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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.166 6点 私のすべては一人の男- ボアロー&ナルスジャック 2010/04/17 14:44
従前の心理サスペンス風の作風とはちょっと異なるボア&ナル最強の怪作だと思います。
臓器移植の大家が、重傷を負った7人の患者に一人の死刑囚のからだの部分を移植するが、手術後に患者たちに次々と異常が起こり始め、自殺が相次ぐ。
いわば、「占星術」の逆バージョン。現象はホラー小説の様相ですが、全ては合理的に説明される(かな)。
フランス・バカミスの頂点でしょうか。この驚嘆の真相に対して笑って許せるか、壁に投げつけるか、読者の度量の大きさが試されます(笑)。

No.165 7点 クラシックな殺し屋たち- ロス・トーマス 2010/04/17 14:06
パディロ&マッコークル2人組「マックの店」シリーズ第3作。
先ごろデビュー作の邦訳から30年以上たって第2作が出たので、これも再読しました。やはり、メチャメチャ面白い。善人悪人にかかわらず登場人物の造形が個性的で、会話のセンスもいい。
今回は、やり手の殺し屋を向うにまわし、アラブの石油王になる男の身辺警護をするお話。前作と比べてプロットがすっきりしていて読みやすいが、人物関係の説明が省略されているのでシリーズ第1作「冷戦交換ゲーム」から読むのが吉だと思います。

No.164 4点 幽霊の死- マージェリー・アリンガム 2010/04/16 22:03
素人探偵アルバート・キャンピオン、シリーズ第6作。
残念ながらアリンガムとの相性はあまりよくありません。本作と次の「判事への花束」も、いちおう代表作ともいわれる作品だと思いますが、訳文が古いせいもあるかもしれませんが、探偵の人物造形がいまいちよく分からないため、物語に入り込めませんでした。最近訳出された作品も読んでみましたが、本格ミステリじゃなく、古いスリラー&サスペンスの様相で、これはまったく守備範囲外。英国4大古典女流ミステリ作家の一人というのは、現在での評価では、ちょっとどうなんでしょうか。

No.163 7点 四年後の夏- パトリシア・カーロン 2010/04/16 21:27
豪州のサスペンスの女王・カーロンの邦訳第4作。
10年前には毎年のように出ていた気がしますが、バッタリ止まってしまったのは売れなかったからなのか。
4年前の殺人事件の容疑者は2人のヒッチハイクの女性・・・。なんだか「ウッドストック行最終バス」のような雰囲気の過去の事件を、被害者の妹の依頼で私立探偵が解く。
過去の事件と現在の調査書類の写しが交互に描かれていて、サスペンスの盛り上げ方が巧い。この作品を読む限りでは女王の呼称に偽りなしと思いました。

No.162 6点 ジョン・ディクスン・カーを読んだ男- ウィリアム・ブリテン 2010/04/16 20:54
有名なミステリ作家のパロデイ「~を読んだ~」シリーズ11編と単発作品3作を収録した短編集。
表題作は既読ですが、倒叙もので、密室殺人を企てた男の皮肉な結末が笑える。この密室トリックは「密室講義」でばからしいとして無視されたものではなかったか。
「エラリー・クイーンを読んだ男」は金貨の隠し場所トリックでまずまずの佳作。
「レックス・スタウトを読んだ女」はサーカス劇場の殺人事件。ウルフの雰囲気をミスディレクションに使っていて巧い。
ほか、クリステイ、ドイル、チェスタトン、ハメット、アシモフなど錚々たるメンバーを揃えているが、後ろの作品になるほど完成度が落ちている気がします。
単発ものでは、「ザレツキーの鎖」が脱出もので最もトリッキー、結末のキレが抜群にいい傑作。
著者の代表シリーズ・ストラング先生ものは本格系のようで、続いて読んでみたい。

No.161 6点 ねじれた奴- ミッキー・スピレイン 2010/04/16 19:04
私立探偵マイク・ハマー、本格ミステリに挑戦する(笑)。
スピレインと言えば、暴力とセックス、そして最後は拳銃一撃で解決する。たいてい一番魅力的でセクシイな美女が真犯人(多少の誇張あり)に決まっていますが、本作は、まさかの「館」ミステリ。
舞台は「ヨーク家」で、利口な少年も出てくるので、どの本格ミステリをパロッたか明白です。シリーズ中最も「意外な犯人」でしょうね。

No.160 7点 冬の裁き- スチュアート・カミンスキー 2010/04/16 18:39
シカゴの老刑事エイブ・リーバーマンを主人公とする警察小説、シリーズ第3作。
著者は、①40年代のハリウッド映画界を背景にした私立探偵もの(「ロビンフッドに鉛の玉を」ほか)、②崩壊前のソ連を舞台にした警察小説(「ツンドラの殺意」ほか)も書いていますが、初期の軽妙なものやウイットに富んだ作風と比べて、リーバーマン刑事シリーズは深みのある渋い警察小説です。
親族や同僚刑事ハンラハンとの交情も重要な読みどころなのに、邦訳が発刊順になっていないため、その人間関係の肝が解り難いなど、日本での扱いが充分でないのが残念です。
この作品は、ある冬の一日の事件をモジュラー方式で描いていて、結末の意外性も設定されています。シリーズ中ミステリ志向が一番高い代表作ですが、できれば第1作の「愚者たちの街」から順に読むことをお薦めします。

No.159 6点 一寸の虫にも死者の魂- リチャード・T・コンロイ 2010/04/15 21:35
スミソニアン博物館シリーズ、爆笑のスプラスティック・コメデイ第3弾。
今回、博物館の渉外担当ヘンリーが引き起こすのは、歴史的大事件。最初はスケベ心から民族フェスティバルに協力していただけだったのだが・・・首都ワシントンの運命、その責任が全て自分にかかってくるとは!(笑)
このシリーズ、回を重ねる毎に面白くなる。しかも最後は本格的にミステリ?な所がツボです。

No.158 6点 猫の手- ロジャー・スカーレット 2010/04/15 20:50
ノートン・ケイン警部シリーズ第3作。
いかにも古典本格ミステリの定型で、遺産相続を絡めた親族が集まる屋敷での殺人を扱っています。とくに新しい趣向もなく、「エンジェル家」のような派手なトリックもありませんが、予想以上に面白く読めました。
一番評価できるのは、終盤のケイン警部の論証でロジックに隙がない所でしょうか。猫の手に関する最後のひっくり返しもスマートです。残る未読の「白魔」(「バック・ベイの殺人」)の完訳を期待したいものです。

No.157 6点 毒蛇の園- ジャック・カーリイ 2010/04/15 20:18
サイコ・サスペンスと本格ミステリを融合させた<百番目の男>カーソン刑事シリーズの第3作。
ケネディ家をモデルとしたと思われる名門一族に絡む連続殺人を描いていますが、今回は本格風味が希薄。シリアル・キラーのカーソン刑事の兄も出番なく、ちょっと物足りない出来です。

No.156 6点 ヘッドハンター- マイケル・スレイド 2010/04/15 18:45
カナダ騎馬警官隊シリーズの第1作。
スプラッタ・ホラーと警察小説が合体した過激なサイコ・サスペンスです。
スレイドは何人かの作家の合作ペンネームですが、まるでリチャード・レイモンとジャック・カーリイが合作したような作風(かえって判りにくい?)です。
異常極まりない残酷描写の連続と掟破りの結末は、なるほど綾辻行人がイチオシのシリーズだと納得いきました。

No.155 5点 鉄路のオベリスト- C・デイリー・キング 2010/04/15 18:06
ロード警部補ものの<オベリスト3部作>の第2作。
同じ年に大西洋の向う側で出版された「オリエント急行」と同様に長距離列車内の殺人を扱っていますが、こちらはアメリカ大陸横断鉄道が舞台です。
今作も巻末に「手掛かり索引」一覧を載せ、多重解決ものをやってくれてますが、冗長な心理学の講釈とトリックがやや強引なところがあって読後感はいまいち。
訳者が鮎川哲也というのは題材からナルホドと思いましたが、本当かなあ。

No.154 7点 バースへの帰還- ピーター・ラヴゼイ 2010/04/14 21:47
主にビクトリア朝を時代背景に歴史ミステリを書いてきたラヴゼイが、本格的に現代ミステリに取り組んだダイヤモンド警視シリーズの第3作。
現代の英国本格を代表するシリーズの一つですが、当シリーズの書評が全くないのはちょっと寂しい。
時代遅れで頑固者のダイヤモンドは、今作ではまだ「元警視」で、ある事情から過去の冤罪事件と現在の誘拐事件に奮闘する。
いかにも田舎町というのんびりしたバースの雰囲気もいいし、本格ミステリのツボを押さえた結末もお見事。個人的にはシリーズの代表作だと思っています。

No.153 8点 スクールボーイ閣下- ジョン・ル・カレ 2010/04/14 20:50
英国情報部<サーカス>のスマイリーとソ連の工作指揮官カーラとの諜報戦を描いた<スマイリー3部作>の第2作。
前作で二重スパイ<モグラ>によって壊滅的打撃を受けた英国情報部は、カーラの資金移動のルートを叩くべく反撃に出る。
3部作の2作目となるとつなぎの物語と思われがちですが、前作の重くて暗い動きの少ない物語に対して、今作は東南アジアとロンドンを舞台に壮大なエンタテイメントに仕上がっています。準主人公の<スクールボーイ>こと臨時工作員ウェスタビーの役割もそれに寄与していて、3部作では一番面白い。
といっても、人物、情景の書き込みぶりは尋常ではないし、リアリズムを追求した地味なエスピオナージには変わりないので、読むのに相当の覚悟が必要です。

No.152 6点 戦慄のシャドウファイア- ディーン・クーンツ 2010/04/14 20:18
モダンホラーとは「怖くないホラー」とか何かで定義されていましたが、本書は怪物が出てくるからホラーなんでしょうけど、ほとんど全篇が追いかけっこの印象で、ホラーというより極上のサスペンス小説の味わいでした。
まあ、ジャンルはどうでもいいことで、読んで楽しかったのは間違いないです。

No.151 7点 魔術師が多すぎる- ランドル・ギャレット 2010/04/14 18:35
科学の代わりに魔術が発達したパラレルワールドの欧州を舞台にした本格ミステリ。
魔術で封印した密室での殺人に主任捜査官ダーシー卿が挑みます。魔術師が多数登場するなか、トリックは極めて論理的でフェアなもの(ディクソン・カーの某作品の改良型と言えるかもしれません)。
ある意味スパイ小説でもあり、トリックだけでなく物語としても楽しめるSFミステリの逸品だと思います。
ダーシー卿ものの長編はこれだけですが、短編は短編集「魔術師を探せ!」やSFミステリのアンソロジーで読める。未訳の短編もいくつかあり、いつか読んでみたい。

No.150 7点 犬の力- ドン・ウィンズロウ 2010/04/14 18:05
メキシコの組織と捜査官アート・ケラーとの30年に及ぶ麻薬戦争を描いた大作。
テイストは<ストリート・キッズ>ニール・ケアリーシリーズと随分違いますが、物語の疾走感はいつものウィンズロウ節です。
麻薬組織の兄弟、貧民街育ちの若い殺し屋、高級娼婦ノーラなど主要人物だけでも10人を超え、人物もそれぞれが魅力的で、衝撃的な一つ一つのエピソードは読ませますが、疾走しすぎの感じです。
これだけの人物を配した30年間の物語であれば、この分量では短すぎで、じっくりと全5巻ぐらいで書きこんでもらいたかった。

No.149 7点 ベウラの頂- レジナルド・ヒル 2010/04/13 23:59
ダルジール警視以下<聖三位一体>シリーズの大長編。
このシリーズは巻を重ねる毎に分厚くなっていく。「骨と沈黙」がポケミスで450ページを超える最長と話題になったのはいつのことだったか、なんと本書は550ページだ。しかも各ページぎっしり活字で埋まってる。
ヒルじゃなくてマウンテンだと揶揄されるのも分かります。
さらに、この「ベウラの頂」が頂ではなく「死の笑話集」は650ページだとか。もうヒルの愛読者はマゾ的書痴の集まりですね。
でも、ポケミスのこの重量感、好きです(笑)。
本書の肝は冒頭の山のイラストです。ずっと眺めていれば本文を読まなくても真相がわかる(かもしれません)。

No.148 9点 倒錯の舞踏- ローレンス・ブロック 2010/04/13 22:07
無免許の私立探偵・マット・スカダー、<倒錯3部作>の第2作。
スカダーの長いシリーズは3つのステージに分けられると思います。
第1ステージは、アルコール依存症に苦しむ内省的ハードボイルド編で、代表作は「八百万の死にざま」。
第2ステージが、倒錯3部作を含む暴力的ハードボイルド編で、多くは狂人的殺人者と対峙する。
現在は最終ステージで、「おいぼれ熊さん」と揶揄されるように枯れてしまったスカダー(いつまで読めるか心配)。
この作品は第2ステージの代表作のひとつで、前作を超える異常な敵がお目見えする。サイコ・サスペンス小説が溢れていた時代に触発されたごとくで、究極のエンタテイメントに仕上がっていると思います。

No.147 4点 エアロビクス殺人事件- エドワード・D・ホック 2010/04/13 20:14
読者への挑戦付き犯人当てミステリ。
犯人を特定するためのいくつかのピースをばらまいて、消去法で犯人を当てるタイプのパズラーですが、あまりスマートな論証ではないですね。
共著のR・T・エドワーズはエドワード・D・ホックの別名義で、プロットの考案担当のようです。しかし、解説(訳者あとがき)には覆面作家というだけで、正体は明かされていません。

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