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[ ハードボイルド ]
ねじれた奴
私立探偵マイク・ハマー
ミッキー・スピレイン 出版月: 1982年11月 平均: 6.67点 書評数: 3件

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早川書房
1982年11月

No.3 7点 人並由真 2020/11/21 10:49
(ネタバレなし)
「おれ」こと私立探偵マイク・ハマーは、ニューヨークから少し離れた地方の町サイドンに向かう。そこではハマーと旧知の仲で、今は真面目に働く前科者の男ビリー・パークが、身に覚えがない誘拐犯の嫌疑をかけられていた。ハマーは、面識のある凶暴な暴力刑事グレート・ディルウィックのもとからビリーの身柄を力づくで受け出し、そのままくだんの誘拐事件に介入した。依頼人は高名な科学者で資産家のルドルフ・ヨーク。ビリーはヨークのもとで運転手として堅実に勤務していた。ヨークの話では、彼の息子で14歳の天才児ラストンが何者かによってさらわれ、地元の警察はろくな捜査もしないでビリーを逮捕したという。ハマーはヨーク家の周辺を入念に調べ、わずかな情報から少年の行方の手がかりを見つけるが。

 1966年のアメリカ作品。マイク・ハマーシリーズの第9作。
 『ガールハンター』『蛇』の秘書ヴェルダとの復縁二部作で完全復活したハマー、そのシリーズ第二期の三冊目。
 例によって本(ポケミス)は何十年も前に購入していたが、どっかのいらん、無駄におせっかいな書評で大ネタをバラされてしまい、興が失せてしまった。それで今回はじめて、ようやっと読んだ。
 ちなみに本サイトの先行レビューの二つのうち、kanamoriさんの方は曖昧に書かれたようで、実際にはミステリとしてのネタバレ全開なので、誠に恐縮ながら、これからもしご覧になる方は、そのつもりでお読みください(空さんのレビューの方は、大丈夫だと思います。)。

 本作のキーパーソンとなるのが14歳の天才少年ラストンで、彼に対して過剰な保護願望を抱く前半からのハマーの姿がすごく鮮烈。ハマーって、悪党や共産主義者(の過激派)には無慈悲、プチブルにもけっこう時として意外に冷たい一方、『大いなる殺人』の頃から赤ん坊や子供にはやさしいキャラクターだったから。まあ旧世代の「アメリカ・マッチョ・良識派」(?)だよね。

 なお本書はポケミスの通巻1078。これとほぼ同時の1080でロスマクの『ドルの向こう側』(原書は1964年)が刊行されていて、どちらも私立探偵主人公と事件の渦中にある少年との距離感が大きな主題になっている
(このことは、本書の読了後に小林信彦の「地獄の読書録」をよみかえしたら、同様の指摘があって思わずにやりとした。)

 この辺の時代的な背景としては、50~60年代にアメリカミステリ界で一流派となった「非行少年もの」の隆盛(メジャーなエヴァン・ハンターから、懐かしのハル・エリスンなど、ほかいろいろ)があり、ハマーもアーチャーもそういった<ティーンエイジャーを題材とするミステリ>の波に乗ったのだと思う。
 なお、この時流がさらにあと数年進むと日本でも、仁木悦子の『冷えきった街』や結城昌治の『不良少年』とかが70年代の頭に書かれたりするのだけれど、まあそのへんはまた次の機会に語りましょう。
 そもそも評者は『ドルの向こう側』も『不良少年』もまだ読んでないし(笑・汗)。

 本作はポケミスで280ページ弱。客観的にはそんなに厚くないのだけれど、それでもハマーシリーズのなかでは一番長いような気がする。まだシリーズを全部読んでないから、うかつなことは言えないけれど、翻訳された分は全部、所有はしているので、たぶんそうじゃないか? と。
 しかし会話も多い上に、一人称のハマーの行動は思考の流れが明快でわかりやすい。さらになにより主人公のハマーが第二期のこの三冊目で完全復調しているので、ハイテンポなことこの上ない。二日間かかったけれど、実質的には4~5時間もかからず(二回にわけたが)ほぼいっきに読めた。
 登場キャラは、暴力刑事のディルウィックが出色。しつこく、かなりとんでもないレベルのダーティプレイでハマーにいやがらせ(それから……)してくる。初期の平井和正の描く白人の悪役みたいな感じで、油くさいいやらしさがなかなか強烈なキャラだった。
 それで最後の真相は、大ネタをあらかじめわかっていながら、それでもかなりショッキング。明かされる真相にはちょっとだけ無理筋も感じないではないけれど、かなり練り込んではある。
 たしかにここがキモの作品だけれど、もし万が一ネタバレで犯人をしってしまっている人がいても、たぶんかなり楽しめるとは思います。

 最後に大声で言いたいこと。
 
 なんでヴェルダがまったく、ただの一行も出ない?

 地方に出張のハマーが彼女を同道させないのはとりあえずいいとして、ヴェルダにひそかに惚れているパット・チャンバースまで登場しながら、二人とも噂さえしないってのはどういうわけか?!
 ちなみに次のハマーシリーズ『女体愛好クラブ』はまだ未読だけど、そっちではちゃんとヴェルダは出て来るみたいね。あわてて人物一覧だけ先に見てしまったぜ(まあ『皆殺しの時』でちゃんと活躍していることは知ってるんだけれど)。
 彼女についてアレコレ思うことはあるっけれど、それはいずれまた『女体~』を読んだら書きましょう。

No.2 7点 2018/10/22 20:19
今までに読んだスピレインの中でも、特に話が複雑に入り組んでいて、結末の意外性もある作品です。様々な登場人物の思惑が、事件をややこしくしています。kanamoriさんの評を先に読んでいたため、真相は最初からわかっていましたが、現代では、元ネタよりも直感的に当てにくいでしょう。一人称私立探偵小説であることが、ミスディレクションにもなっています。
タイトルにも二重の意味があります。ひとつは事件そのもので、大詰めで「これほどひねくれたケースはおがんだこともないくらいだ」という文が出てきます。またラスト・シーンで犯人のセリフの中にも「ゆがみ、ねじれたもの」という表現があります。さらに最終ページのオチのつけ方が、このシリーズとしては意外で衝撃的です。
そんな異色作だからといって、アクションの方にも手抜きはなく、ハマーは市警の悪徳刑事たちを相手どって派手に活躍してくれます。

No.1 6点 kanamori 2010/04/16 19:04
私立探偵マイク・ハマー、本格ミステリに挑戦する(笑)。
スピレインと言えば、暴力とセックス、そして最後は拳銃一撃で解決する。たいてい一番魅力的でセクシイな美女が真犯人(多少の誇張あり)に決まっていますが、本作は、まさかの「館」ミステリ。
舞台は「ヨーク家」で、利口な少年も出てくるので、どの本格ミステリをパロッたか明白です。シリーズ中最も「意外な犯人」でしょうね。


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