皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
|
---|---|
平均点: 6.01点 | 書評数: 1812件 |
No.552 | 6点 | 溺れる人魚- 島田荘司 | 2011/09/24 21:55 |
---|---|---|---|
ミタライ・シリーズの作品集。
ウプサラ大学の同僚・ハインリッヒ視点もあり、いかにも最近の「ミタライ」もの。 ①「溺れる人魚」=舞台はリスボン。そして、テーマは「精神医学」。ただし、殺人事件のトリックは何ともアナログなもの・・・。市電が「単線、単線」とクドイほど書かれてるので、当然何かあるとは思いましたが、まさかこんなトリックとは! (でも行ってみたいねぇ、リスボン) ②「人魚兵器」=舞台はデンマーク~ポーランド。「人魚」と言えば美女というイメージですが・・・ここに登場する人魚は何とも醜悪。ナチス・ドイツ絡みの話ではトンデモない「兵器」がよく出てくるよなぁ。こんなことを本気で実験していたとは、まさに「狂気」。 ③「耳の光る児」=舞台はロシア・クリミア地方。「タタール人」のルーツを辿るうちに、チンギス・ハーンが統一した「モンゴル帝国」へ行き着く。作者あとがきにも書かれてますが、確かにモンゴル帝国の謎というのも相当魅力的だよねぇ。(そういや、ジンギスカン=源義経説なんてのもあったなぁ) ④「海と毒薬」=どうしても遠藤周作の同タイトル作を思い浮かべますが、当然それを踏まえています。本作だけは、「人魚」やウプサラ大と全く関連なし。1人の不幸な女性が「異邦の騎士」を読んで勇気付けられるというストーリー。(何で、これを加えたの?) 以上4編。 もはや、通常のミステリーという「器」からは大きくはみ出している印象。 確かにどの作品(④は除く)にも「謎」は呈示されるが、その解法は、医学や科学的知識抜きでは到達できないもの(だいぶ平易に咀嚼されてはいますが)。 ただ、何と言うか、並みの作家とは「レベル」が違うという感じ。 トリックがどうとか、プロットがどうとかいうレベルではもはやないのでしょう。 相変わらず、読者を(強引に)惹き込むパワーは健在だし、最後には「ホロリ」とさせられたり、「いろいろ考えさせられたり」・・・なすがまま。 でもねぇー、やっぱり、ファンとしては、昔の若き頃の「御手洗潔」(ミタライではない)の活躍が読みたいんですよ! 荒唐無稽でもいい。石岡とのコンビで、最後には何だか「ジーン」とさせられる御手洗の活躍、書いてくれませんかねぇー。 |
No.551 | 6点 | 鍵孔のない扉- 鮎川哲也 | 2011/09/24 21:53 |
---|---|---|---|
鬼貫警部シリーズの長編。
同シリーズらしく、巧緻なアリバイ崩しが主眼の作品です。 ~徹頭徹尾、謎に満ちた長編。声楽家で野生的な美貌を持つ久美子と、その夫で伴奏ピアニストを勤める冴えない男・重之。この音楽家夫妻に生じた愛情の亀裂を発端に殺人事件が発生した。被害者は久美子の浮気相手と思われる放送作家だった。事件は華やかな芸能界の裏面に展開。犯人確実と目された重之の容疑が晴れると、捜査は混迷の一途を辿る。やがて、犯人は大胆にも第2の殺人を予告してきた・・・~ まさに「これぞ、鬼貫警部シリーズ」とでも言いたくなる作品。 作者が「あとがき」でも触れているとおり、真犯人は作品中盤でほぼ確定し、あとは如何に堅牢なアリバイを崩すのかに移る。 どの作品でもそうですが、とにかく見せ方がうまい。 本作では「被害者の靴」が、真犯人の仕掛けた欺瞞を解く「鍵」になっており、ここが判明すればあとはスルスルと解けることに・・・ 「電話」については、時代を感じさせますねぇ。 (特に、天○と天○の違いなんて、ニクイねぇー。だからこその舞台設定!) ただ、密室(とは言えないかな?)については拍子抜け。 あれだけ鍵の構造について講釈をたれたのですから、もう少し凝ったトリックかと思いきや・・・(あれとはねぇ) まぁ、初心者でも中毒者でも安心して読める作品というのが鮎川ミステリーの良さでしょう。 (今回は「時刻表」は出てこないので、その方面が苦手な方も気軽に読めるのでは?) |
No.550 | 7点 | 火刑法廷- ジョン・ディクスン・カー | 2011/09/24 21:51 |
---|---|---|---|
550冊目の書評は、カーの中でも1,2を争う秀作と名高い本作で。
シリーズ探偵であるフェル博士やアンリ・バンコランは登場しませんが、作者らしいオカルティズム溢れる独特の雰囲気を持つ作品。 ~広大な敷地を有するデスパード家の当主が急死した。その夜、当主の寝室で目撃されたのは古風な衣装をまとった婦人の姿だった。その婦人は壁を通り抜けて消えてしまう・・・! 伯父の死に毒殺の疑いを持ったマークは、友人の手を借りて埋葬された遺体の発掘を試みる。だが、密閉された地下の霊廟から遺体は跡形もなく消え失せていたのだ。消える人影、死体消失、毒殺魔の伝説。不気味な雰囲気を孕んで展開するミステリーの1級品~ 確かに、これは評価に迷う作品。 本筋での大きな謎は2つ。 「部屋の壁の中に消えた婦人の謎」と、「密室(霊廟)から忽然と消えた死体の謎」。 2つ目の謎の解法はなかなかのもの。細かく時間的な齟齬を読者に突いてくるあたり小憎らしい。まさに「困難は分割せよ」だね。 それに対して、1つ目の奴はねぇ。「これしかない」といえばそうなんでしょうが・・・(「薄明かり」だったというのが伏線なのは分かる) 問題の部屋の見取り図すらないというのはちょっと不親切でしょう(これは作者でなく、版元の問題?) ブランヴィリエ公爵夫人という伝説の毒殺魔の影をちらつかせるなど、得意のオカルティズムは他作品よりも濃密で、いい味出していると感じます。 そして、問題の最終章のどんでん返し。 これを「是」とするか「否」とするのか・・・それほどインパクト孕んだラスト。 個人的には「微妙」ですねぇ。ミステリー的には、なくても特に問題ないように思えますが、これがあることで、数あるカーの作品中でも別格の扱いとされてきたのでしょうし、それを思えば「価値」を認めない訳にはいかないでしょう。 というわけで、トータルの評価としては、読む価値は十分認められる「佳作」ということでいいのでは。 (実にカーらしい作品なのは間違いなし) |
No.549 | 6点 | 巻きぞえ- 新津きよみ | 2011/09/17 00:07 |
---|---|---|---|
「デイリーサスペンスの女王」(って初めて聞いた)、新津女史の短編集。
すべて「死体」から始まる珠玉の心理サスペンスです。 ①「第一発見者」=都会だけでなく、誰でも死体の第1発見者になんてなりたくないものです。登場する2人の女性って、結局つながりはないってこと? ②「巻きぞえ」=飛び降り自殺する女性に、偶然「当たり」死んでしまった男。こんな「巻きぞえ」なんて嫌だ! でも、これが偶然ではなかったっていうラストの反転がブラック。 ③「反対運動」=最後には、我慢してきた女性の「怖さ」がヒシヒシと伝わる。 ④「行旅死亡人」=旅先等で身元不明のまま死んでしまった人のことを指すらしい。血のつながりって何なのか、考えさせられる話。 ⑤「二番目の妻」=テーマは夫婦間の腎臓移植。自分の臓器を配偶者に提供するなんて、究極の「愛」の印なのでしょうか? ⑥「ひき逃げ」=子供同様に可愛がっていた子犬を轢き逃げされた女性、そして轢いてしまった側の女性が2人。どうせなら、ラストもう少しブラック寄りでもよかったんじゃない? ⑦「解剖実習」=死体からの「語り」っていうのが斬新。そして、これまた何とも言えない偶然の血のつながりがあったなんて・・・皮肉だねぇー 以上7編。 ミステリーとしてはどうかと思いますが、どの作品も短編らしい切れ味のあるプロットや仕掛けで、なかなかの力作。 ちょっとした女性心理なんていうのは、やっぱり女流作家ならではでしょうね。 気になったのは、反対に、夫のキャラがちょっと紋切り型のような・・・ (どれも水準級の作品。敢えて言うなら②か④) |
No.548 | 8点 | 幽霊の2/3- ヘレン・マクロイ | 2011/09/17 00:06 |
---|---|---|---|
精神科医ウィリング博士を探偵役とする作者の第15長編。
女流作家らしい丁寧な筆致が心地よい。 ~人気作家エイモス・コットルを主賓に迎えたパーティーが、雪深いコネチカット州にある出版社社長の邸宅で開かれた。腹に一物あるらしき人々が集まる中、余興として催されたゲーム「幽霊の2/3」の最中に、当のエイモスが毒を飲んで絶命してしまう。招待客の1人、精神科医のウィリング博士は、警察に協力して関係者から事情を聞いて回るが、そこで次々と意外な事実が明らかになる。果たして真相は?~ これはさすがの面白さ。 本筋の毒殺事件のトリックや真犯人そのものは、それほどたいしたものではない。 本作は、むしろ主人公かつ被害者である、エイモスという人物そのものの謎にスポットライトを当て、周りの怪しげな人物を含めた謎に深みをもたらしてる感じ。 探偵役であるウィリング博士が行き着いた真相そのものは、ミステリーとしての奇抜さはともかく、プロットの妙は十分に堪能させてもらいました。 まぁ、うまいですよねぇー 当時の出版業界の裏側も垣間見えるようで、その辺も興味深く読ませていただきました。 まずは、安心してお勧めできる佳作という評価でしょう。 (ヴィーラって、悲しい女だねぇ。 まっ、自業自得だけど・・・) |
No.547 | 4点 | 笑ってジグソー、殺してパズル- 平石貴樹 | 2011/09/17 00:05 |
---|---|---|---|
名探偵更科ニッキの初登場作品。
動機無視、ロジックに徹した純粋パズラー。 ~国際ジグソーパズル連盟日本支部長を務める興津華子の死の床は、肩書きに相応しくジグソーパズルのピースで彩られていた。三興グループの実質的オーナーである彼女の死から数日、夫栄太郎が同じ部屋で殺され、現場には夫人の時と同様、パズルのピースが多数散らばっていた。捜査に伴って多額の遺産や系列会社のデータ捏造に絡む背後関係が浮かび、容疑者が絞り込まれるなか、程なく第3の殺人が起きる!~ うーん。期待して読んだだけに、正直ガッカリ。 紹介文読んだら期待しちゃいますよねぇー、本格ファンなら。 現場見取り図や怪しげな遺留物、ワケありそうな資産家一族など、魅力的なギミックは詰まっているのですが・・・ 如何ともしがいたいほどの、上っすべり感。 しかも、名探偵ニッキのキャラがあまりにも魅力に乏しい! いくらロジックに徹しているからといっても、「小説」としてこれではヒドイのではないか? これなら、推理クイズの方が時間を浪費しない分、まだ救いがある。 辛口の書評になりましたが、期待していただけにその反動が大きいということで・・・ (「誰もがポオを・・・」は果たしてどうなのか?) |
No.546 | 6点 | 裁きの終った日- 赤川次郎 | 2011/09/11 15:01 |
---|---|---|---|
大御所・赤川次郎初期のノンシリーズ長編。
大金持ちの旧家を舞台に起こる連続殺人事件の不可思議な謎とは? ~大富豪が殺された。高名な犯罪研究家が事件を解明しようとしたその時、犯人と名乗り出た娘婿はナイフで研究家の心臓を一突きに! この事件を皮切りに一族をめぐる企みは動き出す。失脚工作、浮気の復讐・・・さまざまな思惑や打算が渦巻くなか、詳細を黙秘する娘婿は果たして犯人なのか?~ 作者らしからぬシリアスな雰囲気の作品。 本筋は紹介文のとおり、大富豪である老女の殺人事件であり、自首した男が本当に真犯人なのか、という謎。 そこに、大富豪一家の人間たち、そしてその周辺の人々のさまざまな欲望が絡み合い、複雑な味わいになっている。 トータルでみても、なかなか面白いと思いましたね。 まぁ、視点の人物がつぎつぎと変わっていくため、ちょっと落ち着かない印象になっているのが玉に瑕でしょうか。 ラストもある意味では印象的かもしれませんが、サプライズというほどでもない。 そこら辺り、ややプロットのアラかもしれませんが、シリーズもの以外でもこのような佳作を残している点はうれしい限りです。 もう一捻りあれば、言うことなしなのですが・・・ |
No.545 | 6点 | フレンチ警視最初の事件- F・W・クロフツ | 2011/09/11 14:59 |
---|---|---|---|
フレンチが警視に昇進(メデタイ!)して最初に手掛けた事件。
最近東京創元社から出た新訳版で読了。 ~愛しいフランクの言葉に操られて詐欺に手を染めたダルシーは、張本人のフランクがある貴族の個人秘書に納まり体よくダルシーのもとを去ってからも、良心の咎める行為を止められずにいた。そんなある日、フランクの雇い主が亡くなったと報じる新聞記事にダルシーの目は釘付けになった。フランクは何て運がいいんだろう。これは偶然だろうか。一方、検死審問で自殺と評決された事件の再審査が始まり、フレンチが出馬を要請された~ クロフツ作品の1つの「典型」とも言える作品でしょう。 中盤まではフレンチが登場せず、ある事件に巻き込まれる主人公の視点で、事件の概要や展開が描写されていく。 事件がのっぴきならない段階まで進展したところで、やっとフレンチが登場。捜査を開始するやいなや、加速度的に事件のからくりが解明されていく・・・ 本作もまさにこの「流れ」そのもの。 ただ、本作はそれ以外のプロットがやや変わっていて、そこは面白かった。 普通なら、『(事件に巻き込まれた)主人公』⇒『フレンチ』という流れだが、本作はとある理由のため、『主人公』⇒『著名な法律家』⇒『私立探偵』と『フレンチ』 とかなり複雑な構成になっているのだ。 ただ、フーダニットにしろハウダニットにしろ、やや中途半端な感は拭えない。 特に、自殺に見せかけた他殺の仕組みがちょっと分かりにくいところが難点。 というわけで、初期の佳作に比べれば、1枚落ちる作品という評価にしかならない。 |
No.544 | 5点 | 共犯マジック- 北森鴻 | 2011/09/11 14:57 |
---|---|---|---|
北森鴻といえば「連作短編」というわけで、本作もその例にもれない連作形式の作品。
占った人が必ず不幸になるという伝説の書「フォーチュンブック」を軸に展開される事件の連鎖。 ①「原点」=学生運動華やかな頃が舞台。タイトルどおり、この先の不幸な出来事の原点とも言える事件が起こる。 ②「それからの貌」=500円硬貨が初めて世に出た年、早速偽造硬貨が出回る。そして、1人の女性が捜査線上に浮かぶが・・・その女性は本編の主人公である新聞記者の元恋人だった。(ホテルニュージャパンの火災なんて、20代の方には分からないだろうな・・・) ③「羽化の季節」=1枚の油絵を見た男が突然膝まずいて涙を流す・・・そこには、過去の忌まわしい事件が! そして、ここにも「フォーチュンブック」の影がつきまとう。 ④「封印迷宮」=②の主人公だった新聞記者が再度登場。そして、懐かしい「グリコ森永事件」(知ってる?)。謎の男「サクラダ」の正体は実は「アイツ」。 ⑤「さよなら神様」=④まできて、連作の意図が垣間見えてきたと思ったところで、今までの流れからやや浮いているのがこの⑤。ただ、最後になって⑤の意味が分かる仕掛け。 ⑥「六人の謡える乙子」=ここでまたしても新顔の登場人物。埋められた彫刻作品の謎とは? ⑦「共犯マジック」=ついに、ここまで断片的に語られてきたストーリーがつながる! しかし、こんな大掛かりな話だったとはねぇー。 以上7編。 いやぁ、想像以上に大掛かりなプロットだった。 まさか、戦後の著名事件の数々(「グリコ森永」や「3億円事件」、ついには「帝銀事件」までも・・・)がつながっていたとは! 作者の連作テクニックがあればこそでしょう。 ただ、ちょっと上っすべりしているような気がしないでもない。(ここまで事件がつながってるなんて、正直荒唐無稽な感は否めない) 風呂敷を広げすぎたかな? |
No.543 | 7点 | プリズム- 貫井徳郎 | 2011/09/06 22:42 |
---|---|---|---|
いわゆる「多重解決型」を狙ったミステリー。
1つの殺人事件を連作形式で綴るのが特徴的な作品。 ~小学校の女性教師が自宅で死体となって発見された。傍らには彼女の命を奪ったアンティーク時計が。事故の線も考えられたが、状況は殺人を物語っていた。ガラス切りを使って外された窓のロック、睡眠薬が混入されたチョコレート・・・平凡だったはずの女性教師の殴殺事件は予測不能の展開を見せる~ ①「虚飾の仮面」=第1話は教え子の小学生たちの推理。その結果は、意外な犯人へ辿りつく。 ②「仮面の裏側」=第2話の探偵役は①で犯人と目された人物。天真爛漫で誰からも愛された人物と思われた被害者に、実は意外な面があることが判明。 そして、①とは違う人物を真犯人とする結果に・・・ ③「裏側の感情」=今度は②で犯人と目された人物が探偵役に。またしても、被害者の違う一面が分かり、そして意外な人物が被害者と関わっていたことが分かる。最終的には違う人物を真犯人として指摘する。 ④「感情の虚飾」=③で真犯人と考えられた人物が主役。最後に辿りついた結論はかなり意外なものに。 「多重解決」といえば、当然「毒チョコ」が有名ですし、本作の「作者あとがき」でも「毒チョコ」を意識している旨が書かれてます。 まぁ、好みは分かれるかもしれませんが、個人的には面白いと思いますね。 本サイトの「毒チョコ」の書評でも書きましたが、ミステリー作品の真相なんて、作者の匙加減1つですから、こういった実験精神溢れる作品があっても何ら構わないと思いますね。 「プリズム」というタイトルには、「多重解決」という以外にも、被害者の人物像そのものが見る人(生徒や友人、恋人など)によって多面的に変わって見えるという意味も含んでいるのが印象的。 「連作形式」というプロットも嵌っていると思います。 トータルでは、一気読みできる佳作という評価。 |
No.542 | 6点 | 猫は知っていた- 仁木悦子 | 2011/09/06 22:36 |
---|---|---|---|
仁木兄弟シリーズの第1作目であり、江戸川乱歩賞受賞作。
ポプラ社からの復刻版で読了。 ~時は昭和、植物学専攻の兄・雄太郎と、音大生の妹・悦子が引っ越した下宿先の医院で起こる連続殺人事件。現場に出没するかわいい黒猫は何を見たのか? ひとクセある住人たちを相手に、推理マニアの凸凹兄弟探偵が事件の真相に迫ることに。鮮やかな謎解きとユーモラスな語り口で一大ブームを巻き起こした作品~ 確かに読み継がれるべき作品。 前半~中盤にかけては、いろいろな伏線を作中に仕掛けていて、本格ミステリー好きにはたまらない展開。 現場の遺留品や登場人物が偶然耳にした会話の切れ端などが、いかにも意味ありげに読者の脳を刺激するのが心地よい。 そして、ストーリーが進むにつれて、明らかに1人の人物を浮き上がらせていくミスリードも憎い。 トータルでみても、女流作家らしくたいへん丁寧なプロット&筆致だと思います。 ただ、逆に言えば、中盤はちょっとゴチャゴチャしすぎたかなという気も少し・・・ 本筋に関係のない伏線も撒かれていたり、窓からの目線の問題もそれほど真相に直結していないのでは? 「動機」はどうなんだろう? 正直、これで連続殺人やるか?という気がしないではない。 など、気になった点もありましたが、トータルではさすがの1冊という評価。 (猫のトリックもどうかなぁー。結構、プロバビリティの犯罪っぽい危うさがある) |
No.541 | 4点 | 検屍官- パトリシア・コーンウェル | 2011/09/06 22:35 |
---|---|---|---|
検屍官シリーズの第1弾。
いわゆる人気シリーズ(?)ということでちょっと期待して読み始めましたが・・・ ~襲われた女性たちはみな、残虐な姿で辱められ、絞め殺されていた。バージニアの州都・リッチモンドに荒れ狂った連続殺人に街中が震えあがっていた。犯人検挙どころか警察は振り回されっぱなしなのだ。最新の技術を駆使して捜査に加わっている美人検屍官・ケイにもついに魔の手が・・・~ 正直期待はずれ。 何より筆致のリズムが悪い。 これも処女作のせいでしょうか? 殺人事件そのものよりも、主人公であるケイ・スカーペッタ周辺の人物描写に終始している感があって、何とももどかしい感じ。 (もちろん、「意外な犯人」へのミスリードの狙いは分かるが・・・) 結局、盛り上げといてオチ(真相)もショボイので、中盤の冗長さが目立つ結果になっている。 まぁ、シリーズ中には面白い作品もあるそうなので、機会があれば今後も読んでみるかもね。 (ブックオフで売れ残っているのも分かる気がする・・・) |
No.540 | 5点 | 誰の死体?- ドロシー・L・セイヤーズ | 2011/09/02 22:42 |
---|---|---|---|
貴族探偵ピーター・ウィムジイ卿が活躍する長編第1作目。
作者は英国ではクリスティと並び称される女流ミステリー作家。 ~実直な建築家の住むフラットの浴室に、ある朝見知らぬ男の死体が出現した。場所柄男は素っ裸で、身に着けているものといえば金縁の鼻眼鏡と金鎖のみ。いったいこれは誰の死体なのか? 折しも姿形の酷似した金融界の名士が前夜謎の失踪を遂げたことが判明したが、どうも同一人物ではないようなのだが ・・・~ 今ひとつ面白さが分からなかった。 登場人物が多くて、特に中盤は書かれている場面がどうも頭にスッと入ってこなかったなぁー 後半~真相解明までは、まずまず納得のいくものなのは間違いない。 ラスト、真犯人の手記もなかなかの味わい。 ただなぁ・・・どうにもインパクトは感じなかった。 ウィムジイ卿のキャラ自体はよいと思うし、シリーズキャラクターとなる周辺の登場人物もよい造形。 今回は読み方が悪かった気もするので、別作品を味わってみるか! |
No.539 | 6点 | ミステリアス学園- 鯨統一郎 | 2011/09/02 22:41 |
---|---|---|---|
作者が描く「ミステリー初心者」のためのミステリー入門書。
驚きと脱力の連作短編集。 ①「本格ミステリの定義」=冒頭から、本格ファンvs本格嫌いが対決! そんな中、ミステリー研究会の学生が死亡する。真相は何と・・・ ②「トリック」=仲間由紀恵&阿部寛ではない。いきなり、①が作中作であることが分かる。そしてまた殺人が・・・ ③「嵐の山荘」=本格物の定番「嵐の山荘」が実現。そしてやっぱり起こる殺人事件・・・②も作中作であることも判明。 ④「密室講義」=亜矢花の唱える「密室」の分類は新鮮。 ⑤「アリバイ講義」=こちらも新たな「アリバイトリック」分類が面白い。そして、本作の仕掛けも徐々に分かってくる・・・ ⑥「ダイイング・メッセージ講義」=ついに2人しかいなくなったミステリー研究会。ダイイング・メッセージかぁ・・・あまり好きじゃないなぁ。 ⑦「意外な犯人」=これは「意外」っていうか、訳が分からん! 以上7編。 いやはや、こんなこと考える作者には、ある意味敬服します。 トータルでいえば、「メタ・ミステリー」って言えるんでしょうか? 作中にはいろんなミステリー作家や作品が出てくるので、初心者にとっては有益かもしれませんねぇ。 「こんな訳の分からん作品があってもいいじゃない」っていう評価。 |
No.538 | 7点 | チョコレートゲーム- 岡嶋二人 | 2011/09/02 22:39 |
---|---|---|---|
作者初期の代表作の1つ。
日本推理作家協会賞受賞作。 ~学校という荒野を行く、恐るべき中学生群像。名門・秋川学園大付属中学3年A組の生徒が次々に惨殺される。連続殺人の原因として、百万円単位の金が絡んだチョコレートゲームが浮かび上がる。息子を失った1人の父親の孤独な闘いを辿るショッキング・サスペンス~ 短い作品ですが、よくまとまってるし十分楽しめた。 今からざっと25年前の作品ですから、中学校と中学生を取り巻く環境が若干違ってる気はしますが・・・(今だったら、こんな無責任な学校や教師、モンスターペアレンツから猛攻撃に遭いそう!) でも、まぁ「実は、影からこの人物が糸を引いてました」という手練手管はウマイ。 中学生が次々と殺されるというショッキングな展開のなかで、子供に無関心だった父親が、息子を信じ続け、ついには真相を見つけるというのが唯一の救いになってる。 (こういう所が、母親と父親の愛情の違いなんだろうね) 正直、トリックはショボいですが、トータルでは好評価の1冊。 (これを読んでると、J○Aのテラ銭がいかに高いのかがよく分かる・・・でも嵌るよねぇー) |
No.537 | 5点 | ジーヴズの事件簿 才気縦横の巻- P・G・ウッドハウス | 2011/08/27 19:50 |
---|---|---|---|
スーパー執事・ジーブズが活躍する作品集。
サブタイトルは「才智縦横の巻」。 ①「ジーブズの初仕事」=スーパー執事・ジーブズの登場。最初から能力全開。 ②「ジーブズの春」=主人公・バーティの親友・ビンゴ=リトルが登場。リトルが好きになった女性をめぐって、バーティとジーブズが活躍(?)する。 ③「ロヴィルの怪事件」=怪事件というほどではない。バーティが恐れるアガサ叔母をめぐって事件が発生。 ④「ジーブズとグロソップ一家」=またまたリトルが妙な女性を好きになって、2人が一肌脱ぐという展開に・・・ ⑤「ジーブズと駆け出し俳優」=今回の舞台はロンドンではなく、NY。アガサ叔母からお達しを受け、預かった男性をめぐって事件発生。 ⑥「同志ビンゴ」=今回のビンゴ=リトルの行動も意味不明(!) 懲りない奴だねぇ・・・ ⑦「バーティ君の変心」=有名人と勘違いされたバーティが、なぜか女学校の教壇に立つハメに・・・ 以上7編。 ミステリーというよりは、まぁイギリス版「ユーモア小説集」というべきでしょう。 ただ、正直、舶来のユーモアはよく分からん(!) 読みやすいのが唯一の救いでしょうか。 (ジーブズよりも、ビンゴ=リトルのキャラがかなり面白くて印象に残る・・・) |
No.536 | 3点 | 失踪トロピカル- 七尾与史 | 2011/08/27 19:48 |
---|---|---|---|
「このミステリーがすごい大賞」の隠し玉作品として出版された前作、「死亡フラグが立ちました」に続く長編第2作目。
前作とはうって変わって、サスペンス作品。 ~迷子の親探しに行ったまま、奈美が戻ってこない、誘拐か? 旅行先で国分は青ざめた。空港や観光街で撮ったビデオに映る、奈美に視線を這わす男。予感は確信に変わる。国分は奈美の兄マモル、私立探偵の蓮見と手分けして捜し始めた。事件の糸口をつかんだ蓮見は2人に連絡をとろうとするが・・・。蓮見の行方、マモルの決意、国分に迫る影、奈美の生死は? 息つく間もないシーンの連続!~ 「読むんじゃなかった・・・」というのが正直な感想。 まさか、こんなストーリーとは・・・ 前作が、東川篤哉を彷彿させるようなギャグミステリーだったし、今回も前作と同じようなふざけた(?)表紙だったから、同じようなテイストかと思ってました。 これが大違い。 巻末の作者あとがきを読むと、もともとはこんなサスペンス風味の作品を多く書いていたとのこと・・・そうだったのか。 行方不明になった女性を捜すため、本作の舞台であるタイ・バンコクの街をさまよい歩く3人が、闇の組織に関わったため、恐ろしいショーに遭遇する・・・という ストーリーですが、このショーがむご過ぎる。何しろ、生きながらにして人間が解体されるショーですから・・・ ただ、息つく間もないという展開の割には、今ひとつ緊張感が伝わってこないというか、盛り上げ方が拙いし、平板な印象が拭えない。 ラストも救いのないまま、中途半端に切れてます。 というわけで、お勧めできない作品という評価ですね。 (中盤、グロいシーンが続くので、そういうのが苦手な方は読まない方が賢明でしょう。) |
No.535 | 9点 | カラスの親指- 道尾秀介 | 2011/08/27 19:47 |
---|---|---|---|
作者の最高傑作との呼び声も高い作品。
本の帯コメント(道尾秀介の真骨頂がここに!)どおりでしょう。 ~人生に敗れ、詐欺を生業として生きる中年2人組。ある日、彼らの生活に1人の少女が舞い込む。やがて同居人は増え、5人と1匹に。「他人同士」の奇妙な生活が始まったが、残酷な過去は彼らを離さない。各々の人生を賭け、彼らが企てた大計画とは? 息もつかせぬ驚愕の逆転劇、そして、感動の結末~ ただ一言、「面白かった!」 久々にこんな痛快かつすっきりとした騙され感を味わわせていただきました。 そうですかぁ、伏線はきっちり張られてたんですよね。 それでいて、見事なまでの逆転劇! 巻末解説では、「騙し」ではなく「マジック」だと評してましたが、まさにこの言葉(マジック)が言いえて妙。 たった一言で世界が反転する「痛快」は、やはり作者の非凡さを表しているのでしょう。 キャラも1人1人効いてます。 ラストはすべての伏線を回収したうえで、何だか「じーん」とするような感動までプラス。 とにかく、作者のファンならずとも手に取って読んで欲しい佳作です。 (貫太郎もいいが、やっぱりテツさん・・・ヤラレたなぁ・・・) |
No.534 | 7点 | つきまとわれて- 今邑彩 | 2011/08/23 22:11 |
---|---|---|---|
ノンシリーズの連作短編集。
作品中の登場人物の1人が、次の作品の主人公になるという凝った構成になってます。 ①「おまえが犯人だ」=なかなか面白い。2度ひっくり返されるとさすがにうならされる。そして、ラストには更なる毒が・・・ ②「帰り花」=①の登場人物が主役。出て行ったまま帰ってこない実の母親が、庭に埋められているのではないか?・・・ブルブル! ③「つきまとわれて」=②の主役の妻が今回の主役。「つきまとっている」のは本当は誰なのか? っていうこと。 ④「六月の花嫁」=③の登場人物が主役。今回のプロットは分かりやすかった。途中で真相は予想がつく。 ⑤「吾子の肖像」=④の登場人物が主役。ある「絵画」とその画家をめぐる謎。これも途中で予想がついた。 ⑥「お告げ」=⑤の登場人物が主役。夜中に突然、お告げをしてくるマンションの住人の謎。真相はなかなか気が利いてる。でも、こんな奴、ホントに嫌だな! ⑦「逢ふを待つ間に」=⑥の登場人物が主役。ネット上の仮想家族ゲームをめぐる、ちょっとしんみりする話。こんなゲーム、本当にあるのかな? ⑧「生霊」=⑦の登場人物が主役。そして、これが何と②につながっていく・・・ 以上8編。 短編らしい「切れと味わい」のある作品が多く、出来のいい短編集といっていいでしょう。 単なる「短編集」に留まらず、登場人物を共有化させるなど、読者を「ニヤリ」とさせる仕掛けもよい。 まずは、期待どおりの1冊でした。 (①~④まではなかなか面白かった。後半はやや落ちる) |
No.533 | 5点 | いたって明解な殺人- グラント・ジャーキンス | 2011/08/23 22:08 |
---|---|---|---|
米新人作家による法廷&心理サスペンス。
作者はアトランタ在住で、知的障害者の権利保護運動に携わってきた人物(らしい)。 ~頭を割られた妻の無惨な死体・・・その傍らには暴力壁のある知的障害の息子、クリスタルの灰皿。現場を発見した夫・アダムの茫然自失ぶりを見れば犯人は明らかなはずだった。担当するのはかつて検事補を辞職し、今は屈辱的な立場で検察に身をおくレオ。捜査が進むにつれ、明らかになる捩れた家族愛と封印された過去のタブー~ まぁ水準レベルの作品でしょうか。 若干、既視感のあるストーリーとプロットで、映画などでよく見る手合いです。(実際映画化されるようです) 前半は、子供を設けて幸せだったはずの家庭が、子供の知的障害を理由に、いびつに捩れていく過程が描かれ、そしてついに殺人が起こる。 後半は一転して法廷での場面が続き、 そして、お約束のようにどんでん返しが・・・ よく練られてる作品だとは思いますが、サプライズ感や刺激を求めるのならば、不満を感じるかもしれません。 ただ、処女作品ということを考えれば、十分に及第点は付けられるでしょう。 (ラスト、もう一捻りあればなぁー) |