皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
文生さん |
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平均点: 5.86点 | 書評数: 500件 |
No.480 | 9点 | テスカトリポカ- 佐藤究 | 2025/03/24 04:59 |
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麻薬カルテルの抗争に敗れてメキシコから脱出したバルミロ、臓器ブローカーの末永、そして、人間離れした身体能力を誇る土方コシモなど、悪党どもキャラが恐ろしくも魅力的。そんな彼らが織りなす血と暴力の物語は現代を舞台にしながらどこか神話的雰囲気を纏っており、引き込まれていきました。 |
No.479 | 8点 | 目には目を- 新川帆立 | 2025/03/23 08:22 |
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新川作品といえばフェミニズムの観点から女性差別を描いた作品が多かったわけですが、今回のテーマは少年犯罪。人を死に追いやった5人の少年の心理を主人公の丹念な取材によって浮かび上がらせており、善悪の二元論で安易にカテゴライズしない姿勢が素晴らしい。加えて、最後のどんでん返しにも驚かされますし、やるせなさのなかに一筋の希望が紡がれるラストも感動的。
一皮むけた感のある著者の最高傑作です。 |
No.478 | 6点 | まず良識をみじん切りにします- 浅倉秋成 | 2025/03/22 09:32 |
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奇妙な味的な短編集
「そうだ、デスゲームを作ろう」 SFチックなスケールの大きな話になりがちなデスゲームを小市民的なスケールで描いたのがユニーク。 「花嫁がもどらない」 花嫁がお色直しから戻ってこない理由を推理する推理合戦ものかと思いきや、推理にかこつけた本音大暴露大会になっているのがブラックコメディとして秀逸です。 「ファーストが裏切った」 個人的ベストがこれ。2軍あがりのファーストが利敵行為を繰り返す訳のわからなさがシュールで面白い。 他の2編はピンとこず、トータルで6点くらい |
No.477 | 4点 | どうせそろそろ死ぬんだし- 香坂鮪 | 2025/03/18 11:20 |
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第23回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作。
余命宣告を受けた人間が集う山奥の別荘で怪死事件が起きるという設定はなかなかユニークで、さまざまなトリックがちりばめられているのも好感が持てました。しかし、肝心の仕掛けが雑過ぎます。まず、医者としての知識を活かした医療トリックが用いられますが、これがあまり面白みが感じられず。また、なぜ余命がいくらもない人間の命を狙うのかというホワイダニットものとしても大した意外性はありません。しかし、この辺りはあくまでもサブであり、メインの仕掛けではないので大きな瑕疵ではないでしょう。より問題なのは以下の点です。 ※以下ネタバレ まず、冒頭で探偵と助手が登場しますが、語り手が助手ではなく、探偵なのがいかにも不自然です。探偵と助手が同時に登場すれば語り手を務めるのはまず助手です。凡人である助手の目から探偵の個性や変人ぶりを語ってこそミステリーとして盛り上がるのであって、これを逆にすると助手の存在意義が薄れてしまううえに探偵の天才ぶりを効果的に演出しずらくなってしまいます。したがって、あえて逆にしているというのは何かそこに仕掛けがあるのだなと、ミステリーを読み慣れていればすぐに気付いてしまいます。 しかし、これはまだいいでしょう。怪しいだけでどんな仕掛けなのかはわからないのですから。真の問題点はここからで、探偵は物語中盤で亡くなるのですが、文章は一人称のまま継続されます。もしかしたら、語り手が探偵から助手にバトンタッチされたのかなとも考えましたが、明らかに助手の視点ではありません。これってどう考えても探偵視点のままだよなと思っていたら案の定、探偵は死んだふりをしていただけで生きていました。なぜこんなバレバレの構成にしたのか?そこが最大の疑問点です。 以上、意欲作ではあるのだけど、それが完成度に結びついていないという感じですね。 |
No.476 | 5点 | 雷龍楼の殺人- 新名智 | 2025/03/08 08:22 |
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冒頭で犯人の名前を堂々とばらし、孤島にある館での連続密室殺人でさんざん期待をもたせておいてのちゃぶ台返し。個人的に嫌いではありません。すべてが反転する仕掛けは大好物ですし。しかし、惜しむらくはトリックの使い方が悪すぎます。大掛かりなトリックに対して得るものが圧倒的に少ない、というか、そんな方法で目的が達成できるとはとても思えない。頭がよさそうに振舞っている犯人がバカにしか思えず、その点が大きな減点対象です。 |
No.475 | 6点 | 踏切の幽霊- 高野和明 | 2025/03/02 17:40 |
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前半の正統派心霊ホラーの怖さと、後半の哀愁漂う泣ける社会派ミステリー。どちらもよく出来ていて読み応え十分なのですが、2つの魅力が相乗効果でより面白くなっていくというより、個人的には2つの良さが相殺されているように感じたのが残念です。自分の趣味からいうと、前半の心霊ホラーの路線のままホラーミステリーとして着地した方が良かったかも。 |
No.474 | 6点 | 時空犯- 潮谷験 | 2025/02/22 07:00 |
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時間が巻き戻るという設定は面白く、SF小説としてもなかなか楽しめる作品に仕上がっています。加えて、謎解きも極めてロジカルに行われており、本格ミステリとしても悪くありません。ただ、壮大な設定の割にSFとしての決着があっけなく、本格ミステリの仕掛けもこじんまりしている点には物足りなさを覚えました。 |
No.473 | 7点 | 世界でいちばん透きとおった物語2- 杉井光 | 2025/02/18 13:55 |
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レジェンド級の仕掛けが炸裂する前作はもはや別格的な存在ですが、本作もなかなか凝った作品で大いに楽しめました。王道的な本格ミステリが好きな人なら、むしろ前作よりこちらの方に高い評価を下す可能性もあるのではないでしょうか。まず、作中作である未完の遺作ミステリーが非常に面白い。先が気になると同時に、その真相に辿り着かんとする主人公サイドの調査やディスカッションにも引き込まれました。真相自体も意表を突くもので、現実世界での謎とリンクしているのも素晴らしい。ただ、問題の未完ミステリーが途中から展開が雑になり、無理やり話を畳んだ感があるのは少々残念。話の構成上仕方がないとはいえ、中編ぐらいの長さにすればもっと面白くなったのではなった気がします。 |
No.472 | 6点 | 図書館に火をつけたら- 貴戸湊太 | 2025/02/11 13:21 |
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市立図書館で火事が発生し、火元の地下書庫で身元不明の焼死体が発見される。しかも、頭部に殴られたあとがあるにも関わらず、現場は密室で...。
密室殺人ものですが、トリック自体は大したことはありません。メインはなぜ現場を密室にしたのかというホワイダニットと図書館に残っていた人間のうち誰が犯人かというフーダニットです。そして、その答えを導く推理がなかなか凝っています。関係者を一堂に集めて犯人ではありえない人物を一人一人除外していく消去法推理なのですが、容疑から逃れるために偽の手がかりを残すといった後期クイーン問題まで踏み込んで推理しているのが面白い。それに、ホワイダニットがフーダニットと密接に繋がっているという趣向も秀逸です。ただ、この推理はあくまでも犯人が論理的に正しい行動を選択し続けることが前提になっており、愚かな行動をとる可能性は視野に入れていないのが苦しいところ。それに、共犯の可能性も最初から除外して何故か単独犯である前提で推理が進んでいきます。加えて、証拠がないので推理をぶつけて犯人を揺さぶってみようというのも、素人探偵ならともかく、刑事が行うには乱暴すぎです。 |
No.471 | 4点 | バスカヴィル館の殺人- 高野結史 | 2025/02/05 00:19 |
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孤島に集めた人々を実際に殺してその犯人を当てるリアル犯人当て推理ゲームの第2弾。
前作の『奇岩館の殺人』は殺され要員として雇われたた主人公の反撃などによって当初のシナリオが狂い、運営側がなんとか辻褄を合わせようとしてぐだぐだになっていくところにブラックコメディとしての面白さがあったのですが、2作目で似たようなことをやられてもすでに飽きてしまってさほど面白みを感じられず。もちろん、まったく同じというわけではなく、今作では主人公が運営側に回っているという違いはあります。加えて、ミステリーの仕掛けは前作以上にいろいろ用意されているものの、マンネリ感を覆すには至っていません。そもそも、前作の面白さというのはミステリーの仕掛け云々ではなく、あくまでも毒のある笑いにあったことに改めて気づかされました。そういう意味では、さんざん殺人計画に加担しておいて急に良い人ぶる展開があるのもマイナス要因です。「いやいや、あなたの立ち位置で今さら良い人ぶるのは無理があるでしょ」って感じで。 |
No.470 | 6点 | 幻想三重奏- ノーマン・ベロウ | 2025/01/29 12:02 |
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トリック自体はいまとなってはさほど驚くべきものではないものの、「人が消え、部屋が消え、路地が消える」という不可能犯罪乱れ打ちでしかも、だんだんエスカレートしていく展開がなかなか面白い。
以下ネタバレ 本作の発表は1947年でこれは短編ミステリーの傑作『天外消失』が発表されたのと同じ年だけど、両者の消失(電話ボックスから人が消える&路地が消失)トリックが原理的に結構似ている。もし、本作の方が先なら発表当時は画期的なトリックだったのかも |
No.469 | 6点 | 大樹館の幻想- 乙一 | 2025/01/19 09:33 |
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館もの、連続殺人、迫り来る山火事、華麗な大トリックの数々と設定だけを並べると面白そうですが、実際は非現実的な展開にサスペンスは盛り上がらず、複雑な機械トリックには納得しがたくとどうにもパッとしません。その一方で、幻想的な雰囲気は悪くなく、図解入りのトリック解説もガジェットとしてはワクワクするものがあります。したがって、純粋な本格ミステリとしては高い点数はあげられませんが、ミステリー風味の幻想小説としてはそれなりに楽しませてもらいました。 |
No.468 | 8点 | 有栖川有栖に捧げる七つの謎- アンソロジー(出版社編) | 2025/01/12 13:42 |
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有栖川有栖のデビュー35周年を記念して、現在脂ののりきった一線級のミステリー作家7人に有栖川作品の二次創作をしてもらおうという企画ものです。いわばお遊び企画なのですが、全員予想以上にガチでひびります。
〇青崎有吾「縄、綱、ロープ」 わずかな手がかりからロジカルな推理によって真相を見抜く正統派パズラーですが、作風から火村とアリスの掛け合いまで火村シリーズそのもの。本家の短編集に黙って収録してもおそらく誰も気が付かないのではないでしょうか。 〇一穂ミチ「クローズド・クローズ」 火村とアリスが女子高を訪れ、JK相手に進路相談を行うのがユニーク。日常の謎ものですがミステリーとしての出来はそこそこ。 〇織守きょうや「火村英生に捧げる怪談」 一つ一つのネタは小粒ですが、青年が語る恐怖体験を火村が次々と合理的に説明していくのが小気味良い。 〇白井智之「ブラックミラー」 火村のキャラに違和感はあるものの、アリバイを巡る物語はミステリーとして読み応えあり。エグいトリックは白井作品ならでは。 〇夕木春央「有栖川有栖嫌いの謎」 青年は有栖川作品をすべて読破しているほどの熱心な読者にもかかわらず、なぜ全作品ボロクソに酷評したのかというホワイダニットもの。謎の奇抜さと意表を突く真相が面白い。 〇阿津川辰海「山伏地蔵坊の狼狽」 元ネタは『山伏地蔵坊の放浪』という渋いセレクト。二代目地蔵坊の微妙なポンコツさ加減が面白く、パロディとして秀逸です。 〇今村昌弘「型取られた死体は語る」 ダイイング・メッセージの真相は今ひとつ明確さに欠ける気がしますが、1つの謎を巡って推理研のメンバーが喧々諤々の議論をするさまは、いかにも学生アリスシリーズといった感じで、読んでいて楽しい作品でした。 個人的ベストは「有栖川有栖嫌いの謎」。次点で「縄、綱、ロープ」と「ブラックミラー」といったところでしょうか。 |
No.467 | 7点 | 死体で遊ぶな大人たち- 倉知淳 | 2025/01/08 18:18 |
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なかには無理のあるものもあるものの、死体を用いたトリックという縛りのなかであの手この手とバリエーション豊かな仕掛けが飛び出してくるのが楽しかったです。ベストは『屍人荘の殺人』の本歌取りに挑戦した「本格・オブ・リビングデッド」ですが、不謹慎なロジックをこねくり回す「それを情死と呼ぶべきか」も面白い。最後の表題作はトリック的にちょっと物足りない代わりに、事件解決後のサプライズに遊び心があり、全体的に満足度の高い短編集でした。 |
No.466 | 5点 | 猫の耳に甘い唄を- 倉知淳 | 2025/01/04 15:29 |
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売れないミステリー作家の元にファンレターと犯行予告が同時に届き、ファンレターの送り主が作家の作品の見立てによって殺されていく話。
物語は編集者や作家の弟子や刑事たちとのミステリー談義や業界の裏話などを中心に進んでいき、その部分は結構楽しい。 ただ、これも『星降り山荘の殺人』と同じで読者への忠告がくどすぎ。そのために星降り山荘と同じように真相が大筋で分かってしまった。いずれにしても、話は面白いのだけど、ミステリーの仕掛けとしてはそれほど目新しさもないので高い点数はあげられないかなあ |
No.465 | 6点 | 伯爵と三つの棺- 潮谷験 | 2024/12/28 13:26 |
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フランス革命の余波を受けて激動の時代を迎えたヨーロッパ。その小国で起きた殺人事件を歴史的背景を交えて描いた作品です。特殊設定ミステリー専門の作家というイメージが強かった著者にしては王道的な作品であり、歴史ミステリーとしてかなり読み応えがありました。18世紀末の探偵の描写も興味深く、完成度の高い良作といえます。ただ、肝心の事件やトリックが古典的というか大時代的すぎて個人的にはちょっと好みと合わず。 |
No.464 | 7点 | トレント最後の事件- E・C・ベントリー | 2024/12/26 18:58 |
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現在の読者からすると驚くような仕掛けがあるわけではないのですが、当時の探偵小説のお約束を逆手に取った作品で、そこに歴史的意義を感じます。300ページほどの比較的短い話で、テンポの良さと上質なユーモアに引き込まれてサクサク読めるも好印象です。ただ、他の人も指摘しているように「ミステリーに恋愛要素を加えた画期的な作品」という昔からの有名な評論はヒント外れにしか思えない。 |
No.463 | 8点 | ウナギの罠- ヤーン・エクストレム | 2024/12/19 04:49 |
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前半は登場人物の多さも相俟って冗長に感じてしまいますが、後半に入って密室に焦点が当たってからは俄然面白くなります。密室トリックのあらあゆる可能性についてドゥレル警部が自問自答するシーンにわくわくしますし、それらの想像をはるかに超えたぶっとんだトリックも面白い。それに現場を密室にした動機が秀逸です。本作は1967年のスウェーデンの作品ですが、こういうのを読むと世界にはまだまだ本格ミステリの傑作が埋もれているのではないと期待してしまいます。 |
No.462 | 4点 | 弁護側の証人- 小泉喜美子 | 2024/12/18 04:54 |
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当時としては画期的なトリックだというのはわかるのですが、そのトリックにまったくひっかかることなく、最初から真相がみえみえだったのはつらいところ。しかも、それはトリックを見破ったということではなく、『皇帝のかぎ煙草入れ』と同じく素直に読みすぎてミスリードを総スルーしてしまった結果という。そのうえで、文章が読みにくくて話もつまらなかったので評価はどうしてもきびしいものになってしまいます。 |
No.461 | 5点 | 赤ずきん、アラビアンナイトで死体と出会う。- 青柳碧人 | 2024/12/14 05:55 |
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昔話ミステリの第6弾であり、同時に、指輪の魔人にアラビアの国に連れてこられたのをきっかけに赤ずきんがアラビアンナイトの世界で冒険を繰り広げる赤ずきんシリーズの第3弾です。一連のシリーズの元祖たる『むかしむかしあるところに、死体がありました。』ではあくまでも元ネタである特定の昔話の設定を用いてトリックを仕掛けていたのに対し、本作はトリックに使えそうなアラビアンナイトのエピソードをつぎはぎしている感が強い。そのため、ご都合主義に感じられ、トリックが明らかになった際の驚きはほぼ皆無です。特に、ランプの魔人を利用したトリックなどはほぼなんでもありで、いただけません。一方で、原典をなぞってシェヘラザードが残忍な王に赤ずきんの冒険を話聞かせていくプロットは(ミステリの仕掛けとしては大したことはないものの)展開としてなかなかユニークでそれなりに楽しめました。 |