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E-BANKERさん
平均点: 6.01点 書評数: 1812件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.32 7点 華麗なる誘拐- 西村京太郎 2009/08/20 22:51
私立探偵左門字シリーズ。
本シリーズは「誘拐もの」のバリエーションが豊富ですが、本作も大胆不敵なプロットが特徴。
~「日本国民全員を誘拐した。身代金5,000億円を支払え」・・・首相官邸に入った1本の電話。『蒼き獅子たち』と名乗った男は、3日後に人質を殺すと通告した。果たして、新宿の喫茶店で若い男女が死亡した。死因はシュガーポットに混入された青酸カリによる中毒死。偶然現場に居合わせた私立探偵・左門字進と妻の史子は、捜査へ協力することに。だが、警察をあざ笑うかのように北海道で男が殺され、ついには航空機爆破事件まで起きてしまう! 犯人の狙いとは何なのか?~

やっぱり、初期の作品はよくできてます。何よりプロットが素晴らしい。
こんなプロットは最初にやったもん勝ちで、2度と同じものは使えないですからねぇー
途中、犯人グループと左門字の知恵比べ的な展開もかなり面白い。
大胆不敵な犯行に打つ手なしと思われた矢先、左門字の冷静沈着な推理が冴え渡る・・・結構シビレます。
中盤以降はスピーディーな展開で、飽きることなくラストまで一気呵成!
十分に楽しめる作品でしょう。
(姉妹編に短編ですが、「1千万人誘拐計画」という作品もあります。こちらは東京都民全員が誘拐されちゃいます。)

No.31 6点 弥勒の掌- 我孫子武丸 2009/08/20 22:33
文芸春秋社の本格ミステリー・リーグでの発表作。
作者らしい「仕掛け」が楽しめるかどうかが鍵でしょう。
~愛する妻を殺され、汚職の疑いをかけられたベテラン刑事・蛯原。妻が失踪して途方にくれる高校教師・辻。事件の渦中に巻き込まれた2人は、やがてある宗教団体の関与を疑い、ともに捜査を開始するのだが・・・驚天動地の結末があなたを待ち受ける~

とにかく、ラストの反転の衝撃に賭けた作品。
「新興宗教」という素材はミステリーでは頻出しますが、この素材をどのように扱うかが作者の腕の見せ所という奴かもしれません。
本作では、さすがに我孫子氏らしい「騙し」のテクニックが味わえる。
そういう意味では、前半から終盤にかけては、長々と作者のミスリードに嵌っていく過程を踏んでいるようなものです。
ただ、ちょっと衝撃度が少ないのが玉に瑕。
「新興宗教」を持ち出してきている段階で、何となく騙しの方向性に感付いてしまいました。
別に面白くないわけではなく、それなりに楽しめる作品とは言えるでしょう。
(誉めてない?)

No.30 9点 無間人形 新宿鮫IV- 大沢在昌 2009/08/20 22:26
新宿鮫シリーズのパート4。
何と、直木賞受賞(本作だけというよりシリーズ通してということですが)の記念すべき作品。
~新宿の若者たちの間で、舐めるだけで効く新型覚せい剤が流行りだした。薬を激しく憎む新宿署刑事・鮫島は執拗に密売ルートを追う。一方、財閥・香川家の昇・進兄弟の野望、薬の独占を狙う藤野組・角の策略、麻薬取締官の露骨な妨害、そして恋人・晶は昇の手に・・・~

いやぁー、「直木賞」受賞に恥じないだけの、圧倒的な迫力!これぞ「新宿鮫シリーズ」でしょう。
今回も、登場人物の造形が冴えてますねぇー
「アイスキャンディー」という新型覚せい剤に人生を翻弄されていく人々・・・特に香川兄弟と晶の元バンドメンバー。
割と静かに流れていく前半とは裏腹に、中盤からはまるで激流に飲み込まれるように次々と登場人物たちが「ある場所」へ集まっていく・・・
どうしようもない「運命」に巻き込まれる人々と、運命に1人抵抗し、必死な捜査を続ける孤高の男・鮫島。
やっぱりカッコいいですよ。
お勧め!
(今回は晶もかなりカッコいい!)

No.29 5点 生首岬の殺人- 阿井渉介 2009/08/18 22:03
警視庁捜査一課事件簿シリーズ。
引き続き不可能趣味溢れるプロットが冴えてますが・・・
~都内の住宅街で偶然カメラマンが写真に捕らえた、男の生首をくわえた黒い犬の姿。そして時を同じくして、女性銀行員の誘拐事件が発生。犯人の要求は、指定する5つの会社に融資を行うこと。各社は倒産寸前という共通点のほか、何のつながりも見当たらない。奇妙な2つの事件の、点と点が結びついた結果の先にあるものとは?~

相変わらず重~い作風です。
阿井氏の作品といえば、以前の「列車シリーズ」から一貫して不可能趣味と背後に横たわる過去からの怨恨・・・といったところでしょうが、
本作もそれに倣ってます。
ただ、本シリーズになって、大胆な物理トリックはさすがに鳴りを潜め、現実的な路線にややシフト。
今回は、アリバイトリックがメインですが、従来からの手法を一捻りしてあり、その点だけが救いでしょうか。
全体としては、ちょっと低調な作品かもしれませんねぇー
(真犯人の執念に脱帽!)

No.28 5点 展望塔の殺人- 島田荘司 2009/08/18 21:46
短編集。久しぶりに再読しました。初読のときは「とても良質な短編集」だったという覚えがあるのですが、今回はなにか食い足りないような感覚でした。
中では表題作が一番良いと思うのですが、動機については「どうかなぁ」という気がします。他の作品も初読時感じたほどの面白さは味わえませんでした。時代が変わったからですかねぇ・・・

No.27 7点 ダイスをころがせ- 真保裕一 2009/08/18 21:36
作者らしい小気味いい展開が光る作品。
名付けるなら「青春選挙小説」!
~事業失敗の責任を押し付けられ嫌気がさし、総合商社を辞した駒井。元中央新聞記者で、故郷・静岡県秋浦市からの衆院選立候補を決意した駒井の高校陸上部での親友にして恋敵、天知。2人は理想とある目的とを胸に、徒手空拳でコンビを組んだ。夢と情熱にほだされて、応援に立ち上がった同級生たち。
私たちが手にしているダイスを今こそ転がそう。この国を変えるために、そして自分を変えるために!~

まぁ、面白いですよ。さすがです。
「選挙」という身近なようで、身近でないテーマをうまい具合に生かして、瑞々しい青春エンタメ小説に仕上げてます。
選挙というフィルターを通すと、人のいろいろなエゴイズムとか考え方が浮かんでしまうところもウマイ。
途中、さまざまな紆余曲折を経て、いよいよ衆院選本番が始まる・・・盛り上げ方も心得てます。
「34歳」という中途半端な年齢の男が、自信を取り戻し、本当の男に成長していく姿も妙に共感。
ミステリーとは言えないでしょうから、評価としてはこんなものですが、読んで損のない1冊と言えるでしょう。
(また、織田裕二主演で映画化されるかと思ってましたが・・・)

No.26 8点 悪霊館の殺人- 篠田秀幸 2009/08/16 00:44
弥生原公彦シリーズ。
横溝作品に深く影響された作者こだわりのシリーズ第1作。この後10作近くシリーズは継続されますが、本作がNO.1の出来なのは衆目が一致するところ。
平成5年7月下旬に始まり、ひと夏かけて不気味に進行した挙句、9月14日の深夜、ある悲劇とともに突如として終結した「小此木家霊魂殺人事件」。白マスク男、密室殺人、交霊会、幻影の塔・・・次々と現れる謎に挑む、精神科医にして名探偵の弥生原公彦。複雑にして因縁絡む人間模様に潜む遠大なる
罠とは何か?・・・実に魅力的です。
とにかく、過去のいろいろな作家の「いいとこどり」をしたような作風。であれば、当然素晴らしい作品になっているはず。(「いいとこどり」ですから)
これは別に皮肉でもなんでもなく、確かに重厚かつサプライズ十分な作品に仕上がってます。おまけに「読者への挑戦」までも挿入するサービスぶり・・・
まさに、平成の現世に、古き良き探偵小説を蘇らせたいと願った作者の思いは叶ったといっていいでしょう。
特に、ラストの真犯人指摘のシーンは、良質なミステリー特有の緊張感、何ともいえないワクワク感を満喫できます。
というわけで、マイナーな作家ではありますが、本格ファンであれば、是非手にとって欲しい作品という評価となります。
(ワトスン役の築山の造形がちょっとウルサイ。あまりにも凡人に書かれているので、読んでてちょっとかわいそうになる。石岡和己と同じですね)

No.25 7点 双頭の悪魔- 有栖川有栖 2009/08/15 23:10
学生アリスシリーズの3作目であり、最高傑作との呼び声高い作品。
火村&アリスシリーズより、数段勝るロジックが魅力的です。
~四国山中に孤立する芸術家の村へ行ったまま戻らないマリア。英都大学推理研のメンバーは大雨の中、村への潜入を図るが、程なく橋が濁流に呑まれて交通が遮断。川の両側に分断されたマリア・江神とアリス・・・双方が殺人事件に巻き込まれ真相究明が始まる。~というストーリー。
本作最大の魅力は、何といっても3回も繰り返される「読者への挑戦」。
それだけロジックに自信があるということなのでしょうし、江神が語る解決編は、E.クイーンを彷彿させる「これぞ王道パズラー小説」だと思います。
伏線の貼り方もフェアですし、フーダニットの魅力が十分に味わえる良作という評価でいいでしょう。
ただし、読む前に「ハードル」を上げすぎたところがあって、その辺やや評価が辛くなってしまったようです。
個人的には、前作「孤島パズル」の方がより好きかな。
(作者には、是非火村シリーズよりも、こちらをメインに書いて欲しいんですけどねぇ・・・)

No.24 6点 99%の誘拐- 岡嶋二人 2009/08/15 23:00
「誘拐ミステリー」の白眉とも称される作品。
第10回吉川英治文学新人賞受賞作。
~末期がんに侵された男が、病床で綴った手記を残して生涯を終えた。そこには、8年前息子をさらわれたときの記憶が書かれていた。そして12年後、かつての事件に端を発する新たな誘拐が行われる。その犯行はコンピュータによって制御され、前代未聞の完全犯罪が幕を開ける~

面白くないわけではない・・・という感想。
コンピュータで完全制御された誘拐という発想は(この当時は)斬新だったでしょうし、面白い視点だと思います。
ただ、途中で事件の構図がほぼ分かってしまうというのは如何なものかとは思いますね。
欲張りかもしれませんが、もう一捻りあればなという気持ちにさせられました。
(99%というのがミソ。いいタイトルですね)

No.23 5点 魔術王事件- 二階堂黎人 2009/08/15 22:42
二階堂蘭子シリーズ。
怪作(?)「双面獣事件」と同時進行という設定で、日本の南北に分かれた両事件を股にかけて蘭子が大活躍?します。
~時は昭和40年代。所は北海道・函館。呪われた家宝として、名家宝生家に伝わる"炎の眼”"白い牙”"黒の心”。この妖美な宝石の略奪を目論み、宝生家の人間たちを執拗なまでに恐怖へと引き擦り込む、世紀の大犯罪者「魔術王」。密室殺人、死体消失、大量猟奇殺人。名探偵二階堂蘭子が、冷静沈着かつ
美的な推理で偽りの黄金仮面に隠された真犯人に挑む~
いやはや、まさに「乱歩&二十面相」作品へのオマージュ全開です。
「ロジックよりもトリック」と公言して憚らない作者ですから、現実性云々は脇にどけても、古きよき、おまけにザワザワした恐怖感を煽るようなグロい殺人事件のオンパレード・・・並みの読者では面食らってしまうこと請け合いです。
ただねぇ・・・これまでの蘭子シリーズはここまでヒドくなかったですし、曲がりなりにも読者に「アッと」いわせるプロット&ロジックがあったはず・・・
前作「恐怖のラビリンス」から続く、名探偵対怪人という構図は、フーダニットという本格ミステリー最大のプロットを犠牲にしているわけですから、作者の意図するところがちょっと理解できないですねぇ。(まぁ共犯者探しというフーダニットは味わえますが)
とにかく、蘭子シリーズがおかしくなった作品という位置づけで間違いなし。
(全10作と公言していた「蘭子シリーズ」ですが、果たして今後どのようなクロージングが用意されているのか? 期待と不安が半々。)

No.22 9点 火刑都市- 島田荘司 2009/08/15 12:34
吉敷刑事の上司、中村警部が活躍する珍しい初期作品。
「社会派」と称されることも多い作品ですが・・・
~東京・四谷の雑居ビルの放火事件で若い警備員が焼死する。不審な死に警察の捜査が始まった。若者の日常生活に僅かに存在した女の影・・・。女の行方を追ううちに次の放火事件が発生した。今度は赤坂。そして、現場には「東京」という謎のメッセージが残される~

今回の本筋は、東京の中心部で起こった連続放火事件と、ある1つの殺人事件。特に、放火事件の方は、まるで何かを象徴するように、地図上で「円」を描きながら続発していきます。
そして、現場に残された犯人のメッセージ「東京」(※本当は「京」の字が違うんですよねぇ・・・ただし、この字は変換できない!)。
島田氏のライフワークとも言える「都市論」、特に「江戸」と「東京」という2つの都市の歴史、相違点に気付いたとき、真犯人が浮かび上がります。
本作は、いわゆる「社会派的作品」と称されることが多いわけですが、確かに島田氏の明確な主張や考え方が読み手にもよく理解できるような気がします。
中村警部は、本作の主役としてまさに適役。
御手洗シリーズのような派手なトリックやプロットは全くありませんが、初期島田作品で共通する、何ともいえない味わい深い作品に仕上がっています。
(本作を読了後は、是非古地図を片手に外堀通り辺りをブラブラ散歩することをお勧めします。まさに「ブラタモリ」か「地井さんぽ」・・・)
因みに、中村警部は御手洗シリーズの短編「疾走する死者」にも登場。そこで御手洗のスゴさを実感したことで、その後「斜め屋敷」事件で困惑する牛越刑事に対して御手洗を推薦する・・・という展開につながっていきます。

No.21 7点 チーム・バチスタの栄光- 海堂尊 2009/08/15 12:26
映画化もされた田口&白鳥シリーズの記念すべき第1弾。
第4回「このミステリーがすごい」大賞受賞作。
~東城大学医学部付属病院では、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門チーム「チーム・バチスタ」をつくり、次々に成功を収めていた。ところが、3例続けて術中死が発生。しかも、次回の手術は海外からのゲリラ少年兵士が患者ということもあり、注目を集めていた。そこで、内部調査の役目を押し付けられたのが神経内科教室の万年講師で不定愁訴外来責任者・田口と、厚生労働省の変人・白鳥だった・・・

さすがに「グイグイ」惹き込みますね。
医療ミステリーというと、どうしても専門的なため説明が多くなりすぎるきらいがありますが、本作にはそんなの関係なし。
何といっても、登場人物のキャラ立ちが尋常じゃない。
フーダニットについては、ちょっと分かりやすかったかなという気はしましたが、デビュー作でここまで書ければ上出来でしょう。
「最後に明らかになる衝撃の事実」というプロットも秀逸。
やっぱり現役医師は視点が違いますよね・・・
現代医学界の問題点や課題などもなかなか興味深く読ませていただきました。
有名作になりましたが、毛嫌いせずに読んで欲しい1冊。
(基本的に好きなんですよねぇ、医療ミステリーは)

No.20 6点 迷路館の殺人- 綾辻行人 2009/08/15 12:19
「館」シリーズ第3作目。
迷路を模して地下に作られた「迷路館」が今回の舞台です。久々に再読。
~奇怪な迷路の館に集合した4人の作家が、館を舞台にした推理小説の競作を始めた途端、惨劇が現実に発生! 完全な密室と化した地下の館で発生する連続殺人の不可解さと恐怖。逆転また逆転の末に到達する驚愕の結末とは?~ というストーリー。
今回の舞台設定は、本格ファンにとってはたまらないものでしょう。クローズドサークルで「作中作」になぞらえて起こる連続殺人、消えた招待主、そして謎の多い登場人物・・・いやぁ大盤振る舞いですよね。
ただ、残念ながらこの設定を十分生かしきってるとまでは言えない。
ラストのどんでん返しも確かに「うまさ」は感じるけど、サプライズとまでは感じなかったなぁ・・・(惜しいけど)
「迷路館」にしても、トリックまたはプロット上どうしても必要な条件とは言えないような気がするのも減点材料ですかねぇ・・・
ということで、いろいろと「アラ」は目に付きますが、全体的には及第点は付けられる内容というところでしょうか。
(初読のときは割とよくできていると印象でしたが、今回再読してみると、やっぱり不満点の方が目立ったんですよね)

No.19 6点 長い家の殺人- 歌野晶午 2009/08/10 21:37
信濃譲二シリーズ。
今や売れっ子作家の仲間入りを果たした作者の記念すべき処女長編。
消失死体がまた元に戻る!?完璧の「密室」と「アリバイ」の元で発生する、学生バンド「メイプルリーフ」殺人劇。『ミステリー史上に残ってしかるべき大胆なアイデア、ミステリーの原点』と島田荘司氏も絶賛した作品・・・
島田氏の絶賛はともかく、全体的にはやはり「若さ(=稚拙さ)」が残る作品ではあります。
トリックやプロットの方向性は好ましいのですが、見せ方がよくない。特に第1の殺人はトリックがどうしても「見え見え」・・・第2の殺人では、そのトリック自体果たして成立するのかがちょっと疑問。
ということで、世間的にも辛い評価になっていますが、私的には歌野氏の中でも好きな作品の1つなのです。
登場人物の年齢や、バンド内の人間関係に起因する動機、そしてバンドには付き物の○○・・・この作品はやはり、20代の若手作家だからこそ書ける作品でしょうし、今の「歌野晶午」のルーツとしては必須の作品だと思います。
(歌詞に秘められた言葉遊びなんていうのもニクイ試み。これだけとっても、作者の非凡さが分かります)

No.18 7点 星降り山荘の殺人- 倉知淳 2009/08/10 21:28
ノン・シリーズの長編作品。
倉知作品では、最も有名かつチャレンジブルな作品。久々に再読。
~雪に閉ざされた山荘。ある夜、そこに集められたUFO研究家、スターウオッチャー、売れっ子女流作家など、一癖も二癖もある人物たち。交通が遮断され、電気も電話も通じていない陸の孤島で次々と起こる殺人事件。果たして犯人は誰なのか?~
「交通や通信手段が断たれたクローズド・サークル」なんてミステリーファンが最も愛すべき舞台設定ですよね。
この舞台設定といい、登場人物といい、非常に考え抜かれたプロット。そして、驚愕のサプライズがラストで炸裂します。(これ程見事に「反転」させらるのは珍しい)
 これには「やられた!」という感想を持つ読者も多いんじゃないでしょうか。
もう1つの仕掛けは、各章の最初にある読者への「ヒント」・・・相当うまいし、騙される確率が飛躍的に高まるような気がします。都筑道夫氏の先例(「七十五羽の烏」)をうまい具合に「倉知流」に加工してるんですよねぇ・・・
たまには、こういう作品できれいに騙される快感を味わってみるのも悪くないでしょう。
(細かい部分では納得できないところや「アラ」も目立つので、評価としてはこの程度に落ち着きました。)

No.17 8点 死者が飲む水- 島田荘司 2009/08/09 22:51
御手洗シリーズ、吉敷シリーズの双方に登場する名脇役、北海道警の牛越刑事が唯一主役を張る作品。
個人的には、初めて読んだ島田作品になります。(珍しいかも)
~札幌の実業家・赤渡雄造の自宅に届いた2つのトランク。その中に入っていたのは、バラバラ死体となった赤渡本人だった。鑑識の結果、死因は溺死と判明する。だが、札幌署・牛越刑事の必死の捜査にも関わらず、関係者全員に鉄壁のアリバイが! 死者の飲んだ水に秘められた悲しき事件の真相とは?~

2つの大型トランクの中に詰め込まれた男のバラバラ死体が、被害者の自宅に届けられるところから事件の幕が開き、やがて、札幌~水戸~東京の3地点を運ばれた「トランク」の動きが「鍵」に・・・
ここまで書くと、本作が鮎川哲也の名作「黒いトランク」へのオマージュ作品なのがよく分かります。(もちろん、F.Wロフツ「樽」や横溝正史「蝶々殺人事件」とも共通のプロットを含んではいますが・・・)
ラスト、牛越と真犯人の対決シーンはなかなか読み応えがあります。
真犯人が仕掛けた「強力なアリバイトリック」が牛越の粘り腰で崩される瞬間が感動的!
ただ、「現場」の位置に関する箇所は、土地勘でもない限り、読者が解明できる材料が薄いのがちょっとアンフェアと言えるかもしれません。
とにかく、普段の島田作品とは一味も二味も違うテイストを楽しめる佳作という評価ですし、作者の懐の深さを感じさせてくれます。
(初期作品の名バイプレイヤー・牛越刑事が唯一主役を張るのが本作。フレンチ警部など過去のあまたの凡人探偵を超える「凡人」ぶりが本作のポイント。でも、その凡人さが最後になって生きてくる・・・)

No.16 7点 火の粉- 雫井脩介 2009/08/07 22:36
作者の代表作とも言える作品。
背中が「ゾクッ」とするようなサスペンスミステリー。
~元裁判官、梶間勲の隣家にかつて無罪判決をくだした男、武内が引っ越してきた。溢れんばかりの善意で、梶間家の人々の心を掴む武内の裏側に隠された本性とは?~

これは評判どおりの面白さ。
武内という男の「悪意」が、徐々に梶間や梶間の家族を追い詰めていく様子が何ともサスペンスフル。
読者にはいわば「神の目」が与えられているわけで、武内の本性に気付かない梶間家の人々に対して、「何やってんだ!」という理不尽な気持ちになってしまいます。
ラストもなかなかのもの。
証拠や法令に基づいて「判決」を下す職務を忠実に務めてきた梶間が、実は人の一生を決めるという「大事」にあまりにも「淡々」とし過ぎていたことに気付かされる。
そして、追い込まれた末にやっと「熱い気持ち」が湧いてくる・・・何か手に汗握ってしまいました。
読んで損のない1冊でしょう。
(人の本性って分からないもんだねぇ・・・)

No.15 9点 氷舞 新宿鮫VI- 大沢在昌 2009/08/07 22:29
新宿鮫シリーズの6作目。
シリーズ中でも1,2を争う良作。緊張感ある展開にページをめくる手が震えさせられます。
~西新宿のホテルで元CIAのアメリカ人が殺害される。事件の鍵を握る組員に迫る鮫島。しかし、なぜか公安警察が立ち塞がる。その背後には、元公安秘密刑事・立花の影が・・・捜査の過程で鮫島は、美しくも孤独な女性・杉田との出会い、惹かれていく。杉田と事件の関わりが浮上するなか、鮫島は核心
に挑む~
説明不要な面白さ。特にラストは秀逸! 鮫島と杉田の悲しすぎるラブストーリー。シリーズファンであれば、「晶とはどうなるんだ?」という気持ちにもさせられますけど、杉田にどうしようもなく惹かれてしまう鮫島には”男”を感じてしまいます。
そして、もう1人本作の重要人物である、立花元公安刑事。悪役ですが、何とも言えないキャラクター。
とにかく作者の人物造形のスゴ腕を十二分に感じさせてくれます。
(これを読むと、余韻に浸りすぎて、しばらく呆然としてしまうんですよねぇ。それくらいすごい小説。)


No.14 6点 果つる底なき- 池井戸潤 2009/08/07 21:52
第44回江戸川乱歩賞受賞作。
最近、売れっ子作家へ一歩ずつ近づいている作者の長篇デビュー作です。
~「これは貸しだからな」という謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員が死んだ。死因はアレルギー性ショック。彼の妻は、かつて主人公の恋人だった。死者のため、そして何かを失いかけている自分のため、ただ1人銀行の暗闇に立ち向かう~ という粗筋。
まぁ、デビュー作ですから、文章の拙さや書き込み不足という印象はどうしても感じました。
プロットというかストーリー展開もちょっとご都合主義が目に付いてしまう・・・
ただ、この分野(銀行を主な舞台としたミステリー)については、今や作者の独壇場という気がしますし、他の作家が書く経済絡みのミステリーとは一味違うレベルの高さは感じます。(さすがに元銀行員ですね)
ミステリー的には真犯人がちょっと類型的で、サプライズ感には欠けますが、まぁ及第点というところでしょうか。
この賞の受賞作らしい作品だとは思います。
(「銀行」=お金。「お金」→「人間のエゴや欲望」ということで、ミステリーの舞台として「銀行」は馴染み易いんですねぇ・・・)

No.13 8点 吸血の家- 二階堂黎人 2009/08/04 22:32
二階堂蘭子シリーズ。
処女長編「地獄の奇術師」に続く2作目ですが、執筆順でいえばこちらの方が古いそうです。
江戸時代から遊郭を営んでいた旧家にもたらされた殺人予告。かつて狂死した遊女の除霊会の夜に起きた殺人事件。名探偵、二階堂蘭子が解き明かす「密室」そして「足跡なき殺人」の謎。美しき三姉妹を弄ぶ滅びの運命とは何か? というのが粗筋。
本作は、作者が敬愛するJ.Dカーの「プレーグコートの殺人」を下敷きとして書かれている作品。そこに、横溝&乱歩の日本的オドロオドロしさをまぶしたというのが直接の感想。ただ、そんなことはどうでもよくなるほどの迫力と気合を感じさせる作品になってます。
なかでも、24年前の「足跡なき殺人」の謎が秀逸! 大雪の中に男性の死体があるだけで、足跡が全くない状況。この謎が見事に解き明かされるカタルシス!(個人的には途中で真相に気付きましたが・・・)
真犯人の造形もなかなか素晴らしい。三姉妹の背後に潜む大いなる欺瞞なんていうのも、何となく横溝作品を思い起こさせます。
初期の蘭子シリーズは粒ぞろいですが、本作はボリューム的にも手頃(他が長いだけに)ですし、まとまりのある佳作という評価でいいと思います。
(蘭子のキャラも本作では割と抑え気味なので、アクが強くて生意気で嫌いというアンチ蘭子の方でも本作は読みやすいのではないかと・・・)

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ひとこと
好きな作家
島田荘司、折原一、池井戸潤などなど
採点傾向
平均点: 6.01点   採点数: 1812件
採点の多い作家(TOP10)
島田荘司(72)
折原一(54)
西村京太郎(43)
アガサ・クリスティー(38)
池井戸潤(35)
森博嗣(33)
東野圭吾(31)
エラリイ・クイーン(31)
伊坂幸太郎(30)
大沢在昌(27)