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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
処刑台広場の女
レイチェル・サヴァナクシリーズ
マーティン・エドワーズ 出版月: 2023年08月 平均: 5.80点 書評数: 5件

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早川書房
2023年08月

No.5 7点 HORNET 2023/10/09 18:07
 ある殺人事件の捜査で、警察の捜査の誤りを正し、真犯人を明らかにした高名判事の娘、レイチェル・サヴァナク。物語は、そのレイチェルがある男性に殺人の自白を書かせ、自殺を強要する場面で幕を開ける。物語の主人公、「名探偵」役であるはずのレイチェルの犯罪めいた行為。この女は、名探偵か、悪魔か。読者を最後まで惑わせる、ダイヤモンド・タガー賞受賞作品。

 というような始まり方なので、何が本当で何が誤りなのか、分からない不安定な心地で読み進めることになるが、それが功を奏している。実質的な主人公的存在、記者・ジェイコブ・フリントの目線がちょうどその読者目線と重なる感じで、リーダビリティに寄与している。随所で挿入される「ジュリエット・ブレンターノの日記」による企みは、聡明なミステリファンならら物語中盤くらいでうすうす気づくとは思われるが、それを見越してもなかなか読み応えのある一作だった。

No.4 5点 ボナンザ 2023/10/03 18:00
宣伝に騙された感はあるが、それを意識しなければ結構面白い。
何度も書いた通り日本と欧米で本格ミステリに思うものが今では違うんでしょうね。

No.3 6点 人並由真 2023/10/01 11:33
(ネタバレなし)
 2018年のイギリス作品。
  
 作中の時代設定は1930年だそうだが、とても同時期のサンフランシスコの空の下でサム・スペードがマルタの鷹を追っかけてるとは思えない。
 19世紀末か20世紀初頭のお話じゃろ? という感じ。

 上海から帰って怪人ハントを始めた時期の明智小五郎の役回りを、彼でなく黒蜥蜴が務めているような形質の、ミステリスリラー。
 文生さんのレビューの通り、どことなくルパンものっぽい<極悪VS正義の悪>ものの趣もある。

 それなりに作りこんだ話は最後まで飽きはしなかったが、通読して文庫で580ページと長めなので、その長丁場に見合う面白さを提供してもらえたかというと、かなり微妙な感じ。あと、この大技は、さすがに見え見えだとは思う。
  主人公たちが追う裏世界の悪事も、悪い意味でありきたりだし。

 こういう路線なら路線でいいんだけど、もうちょっとコンデンスな作りにしてもらいたい。まあこの第一作で作者はそれなりにやりたいことを吐き出しちゃったんじゃないかと思うから、シリーズ二作目以降はもうちょっと引き締まるものを期待するけれど。

 しかしよく人が死ぬ作品だな。SRの会の「乱歩賞かるた企画」の際に
 某・乱歩賞受賞作品をイメージして作られた「め」の読み札
「めんどうだ、こいつもついでに殺しちゃえ」
 を思い出した(笑)。

No.2 5点 nukkam 2023/09/09 08:02
(ネタバレなしです) 私が英国のマーティン・エドワーズ(1955年生まれ)を知ったのは評伝「探偵小説の黄金時代」(2005年)が国内で翻訳出版された時です。黄金時代の本格派推理小説は私が1番好きなミステリーですし、当サイトで人並由真さんのご講評を読むとますます読みたい気持ちはありますが未読のミステリー小説を多数抱えている身分のため後回ししている内に2018年発表のレイチェル・サヴァナクシリーズ第1作である本書が翻訳出版されました。作中時代を1930年に設定していることから黄金時代を彷彿させる本格派を期待していたのですが全く違いました。ハヤカワ文庫版の巻末解説では本格ミステリと紹介されてますが、少なくとも読者が犯人当てに挑戦できるタイプの作品ではありません。レイチェルは名探偵の設定ですが捜査や推理している場面はほとんどなく、見つけた犯人を破滅に追い込んでいるのではと疑われる人物として描かれています。事件を捜査している新聞記者や私立探偵も被害者になり、雇われた(らしい)ならず者による暴力場面もあったりしています。はじめはばらばらの単独事件と思わせて後半になると複雑でスケールの大きい悪意が浮かび上がるところはジョン・ディクスン・カーの1940年代の某作品を連想させます。但しカーは本格派向きと思えないネタを謎解き伏線を張って強引に本格派として仕上げましたが、本書は推理でなく主に自白で真相を説明しているスリラー作品として着地しています。

No.1 6点 文生 2023/08/22 05:30
1930年のロンドンを舞台にした波乱万丈の物語はなかなかの面白さです。特に、名探偵レイチェル・サヴァナクの謎めいたキャラクターが素晴らしい。
ただ、出版社がさかんに喧伝しているような謎解きミステリとはどうしても思えない。確かに、冒頭から名探偵が登場し、密室での奇妙な自殺があり、ショー上演中の奇怪な焼死事件ありと古典的な探偵小説のガジェットはふんだんに盛り込まれています。しかし、それらを起点とした推理が始まることはありませんし、あっと驚くようなどんでん返しやトリックも皆無です。そもそも、犯人は最初から明らかで、その犯罪の全貌が次第に明らかになっていくプロセスに本作の面白さがあります。そのプロセスも謎解きとは明らかに異なるもので、どちらかといえば、アルセーヌ・ルパンシリーズのようなスリラーもしくはクライムノベルといった方が近いかもしれません。一応、レイチェルの過去のエピソードにどんでん返しが用意されていますが、ミステリーを読みなれていれば簡単に真相を見破ることができるでしょう。そういうわけで、十分に面白い作品ではあるのだけど、無駄に本格を期待させた点がマイナスでトータル6点といった感じです。


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マーティン・エドワーズ
2023年08月
処刑台広場の女
平均:5.80 / 書評数:5