皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1843件 |
No.1323 | 5点 | 紙の罠- 都筑道夫 | 2022/11/10 12:18 |
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なんだかごちゃごちゃした話。みんながみんな軽くウィットを効かせた話し方なので、効き目が薄いし人物の書き分けに貢献出来ていない。更に問題なのは、二転三転する物語を転がす要所々々のアイデアがそれほど面白いとは思えないこと。
そして、末尾近くの大乱戦で “終幕” な気分になってしまったが、――“畜生、あの紙、もったいねえなあ。なんとかならねえか”――考えてみるとあの状況で諦める理由ってあるか? |
No.1322 | 5点 | 録音された誘拐- 阿津川辰海 | 2022/11/10 12:17 |
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事件の様態は面白いが、真相はスッキリしない。
複数の思惑が絡み合っているにしても、過剰な演出。それがどういう形で犯人の復讐心を満たしたのか今一つ納得出来ず。二つまとめて決行した方が無防備で確実だろうに。未確認情報を当てにしてそこまでやるかと言うのも疑問。 糺が犯人に対して美々香の有能さをアピールすると、彼女が狙われるリスクは高まるわけで、無神経では。と見せ掛けて、糺はそのように犯人を操って美々香を殺させようとしているのでは、と本気で疑った。 録音内容の文字起こしに【……】【!】などが使われていて、えらく文学的だな~(笑)と思った。それとも実際にあんな風に書くのだろうか。 |
No.1321 | 6点 | 最後から二番目の真実- フィリップ・K・ディック | 2022/11/03 12:55 |
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ディックおなじみの “作り物の現実”。本作は結構即物的でロジカルで、さほどぶっ飛んではいない。特権階級が支配する世界像は、私なんかが読むと陰謀論者に対する揶揄に思えるが、作者は真剣な社会批評のつもりだったのかも。そのへんは “ホンモノ” を傍観する面白さ(?)。
一応密室殺人が発生。このトリック、好きだ。今ならミステリとしてもアリかも(??)。 ただ、近未来(もうすぐ追い付く)のテクノロジーの進歩、はいいんだけど、“時間” にまで手を広げたのは無節操に過ぎる。こればかりは次元の違う技術だと思うんだよね。いや、それでこそディック(???)。 |
No.1320 | 5点 | 蠟人形館の殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2022/11/03 12:53 |
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悪い意味でヴァン・ダインを思わせる臨場感の無さ。死体が蠟人形に抱かれていても全然怖くない。そういえばバンコランの態度のでかさがまるでファイロ・ヴァンス。
ジェフのクラブ潜入捜査記は面白い。真相も説得力を感じた。動機が横溝正史みたい(逆か?)。 13章。“気送速達便”――そんなシステムの存在を初めて知った。パリの全郵便局が気送管で結ばれ、数十分で手紙が目的地に到着していたそうな。 |
No.1319 | 5点 | 黒の貴婦人- 西澤保彦 | 2022/11/03 12:52 |
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今更の話だが、人間関係やそれに伴う感情の描き方が説明的で硬い。この作者のいつものパターンと言う感じで、特筆すべき1編は見出せなかった。 |
No.1318 | 8点 | 天獄と地国- 小林泰三 | 2022/10/26 11:46 |
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傑作短編の長編化完全版、である。
欠点、は言い過ぎか、計算違いだった点は、“天獄と地国” と言う設定に行間を充分埋める程の存在感は無い、と言うことではないだろうか。ヴィジュアル作品なら異様な世界が常時背景として目に入る。文章なので、進んだテクノロジーと乏しい資源による歪な文化には浸れるが、最重要の世界設定は忘れがちだった。 もっとも、変態的な基本設定で照れを吹っ切れたのか、物語はそれこそジュヴナイルのように素直な冒険行。仲間達と挫折を乗り越えて楽園を目指せ! って奴にまんまと乗せられてしまった私であった。 |
No.1317 | 6点 | 罪と祈り- 貫井徳郎 | 2022/10/26 11:45 |
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筆力は有る人なので、行く先の見当が付いた物語でも、緊張感を失わず読み進めることは出来た。
しかしそれだけに、ネタバレ気味になるが、“今になって何故こんなことが起きたのか” は最重要ポイントである筈。ところが。 女は、子供の父親の特徴について嘘を吐いた。男は、問い詰められて自分が相手だと嘘を吐いた。共に、心理的にあり得ないと言う程ではないが、必然性が希薄。ここにそんなからっぽな事柄を持ってきたのにはがっかり。彼女が男性二人と関係を持った、と言う暗示じゃないよね? それとも “些細なきっかけが重大な結果につながった” と言う皮肉こそ作者の狙いなのだろうか。 ところで、アレは傷害致死? 自殺(の可能性を否定出来ないケース)じゃないの? |
No.1316 | 6点 | 無限がいっぱい- ロバート・シェクリイ | 2022/10/26 11:44 |
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早川書房の “異色作家短篇集” なるシリーズの一冊だが、これってそんなに “異色” かなぁ? SFの或るフィールドに於ける王道って感じだけど(初期の筒井康隆は “和製シェクリイ” と呼ばれていたらしい)。私の読書の傾向がそういうものだってことだろうか。
私は「ひる」「監視鳥」「先住民問題」が好き。起承転までは面白いのに結がピンと来ないものが幾つかあった。 |
No.1315 | 5点 | 綺譚集- 津原泰水 | 2022/10/26 11:44 |
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“忌憚” には文字通り “いみ、はばかる” の意味がある。タイトルは「忌憚集」と言う洒落? と思った程で、ぶっちゃけ平山夢明みたいなグロテスクなホラー短編集。但し、あの人が奇怪な妄想を煮詰めて爆発させるアイデア先行型である(っぽい)のに対し、こちらは文体の魔術師、外殻である言葉サイドからアプローチしてイメージを囲い込み切り取る作風である(っぽい)。
そして本書では、その言葉使いとしての才が勝ち過ぎて、内実とのバランスが崩れがちだ(それが全てマイナスだとは言わないが)。オチで上手くまとめない作風が短編だと一際目立つ。白眉は「夜のジャミラ」。 |
No.1314 | 5点 | 此の世の果ての殺人- 荒木あかね | 2022/10/26 11:42 |
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ミステリとしてはシンプル。余計なことをしなかったおかげで “物語としては悪くないのにミステリ要素がごちゃごちゃして邪魔” になることを免れている。怪我の功名? とか言っては失礼か。
とはいえ、捻らなくてもいいから、あと一歩深み、または驚き、が欲しかった。キャラクター的にも今一つ共感出来ず。行方不明者はてっきり蟹針図夢だと踏んだんだけどな~。 |
No.1313 | 7点 | 人間の手がまだ触れない- ロバート・シェクリイ | 2022/10/18 13:04 |
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物凄く優れた1編があるわけではないが、どれもきちんとしたアイデアと奇妙(グロではなくドタバタ)なイメージを持つ軽妙な短編集。50年代SFだが古びた感じは無い。全体的に好きな作風だった。
ミステリ的には「七番目の犠牲」。殺人合法化社会と軽く捻ったそのノウハウ。銃社会アメリカに対する批評でもある。 Untouched by Human Hands を「人間の手がまだ触れない」とはリリカルに過ぎる日本語訳ではないか。“騙された(笑)” と思った。 |
No.1312 | 6点 | 影男- 江戸川乱歩 | 2022/10/18 13:01 |
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“底なし沼” は江戸川乱歩屈指の名場面だと思っていたが、記憶よりもアッサリしたものだった。それでも(それ故に?)具体的にイメージすると怖い。
一方、幻想小説じゃないのだから “パノラマ世界” はやり過ぎ。何かしらの種がある前提で読むから、浮き彫りになるのは設計者の “意図” であって、それが裸の美女の山脈とか言われると苦笑するしかない。 そして、ほんの僅かな出番で全てかっさらう明智小五郎。この話に必要かなぁ? 影男を完全に主役に据えたノワール小説にした方が良かったのでは。 |
No.1311 | 5点 | 謎亭論処- 西澤保彦 | 2022/10/18 13:00 |
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スッキリした真相ではなく、作者が如何に無理な理屈を通すかを楽しむべき芸風? 都合の悪い部分(動機とか)を恣意的にスルーしているな~と言うのが目に付く。 |
No.1310 | 6点 | 放課後の名探偵- 市川哲也 | 2022/10/18 13:00 |
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共感しづらい記述者を立てて読者を嫌な気分にさせるのは、狙いなんだろうな多分。効果が物凄く高いとまでは言えないが、認識論に踏み込むにはそのくらいの仕掛けは必要。内容が乏しくても如何にもっともらしく読ませるか、を頑張っているし、そういう戦略もアリだと思う。 |
No.1309 | 4点 | 屋上の名探偵- 市川哲也 | 2022/10/18 12:59 |
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第1話:水着を盗む行為は、気持ち的には下着とほぼ同じなのでは。
第2話:冤罪で教師を首にする計画。 第3話:再びの不登校を促す鍵を犯人は握ったまま。 第4話:幸い傷害事件で済んだけど、“事後工作なんかせずに、さっさと救急車を呼んでいれば死ななかったのに……” と言う悲惨な展開をする可能性もあった。 とか、エグい要素をシレッと混ぜているのは、狙いじゃないんだろうな多分。うーむ。曲解しても推すべきポイントが見当たらない。 |
No.1308 | 9点 | 祝祭の子- 逸木裕 | 2022/10/12 12:46 |
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一気読みしそうなところ、読み終えるのが勿体無くて敢えて途中で切って三日間に引き伸ばした。
非常に乱暴な比較をしてしまうと、佐藤究『テスカトリポカ』よりも上。理由は、こちらの方が密度に絶妙な波があり、世界に浸り切っても疲れないから、ではなかろうか。 登場人物に気持が寄り添いそうになるたびに、作者は容赦無くひっくり返す。足場をどんどん削り取るから、読者も追い詰められて息を潜めるしかない。それでも尚、“暴力の楽しさ” が感じられるところがなんとも怖い。 先生の計画が必要以上に迂遠な感はある。口ばかりの彩香にイライラ。いつ誰を切り捨てるか繰り返し考えた、私は将文だ。 “正当性を確保した人間が、大手を振って悪を叩けるときの、怒りながらも緩んでいる、醜悪な顔” 。 的確な表現だな。凄いな。 |
No.1307 | 7点 | 涼宮ハルヒの驚愕- 谷川流 | 2022/10/12 12:45 |
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ストーリー展開だけを見るなら特に目新しくも無い。予定調和でさえある。しかし、シリーズを追って読む中で自分の中に育まれたSOS団との絆(笑)が揺さぶられるのだった。な、長門、お前いつの間に……それはそうと、冊数を経ると文体も相応に進歩して違和感無く読めるようになっていた。 |
No.1306 | 7点 | 涼宮ハルヒの分裂- 谷川流 | 2022/10/12 12:44 |
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ここまで読んでシリーズに対する評価が反転したね。ああいう与太話が本質だと思っていたからそういう読み方をしていたが、いま振り返るとシリーズ中盤はダラダラし過ぎだ。それがあってこそのシリーズとはいえ、佐々木が登場してピリッと締まった雰囲気の方が圧倒的にいいじゃない。しかもそれなりに与太話と両立していて上手い(のか?)。ダイレクトに『驚愕』へ続く。 |
No.1305 | 5点 | 影踏亭の怪談- 大島清昭 | 2022/10/12 12:39 |
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実話怪談なるジャンルがあるのは知っているが、そう言えば殆ど読んだことが無い。怖い話が駄目ってことではなく、“実話怪談” のスタイルが合わないのか。本書でも各話の中盤があまり乗れなかった。
表題作。ラストの “死期は迫っていた” との解釈はいらないのでは。見せたくなかった → 事件発生 → 謎を追う → 巻き込まれて死、と言う本末転倒な状況の方がインパクトあると思う。 「朧トンネルの怪談」。(ギロチンならともかく)首切りにはどのくらい時間が掛かるのだろうか。想像しづらい。作中では、ごく短時間で切れる前提で計画を立てているようで首を捻った。 |
No.1304 | 4点 | 深海怪物の饗宴- 戸川昌子 | 2022/10/12 12:38 |
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うわぁ、(性的に)気持悪い。こんな分野の小説もあるんだ。そりゃまぁあるよねぇ。一応ラストで意外な捻りはあるが、官能ミステリと言うより戯画的な業界モノってことで筒井康隆『大いなる助走』あたりを連想した。エロ漫画の原作にするにはいいんじゃない。 |