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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2460件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2120 6点 ミス・ヒルデガード・ウィザーズの事件簿- スチュアート・パーマー 2014/07/27 18:14
「被告人、ウィザーズ&マローン」の翻訳者でもある宮澤洋司さん主催の同人誌「翻訳道楽」から入手した、初翻訳作品5編の”短編集”。(ばら売り短編なので登録タイトルは当方でかってに仮題をつけました。ご了承ください)。

スラップスティック・コメディに近いユーモア・ミステリが持ち味という印象が強かったパーマーですが、(パイパー警部とのやり取りに多少見られるものの)ユーモアはそれほど前面に出てなくて、5編いずれもトリッキィで本格パズラー志向が強い作品が揃っていました。
個々に見ていくと、美術館での殺人と衆人環視下での聖盃消失という不可能犯罪を扱った「ぶら下がった真珠の謎」が個人的ベストで、ショー劇場内での射殺事件とアリバイトリックの「いたずらパリ娘の謎」が準ベストかな。
美術館、ミュージカル劇場、ドックショーの会場、サーカス劇場など、舞台装置が各作品でバラエティに富んでいるのも良い。
ミス・ウィザーズの短編は昔からEQMMやアンソロジーでかなり訳出されているものの、書籍化された短編集は出ていない。まずは”クイーンの定員”にも選ばれた第1短編集からでどうでしょうか>論創社さん。
なお、「翻訳道楽」は”おっさん”さんからご教示いただきました。ありがとうございました。

No.2119 6点 路地裏の迷宮踏査- 評論・エッセイ 2014/07/26 11:34
本書は、東京創元社の雑誌「ミステリーズ!」に創刊号から7年にわたり連載されてきた杉江松恋氏のコラムをまとめたもの。
クラシック・ミステリ作家から’60年代ぐらいまでの海外作家53人を取り上げ、その知られざるエピソード、意外な人間関係など、正面切った評論ではあまり語られない、いわゆる”トリビア・ネタ”を中心にした楽しい読み物になっています。

エドマンド・クリスピンとマルクス兄弟、ミッキー・スピレインとジョン・ウェンの関係など、あるときは想像をふくらませ、あるときは資料をあたって通説を検証するという内容は、まさに”迷宮踏査”というタイトルにふさわしい。
「ホックのD」の項では、作家の頭文字だけの略されたミドルネームは何の略かというネタを取り上げている。ウエストレイクのE、リューインのZなど、どーでもいいようなネタですが、こういうのも面白い。
ブックレヴューもいくつかあって、なかではバリンジャーの「赤毛の男の妻」に関するの項が秀逸。小説が書かれた時代の社会背景を知ると、作品の印象も変わってくるといういい例だと思う。
いわれてみればケメルマンのラビ・シリーズは金曜から木曜の一週間で終わりじゃないし、パット・マガーの未訳作品も残っている。「首つり判事」の追加エピローグがある別版も気になる等々、毎回面白い話題が提供されていて楽しめました。
ただ、”初心者からマニアまで”というのはどうだろう。聞いたことのない作家の”知られざるエピソード”を読んで面白いだろうか。

No.2118 6点 痛み かたみ 妬み- 小泉喜美子 2014/07/24 19:02
ミステリ系の作品6編からなる初期の作品集。
前半の「痛み」「かたみ」「妬み」の3編は、連作ではないものの、女性主人公のモノローグ・回想によって徐々に物語の骨格や背景が浮かび上がってくるという構成が共通している。
感化院で重傷を負った不良少女が病院で回想する「痛み」は、オルガンが出てきたところで着地点が見えてしまった。
「かたみ」は、ホテルの一室で死体で見つかった社長夫人が、神風特攻隊で戦死した初恋の人物を回想する話。生前彼女が最後に逢った謎の人物の正体は意外というより皮肉に満ちている。
「妬み」は、女流作家が幼少期からのライヴァルである女性舞踊家を心理的に突き落す話。女性主人公がどこか作者自身を思わせる造形なだけにかなりブラックな味わい。
後半の3編のなかでは「切り裂きジャックがやって来る」が出色の出来で、軽妙な語りとラストのどんでん返しの落差で読ませる。これが編中の個人的ベスト。
残り2作品は、作者お得意の歌舞伎を題材に外国人が絡む”事件”ですが、ミステリ的にはともにイマイチな内容だった。

No.2117 7点 警察官に聞け- リレー長編 2014/07/22 00:01
”社会の害悪”といわれた新聞王カムストック卿が別荘で殺害される。浮かび上がった容疑者は、カンタベリー大主教、与党の院内総務、ロンドン警視庁の副総監という重要人物ばかり3人。事態を重視した内務大臣フィリップ卿は、高名なアマチュア探偵4人に解決を依頼することに---------。

黄金期の英国ディテクション・クラブのメンバーによるリレーミステリ。
前年に出したリレー長編「漂う提督」が13名という大人数の参加で、途中グダグダになってしまった反省を生かして?今回は、アントニイ・バークリー、ドロシイ・セイヤーズ、ミルワード・ケネディ、ジョン・ロード、グラディス・ミッチェル、ヘレン・シンプソンの6名の作家に絞っている。
なんといっても本書の面白さは、お互いの名探偵を交換して登場させる趣向につきる。バークリーがピーター・ウィムジイ卿の推理を書き、セイヤーズがロジャー・シェリンガムの探偵活動を描くという、いわばパスティーシュ競作としての楽しみ方ができる。
また、ブラッドリー夫人と舞台俳優探偵ジョン・ソマレズを合わせて、4人の名探偵それぞれが異なる犯人に到達する多重解決的な面白さもある。リレー方式のため名探偵同士の絡みがないのがちょっと残念ですが。
事前の打ち合わせも怠りなかったのか、前作と比べるとミステリ小説として格段に完成度が高く、とくにバークリーが担当したピーター卿のパートの出来栄えが秀逸で、バンターやパーカー警部に先代公妃まで出てくるサービスぶり。
なお、6人の作家のうちヘレン・シンプソンの邦訳はいまのところないが、過去にポケミスでの刊行予定があったようで、藤原編集室「幻のポケミス」の項に探偵ジョン・ソマレズの情報がある(クレメンス・デーンと合作)。

No.2116 7点 水面の星座 水底の宝石- 評論・エッセイ 2014/07/20 20:42
本格ミステリは常に”意外性”を求められる。犯人や結末の意外性、トリックの独創性、意外な動機やロジック展開などなど-------、まったくの二番煎じは叩かれる宿命なので、既存作家が書いた作品を常に意識しながら、それを超える、または改良した新味のあるアイデアを創出しつづけなければならない。
書評家・千街晶之氏のよる本書は、〈名探偵〉〈一人n役〉〈語り手〉〈操り〉〈見立て〉〈密室〉〈多重解決〉など、本格ミステリの道具立てや趣向が、オリジナルからどのように変容していったかを、独自の切り口で紐解いている。進化や発展ではなく作者が”変容”と言っているのは、後発作品の”歪み”の部分をどう評価するかを読者に委ねているから。
とにかく刺激を受けた論旨が多いが、白眉は〈名探偵〉という装置の変容を解析した第1章だろう。”事件を誰よりも早く解決できるのが名探偵の定義であるなら長編はもたない”という提起から、「謎解き以外の」名探偵の役割が、歪み変容せざるを得ないとして様々な作品の名探偵の効用を論じている。たしかに「姑獲鳥の夏」の榎木津の例は分かりやすく目から鱗だった。
テキストにした作品に深く踏み込む必要があるので、多くのネタバラシがありますが、ユニークでスリリングな内容に加え、評論といっても堅苦しさがないのがよかった。

No.2115 6点 百万に一つの偶然 - ロイ・ヴィカーズ 2014/07/18 22:17
ロンドン警視庁の迷宮課が担当する様々な事件を倒叙形式で描く連作ミステリ。本書はシリーズの第2弾ですが、ポケミスでの邦訳は、第1作の「迷宮課事件簿(1)」より先(1か月前)に出版されています。

ジャンル登録の”クライム/倒叙”というのは当シリーズにもっともふさわしい。
”クライム”と”倒叙”では本来ジャンルが異なるのですが、当シリーズは、犯人の犯行に至る経緯や心理状況の描写に重点が置かれており、主役であるはずのレイスン警部率いる迷宮課は最後まで影の薄い存在になっている。そのため、探偵役が存在するのに犯罪小説に近い印象がある。
しかも、ほとんどが偶然が作用して解決するパターンなので捜査小説として見ると物足りないのですが、発覚の手掛かりが思いもよらない方向から飛んでくると、その意外性でかなり楽しめる。
本書でいうと手掛かりの意外性という点で表題作がずば抜けていて、シリーズ屈指の傑作だというのも肯ける。

No.2114 7点 美の神たちの叛乱- 連城三紀彦 2014/07/16 22:40
パリでジゴロとして暮らす曜平は、画家の藤田から”怪物”と呼ばれる元女優のランペール夫人を紹介される。彼女はわずか300フランでルノワールの絵画を手にいれる計画を企てていた---------。

ルノワールの贋作絵画を巡るクライム小説。
もともとテーマ自体に騙りや嘘、仕掛けの要素が内在しているうえに、発端のプロローグ風の複数のエピソードの部分から小さな反転や逆説が連発され、読者をとことん幻惑させるいつもながらの連城ミステリになっている。
そのため、序盤は話の方向性が見えないのだけど、しだいに贋作ルノアールの持ち主である画商デュランVSランペール夫人グループという構図が明らかになる。
若さと美貌を維持するために全財産をつぎこむ80歳を超えたマダム・ランペールの”怪物”ぶりが半端ないが、コンゲーム的な面白さが、ある事件を契機に急速にしぼんでしまったのは残念なところ。終盤は一種の恋愛小説に変転してしまった。

No.2113 7点 おかしなことを聞くね- ローレンス・ブロック 2014/07/12 11:06
"ローレンス・ブロック傑作集”の1巻目。古書店の均一棚で拾ってから、ポツリポツリと読んでいるうちに数編を残したまま忘れ置かれていた一冊。Tetchyさんの投稿を見てあわてて読了しましたw

マット・スカダーが登場する「窓から外へ」は、馴染みの”アームストロングの店”のウェイトレスが墜死した事件をスカダーが追う(エドワード・ホックなら不可能犯罪モノにしそうな設定の)私立探偵小説。くせもの揃いの本書の収録作品群のなかでは、真っ当すぎてそれほど印象に残らないが、ファンならもちろん見逃せない。
泥棒探偵バーニイが登場する「夜の泥棒のように」は、長編とは趣向を変えた第三者の視点によるプロットが、ラストのオチをより効果的にしている。
悪徳弁護士マーティン・エイレングラフのシリーズは、短編で散発的に発表されているだけなので、ブロックのレギュラーキャラクターの中ではメジャーではないが、初登場の「成功報酬」で強烈な印象を残す。”目的のためには手段を選ばず”とはいっても、これは”悪徳”どころの次元ではないねw(当シリーズの作品は、続く2、3巻目にも2作づつ収録されているらしい)
以上はシリーズものですが、本書の真髄はノン・シリーズ作品群のほうにあると思う。
そのなかでは、絶妙な語り口と先の読めないヒネッた展開、後に残りそうなブラック過ぎるラストなどで、「食いついた魚」「あいつが死んだら」「おかしなことを聞くね」の3編を推します。

No.2112 5点 ロスト・エンジェル・シティ- 都筑道夫 2014/07/10 20:26
人類が太陽系第三惑星を脱出し新しい地球に移住して数十世紀、予防精神医療の発達により殺人は大幅に減少した。さらに潜在的殺人者は、テレパシストによって予め察知され、”おれ”こと星野が所属する警視庁”殺人課”によって密かに処分されることになっていた-------。

ハードボイルド風のSFミステリ連作、「未来警察殺人課」シリーズの第2弾。
各話とも細かなSFガシェットを色々と散りばめながら、アクションあり、謎解きあり、お色気シーンありで、読者サービスが盛りだくさんのエンタテインメント作品になっています。ロサンジェルス、モナコ、京都、ハワイなど、前の地球の名称に倣った都市が存在し、星野刑事が名所巡りをするトラベルミステリという感じも受けます。個々に見ていくと出来栄えが微妙なものもありますが、謎解きモノとしては「空白に賭ける」と「殺人ガイドKYOTO」の2編はラストのひねりが面白い。
ただ、展開が早くめまぐるしいのは短編だからやむを得ないのですが、説明不足で拙速に感じる部分があります。SF設定を十分に活かすうえでも長編版を読んでみたかった気がします。

No.2111 6点 愚かものの失楽園- パトリック・クェンティン 2014/07/07 22:09
資産家コーリス家出身の妻をもつ「私」ジョージ・ハドリーは、愛人の女性秘書のマンションで、娘のマルカムから切羽詰った電話を受ける。マルカムは、女たらしのゆすり屋・サクスビーという男のマンションを訪ね、彼の死体を発見したという---------。

クェンティン名義のホイーラー単独作品。
主人公自身や家族・親族が殺人事件に遭遇し、ある秘密を隠匿することで、その人物が重要容疑者になってしまうという、「わが子は殺人者」や「二人の妻を持つ男」と基本プロットが同様の巻き込まれ型サスペンス。いずれもニューヨーク市警のトラント警部補が主人公を追い詰めるという構成も共通している。
「私」が真犯人でないのは読者には分かっているが、脛に傷持つ主人公視点でトラントの捜査が描写されるので、一種倒叙ミステリのような趣がある。このように各作品で主人公が異なるのに、”敵役”の刑事に同一人物を持ってくる形式はちょっとユニークだと思います。(ちなみに、先月復刊になった「女郎ぐも」では、ダルース夫妻VSトラントという図式になっている)
主人公の周辺の女性達が何らかの形で被害者と関係があり、アリバイを巡って重要容疑者が二転三転するプロットは十分に面白いのですが、あらすじ紹介が内容に踏み込みすぎているので、真犯人の正体はわりと分かりやすいと思う。

No.2110 6点 深い失速- 戸川昌子 2014/07/02 23:14
警察から精神科医の「私」の病院に、ある大学生の精神鑑定と保護を依頼してきた。その患者・丹野は、”長い武器”で人妻を殺したと自供してきたが、調べてみるとその女性は生きているという--------。

「本格ミステリ・フラッシュバック」からのセレクト。文庫版200ページ余りの短めの長編ながら意外と読み応えが有りました。
「私」が関係者を訪ね歩くうちに、丹野と”架空の被害者”大和田夫人という二人の人物を中心にした複雑な男女の相関図が描かれていきますが、”事件現場”の大和田夫人のマンションで何が起きたのか?というのが謎の核心で、この真相が掴めそうで掴めないサスペンスで読ませます。
精神科医が探偵役であることで、”告白”がある先入観を生み、普通に考えれば分かりやすいトリックを隠蔽する巧いミスリードになっていると思います。

No.2109 5点 あの手この手- ヘンリー・セシル 2014/06/30 20:43
ふた組の詐欺師夫婦の行状記といった体裁の連作長編。
第1章「いやな男」は、ふたりの男が裕福で牧歌的な村に住みつき、ある策略を使って村の名士たちから大金をせしめようとする。法律の悪用という作者お得意のパターンですが面白いかというと、そうでもない。
第2章「誘惑事件」は、2組の夫婦共同で不倫スキャンダルを捏造し、意外な標的から大金を得る話。最終的に関係者だれもが損をしていないという状況になるのがミソ、かな。
第3章「グローピスト」は、貧乏画家たちを集めての人気投票・賭け絵という詐欺。これはシステムがいまいち分かりずらい。
ここまではクライム小説風ですが、夫婦の掛け合いがユーモラスながら、標的が個人ではなく不特定多数の人物ということもあって、コンゲーム的な面白さがそれほど感じられない。
最終章では、裕福になった4人の男女が意外な行為に走る。悪人を悪人のまま終わらせないあたりは、ヘンリイ・セシルらしいかもしれない。

No.2108 5点 冷たい太陽- 鯨統一郎 2014/06/26 21:36
「娘を預かった。返してほしければ五千万用意しろ」-----食品会社社長の高村家にかかってきた一本の電話から全てが始まった。幼稚園に問い合わせると、確かに娘の美羽が行方不明になっていたのだ--------。

あらすじだけを見ると、作者が新境地を開いたかのような誘拐を題材にした謎解きサスペンス.....なのですが、読了後は「やはり、鯨統一郎」といった感じのミステリになっている。
ユニークな身代金の受け渡し手段とか部分的に面白いところがあるものの、全てが”ある仕掛け”に奉仕するために構成されているので、かなり不自然でリアリティがない部分が目立ちます。虚偽の記述はないにしても、騙し方にあざとさを感じてしまう。とくに、読者と同じメタレベルに近い形で、かすみが探偵に情報を提供する方法はご都合主義といわれてもしようがない。
メインのアイデア自体は(既視感はあるものの)そう悪いとは思わないので、乾くるみとか、誰か別の作家が巧く書いていれば傑作になっていたかも知れない。
なお、表紙のイラストが連城三紀彦の「小さな異邦人」にちょっと似ている。くれぐれも間違って買われないようにw

No.2107 7点 被告人、ウィザーズ&マローン- スチュアート・パーマー&クレイグ・ライス 2014/06/24 22:18
米国’40〜50年代の二人の人気作家クレイグ・ライスとスチュアート・パーマーの共作による連作ミステリ。しかも二人が創造したシリーズ探偵である酔いどれ弁護士ジョン・J・マローンと、オールドミスの小学校教師ヒルデガード・ウィザーズの共演という非常に珍しい企画もの短編集で、本書は「クイーンの定員」にも選定されている。

いやあ、これは愉しい。各話ともマローンとミス・ウィザーズの掛け合いが秀逸で、読んでいるあいだニヤニヤ笑いが止まらない、クレイグ・ライス好きには堪らないドタバタ・コメディに仕上がっている。
ふたりでアイデアを出し合い、パーマーが執筆という役割のようだが、マローン弁護士ものの完璧なパスティーシュになっている上に、ミス・ウィザーズがクレイグ・ライスの作品世界に違和感なく溶け込んでいる。ジャスタス夫妻が名前だけの登場なのは残念ですが、秘書のマギーが代わりに活躍し、天使のジョーやフォン・フラナガン警部など、ライスのお馴染みのキャラクターも存在感を見せているのが嬉しい。
また、名探偵の共演という”企画ありき”の作品集に終わっておらず、マローンとウィザーズが特急列車内で出合う第1話「今宵、夢の特急で」や、法廷シーンが圧巻の「ウィザーズとマローン、知恵を絞る」などミステリ部分もなかなか充実していると思う。

No.2106 5点 パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から- 似鳥鶏 2014/06/22 12:51
俺が経営する喫茶店”プリエール”のパティシエとして働く弟の智のもとに、県警本部は秘書室の直ちゃんを送り込み難事件の相談を持ち掛ける。弟の智は鋭敏な推理力をもつ元県警のエリート警部で------。

4つの中編からなる連作本格ミステリ集。
タイトルからは東川篤哉風の軽妙な内容をイメージさせ、また似鳥氏だからそういった作風のモノを期待していましたが、最終話などは意外とヘビィな真相になっていました。
シリーズの設定自体は新味を覚えず、やや食傷気味なのですが、トリック面ではなかなか面白かった。各話ともアリバイ偽装がメインとなっていて、トリックは既存作品のヴァリエーションでありながらも作者の工夫が感じられます。なかでは第3話「星空と死者と桃のタルト」が個人的ベスト。

No.2105 5点 亡命者- ロバート・L・フィッシュ 2014/06/18 21:17
戦時中ナチス収容所で残虐のかぎりをつくしたエリック・レスラー大佐は、亡命先のブラジルでナチス復建を目指す組織の首謀者となっていた。一方、ハンス・ブッシュと名乗る米国の老人が、ある計画を持って組織に接触を図ろうとするのだが-------。

「シュロック・ホームズ」や殺人同盟シリーズなどのパロディ&ユーモア・ミステリの名手、フィッシュがMWA新人賞を受賞したデビュー長編。ですが、本書は復讐をテーマにしたシリアスな謀略スリラーになっていて、一般に知られている作者の軽妙な作風からは想像できないテイストに驚きました。
リオ・デ・ジャネイロ郊外の観光地である巨大キリスト像で有名なコルドバードの丘や、パン・デ・アスカール山のロープウェイなど、舞台背景の描写は緻密で興味深いものの、物語の展開が散漫であまりサスペンスを感じさせないのが残念。
ブラジルとナチス復興計画といえば、ヒトラーのクローンというトンデモ・ネタを扱ったアイラ・レヴィンの某作を思い浮かべますが、それと比べると話の展開がジミすぎる。シリーズ主人公であるはずのダ・シルヴァ警部の役割も中途半端なものになっている。

No.2104 5点 愛してるっていわせたい アイドルは名探偵3- 井上ほのか 2014/06/14 13:40
美少女アイドル女優の真名子と恋人の克樹は、日舞の演技指導で知り合った名門宗家のお嬢様から、彼女の許婚者が変死した一年前の事件の真相究明を依頼される。その事件は、次の家元に内定した許婚者が披露パーティの席上で不可能状況のなか毒殺されたというもので-------。

「アイドルは名探偵」シリーズの第3弾。ラブコメと本格謎解きミステリーを組み合わせた、ジュニア向け講談社X文庫の人気シリーズの一冊(らしい)。
カード・マジックの演技者が観客に思い通りのカードを引かせるテクニックにも似て、ある感情を有する被害者の心理を利用した毒殺トリックがよくできている。ただ、謎解きミステリとしては、ほぼこのネタ一本勝負なので物足りなさがあります。
ラブコメ部分では、煮え切らない克樹に「愛してる」と言わせるために、最後に真名子の採った策略が笑わせる。こちらのハウダニットは少々邪道ではありますが。

No.2103 6点 アシモフのミステリ世界- アイザック・アシモフ 2014/06/11 21:47
地球外環境学者アース博士が宇宙空間で起きた難事件を自室を一歩も出ず解決する連作ミステリ4編ほか、SFミステリを中心に13編収録された作品集。

ウェンデル・アース博士シリーズは、安楽椅子探偵もののSFミステリという構成がユニーク。ただ、博士は最後の解決シーンのみに登場するだけなので、やや存在感が薄く人物の魅力が十分に発揮できていないきらいがある。当シリーズのなかでは、アンソロジーにも採られている倒叙モノ「歌う鐘」がよく出来ていて、宇宙時代ならではの手掛かりが印象的です。
そのほか、作者十代のデビュー短編「真空漂流」と20年後に書いたその続編の「記念日」、SF要素がないが犯人特定の詰め手が”黒後家蜘蛛の会”の某作を思い起こさせる「その名はバイルシュタイン」などが面白い。
ちょっと気になったのは、地球外惑星の特殊環境による生活習慣によって犯人が失策を犯すというような、謎解きの詰め筋が同じパターンのものが目立つところです。

No.2102 6点 ミステリマガジン700 国内編- アンソロジー(国内編集者) 2014/06/08 21:31
早川書房「ミステリマガジン」創刊700号記念の文庫アンソロジー、国内編。
翻訳ミステリ専門だったEQMMに最初に載った国内ミステリ・結城昌治の「寒中水泳」から、最近一部で話題の近未来警察小説、月村了衛「機龍警察・輪廻」まで、(田村隆一の”ミステリー詩”を含めて)20編収録されている。半数の10作品が個人短編集や他のアンソロジーで既読だったのは残念ですが、ほとんど内容を忘れていたので今回再読しました。

「寒中水泳」は第1回EQMM短編コンテストの入選作で結城昌治のデヴュー作。ユーモアは控えめで割と正統なフーダニットなのが意外だが、乾いたシニカルな文体は後の作品と変わらない。
EQMMの初代編集長でもあった都筑道夫の「温泉宿」は、ややインパクトに欠ける怪談話。同じホラーであれば三津田信三の「怪奇写真作家」のほうが完成度が高い。
鮎川哲也「クイーンの色紙」は、推理作家・鮎川哲也が関わったF・ダネイのサイン色紙消失事件を、三番館のバーテンが謎解くという読者サービス溢れる作品で、ある自虐ネタが伏線になっているところが可笑しい。同じく消失トリックを扱った若竹七海「船上にて」もラストにニヤリとさせてくれる趣向が楽しい。
初読の米澤穂信「川越にやってください」は、枚数制限の関係もあってか、やっつけ仕事ぽい内容で残念でした。
そのほか、皆川博子と日影丈吉の幻想小説、原りょうの私立探偵・沢崎シリーズ短編第1作、小泉喜美子「暗いクラブで逢おう」、田中小実昌「幻の女」、片岡義男「ドノヴァン、早く帰ってきて」などの普通小説に近いものなど、ジャンルの多彩さはいかにもミスマガ的でしたが、本音のところは、日下三蔵氏の編集なら、もっと思いっきりマニアックな作品選定でもよかったのではと思う。

No.2101 7点 ミステリマガジン700 海外編- アンソロジー(国内編集者) 2014/06/04 21:34
早川書房の「ミステリマガジン」創刊700号記念アンソロジー。前身の日本版「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン(EQMM)」時代から通算して60年近く翻訳ミステリを訳載してきた中から、杉江松恋氏が選定した海外編の本書は、フレドリック・ブラウン、パトリシア・ハイスミス、クリスチアナ・ブランド、ボアロ&ナルスジャック、エドワード・ホック、ルース・レンデル、ピーター・ラヴゼイなど、ビックネームが揃う豪華なラインナップになっている。しかも16編全てが”本邦初書籍化作品”というのがポイント高し。

収録作をジャンル毎に見ると、〈心理サスペンス〉ではハイスミス「憎悪の殺人」とレンデル「子守り」が本書の双璧だろう。ジョイス・キャロル・オーツ「フルーツセラー」の何とも言えない後味の悪さも特筆に値する。
〈歴史ミステリ〉では、『名探偵群像』に未収録のシオドア・マシスン「名探偵ガリレオ」が読めたのが個人的に一番うれしい。落下実験中にピサの斜塔で起きた密室殺人という設定が魅力的です。
タイタニック号と”思考機械”のジャック・フットレルが登場するラヴゼイ「十号船室の問題」はやや期待外れか。
〈本格〉では、レオポルド警部もののホック「二十五年目のクラス会」と、ダルジール&パスコーが登場するレジナルド・ヒル「犬のゲーム」は、ともにお馴染みのシリーズ・キャラクターのプライベートな捜査と推理が楽しめる。
〈クライム・奇妙な味〉タイプでは、ロバート・アーサーの「マニング氏の金のなる木」がO・ヘンリーを思わせる好編。このようなタイプの作品を書いていたとは思わなかった。
ボア&ナル「すばらしき誘拐」とブランド「拝啓、編集長様」は、ともに皮肉の効いたブラックなオチが印象に残る作品。
その他、シャーロット・アームストロング、ジャック・フィニイ、ジェラルド・カーシュなど、ひとつひとつ取り上げたらキリがない、翻訳短編好きには堪らない良質のアンソロジーでした。

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