皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1812件 |
No.52 | 6点 | 十角館の殺人- 綾辻行人 | 2009/09/03 22:47 |
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「館」シリーズ第1作というよりも、「新本格」というミステリーの一大ムーブメントの端緒となった記念すべき作品。
現代日本のミステリー界にとっても、重要な作品という位置付けでしょう。 今回、新装版で久々に再読。 ~十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリー研究会の7人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて、学生たちを襲う連続殺人の魔の手。ミステリー史上最大級の、驚愕の結末を読者が待ち受ける。1987年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作~ 本作の評価なんて「今さら」なのでしょうが・・・ 個人的には、世間的な評判ほどの評価はしていないといういのが本音。(もちろん、歴史的な価値については別にして) 確かに、ラストの衝撃(例の人物のセリフですよね)については、「驚愕」という形容詞がピッタリかとは思うし、処女作とは思えないほど練られたプロットなのは間違いないところでしょう。 ただねぇ、「いかにも」という感じで呈示された「十角館」が、トリックに何の関係もなかったり、「動機」の件はいくらなんでも不自然。 (それだけの事件が過去に起こっていたなら、普通気付くだろ!) 「館」シリーズでいうなら、個人的には「時計館」の方が何倍も面白かったし、評価すべき作品だという気がします。 というわけで、あくまでも平均点というのが、本作に対する評価になってしまいますね。 (「エラリイ」や「ポオ」なんていうニックネーム、恥ずかしいだろ!) |
No.51 | 7点 | 殺人方程式- 綾辻行人 | 2009/09/03 22:37 |
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わずか2作品でしか書かれなかった明日香井兄弟シリーズの第1弾。
久々に再読。 ~新興宗教団体の教祖が殺害された。儀式のために籠っていた神殿から姿を消し、頭部と左腕を切断された死体となって発見される。厳重な監視の目をかいくぐり、如何にして不可能犯罪は行われたのか。2か月前、前教祖が遂げた奇怪な死との関連は? 本格ミステリーの会心作!~ 個人的に綾辻作品のなかで、気に入っている作品。 一言でいえば、「ミステリーの教科書」のような作品という気がします。 大掛かりなトリック、意外な真犯人など、本格ミステリーのギミックが満載で、特に作者には珍しい物理トリックが味わえる。 伏線は割りとあからさまに示されており、殺害方法が分かれば自ずから真犯人が判明するので、読者が真相に迫ることも十分可能でしょう。 難を言えば、やや型に嵌めすぎているところですかねぇー まだまさ若き日の作品ですし、仕方ないかもしれませんが、双子の探偵などもう少しうまい具合に使えたんじゃないかなという感じ。 全体的には、「館」シリーズの凡作よりはこちらの方がよっぽどマシという評価です。 (新興宗教の教祖が頭部を切断されて殺害されるというのは、同じ頃に発表された法月氏の「誰彼」と同じプロット・・・偶然ですかね?) |
No.50 | 8点 | 容疑者Xの献身- 東野圭吾 | 2009/08/30 18:29 |
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ガリレオシリーズ、初の長編。
映画も大ヒットした直木賞受賞作品。 ~天才数学者でありながら不遇な日々をおくっていった高校教師の石神は、1人娘と暮らす隣人の靖子に密かな想いを寄せていた。彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、2人を救うために完全犯罪を企てる。だが、皮肉にも石神のかつての親友である物理学者の湯川学がその謎に挑むことになる~ 評判どおりの佳作。さすがです。 いまさら書評どうのこうのという作品ではないような気がします。 (直木賞&日本推理協会賞受賞、しかもこのミス1位ですから) トリック云々はあまり気にせず、石神バーサス湯川の知恵比べというか、湯川の悲壮な謎解きを味わうべきでしょう。 しかし、男ってかわいいもんです。 今の世の中、女性からの「献身」や「純愛」なんて望むべくもないでしょうから・・・ 有名になりすぎたので、逆に嫌う方もいるかもしれませんが、読まないと損する作品という評価でいいでしょう。 (東野圭吾と二階堂黎人の本格論争なんてありましたが、そんなこと読者が気にする必要はありません。何が「本格」かなんてどうでもいいことです) |
No.49 | 6点 | 葉桜の季節に君を想うということ- 歌野晶午 | 2009/08/30 17:58 |
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「このミス」第1位にも輝いた作者の代表作。
素直に読めば、騙されること請け合い(!?)でしょう。 ~「何でもやってやろう屋」を自称する元私立探偵・成瀬将虎は、同じフィットネスクラブに通う愛子から悪質な霊感商法の調査を依頼された。そんな折、自殺を図ろうとしているところを救った麻宮さくらと運命的な出会いを果たして・・・~ 確かに「えーっ!!」と思わされる。 それは間違いないでしょう。 後から読み返すと、そこかしこに伏線は張られてますし、何となく「チクリ」とした違和感は感じてましたから・・・ ただ、それだけなんですよねぇ。 作者のこれまでのキャリアや積み上げたスキルが凝縮された作品なのだとは思いますが、あまり感じなかったなぁー あらゆる賞を総なめし、ハードルを上げつつ読んだので、どうしても評価が辛くなってしまう。 (これからの時代、将虎のような人々が主役になっていく可能性は十分ありますよねぇ) |
No.48 | 4点 | グッドバイ 叔父殺人事件- 折原一 | 2009/08/30 17:35 |
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「叔母殺人事件」に続いて発表された作品。
前作(叔母)とはあまり関連性なく、いつもの折原ワールド。 ~叔父が死んだ。ネットで呼び集められた男女4人がワゴン車内で集団自殺を図った。その中に「僕」の叔父・四郎がいた。リーダー格の女性だけが命をとり止めたが、意識不明。叔父の普段の言動から偽装殺人を疑う叔母の厳命で関係者を調べ始めた「僕」に黒い影が忍び寄る・・・~ まぁ、いつもの折原作品ですよ。 紹介文を見れば分かります。 インターネットの自殺サイトというのが、この頃話題になっていたため、本作のプロットとして借用されてますが、それ以外の大筋はいつもの叙述トリックです。 であれば、問題は終盤またはラストの反転&サプライズにどれくらいのパワーが備わっているか、になりますが・・・ ひとこと「中途半端」! 特に、今回は今までの焼き直しという感じがしてなりません。 叙述トリックとはいえ、そうそう量産できるものではないでしょうから、まぁどの作品も高レベルということは至難の業なのでしょう。 そういう目で見れば、まずまず、普通レベルというの好意的な評価もできなくはないですが・・・ (そろそろ黒星警部シリーズでも読みたいなぁー) |
No.47 | 7点 | 乱れからくり- 泡坂妻夫 | 2009/08/30 00:35 |
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作者の長編代表作とも言える作品。
日本推理作家協会賞受賞作。 ~玩具会社の部長馬割朋浩は降ってきた隕石に当たり命を落としてしまう。その葬儀も終わらないうちに彼の幼児が誤って睡眠薬を飲んで死亡する。さらに、死神に魅入られたように馬割家の人々に連続する不可解な死。一族に秘められた謎とねじ屋敷と呼ばれる同家の庭に作られた巨大迷路に隠された秘密を 巡って男勝りの女性探偵と新米助手の捜査が始まった~ 実に泡坂氏らしい作品で、遊び心満載で楽しませてくれます。 まず、冒頭、隕石に直撃されて死ぬというミステリーではあり得ない設定! そして、終盤は「ねじ屋敷」ですよ。いかにも何か仕掛けがありそうで、やっぱりあった。 作品全体としては、まさにタイトルどおりで、からくりが乱れるわけですが、真相に迫るのは割合簡単だったかもしれません。 これって言ってみれば、「究極の遠隔殺人」ではないでしょうか? (ちょっとネタバレっぽいかもしれませんが・・・) 惜しむらくは、「隕石殺人」があまり本筋と関係ない点ですかねぇー |
No.46 | 7点 | 法月綸太郎の新冒険- 法月綸太郎 | 2009/08/30 00:24 |
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名探偵、法月綸太郎シリーズの短編集第2弾。
こちらも高レベルの短編集。楽しめること請け合い。 ①「イントロダクション」=? ②「背信の交点」=作者としては珍しい「時刻表ミステリー」。西村京太郎作品を彷彿させる設定ですが、プロット自体は作者らしさ十分。 ③「世界の神秘を解く男」=短編にしては何か冗長さを感じてしまう作品。あまり好きでない。 ④「身投げ女のブルース」=別の短編集(「パズル崩壊」)で探偵役を務める葛城警部が登場、と思いきや・・・なかなかサプライズのあるオチ&プロット。 ⑤「現場から生中継」=短編らしいワン・トリックもの。面白い。 ⑥「リターン・ザ・ギフト」=図書館シリーズの穂波が登場。テーマはずばり「交換殺人」。 以上、6編。 法月らしいロジックと稚気に溢れた作品が多くて、さすがに「短編はうまい!」(でも長篇は・・・) (④⑤辺りが個人的には好き。②も嫌いではないプロット) |
No.45 | 7点 | 法月綸太郎の冒険- 法月綸太郎 | 2009/08/30 00:13 |
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名探偵、法月綸太郎シリーズの短編集第1弾。
長篇では冗長さが目立つ作者ですが、短編では鋭い切れ味と感性を見せてくれます。 ①「死刑囚パズル」=死刑の場面は他作品でも時々見ますが、なかなかあり得ないような事件&設定ではあります。 ②「黒衣の家」=ラストの捻りが短編らしくていい。 ③「カニバリズム小論」=これは、オチのみの一本勝負。それだけにサプライズ感は大きくなります。 ④「切り裂き魔」=図書館シリーズ。図書館の本が切り裂かれる謎を扱ってます。真相は小粒でもピリリと辛い。 ⑤「緑の扉は危険」=図書館シリーズパート2。短編での密室ものはどうしても形式的になっちゃいますね。 ⑥「土曜日の本」=若竹七海氏出題の「5円玉20枚の謎」に対する解決編。おふざけのようなもの? ⑦「過ぎにし薔薇は・・・」=図書館での謎の行動をとる女性・・・ 以上、7編。 秀作が多くて、なかなか楽しい読書でした。短編ですから、単純なプロットが多いですが、それが読みやすさにつながってるんでしょう。 (①③もいいですが、④以降の図書館シリーズも結構好き) |
No.44 | 7点 | 札幌着23時25分- 西村京太郎 | 2009/08/27 23:04 |
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お馴染み十津川警部シリーズ。
トラベルミステリーにサスペンス要素をふんだんに加えた意欲作。 ~十津川警部は、暴力団組長の殺人罪を立証する重要な証人を札幌地裁まで護送することになった。タイムリミットは深夜0時。組員たちは、悪徳弁護士・佐伯の指示に従い、証人の暗殺を狙う。折からの航空会社ストライキのため、東京から札幌まで乗り継ぎが必要になる。東北新幹線、在来線、車、チャーター機・・・追われる側となった十津川警部と佐伯の虚虚実実の攻防が始まる~ 個人的には氏のいわゆる「トラベルミステリー」では一番面白い作品だという評価。 時代的には、まだ東北新幹線が大宮~盛岡間だったころ。航空機なしで東京~札幌までちょうど1日かかっていた時代です。 いつもは犯人を追い詰める側の十津川・亀井コンビが、一転、今回は暴力団グループに追われる側として追い詰められていきます。 十津川と佐伯との知恵の攻防もなかなか面白い。 札幌までの中途で何度も攻防が繰り広げられ、紙一重で困難をかわしていく・・・何ともスリリング! まっ、いろいろと突っ込みたいところはあるのですが、まずは楽しめる作品だと思いますね。 (警視庁の組織力ってそんなもんなのか?というツッコミが聞こえてきそう・・・) |
No.43 | 10点 | 涙流れるままに- 島田荘司 | 2009/08/27 22:48 |
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吉敷刑事シリーズ。
吉敷&通子の壮大なラブストーリーが決着するファン必読の作品。 ~警視庁捜査1課刑事・吉敷竹史は、夫の冤罪を主張する老婦人に出会う。その「恩田事件」とは、昭和33年に盛岡で起きた一家惨殺事件だった。吉敷は単身、再捜査を開始。ところが、盛岡・釧路で対面した関係者はなぜか別れた妻・通子と関係の深い人ばかりだった・・・日本の冤罪事件に職を賭した1人の刑事と、元妻の壮絶な過去、そして感動のラスト・・・~ 素直に脱帽! ラスト、子供を抱き上げるシーンでは、読んでて涙が止まりませんでした。(まさにタイトルどおり!) 「北の夕鶴」から始まり、「羽衣伝説」、そして「飛鳥のガラスの靴」と続いてきた、吉敷=通子の壮大な物語がこんな形で完結してくれて、作者には本当にありがとうと言いたい気分です。 さて、本作のキーワードは、作者のライフワークともなっている「冤罪事件」。 この高くて厚い壁を破るためには、「吉敷」はまさにうってつけのキャラクターです。 御手洗ほどの明晰な頭脳はありませんが、何事にも怯むことなく、どんな苦難にあっても立ち向かっていくその姿は、まさに現代に甦った「等身大のヒーロー」とさえ呼びたくなる・・・(実際、カッコいいですよ) 真相に関しては、いつもの「大技」が炸裂するわけですが、それはそれで十分読み応えありです。 まぁ、通子の過去がここまで壮絶でありえないほどの不幸に満ちていたなんて、これ最初から構想してたんでしょうか? とにかく、本作は決してこれ単独では読まないでください。 (これ単独で読んじゃうと、「荒唐無稽」のように思えてしまうかもしれませんので・・・) |
No.42 | 6点 | 羽衣伝説の記憶- 島田荘司 | 2009/08/27 22:38 |
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『吉敷-通子の壮大なラブ・ストーリー』第2弾。
本作は文庫書き下ろし作で、本筋の内容は軽めにさらっとしたものになってます。 ~警視庁捜査1課・吉敷刑事はふと入った画廊で作者のない「羽衣伝説」という彫金作品を目にした。これは別れた妻・通子の作品なのではとの思いを掻き立てられた吉敷は、ホステス殺しの真犯人を追いつつ訪れた伝説の地で、意外にも妻の出生の秘密に行き当たることに・・・~ タイトルにある「羽衣伝説」とは、天橋立に伝わる民話のことです。(聞いたことある方も多いでしょう) 吉敷の慧眼により、通子の母親の事件も解決することになり、これで晴れて二人の仲も元通りになるのか? と思いきや、そうならない。 「大人の愛」ですねぇ・・・ケツの青い若造どもには決して理解できない本当の「愛情」というものが吉敷の言動からビンビン伝わってきます。 それにしても「謎の多い女」です。 真相は、「涙流れるままに」そして「龍臥亭事件」など、その後の作品で明らかにされていきますが、この時点では「まさかそこまでの広がりがあるなんて」想像もつきませんでした。 (女性の心理描写も作者の得意とするところ。本作もその辺りがよく伝わってきます。) |
No.41 | 8点 | 北の夕鶴2/3の殺人- 島田荘司 | 2009/08/27 22:31 |
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吉敷刑事の分数シリーズ第3作。
それよりも、『吉敷竹史と加納通子の壮大なラブ・ストーリー第1章』と呼ぶべきかもしれません。 吉敷が、別れた妻通子に久し振りに再会する場面から始まる本作は、その後、通子が住む北海道・釧路へ舞台が移動。吉敷は通子を救うため、長く苦しい戦いに身を投じていくことに・・・と書いていると、何だかハードボイルド作品のような気がしてきますが、実際「ハードボイルド」なんです! 特に、真犯人との最後の対決シーンは、「吉敷!頑張れ!」と心の底から応援したくなるような熱い思いを抱かせてくれる名シーン。 前作までは、クールで二枚目。どこか人間味の薄いキャラクターとして描かれたきた吉敷が、ここまで大変身するとは! そして、本作のもう1つの特徴が、島田的大物理トリック・・・ すごすきて声も出ません。「非現実的」と考える方は当然いらっしゃるでしょうが、そんなの関係ありません。どんなに荒唐無稽と言われようが、ここまでのスゴいトリックを見せつけられれば、十二分に満足できます。(このトリックはその後も形を変えて、「疾走する死者」など氏の作品で何回か登場します。) とにかく、その後の「吉敷-通子物語」の続編を楽しむためにも(特に「涙流れるままに」の感動を味わうためには)、本作は必読と言えます。 (寝台特急「ゆうづる」がタイトルになっていますが、最初の事件の舞台として軽く登場するだけなので、他にもっと適当なタイトルがあるような気がする・・・) |
No.40 | 3点 | 人形館の殺人- 綾辻行人 | 2009/08/25 22:46 |
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「館」シリーズ第4作目。
シリーズ中ではやや異色の館での事件。 ~飛龍想一が京都・北白川に建つ「人形館」に引っ越してきたとき、驚天動地の終結(カタストロフィ)へ向けて秒読みが始まった。屋敷には父が遺した異形のマネキン人形たちが佇み、付近では通り魔殺人が相次いで起こる。そして彼に忍び寄る姿なき殺人者。名探偵・島田潔の登場と奇矯な建築家・中村青司の影が・・・~ うーん。まず基本的には個人的な好みから外れてる作品。 不可思議な事件の連続や、本格もののギミックを織り交ぜながら、読者の期待感をこれでもかと高めておいて・・・肩透かし。 なんとなく、こんなオチじゃないのかなぁとは考えてましたが、まさかその通りとは。 もちろん、作者の「うまさ」は感じられる作品ですし、一人称視点の長所を引き出せているのは間違いないでしょう。 シリーズものを書き続けていくうえでは、こんな作品もありかもしれません。 (新装改訂版も読んでみたい) |
No.39 | 4点 | 乱鴉の島- 有栖川有栖 | 2009/08/25 22:37 |
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火村・アリスシリーズの作品。
タイトルから見れば「島」・・・孤島ものと言えなくもありませんが・・・ ~臨床犯罪社会学者・火村は、友人の作家・有栖川と休暇に出かける。だが、彼らがたどり着いたのは目的地とは違う場所だった。鴉が群れ飛ぶ絶海の孤島・通称「烏島」。そこには世間と隔絶された生活を送る作家、謎の医師、奇妙な起業家など、不可解な目的を持った人々が集まっていた。訝る火村たちの 前でついに殺人事件が発生する。事件の背後に隠された彼らの「秘密」とは何なのか?~ ちょっと中途半端感が残る作品。 謎の提示までは実に魅力的でした。 絶海の孤島にある館に集まった人々、様々な職業や年齢、奇妙なふるまい・・・なぜなのか? そして起こる殺人事件。 ここまで書けば、期待感は高まるばかりなのですが、いかんせん尻つぼみ。 事件の背後に隠された「秘密」については、中盤になれば読者にも想像がつくようになり、あとは殺人事件そのものの仕掛けに移る。 そこが弱いんですよ。結局、フーダニットもハウダニットも今ひとつで終了。 やっぱり、このシリーズとは相性悪いんですよねぇ。 (江神・アリスシリーズとの格差は何なんでしょうか?) |
No.38 | 8点 | 倒錯のロンド- 折原一 | 2009/08/24 22:02 |
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「叙述の折原」を世に出した記念すべき作品。
乱歩賞は逃しましたが、島田荘司氏が絶賛したのもよく分かる(気がする)。 ~推理小説新人賞盗作事件をめぐる驚愕の真相。精魂こめて執筆し、受賞間違いなしと自負した応募作が盗まれた! 巧妙な仕掛けと衝撃の結末で読者に挑む~ 「盗作」事件に関わる登場人物たちが徐々に「倒錯」していくプロット・・・ いわゆる本格的な「叙述トリック」に始めて接した作品だったため、最初は「訳が分からない・・・」という感覚になりましたが、頭を整理して理解すると、作者の狙いや技巧に唸らされましたねぇ・・・ 「倒錯」シリーズは物語の舞台や登場人物が同じフィールドで書かれており、お馴染みのキャラや新手のキャラが絡み合いながら、妙な方向に進んでいくというのも面白さの1つでしょう。 とにかく、頭を真っ白にして是非1度読んで欲しい「快作」です。 (本作を読んで、私が折原に嵌ったのは間違いない。) |
No.37 | 10点 | BT’63- 池井戸潤 | 2009/08/24 21:53 |
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作者初期の最高傑作。
文庫版で上下分冊となった大作ですが、息つく暇を与えない緊張感と愛情につつまれたストーリーが見事です。 ~父が残した謎の鍵を手にすると、主人公の目の前に広がるのは40年前の風景だった。若き日の父が体験した運送会社での新規事業開発、秘められた恋。だが凶暴な深い闇が父に迫っていた。心を病み妻に去られた主人公は自らの再生を賭け、現代に残る父の跡を追い掛ける。~ う~ん。素晴らしい感動巨編でした。 タイムスリップして、父親と同化してしまう主人公。若き日の父は、自分のまったく知らないような情熱と強さを持つ人物だった。勤務先の倒産を何とか防ごうと孤軍奮闘する父にさらに襲い掛かる闇の手。それは、密かに父が愛していた女性にも魔の手を伸ばしていた・・・ そして、ついに起こる殺人事件。果たして、若き日の父は愛する女性や会社を救うことはできるのか・・・ 特に後半は一気読みして、ラストは涙が出そうになりました。 自分の目には寡黙で愛情を注いでくれなかった父親に、こんな過去があったことを知った主人公に、なんだか自分の姿を重ねてしまう・・・親子の愛情、特に父と息子の愛情って割と難しいものですが、これこそが「愛」なのだというのを感じさせられます。 「池井戸潤」といえば、経済や金融関係の小難しいストーリーという先入観のある方にも、是非読んで欲しい1冊。 (氏の作家としての資質を十二分に感じ取れる作品です。とにかくお薦め! 因みに、BTとはボンネット・トラックの略) |
No.36 | 5点 | ナイチンゲールの沈黙- 海堂尊 | 2009/08/24 21:34 |
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大好評の田口&白鳥シリーズ第2弾。
名作「チームバチスタの栄光」と同じ大学病院が舞台です。 ~東城大学医学部付属病院・小児科病棟に勤務する浜田小夜。担当は眼球に発生する癌-網膜芽腫(レティノプラストーマ)の子供たち。眼球を摘出されてしまう彼らの運命に心を痛めた小夜は、子供たちのメンタルサポートを不定愁訴外来・田口に依頼する。その渦中に患者の父親が殺され、警察庁から派遣された加納警視正は、院内捜査を開始する。小児科病棟や救急センターのスタッフ、大量吐血で入院した伝説の歌姫、そこに厚労省の変人・白鳥も加わり、事件は思いもかけない展開を見せていく・・・~ 前作に比べるとミステリー感は薄まってますね。 相変わらずスピード感ある展開と、魅力的なキャラたち・・・ 今回から加わった白鳥の天敵、加納警視正もキャラ立ってるねぇ。 ただ、ミステリー的な観点からはちょっとよく分からないというのが正直な感想でしょうか。 殺人事件が起こることは起こるけど、ロジックやトリックなどというものからは離れてしまいました。 まっ、シリーズ作品ということで、ファンならば読んでおくべきなのかもしれません。 |
No.35 | 7点 | 虚貌- 雫井脩介 | 2009/08/21 22:31 |
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スポーツ系ミステリー(「栄光一途」「白銀を踏み荒らせ」)に続いて発表されたのが本作。
今回は一転して、サスペンス感あふれるミステリーに仕上がってます。 ~21年前、岐阜県美濃加茂地方で運送会社を経営する社長一家が襲われた。社長夫妻は惨殺され、長女は半身不随、長男は大やけどを負う。間もなく従業員3人が逮捕され、事件はそれで終わったかに見えたが・・・~ 好きな作品です。(あまり評判はよくないようですが) いわゆるトリックなどとは無縁ですし、ロジック的にどうかという箇所は確かにありますが、終盤・ラストに向かって徐々に高まっていく緊張感。 やはり、こういう作品には必須の条件ですね。 何よりタイトルが効いてます。まさに「虚貌」なわけで、こういう作品を書かせるとうまい作家なのだと思います。 若干、TVの2時間ものサスペンスっぽさを感じるところが不満ですかねぇ。 そういう点を差し引いても、買って損のない1冊だと思います。 |
No.34 | 8点 | 永遠の仔- 天童荒太 | 2009/08/21 22:24 |
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文庫版で5分冊という長さの間に、「親子の愛情」や「人間の業」という深いテーマをたっぷりと感じさせてくれます。
子供の心って、こんなに傷つきやすくもろいものなんですね。最後に罪を告白する主要登場人物のひとりには同情を禁じえませんでした。 著者は昨年やっと直木賞を受賞しましたが、遅すぎっていうかんじですねぇ。 |
No.33 | 4点 | 帝都衛星軌道- 島田荘司 | 2009/08/21 22:16 |
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表題作の前編・後編の間に「ジャングルの虫たち」という別の短編を挟み込んだ珍しい構成になっています。この2編は広い意味ではつながっていますが、直接の関連はありません。
「東京という都市論」と「冤罪事件」という、島田氏の2つのライフワークが融合された作品ですが、ミステリーという面では今一歩としか言いようがありません。何か消化不良といった感触が残る作品です。 |