皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
|
---|---|
平均点: 6.00点 | 書評数: 1845件 |
No.585 | 7点 | 高い窓- レイモンド・チャンドラー | 2011/11/13 20:10 |
---|---|---|---|
フィリップ・マーロウ登場作の長編3作目。
名作と名高い「さらば愛しき女よ」に続く1942発表の作品。 ~パサデナの裕福な未亡人の依頼は、盗まれた家宝の古金貨を取り戻して欲しいというものだった。夫人は息子の嫁を疑っていたが、マーロウは家庭にはそれだけではない謎があるのを感じとっていた。傲慢な夫人と生活力のない息子、黒メガネの謎の男。やがて事件の関係者が次々と殺されていき、マーロウの前には事件の意外な様相と過去の出来事が浮かび上がってくる・・・~ 実に堪えられない作品。 「これぞチャンドラー、これぞマーロウ」・・・というのが率直な読後感。 今回、マーロウが巻き込まれるのは、紹介文のとおり、古金貨の盗難に端を発する事件なのですが、捜査を進めるごとに、正体不明の人物が登場し、事件がどんどん広がっていくという展開。 ついには、連続殺人事件に発展してしまう。 残り頁が少なくなってきて、どうやって収束させるのか?と思ってましたが・・・ マーロウの推理はなかなか鮮やか。頻発した事件の1つ1つをきれいに結び付け、味わい深く解決してしまいます。 そういう意味では、本作は単なるハードボイルドではなく、ミステリーとしての謎解きも楽しめるのがいい。 人物の造形も相変わらず見事。特に、マールですかね。 (昔の事件の真相は分かったうえでの、老婦人への忠誠だったのでしょうか?) いずれにしても、チャンドラーのハードボイルドをたっぷりと楽しめる良作という評価。 |
No.584 | 7点 | 密室の鎮魂歌- 岸田るり子 | 2011/11/13 20:09 |
---|---|---|---|
第14回鮎川哲也賞受賞作。
作者の実父は、インターフェロン等の研究で有名な医学博士、岸田綱太郎氏とのこと。(だから?) ~世界的に成功したある女流画家の個展会場で、『汝、レクイエムを聴け』という作品を見た女性が、悲鳴を上げて失神した。失踪した自分の夫の居場所をこの画家が知っているに違いない、というのが彼女の不可解な主張だった。しかし、画家と失踪した男に接点はなかった。5年前の失踪事件は謎に満ちていた。そして5年後、再び事件の現場だった家で事件が起こる。今度は密室殺人事件。さらに密室殺人は続く。問題の絵に隠された驚くべき真実とは何か?~ デビュー作としては衝撃的な内容ではないでしょうか? (もちろん、アラはいろいろあるにしても) まずは、密室トリックが云々というよりは、作品のプロットが新人離れしていると感じた。 5年前の失踪事件と、現在の連続密室殺人が有機的に結びついていて、伏線の張り方もなかなか見事。 いかにも女流作家らしい細やかな心理描写や、醜い女性同士の争いなど、特に終盤はたたみ込むように迫ってきます。 「絵画」が事件の「カギ」になる、という趣向は先行例がいろいろありますが、本作では「紋章」の件ではなく、絵画製作自体の秘密という趣向が面白かった。 (で、ここからは不満点なわけですが・・・) まずは「密室」。3番目(イタ飯屋のヤツ)はともかく、2番目もちょっといただけない。真相解明ではアッサリ説明しているが、現実的に可能かというとかなり怪しい気がする。4番目は問題外。最初のヤツが1番マトモ(=現実的)。 あと、動機につながる肝の部分(2人の○の関係)。あれほど嫉妬深い妻がそれをほっとくかねぇ? それを全く知らなかったという設定はちょっと首肯し難い。 もう1つ言うなら、最初の登場人物表。「あまりにも少なすぎるだろ!」。フーダニットに対する読者の興味を引っ張るためにも、もう少し人物増やせなかったかなぁ?(これは無理か・・・) 中盤以降は犯人がほぼ自動的に分かってしまった。 などと不満点を述べましたが、トータルでは本格ファンなら、とにかく1度読んでみるべしという感想ですね。 (鮎川賞の受賞作家はレベル高い) |
No.583 | 6点 | 猫丸先輩の推測- 倉知淳 | 2011/11/13 20:07 |
---|---|---|---|
大人気(?)の猫丸先輩シリーズの作品集。
相変わらず神出鬼没! 揉め事のあるところに、この人ありって感じで、「サラッ」と事件を「推測」します。 ①「夜届く」=もちろん「夜歩く」のもじり。差出人も目的も不明の電報が夜何度も届けられる・・・という謎。この真相は「うーん・・・」。わざわざ作品にして活字にする意味があるのだろうか? ②「桜の森の七分咲きの下」=元ネタは坂口安吾の某作。花見の場所取りをしている新入社員に対し、次々とやってくる珍客の謎。まぁ、こういうプロットは、ホームズ作品の時代からの短編の典型っていう気がする。 ③「失踪当時の肉球は」=元ネタはヒラリー・ウォーの某作。いなくなった飼い猫の調査依頼に纏わる謎。なんてことない話なのだが、逆説的な真相がなかなか面白い作品。割と好きだね。 ④「たわしと真夏とスパイ」=元ネタは天藤真の某作。露店が並ぶ商店街のセール会場で次々と巻き起こる「小事件」の謎。これも同様。真相は脱力感さえ感じるしようもなさ、なのに何となく「へぇー」と思わされるうまさがある。 ⑤「カラスの動物園」=元ネタはテネシー・ウィリアムスの某作(知らなかった)。平日の動物園内で突如発生した引ったくり事件と、逃走中に消えた現金の謎。プロットは面白いが、ちょっと陳腐かな? ⑥「クリスマスの猫丸」=元ネタはもちろん「クリスマスのフロスト」。これは、何かボーナストラックのような作品。クリスマスイブに1人で過ごす男性の悲哀を感じる作品。(猫丸先輩には関係ありませんが・・・) 以上6編。 相変わらずです。 「This is 猫丸先輩シリーズ」とでも言いたくなる作品が並んでる。 バラバラ殺人やらシリアルキラーなんていう血生臭い作品が続いた後、こういう奴を読むとホッとさせられますねぇ。 もちろん「日常の謎」ですから、トリックも真相も「そんなもんでいいの?」というレベルではありますが、それでも感じるのが、作者の確かな力量。 こういう作品を書かせたら、作者の右に出る者はいないような気がします。(そんなに確信はないが・・・) (④はもう大爆笑! 商店主のやり取りが面白すぎ。③もなかなか) |
No.582 | 7点 | 象牙の塔の殺人- アイザック・アシモフ | 2011/11/11 16:51 |
---|---|---|---|
1958年発表の本格ミステリー。
大学内の複雑な人間関係を背景に発生した殺人事件を、主人公の助教授が解き明かす。 ~大学の実験室で、化学の実験中の学生が毒ガスを吸って死亡する。事故死か、或いは自殺か。指導教官のブレイドは、この事件を単なる過失とは考えられず、自ら真相究明に乗り出すことになった。しかし、これが殺人事件だとすると、真っ先に疑われるのは彼自身なのだ! しかも、事件はやがて彼の大学における地位や家庭における平穏までも脅かすことに・・・~ 理系ミステリーのはしり的作品か? と思いきや、プロット自体は純粋な海外本格ミステリー。 というのが読後の感想。 前半は、シアン化合物がどうだとか、実験器具がどうだ、とか文系人間の私には頭にスッと入ってこない単語が続々登場。 中盤以降は、主人公を中心とする大学内の複雑な師弟関係や上下関係が明らかになり、終盤は一気呵成に真犯人を指摘! 巻末解説でも触れてますが、確かに本作の「動機」は独特。 一般の人にはちょっと理解できない。(でも、ありうる気にはさせられる・・・それがアシモフのうまいところ) 伏線もうまい具合に撒かれ、意外な真犯人像のリアリティを補完してます。 他作品でも目にしますけど、大学内って、普通の会社以上に人間関係が難しいんだねぇ・・・ (頭のいい人ほど、妬みや上昇志向が強いってことでしょう) 50年以上も前とは思えないほど、出来のいい本格ミステリーなのは間違いのないところ。 分量も手頃ですし、もうちょっと評判になってもいいんではないかな? |
No.581 | 5点 | 沈底魚- 曽根圭介 | 2011/11/11 16:49 |
---|---|---|---|
第53回江戸川乱歩賞受賞作。
「スパイ小説」と呼ぶべきか、「警察(公安)小説」と呼ぶべきか迷う作品。 ~現職の国会議員に中国のスパイがいるという情報によって、極秘に警視庁外事課に捜査本部が設置された。指揮官として警察庁から女性キャリア理事官が派遣されるが、百戦錬磨の捜査員たちは独自に捜査を進める。その線上に浮かんだのは、次期総裁の呼び声高い1人の男だった・・・~ ミステリーとしてのジャンルはともかく、いかにも「乱歩賞受賞作」という感じがした。 主人公は、無頼派の公安刑事。とある事件が発生するが、途中まで事件の構図探しが続き、1つの流れが見えてくる。 解決と思いきや、ラストにドンデン返しが待ち受けて・・・ まぁ、簡単にまとめると、こんな展開のプロット。 いかにも、っていう感じは拭えない。 確かにデビュー作としては達者だと思います。人物造形はちょっと深みに欠けるかなとは思いますが・・・ 公安刑事同士の「化かしあい」という展開も、既視感はあるけれど、まずは及第点でしょう。 けど、スパイっていったい「何重」まであるんでしょう?(二重スパイとか、三重スパイとか出てくるので・・・) まっ、この手のジャンルが好きな方であれば、「味見」をしてみる価値くらいはあるかなと思います。 |
No.580 | 5点 | エデンの命題- 島田荘司 | 2011/11/11 16:48 |
---|---|---|---|
中編2作によるノン・シリーズの作品集。
最近の島田作品によく登場するテーマが本作でも色濃く取り上げられてます。 ①「エデンの命題」=「エデン」とは、当然「旧約聖書」に登場する、アダムとイブが暮らしていた楽園のこと。 ~アスペルガー症候群の子供たちを集めた学園から、少女が消えた。残されたザッカリ・カハネのもとに届いた文書に記されていたのは、世界支配に取り衝かれた民族の歪んだ野望と、学園の恐怖の実態だった。生きるため、学園を脱出したザッカリを待ち受ける驚愕の真実とは?~ う~ん。プロット的には「よくあるやつ」だと思いますねぇ。 主人公宛に残された少女の「手記」が、本作のカギを握っていて、「ユダヤ・コネクション」の暗躍やら野望なんて話は、昔から広瀬隆あたりの本で目にしていた分、「ありうる話」として受け取れた。 ただ、風呂敷を広げすぎた分、カラクリが判明した後の真相は、ちょっと拍子抜けしてしまったが・・・ ②「ヘルター・スケルター」=直訳すれば、「すべり台」という意味ですが、かのビートルズの楽曲名としても有名。 記憶を失っているらしい1人の患者が、美人女医からの「誘導尋問」により、自身の驚愕の過去を思い出していく・・・という趣向。 これも、「眩暈」やら「ネジ式ザゼツキー」等で試みられたプロットの焼き直し感はある。 (スケールは小さいが・・・) ただ、本作はオチがちょっと唐突だし、流れを腹入れする前にネタバラシされてしまった感覚。 (でも、本当にこの年代に脳科学はここまで進歩していたのだろうか?) ①②とも、「クローン技術」やら「脳科学」といった、作者の「研究(?)」分野がテーマになっていて、表紙には堂々と「本格ミステリー」と銘打っているものの、私の志向する「本格ミステリー」とは大きく異なっている作品なのは間違いない。 前回の島田作品の書評(『溺れる人魚』)でも書いたが、やっぱり、ファンとしては御手洗や吉敷が活躍する骨太の「本格ミステリー」が読みたいんですよ! 荒唐無稽でもいいから、「アッと驚く大掛かりなトリック」で・・・ (もうムリかな?) |
No.579 | 7点 | 殺人交叉点- フレッド・カサック | 2011/11/05 21:39 |
---|---|---|---|
フランスミステリ批評家賞受賞作。
創元文庫版では「連鎖反応」を併録。 ①「殺人交叉点」=文庫版あとがきで触れられてるとおり、「最後の一撃」が読者にガツンとくる作品。 ~10年前に起きた二重殺人事件は、きわめて単純な事件だったと誰もが信じていた。殺人犯となったボブをあれほど愛していたルユール夫人でさえ疑うことがなかった。しかし、真犯人は別にいた。時効寸前に明らかになる驚愕の真実とは・・・~ この結末は十分予想できたはずなのに、見事ヤラレてしまった・・・という感じ。 他の方の書評どおり、「叙述トリック」としては初歩的ですが、それだけにスッキリとした後味になります。 (シンプル・イズ・ベストっていうことかな) 確かにねぇ、後から読み返すと、母親との会話(お金の無心に行く場面ね)なんて、違和感プンプンで、うまく騙してる。 最近では、本作をベースにしたかのような作品が溢れてますので、その元祖的作品を味わうのも一興でしょう。 ②「連鎖反応」=愛する女性との結婚を間近に控えた主人公に告げられた、愛人からの妊娠の事実。そこから主人公の苦悩が始まる。主人公が選択したのは、上司の殺害による自身の昇進&昇給。(これで、子供の養育費を捻出しようということ) そして、主人公が望んだ以上の結果が得られ、幸せな未来が見えてきた矢先に・・・訪れる悲劇! これは、皮肉な結末だねぇ。まぁ「勧善懲悪」ということなのでしょうが・・・ 普通なら、○○で終わるところ、本作では、視点人物の「解説(?)」を最後に付け加えてるのが特徴的で面白い。そして、そこにまでラストにサプライズが仕掛けられてる。 なかなか小気味いいし、よくまとまってます。 (①②ともお勧めできる良作というレベル) |
No.578 | 7点 | 妖奇切断譜- 貫井徳郎 | 2011/11/05 21:38 |
---|---|---|---|
「鬼流殺生祭」に続く、朱芳=九条シリーズの2作目。
戊辰戦争に続く、明治維新期の江戸(東京)を舞台に発生した美女の連続バラバラ殺人事件が今回の謎。 ~戊辰戦争の傷跡癒えぬ東京で、美女ばかりを描いた錦絵が評判を呼んでいた。だが描かれた女がバラバラ死体で、それもなぜか稲荷で発見される事件が続発、町に恐怖が広がる。元公家の九条は、捜査に乗り出すが、非道の犯行は止まらない。困惑した九条は病床の友人・朱芳の頭脳に望みを託す。驚愕の結末が待つ傑作推理!~ これはなかなかの問題作。 『被害者は美女ばかり』、そして『体の一部分が欠けている連続バラバラ死体』というと、どうしても連想してしまいますよねぇ。 あの名作、そう「占星術殺人事件」を! 当然ながら、作者もそれを意識しているでしょうから、もちろん同じ仕掛け・トリックを使うわけはないと思いつつ読み進めましたが・・・ 真相にはちょっとビックリ。(ただ、プロットの骨格としてはやや被ってる感はある) キーワードとなった「○○」については、「何だかなぁ・・・」という感想でしたし、「動機」もちょっと納得しがたい。 「真の」犯人は、「まぁそうだろうなぁ」と思っていた人物であり、想定内。 ただ、鬼気迫る異様な姿は相当に印象的で、何とも言えない読後感のある作品だと思う。 カニバリズム的な描写を含め、割とエゲツない箇所もあるので、そういうのが苦手な方はご注意を。 (でも、喜八郎のパートはこんなに長々とページを割くほどの意味はないんじゃない?) |
No.577 | 5点 | 風神雷神の殺人- 阿井渉介 | 2011/11/05 21:36 |
---|---|---|---|
若きエリート警部補・堀進とギャンブル好きのロートル刑事・菱谷のコンビが活躍するシリーズ第2弾。
本作も作者独特の重い雰囲気の作品。 ~「風神雷神の助けでおまえを殺す」。謎めいた脅迫が現実になったかのように、怪異な手口で起こる連続殺人。東京、静岡に次いで4通の殺人予告が列島を震撼させる。動機はなにか。犯人が起こしたと豪語する余部、信楽の列車事故の意味するものは? 捜査一課の名物コンビが凄まじい怨恨に駆られた犯人を琵琶湖畔に追い詰める!~ 本格モノというよりは、なんだか「社会派」作品のような雰囲気。 中盤までは、犯人の狙いも犯人像も全く分からないまま、異様な事件が続いていく展開。 「列車シリーズ」をはじめ、氏の作品の特徴は、とにかく「不可能趣味満載の謎の提起」と大掛かりなトリック。 ただ、本作、トリック的な妙味ではなく、「動機」一本に絞ったかのようなプロットがある意味新鮮ではありました。 ただ、こういう作品の場合、犯人像が判明してしまうと、読み手の興味が半減してしまう功罪はありますが・・・ 余部、信楽の大列車事故は現実の事件ですから、さすがに「トリック」的な仕掛けは無理だったのでしょう。 そういう部分では、氏の作品としては、やや不満の残る内容かなぁ・・・ でも、この「動機」はちょっとリアリティに乏しい気はしますねぇ。 (こういうヤツらは確かに憎むべき存在ではありますが・・・) |
No.576 | 4点 | 名探偵も楽じゃない- 西村京太郎 | 2011/11/03 10:44 |
---|---|---|---|
名探偵パロディシリーズの第3弾。
今回は、高層ホテルの最上階フロアというクローズド・サークルで起こる連続殺人事件が舞台。 ~ミステリーマニアの組織の例会が、会長の経営するホテルで開かれた。特別ゲストはクイーン、メグレ、ポワロ、明智小五郎の4大探偵。その席に自ら現代の名探偵を名乗る青年が闖入、殺人の匂いがあると予言。果たして奇怪な殺人劇が連続して起こってしまう! 世界的名探偵たちはどうする?~ さすがに3作目ともなると、設定自体に無理があるような気がする。 大した分量でもないのに、次々と惜しげもなく起こる殺人事件。 クローズド・サークルでもあるし、本格ファンなら望むべきプロットのはずですが、いかんせん内容が軽すぎる! 今回、自称「名探偵」として登場するのが、その名も「左門字京太郎」。 長身でハンサムなハーフってことは、これって後にシリーズ化される「私立探偵・左門字進」の原型?っぽいです。 で、殺人事件の方は、左門字の推理によって、一旦収束することに・・・ しかし、今回は4大名探偵の影薄すぎ! と思ってると、最後の最後になって、やっと二重構造の事件の背景が4人によって明かされるという趣向。 (これもかなりご都合主義ですが) 決してお勧めできるようなレベルの作品ではありません。 何でシリーズ化しちゃったんですかね。1作だけでやめとけばよかったのに・・・ (因みに、「Yの悲劇」は思いっきりネタばらししてるので、未読の方がいらしたらご注意を!) |
No.575 | 6点 | 813- モーリス・ルブラン | 2011/11/03 10:43 |
---|---|---|---|
アルセーヌ・ルパン物の代表作の1つ。
本作はいわば「前篇」的な位置付けで、結末は「続813」へ・・・という趣向。 ~「ダイヤモンド王」と呼ばれる大富豪・ケッセルバック氏は、全ヨーロッパの運命を賭けた重大秘密を握ってパリへ出た。その全貌を明らかにすべく、怪盗紳士A・ルパンが会見したその夜、氏は何者かに刺殺されてしまった。現場に残されたレッテル『813』とは?手掛かりの人物を恐るべき冷酷さで消していく謎の人物・L・Mを相手にルパンの息づまる死闘が始まる・・・~ 予想よりは面白かった。 これが率直な感想。 もちろん、本作は「前篇」ですから、解答編ともいえる「続813」を読まなければ、物語全体の評価は付かないですが・・・ 事件の鍵を握る人物「ルデュック氏」をめぐって、ルパンと警視庁の辣腕・ルノルマン保安課長、そしてアルテンハイム男爵が三つ巴の頭脳戦を展開するストーリーは、さすがに読み継がれている作品という風格を感じさえします。 そして、ラストの衝撃!・・・ まぁ、ルパン物の定番と言ってしまえばそれまでですが、個人的にはなかなかの衝撃でしたねぇ。 (これって、「叙述トリック」なのかな?) 今回、堀口大学訳の新潮文庫版で読了しましたが、独特の読みにくさはあるものの、気品のあるいい訳文だと思います。 ということで、ストーリーを忘れないうちに「続813」を読むことにしよう! |
No.574 | 5点 | 殺人鬼(角川文庫版)- 横溝正史 | 2011/11/03 10:40 |
---|---|---|---|
金田一耕助登場の作品集。
なかなかバラエテイに富んだ作品が並んだなぁという印象。 ①「殺人鬼」=ある推理作家の目線で事件が描かれる、という当時の作品でよくある趣向。結局、「殺人鬼は誰なのか」が大きな謎となるわけですが、まぁ「こうなるよな」という結末。 ②「黒蘭姫」=デパートに日毎現れ、貴金属を万引きする黒衣の美女。そして、突如発生した2つの殺人事件。金田一が示した解答は、いわば「不幸な偶然」っていうこと。でも、あの女性には罪はないのか? ③「香水心中」=アリバイトリックがメインだが、今読むといかにも古臭いトリック。「動機」もなぁ・・・。女性実業家一家を軸に、なかなか魅力的な設定なのですが・・・ ④「百日紅の下で」=名作と評される短編。確かに雰囲気はよい。ただ、毒殺の「くだり」は読者には推理不可能ではないか? ラストが印象的。この後、金田一は「獄門島」へ向かっていったんだねぇ・・・(へぇー) 以上4編。 やっぱり、名作長編に比べると2枚も3枚も落ちる印象。 短編らしい切れ味に欠ける作品という評価になっちゃいますね。 ④も名作と言うほどのものは感じなかった。 (どれも、戦後すぐという時代背景を感じさせる作品) |
No.573 | 4点 | 靴に棲む老婆- エラリイ・クイーン | 2011/10/29 22:32 |
---|---|---|---|
国名シリーズ後の第2期、ライツヴィルシリーズの合間に発表された作品。
確か、昔ジュブナイル版で読んだ記憶があるのだが・・・ほとんど覚えてなかった。 ~靴の宮殿に住む百万長者の老婆の6人の子供。3人は精神異常者で3人はまとも。そのまともな子供が次々と殺されて、しかも手を下して殺した殺人犯は、真の犯人ではないという、クイーン一流の精緻を極めたプロット。クイーンの転身第2期の作品中の白眉とするに足る名作で、陰惨限りない雰囲気を柔らかな同様のユーモアでくるみ、一種独特の気品が滲み出ている・・・~ プロットは面白いが、何とも中途半端な読後感。 腹違いの兄弟が、時代遅れの決闘を行い、エラリーが空砲とすり替えたはずのピストルから、実弾が発射され、「まともな」方が殺されてしまう。誰が、実弾をすり替え得たか? というのが本作メインの謎。 一旦、納得できる解決が示されたと思いきや、ラストでひっくり返されるという、二重構造の鮮やかさ。 など、さすがに円熟期を迎えたクイーンの技巧の確かさは窺える。 ただねぇ、魅力的な「材料」を生かしきれてないのも事実。 マザーグースは結局どうしたかったんでしょうね? 単なる雰囲気つくりか? 事件の本筋とは全く関係ないため、完全に浮いている印象。 「まともでない」兄弟たちも、「まともでないのか」、「まともでない振りをしているのか」など、読者を惹きこむ役目を果たしていない。 ということで、やっぱり欠点の方がどちらかといえば目立つ作品でしょうね。 (ラストのニッキー・ポーターの逸話には、「へぇー」って思わされた。) |
No.572 | 7点 | 卍の殺人- 今邑彩 | 2011/10/29 22:27 |
---|---|---|---|
作者の長編デビュー作。
最近中公文庫から出た復刻版で読了。 ~萩原亮子は恋人の安東匠とともに彼の実家を訪れた。その旧家は2つの棟で卍形を構成する異形の館。住人も老婆を頂点とした2つの家族に分かれ、微妙な関係を保っていた。匠はこの家との訣別を宣言するために戻ってきたのだが、次々に怪死事件が起こり・・・謎に満ちた館が起こす惨劇は、思いがけない展開を見せる・・・~ 個人的には「好み」の作品。 新本格全盛期に書かれているためか、「奇怪な館」や「複雑な関係を持つ富豪一族」など、いわゆるコード型本格ミステリーのガジェットを詰め込んだ印象。 よって、好きな人は好きだし、毛嫌いする人もいるでしょう。 「館」は出来のいい方じゃないかな。 個人的には、館の平面図を見て、「もしかして○を使ったトリック?」という第一印象を持ったわけですが(→「8の殺人」からのインスピレーション)、なるほど・・・確かに館の特徴をうまく処理している。 伏線もこまめにちりばめているので、気付く人も多いんじゃないかな? 終盤以降、事件の構図が一変するので、その辺りのプロットも、デビュー作としてはよくできてると思う。 (プロローグが思い切りヒントになってるのが、良し悪しだが・・・) ただまぁ、こういう作品を読んでると、「人が描けてない」っていう当時の新本格系作家に対する非難のフレーズが浮かんでしまうのは否めないかな。 (確かに、そのためか人物像があまり浮かんでこない) |
No.571 | 5点 | 新・日本の七不思議- 鯨統一郎 | 2011/10/29 22:23 |
---|---|---|---|
「邪馬台国はどこですか」、「新・世界の七不思議」に続く歴史ミステリー第3弾。
いつものバーではなく、今回は日本のあちこちへ出張して歴史バトル(?)を繰り広げる。 ①「原日本人の不思議」=日本人の定義に関する謎。縄文人と弥生人は違う人種というのはよく耳にする話ですが、じゃあ日本人ってそもそもどういう人と聞かれると困りそう。 ②「邪馬台国の不思議」=このテーマは前々作でも喧々諤々議論したはず。で、今回は宮田が「ここが邪馬台国のあった場所」とした地へ出張。別に新しい説を持ち出しているわけではない。 ③「万葉集の不思議」=この時代の謎の人物として度々登場するのが「柿本人麻呂」。梅原猛をはじめ、多くの研究者がいろいろと自説を発表していますが、宮田の説は「人麻呂=○原○○○」。確かに十分ありうる気はする。 ④「空海の不思議」=伝説の超人「弘法大師=空海」についての謎。宮田の説は、「空海=○○人」。数々の伝説を見てると、スゴイ人物だったことは分かりますけど・・・今回は高野山へ出張。 ⑤「本能寺の変の不思議」=これまた、前々作に続いて信長に関する謎ということで、今回は桶狭間へ出張。大河ドラマなどでは、信長の勇猛果敢な人物像を前面に押し出すための逸話のはずの「桶狭間の戦い」が実は・・・ ⑥「写楽の不思議」=この人もよく登場しますねぇ・・・東洲斎写楽。ミステリーでも高橋克彦や島田荘司が独自の説を展開してますが、宮田の説は割とノーマルなやつ。 ⑦「真珠湾攻撃の不思議」=これはまぁ、謎っていうか罪だよなぁ。近代史を読んでると、何とも言えない大きな「うねり」というか、誰も抗えないような「流れ」を感じてしまう。 以上7編。 今回は、前2作とは異なり、新説(?)を持ち出して議論を行うというスタイルではなく、現地へ赴いての「検証」って感じ。 てことで、ミステリー的な面白みや刺激には正直乏しい。 もしかしてネタ切れ? じゃないとは思いますが、次作は2人の火花散る歴史バトルが読みたいね。 |
No.570 | 6点 | わらの女- カトリーヌ・アルレー | 2011/10/26 21:03 |
---|---|---|---|
フランス人女流作家によるサスペンスミステリー。
1人の女性の心理が読者に迫る有名作です。 ~独・ハングルグで翻訳の仕事をする聡明な女性・ヒルデガルデ、34歳独身。彼女はいつの日か幸運をもたらす結婚を、と新聞の求縁広告を虎視眈々とチェックする日々をおくっていた。『当方、莫大な資産アリ、良縁求ム。ナルベクハンブルグ出身の未婚ノ方・・・』 これがすべての始まりだった。知性と打算の生み出した見事な手紙が功を奏し、南仏に呼び出された彼女。億万長者の妻の座は目の前だったが、そこには思いもよらぬ罠が待ち受けていた~ 確かに面白いし、よくできている。 初版が1956年(昭和31年)ということを勘案すれば、驚くべきクオリティというべきでしょう。 ようやく狙い通りに妻の座を射止めたヒルデガルドの前に、突如現れた困難と挫折・・・それでもそれを乗り越えようと奮戦する彼女・・・ この辺りは、サンペンスものの良さがよく出てますし、頁をめくる手が止まらなくなります。 ただねぇ、やっぱりこれだけ「ドンデン返し」に読み慣れた身にとっては、何となく消化不良の感があるのも事実。 これはこれで、余韻を残して、きれいなラストかもしれませんが、もう一捻り欲しいというのが本音ですねぇ。 事件のカラクリが判明する場面もちょっと早すぎる気が・・・(おまけに十分予想の範囲内) これだったら、最後の最後で真相判明! という方が読者ウケはいいでしょう。 トータルの評価としては水準+αってことになっちゃいました。 |
No.569 | 6点 | 傍聞き(かたえぎき)- 長岡弘樹 | 2011/10/26 21:02 |
---|---|---|---|
2008年の日本推理作家協会賞短編部門受賞作である表題作を含む作品集。
氏の作品を読むのは初めてですが・・・評価は如何に? ①「迷走」=救急隊員が主人公。怪我人を病院へいち早く運ばなければならない筈の救急車を、隊長が病院の周りをうろつかせていた理由とは、というのが本作のテーマ。最初は登場人物の相関関係がよく分からなかったが、最後は納得。でも、他にいい方法あるんじゃない? ②「傍聞き」=『かたえぎき』とは、『傍らにいて、人の話を聞くともなしに聞く』こと。自分の耳で直接聞くよりも、人が話をしていることを傍で聞くことの方が真実味を感じるという人間心理が本作のテーマ。さすがに、協会賞受賞作らしく上質な作品で、オチも見事。 ③「899」=消防士が主人公で、タイトルは火災現場での要救助者を意味する。火災現場に取り残された筈の乳児が突然消えた理由は、というのがテーマ。乳児の体に残った1つの特徴から、事件の背後にあったものが明らかになる・・・ラストは爽やか。 ④「迷い箱」=元受刑者の受け入れ施設が舞台。再就職が決まり新しい人生を歩む筈だった男が自殺を図った理由とは、というのがテーマ。捨てるに捨てられないものを一旦入れておくための箱、がタイトルの意味。ラストで判明する、無口な男の本音がやりきれなさを誘います。 以上4編。 どれもなかなかの出来。短編らしい小気味いいプロットと切れ味、そしてラストの余韻を感じる作品が並んでます。 (4編とも、自分を犠牲にしても他人を助ける職業の現場を舞台に、ある登場人物がとった不可解な行動がミステリの核になるという仕掛け。) ただ、あまりにも作風がカブりすぎでしょう・・・「横山秀夫」と! 作者名を伏せられて読んだら、これ絶対横山秀夫の作品だと思ってましたねぇ。 他作品がどうなのか分かりませんが、そこはどうしても気になる。 (やはり②が一番の秀作。④もなかなか) |
No.568 | 5点 | 麦酒の家の冒険- 西澤保彦 | 2011/10/26 21:00 |
---|---|---|---|
タック&タカチシリーズの実質第2作目。
長編で安楽椅子(アームチェア・ディテクティブ)パズラーに挑んだ野心作(?) ~ドライブの途中、4人が迷い込んだ山荘には、1台のベッドと冷蔵庫しかなかった。冷蔵庫には、エビスのロング缶と凍ったジョッキ。ベッドと96本のビール、13個のジョッキという不可解な遺留品の謎を酩酊しながら推理するうち、大事件の可能性に思い至るが・・・~ 作者のチャレンジ精神は買うが、作品としてはあまり魅力を感じなかった。 それが正直な感想。 トライ&エラーで、推論を作っては壊していく中盤が、やはり冗長でクドイ。 推理の材料がベッドとビールだけというのでは、あまりに推論の要素が大きすぎるのが問題点なのだと思う。 作者がお手本としたH.ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」も名作ではあるが、個人的にはあまり面白みを感じなかった作品。 それも、推論部分が大きすぎて、作者の匙加減でどうとでも結論付けられるところが合わなかったのだろう・・・ 安楽椅子探偵物は、やはり短編にしか向かないスタイルなのでしょうし、本作も本来は短編向きのプロット。 まぁ、でもこういう荒唐無稽なストーリーは作者ならではっていう気はしますが・・・ (そういやぁ、最近エビスなんて飲んでないなぁ・・・発泡酒やら第3のビールばかり・・・) |
No.567 | 7点 | 騙す骨- アーロン・エルキンズ | 2011/10/21 14:13 |
---|---|---|---|
スケルトン探偵シリーズの最新作(この時点で)かつ第16作目。
今回の舞台はメキシコ南部の田舎町。 ~妻ジュリーの親族に招かれメキシコの田舎を訪れたギデオン夫妻。だが、平和なはずのその村で、不審な死体が2体も見つかっていた。銃創があるのに弾の出口も弾自体も見当たらないミイラ化した死体と、小さな村なのに身元が全く不明の少女の白骨死体だ。村の警察署長の依頼で鑑定を試みたギデオンは、次々と思わぬ事実を明らかにするが、それを喜ばぬ何者かが彼の命を狙い・・・~ 「さすが!」とでも言いたくなる良作。 実は本シリーズを読んだのは初めてだったわけですが、16作目でこのクオリティとは恐れ入ります。 ギデオンやジュリーのキャラクターや、登場人物との掛け合いなども翻訳作品とは思えないほどの読みやすさで、スッと頭に落ちてくる感じ。 「骨」を鑑定するたび、事件の様相が次々に切り替わり、最終的には「見事ミステリー的に」収束させる手際にも感心しました。 ただ、難を言えば、やはり「謎」のほとんどが、「骨」経由で判明しているため、読者としては直接の推理が不可能なところでしょうか。 (もちろん、あくまでミステリーですから、恐らくは主要登場人物が何らかの形で関わっているのだろうとの予想はつきますが・・・) そういった短所を勘案しても、読む価値は十分。 (外国人の名前は頭に入りにくいが、ラテン系の名前は特に覚えにくい。せめて作中表記はファーストネームで統一するとかしてもらえれば・・・) |
No.566 | 3点 | 遭難者- 折原一 | 2011/10/21 14:11 |
---|---|---|---|
長らく続いている作者の「~者」シリーズの1つ。久々に再読。
2分冊「箱入り」という何とも珍しい本。(出版社泣かせじゃない?) ~北アルプスの白馬岳から唐松岳に縦走中の難所で滑落死した青年・笹村雪彦。彼の山への情熱をたたえるため、彼の誕生から死までを追悼集にまとめることになった。企画を持ちかけられた母親は、息子の死因を探るうち、本当に息子は事故死なのだろうかと疑問を抱き始める。登山記録、山岳資料、死体検案 書などが収められた追悼集に秘められた謎、謎、謎・・・~ 実に変わった本です。 本作の他にも、『前からでも後ろからでも読める本』(「倒錯の帰結」や「黒い森」)などもあり、「変なこと考える」作家ですよ、折原は! ただし、本作はこのアイデアのみといってもいい凡作。 いつもの折原作品らしく、リポート風の手記やら昔の文集やらといったものがつぎつぎ登場し、いかにも「罠」が張ってますよというニオイ・・・ でも、この真相では「騙され感」がまるでない。 伏線が張られてるというわけでもないので、読者が予測できる材料も乏しくて、何となく「怪しい奴」と思っていた人物が、予想通り「意外な犯人」として究明される始末とは・・・ 「~者」シリーズは、まあまあの佳作と凡作が入り混じってますが、本作は明らかに「読むだけ時間の無駄」というべきレベル。 (まぁ、ファンなら「珍品」としてどうしても手に取ってしまいますけどね) |