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[ 本格 ]
魔術師が多すぎる
ダーシー卿
ランドル・ギャレット 出版月: 1977年07月 平均: 7.00点 書評数: 3件

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早川書房
1977年07月

No.3 7点 2021/09/20 09:27
 弁護士や科学者のかわりに魔術師が社会の要職を占めるもう一つの現代ヨーロッパ。一九六六年十月二十六日水曜日の午前九時半、三年ごとに開かれる治療師と魔術師の大会会場で殺人事件が発生した。英仏帝国の首都、ロンドンのロイヤル・スチュワード・ホテル二階の一室で突如悲鳴が起り、市の主任法廷魔術師であるサー・ジェイムズ・ツウィングの刺殺体が見つかったのだ。しかも鍵のかかったドアはツウィング本人にしか開けられぬ呪文で封じられ、唯一窓が開く階下の中庭では人々が閑談していた。
 この完璧な密室殺人の犯人として現場に居合わせたライバルのマスター魔術師、ショーン・オ・ロクレーンが逮捕されるが、ショーンと共に数々の難事件を解決してきたノルマンディ公リチャード殿下の主任捜査官ダーシー卿は、その処置に対し重大な疑問を提示したのである! SF的設定と本格探偵小説を組み合わせた、異色の傑作長篇。
 アメリカの老舗SF誌「Analog Science Fiction and Fact」1965年8月号から同年11月号まで四回にわけて分載され、翌1966年に単行本化されたダーシー卿シリーズ四作目にして唯一の長篇作品。順番的には同誌1964年1月号掲載の「その目は見た」に始まる独自編集版中篇集『魔術師を探せ!』の続篇に当たり、第二作「シェルブールの呪い」ほか、過去の事件についても一部言及される。
 設定的には『シェルブール~』同様英仏帝国と並ぶこの世界のもう一方の雄、ポーランド王国との角逐及びスパイ戦が背景。すでに征服したロシア諸国とのトラブルにより東進に頓挫をきたしたポーランド国王カシミール九世は、転進を余儀なくされ西のゲルマン諸国に触手を伸ばし始め、イングランド、フランス、スコットランド、アイルランド、ロンバルディア及び北部スペインに加え、ニュー・イングランドと呼ばれる新世界の富を有する帝国と敵対している。「シェルブール~」では英仏本国⇔新世界間の海運を止め帝国経済を破壊しようとする、〈大西洋の呪い〉なるポーランドの陰謀が描かれていた。
 ただし今回スパイ要素はメインではなく脇筋程度。"ターンヘルム効果" なる魔術を用いた海軍の国家機密が出てきたり、真犯人の動機に絡んだりはするものの、全体としては目隠し以上の意味は無い(霧のサマーセット橋での剣戟シーンや、ポーランドからの亡命美女ティア・アインチッヒを救おうとするダーシー卿の活躍は、この長篇の一番面白い所ではあるが)。ここまでで分かる通り世界設定は中世ヨーロッパ風で、魔術要素があるとはいえシリーズの味わいはどちらかと言えばカー/ディクスンの歴史ミステリに近い。
 トリックはさほどのものではないが、前記のアクションや登場人物の性格設定など、作中の美味しい部分がミスディレクションと有機的に結合しているのが本書の上手いところ。魔術も万能ではなく、もっぱら不可能興味の補強や物語のスムーズな進展に使われるのでさほど抵抗は感じず、むしろエキゾシズムの醸成に役立っている。
 キキメ文庫の一つとして名高いけれど内容的には佳作止まり。なかなか面白くはあるが大傑作とまでは行かない。これ一冊に何万も出すのは賛成しないが、2000円前後なら入手する価値はあるだろう。シリーズ物としてはかなり良質な部類と言える。

No.2 7点 2011/04/30 09:53
科学的に厳密なハードSFであれば、謎解きミステリとの融合も納得もできますし、実際アシモフ御大を始め、かなりの作品があります。しかし本作はハリー・ポッターにも近いような魔法の世界です。呪文で不可能なことを起こせる設定の中で、密室の不可能殺人をどう演出するのかが見所でしょう。この趣向は魔法の限界を明確にすることで、かなり成功していると思います。
全体的には、不可能犯罪ということも含め、『ビロードの悪魔』等カーの歴史ものに似た味わいがあります。
密室トリック自体は共通点があるとは言え、カーの某有名作(現代が舞台の)のような目のつけどころの意外性はありませんし、改良点にしても作者の都合で何とでもなる部分ですので、あまり高い評価はできません。しかし、解決に至る伏線は充分張ってありますし、スパイ要素も謎解きにうまく溶け込んでいて、おもしろく仕上がっています。

No.1 7点 kanamori 2010/04/14 18:35
科学の代わりに魔術が発達したパラレルワールドの欧州を舞台にした本格ミステリ。
魔術で封印した密室での殺人に主任捜査官ダーシー卿が挑みます。魔術師が多数登場するなか、トリックは極めて論理的でフェアなもの(ディクソン・カーの某作品の改良型と言えるかもしれません)。
ある意味スパイ小説でもあり、トリックだけでなく物語としても楽しめるSFミステリの逸品だと思います。
ダーシー卿ものの長編はこれだけですが、短編は短編集「魔術師を探せ!」やSFミステリのアンソロジーで読める。未訳の短編もいくつかあり、いつか読んでみたい。


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ランドル・ギャレット
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