と、時折主人公に見せる素の顔で少しずつ印象は変わっていく。とはいえあくまで中心に「謎解き」が据えられており、ミステリとして十分魅力もある。 「カササギ殺人事件」のような驚天動地の仕掛けはないが、その分読み易いとも言え、結論として平均的に面白いと思える出来だった。 |
No.675 | 8点 | AX- 伊坂幸太郎 | 2020/01/18 15:00 |
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家族をもつ殺し屋「兜」を主人公にした連作短編シリーズ。シリーズに通底するコミカルな作風は維持しつつも、ラストはぐっと切なくなるような終末が用意されており、そういう意味では雰囲気的には「死神の精度」に似ている。
次々と人の命を奪い、それを生業にしてきた兜だったが、妻をもち、子をもつうちにこの稼業から足を洗いたいと強く願うようになる。仕事の仲立ちをする「医師」に何度もその旨を伝えるのだが、「もう少し」と言ってはいつまでも聞き入れられない。ラスト前の章でついに辞める決意を医師に伝え、手を切ろうとする兜だったが、その結末は― 恐妻家の兜が、妻の思考を深読み・先読みしてトラブルを回避し続ける様は本当にユーモラスで楽しい。それでいて一方で組織の一員として「仕事」する中で、さまざまな修羅場を淡々と切り抜ける。いかにも本シリーズらしい(伊坂氏らしい)展開である。 こうしたユーモラスな展開と、ちょっと胸を打つラストに向けての構成はさすがである。殺し屋シリーズの中でも特に際立つ一作になったのではないかと思う。 |
No.674 | 6点 | 悲願花- 下村敦史 | 2020/01/18 14:50 |
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幸子は幼い頃、両親が行った一家心中で唯一生き残ってしまった。暗い過去を抱える中、両親の墓参りに行った折に出会った女性。それは、自分とは逆に、一家心中で生き残った「親」の立場の人間だった―。
後半、両親を追い込んだ金融業者と再会し、そこから一家心中の真相が明らかになる。「被害者」「加害者」とは何かをテーマにした作品後半は読み応えがあり、読後感もよかった。 ゼロシリーズとは違った作者の魅力を味わうことができた。 |
No.673 | 7点 | 今だけのあの子- 芦沢央 | 2020/01/18 14:06 |
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ダークな印象のある作者だったが、本短編集は押しなべて心温まる結末の作品が揃えられている印象。「~ない~」で統一された各話は、不穏なはじまりや展開が、イイ話に逆転されるという逆どんでん返し(?)的タイプ。
亡くなった同級生の部屋に居座って、互いに帰ろうとしない男子・女子を描いた「帰らない理由」のラストにはちょっとジンときた。絵画教室に通わせる我が子の作品がママ友の家でなくなった「答えない子ども」のラストも、「よかったねぇ・・・」と言いたくなる。「正しくない言葉」も、ふたを開けて見れば嫁姑のほっこり物語。 ささいな謎が上手く仕込まれ、適正なサイズで物語にされており、良作な短編集だと思う。 |
No.672 | 4点 | 誰そ彼の殺人- 小松亜由美 | 2020/01/14 18:52 |
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国立大学医学部法医学教室の准教授と解剖技官が、死体の解剖から事件の真相に迫るという短編集。
現在も現役解剖技官である著者が、本格ミステリに傾倒して書き始め、本作が単行本デビュー作とのこと。 解剖室が舞台となったミステリ作品はこれまでにもいくつも先例があるので、目新しさはない。それよりも、本筋に関係のない解剖過程の描写が非常に多く、それをなくせばもっと短い話になっていると思う。謎の解明に関わる部分ならまだしも、ただ解剖の手順を専門用語を羅列して一から描写しているのは正直煩わしさを感じた。 開陳される真相もそれほど目を見張るようなものでもなく、共通して登場してくる准教授と女性解剖技官と刑事のキャラクターも何かどっかで見たような感じのもので、私としては特に印象に残る作品ではなかった。 |
No.671 | 6点 | 静かな炎天- 若竹七海 | 2020/01/14 18:35 |
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本シリーズは以前長編を読んだのだが、それは登場人物の相関関係が非常にややこしくて読むのが非常に疲れた覚えがあったが、こちらは大変読み易く、作風も長編以上にユーモアたっぷりで気軽に楽しめた。
今時珍しい「私立探偵」を主人公としている本シリーズだが、葉村晶はインターネット検索を多用していて、特に彼女じゃなくても調べれば誰でも分かるようなことも多い。実際もこんなものなのだろうか。もちろん尾行や周辺への聞き込みなど、探偵ならではの調査もあるが。 私としては表題作「静かな炎天」と「副島さんは言っている」がよかった。 |
No.670 | 8点 | 或るエジプト十字架の謎- 柄刀一 | 2020/01/14 18:19 |
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クイーンの国名シリーズ4編「ローマ帽子」「フランス白粉」「オランダ靴」「エジプト十字架」になぞらえた本格ミステリ短編。
当然、本家作品という「題材ありき」から作られた各話なのだが、といって取って付けたようなチープな仕組みではなく、短編のサイズで十分本格の味わいが楽しめた。 「オランダ靴…」は読み手も美希風と同じ推理を辿ってしまうと思う。その推理を逆手に取る、というトリックはちょっと行きすぎな感じもしたが、「フランス白粉」の粉末を撒いた理由、「エジプト十字架」の頸を切断した理由についての論理は非常に面白かった。 特にクイーンの各作品を読んでいなくても十分楽しめるし、またネタバレもないので安心してよい。 |
No.669 | 5点 | 法月綸太郎の消息- 法月綸太郎 | 2020/01/05 16:44 |
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ここまでの方々が書かれているように、1作目「白面のたてがみ」とラストの「カーテンコール」は、海外古典ミステリの分析推理譚となっており、法月綸太郎のオーソドックスな事件簿ではない。「白面の…」はドイルとチェスタトン、「カーテン…」はクリスティの作品を題材としているが、登場する各作品のネタバレが平気でされるので、今後それらを読もうと思っている人は避けた方がいいかもしれない。
他2編は、警視の父親が持ち込んでくる事件の謎を、自宅で解き明かすいつものパターン。2人の死者の遺書が入れ替わっている、殺人が起こる前に犯人が自首してきた、と「謎」は非常に興味深いものなのだが、結末として明かされる犯人の行動心理は「すとん」と納得するところには至らなかった・・・という印象だった。 |
No.668 | 7点 | ケイトが恐れるすべて- ピーター・スワンソン | 2020/01/04 17:45 |
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この方の作品は、両方とも本サイトにある「そしてミランダを殺す」と本作品しか読んでいないが、この方がよいのか、訳者が優れているのか、非常に読みやすい。「海外作品はちょっと読みにくい」と感じられている人も、すいすい読めるのではないかと思う。
大学時代に偏執的な恋人にストーキングされたあげく同じ部屋で銃で自殺され、心に大きな傷とトラウマを抱えたイギリス女性、ケイト・プリディー。ある時、アメリカに住む又従妹のコービン・デルから「6か月間、住居を交換してほしい」との申し出が。心的障害を抱えるケイトだったが、勇気を出してその申し出を受けることに。ところが、コービンの住居に着いてボストンでの生活を始めたその日に、隣人の女性が不審死を遂げる― 主人公ケイト、コービン、同じアパートメントに住む男と、かわるがわるそれぞれの視点から物語が展開していく。しかし、持って回った複雑な言い回しなどがないので、すっと頭に入っていく。 本作品は「閉じた狭い空間で繰り広げられる、人に見られたくない人間性」という雰囲気を感じ、個人的にルース・レンデルの作風を彷彿とさせた。主人公ケイトの病的な神経質さも上手く描かれ、映画などで映像化されたらかなり映えるのではないかとも思う。 今後もこの作家の作品はチェックしたいな、と思える面白さはあった。 |
No.667 | 6点 | 国語教師- ユーディト・W・タシュラー | 2020/01/04 17:14 |
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教育委員会の企画で「作家と生徒の出会い」が企画され、54歳の国語教師・マティルダの学校に、十数年前、突然自分を捨てて行方を消した元恋人である作家・クサヴァーが来ることになる。久しぶりの再会を喜ぶクサヴァーと対照的に、「なぜ私を捨てたのか?」と冷たい態度のマティルダ。しかしメールのやりとりをかわすうちに、マティルダのもとを去ってからのクサヴァーの日々が明らかにされていき…
クサヴァーがマティルダと別れてから結婚した妻との間に出来た子は、誘拐されたまま行方が分からず未解決のまま。その真相が解き明かされていく点は一応ミステリの体にはなっているものの、大した真相ではない。過去・現在、または物語・現実とくるくる場面が変わる展開も、取り立ててそれが仕掛けになっているわけでもなく、ミステリという側面ではそれほど秀でているとは感じない。 しかしページを繰る手が止まらず、どんどん読み進めてしまう魅力は確かにある。それは年を経て若く情熱的な頃を回顧するノスタルジーからか、決して良い終わり方はしなかったのに笑って話せるようになった男女への共感からか。いずれにせよ、「ミステリ」としての評価であることを踏まえて何とか抑えめに採点したが、総合的にはとても楽しめた。 |
No.666 | 8点 | medium 霊媒探偵城塚翡翠- 相沢沙呼 | 2020/01/02 19:17 |
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ラスト前までの各章は、確かにそれなりに面白くはあるが「各ランキングで1位を獲るほどか?」と思っていた。が、最終章を読んだら納得。この仕組み方は・・・新鮮だった。
メインの「連続死体遺棄事件」の真犯人は後半で分かり、「ああ、そういうパターンね・・・」と思っていたが、それを上回る仕掛けに見事にやられた。 とても楽しめた。 |
No.665 | 6点 | 潮首岬に郭公の鳴く- 平石貴樹 | 2020/01/02 19:10 |
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芭蕉の句になぞらえて美女三姉妹が次々殺されていくという、明らかに「獄門島」の本歌取りを意図した作品。
文章自体は読みやすいのだが、何しろ登場人物(=容疑者)が多くて、いとこやらなんやらの親族関係も複雑で、把握しながら読み進めるのに苦心した。 要所要所で散りばめられる謎も割と細かくたくさんあり、それらが収束していくラストは素晴らしかったが、そこに行きつくまで事件の背景や構図をたくさん吸収していかなくてはならず、最後はとにかく真相を読んでしまいたい、という気持ちだった。 純粋な本格ミステリとしては十分に楽しめた。 |
No.664 | 7点 | イヴリン嬢は七回殺される- スチュアート・タートン | 2019/12/28 13:22 |
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ある時突然、森の中にいる自分。自分が誰なのかもはじめは分からず、何が起こっているのかもわからない。すると怪しい風貌の人物が現れて告げる。「ここで夕刻に起こる殺人事件の真犯人を解明せよ。それができるまで、お前は違う人物に入れ替わって何度も同じ日をループすることになる」―
主人公がさまざまな人物になり、同じ日を何度も繰り返すうちに少しずつ事件の裏にある過去や人間関係が分かっていくのだが、なにせややこしくて複雑。多くいる登場人物を頭に入れるのにも苦労して、少し前を見返すことを何度も繰り返して読み進めた。 ようやく物語の設定に慣れてきたころはもう終盤だったが、複雑な構造で仕組まれたストーリーが収束するさまは素晴らしかった。中盤、敵・味方がくるくる入れ替わっていくのだが、最後に用意された結末には驚かされた。 |
No.663 | 5点 | 神さま気どりの客はどこかでそっと死んでください- 夕鷺かのう | 2019/12/28 12:00 |
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「今日は天気がいいので上司を…」の「縁切り神社」が出てくるから、一応シリーズ作品ということなのかな。登場人物は毎回違うけど。
今回は、いわゆるクレーマー(最近はカスタマーズハラスメントともいうそうな)に対応する客商売の人たちを描いたもの。結婚相談所相談員、クレーマー対応のコールセンター(これはショート短編)、コンビニ店員、の3話。 非常識な要求をしてくる相手に主人公が内心で毒を吐く、というスタイルは前作同様でそのくだりは面白い。だが、最後「縁切り神社」で結末というのがちょっと単純で、前作の方が工夫があったなぁと思った。 この小説ほど極端ではなくても、いろんなところでこういう人たちが増えてきた昨今である。残念な世の中だ。 |
No.662 | 5点 | アリバイ崩し承ります- 大山誠一郎 | 2019/12/28 11:40 |
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時計屋の娘が、「アリバイ崩し」も副業(?)として謳い、そこに現職刑事がアリバイがらみの事件を持ち込むという設定の連作。謎解き以外の描写はほとんどなく、ラノベ的な設定ではあるが扱う事件は殺人など本格的で、純粋なパズラーを手軽に楽しめる短編集。
ただ披露されるトリックは手が込み過ぎていたり、都合のいい偶然が絡んでいたりして、非常に線の細いトリックにあとから物語を付け足していった印象を受けるものが多い。何というか、捜査側の思考経路を犯行側があまりに限定的に想定していて、そしてそのとおりの思考を捜査側が辿って壁にぶつかる、みたいな……「そんなに犯人の思惑通りに捜査側が動く?」と感じてしまう。 とはいえ、1冊読むのにほとんど時間もかからないので、割り切って読めばそれなりに楽しむことはできた。 |