皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1156件 |
No.1136 | 7点 | まず良識をみじん切りにします- 浅倉秋成 | 2025/02/02 17:21 |
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日々増幅する、取引先の役員に対する憎しみ。ついに男は復讐を計画する(「そうだ、デスゲームを作ろう」)。結構披露宴で、突然花嫁が「気持ち悪い」の言葉を残して部屋にこもってしまった。原因は何?(「花嫁が戻らない」)。試合終盤に突然、自チームの足を引っ張るプレイを全力でし出したプロ野球選手。その真意は?(「ファーストが裏切った」)
日常を逸脱したちょっと異常なシチュエーションを舞台に、ブラックユーモアを交えた痛快な作品が並ぶ短編集。 一作目の「そうだ、デスゲームを作ろう」から面白かった。日々の苦渋に耐え、いつかそれがデスゲーム決行へのモチベーションになっていく中、その思いは果たせるのか―と純粋に結末が楽しみに。「行列のできるクロワッサン」は、ありえないバカバカしさながら、週刊誌報道に右往左往する昨今の日本の群集性が思い浮かんでくるところもあり、痛快な皮肉を感じた。 印象的な一編は「ファーストが裏切った」。選手の奇行には最後まで明確な理由はないが、理由のない人間心理の危うさを描くという趣旨は面白かった。 |
No.1135 | 7点 | 六色の蛹- 櫻田智也 | 2025/02/02 16:54 |
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昆虫好きの青年・魞沢泉(えりさわせん)。その興味のもとに全国処々を訪ね歩く彼は、行く先々で事件に遭遇する―ハンターたちが狩りをしていた山で起きた、銃撃事件(「白が揺れた」)。ある日花屋に来て、季節外れのポインセチアを欲しがった女子高生の真意は?(「赤の追憶」)。ピアニストの遺品から一枚だけ消えた楽譜の行方は?(「青い音」)。とぼけたキャラながら実は人に寄り添う優しさをもつ、魞沢の精度の高い謎解きと叙情漂う良質なドラマ6編。
切なくそして心温まる「赤の追憶」、先行書評にもあるように結末を待たずとも真相は見当がつくが、その予感も含めてじんわりとした感動があってよい。その後日譚が、最終話「緑の再会」により描かれているのも嬉しかった。 個人的にはそれ以上に、「白が揺れた」の続きが描かれている「黄色い山」が最も印象に残った。 |
No.1134 | 5点 | にわか名探偵 ワトソン力- 大山誠一郎 | 2025/01/13 21:59 |
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その場に居合わせた人たちの推理力が格段に向上する、という特殊能力「ワトソン力」(本人は変わらない)をもった警視庁捜査一課・和戸宗志のシリーズ第二弾短編集。
主人公が私生活の場で殺人に遭遇し、限られた登場人物=容疑者の中で推理合戦を繰り広げるというテンプレート。人物描写や心情描写も浅く、完全に推理に特化した「推理クイズ」的な各編。そういう趣旨を踏まえた上で、肩の力を抜いてその推理クイズを楽しめればよい、という感じ。 7話で計250ページ、あっという間に読めて手軽に楽しめる。 |
No.1133 | 9点 | 檜垣澤家の炎上- 永嶋恵美 | 2025/01/12 22:00 |
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大正時代、横濱で知らぬ者なき富豪一族、桧垣澤家。当主の妾の娘、高木かな子は母を亡くしこの家に引き取られる。商売の舵取りをする大奥様、スヱ、互いに美を競い合う三姉妹と、桧垣澤は女が主権を握る家だった。ある夜、婿養子が不審な死を遂げ、いよいよ桧垣澤家は女系一族に。政略結婚、軍との交渉、昏い秘密。陰謀渦巻く館で、かな子は策をめぐらせながら自身の立身を目論む―
序盤に婿養子・辰市の不審な死が描かれるものの、700ページを超える物語の中盤大部分は、かな子が桧垣澤家で自身の立ち位置を守るために知略をめぐらせるさまが描かれるストーリーで、ミステリ色は薄い。が、表裏を使い分けるしたたかな女性たちの物語はそれ単体でも十分面白く、のめり込んで読めた。 そして終盤、序盤の事件の真相だけでなく、桧垣澤家に隠されたさまざまな秘密がドミノ倒しのように明らかにされていく。その段では、そこまで描かれていたストーリー中の諸所に仕込まれていた伏線が見事に回収されていき、ミステリとしての魅力が一気に表出される。唸らされた。 緻密に編み込まれ、人間ドラマとミステリが見事に融合した重厚な一作。見事だった。 |
No.1132 | 8点 | Q- 呉勝浩 | 2025/01/12 21:24 |
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長姉のロクこと睦深 (むつみ)、次女のハチこと亜八(あや)、末弟のキュウこと侑九(たすく)の3人きょうだい。2019年、ハチは傷害罪で執行猶予中の身となり、清掃会社でバイトをしていた。そんな折、距離をとっていたロクからキュウに関する緊急の連絡が。ダンスに天賦の才があり、芸能界デビューを果たしたキュウに邪魔者が現れたという。自分たちの希望であるキュウを守るために、姉妹は立ち上がる―
策士のロク、凄みと繊細さ併せ持ったハチ、天真爛漫なキュウという三者三様のキャラクターが織りなす厚みある物語。その中で、次女・ハチを中心の視点人物に据えた構成は当たっている。典型的な「天才肌」で、周囲を振り回しながら生きるキュウと、知力と計略でそれを支えていこうとする長女ロク。2人それぞれとの微妙な関係に揺さぶられ、彼らと一線を画しながら生きていこうとする次女・ハチの立ち位置が、物語を非常に魅力的なものにしている。 キュウ=Qの才能に魅了される者、商業的な利権を狙う者、自らの社会進出に利用しようとする者―さまざまな思惑が跋扈する中を、悲惨な生い立ちを共有したきょうだいが駆け抜けていく。 読み応えのある一作だった。 |
No.1131 | 5点 | 鬼の哭く里- 中山七里 | 2025/01/02 17:13 |
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岡山県津山市姫野村。人口 300 人にも満たないこの限界集落には、70余年前、村人 6 人を惨殺した巌尾利兵衛の呪いにより、数年に一度、鬼哭山から利兵衛の咆哮が轟き、仇なした者を殺すという呪縛を恐れていた。そんな村に、一人の男が東京から移住してきたことをきっかけに、呪いの犠牲者と思しき死者が出てしまう。移住者の排斥に昂ぶる閉鎖的な村民たち。いったい、事件の真相は―?
冒頭は、「津山三十人殺し」を彷彿とさせるよう。著者策の「ワルツを踊ろう」も同様な色付けだったから、何となく既視感が… <ネタバレ> 「咆哮が聞こえることは、死者が出たとき以外も何度もあった」という記載から、「まぁ、自然現象っていうオチなんだろうな」とは思っていた。それでも一番最後に一仕掛けするのはさすがで、ブラックな結末ではあるがらしさが感じられる一作だった。 |
No.1130 | 5点 | 不死蝶- 横溝正史 | 2025/01/02 16:58 |
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鍾乳洞、夢遊病…金田一シリーズでよく用いられる題材ではあり、横溝作品らしい雰囲気とはいえる。もう一本収められている「人面瘡」にしても。
<ネタバレ> 上に書いたように、23年前の失踪事件、古い村の名家二家による争い、鍾乳洞…と、横溝正史らしい作品舞台はばっちり。ただ、起きた殺人事件の真相自体は、ある意味それらとは無関係で、いたって世俗的、短絡的、衝動的なもので…まぁそういう逆方向での「意外な真相」ではあるのだが、つくりの粗さは否めなかった。 「人面瘡」のほうがむしろ、真相は過去の人間関係に根差したものがあり、長さ的にもちょうどよかった気がした。 |
No.1129 | 6点 | あの本は読まれているか- ラーラ・プレスコット | 2025/01/02 16:39 |
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CIAのタイピストとなった女性の、スパイとしての裏の顔と、反体制の文学作品を書き上げたロシア人作家とその愛人の物語。戦争という時勢に翻弄されながら、強く生き抜く女性たちの人生を描いた厚みのある作品。
当時の世界情勢について改めて学びつつ、「ドクトル・ジバゴ」という作品が世に出されていった数奇な軌跡を非常に興味深く読んだ。スパイ小説の部類になるかもしれないが、作品としてはドキュメンタリー的な魅力のほうが濃く、ミステリの楽しみとはまたちょっと違う位置づけになるかなとは思う。 |
No.1128 | 6点 | 禁忌の子- 山口未桜 | 2024/12/29 19:52 |
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救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。第34回鮎川哲也賞受賞作。
<ネタバレ注意> 搬送され、死亡した男性が自分と瓜二つだった、という不可解で衝撃的な冒頭は非常に魅力的。その後、不妊治療専門クリニックにたどり着き、「すべてを話す」と約束した院長がその約束の日に死んでいた…と、読ませる展開が続くのだが、一方で主人公・武田と「キュウキュウ十二」の関係はそこでうっすら見えてきてはしまう。その後は、その「答え合わせ」を進めていくようなところもあって、謎がどんどん深まっていくという展開とは違った。 ただ最後にとんでもないどんでん返しがあり…さすがに予想外ではあったし、唸るものがあった。 |
No.1127 | 8点 | イッツ・ダ・ボム- 井上先斗 | 2024/12/29 19:39 |
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「日本のバンクシー」と耳目を集めるグラフィティライター界の新鋭・ブラックロータス。公共物を破壊しないスマートな手法で鮮やかにメッセージを伝えるこの人物の正体、そして真の思惑とは。(第1部 オン・ザ・ストリート)
20年近くストリートに立っているグラフィティライター・TEEL(テエル)。ある晩、HEDと名乗る、イカしたステッカーを街中にボムってい青年と出会う。二人は意気投合し、ともに夜の街に出るようになるがある日、HEDはTEELに〝宣戦布告〟を突き付ける―。(第2部 イッツ・ダ・ボム) グラフィティライター界という、これまでにない舞台を題材とした物語が単純に興味深く非常に面白かった。特に、第1部を踏まえた第2部がグッと引き寄せる感じで、登場するグラフィティライターの美学も含めたミステリは読ませるものがあった。200ページほどの一冊で、まさに一気読みできてしまう。面白かった。 |
No.1126 | 8点 | 身代りの女- シャロン・ボルトン | 2024/12/29 19:28 |
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卒業を間近にしたパブリック・スクールの優等生6人。悪ノリした「肝試し」で泥酔して道路を逆走、母娘3人の命を奪う大事故を起こしてしまう。パニックになる仲間たちに、「私が罪をかぶる」と申し出たメーガン。20年後、刑期を務めた彼女が、国会議員、辣腕弁護士と、いまや成功した人生を享受している5人の前に姿を現す。メーガンは、彼らに何を求めているのか―自己保身に戦々恐々とする5人と、真意の読めないメーガンの言動とが交錯していく先には……一気読み必至のサスペンス
将来を嘱望される優等生たちの裏の顔、悪ノリで始まった罪が、その後の人生を苛む。出所してきたメーガンの真意が読めない中、次々と仲間が不幸に遭っていく…これぞ、サスペンス。物語の枠組みも、展開も非常に私好みで引き込まれた。 「今面白いサスペンスは?」と誰かに言われたら、真っ先に薦めたい一冊かも。 |
No.1125 | 5点 | バーニング・ダンサー- 阿津川辰海 | 2024/12/29 19:10 |
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2年前のある日、隕石が落下し、この世に百人の異能力者──「コトダマ遣い」が誕生した。彼らは「燃やす」「放つ」「伝える」「硬くなる」など、それぞれに異なる能力を持つ。必然、能力を悪用する犯罪者が現れ、警視庁に「公安部公安第五課 コトダマ犯罪調査課」が立ち上げられる。ある事件により相棒を失い、捜査一課を追われた、自身も「コトダマ遣い」である刑事・永嶺スバルはそのメンバーとして召集される。就任早々、全身の血液が沸騰した死体と、炭化するほど燃やされた死体という、異様な事件が勃発する―
異能力者「コトダマ遣い」の犯罪者に、同じく「コトダマ遣い」のメンバーが対峙する…下手するとアニメのような物語設定だが、そこはさすが作者、ミステリとしての線は外さずに物語を仕組んでいる。 特殊設定ミステリとして標準的に面白いが、設定された異能力の範囲や限界が最初にはっきりしていない感じもあって、後になって「実はこういうことも可能」と後付けされるような印象もややあった。 ラストの真相も、はっきりそうだと分かっていたとまでは言わないが、どんでん返すならまぁ、きっとそうだろう…という意味でうっすら見えていた感じはあったかも。 |
No.1124 | 4点 | 牢獄学舎の殺人 未完図書委員会の事件簿- 市川憂人 | 2024/12/07 20:59 |
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マリア&漣のシリーズをはじめ、作者の作品は好きなんだが…これはハマらなかった。
<ネタバレ> 殺人の指南本と目されている本の、事件の様相を描く描写を細かに観察していく中で推理を進めていくのだが…細かすぎてついていけない。人物の言動を詳らかにしながら「…するつもりだったら、こんな行動はしないはず」「そもそも…したいのなら、こんなことをする必要はない」など… 論理的と言えばそうなのだろうが、ロジックが細かすぎて途中でついていく気力が失せてしまった。 だいたい、「配本師」による事件は日本全国で起きているということなのに、ピンポイントでこの学校に「未完図書委員」の杠が来ていることの説明もないし、実際にそこで事件が起きることについてもそう。事件のからくりに関しては細かく仕組まれている割には、そういう物語の設定・大枠の部分で不自然さがあり、なんだかちぐはぐな感じがした。 |
No.1123 | 5点 | 吸血蛾- 横溝正史 | 2024/12/07 20:41 |
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蛾が添えられた死体、嚙み切られた乳房、衆人注目の中での殺人発覚…など、見映えのある展開が続き飽きさせないのだが、ファッションデザイナーという華やかな舞台設定により、横溝氏の代表作のような陰惨さがイマイチ感じられず。金田一もかなりの終盤まで動く気配がなく、お呼びがかかってからも次々と人が殺されているにも関わらず傍観しているような感じで。
<ネタバレ> 最後の最後に一応金田一の推理が真相を射当てるのだが…まぁ真犯人はミステリに読み慣れた読者なら十分予想の範疇。 しかし時代とはいえ、これだけひとつのデザイナー事務所で殺人が続いているのに、犯人がいつもスルスルと現場に入れてしまうのは…まぁやっぱり時代なのかな。 |
No.1122 | 7点 | ほんとうの名前は教えない- アシュリィ・エルストン | 2024/11/28 23:11 |
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冒頭から”エヴィ”を名乗る主人公は、実は正体を偽って対象を調査する闇組織に属する女性。今回結婚を約束するまで近づいた男性ライアンも調査対象者。ところが任務を遂行するエヴィの前に、自分の本名”ルッカ”を名乗る、自分そっくりの女性が現れる。彼女も「組織」の人間なのか?だとしてもなぜ自分の前に?エヴィが疑念にとらわれる中、事態は次々に急展開し―
結婚を見据えた幸せなカップルのような冒頭の物語が、あれよあれよと姿を変えていく。実は”エヴィ”の調査対象であった、婚約者のライアンにも後ろ暗いところがあり、さらには自分の本名”ルッカ”を名乗る女性も、自分に仕掛けられた刺客だった。いったい”エヴィ”のボスは何を企み、そして誰なのか―?「現在」と”エヴィ”のこれまでの様子が描かれた過去が交互に描かれる章立ての中、常に動き続ける展開から目が離せない。 読み進めるにつれて、ミステリを嗜んでいる皆さんならボスの正体は見当がついてくるとは思う(私もそうだったし)。が、それを踏まえても物語の行く先への興味は尽きないリーダビリティがある。 面白かった。 |
No.1121 | 6点 | 歌人探偵定家 百人一首推理抄- 羽生飛鳥 | 2024/11/17 16:07 |
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源平合戦が終結した平安末期。平家一門の生き残りである平保盛は、亡き父・頼盛が守り抜いた一族の暮らしを絶えさせぬよう、静かに暮らすことを心掛けていた。だが都は盗みや殺しが横行する荒んだ日々。そんなある日、和歌が添えられた女のバラバラ死体が発見される。偶然その場に巡り合った保盛は、和歌をこよなく愛する朋友・藤原定家とともに、その真相解明に乗り出すことになる―
「平家物語推理抄」シリーズの続編という位置づけであろう、頼盛の息子・保盛をワトソン役とし、当代きっての歌人・藤原定家を探偵役とした連作短編。殺された遺体に添えられるなど、何らかの形で百人一首に収録された和歌が絡んでおり、事件の概要を描く段は「上の句」、解決編を「下の句」として組み立てた構成はなかなかに洒落ている。時代風俗や政治背景も巧みにちりばめられ、歴史ミステリ期待の新人といえる出来栄えは、前作以降も変わらないと感じる。 1話目「くもがくれにし よはのつきかな」3話目「からくれなゐに みづくくるとは」が個人的にはよかった。いにしえの古都が舞台となっているので、科学的な緻密さは当然弱いが、その時代なりのロジックが考えられていてそれもまた面白い。 ただ定家のキャラがラノベ風にぶっ飛んでて、前シリーズのような歴史ものの重厚さは薄れた。定家のセリフにやたらと「・・・っ!」が多用されるのは少し煩かったかな。 |
No.1120 | 5点 | 幽霊男- 横溝正史 | 2024/11/16 22:00 |
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全体的に多分に劇場的で、しかも舞台が都会、ヌードモデルなどの風俗的味付けから乱歩作品のような雰囲気をまとっている。
派手な奇怪さが前面に出ていて、退屈はしないのだが、物語全体のプロットが結果的に複雑すぎた感は否めない。幽霊男の出現、関与についての偶然も、都合よすぎで出来過ぎだし・・・ 金田一耕助シリーズの凡作として楽しめればよいのかな、という感想。 |
No.1119 | 8点 | サリー・ダイヤモンドの数奇な人生- リズ・ニュージェント | 2024/11/16 21:48 |
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町はずれで父と2人で孤立して過ごす43歳の"変わり者"サリーには6歳までの記憶がない。ある日父が病気で亡くなり、言いつけどおり遺体を焼却炉で焼いたところ、警察が駆けつけて大騒ぎに。マスコミが殺到する中、サリーは父が残した手紙を開く。そこにはサリー自身が知らなかった、凄惨な事件の記録が記されていた―
凄惨な幼少期を過ごしたことにより、パーソナリティ障害を抱えているサリー。「適応障害を抱えているから、不適切なことを言ってしまう」と自分で相手に説明しながら、社会に順応しようと努力を重ねている姿をいじらしく感じてしまい、とても好感がもてる。一方物語は、現在と交互に章立てされてサリーの幼少期に起きた誘拐・監禁事件のストーリーが並行して描かれる。サリーの母親であるデニース・ノートンがコナー・ギアリーという男に誘拐され、監禁される中でサリーを産んだ。実はその前にデニースは男の子も産んでおり、その子・ピーターは父コナーに大事に育てられていた。ピーターを一人称として描かれる過去の章により次第に物語の輪郭を明らかにしていく展開は妙で、非常に面白かった。 唯一不満なのは…玉虫色のラスト。ここまで来たのなら…着地点を明確に描いてほしかったなぁ。 |
No.1118 | 6点 | 少女マクベス- 降田天 | 2024/11/16 21:17 |
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演劇界の人材育成をめざす超名門校「百花演劇学校」。その制作科に籍を置く結城さやかは万年2番手、トップは誰もが認める孤高の天才、設楽了だった。が、その了は学校一番の晴れ舞台・定期公演での舞台「百獣のマクベス」上演中に命を落とす。翌年、了の友人であったという新入生、藤代貴水が入学。彼女は皆の前で設楽了の死の真相を調べる」と言い放った。なぜか、貴水と共に事件の真相解明に乗り出すことになった さやか―
演劇に身を賭した少女たちの、ある意味閉鎖された価値観の中でのストーリー。貴水とさやかが関係する生徒たちにあたって真相を探っていく過程で、一人一人の秘密が暴かれていく展開は退屈ではなかったが、遅々とした進み方に多少ストレスを感じた。 登場人物が分かりやすく限られているため、ストーリーを追っていくぶんには理解しやすかったが、同時に真犯人の予想もしやすくはあった。そこそこの分量だが、すらすらと読んでいける展開ではある。ただ、この作者は他作品で自分としては評価が高く、期待が高くなっていたのだが、出色の出来、とまではいかなかったかな。 しかし、天賦の才能とか、生まれもった別格な存在、なんてホントにあるのかなぁ。実体験がないから懐疑的。 |
No.1117 | 7点 | ぼくは化け物きみは怪物- 白井智之 | 2024/11/04 19:55 |
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<ネタバレ含む>
「最初の事件」…タイトルに込められた真の意味がラストに分かる。といっても私は、それと物語冒頭とが結びつくまでに少し時間を要した。 「大きな手の悪魔」…トリックのためとはいえ、読み手が好感をもっているであろう登場人物を、あっさり殺してしまう作者の無情さは相変わらず。まぁ慣れたけど。 「奈々子の中で死んだ男」…令和の現代では倫理的に支障があるような表現の数々、作者らしい色の一編。 「モーティリアンの手首」…モーティリアンなるものが何なのか、作者の作風や西暦から早々に想像がつく。地層に散在する化石からの推理は、確かに論理的ではあるが…そこまで考えるものでもないのでは? 「天使と怪物」…本短編集ではこれが出色の出来であろう。「名探偵のいけにえ」以来、作者のカードの一つにもなってきている「多重解決もの」だが、その面白さを中短編で堪能できる。またラストがなかなかに切ない余韻を残すもので…これは秀逸な一編だった。 |