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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.906 9点 半七捕物帳- 岡本綺堂 2010/08/01 14:56
多数ある捕物帳の元祖がこの「半七捕物帳」で、第1作の「お文の魂」が書かれたのが、大正6年(1917年)だから、乱歩もまだ耽美的な変格ものを書いていた時期だと思います。
設定は、作者が幕末に岡っ引きをしていた半七老人から昔の手柄話を聞くという構成になっていて、ミステリ趣向はもちろん、江戸庶民のドラマ、季節の風物誌としても楽しめる。探偵小説としては、作中のトリックが、作者も”江戸のシャーロック・ホームズ”と言う通り海外古典ミステリからのイタダキが散見されますが、それを江戸時代に応用した点がすばらしい。
宮部みゆき・北村薫編集の傑作選も出ており、時代小説にアレルギーがある方も是非一読をお薦めします。

No.905 6点 バイバイ、エンジェル- 笠井潔 2010/08/01 14:25
矢吹駆シリーズの第1弾、ラルース家殺人事件。
本書が出版されたのが70年代の終り、まだ島荘も登場していない時期ですから、本格ファンの話題作ではありました。
首なし死体の理由などいくらでもあると宣言し、本質直感とか現象学的推理などの探偵の尖鋭的な高説に半分感心しながら読みましたが、解決編の推理はいたって普通だった気がします。

No.904 8点 砂の器- 松本清張 2010/07/31 22:40
野村芳太郎監督の映画より前に、最初に読んだ清張の長編で思い入れが強い。
ミステリとして色々突っ込みどころもありますが、最初の被害者が残した「カメダ」に関する捜査陣の推理の変転が面白かった。
ネタバレ気味だが、大学時代の知り合いにこの地方出身者がいて、なんでズーズー弁なんだろうとずっと思っていたので、この真相には非常に腑に落ちる実感があった。

No.903 7点 高層の死角- 森村誠一 2010/07/31 22:26
「東西ミステリーベスト100」国内編の52位は、社会派+本格トリックの乱歩賞作品。
森村は「人間の証明」(85位)と併せ2冊ランクインしています。
ホテルの密室トリックと考えられたアリバイトリックが印象に残りますが、硬質だが迫力ある文章でリーダビリティもあると思います。

No.902 7点 夜のオデッセイア- 船戸与一 2010/07/31 22:10
志水辰夫と共に80年代の国産冒険小説界をリードした作者の初期の作品。
八百長専門の悪役ボクサーを主人公に、元恋人やプロレスラーなどを同乗させワゴン車でアメリカ大陸を走り回る。パーレビー国王の隠し財産が絡んで、モサド、CIA、マフィアなどが入り乱れる死闘がなかなか壮絶。
洒落っ気のあるプロレスラーたちの造形や旅先の情景など印象深いシーンにあふれています。

No.901 6点 りら荘事件- 鮎川哲也 2010/07/31 21:42
良くも悪くも、これぞ本格パズラーの王道といえる作品。
派手なトリックはないが、考え抜かれたトリックが多数用いられている。特にトランプのカードを使った欺瞞がピカイチ。
一方、将棋の駒のような登場人物、連続殺人が起こっているのに緊張感がない雰囲気創りの下手さなど、小説としてはあまり感心できる内容ではなかった。

No.900 7点 裂けて海峡- 志水辰夫 2010/07/31 21:19
主人公の「わたし」が、弟の海難事故の謎を追ううちに、ある謀略が判明し危難に巻き込まれるというストーリー。
れっきとした冒険小説なんですが、一人称記述で、遺族のもとを次々訪問していくプロットは、まさにハードボイルド小説。ウイットに富んだ会話、強い女性などシミタツ節が随所に読みとれます。
そして、あの最後の一文、キザ過ぎて鳥肌が・・・。

No.899 8点 成吉思汗の秘密- 高木彬光 2010/07/31 20:46
国産の歴史ミステリの先駆的作品。
こういった小説は、どうせなら突飛なもののほうがロマンがあって面白いので、大正時代に発表された”義経=成吉思汗説”を発展させた本書のアイデアは面白かった。
歴史研究者でないミステリ作家としての、多少強引でこじつけに近い論理でも、読者を納得させる筆力はすばらしい。ただ最後の、「昔を今に、成す吉もがな」は、さすがに無理筋。

No.898 6点 紳士同盟- 小林信彦 2010/07/31 20:26
多大の借金を抱える芸能関係者4人が、元天才詐欺師の老人の教えのもと2億円を騙し取るべく奮闘する、国産コンゲーム小説の嚆矢となる作品。
コンゲーム小説の神髄は、被害者はもとより読者をも騙す仕掛けの妙にありますが、同時にスマートなユーモア精神も必須で、その点、老人が称する”コンゲーム道”への入門編など、可笑しみに満ちている。
ただ、借金を抱える4人組素人詐欺集団というのは、どこかで読んだような設定だ。

No.897 9点 八つ墓村- 横溝正史 2010/07/31 18:08
伝奇冒険スリラーの傑作。
戦国時代の落武者と八つ墓伝説や、大正時代の大量惨殺事件など、主人公の「私」こと辰弥が訪れる前の八つ墓村の雰囲気作りが秀でていると思います。
双子の老婆を始め、いわくありげな田治見家や村人の行動もおどろおどろしさを醸しだし、クライマックスの鍾乳洞の追跡劇で頂点を極めています。ただ、シリーズの名探偵を配したために、本格ミステリとして見た場合は二級品の誹りを免れないのが惜しい。

No.896 5点 斜め屋敷の犯罪- 島田荘司 2010/07/31 17:03
デビュー作が傑作だったので期待が大きすぎたのかもしれませんが、この作品にはちょっとガッカリしました。
結局、小説の中の屋敷は作者のかってな創造物で好きなように出来る訳で、それを使ったトリックを読んでも全くサプライズを感じませんでした。

No.895 8点 悪魔の手毬唄- 横溝正史 2010/07/31 16:51
鬼首村の手毬唄による連続見立て殺人。
理屈抜きでいいですね、横溝正史の世界を満喫できます。
シリーズ初期作のようなおどろおどろしい怪奇趣向こそ薄味ですが、おぞましい過去の人間関係が、あるものが登場することによって現代に惨劇を引き起こすという定型のプロットが健在で、いくつかのミスディレクションも巧妙です。プロットの複雑さではシリーズ随一ではないでしょうか。

No.894 7点 影の告発- 土屋隆夫 2010/07/31 16:30
千草検事が探偵役を務めるシリーズ第1作。
デパートで高校校長が毒殺された事件を現場に居合わせた千草検事が担当する。容疑者特定の経緯はちょっとご都合主義的なところがあるが、アリバイ崩しが主題であるためあまり気にならなかった。
初読当時は、本書の写真によるアリバイトリックが目新しく、結構印象に残っています。

No.893 7点 黒い白鳥- 鮎川哲也 2010/07/31 16:09
「東西ミステリーベスト100」国内編の37位は鬼貫警部の2度目の登場。
アリバイ崩しを主題とした同シリーズは、「砂の城」「憎悪の化石」「鍵孔のない扉」など、個人的に出来はいづれも甲乙つけがたい。どれを先に読んだかで評価の順番が変わるだけの様な気がします。
地味な捜査小説で物語が二転三転し、最後に論理のアクロバット的発想の転換により真相が立ち上がる定型プロットが読んでいて心地いい。

No.892 6点 孤島の鬼- 江戸川乱歩 2010/07/31 15:42
大衆ミステリ作家としての乱歩の面白さのエキスがいっぱい詰まった極上の長編ミステリ。
前半の海水浴場での衆人環視状況での殺人という本格趣向、後半の怪奇・冒険スリラー風のスリリングな物語と、息も吐かせぬ読者サービス満点の作品でした。
この後の作品は通俗趣向に偏り過ぎて、読まなくなりましたが。

No.891 7点 サマー・アポカリプス- 笠井潔 2010/07/31 15:22
フランスのある別荘を舞台に、ヨハネ黙示録に則った見立て連続殺人を描いた、矢吹駆シリーズの第2弾。
登場人物は、語り手のナディアを始め主役の探偵以外フランス人ばかりで、異端派の宗教・思想論議など衒学趣味に溢れていることもあり最初はとっつきにくいが、中盤以降のスリリングな展開に惹きこまれた。
密室などトリックの真相は腰砕けの感もありますが。

No.890 6点 猫は知っていた- 仁木悦子 2010/07/31 14:52
仁木雄太郎・悦子シリーズの第1作でデビュー作。
兄妹が下宿している医院の家族・患者内の連続殺人を描いていますが、ワトソン役の悦子の語り口がなかなか読み心地いい。
連続殺人を描いていても、横溝正史のようなおどろおどろしさがなく、(当時はまだ芽生えてなかったが)社会派のようなシリアスな感じもないので、純粋に探偵小説のロジックを楽しめた。

No.889 7点 追いつめる- 生島治郎 2010/07/31 14:33
同じく港町を舞台にしたデビュー作「傷痕の街」の延長線に位置づけされるハードボイルドの傑作。
誤って同僚を撃ち警察を辞した元刑事の一人称で、無駄を排した抒情的な文体で主人公の心情を綴りながら、組織暴力団に立ち向かう様を描いています。
海外の私立探偵ものは、主人公を傍観者的に置いたものが多いが、本書の主人公は意外とウエットで泥臭い。日本独自のハードボイルド小説という感じを受けた。

No.888 7点 人形はなぜ殺される- 高木彬光 2010/07/31 14:04
「東西ミステリーベスト100」国内編の32位は高木彬光3作目のランクイン。
犯人当ての本格編にしては、タイトルがヒントになったこともあり、真相は早めに分かってしまいましたが、それでも作者が色々と駆使しているミスディレクションの技巧が楽しめて面白かった。
神津恭介シリーズの中では読みやすい最良の作品だと思います。

No.887 6点 黄土の奔流- 生島治郎 2010/07/31 12:24
日本での大正時代末期、中国大陸を舞台に上海-重慶間の揚子江数千キロの冒険行を描いた正統派の冒険小説で、ハードボイルド作家のイメージとはだいぶ異なるエンタテイメントに徹した作品。
主人公の紅真吾以下、寄せ集めのメンバーの素姓が少しづつ明かされていく所が面白い。作者が楽しんで書いたような痛快冒険ものでした。

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kanamoriさん
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