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文生さん
平均点: 5.89点 書評数: 423件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.283 7点 ヨルガオ殺人事件- アンソニー・ホロヴィッツ 2022/09/20 08:39
前作『カササギ殺人事件』にて死亡したミステリー作家の作品に殺人事件の犯人を指し示す証拠が残されていることが判明するという展開は非常にスリリング。おまけに、作中作として挿入されている問題の作品も抜群の面白さです。黄金期探偵小説の雰囲気に満ちており、誰もが怪しい中で意外な真相を提示してみせる手管には感心させられました。
ただ、現実の事件の謎解きはイマイチ。犯人にさほどの意外性がなかったのも不満ですが、なにより肝心の「犯人を指し示す証拠」というのが実はなんの証拠能力もない点がいただけません。これって要は、性格の悪い作家が「こいつが犯人だ」と(根拠も示さずに)勝手に言っているだけでわざわざその秘密を知った人間を殺さなくても言い逃れはいくらでも可能なのではないでしょうか?

No.282 5点 殺しへのライン- アンソニー・ホロヴィッツ 2022/09/18 11:33
全体としては十分に楽しめたものの、前半のテンポの悪さが少々気になりました。また、本格ファンの興味を引きそうな謎が「右手だけが縛られていない死体」ぐらいなのでちょっと地味です。それに、そのホワイの謎に対する解答も魅力的とは思えませんでした。
最大の読みどころといえるのが関係者の秘密が次々に暴かれて後半の展開で、一番興味深いのがホーソンの過去についてなのですが、それは次巻以降の持ち越しとなっています。そういうわけで、物語としてはそれなりに楽しめるものの、本格を期待しすぎると肩すかしを喰らう作品だといえます。

それと、本篇の3分の1程度読んでから目次を見返した時になんとなく犯人がわかってしまったのも真相の意外さを薄れさせてしまった原因となってしまった(目次に直接的なヒントが書かれていたわけではないのだけど、この目次ならあいつが犯人だと雰囲気ぴったりだなという流れで予想できてしまった)。したがって、目次はなるべく見ないことをおすすめします。

No.281 6点 ポピーのためにできること- ジャニス・ハレット 2022/09/18 11:19
普通の小説とは異なり、メール・供述調書・新聞記事といった証拠資料のみで物語を構成している異色作。そうすることで、読者は探偵役と全く同じ目線で謎解きに参加することができるというわけです。究極のフェアプレイといえますし、ミステリとしても非常に読み応えがある作品に仕上がっています。ただ、構成の見事さばかりが優先され、ミステリの仕掛けとしては特筆すべきものがない(一応どんでん返しはありますが)点に物足りなさも。

No.280 5点 N- 道尾秀介 2022/09/17 19:26
全6章からなる作品で、読む順番を変えることで6×5×4×3×2×1=720通りの物語が楽しめるというのだけど、これは誇大広告気味で実際はA→Bと読むとAの伏線がBで回収されるのに対してB→Aで読むとBの伏線がAで回収されて読み味がちょっと変わる程度。読む順番によってストーリーが一変する物語を期待していた身としてはかなり肩すかしでした。
その程度のことで行ったり来たりしながら読むのが面倒くさく、また、目的の章が探しやすいようにと紙の本の場合は章ごとに上下を反転しているのだけど、それゆえ章ごとで本を上下反転しなければならにのがまた面倒くさい。
さらに、あくまでも技巧中心なので物語としての面白さは(決して全くつまらないというわけではありませんが)二の次になっている感もあります。

筒井康隆の諸作品をはじめとして実験的なスタイルの作品自体は嫌いではないのですが、本作の場合はちょっと中途半端だった気がします。

No.279 6点 紙の梟 ハーシュソサエティ- 貫井徳郎 2022/09/17 10:53
日本の裁判では1人殺しただけではまず死刑になることはなく、2人でボーダーライン、3人殺せば概ね死刑判決が下されるというのがだいたいの目安です。本作は、そうした現状が改められて一人でも殺せば即死刑となった社会を描いた一種のシュミレーション小説だといえます。
以下各話の感想

「見ざる、書かざる、言わざる」
殺せば即死刑になったことで起きた残忍な犯行。家のセキュリティを強固なものにしたら空き巣が減った代わりに強盗が増えたといった類の話でまずは皮肉効かせた軽いジャブといった感じ


「籠の中の鳥たち」
クローズドサークルミステリーに死刑問題を絡めた点がユニーク。犯人の狂った動機が意表を突くホワイダニットものの傑作です。ただし、人を殺せば正当防衛でも死刑という設定はかなり無理があるように思う


「レミングの群れ」
最近話題になっているいわゆる無敵の人を死刑問題と絡めた点が秀逸。読み応えという点ではこの作品が一番

「猫は忘れない」
証拠不十分で逮捕を免れた男を法に代わって成敗する話ですが、これは最初からオチがみえみえでイマイチだった。


「紙の梟」
本作品集の核となる作品ではあるものの、恋人を殺された主人公が死刑の是非について延々と悩む話でミステリ的な面白さはほぼなし
主人公が出した結論も特に新味はなく面白身に欠ける。

まずまず面白かったのだけれど、最後の2篇がイマイチだったのが残念。

No.278 5点 幻告- 五十嵐律人 2022/09/17 08:13
裁判所書記官の主人公は学生時代に、自分が幼い頃離婚した父が強制わいせつの罪で有罪判決を受ける場面を傍聴席から目撃。数年後に偶然タイムリープの能力を得た彼は現代と過去を行き来しながら、父を救おうとするが...。

著者ならではの法に関する蘊蓄は興味深いものがありますし、SF+リーガルミステリーという組み合わせもユニーク。ただ、タイムリープに伴う時系列が理解しづらく、ミステリーとしてもSFとしても明快さに欠けているのが難。また、父親は悪人ではないけれど、半ば自業自得である点もなんだかもやもやします。

No.277 9点 復活の日- 小松左京 2022/09/17 07:38
春先に流行の兆しを見せ始めたイタリア風邪が5月には世界中で深刻な事態をもたらし、秋にはほぼすべての人類が滅んでしまう過程を克明に描いているのが怖い。個人的にはパンデミックもので一番好きな作品であり、日本沈没に並ぶパニック小説の大傑作。

No.276 7点 invert II 覗き窓の死角- 相沢沙呼 2022/09/16 21:19
150ページほどの中編と300ページ弱の長編の2本立て
中編の方は恒例の反転が炸裂。とはいえ、前2作と比べるとインパクトは弱め
一方、長編の方はアリバイ崩しがメイン。アリバイそのものは古典的なトリックですが、それを悟らせないミスリードがなかなかに巧妙。また、今まで犯人に対してマウントを取り続けていた城塚翡翠が今回初めて苦悩の色を深めていくのが印象的でもあります。
ミステリ部分はシリーズ中一番地味ながらも完成度は決して低くありません。謎解きと物語のバランスのとれた佳品です。

No.275 7点 此の世の果ての殺人- 荒木あかね 2022/09/16 20:59
小惑星激突による人類滅亡が近付く最中に事件の謎を追うというネタはベン・H ・ウィンタースの『地上最後の刑事』と同じですが、こちらは女2人終末紀行といった感じで独自の趣があるのがよい
ミステリとしては大トリックや驚愕のどんでん返しがあるわけではないけれど、巧妙なプロットで意外な真相を浮かび上がらせることに成功しています。
個人的に大好きな終末ものにミステリを掛け合わせ、破綻なくまとめ上げた点を評価してこの点数

No.274 6点 録音された誘拐- 阿津川辰海 2022/08/28 07:36
短編集『透明人間は密室に潜む』に収録されている「盗聴された殺人」の続編。
名探偵である大野糺が誘拐される話であり、探偵サイド・助手サイド・警察サイドと複数の視点から真相に迫っていく展開はテンポがよくてかなりの面白さです。要所要所で繰り出される巧みなロジックを用いた推理も本格ミステリとして読み応えがあります。
ただ、犯人隠蔽のために用いられたミスディレクションやトリックが単純すぎて直感的に犯人がわかってしまったのは残念。それから、裏で糸を引く犯罪請負組織の存在が個人的にあまり好きではありません。いろいろな業界に影響力があって関係者を手足のように動かせるという設定はちょっと都合よすぎるのではないでしょうか。さらに、『蒼海館の殺人』でさんざん言われた”人を自由に操りすぎ問題”はこの作品でも顕著です。
というわけで、十分に楽しめたのだけど、不満点も多いということでこの点数。

No.273 7点 俺ではない炎上- 浅倉秋成 2022/08/28 06:52
SNSがらみの犯罪とといったアイディアも無実の罪で追われる主人公といったプロットもそれら自体は目新しいものではありませんが、2つを合わせることで読み応え満点の令和型『逃亡者』に仕上がっています。視点を変えながら真相に迫っていく展開もスリリング。個人的には話題となった『6人の嘘つきな大学生』より好きな作品です。

No.272 4点 妖霧の舌- 竹本健治 2022/08/24 09:13
不穏で幻想的な雰囲気は悪くないものの、ミステリーとしてはあまりにも薄味すぎますし、かといって著者ならではのアンチミステリー的な趣向があるわけでもありません。読後かなり物足りなさを感じた作品です。

No.271 6点 エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン 2022/08/24 08:53
有名な「神の灯」は、建物が丸ごと消失する謎が魅力的ですし、ミステリとしての仕掛けもよく出来ています。しかし、本書を読む以前に建物消失と聞いた段階で「もしかしたらこういうトリックではないのかな?」と思い至ってしまったので高い点数はあげずらい。その辺りはカーの「青銅ランプの呪」、ホックの「長い墜落」、ロースンの「天外消失」などと同じかな。他の短編は堅実な面白さ。

No.270 7点 将棋殺人事件- 竹本健治 2022/08/23 08:07
ゲーム三部作のなかでもダントツで評判の悪い作品ですが、個人的には結構お気に入り。
竹本健治なので真相は最初から期待していなかったのがよかったのかもしれない。
五里霧中な謎にゾクゾクしましたし、噂を集めて分析するという趣向もスリリング。

No.269 5点 青春の証明- 森村誠一 2022/08/21 08:37
暴漢に襲われていた自分と恋人を救おうとした警官を見殺しにした贖罪として自ら警察官となって事件を追い続ける老刑事の話です。
証明三部作第2弾なのですが、著者の代表作でもある『人間の証明』や『野性の証明』と比べるとあまりにも地味。これだけ映画化されていないのもうなずけます。ただし、著者の脂が乗っていた時期に書かれた作品だけあって人間ドラマとしてはそれなりに読み応えあり。また、証明三部作といいながらもそれぞれ全く異なる作風であることから、続けて読むとギャップ的な面白さが味わえるかもしれません。

No.268 9点 竜の眠る浜辺- 山田正紀 2022/08/21 07:54
山田正紀の著作では『神狩り』と並んで一番好きな作品です。
人生に挫折した人々が町ごと白亜紀にタイムスリップしてそのなかで生きる希望を取り戻していく話なのですが、とにかく恐竜のいる日常が楽しげで読んでいてハッピーな気持ちになれます。山田正紀の長編小説でここまで明るくてユーモラスなのはこれくらいではないでしょうか?

No.267 8点 火神を盗め- 山田正紀 2022/08/21 07:41
落ちこぼれ集団が奮闘して大事を成し遂げるというベタな話ですが、SF作家ならではのアイディを盛り込んだスパイスリラーとしてかなり面白い作品に仕上がっています。落ちこぼれ社員たちが特技を活かして活躍するシーンが荒唐無稽ながらも楽しく、特に主人公とCIA工作員との対決は感動的ですらあります。山田正紀としては珍しくラストも爽やか。

No.266 7点 野性の証明- 森村誠一 2022/08/19 10:46
寒村での大量殺人という、まるで八つ墓村のような凄惨な事件の描写に引き込まれ、それに続く地方都市の首領と生き残りの少女を引き取った自衛隊員との暗闘も読み応え十分。加えて、皮肉な結末がインパクト大です。多少荒唐無稽な点は否めないものの、エンタメ性の高さでは著者の代表作である『人間の証明』を上回る力作です。

ちなみに、高倉健&薬師丸ひろ子主演の角川映画とは全くの別物で、原作では主人公が自衛隊と闘ったりはしません。

No.265 6点 ブラックサマーの殺人- M・W・クレイヴン 2022/08/19 04:00
6年前に父親に殺されたはずの女性が突然、姿を現すオープニングのインパクトが強烈で一気に引き込まれました。謎を追うポー刑事とティリー分析官のコンビも魅力的。
ただ、トリックに無理があるのが残念。ハイテクな衣を着せつつも、根幹にあるのは古典的な×っ××××トリックであり、そんなに都合よく×っ××××は見つからないだろうと思ってしまう。

No.264 3点 どちらかが彼女を殺した- 東野圭吾 2022/08/17 09:35
試みとしては面白いとは思うけれど、探偵役の推理にカタルシスを覚えることを期待してミステリーを読んでいる身としては肩透かし以外の何ものでもなかった。
個人的には自分の推理がことごとく外れて予想外の真相が提示される作品こそが至高のミステリーだと考えているので、自分で真相にたどり着かなくてはならない作品はどうにも物足りない。

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文生さん
ひとこと
本格脳なので本格度が高いほど評価も高くなります。ただし、本格好きと言ってもフェアプレーなどはどうでもよい派なのでロジックだけの作品は評価が低めです。トリックやプロットを重視した採点となっています。
好きな作家
ジョン・ディクスン・カー、土屋隆夫、竹本健治、山田正紀
採点傾向
平均点: 5.89点   採点数: 423件
採点の多い作家(TOP10)
ジョン・ディクスン・カー(18)
アガサ・クリスティー(17)
横溝正史(11)
エラリイ・クイーン(11)
カーター・ディクスン(11)
西尾維新(10)
森村誠一(9)
竹本健治(9)
東野圭吾(9)
米澤穂信(9)