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E-BANKERさん
平均点: 6.02点 書評数: 1782件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.22 9点 火刑都市- 島田荘司 2009/08/15 12:34
吉敷刑事の上司、中村警部が活躍する珍しい初期作品。
「社会派」と称されることも多い作品ですが・・・
~東京・四谷の雑居ビルの放火事件で若い警備員が焼死する。不審な死に警察の捜査が始まった。若者の日常生活に僅かに存在した女の影・・・。女の行方を追ううちに次の放火事件が発生した。今度は赤坂。そして、現場には「東京」という謎のメッセージが残される~

今回の本筋は、東京の中心部で起こった連続放火事件と、ある1つの殺人事件。特に、放火事件の方は、まるで何かを象徴するように、地図上で「円」を描きながら続発していきます。
そして、現場に残された犯人のメッセージ「東京」(※本当は「京」の字が違うんですよねぇ・・・ただし、この字は変換できない!)。
島田氏のライフワークとも言える「都市論」、特に「江戸」と「東京」という2つの都市の歴史、相違点に気付いたとき、真犯人が浮かび上がります。
本作は、いわゆる「社会派的作品」と称されることが多いわけですが、確かに島田氏の明確な主張や考え方が読み手にもよく理解できるような気がします。
中村警部は、本作の主役としてまさに適役。
御手洗シリーズのような派手なトリックやプロットは全くありませんが、初期島田作品で共通する、何ともいえない味わい深い作品に仕上がっています。
(本作を読了後は、是非古地図を片手に外堀通り辺りをブラブラ散歩することをお勧めします。まさに「ブラタモリ」か「地井さんぽ」・・・)
因みに、中村警部は御手洗シリーズの短編「疾走する死者」にも登場。そこで御手洗のスゴさを実感したことで、その後「斜め屋敷」事件で困惑する牛越刑事に対して御手洗を推薦する・・・という展開につながっていきます。

No.21 7点 チーム・バチスタの栄光- 海堂尊 2009/08/15 12:26
映画化もされた田口&白鳥シリーズの記念すべき第1弾。
第4回「このミステリーがすごい」大賞受賞作。
~東城大学医学部付属病院では、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門チーム「チーム・バチスタ」をつくり、次々に成功を収めていた。ところが、3例続けて術中死が発生。しかも、次回の手術は海外からのゲリラ少年兵士が患者ということもあり、注目を集めていた。そこで、内部調査の役目を押し付けられたのが神経内科教室の万年講師で不定愁訴外来責任者・田口と、厚生労働省の変人・白鳥だった・・・

さすがに「グイグイ」惹き込みますね。
医療ミステリーというと、どうしても専門的なため説明が多くなりすぎるきらいがありますが、本作にはそんなの関係なし。
何といっても、登場人物のキャラ立ちが尋常じゃない。
フーダニットについては、ちょっと分かりやすかったかなという気はしましたが、デビュー作でここまで書ければ上出来でしょう。
「最後に明らかになる衝撃の事実」というプロットも秀逸。
やっぱり現役医師は視点が違いますよね・・・
現代医学界の問題点や課題などもなかなか興味深く読ませていただきました。
有名作になりましたが、毛嫌いせずに読んで欲しい1冊。
(基本的に好きなんですよねぇ、医療ミステリーは)

No.20 6点 迷路館の殺人- 綾辻行人 2009/08/15 12:19
「館」シリーズ第3作目。
迷路を模して地下に作られた「迷路館」が今回の舞台です。久々に再読。
~奇怪な迷路の館に集合した4人の作家が、館を舞台にした推理小説の競作を始めた途端、惨劇が現実に発生! 完全な密室と化した地下の館で発生する連続殺人の不可解さと恐怖。逆転また逆転の末に到達する驚愕の結末とは?~ というストーリー。
今回の舞台設定は、本格ファンにとってはたまらないものでしょう。クローズドサークルで「作中作」になぞらえて起こる連続殺人、消えた招待主、そして謎の多い登場人物・・・いやぁ大盤振る舞いですよね。
ただ、残念ながらこの設定を十分生かしきってるとまでは言えない。
ラストのどんでん返しも確かに「うまさ」は感じるけど、サプライズとまでは感じなかったなぁ・・・(惜しいけど)
「迷路館」にしても、トリックまたはプロット上どうしても必要な条件とは言えないような気がするのも減点材料ですかねぇ・・・
ということで、いろいろと「アラ」は目に付きますが、全体的には及第点は付けられる内容というところでしょうか。
(初読のときは割とよくできていると印象でしたが、今回再読してみると、やっぱり不満点の方が目立ったんですよね)

No.19 6点 長い家の殺人- 歌野晶午 2009/08/10 21:37
信濃譲二シリーズ。
今や売れっ子作家の仲間入りを果たした作者の記念すべき処女長編。
消失死体がまた元に戻る!?完璧の「密室」と「アリバイ」の元で発生する、学生バンド「メイプルリーフ」殺人劇。『ミステリー史上に残ってしかるべき大胆なアイデア、ミステリーの原点』と島田荘司氏も絶賛した作品・・・
島田氏の絶賛はともかく、全体的にはやはり「若さ(=稚拙さ)」が残る作品ではあります。
トリックやプロットの方向性は好ましいのですが、見せ方がよくない。特に第1の殺人はトリックがどうしても「見え見え」・・・第2の殺人では、そのトリック自体果たして成立するのかがちょっと疑問。
ということで、世間的にも辛い評価になっていますが、私的には歌野氏の中でも好きな作品の1つなのです。
登場人物の年齢や、バンド内の人間関係に起因する動機、そしてバンドには付き物の○○・・・この作品はやはり、20代の若手作家だからこそ書ける作品でしょうし、今の「歌野晶午」のルーツとしては必須の作品だと思います。
(歌詞に秘められた言葉遊びなんていうのもニクイ試み。これだけとっても、作者の非凡さが分かります)

No.18 7点 星降り山荘の殺人- 倉知淳 2009/08/10 21:28
ノン・シリーズの長編作品。
倉知作品では、最も有名かつチャレンジブルな作品。久々に再読。
~雪に閉ざされた山荘。ある夜、そこに集められたUFO研究家、スターウオッチャー、売れっ子女流作家など、一癖も二癖もある人物たち。交通が遮断され、電気も電話も通じていない陸の孤島で次々と起こる殺人事件。果たして犯人は誰なのか?~
「交通や通信手段が断たれたクローズド・サークル」なんてミステリーファンが最も愛すべき舞台設定ですよね。
この舞台設定といい、登場人物といい、非常に考え抜かれたプロット。そして、驚愕のサプライズがラストで炸裂します。(これ程見事に「反転」させらるのは珍しい)
 これには「やられた!」という感想を持つ読者も多いんじゃないでしょうか。
もう1つの仕掛けは、各章の最初にある読者への「ヒント」・・・相当うまいし、騙される確率が飛躍的に高まるような気がします。都筑道夫氏の先例(「七十五羽の烏」)をうまい具合に「倉知流」に加工してるんですよねぇ・・・
たまには、こういう作品できれいに騙される快感を味わってみるのも悪くないでしょう。
(細かい部分では納得できないところや「アラ」も目立つので、評価としてはこの程度に落ち着きました。)

No.17 8点 死者が飲む水- 島田荘司 2009/08/09 22:51
御手洗シリーズ、吉敷シリーズの双方に登場する名脇役、北海道警の牛越刑事が唯一主役を張る作品。
個人的には、初めて読んだ島田作品になります。(珍しいかも)
~札幌の実業家・赤渡雄造の自宅に届いた2つのトランク。その中に入っていたのは、バラバラ死体となった赤渡本人だった。鑑識の結果、死因は溺死と判明する。だが、札幌署・牛越刑事の必死の捜査にも関わらず、関係者全員に鉄壁のアリバイが! 死者の飲んだ水に秘められた悲しき事件の真相とは?~

2つの大型トランクの中に詰め込まれた男のバラバラ死体が、被害者の自宅に届けられるところから事件の幕が開き、やがて、札幌~水戸~東京の3地点を運ばれた「トランク」の動きが「鍵」に・・・
ここまで書くと、本作が鮎川哲也の名作「黒いトランク」へのオマージュ作品なのがよく分かります。(もちろん、F.Wロフツ「樽」や横溝正史「蝶々殺人事件」とも共通のプロットを含んではいますが・・・)
ラスト、牛越と真犯人の対決シーンはなかなか読み応えがあります。
真犯人が仕掛けた「強力なアリバイトリック」が牛越の粘り腰で崩される瞬間が感動的!
ただ、「現場」の位置に関する箇所は、土地勘でもない限り、読者が解明できる材料が薄いのがちょっとアンフェアと言えるかもしれません。
とにかく、普段の島田作品とは一味も二味も違うテイストを楽しめる佳作という評価ですし、作者の懐の深さを感じさせてくれます。
(初期作品の名バイプレイヤー・牛越刑事が唯一主役を張るのが本作。フレンチ警部など過去のあまたの凡人探偵を超える「凡人」ぶりが本作のポイント。でも、その凡人さが最後になって生きてくる・・・)

No.16 7点 火の粉- 雫井脩介 2009/08/07 22:36
作者の代表作とも言える作品。
背中が「ゾクッ」とするようなサスペンスミステリー。
~元裁判官、梶間勲の隣家にかつて無罪判決をくだした男、武内が引っ越してきた。溢れんばかりの善意で、梶間家の人々の心を掴む武内の裏側に隠された本性とは?~

これは評判どおりの面白さ。
武内という男の「悪意」が、徐々に梶間や梶間の家族を追い詰めていく様子が何ともサスペンスフル。
読者にはいわば「神の目」が与えられているわけで、武内の本性に気付かない梶間家の人々に対して、「何やってんだ!」という理不尽な気持ちになってしまいます。
ラストもなかなかのもの。
証拠や法令に基づいて「判決」を下す職務を忠実に務めてきた梶間が、実は人の一生を決めるという「大事」にあまりにも「淡々」とし過ぎていたことに気付かされる。
そして、追い込まれた末にやっと「熱い気持ち」が湧いてくる・・・何か手に汗握ってしまいました。
読んで損のない1冊でしょう。
(人の本性って分からないもんだねぇ・・・)

No.15 9点 氷舞 新宿鮫VI- 大沢在昌 2009/08/07 22:29
新宿鮫シリーズの6作目。
シリーズ中でも1,2を争う良作。緊張感ある展開にページをめくる手が震えさせられます。
~西新宿のホテルで元CIAのアメリカ人が殺害される。事件の鍵を握る組員に迫る鮫島。しかし、なぜか公安警察が立ち塞がる。その背後には、元公安秘密刑事・立花の影が・・・捜査の過程で鮫島は、美しくも孤独な女性・杉田との出会い、惹かれていく。杉田と事件の関わりが浮上するなか、鮫島は核心
に挑む~
説明不要な面白さ。特にラストは秀逸! 鮫島と杉田の悲しすぎるラブストーリー。シリーズファンであれば、「晶とはどうなるんだ?」という気持ちにもさせられますけど、杉田にどうしようもなく惹かれてしまう鮫島には”男”を感じてしまいます。
そして、もう1人本作の重要人物である、立花元公安刑事。悪役ですが、何とも言えないキャラクター。
とにかく作者の人物造形のスゴ腕を十二分に感じさせてくれます。
(これを読むと、余韻に浸りすぎて、しばらく呆然としてしまうんですよねぇ。それくらいすごい小説。)


No.14 6点 果つる底なき- 池井戸潤 2009/08/07 21:52
第44回江戸川乱歩賞受賞作。
最近、売れっ子作家へ一歩ずつ近づいている作者の長篇デビュー作です。
~「これは貸しだからな」という謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員が死んだ。死因はアレルギー性ショック。彼の妻は、かつて主人公の恋人だった。死者のため、そして何かを失いかけている自分のため、ただ1人銀行の暗闇に立ち向かう~ という粗筋。
まぁ、デビュー作ですから、文章の拙さや書き込み不足という印象はどうしても感じました。
プロットというかストーリー展開もちょっとご都合主義が目に付いてしまう・・・
ただ、この分野(銀行を主な舞台としたミステリー)については、今や作者の独壇場という気がしますし、他の作家が書く経済絡みのミステリーとは一味違うレベルの高さは感じます。(さすがに元銀行員ですね)
ミステリー的には真犯人がちょっと類型的で、サプライズ感には欠けますが、まぁ及第点というところでしょうか。
この賞の受賞作らしい作品だとは思います。
(「銀行」=お金。「お金」→「人間のエゴや欲望」ということで、ミステリーの舞台として「銀行」は馴染み易いんですねぇ・・・)

No.13 8点 吸血の家- 二階堂黎人 2009/08/04 22:32
二階堂蘭子シリーズ。
処女長編「地獄の奇術師」に続く2作目ですが、執筆順でいえばこちらの方が古いそうです。
江戸時代から遊郭を営んでいた旧家にもたらされた殺人予告。かつて狂死した遊女の除霊会の夜に起きた殺人事件。名探偵、二階堂蘭子が解き明かす「密室」そして「足跡なき殺人」の謎。美しき三姉妹を弄ぶ滅びの運命とは何か? というのが粗筋。
本作は、作者が敬愛するJ.Dカーの「プレーグコートの殺人」を下敷きとして書かれている作品。そこに、横溝&乱歩の日本的オドロオドロしさをまぶしたというのが直接の感想。ただ、そんなことはどうでもよくなるほどの迫力と気合を感じさせる作品になってます。
なかでも、24年前の「足跡なき殺人」の謎が秀逸! 大雪の中に男性の死体があるだけで、足跡が全くない状況。この謎が見事に解き明かされるカタルシス!(個人的には途中で真相に気付きましたが・・・)
真犯人の造形もなかなか素晴らしい。三姉妹の背後に潜む大いなる欺瞞なんていうのも、何となく横溝作品を思い起こさせます。
初期の蘭子シリーズは粒ぞろいですが、本作はボリューム的にも手頃(他が長いだけに)ですし、まとまりのある佳作という評価でいいと思います。
(蘭子のキャラも本作では割と抑え気味なので、アクが強くて生意気で嫌いというアンチ蘭子の方でも本作は読みやすいのではないかと・・・)

No.12 5点 厭魅の如き憑くもの - 三津田信三 2009/08/04 22:19
刀城言耶シリーズの第1作目。
本格ミステリーとホラーを見事に融合させた好評シリーズではありますが・・・
~神々櫛村。2つの旧家が微妙な関係で並び立ち、神隠しをはじめとする無数の怪異で彩られた場所である。戦争からそう遠くない昭和の年、ある怪奇幻想作家がこの地を訪れてまもなく、最初の怪死事件が起こる。本格ミステリーとホラーの融合が圧倒的な世界観で迫る!~

非常に前評判の高かった作品でしたし、期待感十分で読み始めましたが・・・
結論では、ちょっとガッカリ。
もちろん作品の世界観や雰囲気は大好物。まさに横溝を彷彿させる古きよき本格物の香りを堪能させてもらいました。
本シリーズのウリ(特徴)は、真相解明前の事件に関する謎の羅列と、ラストのドンデン返しの連続。
ただ、本作ではその辺りがやや"こなれてなかった”ですね。
(次作以降ではその辺が改善され、グッと面白さが増していくわけですが・・・)
まぁ、ハードルを高くした分、評価は辛めですが、シリーズを順次読んでいくうえでははずせない作品かもしれません。

No.11 7点 空飛ぶタイヤ- 池井戸潤 2009/08/02 22:25
熱いオヤジたちの戦いに涙するエンターテイメント小説。
直木賞候補にも挙げられた佳作です。
~トレーラーの走行中に外れたタイヤは凶器と化し、通りがかりの母子を襲った。タイヤが飛んだ原因は「整備不良」なのか、それとも・・・。自動車会社、銀行、警察、週刊誌記者、被害者の家族など事故に関わった人それぞれの思惑と苦悩。そして「容疑者」と目された運送会社の社長が、家族や仲間とともに事故の真相に迫る。オヤジの戦いに思わず胸が熱くなる!~

粗筋からも明らかなように、本作は数年前に起こった某○菱自動車のトラックタイヤ脱輪事故を下敷きとしています。
そして、主人公として、社会の不条理に挑むのは、零細運送会社の中年社長!
大企業やメガバンクといった「厚き壁」に何度も跳ね返されるが・・・決してあきらめない!
そして、徐々に同志が増え、ついには感涙のラストを迎えます。
まぁ、このような経済系エンタメ小説を書かせたら、現在の日本で作者の右に出る者はいません。
本作も、突き詰めれば、昔ながらの「浪花節」、「勧善懲悪」といったプロットなのですが、これが実に心地よい!
やっぱり、日本人はこの手の話に弱いんですねぇ・・・
(日本経済の強さの源は、何といっても中小企業の技術力の高さでしょう。そういう意味でも、頑張れ「池井戸」と言いたくなる!)

No.10 9点 時計館の殺人- 綾辻行人 2009/08/02 22:09
中村青司の「館」シリーズ第5弾。
日本推理協会賞受賞が十分に頷ける高レベルの作品ですし、個人的には「十角館」よりも、こちらの方が数倍面白い作品だと思っています。
館を埋める108個もの時計コレクション。鎌倉の森の暗がりに建つその時計館で、10年前に1人の少女が死んだ。館に関わる人々に次々起こる自殺、事故、病死。死者の思いが籠る時計館を訪れた9人の男女に無差別殺人の恐怖が襲う。凄惨な光景の後に明かされるめくるめく真相とは?
ということで、ラスト、探偵島田潔(鹿谷門実)が解明した真相を読んで、久方振りに鳥肌がたちました。
「なるほどねぇ」という一言です。伏線はそこかしこに張られてるわけですし、ヒントは最初からあからさまに示されているんですよねぇ・・・
これはメモをとりながら読み進めるスタイルに非常に適した作品ですね。違和感1つ1つを拾い上げ、その理由を丁寧に検討していけば、読者が真相に迫ることも十分可能でしょう。
エンディングの光景も非常に象徴的。作者の本作への思い入れを感じることもできます。
「館」シリーズということで、これまでいくつもの奇妙な館が登場しましたが、「館」そのものがトリックに直結している例があまりない中、本作は貴重。
「館」のつくりそのものが大いなる欺瞞の象徴なのですから・・・
とにかく、綾辻本格作品の最高峰と断言できる作品ですし、未読の方がいましたら是非ご一読ください。
(被害者たちが、なかなか自分たちが命を狙われる理由に気付かないのが唯一の難点? 普通気付くよな。これは「十角館」でも感じたこと)

No.9 9点 監獄島- 加賀美雅之 2009/08/02 00:20
パリ司法判事・シャルル=ベルトランシリーズの長編2作目。
ノベルズ版で上下分冊というボリュームですが、長さを感じさせないほど素晴らしい作品。
~断崖に囲まれた脱出不可能な孤島、「監獄島」。そこで次々に巻き起こる血で彩られた惨劇! 吊り下げられた火達磨の死体、バラバラ殺人、そして密室・・・パリ警察が誇る名判事ベルトランがこの大いなる謎に挑むのだが・・・~
とにかく、不可能犯罪の連続で息もつかせぬ展開。密室などは序の口で、バラバラ殺人が数種類、火あぶりされた死体は地上高く掲げられたり、おまけに過去の爆発事件まで登場するなど、まぁスゴイですよ。ここまで畳み掛けられたのは、二階堂の「人狼城の恐怖」以来です。
(作者の作品と二階堂作品はかなり相似形ですけど・・・)
トリックだけでなく、プロットもなかなか見事! 「解決したかに見えた事件の背後にさらなる悪が・・・」ということで、その辺り終盤のサプライズの連続にも大いに満足しました。
まぁ、こういうクラシカルなコード型作品は肌に合わないという方もいらっしゃるかもしれませんが、私にとってはまさに「ド・ストライク」な作品。
誰がなんと言おうが、「犯人はおまえだ!」という前の「ゾクゾク感」こそが、ミステリーを読む醍醐味なのだと改めて気付かされます。
「作者渾身の作品」だと思いますが、逆に「出しすぎたんじゃないか」と心配になってきます。こんな作風の作家は貴重ですから、2・3作で燃え尽きないように願うばかりです。
(3作目「風果つる館の殺人」以降、新作の噂を聞かないので心配になってきます)

No.8 5点 仮面山荘殺人事件- 東野圭吾 2009/08/01 23:41
比較的初期のノンシリーズ作品。
ラストで作者が企んだ「大技」が炸裂!する有名作。
~8人の男女が集まる山荘に、逃亡中の銀行強盗が侵入した。外部との連絡を絶たれた8人は脱出を試みるが、ことごとく失敗に終わる。恐怖と緊張が高まるなか、ついに1人が殺される。だが、状況から考えて犯人は強盗たちではあり得なかった。7人の男女は互いに疑心暗鬼に囚われ、パニックに陥っていったが・・・~

ある意味、たいへん作者らしい作品だなぁというのが正直な感想。
細部まで計算され尽くしていて、非常にスキのないプロット&ストーリーに仕上がっています。
ただ、ミステリー中毒の方なら、何となく途中で「カラクリ」については察してしまう可能性が高いのではないですかねぇ?
ちょっと「いかにも」っぽい描写や展開が目に付いたのは事実。
ラストの「種明かし」も「やっぱりねぇ」と思われた読者も多いかもしれません。(私もそう)
というわけで、あまり高い評価はしにくいんですよねぇ・・・
(「東野圭吾」というだけで、ついついハードルを上げてしまいます)

No.7 9点 黒いトランク- 鮎川哲也 2009/08/01 23:26
鬼貫警部シリーズ。
大作家鮎川哲也の出世作であり、戦後日本のミステリー史に燦然と輝く作品なのは間違いない名作。
国鉄汐留駅でトランク詰めの男の腐乱死体が発見され、荷物の送り主が溺死体となって見つかり、事件はあっけなく解決したかに思えた。だか、かつて思いを寄せた女性からの依頼で九州へ駆けつけた鬼貫の前に青ずくめの衣装の男が出現。アリバイの鉄の壁が立ち塞がる・・・
本作が、F.Wクロフツの名作「樽」にインスパイアされて生み出されたのは有名ですが、アリバイ作りの緻密さでは、本家を数倍上回っています。
確かに、今となっては、アリバイトリックの類型的な技法といえるものなのですが、発想自体が斬新! 鉄道・船を有機的に組み合わせた「人間」のアリバイトリックと、複数の「トランク」の動きが複雑に絡み合っており、作者の並々ならぬ能力の高さを感じさせられる、そんな作品です。
これ以降、「鬼貫シリーズといえばアリバイトリック」ということになるのですが、正直、本作を超える作品は生み出されなかったというのが本作のスゴさを象徴しています。
(鬼貫物では、古き良き時代の列車時刻表が登場するのも魅力的。今のJR時刻表の味気ないことと言えば・・・どうしようもないくらい)

No.6 7点 倒錯の死角−201号室の女−- 折原一 2009/07/30 22:39
「倒錯」シリーズの第1作。
作者の「叙述トリック」を世間に認知させたという意味では、本作と「倒錯のロンド」が双璧でしょう。
覗く男と覗かれる女が織り成すエンドレスストーリー。そこに、女の不倫相手や空き巣の常習犯の男が複雑に絡み合い、摩訶不思議な世界が出現する・・・
個人的には、「倒錯のロンド」で初めて折原の叙述トリックに触れ、「これは面白い!」と感じ、次に手にしたのが本作。これで、ますます折原ワールドに嵌っていくことになった記念すべき作品・・・
まぁ、ある人物に関する仕掛けについては、「○○的に無理があるだろう!」という突っ込みはもちろん感じるのですが、そもそも狂人たちが織り成す物語のわけですから、それもありでしょう。
とにかく、折原作品の中でも、指折りの面白さだと思いますし、ここに出てくるキャラ(清水とか大沢とか田宮とか)は、後の作品にもたびたび登場してきます
ので、是非ご一読して独特の世界に浸って欲しいと思います。
(「倒錯シリーズ」の主な舞台は北区東十条、「~者シリーズ」なら埼玉県の久喜市周辺、という具合に、シリーズごとに場所を明確に変えているが面白い趣向)

No.5 7点 盗まれた都市- 西村京太郎 2009/07/30 22:32
私立探偵、左門字進シリーズ。
日米ハーフの名探偵左門字が活躍するシリーズは、作者初期の野心溢れる良質な作品が並んでいます。
人口10万人のある地方都市が、ある日を境に突如「反東京」という狂気に支配されてしまう。その謎を解明すべく乗り込んだ左門字夫妻は、たちまち狂気に巻き込まれ、あげくの果てには殺人事件の容疑者にされてしまう。さて、この「狂気」の正体は何か? というのが本作の粗筋。
何はともあれ、この「プロット」自体がたいへんによくできており、面白い。
左門字もこの理不尽な狂気に巻き込まれるわけですが、それに対して冷静にかつ鋭い観察&推理力で対抗する姿に何ともいえない魅力を感じてしまいます。
真相は、意外といえば意外で、想定内といえば想定内(どっちだ?)。
現実的に考えて、マスコミはともかく市民感情をここまでコントロールできるのか? という疑問は湧くのですが、ナチズムの例を出すまでもなく、人間とは「より声の大きい方」へ流されてしまう特徴があるのでしょうし、特に日本人はその危険性がより大きいような気はします。
まぁ、昨今溢れてる作者のトラベルミステリーとは一味も二味も違う作品ですし、一読に値すると言ってよいでしょう。
(マスコミの功罪って大きいですよねぇ・・・本作を読んで、まず感じるのはこのこと。マスコミの良心ってなんなんでしょうか?)

No.4 6点 マジックミラー- 有栖川有栖 2009/07/30 22:17
講談社から出した最初の作品。
火村准教授も江神さんも登場しないノンシリーズの1冊。
~琵琶湖に近い余呉湖畔で女性の死体が発見された。殺害時刻に彼女の夫は博多、双子の弟は酒田にいてアリバイは完璧。しかし、兄弟を疑う被害者の妹は推理作家の空知とともに探偵に調査を依頼する。そして謎めく第2の殺人が・・・犯人が作り出した驚愕のトリックとは?~

作者としては珍しく(と言うかこれ1作だけでは)、時刻表まで駆使したトラベルミステリー風アリバイ崩し。
ただし、そこは「新本格の雄」とも称される作者ですから、単なる旅情ミステリーではありません。
「双子」というのも1回はトライしてみたくなるテーマなんでしょうねぇ。
きれいにとはいかないまでも、なかなか巧みな騙し方だとは思います。
それと、やっぱり「アリバイ講義」(!)。
書きたかったんでしょうねぇ・・・
というわけで、ボリュームの割にはいろんな要素を詰め込んでいて、まずは読んで損のない1冊ではあるでしょう。
(プロットそのもは既視感あり。まぁそれは致し方ないですね。)

No.3 5点 摩天楼の怪人- 島田荘司 2009/07/28 22:45
御手洗潔シリーズですが、舞台はNY。
NYに留学中ということで、若き日の御手洗の姿がなかなか凛々しく描かれてます。
~ニューヨーク・マンハッタン。高層アパートの1室で死の床にある大女優が半世紀近く前の殺人を告白した。事件現場は1階、そのとき彼女は34階の自室にいてアリバイは完璧だったというのに・・・。その不可能犯罪の真相は、彼女のいう「ファントム」とは誰なのか? 建築家の不可解な死、時計塔の凄惨な殺人、相次いだ女たちの自殺、若き御手洗が摩天楼の壮大な謎を鮮やかに解く!~

今回は、マンハッタンに聳え立つ高層マンションが事件の舞台&主役。
嵐の日に起きた殺人事件、エレベーターが停止したにもかかわらず、50階から1階へテレポーテーションしたとしか思えない、という不可能状況に御手洗が挑む・・・というのが本筋。
トリックについては、読者に解明しろというのはちょっと酷じゃないかというレベルで、「へぇーそんな秘密があったのねぇー」というような読後感になっちゃいます。
この辺り、「荒わざ」とか「荒唐無稽」とか言われても、読者には想像可能な範囲内にあった初期~中期の作品に比べると、どうしても不満感が残る感じなんですよねぇ・・・(作者が進化したということかもしれませんが)
あと、本筋とはあまりリンクしてませんが、摩天楼やNYセントラルパークの歴史などの薀蓄はなかなか面白く読ませていただきました。
(本作はタイトルからも分かるように、ルルー「オペラ座の怪人」が下敷きになってます。そういう意味では、自然に真犯人も分かっちゃうんですよねぇ・・・)

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E-BANKERさん
ひとこと
好きな作家
島田荘司、折原一、池井戸潤などなど
採点傾向
平均点: 6.02点   採点数: 1782件
採点の多い作家(TOP10)
島田荘司(72)
折原一(54)
西村京太郎(42)
アガサ・クリスティー(37)
池井戸潤(35)
東野圭吾(31)
森博嗣(31)
エラリイ・クイーン(30)
伊坂幸太郎(29)
F・W・クロフツ(26)