皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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kanamoriさん |
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平均点: 5.89点 | 書評数: 2426件 |
No.2086 | 5点 | 教場- 長岡弘樹 | 2014/05/02 20:42 |
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警察学校を舞台にした連作ミステリということで、横山秀夫が得意とするような新機軸の警察小説をイメージしていましたが、特殊設定の学園ミステリといったほうが近い印象。
フィクションだから多少の誇張は許されるとはいえ、戦前の軍隊を思わせるような体罰や、警官を目指す生徒たちがかなり屈折した人物だったりで、リアリティを欠いているため、初めはこの小説の世界に入り込めなかった。ミステリとしても、最初に謎を提示する形ではなく、何が謎なのかも不明なまま物語が進んでいくものばかりなので、取っつきにくいという側面もある。 それでも、話が進むにつれ陰湿さが薄れ、風間教官から受けるイメージも変わってきた。最終話の「背水」はミステリ的にも面白い仕掛けで、エピローグもうまく締めていると思う。 ただ、この作品が昨年の「このミス」2位に相応しいかと問われて首肯するのは難しい。 |
No.2085 | 6点 | 夜の人- ベルンハルト・ボルゲ | 2014/04/30 14:09 |
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探偵小説作家の「私」(ベルンハルト・ボルゲ)は、従兄弟のヘルゲ・ガイルホルムから誘われ、フィヨルドを臨む海辺の別荘で数名の招待客とともに夏休暇を過ごすことになった。ところが、”ドン・ファン”で有名な主人ヘルゲを中心とする男女関係の軋轢が不穏な雰囲気を生み出し、ついに深夜に悲劇が起きる-------。
「私」の友人で精神分析医のカイ・ブッゲを探偵役に据えたシリーズ第1作。’40年代に書かれた北欧ノルウェー産の本格ミステリという点が珍しい。古いポケミスの訳文にはいつも泣かされるのですが、本書は(英訳版からの重訳ということもあってか)半世紀以上前の翻訳とは思えない読みやすさで安心しました。 本書にはヴァン・ダインを多分に意識したところがあって、心理分析を使った探偵法を採るカイ・ブッゲに、ファイロ・ヴァンスの心理的探偵法を”俗流”と言わせたり、プロットの一部や犯人の立位置にヴァン・ダインの有名作品に重なるところがあったりします。 物的証拠を重視するハンマー警部と対比させ、深層心理的な犯人の手掛かり・伏線をいくつか用意するなど、作者の心理的探偵法の試みはある程度効果を上げているのではと思います。また、最後に明らかになる犯人の造形はけっこう衝撃的で、英米の古典本格ミステリとは一味違うようにも思いました。 |
No.2084 | 5点 | 五骨の刃- 三津田信三 | 2014/04/28 20:34 |
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五種類の凶器を使った無差別連続殺傷事件が起きた〈無辺館〉に、半年後に肝試しに忍び込んだ男女4人が、その屋敷で得体の知れない恐怖体験をする。メンバーの女性に死相を見て取った探偵・弦矢俊一郎だったが、過去の事件の関係者らを標的に再び連続殺人が起こる------。
死相が視える探偵・弦矢俊一郎シリーズの第4弾。”ホラー&謎解きミステリ”といっても、キャラ立ちラノベ風テイストなので、サクサク読める。 ミステリ的には、死相が現れた被害者候補たちに共通する要素はいったい何か?というミッシングリンク・テーマということになるが、この真相がトホホな内容でいただけない。読者によっては壁本扱いだろう。 ただ、呪術的仕掛けというシリーズの前提を容認できれば、過去の〈無辺館〉事件をミスディレクションにした全体の構図は単純ながらよく出来ていて、この”犯人像”はなかなか意外だった。 |
No.2083 | 6点 | ナイン・ドラゴンズ- マイクル・コナリー | 2014/04/26 20:36 |
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ロス市警のハリー・ボッシュは、酒店を経営する中国人が銃殺された事件を捜査するうちに、背後に中国系犯罪組織が存在することを突きとめる。しかし、重要容疑者の拘束と時を同じくして、香港に住むボッシュの娘が監禁された映像が手元に届く-------。
”ロサンジェルス市警の新宿鮫”(という呼び名は変かなw)こと、ハリー・ボッシュ刑事シリーズの最新作。最近は番外編やリンカーン弁護士シリーズの脇役での登場が続いたので、久々の正統シリーズな感じがする。 上巻はやや淡々とした捜査小説として進むが、前妻エレノアと愛娘マデリンが住む香港へ飛んでからは冒険活劇小説の様相を呈する。これほどハードなアクション・シーンが前面に出るのはシリーズでは珍しく、また捜査のプロの使命感ではなく、父親としての想いや脆弱性が滲み出たボッシュの行動の数々は、シリーズの異色作といえるでしょう。 当初「タイミングが都合よすぎないか」と違和感があった点も真相が分かれば納得がいく。いわば今回のボッシュは、犯人ともう一人の人物とで、二重に操られていたというわけか。 |
No.2082 | 7点 | 満願- 米澤穂信 | 2014/04/22 18:14 |
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作者の芸達者ぶりが存分に発揮されたノン・シリーズ短編集。先に出た短編集「儚い羊たちの祝宴」と比べると、共通するモチーフによる縛りがないぶん、よりバラエティに富んだ多彩な作風の作品が並んでいると思う。
(以下、ネタバレぎみなので未読の方は注意!) 「夜警」は、佐々木譲を思わせる警察小説だが、交番巡査の殉職事件がチェスタトン風の構図の逆転を見せる。 「死人宿」は、自殺志願者探しというパズラーが最後にアンチ・ミステリ風に変転する。舞台の温泉宿の雰囲気作りも巧い。 「柘榴」は、美人の母親と娘たち、生活能力のない父親という家族関係が離婚調停を機に意外な方向に崩れていく。やはり女は何歳でも怖い。 「万灯」は倒叙ミステリ。殺人を犯した海外勤務商社員がはまる陥穽の意外性で読ませる。 「関守」は、フリーライターが都市伝説の取材で訪れた南伊豆の峠のドライブインを舞台にした一幕劇。これもかなりブラックな味付け。 「満願」は、畳屋の女房が起こした殺人事件を、苦学生時代に助けてもらった過去を持つ弁護士が回想する。達磨の置物など小道具の使い方が巧い。 以上6編、オチがある程度予想できるものがいくつかあるが、いずれも甲乙つけがたい水準以上の出来という評価。好みでいえば「柘榴」と「満願」がいいかな。 |
No.2081 | 6点 | ハーバード大学殺人事件- ティモシー・フラー | 2014/04/20 10:29 |
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ジュピターは美術学科の指導教官・シンガー教授の部屋で、教授の刺殺死体を発見する。警察の捜査に協力しながら、知人が事件に関係していることもあって自身でも探偵活動に乗り出す-------。
”ジュピター”・ジョーンズ・シリーズの第1作。1936年作、約80年前に書かれた本格ミステリにしては古臭さは全くなく、大学生ジュピターの軽口を交えた軽快なテンポの語りは読み心地がいいです。 カレッジ・ミステリ特有の多数の登場人物の書き分けと、現場の学寮の構図がいまいち分かりにくいのですが、関係者を一同に集めた謎解きパートではどんでん返しも用意するなど完成度も高く、大学在学中の若書き作品という感じはそれほど受けません。 戦前「新青年」のアンケートでベスト1に選んだ人もいたそうですが、それほどのものではないにしても、評価の高い第3作ぐらいは論創社あたりから出してもらいたいものです。 |
No.2080 | 6点 | 暗い越流- 若竹七海 | 2014/04/17 23:14 |
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推理作家協会賞受賞の表題作を含む5編からなる最新短編集。
久々に作者のミステリを読む感じがするが、謎解きを主眼としたものでも、ラストでさらにひとヒネリし、ブラックに落とす作風は相変わらず。いわば、謎解きミステリと”奇妙な味”タイプの融合といったところでしょうか。 女探偵・葉村晶が登場する「蠅男」「道楽者の金庫」の2編は、伏線を活かした編中では割とオーソドックスな謎解きモノ。後者は「ビブリア古書堂」シリーズの某作にプロットが似てしまっているのが気になった。 「暗い越流」と「幸せの家」が、まさに謎解きと”奇妙な味”が融合した作者らしい作品。とくに前者は先が読めない濃密さが良。 「狂酔」は、つかみどころのない男の独白を読み進めていたら、とんでもないネタが最後に飛び出してくる。これがイヤミス度でいえば一番かもしれない。 |
No.2079 | 6点 | 殺意が芽生えるとき- ロイス・ダンカン | 2014/04/15 18:39 |
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事故で夫を亡くし実家を離れて海辺のコテージで2人の子供と暮らすジュリアの身辺で、幼い娘と息子を標的に不審な災難が次々と起こる。かつて恋人だったロジャーの仕業だと勘ぐったジュリアは、彼の自宅を訪ねるが、そこには銃で撃たれたロジャーの死体が横たわっていた-------。
サスペンス小説の先輩作家であるマーガレット・ミラーやヘレン・マクロイの傑作群と比べると、心理描写やサスペンス展開がオーソドックス、特別な個性が見当たらないので、やや物足りない感じを受けましたが、伏線やミスディレクションを巧みに配したフーダニット・ミステリとしては及第点を付けたい。 状況証拠から犯人はジュリアの家族関係者の中にいるのは明白のように思えながらも、一種の家族小説のような内容でもあるので、読者は心理的に”殺意”の所在を掴みにくいという側面があるのかもしれない。 かなり後味の悪い真相ではあるものの、子供たちの存在がジュリアの救いになっている。 |
No.2078 | 5点 | 蝶々夫人に赤い靴(エナメル)- 森雅裕 | 2014/04/13 13:54 |
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長崎で結婚式を挙げる友人・尋深のもとに、忘れ物の草履を届けるため新幹線に乗り込んだ音彦だったが、隣席の無賃乗車の老女を親切心で手助けしたことから、「蝶々夫人」と坂本龍馬の愛刀が絡む過去の事件に関わることに-------。
画家・守泉音彦とプリマドンナ・鮎川尋深のコンビによるオペラ・シリーズ第3弾。「椿姫」「カルメン」に続いて、今回は「蝶々夫人」がテーマになっています。 本作の主役は、蝶々夫人のモデルとなった女性の娘と称する元プリマドンナの愛子お婆さんで、音彦のみならず、尋深までも振り回してしまう老女のキャラクターが強烈です。ただ、蝶々夫人や坂本龍馬の愛刀に関わる歴史の謎というミステリ要素はあるものの、刀剣に関する薀蓄部分がマニアックすぎて、謎解きの興味を持続するのが難しかったというのが正直なところ。 それでも、グラバー邸の屋外舞台で結婚式前日に尋深が演じるオペラ「蝶々夫人」、音彦が帰京する飛行機内のラスト・シーンなど、シリーズ通読者にとっては印象に残るシーンが多い。 |
No.2077 | 6点 | 服用禁止- アントニイ・バークリー | 2014/04/11 20:37 |
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ドーセット州の村で隠棲する元電気技師ジョン・ウォーターハウスが突然死する。当初は病死とみられたが、体内から砒素が検出されたことにより、容疑は病弱な妻に向けられる。村の仲間グループの一人で隣家で果樹園を営む「わたし」は、図らずも事件に巻き込まれることに-------。
アントニイ・バークリー後期のノンシリーズ作品。ユーモアを封印し、「わたし」の心理描写を織り交ぜたシリアスな作風は、バークリーというよりアイルズ名義の諸作品に近い味わいがあります。 とはいっても、本書はハウダニット(砒素の混入媒体・経路の謎)とフーダニットを主眼にし、最終章の前には”読者への挑戦”を挿入した本格ミステリで、毒殺?を巡り自殺や事故説を含め、いくつもの仮説が検討されるところは、「毒チョコ」の変奏曲といえるかもしれません。(ロンドンの「犯罪研究会」の動向がチラリと出てくる場面がありますw)。 事件発生から検死審問へとつづく序盤から中盤の物語は、重苦しくテンポも悪いのですが、最終章の”一人多重解決”場面はスリリング。ただ、推理が明確な証拠に基づかないのは残念な点で、結末の付け方も(バークリーらしいとはいえ)賛否が分かれるかと思います。 |
No.2076 | 5点 | ぼくらの世界- 栗本薫 | 2014/04/09 18:29 |
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”ぼく”こと栗本薫が書いた推理小説「ぼくらの時代」がミステリ作家の登竜門であるホームズ賞を貰うことになった。ところが、その授賞式会場のホテルのトイレで、担当編集者の裸の死体が発見される事件が起きて-------。
”ぼくら”3部作の完結編。第1作のテレビ業界、第2作の少女マンガ出版業界につづいて、今回は推理小説文壇を背景にした謎解きミステリになっている。 裸にされた死体(「スペイン岬の秘密」)、「XY」のダイイングメッセージ(「緋文字」)、凶器のマンドリンなどなど、エラリー・クイーン作品の見立て殺人という趣向が興味を惹きましたが、真相はちょっと腰砕けの感がある。また、(いくら冒頭に警告があるとはいえ)それらのクイーン作品をそこまで突っ込んでネタバラシする必要があったのか疑問に思わなくもありません。 ただ、大学時代のバンド仲間、信とヤスヒコが集うラストシーンは感慨深いものがありました。 |
No.2075 | 5点 | 鐘楼の蝙蝠- E・C・R・ロラック | 2014/04/07 18:47 |
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作家のブルースは、ドブレットと名乗る謎の人物に付きまとわれ神経をとがらせていた。心配する友人の依頼を受けた新聞記者がドブレットが住む廃屋同然のアトリエを突き止めると、その部屋の壁の中から頭と両手首のない死体が-------。
身元不明の遺体発見と時を同じくして、作家ブルースとドブレットの失踪のみならず、ブルースの妻で女優のシビラまで所在不明になり、マクドナルド首席警部の地道な捜査もなかなか核心に迫らないので、序盤から中盤にかけての展開は何かとらえどころがない。唯一、ブルースの被後見人エリザベスの現代娘的キャラが立っていて読ませるぐらいで、やや起伏に欠ける感じも受ける。 終盤になると、マクドナルド警部が5つの仮説を立てるや、物語も急展開となり捜査小説としてようやく面白くなるのですが-------、しかし、本書は本格ミステリとして読むと次のようないくつかの問題点や疑問点があるように思われる。 (以下ネタバレ) 1、血縁関係を最後まで伏せて動機があることを明示しないのはアンフェアでは。 2、本書のパスポートによるアリバイ工作は現実的に可能とは思えない。 3、死体を損壊し身元不明にした意図がわからない(かえって犯人の目的に不都合のような気がする)。 |
No.2074 | 6点 | 猫の尻尾も借りてきて- 久米康之 | 2014/04/05 17:58 |
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東林工業の研究員・村崎史郎は、思いを寄せていた同じ研究室の助手・祥子が何者かに殺害されたと聞き落ち込んでいた。「もしタイムマシンがあれば....」、そんな時、研究室長の林が史郎に差し出した物は?--------。
謎解きの要素もある時空SF。時代は1995年に設定されているが、本書が出版されたのが’83年なので近未来が舞台です。 時間移動による犯人捜し&過去の改変がメインテーマですが、ライター型のタイムマシン、人工知能搭載コンピューター、クローン人間&記憶転送装置など、SFガシェットを色々と投入しているため多少詰め込み過ぎの感は否めない。 それでも時間軸が錯綜する終盤は、タイムパラドックスを回避しつつ、パズルを解くようなロジカルな謎解きが展開され、ジュヴナイル小説の水準を超える内容になっていると思う。ただ、ロマンチックSFとしては、同趣向の名作「マイナス・ゼロ」などと比べると物語に深みがなく、この辺はやはりジュヴナイルかなと思う。 |
No.2073 | 7点 | 特捜部Q Pからのメッセージ- ユッシ・エーズラ・オールスン | 2014/04/03 20:50 |
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スコットランドの海岸に流れ着いた壜詰めの手紙。デンマーク語の「助けて」という文字と書き手の「P」の頭文字だけが判読できる謎のボトルメールの事案は、回りまわってデンマークの特捜部Qが担当することになるのだが------。
コペンハーゲン警察の地下室に設けられた未解決事件を専門に扱う「特捜部Q」シリーズの第3弾。 カール・マーク警部補と奇矯な2人の助手の3人体制という小世帯の特捜部Qが今回扱うのは、過去からのボトル・メッセージの解読。その十数年前の事件の真相を掴みかけたところに、さらに同一犯人による現在進行形の誘拐・監禁事件が発生していることが判明する。 捜査側と犯人視点の並行した描写に加え、犯人の妻や被害者たちの母親視点のサスペンス部分も挿入されるという重層的な構成のため、ポケミスで600ページ近い分量はかなり読み応えがある。質量ともにシリーズ一番という評価も納得の出来栄えだと思います。さらには助手の男女2人、シリア人アサドとローセも何やら秘密を抱えており、シリーズを通して少しずつ明らかになるサイドストーリー部分も気になるところ。(しかし、アサドとローセの情報収集能力はハンパないなw) |
No.2072 | 5点 | 月光蝶- 月原渉 | 2014/04/01 20:12 |
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横須賀にある米軍基地内で女性広報官の全裸磔死体が発見される。同じ頃、基地の外で大量の血痕が見つかり犯行現場と特定されるが、被害者が基地のゲートを出入りした記録が全く見当たらなかった-------。
密室状態の米軍基地を舞台に、NCIS(米海軍犯罪捜査局)の捜査官を主人公にした本格ミステリ。 基地の内側と外側を別々の視点で交互に描くことで、最後の仕掛けが活きる構成は評価できる。ただ、メインの謎である連続する不可能状況下の殺人の真相は肩透かしぎみな上に、納得もいかない。普通の捜査で”それ”を無視することはないと思われる。 ほかにも、実行者の動機や容疑者をあのメンバーのみに絞った理由付け、関係者を一同に集めた謎解きの場所など、作者の恣意的ともいえる箇所が目につき微妙な読後感でした。 設定自体はユニークで面白くなりそうなのに、作者の力量が及ばなかった感じの惜しい作品。 |
No.2071 | 6点 | さよならダイノサウルス- ロバート・J・ソウヤー | 2014/03/30 20:36 |
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古生物学者の「わたし」ブランディは送られてきた手記を読んで驚く。それには、ブランディと仲間の地質学者クリックスの二人が、6500万年前の白亜紀にタイムトラベルし、ウイルス型の異星人が寄生した恐竜に出合うという冒険譚が綴られていた--------。
SFアドベンチャー小説であるとともに、「恐竜はなぜ絶滅したのか?」をテーマにした謎解きミステリでもあります。 ブランディたちがゼリー状の謎の生物とコンタクトを試みるうちに、物語はどんどん変な方向にスケールアップしていき、恐竜の謎から宇宙へ、はたまた人類誕生の謎まで拡がってゆく展開がソウヤーらしいです。 恐竜絶滅の”ハウダニット”はSF的なアイデアが活かされているのですが、「なぜ恐竜だけが」という点に着目した解法はロジカルで、ミステリ的な面白さがあります。また、実は皮肉で意外な真犯人を設定した”フーダニット”ミステリでもあるのです。 |
No.2070 | 7点 | 追憶の夜想曲- 中山七里 | 2014/03/28 20:30 |
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前の事件で受けた傷が癒え退院した御子柴は、夫殺しの容疑で懲役16年の判決を受けた主婦の控訴審弁護を強引に買って出る。しかし、法廷で彼の前に立ちはだかったのは、あの天才ピアニスト岬洋介の父である次席検事・岬恭平だった-------。
中学生の時に幼女を惨殺し医療少年院に収監されていた過去を隠し、いまは高額の報酬をとる悪辣弁護士となった御子柴礼二を主人公とする法廷ミステリ。「贖罪の奏鳴曲」の続編になる。 事件の隠された構図を暴くといった謎解きの部分は、前作と比べると割とありがちな真相で、おおよそ想像の範囲内だったが、法廷での対決場面はスリリングであり、逆転の決め手も意表を突き面白かった。 しかし本書のキモは別のところにあり、御子柴が何故に前任の弁護士を脅迫までして平凡な主婦の弁護を引き受けることに拘ったのか?という一点にあると思う。”贖罪”というテーマは前作に増して重く、読む者の胸に強烈に訴えるものがある。 |
No.2069 | 6点 | 無伴奏ソナタ- オースン・スコット・カード | 2014/03/26 18:45 |
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最初期のSF作品集。ハードSFっぽいものからホラー系、ファンタジー、寓話的なものまで、作風は意外と幅広いですが、レイ・ブラッドベリと同系統のダーク・ファンタジー的な作品が作者の本質のような気がします。また、いくつかの作品で身体の部分切断という残酷なシーンが出てくるが、不思議とラストは後味が悪いという感じは受けなかった。
印象に残ったのは次の3編。 「エンダーのゲーム」は、映画化もされた長編の原型となる作者のデビュー短編。異星人からの攻撃にそなえ、バトルスクールで摸擬戦闘ゲームを繰返す天才少年指揮官エンダーの成長を描く。編中で唯一ミステリ的なアプローチも可能で、ちょっとした驚きの真相が待っている。 「王の食肉」は、人肉を好む征服者の異星人の走狗となって、食肉を調達する”羊飼い”の運命を描く。結末はかなりエグい。 「無伴奏ソナタ」は、人里はなれ森に隔離された天才音楽家が、あるルールを破ったことで音楽を禁止され過酷な人生を辿る。監視社会という設定は「1984」「華氏451度」などの反ユートピア小説を思わせるが、なかなかの感動的なラストが印象に残る、これは名作と言っていいでしょう。 |
No.2068 | 7点 | 小さな異邦人- 連城三紀彦 | 2014/03/24 18:42 |
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雑誌「オール讀物」に2000年~09年に発表され短編8編からなる単行本未収録作品集。いままで雑誌掲載のままだったのが不思議に思えるような凄い作品がいくつかありました。
子供8人を抱える母子家庭宛てに「子供を預かった」と身代金を要求する電話が入るも、家には家族全員揃っていた、という不可解な謎を提示した表題作「小さな異邦人」が、アクロバティックな技巧が冴えた誘拐ミステリの傑作。巧妙な伏線とタイトルの真意も絶妙で、これが個人的ベスト。 交換殺人という使い古されたフォーマットを逆手に取った「蘭が枯れるまで」の意表を突くトリックにも感心させられた。 「無人駅」は、田舎町の駅前を舞台に、時効寸前の強盗殺人犯の情報を知る女と刑事が展開する心理戦が非常にスリリング。 ”花葬”シリーズを思わせるタッチの「白雨」における、終盤の構図の反転はかなり無茶ですが、ある意味もっとも連城らしい作品かもしれません。 そのほかの、男女のねじれた関係を描く恋愛小説風の物語にしても、ミステリ的な仕掛けが施されており、作者の”最後の贈り物”の名にふさわしい作品集でした。 |
No.2067 | 7点 | 静かなる炎- フィリップ・カー | 2014/03/22 11:43 |
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祖国ドイツを追われてアルゼンチンに辿り着いたベルニー・グンターは、ペロン大統領直属の秘密警察の大佐から、相次ぐ少女惨殺事件の捜査を依頼される。その殺害手口は、18年前のベルリン警察時代にグンターが担当し未解決に終わった殺人事件に酷似していた--------。
元ベルリン警察の刑事、元ナチス親衛隊員、元私立探偵のベルンハルト(ベルニー)・グンターを主人公とするシリーズ5作目。 グンターの流浪の人生には常にナチスの亡霊と陰謀がつきまとう。南米アルゼンチンの首都ブエノス・アイレスを舞台にした私立探偵小説風の物語と、18年前の戦前ナチス抬頭直前のベルリンを舞台にした警察小説風の物語が交互に並行して描かれるが、いずれも背景にはナチスの影が見え隠れする。ペロン大統領や伝説の大統領夫人エビータ、亡命したナチス戦犯のアイヒマン、メンゲル医師、もと親衛隊大将カムラーなど実在の人物が大きく関与してくる歴史謀略ものの面白さがあった。 窮地になっても減らず口をたたく皮肉屋のベルニーの造形も相変わらず魅力的。続く第6作はCWA賞のヒストリカル・ダガー受賞、第7作がMWAエドガー賞の最終候補と評価が高いようで、続編の早期邦訳を期待したい。 |