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[ 本格 ]
夜の人
精神分析医カイ・ブッゲ
ベルンハルト・ボルゲ 出版月: 1960年01月 平均: 6.00点 書評数: 3件

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早川書房
1960年01月

No.3 6点 人並由真 2016/08/16 03:57
(ネタバレなし)
 1941年のノルウェー作品。翻訳書(ポケミス=「世界ミステリシリーズ」)は半世紀以上前の旧刊ながら、なぜかこの1~2年、本サイトをふくめて時たまweb上での高評を目にする機会のあった一冊。
 次第に気になってきたのでこのたび読んでみたが、確かに面白かった。限定された舞台(金持ちの別荘)の中で起きた伊達男が被害者の殺人事件、その後に続く登場人物たちのやりとりの中で生じる微妙な人間模様の機微(主人公の恋愛ドラマをふくむ)、探偵役である精神分析医カイ・ブッゲの適度にエキセントリックな言動、そのブッゲと対になる捜査官ハンマー警部の生真面目なキャラクター…と、ミステリ小説としてソツの無いパーツを十全に組み合わせ、その一方で全体のページ数も少ない(訳者のあとがき~実質上の解説、をふくめて全176ページ)ため、ハイテンポであっという間に読めてしまう。

 全編に伏線や手掛かりは相応に張られているが、最後の探偵役の説明は専門的な心理学にも拠るため、普通の読み方ではフーダニットとしての正解は難しいだろう。ただし終盤、殺人者の正体が判明するあたりのスリルとサスペンスは該当シーンのビジュアルイメージも含めて実に強烈で、個人的には子供時代に学校の図書館から借りて読んだウールリッチの『自殺ホテルの怪』(1970年・偕成社~『913号室の謎』の児童書版)で真犯人がついに判明する時の衝撃と緊張感を思い出した。
 事件の真相判明の騒乱劇を経てしみじみと語られるクロージングの余韻もなかなかで、いやこれは読んで良かった一冊。nukkamさんのおっしゃるようにブッゲシリーズの続編も、今からでも翻訳紹介してほしい。主人公(語り手)である作者の分身? ベルンハルト・ボルゲのその後も気になるし。
 
 ところで、118ページ目でボルゲが読んでいたクリスティーの『誰がルイズに手紙を書いたか』というのは、実在する彼女の作品で、実際に刊行されたノルウェー語版のタイトルなんでしょうか? それなりにクリスティーは読んでいるのだが、さすがにこの題名と「ルイズ」という固有名詞だけでは、該当作品が思い当たらない。どなたかお心当たりのある方は、本サイトの掲示板などでご教示願えますと幸いです。

※追記(2016年8月16日10時)…蟷螂の斧さんから早速、情報のご教示を戴きました。『メソポタミヤの殺人』(原題:Murder in Mesopotamia)だそうです。ありがとうございました。

No.2 6点 nukkam 2014/09/01 15:10
(ネタバレなしです) ノルウェーの詩人アンドレ・ビェルケ(1918-1985)がベルンハルト・ボルゲ名義で1941年に発表した、精神分析医のカイ・ブッゲを探偵役にしたミステリーデビュー作の本格派推理小説です。心理分析を謎解きに織り込んでいるのが特徴ですが、先輩格にあたるヴァン・ダインの名探偵ファイロ・ヴァンスのことを「俗流心理学の産物」と切って捨てたりして二番煎じではないことを強調しています。それほど専門用語の披露には走らずに洗練された語り口のプロットになっています。途中までは良くも悪くも普通の本格派の雰囲気ですが終盤には予測もしない衝撃が待っていました。これは書きようによってはサイコ・スリラーに化けてたかもしれませんね。ノルウエーミステリーの傑作として今でも名高いシリーズ第2作も翻訳紹介してほしいものです。

No.1 6点 kanamori 2014/04/30 14:09
探偵小説作家の「私」(ベルンハルト・ボルゲ)は、従兄弟のヘルゲ・ガイルホルムから誘われ、フィヨルドを臨む海辺の別荘で数名の招待客とともに夏休暇を過ごすことになった。ところが、”ドン・ファン”で有名な主人ヘルゲを中心とする男女関係の軋轢が不穏な雰囲気を生み出し、ついに深夜に悲劇が起きる-------。

「私」の友人で精神分析医のカイ・ブッゲを探偵役に据えたシリーズ第1作。’40年代に書かれた北欧ノルウェー産の本格ミステリという点が珍しい。古いポケミスの訳文にはいつも泣かされるのですが、本書は(英訳版からの重訳ということもあってか)半世紀以上前の翻訳とは思えない読みやすさで安心しました。
本書にはヴァン・ダインを多分に意識したところがあって、心理分析を使った探偵法を採るカイ・ブッゲに、ファイロ・ヴァンスの心理的探偵法を”俗流”と言わせたり、プロットの一部や犯人の立位置にヴァン・ダインの有名作品に重なるところがあったりします。
物的証拠を重視するハンマー警部と対比させ、深層心理的な犯人の手掛かり・伏線をいくつか用意するなど、作者の心理的探偵法の試みはある程度効果を上げているのではと思います。また、最後に明らかになる犯人の造形はけっこう衝撃的で、英米の古典本格ミステリとは一味違うようにも思いました。


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ベルンハルト・ボルゲ
1960年01月
夜の人
平均:6.00 / 書評数:3