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[ ハードボイルド ]
俺の拳銃は素早い
私立探偵マイク・ハマー/別題『俺の拳銃はすばやい』
ミッキー・スピレイン 出版月: 1956年01月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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潮書房
1956年01月
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三笠書房
1958年01月

No.2 7点 2021/12/13 00:02
古代ローマのコロッセオと現代の都会とを比較したりして、素早くて巧みじゃなきゃおまえは死んじまうぜ、なんていう講釈から始まる本作。しかし実際には、ハマーの拳銃さばきはちっとも素早くないと思える内容でした。
だからと言って作品自体がもたついて退屈なわけではありません。銃をまだ抜いていなかったからこそ命が助かる件にはなるほどと思わせられましたし、後半、銃は要らない、素手で倒してやると殺し屋に飛びかかっていくところも楽しめます。さらにハマーが先に発砲しなかったから成り立つ、犯人の悲鳴をハマーの哄笑が覆い隠してしまう狂気じみたラスト・シーンには異様な迫力があります。
ローラの扱いについては、後の作品のことを考えると、こうならざるを得なかったのだろうなと思えました。
ちなみに読んだのは原書なので、人並由真さんが書かれている一人称「僕」の違和感は感じずに済みました。

No.1 6点 人並由真 2019/12/11 12:45
(ネタバレなし)
「僕」こと私立探偵マイク・ハマーは三日間ぶっ通しの激務を終え、終夜営業の軽食堂に入った。ハマーはそこで、本来は美人だが、くたびれた感じの娼婦らしき赤毛の女「アカ」と出会い、彼女と意気投合する。歓談の途中で「アカ」の知り合いらしい男が迫ってきたが、ハマーは彼女が迷惑そうなのを認めて男を撃退した。大仕事の直後で余裕のあったハマーは「アカ」に150ドルを渡し、生活を立て直すように勧めた。だがそれから間もなく、ハマーは「アカ」が車に轢かれて死亡、犯人はまだあがってないことを知った。友人のパット・チェンバース巡査部長と情報を交換したハマーは「アカ」の死が殺人と推定。彼女の素性と昨夜の男の情報を求めて動き出す。

 1950年のアメリカ作品。マイク・ハマーシリーズの第二弾で、デビュー編『裁くのは俺だ』(1947年)から3年(2年余?)の時を経たハマー復活編。しかし改めて見ると、大反響を巻き起こした第一作から相応に時間が経って刊行されていることに、ちょっと驚いた。のちの執筆ペースを考えれば、スピレインの初期作の中では、前作からこの作品までだけが時間が空きすぎる。仔細に作者の経歴を覗けば、何か興味深い話題があるかもしれない。

 今回は田園書房の「スピレーン選集」版(邦題『俺の拳銃はすばやい』)にて、実にウン十年ぶりに再読。ポケミス以前に複数の出版社から翻訳刊行された「スピレーン選集」のハマーシリーズの中では、なぜか本作だけが早川から復刊・新訳されていない。それで気になって、どんな作品だったかという興味も頭をもたげ、今回もう一度読んでみた。
 しかし青少年時代に初読の際、ハマーの一人称が「僕」なのにぶっとんだ記憶があったが、再読してやはりそうであったと再確認。エド・ハンターやドナルド・ラムじゃあるまいし、このハマーほど「僕(ぼく)」の一人称が似合わない往年の私立探偵ヒーローもいないだろう(笑)。
 翻訳はガーヴの『モスコー殺人事件』なども訳出した、向井啓雄。女性相手のダイアローグ時のハマーの口調がケアレスミスで女言葉っぽくなってしまう(語尾に「かしら」をつける)などの天然な部分もあり、さらに全般に古い時代の言葉遣いという印象で読みにくいが、まあ我慢できないことはない。

 序盤のキーヒロインとなる「アカ」こと本名ナンシー・サンフォード(ハマー版&女性版テリー・レノックスか)の退場を機に、売春シンジケートの闇の部分に迫っていくハマー。中盤のメインヒロインは、ナンシーの友人だった元コールガールの美人モデル嬢ローラ・バーガンに交代。一方でシリーズのメインヒロインの秘書ヴェルダは、美人としての描写もろくにされない上に、外で跳ね回るハマーに完全に置き去りにされた扱い。コンビニっ娘の先駆か。

 あと今回はハマーとパット・チェンバースのからみの比重がすごく多い。警察の上層部から政財界の腐敗した大物連中に手を出すなと釘を刺されたパットがくさり、組織の外で自由に動けるハマーを羨ましがる図なんか、そういう段取りで主役ヒーローを格上げヨイショする狙いが、わかりやすいくらいわかりやすい。
 だけどこういう、主人公の相棒格&親友の警官がマトモな人間という描写は、正にシリーズ初期編でやっておくべきこと。だから納得の叙述である。

 ミステリとしては、キャラクターポジションなども踏まえて大方の筋は読めてしまう作り。初読の時から真犯人(黒幕)の類推はついたし、本当に素直に読めば意外性がある? 人物なので、今回も記憶に残っていた。ただし中盤から登場する、被害者がらみのあるアイテムの扱いと、そこに繋がる真犯人の内面的な動機はちょっと印象的。一方で現実の犯罪実働としてはやや無理筋に思える部分もないではないが、まあギリギリか。
 ラスト、義憤を燃やすハマーのサディスティックな描写はなかなか。クロージングの情景イメージとしては、シリーズのなかでも上位の方かもしれない。

 21世紀の今、改めて再版希望とは声高に言えない出来だが、シリーズのファンなら古書店で安く出会えたならまあ買って読んでもいいかも。
 万が一にも、本作の新訳復刊(もちろん一人称を「俺」にして)の話でもあるというのなら歓迎だが、実のところ、それよりはミステリマガジンに抄訳? されたきりのハマーシリーズ最終作『暗い路地(Black Alley)』の方を、ポケミスかミステリ文庫に入れてほしい。


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