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虫暮部さん
平均点: 6.21点 書評数: 2011件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1991 5点 砂男- 有栖川有栖 2025/06/13 14:32
 本書の成立過程があれこれ記されているが、単に出来がちょっと弱くて短編集に収録し損ねていたものが集まっちゃったんじゃない? と言う感じもするな~。
 「推理研VSパズル研」のロジックが理解しきれない。作中の説明の仕方はベストなのだろうか?
 表題作。鉄道事故の真相が不明なままで良いのだろうか?
 「小さな謎、解きます」は両方ピンと来た。漢字マニアなもので。歌詞の件は私も気になっていた。ああいうねじれたメタ構造の歌は他にも、「大きなうた」とか、「わかれうた」とか……。

No.1990 5点 猫女- 泡坂妻夫 2025/06/13 14:32
 事件、と言っても色々あるが、人が死んだり消えたりして警察が関わる事件は、御家騒動や人間関係の事件の向こう側に置かれて、間接的にしか見えて来ない。陶芸のエピソード等も興味深いが、ミステリの心算で読んでいるのでやはりもどかしい。結局なんだったの、と言う気持が残ってしまった。
 ところで “音澄” と言う名字は洒落だね。

No.1989 6点 妖鳥- 山田正紀 2025/06/13 14:31
 『僧正の積木唄』より一足早いヴァン・ダインへのオマージュ? と言う気もする。
 結末で明かされる幾つかのホワイ。それ自体は良い。“地球をぐるりと動かす” とか “ミルクを入れた水を飲む” とか、とても好き。
 ただ、それは形而上的に、言葉で概念を玩んでいるに過ぎないのであって、この入り組んだ分厚い物語を支えるには少々心許無い。これだけ延々読んで根っこの動機がコレ? うーむ、その歪な感じも含めてオマージュなのかも(と逃げる私)。

No.1988 7点 盲獣- 江戸川乱歩 2025/06/13 14:31
 自らの欲望がおぞましいと理解しつつ、その心と共に生きねばならないのは、それ自体が罰に等しい。自分自身と言う罰から逃げられずそれ故に罪を重ねる哀しみ。盲獣の背景が大雑把だし捻りには欠けるのだが、彼の内なる慟哭が行間から感じられた。

No.1987 5点 猿神- 太田忠司 2025/06/13 14:31
 あの頃はこんなのがあったなぁ、と言う懐かしネタは、自分が知らない時代のものは興味深いが、記憶にあるものは鬱陶しい。と言うことで、作者のせいではまぁないけれど、バブル期云々の時代背景的要素はパスしたいし紋切型だなぁと思う。
 ホラーとしても、書き方が達者なせいで却って引っ掛かりに乏しい。でも、事態のキッチリした解明や解決を示さない有耶無耶な怪異の描き方こそが狙いにも思えるし、それは成功しているのだろう。

No.1986 7点 幽霊たちの不在証明- 朝永理人 2025/06/06 15:05
 ライトな青春群像に巻き込まれたと思ったら、いつの間にか存外に強固な論理によって伏線がみるみる回収される様に目を瞠った。真相はリアリティが有るような無いような、その点ちょっと書き込み不足な気もしたが、ロジックそのものとはまぁ関係無いか。

 裏表紙の粗筋紹介で、被害者名は明かさない方が良いんじゃないかな。
 読まずに読んだ立場で言うと、“この人が被害者? 思わせ振りに好印象を与えた上で断ち切る、残酷な展開なのか? いや、そう思わせることこそ引っ掛け?” とやきもきさせられるのも前半部分の良さだ。作者もそういう狙いで書いているように思う(プロローグでは名前を伏せてあるし)。
 逆に、名前を出したからって宣伝効果が上がるわけでもなかろう。編集との連携が取れていないのではないか。

No.1985 7点 女と男、そして殺し屋- 石持浅海 2025/06/06 15:05
 “殺し屋が日常の謎に奔走する” なんて紹介されているが、これはもう立派な非日常案件ホワイダニット集。キッチリ説明し過ぎて野暮に感じられる部分もあるのはしょうがないのかなぁ。表題作では特に繊細な気遣いが見られ、信頼出来る殺し屋はこうでなくちゃと思わされた。

No.1984 6点 月蝕島の信者たち- 渡辺優 2025/06/06 15:04
 ホワイダニット? おっしゃー来た来た。と嬉しくなったと同時に、疑問も浮かんだのである。
 ああいうことをするのに、ああいう方法だと、一回限りだよね?

 犯人は犯行後の身の振り方についてどう考えていたのか。生還する心算だったのか。その際に逮捕は止む無しか、それとも誰かに罪を被せられると思っていたのか。ドカーンと花火を打ち上げてあとは野となれ?
 動機からすると、犯人はああいう行為の継続を望むのではないだろうか。その場合、宗教団体の存在はかなり有用なわけで、あんな自爆のような計画はそぐわないと思う。
 どうであれそのへんがはっきり書かれておらず、動機自体は受け入れた上で、その先が腑に落ちなかった。

No.1983 5点 伊根の龍神- 島田荘司 2025/06/06 15:03
 そりゃあ色々と思わせ振りな伏線はあったが、第三章のそれこそ1ページ目を読んだだけでそういうことかと判ってしまった。そう思ってしまうと、一章を費やしたその人の来し方の物語はありきたりで面白味に欠ける。龍神の真相もごく順当な範囲に留まった。もっとUMA談義しても良かったのに。
 しかし、こういう題材でこういう風な書き方で、まぁ島田荘司だからなぁと曖昧に受け入れられてしまう立ち位置が確立されていて、作者はそのへんも強かに利用して書きたいことを書いている感じがする。新人だったら止められそうじゃない?
 そこも含めて、まぁ……と受け入れてしまう程度には、私も島田荘司のファンなのだなぁ。

 ところで、石岡と御手洗の最初の会話、てっきり対面かと思った。叙述トリック?

No.1982 4点 名もなき星の哀歌- 結城真一郎 2025/06/06 15:03
 そもそもの基本設定が妙な雰囲気。あんな香水シュッ、みたいなので記憶の売買云々と言われて真に受けるか? 単なる催眠術だとか疑わない? 真に受けるなら受けるで、記憶を好き勝手にいじられない保証が無い。ヤクなら非合法なりに継続的な取引の為の信頼関係は成立し得るけど、本作は客が圧倒的に不利。
 いや、不自然な状況でも作品世界として説得力があれば良いのだが、非常にぎこちなく感じた。幻想風味は皆無であって、本格ミステリの硬いロジックの世界観に、あの店だけが異物として唐突に投げ込まれている感じ。プロットに合わせてルールを都合良く継ぎ接ぎしていてズルい。
 更に、主人公二人の行動原理、延いては物語の展開が好きになれない。後半で反転するかと期待したがそれ程でもない。私には合わなかったと言うことで。

No.1981 8点 ZOO- 乙一 2025/05/31 14:15
 ゾゾッ! アウチ! おっしゃー! ずば抜けて掟破りなオリジナル。ゼウスも驚くオラトリオ。全部が面白恐ろしい。
 収録作どれもが紛う方無く乙一の作風でありつつ、短編集として瞠目すべきバラけ具合を顕現している。その中でも「神の言葉」と「SEVEN ROOMS」がファッキン・グレイト。

 「カザリとヨーコ」、双子としては不思議なネーミングが気になる。
 「陽だまりの詩」「SO-far そ・ふぁー」と並ぶとどう見てもル・クプル。何か言いたいことでもあったのかい。
 「落ちる飛行機の中で」は基本設定がおかしい(“突っ込んで死ななければ殺すぞ” は脅しにならない)けどまぁいいや。

No.1980 6点 早春賦- 山田正紀 2025/05/31 14:15
 時代小説と言うよりも、慶長年間の八王子郷を舞台に『謀殺のチェス・ゲーム』のようなスーパーアドベンチャー・シリーズをやったもの?
 主人公達が具体的な命を受ける、つまりは事態の進行方向が定まるまでの前半部分は、キャラクター紹介の要はあるにしても少々くだくだしいかも。狭い共同体だから、幼馴染同士でああなってしまう、時代の習いは非情である。

No.1979 6点 デッドマンスイッチ ~警視庁トリタテ係~- 幸村明良 2025/05/31 14:14
 “ジェットコースタークライムノベル” と謳っているが、読後に残っているのは全編に亘るユーモア。単純なギャグではなく、性格俳優が擦れ違いと中途半端な理解による齟齬を真顔で演じた。判り易く安っぽい書き方ではあるが良く出来たコントになっていると思う。一抹の人生論的哀愁と言うかもっともらしい性格分析を最後に挿んでみせたのも、意外と様になっていて良い。

No.1978 4点 ウッドストック行最終バス- コリン・デクスター 2025/05/31 14:13
 “普通” だなぁと思った。高評価の作品だと言う先入観が仇になったか。どうもポイントが上手く摑めず。
 “惨殺” だそうだが事件の様相は地味だし、目を惹かれるような展開や真相があるわけでもない。暗号の手紙だけは初級英語パズルってことで楽しめたけど……。

No.1977 4点 まっすぐ進め- 石持浅海 2025/05/31 14:13
 イマイチ。推論を立てるに際して、“普通はこうだ” と一般論を踏まえないと先へ進めないのは判るが、その基準が狭量に感じる。見た目で判断している事項が多い。説明が長い割りに結論があまり面白くない。
 「いるべき場所」。曲がりなりにも一千万円用意出来るなら、別の選択肢もありそうなものだけど……?

No.1976 8点 GOTH リストカット事件- 乙一 2025/05/23 14:52
 気持悪い思想を気持悪いまま甘美な夢に置き換えてしまう、これは危険な催眠薬だ。真相はありがちだが、手掛かりの設定がとても上手い。
 とは言え、流石に6編もあると変態に耐性が付き始めるので、分冊したのは正解かもしれない。

No.1975 7点 ゾンビがいた季節- 須藤古都離 2025/05/23 14:51
 粗筋紹介でネタバレしちゃ駄目だよ講談社。予備知識無しで読めば2章でまずサプライズがあるんだから!
 3章で困惑。4章で更に困惑。笑いこらえつつ第二部。錯綜が生み出すコメディを、さて何処に着地させるのかと読み進むと結構な力技で捻じ伏せてしまった。人々が皆それなりのところに上手く片付いたとは思う。教会のバーンダウンを撮れなくて残念だったね。登場人物が多いので、プロフィールを思い出し易く書く工夫は欲しかった。

No.1974 7点 COVERED M博士の島- 森晶麿 2025/05/23 14:51
 改題版で再読。旧版でおかしいなと思った部分が修正されていた。やれば出来るじゃん。
 結構強引な美の理論(人の審美眼の単純さを前提にしているような)に読者を巻き込み、外見も内面もそこまでいじれるなら何でもアリになりかねない境界線上で戯れつつ、ギリギリ箍を外さずにミステリに踏み止まったスリリングな実験は、それなりに成功した模様である。

No.1973 5点 模造人格- 北川歩実 2025/05/23 14:50
 長い長い。しかも視点がコロコロ入れ替わるので必要以上に混乱する。人格とか記憶とか、曖昧さを内包した題材のせいもあって、真相がどうでも良くなってしまう。
 そもそもこの真相は二者択一に近いし、それほどヒントが示されているわけでもない。ルーレットの玉が赤黒どっちに止まるか眺めていただけ、みたいな気分だ。

No.1972 7点 死の迷路- フィリップ・K・ディック 2025/05/23 14:50
 これはもしやSF版『そして誰もいなくなった』か? と思ったりもしたが、ミステリ的な緻密さを具えているわけもなく、反転に次ぐ反転に次いで、“そりゃないぜ” ってオチに堕ちてもディックだからなぁと言う曖昧な理由で許しちゃうけど、そのあとの理不尽な駄目押しが Oh, My God! と効いて私の心は不安定なまま本は終わってしまった。総合的に見ると纏まりは良くて読み進め易い。この設定、或る意味でクローズド・サークル?

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虫暮部さん
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