皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
|
---|---|
平均点: 6.01点 | 書評数: 1812件 |
No.312 | 7点 | 消えた巨人軍- 西村京太郎 | 2010/09/08 23:16 |
---|---|---|---|
左門字探偵シリーズの第1作目。
豊富な「誘拐物」のバリエーション、アッと驚く凝ったプロットで有名なシリーズです。 阪神戦に向けて新幹線で大阪へ移動する巨人軍の選手30数名が犯人グループにより鮮やかに誘拐され、球団社長へ5億円の身代金が要求される・・・ やはりプロットの勝利でしょうねぇ・・・左門字対犯人グループの知恵比べのような捜査過程が面白くてグイグイ読まされます。 探偵役としての左門字も実に生き生きと書かれてますし、十津川警部ではなく、こちらをメインキャラにしていたらと残念な気がしてなりません。(もう新作は読めないでしょうねぇ) ちなみに、監督が長嶋、主力選手が王、張本、柴田、堀内・・・という時代の話。(定岡が新人投手として出てきます。なつかしい・・・) |
No.311 | 7点 | 太鼓叩きはなぜ笑う- 鮎川哲也 | 2010/09/08 23:02 |
---|---|---|---|
「三番館」シリーズ。
本作は創元推理文庫版での同シリーズ第1作。 鬼貫警部や星影龍三を探偵役とする長編の重厚な雰囲気と違い、洒落っ気たっぷり、軽いタッチでグイグイ読ませます。 ①「春の驟雨」=アリバイトリックとしては基本どおりなのですが、見せ方がうまいですね。 ②「新ファントム・レデイ」=W.アイリッシュの名作「幻の女」を下敷きにはしてますが・・・そこはやはり鮎川流のアレンジ。 ③「竜王氏の不思議な旅」=短編ですが、鬼貫物を彷彿させるアリバイトリックが炸裂。ラスト1行が効いてます。 ④「白い手黒い手」=白い手の人物と黒い手の人物・・・バーテン氏の推理はちょっと強引な気がしますけど・・・ ⑤「太鼓叩きはなぜ笑う」=これもやや変格のアリバイトリック物。バーテンの推理法が鮮やかです。 全5編。 短編もうまいですねぇ。バーテン氏をはじめ、私立探偵・弁護士といったシリーズキャラクターの配役も絶妙です。 |
No.310 | 7点 | 悪魔が来りて笛を吹く- 横溝正史 | 2010/09/05 15:22 |
---|---|---|---|
金田一耕助シリーズ。
作者中期の代表作の1つといっていいでしょう。 『悪魔ここに誕生す』という有名なフレーズが頭にこびりついて離れません。まさに、本作はこの「悪魔」の意味を解明するための物語なのでしょう。 「出生の秘密」というギミックは、作者の有名他作品にもたびたび登場してきますが、第二次大戦前後の波乱の時代とはいえ、何とも言えない偶然=運命のいたずらに心を打たれます。 氏の作品らしく、途中のそこかしこに伏線があからさまに明示されているので、純粋な「謎解き」としてはやや不満が残りますし、神戸~須磨~淡路島の場面はもう少しあっさりしていてもよかったような気がします。 本作は映像作品(TV)でも何度か見ましたが、やはり文書よりも映像でより栄える作品なのかもしれません。 |
No.309 | 6点 | 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー | 2010/09/05 15:05 |
---|---|---|---|
フェル博士探偵譚の一作。
タイタニック号沈没に端を発する主人公(ジョン卿)の入れ替わり疑惑や、「悪魔崇拝」「自動人形」など事件の周辺に見え隠れするいかにもカーらしい怪奇趣味が見どころの作品。 「犯人の姿が全く見えず、周りに複数の目撃者がある中で、なぜ被害者は喉を掻き切られたのか?」という、いわば開かれた密室の謎が最大のポイントでしょう。 ただ、真相を見破るのはなかなか困難・・・そんな不思議な○○があったなんて・・・と思わずにはいられません。 2人のジョン卿の真贋についても、割とあっさり片が付いてしまったり、悪魔崇拝についても何か中途半端な気がするなど、評判ほどでもないかなという感想。 まぁ、ラスト(第Ⅳ部)での捻りはなかなか効いていて、トータルでは「さすが」と思わせます。 |
No.308 | 7点 | 一の悲劇- 法月綸太郎 | 2010/08/31 22:44 |
---|---|---|---|
法月綸太郎シリーズ。
「二の悲劇」とのセット作品ですが、物語のラストに「一」の本当の意味が分かる仕掛け・・・(その辺り、本家の「XYZ」を意識してるんですね) 本作、特に中盤以降は「ミスリード」の連続で読者を欺き続けます。そして、裏の裏が真相かと思いきや、さらなる仕掛けが炸裂! というわけで、なかなか痺れるプロットですし、他作品のようないらないサイドストーリーや回り道がない点でも良作といえるでしょう。 ただ、「あとがき」で作者が触れているとおり、先行作品の影響をまあまあ受けている部分でやや割引。 余談ですが、本作のリンタローはなかなかカッコいいですね。 |
No.307 | 6点 | 三毛猫ホームズの推理- 赤川次郎 | 2010/08/31 22:32 |
---|---|---|---|
当時、一世を風靡した「三毛猫ホームズ」シリーズの記念すべき第1弾。
堅牢な「密室殺人」や複数の犯罪が絡む多重構造の事件など、ミステリーの要素をバラエティ豊かに詰め込んだなかなかの野心作だと思います。 ただし、文体は軽いタッチで読みやすく、頁をめくる手が止まらなくなるなど、さすが一時代を築いた作家だけはあります。 密室トリックはたいしたことはありませんが、ラストは畳み込むようなサプライズの連続・・・ということで普通ならもっと高得点なのでしょうが、ちょっとやりすぎのような気がして、若干引いてしまいました。 でも、ホームズのキャラはいいですねぇ・・・こんなに愛すべきキャラはなかなかいません。 |
No.306 | 8点 | 桜宵- 北森鴻 | 2010/08/31 22:21 |
---|---|---|---|
ビア・バー「香菜里屋」シリーズの短編集第2弾。
どれも余韻の残る珠玉の作品集になっています。 ①「十五周年」=正直、そんな理由でそこまでするか?という気にはさせられます。 ②「桜宵」=表題作に相応しい美しい作品。「御衣黄」という名の珍しい桜がミステリーに華を添えます。 ③「犬のお告げ」=なんかありそうでなさそうな、なさそうでありそうな話。”リストラ”が絡むと無条件に切ない話になりますね。 ④「旅人の真実」=マスター工藤の親友(?)が登場。 ⑤「約束」=工藤が初の地方出張(?)。女って嫌だねぇ・・・と思わずにはいられません。 以上5編。 前作「花の下にて春死なむ」を凌駕する一作。作者にしか書けない独特の作風が光ります。 それにしても、近くに「香菜里屋」があったら、絶対通うなぁ・・・(誰もがそう思うでしょうけど) |
No.305 | 6点 | 五匹の子豚- アガサ・クリスティー | 2010/08/28 00:07 |
---|---|---|---|
ポワロ物の一作。
英国の童謡(?)「五匹の子豚」になぞらえた五人の容疑者が登場、ポワロが16年前の殺人事件の真相に迫ります。 5人の容疑者との面談内容や、それぞれに書かせた手紙を順に読ませていく展開に終始していて、確かにこの作品はかなり地味な部類に入るでしょう。 「最も犯人らしいと思わせた部分が実は犯人ではない最大の証拠である」というからくりがラストで示され、その点思わず唸らされます。 ただ、普通に読むとどうしても平板な感じがして、もう少しドラマティックな展開があってもいいなぁという感想になってしまいますねぇ・・・ |
No.304 | 7点 | 七つの棺- 折原一 | 2010/08/27 23:54 |
---|---|---|---|
作者のデビュー作「五つの棺」に2編を加えて、再編集した短編集。
黒星警部-竹内刑事の迷コンビシリーズ。 作品の多くは過去の密室物名作のパロディになってます。 ①「密室の王者」=ノックス「密室の行者」のオマージュ。ひじょうーにくだらない真相。 ②「ディクスン・カーを読んだ男たち」=ラスト、3人の登場人物の独白が面白い。ただ、プロバビリテイすぎる! ③「懐かしい密室」=密室での死体出現を扱ってますが、この「ユダの窓」はあまりに安易。普通気付くだろう! ④「脇本陣殺人事件」=当然あの作品のパロディ。4本指の男も出てきます。真相は肩透かし。 ⑤「天外消失事件」=かなり強引だと思うが、プロットは結構好き。 他2編。 辛目の書評を書いてますが、全体的には作者の遊び心が前面に出た異色の短編集といったテイストで割りと気に入ってます。 |
No.303 | 6点 | 翳りゆく夏- 赤井三尋 | 2010/08/27 23:30 |
---|---|---|---|
第49回江戸川乱歩賞受賞作。
過去の乳児誘拐事件を巡って、大手新聞社の窓際社員梶(カジ。名は不明)が意外な真相を突き止めるというストーリー。 探偵役のキャラや謎の提示、ラストの意外な展開など、いかにも「この賞の受賞作」という設定や匂いがプンプンしていて、それはそれでまぁいいんですが、最初から「いかにも意外な真犯人役」にピッタリな人物が出てきており、「もしかしてコイツが?」と考えつつ読んでいると、「やっぱりなぁ・・・」というラストを迎えてしまいます。 その分どうしても評価を割り引いてしまうんですが、リーダビリティは感じますし、デビュー作としては十分及第点でしょう。 マスコミ出身者らしく、その辺りの描写にもリアリティを感じさせられます。 |
No.302 | 5点 | 変調二人羽織- 連城三紀彦 | 2010/08/22 21:51 |
---|---|---|---|
「幻影城」発表作品を中心とした短編集。
文学的にも味わい深い作品となっています。 ①「変調二人羽織」=ひっくり返しの連続で騙し絵のような作品。刑事二人が手紙のやり取りで事件を解くというのも変わってます。真相は肩透かし。 ②「ある東京の扉」=一応アリバイトリックものですかねぇ・・・結局、何がどうしてどうなったか判然とせず。 ③「六花の印」=時代を異にする2つの事件を並列進行させつつ、最後に交わらせる手法。なかなか鮮やかではあります。 ④「メビウスの環」=面白い趣向かもしれませんが・・・なんかモヤモヤ感が残ってしまう。 ⑤「依子の日記」=「日記」といえば当然なかに仕掛けがある、というのが常道ですが・・・やはり大きな仕掛けがありました。そうきましたか。 作品のレベルは十分な高さなのですが、どうも個人的な好みからはずれていて、短い作品なのに妙に読みにくさを感じてしまいました。その分辛い評価に・・・ |
No.301 | 6点 | 漱石と倫敦ミイラ殺人事件- 島田荘司 | 2010/08/22 21:39 |
---|---|---|---|
ロンドン留学中の夏目漱石が名探偵S.ホームズと出会ったら・・・というありそうで絶対にありえない設定で書かれた初期作品。
久々に総ルビ版で再読。 解決場面で真犯人を一網打尽にするシーンなどは、ホームズ物の”香り”をよく出していて「ニヤリ」とさせられます。 密室やミイラに関するトリックそのものは大したことはないですが、全体的はよくできている作品でしょう。 ワトスン視点の部分は全く問題ないのですが、漱石視点の部分はシャーロキアンにとっては許せないんじゃないかと思わず心配になりますが・・・ あと、ラストの島田氏の年表(出生から出版年までの)はファンにとっては非常に興味深くてよかった。(若い頃、様々な経験をしてるんですねぇ・・・) |
No.300 | 7点 | そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー | 2010/08/21 00:04 |
---|---|---|---|
300冊目の書評は歴史的なこの名作で。
今さら私ごときが書評するのもおこがましい限りです。 細かい部分はさておいて、やはり「孤島」というジャンル(?)を確立した意義は特大。 地元の童謡になぞらえて、次々と殺されていく招待客。殺人とともに1つずつ減っていくインディアン人形・・・こういう道具立てだけでもミステリー好きの心を痛いほどくすぐってくれます。 評点としてはやや辛いのかもしれませんが、やはり現代の成熟した同系統ミステリーと比較した場合、サプライズの大きさでやや劣るかなぁという部分で・・・ あと、動機も(10人殺すにしては・・・) |
No.299 | 8点 | 真相- 横山秀夫 | 2010/08/20 23:53 |
---|---|---|---|
警察署を舞台としていない短編集。
相変わらず安定感たっぷり。どの収録作も高レベル&深い余韻を残すこと間違いなしです。 ①「真相」=若くして殺された最愛の息子。しかし、信頼していた息子には秘密が・・・。ラストはなかなか深い。 ②「18番ホール」=個人的には本作ベスト。1人の小役人が徐々に狂気に支配されていく様子が鬼気迫ります。 ③「不眠」=リストラ社員の悲哀が身に染みます。男が職を失くすってたいへんなことなんですね・・・ ④「花輪の海」=こちらも悲しい中年男性(複数)の話。身に染みます(パート2)。 ⑤「他人の家」=ラストが結構ブラック。予想はつきますけど・・・ とにかくうまい。ハズレのない横山短編を堪能できます。 |
No.298 | 7点 | 白く長い廊下- 川田弥一郎 | 2010/08/20 23:42 |
---|---|---|---|
第38回江戸川乱歩賞受賞作。
この頃としてはレベルの高い医療ミステリーで、作者も海堂尊氏同様、現役の医者兼作家でした。 無実の罪を着せられた主人公が、医療事故に巧妙に偽装された殺人事件の謎を解くというストーリーで、まぁ医療ミステリーの王道と言えるでしょう。 という訳で、それほどのサプライズは感じないのですが、処女作としては十分に高レベル。医者のくせに不器用で真っ正直な主人公にも共感を覚えます。 ついでに「点滴」の仕組みにも詳しくなりました。(途中で図解入りで解説しています) |
No.297 | 7点 | スイス時計の謎- 有栖川有栖 | 2010/08/14 23:39 |
---|---|---|---|
火村&アリスの国名シリーズ短編集。
国名シリーズではNO.1という世間的評価ですが・・・ ①「あるYの悲劇」=ダイイングメッセージもの。同じアンソロジーでの法月氏の作品が思い浮かびますが、法月作品よりも数段落ちる印象。 ②「女彫刻家の首」=同じく法月氏の「生首に聞いてみろ」が思い浮かぶ趣向。こちらも数段落ちる。 ③「シャイロックの密室」=倒叙形式。うーん、まぁ普通。 ④「スイス時計の謎」=クイーンばりのロジック大爆発の作品。巻末のあとがきでも書いてますが、まさにドストレートな本格推理小説でしょう。短編集の中の1編なのがもったいない気がしてなりません。(その分、無駄な表現が削ぎ落とされてるのかもしれませんけど) というわけで、他の書評者の方と同様、極論すれば表題作だけ読めればいいかなということで・・・ |
No.296 | 5点 | レーン最後の事件- エラリイ・クイーン | 2010/08/14 23:28 |
---|---|---|---|
ドルリーレーン4部作の最終作品。
まさにシリーズの終焉にふさわしいラストが用意されています。 本作は、殺人事件ではなく(死体は出てきますが)、シェークスピア作品の盗難事件がメインとなり展開されますが、冒頭から謎の人物が複数登場し、それがいったい誰なのか?というところに読み手の興味が集中していきます。 レーンの推理は今回も見事なロジック。 特に、謎の人物を特定する手掛かり(特徴)として出てくる○○は、本邦の古典作品でも多用されます。 ラストは名優レーンらしくスマートですが、何とも言えない悲哀を感じさせるシーン・・・ とまぁ、作品としての水準の高さは感じるのですが、ミステリーとしての評価は、やっぱりXYZの悲劇よりも辛めになってしまいますよねぇ。 |
No.295 | 7点 | 亜愛一郎の転倒- 泡坂妻夫 | 2010/08/14 23:11 |
---|---|---|---|
憎めない迷(?)探偵、亜愛一郎シリーズの第2弾。
相変わらず独特の切り口で不思議な事件を解き明かしていきます。 ①「藁の猫」=短編らしいプロット。真相は「そこまでするか?」ですが、まぁ芸術家だからしようがないでしょう。 ②「砂蛾家の消失」=個人的には本作中ベスト。家1軒が一晩で消える謎に挑みます。 ③「意外な遺骸」=一見すると「童謡殺人」ですが・・・真相は意外と・・・ ④「ねじれた帽子」=ホームズ物やブラウン神父物の香りがプンプン。真相はちょっと強引。 ⑤「三郎町路上」=こちらは死体消失という大掛かりな謎に挑戦。トリックは結構薄味ですが、プロットは秀逸。 他3編の全8編。 高レベルな短編集ですが、「・・・狼狽」よりは若干落ちるような気がします。 |
No.294 | 7点 | 白い家の殺人- 歌野晶午 | 2010/08/07 23:07 |
---|---|---|---|
「長い家の殺人」に続く信濃・市ノ瀬コンビの第2弾。
新装版で久々に再読しました。 巻末の解説で笠井潔氏が言及してますが、「実直すぎるくらい実直すぎる本格推理小説」というのがまさにピッタリ。 この時代の新本格作家が志向したのは、まさにこういう作品だったはずです。 ただ、「密室」の取り扱いについては、作者らしい変格を混ぜてあるのが好感を持てますし、動機についても何とかそれらしいものを!という作者の意気込みを感じさせます。 確かに、中途半端なトリックや本筋に全く関係ないゾロアスター教の話など、「若いなぁ・・・」という突っ込みどころは数々あるのですが、何となく許せてしまう・・・そんな作品ですね。 氏自身の「新装版にあたって」(巻頭)のことばもなかなか・・・ |
No.293 | 6点 | ラットマン- 道尾秀介 | 2010/08/07 22:50 |
---|---|---|---|
文庫化によりやっと読破。
期待十分、読むのを楽しみにしていた作品ですが・・・ まずは、思ってた以上に真っ当な「ミステリー」(作者にしては)でしたねぇー。 確かに小説あるいは読み物としてはよくできてますし、「さすが売れてる作家は違う!」ということには違いないでしょう。 ただ、ミスリードのやり方やプロットとしては、ちょっとストレート過ぎる気がしますし、サプライズの大きさは中程度という感じでしょうか。 「動機」も今イチかなぁー。 まぁ、期待の大きさの裏返しということで、評価は辛めかもしれませんが、一読には十分値する作品だとは思います。 |