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[ サスペンス ]
身代りの女
シャロン・ボルトン 出版月: 2024年04月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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新潮社
2024年04月

No.1 7点 人並由真 2024/07/02 07:57
(ネタバレなし)
 英国のパブリック・スクール「オール・ソウルズ」。そこで上級監督生チームを務める6人の優等生の男女グループがある夜、全員で酒を飲んで車に同乗。その車が道路を逆走して事故を起こし、赤ん坊や幼女を含む母子を死なせてしまう。卒業を間近に控えたなか、自分たちの未来が灰色になったと絶望する若者たちだが、そのなかの一人の女学生がすべての罪をひっかぶった。だが種々の事情からその刑期は20年もの長きにおよび、それぞれが社会人として成功していた5人は、出所した彼女を迎える。

 2021年の英国作品。同年度CWAスティール・ダガー賞候補作品。

 作者シャロン・ボルトンは、2010年代のはじめに3冊のみ邦訳がある作家S・J・ボルトンの新たなペンネームだそうだが、評者は馴染みがないのでその意味や価値がよくわからない。ただしネットでの反響を見るとその事実に沸いている人もいるようで、たぶん当該のファンには嬉しい今回の翻訳なんだろう。

 20年分の若い日の人生を喪ったキーパーソンのヒロインと、その彼女に対してふつうではとうてい返せない、あまりにも大きな「借り」を作った5人の元友人たちとの再会。この文芸設定を核とする物語がどのように転がっていくか、なるほどこれはこちらの下世話な覗き見趣味を刺激する。なんかアルレーのよくできた作品みたい。

 出所してきたヒロインもくわせものならば、出迎える連中も素直にそのまま謝意と友情で報いようとする者などもほとんどなく、物語の前半からいろいろと際どいものが見えて来る。まああんまり書かない方がいい。

 600ページ以上の長丁場の割に、ネームドキャラが少なく、モブキャラはほとんど記号的に名前すら与えられていない。その大胆な割り切りも、とても読みやすい。

 で、丁々発止のやりとりにグイグイ引き込まれながら加速度的にページをめくったが、終盤の方は悪い意味でミステリっぽくしたため、なんか却ってツマらなくなった。
 いや普通の作りのミステリなら、本作に盛り込まれたあれやこれやもアリなんだろうが、転調があまりに恣意的で、書き手のサービス? 過剰が読み手の求めるものを裏切った感じ。

 それでも6分の5くらいまでは、十二分に面白い。あまりミステリっぽくない、人間ドラマを軸とした普通のエンタテインメントという感じもあるが、その上でいくつかの大小の謎や秘密は設定されてはいる。広義の……なら十分に途中までも、ミステリといっていいだろう。

 こちらの思うまま中盤までのノリで最後まで突っ切ってくれたなら、9点もありだったかも。最終的には8点でいいか……とも思いもしたが、最後まで読み終えると終盤の様変わりの失望感が今ではじわじわ効いてくるので、もう一点下げてこの点数。
 それでもまあ、読んで面白かった作品なのは間違いない。


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シャロン・ボルトン
2024年04月
身代りの女
平均:7.00 / 書評数:1