皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1836件 |
No.1216 | 5点 | そして医師も死す- D・M・ディヴァイン | 2016/04/02 00:35 |
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1962年発表。
「兄の殺人者」に続いて発表された作者の第二長編。 原題は“doctor also die”とそのまんま・・・ ~診療所の共同経営者ヘンダーソンが不慮の死を遂げて二か月がたった。医師のターナーは、その死が過失によるものではなく、何者かが仕組んで事故に見せかけた可能性を市長のハケットから指摘される。もし他殺であるなら、かなり緻密に練られた犯行と思われた。ヘンダーソンに恨みや嫌悪を抱く者は少なくなかったが、機会と動機を兼ね備えた者は自ずと限られてくる。未亡人ともども最有力の容疑者と目されたターナーは独自の調査を始める・・・~ いつものディヴァイン節だが・・・ 名作の誉れ高い前作(「兄の殺人者」)や後の著作に比べると、出来としてはイマイチかな、と感じた。 ごく限られた世界(いわゆるクローズド・サークルだな)で展開する物語、奇をてらったトリックや複雑なプロットは全くないシンプルな謎解き、類まれなる人物描写の技・・・etc 本作でも作者の強みはいかんなく発揮されてはいる。 されてはいるのだが、何ともまだるっこしい・・・ 主人公のアラン・ターナーがこれまたとびっきりの優柔不断ぶり。 二人の美女に挟まれて、行ったり来たりしながら、事件の調査にも真剣になったり、投げ出したり・・・ と思うと、残り二十頁ほどになってようやく真相に思い当たるのだ。 確かに「論理の穴」をめぐる推理は旨いし、それなりの納得性はある。 あるのだけど・・・今さらそれに気付くか? という気がしてしまうのは私だけだろうか? 解説の大矢氏も書いているとおり、非常にトラディショナルな純英国風ミステリー。 こういう奴が好きな人には堪らないのかもしれない。 個人的にディヴァイン自体は決して嫌いではないのだが、本作はあまり評価できなかった。 (皮肉の効いたラストがやや印象に残った・・・) |
No.1215 | 6点 | 玉村警部補の災難- 海堂尊 | 2016/04/02 00:34 |
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「ナイチンゲールの沈黙」などに登場した警察庁の“デジタル・ハウンドドック(電子猟犬)”こと加納警視正と、警視正にこき使われる哀れな中年刑事・玉村警部補のコンビが贈る連作短篇集。
要は、最近はやりの「スピンオフ」ってやつだ。 2012年発表。 ①「東京都二十三区内外殺人事件」=東京都と神奈川県の境界線付近で発見された不審な死体をめぐるお話。日本においては正確に機能している監察医制度が東京二十三区にしかないという、作者が従来より主張している内容がテーマ。白鳥とふたりして○○をエッチラオッチラ運ぶ田口の姿を想像すると可笑しい・・・ ②「青空迷宮」=桜宮のサクラTVの名物番組で起こった殺人事件。巨大迷路という密室の中で誰も殺せたはずのないところに死体が・・・っていうと実にまともなミステリーっぽいが、本当にミステリーなのである。ロジックで犯人を追い詰める加納が強烈。 ③「四兆七千億分の一の憂鬱」=DNA鑑定がテーマの作品なのだが、この数字はDNA鑑定で同じ型が登場する可能性を表している(とのこと)。これも完璧と思えたトリックを無理矢理崩す加納と、それに付き合わされる玉村が強烈。 ④「エナメルの証言」=やくざの焼死体なら、歯型さえ一致すれば解剖されない・・・という司法の悪癖を付いた問題作!っていう感じか。これも「死因不明社会」に警鐘を鳴らす作者らしい作品と言える。まるでアーティストのような“坊や”のキャラがなかなか良い。 以上4編。 何だかはしゃぎ過ぎのような作品集。 いつものように「桜宮サーガ」の登場人物たちが大暴れするのだが、今回は主に「死因」にスポットを当てた作品が並んでいる。 そして数々の事件の捜査に当たるのが、デジタル・ハウンドドック=加納警視正! (普通警視正は直接捜査に当たらないよなぁー) 相変わらず独特のリズム感ある展開とプロットで読者をグイグイ引っ張る。 はしゃいではいるものの、時折専門的な話を出し、単なるエンタメ小説ではないことを主張する。 旨いもんです。 小粋な短篇集いっちょ上がり!!・・・っていう感じかな。 (ベストは①だろうが、④も捨て難い) |
No.1214 | 6点 | その鏡は嘘をつく- 薬丸岳 | 2016/04/02 00:33 |
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連作短篇集「刑事のまなざし」に登場した東池袋署・夏目刑事。
忌まわしい過去を持ちながら、刑事として人間として真正面から事件と対峙する男。 そんな夏目刑事を探偵役とした初の、そして続編としての長編作品。 2013年発表。 ~鏡ばかりの部屋で発見されたエリート医師の遺体。自殺とされたその死を、切れ者と評判の検事・志藤は他殺と疑う。その頃、東池袋署の刑事・夏目は同日現場近くで起こった不可解な集団暴行事件を調べていた。事件の鍵を握るのは未来を捨てた青年と予備校の女性講師。人間の心の奥底に光を当てる、作者ならではのミステリー~ 実に作者らしいテーマの作品。 デビュー作「天使のナイフ」以来、事件の背景や動機に拘った作品を上梓し続けている作者だが、本作でも重いテーマをぶつけてきた。 “医師となる宿命を背負った若者たち”の苦悩と痛み・・・これこそが本作で提示された「現実」。 他人を命を預かるという重い責任を負うのが医師という職業のはずなのだが、現実はさにあらず・・・ということなのだろう。 冒頭から複数のストーリーラインが進行していく展開。 主役である夏目のほかに、本作ではもうひとりエリート検事の志藤が登場し、ふたりの捜査が別々に触れられる。 それらがどう絡み合っていくのかがプロットの主軸。 殺人事件と暴行事件、三人の予備校生と女性講師、冤罪の痴漢事件・・・ ばらばらに見えた幾つもの事実がひとつに収斂していくとともに、目を背けたくなるような背徳の事実が浮かび上がってくるのだ。 この辺りは作者の十八番ともいえる技だろう。 すでに地上波ドラマ化もされた本シリーズ。 それはやはり夏目の魅力に負うところが大きい。 本作と同時期に連作短篇集「刑事の約束」も発表されており、そちらも手に取る予定。 出来としては正直なところ前作のほうが上だと思うが、こちらも読み応えはあり。 (被害者の行動はかなりちぐはぐで理解し難いのと思うのだが・・・) |
No.1213 | 4点 | マーチ博士の四人の息子- ブリジット・オベール | 2016/03/22 21:32 |
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1992年発表。
作者はフランスの女流作家で、本作を含めて四作の長編小説を著している。 で、本作がデビュー作に当たる(とのこと)。 ~医者のマーチ博士の広壮な館に住みこむメイドのジニーは、ある日たいへんな日記を発見した。書き手は生まれながらの殺人狂で、幼い頃から快楽のための殺人を繰り返してきたと告白していた。そして自分はマーチ博士の四人の息子・・・クラーク、ジャック、マーク、スターク、の中のひとりであり、殺人の衝動は強まるばかりであると! フランスの新星オベールのトリッキーなデビュー作~ 前々から気になっていた作品を読了したわけだが・・・ 紹介文ほど魅力的な作品ではなかった。 そんな読後感。 全編つうじて、『殺人鬼』と称する男(=マーチ博士の四人の息子のうちのひとり)とメイドのジニーが書き付けを通してやりとりするという展開。 「書き付け」や「手紙」ベースのミステリーというと、どうしても叙述系のトリックが仕掛けられているのだろうという先入観になってしまう。 そういった目線で読みすすめたわけなのだが・・・ 如何せん途中の展開がまだるっこし過ぎ!! ふたりのやり取りを通じて徐々にサスペンス感を盛り上げてるのだろうとは思うが、ここまで重ねられるとちょっとゲンナリ。 ラストの“ひっくり返し”はなかなか綺麗に決まっているだけに、そこが惜しいという感想になる。 ただ、「帯」のコメント(「驚愕保証のサプライズ・ミステリ!!」)は煽り過ぎだろう。 正直、そこまでではない。 ということで、書店で本作を手にして買おうか迷ってるのなら・・・あまりお勧めはしません。 (でもまぁそれは個人的な感想ですから・・・。人それぞれだとは思います) |
No.1212 | 7点 | 探偵ガリレオ- 東野圭吾 | 2016/03/22 21:31 |
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1996年より「オール讀物」誌に断続的に発表され、1998年に単行本化された連作短篇集。
などという紹介はもはや不要だろう。 「実に面白い!」という台詞をカッコ良く決める福山雅治の姿がすぐに目に浮かぶ天下の「ガリレオシリーズ」の記念すべき第一作目。 今さらながら手にとってみた次第・・・ ①「燃える」=突然人間の頭が燃え上がる・・・そんな不可思議な現象を扱ったシリーズ第一作目(地上波でも第一話だったよね)。湯川と草薙の名コンビが生まれた瞬間でもあるわけで・・・。 ②「転写る(うつる)」=ゴミの浮かんだ汚れた池から上がった金属製のデスマスク。いったいどうやったらこんな精巧なデスマスクができるのか? 事件の真相自体は小粒なのだが・・・ ③「壊死る(くさる)」=どうやって死んだのか分からない死体が風呂場で発見される。事件の渦中にはある女性と、その女性を一心に慕う男性が・・・っていうと「容疑者X」のパイロット版だろうか、などと考えてしまう。 ④「爆ぜる(=はぜる)」=湘南の海で突如として上がった火柱と別の現場で起きた殺人事件が結びつくとき・・・。爆発の原因はある化学物質なのだが、事件の背景には理系の男たちの現実があった・・・ ⑤「離脱る(=ぬける)」=見えるはずのない赤い車を見た少年。夢うつつの状態だった少年は本当に幽体離脱したのか? 苦手とする子供を相手に奮闘するガリレオの姿っていうと「真夏の方程式」に通じるけど・・・ 以上5編。 もはや書評するに及ばないような超有名作となった本作。 理系云々ということは作中で草薙刑事が再三言っているけど、あまりそういうことは気にならなかった。 これもまた端正な本格ミステリーと称してよいだろう。 作者の作品についてはこれまで「加賀恭一郎シリーズ」を中心に読んできたのだが、人間臭さを前面に押し出した「加賀シリーズ」ととにかく“科学的・ロジカル”に拘った本シリーズは好対照という感じだ。 どちらのシリーズもそつなくうまい具合に処理してしまう東野圭吾! やはりさすが!としか言いようがない。 「天才」という評価に相応しい作品。 (個人的には④が好き。あとは①かな) |
No.1211 | 5点 | 伊藤博文邸の怪事件- 岡田秀文 | 2016/03/22 21:29 |
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「本能寺六夜物語」や「太閤暗殺」など歴史小説で有名な作者が初めて著したミステリー。
月輪龍太郎を探偵役とするシリーズの一作目でもある本作。 2013年発表。 ~明治十七年、伊藤博文邸の新入り書生となった杉山潤之介の手記を小説家の「私」は偶然手に入れた。そこに書かれていたのは、邸を襲った恐るべき密室殺人事件の顛末だった。奇妙な住人たちに、伊藤公のスキャンダル・・・。不穏な邸の空気に戸惑いつつも、潤之介は相部屋の書生・月輪龍太郎とともに推理を繰り広げる。本格ミステリーの傑作、シリーズ第一弾!~ 確かに本格ミステリーとしての体裁は十分に整えている。 そういう読後感だった。 作者の本業とも言える歴史小説を背景に、密室殺人に終盤にアッと驚くサプライズ(○○○りトリックなのだが)など、本格ミステリーのガジェットを組み込んでいるのだ。 「歴史小説」部分に関してはさすが。 どこまでがフィクションでどこまでが史実なのかは分からないけど、伊藤博文を中心として維新の熱気冷めやらぬ明治時代中期という魅力的な設定。明治憲法草案に係る歴史的背景など、歴史好きの私にとってもなかなか興味深く読ませていただいた。 (津田うめや川上貞奴に関してはううーん?!だけど) 問題はミステリー部分なのだが・・・ まず「密室」はまったくもっていただけない。 この程度でお茶を濁すのであれば、最初から密室、密室と煽らない方がよいと感じた。 終盤のサプライズについてはさすがに驚かされた。 シリーズ第一弾でのこの手の“仕掛け”は別作品で読んだばかりなんだけど、一定の破壊力はある。 (森博嗣のアノ作品!) ただトータルとしてはどうかな・・・。ちょっと微妙な感じはする。 盛り上げ方が下手ということかもしれないけど、本業ではないから致し方ないかなという気もする。 要はちょっと中途半端ということなのだろう。 |
No.1210 | 5点 | 赤い列車の悲劇- 阿井渉介 | 2016/03/13 16:36 |
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1991年発表の「不可能犯罪シリーズ」七作目。
本作では牛深警部とコンビを組む“天敵”松島刑事が一切登場しない・・・というのが珍しい。 ~嵐の朝、岐阜・富山両県にまたがる神岡鉄道を走る「おくひだ一号」の運転士は、あるべき場所に駅がなく、線路まで消えていることに驚く。一方、終着駅の駅員は列車が乗客とともに消失したことを知らされる。だが、駅・線路・乗客・車両の四重消失は不可解極まる事件の発端でしかなかった。犯人からはビデオテープを全国のTVで放送せとの奇妙な要求が!~ 列車を舞台とした壮大なトリックと社会派的背景のミックスが特徴の本シリーズ。 走行中の列車から車両が一両だけ消えた前々作「列車消失」や、一車両の乗客が全員消えた前作「Y列車の悲劇」など、とにかく「無理だろう・・・」という不可能を可能に変えてきたシリーズなのだが・・・ 本作は何と、①駅②線路③乗客④車両、の四重消失というスケールのデカさ! 何もここまでやらなくても・・・と思わざるを得ないのだけど、ミステリー好きならやはり期待してしまう設定。 でもこれはなぁ・・・ 敢えて「動機」や「背景」の問題には触れないけれど、ひとことで言えばズバリ「絵空事」だ。 事件に関わった人数でいうと過去最大級ではないか? トリックの説明は相当あっさり片付けられてるし、そもそも人間の五感ってそこまで鈍感ではないだろう。 (走行中の列車を○○して、○○するなんて、あまりにも荒唐無稽ではないか?) 「動機」には触れないって書いたけど撤回。 この動機は理解不能だし、これでは壮大なトリックの必然性がまるでないことになる。 シリーズものは回を追うごとにスケールアップしていくのかもしれないけど、リアリティも大事だよなぁー これは本格ミステリーというよりは一種のファンタジーなのかもしれない。 最終章で牛深警部と真犯人が酒を酌み交わすシーンがあるのだが、要はこれが書きたかったのかな、作者は。 いずれにしても高い評価はできない。 |
No.1209 | 4点 | カーテンの陰の死- ポール・アルテ | 2016/03/13 16:35 |
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「第四の扉」「死が招く」につづく<ツイスト博士シリーズ>の三作目。
本作でも敬愛するJ.Dカーばりの不可能犯罪がテーマ(と思われる)。 1989年発表。 ~頭皮を剥いだ刺殺体が発見された。殺人現場に偶然居合わせたマージョリーは、犯人と同じ服装をした謎の人物が自分の下宿に入っていくのを目撃する。この下宿屋には曰くのありそうな人物たちが住み着いていた。変人のピアニスト、若い新聞記者、自称作家、酒浸りの老医師、盲目の元美容師・・・。続けて住人がカーテンで仕切られた密室状態の玄関で、背中にナイフを突き立てられ殺害されるに及び、ハースト警部とツイスト博士が捜査に乗り出すが、状況は七十五年前に起きた迷宮入り事件とそっくり同じだった・・・~ 何かどうもバランスの悪さが目に付く作品だった。 他の方もご指摘のとおり、一作目・二作目よりも明らかに出来は劣っている。 (生憎次作以降未読のため、シリーズ通して劣後しているのかは不明だが・・・) 誰にもできたはずのない殺人や頭皮を剥がされた死体など、今回も作者らしい展開は健在。 なかでも二番目の密室殺人が本作のメインなのだろう。 しかし、この密室トリックが相当ビミョー、というかかなり適当! 見取り図入りで示された殺人現場は、誰も侵入不可能&脱出不可能という状況。 どんなトリックなのかと思いきや、まさかの○○とは!! これって、もしかしてカーのあの有名トリックからのインスパイアなのだろうか?? 確かにビジュアルで言えば似てなくもないのだけど・・・でもあまりにも出来が違いすぎる! 他の二つの殺人の動機も問題。 動機は二の次なのはいいのだけど、ここまでリアリティがないのは如何だろうか。 などなど、突っ込みどころは尽きない。 まぁよい。シリーズもの書いていれば、作品ごとの出来不出来は当然起こる。 次作以降に期待というふうに寛大に捉えておこう。 (エピローグの付け方は工夫の跡が窺える。まさに因果応報っていうことだよね・・・) |
No.1208 | 6点 | 教場- 長岡弘樹 | 2016/03/13 16:34 |
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希望に燃え警察学校初任科第九十八期短期過程に入校した生徒たち。彼らを待ち受けていたのは、冷厳な白髪教官・風間公親だった!
2013年発表。その年の「週刊文春ミステリーベストテン」国内部門第一位に選ばれた作品。 短篇ミステリーの新たな旗手が贈る連作短篇集。 ①「職質」=主人公は教師という職を捨て、警察学校へ入校した宮坂。恩義のある警察官の息子・平田を常に気にかける宮坂だったが、思わぬ事態に巻き込まれる。そして、風間との出会いが・・・ ②「牢間」=主人公は楠本しのぶ。そう女性警官を目指す女性。優秀なデザイナーだった彼女が警官を目指すのには大きな理由があった・・・。その理由に大きく関係する一枚の写真の欺瞞について、風間がある指摘を・・・ ③「蟻穴」=主人公は白バイ警官を志す男・鳥羽。隣り部屋の稲辺と心通わすようになった鳥羽だが、ある事件の際ついた一つの嘘が稲辺を苦しめることになる。それはやがて自身への報復という形で帰ってくることに・・・ ④「調達」=主人公は元ボクサーの日下部。三十歳を超え警官を目指す彼にとっては、良い成績で卒業する必要に迫られていた。そんなさなか、年下の樫村とコンビで警備担当をすることになったが、あらぬ疑いをかけられることに・・・ ⑤「異物」=主人公は四輪の運転技術が随一の男・由良。一匹狼をきどり、決して他人に与しない彼には過去に起因する苦手なものがあった。それが黄色いある「異物」・・・。ここでの風間はかなりいい人。 ⑥「背水」=主人公は本作で唯一冒頭から登場していた生徒・都築。生徒総代を目指す彼に突然訪れた体調の変化。卒業文集の委員になった彼の下には①~⑤の主人公たちの文章が集まってきた。それを読んだ風間が放つ言葉に・・・ 以上6編。 「警察学校」というのは意表をついた舞台。 世間から隔絶されたある種異様な世界と、そこが似つかわしい異様な人物・風間。 警官を目指す若者たちの屈折した心理と、それを元に巻き起こる事件・・・ やはり新たな短編の名手という冠に偽りはなし。 確かに旨い。でも、何か足りない気がするのは私だけか・・・ それが何かはよく分からないのだけど、横山秀夫との比較ではやはり一枚も二枚も劣る、というのが感想。(まぁ当然かもしれないが) 好評を受けてパートⅡが出版されたとのことで、とりあえず続編は手に取るだろうな・・・ (他の方も書いてたけど、確かに「ジョーカー・ゲーム」シリーズと雰囲気が何となく似ている感はする) |
No.1207 | 6点 | 宰領- 今野敏 | 2016/03/05 20:48 |
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警視庁大森署署長・竜崎伸也を主人公とする「隠蔽捜査」シリーズ最新作。
シリーズも本作で第五弾ということで、作者を代表する人気シリーズといっても過言ではないだろう。 2013年発表。 ~衆議院議員が行方不明になっている。伊丹刑事部長にそう告げられた。牛丸真造は与党の実力者である。やがて、大森署管内で運転手の他殺体が発見され、牛丸を誘拐したと警察に電話が入る。発信地が神奈川県内ということで、警視庁・神奈川県警の合同捜査が決定。指揮を命じられたのは一介の署長にすぎない竜崎伸也だった。反目するふたつの組織、難航する事件の筋読み。解決の成否は竜崎に委ねられた!~ “今回も竜崎にブレなし”・・・まさにその言葉がピッタリハマる。 シリーズも五作目に入ったのだが、ますます竜崎のキャラクターに磨きがかかったような印象すら覚えた。 本作では、今や多くの人が知るところとなった警視庁と神奈川県警の冷戦状態が舞台。 さすがの竜崎もやりにくいに違いない・・・と思いきや。 ますます冴え渡るロジカルシンキング! っていう感じなのだ。 もはや私にとって本シリーズはミステリーでも警察小説でもなく、ビジネス書またはハウツー本なのかもしれない。 組織に生きる人間としてどう振舞うべきか。 サラリーマンとして日々過ごしている者にとっては毎日頭を痛めることも多いと思う。 きっと多くの方がネガティブな感情を持ちながらも、組織のしがらみに縛られた窮屈な普段に身をやつしているのだろう。 かくいう私もそう。 部下はきっと見ているのだろうなぁー。そして優柔不断な上司の姿に幻滅しているのかもしれない。 もちろん現実は小説のようにうまくはいかないけれど、たまには竜崎のように原理原則を貫く、格好いい上司でありたい。 そんなことを考えさせられた一冊。 ミステリーとしてはそれほど複雑なプロットがあるわけでもなく、ラストのドンデン返しもやや唐突感はあり。 「果断」にも登場したSATの下村隊長が今回もいい仕事をしているし、伊丹や野間崎も相変わらず。 とにかくシリーズファンにとっては必読なのは間違いなし。次作も期待大。 (邦彦もよかったね・・・) |
No.1206 | 6点 | 幽霊列車- 赤川次郎 | 2016/03/05 20:47 |
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1978年発表。警視庁捜査一課勤務、40歳でやもめの刑事と美しい(?)女子大生コンビが主役を務める連作短篇集。
特に表題作は作者がミステリー作家となるきっかけともなった重要な作品。 今回、文春文庫で復刊された版で読了。 ①「幽霊列車」=シリーズ一作目という記念碑に相応しい一編。走る列車から八人の乗客が忽然と消えてしまった謎がメインテーマなのだが、ユーモア風味とは異なり真相はなかなかブラック。長らくコンビとなる二人の出会いという意味でも重要な作品。 ②「裏切られた誘拐」=“誘拐”テーマのミステリーもいろいろと目にしたけれど、本作に類似したプロットはお目にかかったことはないなぁー。物事を一面だけから見てはいけない・・・という教訓でしょうか? でもこれって真犯人の自己負担も大きいけど! ③「凍りついた太陽」=バカンスに訪れた避暑地で二人が遭遇する殺人事件なのだが、死因は何と「凍死」! ホテルの大型冷蔵庫が現場だと判明したものの、そこには二重三重のドンデン返しがあった! ④「ところにより、雨」=雨でもないのにレインコートを付け、傘を持っている死体! これが連続殺人事件の被害者の共通項・・・というのが本編の謎。これも逆説的発想が事件解決の鍵となるのだが、設定の無理矢理感はともかくプロットは面白い。 ⑤「善人村の村祭り」=これも結構ブラックな一編。正月休みで二人が訪れた“善人村”が舞台となるのだが、村人は名前のとおりみんな善人なのだが、なぜか奇妙な出来事が続き、やがては大事件に遭遇することに・・・。どこかで見たプロットではあるけど・・・ 以上5編。 さすがは赤川次郎・・・という感じだ。 冴えない中年男と美しく頭も切れる女性のコンビというと、後に出世作となった「三毛猫ホームズ」シリーズを彷彿させるけど、何とも言えないほど安定感を感じさせるし、リーダビリティも半端ない。 結構シリアスでブラックなオチもあるのだけど、読後感は全然そんなことは感じさせない軽妙さもさすが。 プロットもまずまず練られてるし、短編らしい切れ味のある作品も揃っている。 逆説的な風味もあるし、まずは水準以上の出来と評して差し支えないだろう。 とにかく楽しめる作品なのは間違いなし。 シリーズ作品も機会があれば手にしていきたい。 (ベストはやはり①だろう。次点は④かな。②もまずまず) |
No.1205 | 5点 | バースへの帰還- ピーター・ラヴゼイ | 2016/03/05 20:46 |
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1995年発表の長編。
ピーター・ダイヤモンド元警視を主人公とするシリーズでは三作目となる作品。 ~深夜、元警視のダイヤモンドはかつての職場の警察署に呼び出された。四年前、ダイヤモンドが女性ジャーナリスト殺人事件で逮捕した男マウントジョイが脱獄し、副本部長の娘を誘拐したうえ、交渉相手にダイヤモンドを指名してきたという。マウントジョイとの会見に赴いた彼は、そこで四年前の事件の再捜査を要求される。やがて埋もれていた事実がつぎつぎと・・・。英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞を受賞したシリーズ会心作!~ どうも何というか・・・しっくりこなかった。 というのが率直な感想 解説者の二階堂黎人氏は本格ミステリー度の高さを本作の特徴として上げているが、どうもその辺が??なのだ。 早川文庫版で400頁を超える当たりでようやくダイヤモンドの推理が開陳されるわけだけど、真犯人については唐突感たっぷり。正直、「こんな奴いたっけ?」としか思えなかった。 伏線らしきことの指摘もあるのだけど、そこに気付くのは相当ハイレベルというか無理だろう。 では本格ミステリー以外の部分はどうかというと、それも中途半端。 警察小説的な丁寧な捜査行としての一面も備えてはいるにしてもそれがウリとまではいかない。 なによりムダな描写や箇所がどうしても目についてしまった。 これしきのプロットならこれほどの分量は必要なかったのではないか? どうも感覚的な評価ばかりで、ミステリー的側面にふれてない気はするけど、如何せん冗長さを感じた次第。 他の方の評価が割と高いので気は引けるけど、これは「合うor合わない」の問題だろう。 もちろん著名な賞の受賞作だけあって、達者な筆致&表現力だし、ダイヤモンドとジュリー警部(女性)のかけあいの面白さもある。 でもまあ評点はこんなもんかな。 (これに懲りず他作品も読むつもり・・・) |
No.1204 | 6点 | グランドマンション- 折原一 | 2016/02/21 17:48 |
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2013年発表の連作短篇集。
(単行本化に当たって、「リセット」「エピローグ」の新章を加え、長編or連作形式にまとめたとのこと・・・) 「グランドマンション1号館」という集合住宅を舞台に相変わらずの折原ワールド全開となるのか?? ①「音の正体」=子供の跳ね回る音や赤ちゃんの泣き声etc・・・上階の騒音に悩まされる独り身の男。折原作品によく出てくるちょっと精神の歪んだ独身男なのだが、その男が右往左往した結果行き着いたところは・・・最後に反転! ②「304号室の女」=過去の折原に似たようなタイトルの短編があったけど、それとはちょっとテイストの異なるもの(過去のはホラー風味だったような・・・)。まっ、でもたいしたことはない。 ③「善意の第三者」=本作の主要登場人物のひとりとなる「民生委員を務める男=高田英治」が繰り広げるドタバタ劇の一編。いかにも折原らしいラストのツイスト感・・・っていう感じだ。 ④「時の穴」=急に密室殺人(じゃなくて密室窃盗)がテーマとなる一編。しかし、変わった人物ばかりが住んでるマンションだわ。 ⑤「懐かしい声」=タイトルどおり(?)「オレオレ詐欺」がテーマとなる一編。高齢者が多く暮らす「グランドマンション1号館」でオレオレ詐欺の被害者が続出するなか、容疑者らしき若者を追い詰めたところ・・・意外や意外・・・という展開。 ⑥「心の旅路」=ここまで来て新たな登場人物に纏わる話。これは時間軸をずらすというよくある叙述の手なのだが、さすがに折原がやると手馴れている感が半端ない。 ⑦「リセット」=追加された一編。八十代も半ばを過ぎ、ついに恍惚の状態に陥った老婆。元気で矍鑠としていたはずが、毎日毎日同じ質問を住人に繰り返すハメに・・・当然そこにはある仕掛けが・・・ってそれは分かるよ! 折原好きなら! ※エピローグ=ということでラストのオチ! 以上7編+α いやいや、これは旧タイプ折原作品。 とある集合住宅を舞台に住人たちが繰り広げるドタバタ劇というと、「天井裏の散歩者~幸福荘殺人日記」(1993)を思い出してしまうけど、プロットの軸は今回も同ベクトル。 それぞれの登場人物は一人としてまともではなく、それぞれどこかねじ曲がってるわけで、彼らが勝手に動き回るストーリーを名指揮者よろしく作者が最後にまとめあげる・・・という技なのだ。 まぁ小粒ではあるなぁー。 でも安心して楽しめる連作短編には仕上がってると思う。この手の作品が好きな方には十分お勧め。 (ある意味名人芸という域だと思うのだが・・・) |
No.1203 | 6点 | 湖畔に消えた婚約者- エド・マクベイン | 2016/02/21 17:47 |
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作者がリチャード・マーステン名義で1957年に発表した初期長編。
著名な87分署シリーズ以外の作品というのが珍しく貴重な作品。 ~婚約者とともに休暇旅行に出たフィルは、湖畔のモーテルで信じられない事件に遭遇する。深夜、人気のない隣室との壁から血が滲み出し、それと同時に別室に泊まっていた婚約者が荷物ごと消えてしまったのだ! 彼女がいたはずの部屋には他の宿泊客がおり、しかも出会ったすべての人がフィルは女性など連れていなかったと証言する・・・。いったい何が起きているのか? そして恋人はどこに消えたのか?~ 短いながら、なかなかよくまとまっている良質なサスペンス。 さすが巨匠マクベイン・・・っていう感じなのだ。 特に紹介文のとおり、謎の提示が魅力的。 モーテルどころか、街全体に漂う暗い影と謎に包まれた雰囲気・・・ 主人公であるフィルは刑事という権力ある存在なのだが、管轄外という縛りのなか苦しい戦いを強いられる。 ただしプロットはそんなに複雑なわけではなく、ひとりの女性の存在が明らかとなる中盤には大方の真相には察しがついてしまう。 この「女性」がなかなかのキャラ! 男を手玉に取り、簡単に篭絡してしまう凄腕なのだ。 伏線も最後にはきれいに回収されるし、とにかく最後までまとまりの良さが目立つ作品だった。 まとまりすぎてるところが逆に物足りなさにつながるかもしれないけど、時代性を考えれば仕方の無いところ。 そのリーダビリティを堪能すべきだろう。 評点はまァこんなもの。 (主人公を助けに来たのはいいが、なぜかヘビに噛まれて退散してしまう同僚の刑事・・・なかなかマヌケ!) |
No.1202 | 5点 | 人形式モナリザ- 森博嗣 | 2016/02/21 17:46 |
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1999年発表。
「黒猫の三角」に続くVシリーズの第二弾。 保呂草潤平、瀬在丸紅子ほかレギュラーメンバーが揃って避暑地で大活躍(!?) ~蓼科高原に建つ私設博物館「人形の館」に常設されたステージで、衆人環視のなか「乙女文楽」の演者が謎の死を遂げた。二年前に不可解な死に方をした悪魔崇拝者。その未亡人が語る「神の白い手」。美しい避暑地で起こった白日夢のような事件に瀬在丸紅子と保呂草淳平ら阿漕荘の面々が対峙する・・・。大人気Vシリーズ第二弾~ やはりS&Mシリーズとは微妙にテイストの異なるVシリーズ。 前作では、初っ端からいきなり「大技」というか「飛び道具」のような仕掛けに面食らったのだが、本作では一転してやや静かな展開。 事件自体は衆人環視のなかで起こる不可能犯罪、一種の密室殺人であり、そこは実に作者らしい。 誰も犯人足りえない状況のなかで紅子が指摘した真犯人に「アッ」と思わされることは間違いないだろう。 (観客の視線を一方に集めて別のところで・・・ってこれはマジックでよくやる手だな・・・) ただ、今回もトリック云々はプロットの本筋ではない。 「この犯罪を誰に見せたかったのか」・・・これが本作一番のメインテーマとなるのだ。 謎そのものも今までに接したことのないものだが、その真相もまた意外というか不可解(?) これが言いたかったことだとすれば、私の平凡な頭では理解不能としか言いようがない。 もともと動機へのアプローチは二の次というか、一般的な理解の範疇ではない本シリーズにしても本作はブッ飛んでいる。 紅子のキャラもまたスゴイ。 萌絵はまだ理解の範疇に入っていたけど、紅子の頭の中はもはや範疇ではない。 前作以上に彼女の心の揺れを読者は知ることになる。 (ついでに保呂草のキャラもまだまだ謎だらけだ) ただ、作品としてはどうかな? どうもボンヤリしていたというか、メリハリに欠けるというか、つかみどころのないまま終わった感が強い。 モナリザの謎と真相だけが現実的に思えた。 |
No.1201 | 6点 | 祟り火の一族- 小島正樹 | 2016/02/14 11:44 |
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2012年発表の<私立探偵・海老原>シリーズ五作目。
師匠・島田荘司をも超える(かもしれない)不可能趣味と大掛かり(すぎる)トリックの数々。 ついでにシリーズ探偵までも自ら「名探偵」と称するクドさ・・・ 本作もこの手のミステリーファンにとっては堪らない(!)作品になっているのか? ~殺したはずの女が蘇り、のっぺらぼうが林に立つ。包帯男に語り聞かせる怪談に興味を持った劇団員の明爽子は、刑事の浜中と探偵の海老原を巻き込んで捜査に乗り出した。舞台となった廃炭鉱では、連続殺人が起きていたと判明。解き明かされる真実から火に祟られた一族の宿命が浮かび上がる・・・。精緻に組み立てられた謎と驚愕の結末に感嘆必至の長編ミステリー~ 今回もかなりスゴイ・・・。 紹介文のほかにも『三本腕の男。足を動かさずに下がっていく女の幽霊。○○さんの死後目撃された池で水垢離する女性。水をかぶったかのように濡れていた遺体。』etc etc・・・ とにかく不可思議&不可能状況のオンパレード。 ここまで提示され続けると読者としても正直ついていけない状況だ。 そして海老原が示す解決編がまたスゴイ。 “島荘ばり”というより、もはや師匠を凌駕するほどの偶然とたまたまのオンパレード!! 「確かにこうなる可能性はある・・・」ということが積み重ねられていくと、もはや何がなんだか分からない・・・ような気にもなってくる。 更にどうしても気になるのがWHYの部分。 バラバラ死体についてはよくあるポ○○ビリ○○ということで理由付けがされていたが、「見立て」については結局恨みでしかないところがイタイところだ。(ネタバレっぽいけど・・・) とまぁ苦言を呈してきたのだけど、そんなことは読む前から分かってること。 もともと作者にそんな精緻なミステリーは期待していない。 大風呂敷を広げ、奇想天外と批判されてもいい、とにかくスケールの大きなミステリーを書いて欲しい・・・のだ。(多分) 伏線が明らかすぎて分かってしまう部分はあるけど、そんなことはいいじゃないか! 最後に明らかにされる真実を知ることで得られるカタルシス! これこそ本格ミステリーの醍醐味なのだから。 などと擁護してますが、でももう少しプロットは練って欲しいというのが正直なところ。 このままでは「イロモノ」で終わってしまう危険性大だし、何事も押すだけではなく、そろそろ引くことも覚えた方がよいと思う。 (何書いてるのか自分でもよく分かりませんけど・・・) |
No.1200 | 5点 | 望郷- 湊かなえ | 2016/02/14 11:43 |
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瀬戸内海に浮かぶ島、“白綱島”を舞台にした連作短篇集。
日本推理作家協会賞にも輝いた「海の星」ほか、島に生まれた人たちの島への愛と憎しみが生む幾篇の謎。 2013年発表。 ①「みかんの花」=母と妹を捨てて島を出た姉はベストセラー作家となって島へ凱旋した(!)。姉が島を出た秘密が最終章で明らかにされたとき、姉の隠された想いを知る・・・。このベストセラー作家って作者のことだろうな・・・ ②「海の星」=冒頭の紹介どおり、日本推理作家協会賞を受賞した作品。さすがにそれだけのことはある佳作。父親が行方不明になった母子家庭に足繁く通う“おっちゃん”。おっちゃんの行動の裏にはある事実が隠されていた! これも最終章で明らかに! ③「夢の国」=まさに夢の国=東京ディズニーランドのことです。確かに昔は田舎の子供たちの多くは、この「夢の国」に思いを馳せていたのだろう・・・。閉鎖的な世界に身を置く夢見る少女にとってはなおさら・・・ ④「雲の糸」=母が父を殺すという最悪の家庭に育った主人公。都会へ出た彼は人気歌手となって島へ凱旋する・・・(ってまたしても凱旋)。やっぱり人間って生まれ育った環境から多大な影響を受けるんだよね・・・。(本作のモデルってやっぱりポ○ノ・グ○フテ○だろうか?) ⑤「石の十字架」=父親が自殺し、父親の実家のある白綱島へやってきた少女。クラスでいじめに遭うなか、ひとりの少女と仲良くなるのだが、彼女も陰湿ないじめに遭っていた。そして、成長した少女が大型台風に遭遇した晩・・・ ⑥「光の航路」=これも「いじめ」を題材にした作品。小学校の教師となって故郷に帰ってきた主人公にもたらされたいじめ事件。その事件に対処するうち、同じく教師をしていた父親の過去を知ることになるのだが・・・ 以上6編。 「白綱島」のモデルは完全に広島県の因島で、作者の生まれ故郷である(とのこと)。 でも作者って故郷・因島を好きだったんだろうか? ひとつひとつの作品は人間の心の機微が描かれ、さすがに旨いとしかいいようのない作品が並んでいる。 ①や②は短篇ミステリーとしても上出来で、権威ある賞を受けるだけのことはあるのは間違いない。 でも個人的になんか好きになれないんだなぁー。 田舎と都会の対比って、このネット社会(この表現も古いけど)ではいかにも古臭いように思えてしまう。 確かに田舎のしがらみや閉鎖性は間違いないけど、ここまであけすけに書かれると、なんだか反発したくなってしまう。 それに暗すぎだろう。テーマが! 読み進めるうちにどんどん重い気分にさせられる読書だった。 (作品の質はまったく問題ありません。気分的な問題ということ) |
No.1199 | 9点 | ユダの窓- カーター・ディクスン | 2016/02/14 11:42 |
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本サイトでの書評もついに区切りの1,200冊目に到達!!
(いやぁーめでたい、メデタイ、目出度い・・・) ということで何を記念の書評にしようかちょっと前から悩んでいましたが、結果として本作をチョイスすることに。 (コレともうひとつで悩んだのだが・・・) 「三つの棺」や「火刑法廷」とならび、カーの最高傑作と名高い作品なのはもちろんだが、黄金期の本格ミステリーを代表する作品でもある。1938年発表。 最近創元文庫で刊行された新訳版で読了。 ~1月4日の夕刻、J.アンズウェルは結婚の許しを乞うため恋人メアリの父親E.ヒュームを訪ね書斎に通された。話の途中で気を失ったアンズウェルが目を覚ましたとき、密室内にいたのは胸に矢を突き立てられてこと切れていたヒュームと自分だけだった・・・。殺人の容疑者となったアンズウェルは中央刑事裁判所で裁かれることになり、HM卿が弁護に当たる。被告人の立場は圧倒的に不利、十数年ぶりに法廷に立つHM卿に勝算はあるのか?~ 今さら評するまでもない傑作。 ということで書評を終えてもよいのではないかと思えたほどの出来栄え。 他の多くの方も評価しているが、これほど秀逸なプロットはお目にかかったことがないほど。 当初は比類ないほど堅牢に立ち塞がっていた密室がHMの頭脳によりガラガラと崩れ去るカタルシス! 意外性溢れるフーダニットなど、まさに本格ミステリーのひとつの完成形だと思う。 (ちょっと褒めすぎかも?) 本作を有名にしたのはもちろん例の密室トリックなのだが、実現性云々は置いといて、とにかくそのインパクトがすごい。 「ユダの窓」というタイトルで読者の興味を惹きつけつつ、ここまでビジュアル的にも見事なトリックはないだろう。 ただ、本作のプロットの妙はそこではない。 目の前に見えている表の事件の裏側に、二重三重に仕掛けられた「作為」と、それをひとつひとつ解きほぐすHM卿の推理過程、それこそが真のメインテーマ。 終盤、HMの推理過程に沿った形で当日の時間経過表が挿入されているのだが、そこに作者の欺瞞の数々が込められているのだ。 いやいや、やはり名作に相応しい内容だし、香気すら漂っているかのような作品。 本作が後年の作家に及ぼした影響は計り知れないように思える。 これほど美しいミステリーは今後お目にかかれないかもしれない・・・そんなことを感じさせられた。 高評価なのは当然。 (巻末の四名のカーマニアによる座談会も読みどころ。) |
No.1198 | 6点 | 愚か者死すべし- 原尞 | 2016/02/07 22:42 |
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発表当初私立探偵沢崎の新シリーズ第一弾と称されたのだが、今となっては“最終譚”となってしまった感のある本作。
約九年もの歳月をかけて完成したというのはそれだけ苦心したということなのか・・・ ~大晦日の朝、私立探偵沢崎のもとを見知らぬ若い女性・伊吹啓子が訪ねてきた。銀行強盗を自首した父親の無実を証明して欲しいという。彼女を父親が拘束されている新宿署に送り届けた沢崎は、狙撃事件に遭遇してしまう。二発の銃声が轟き、一発は護送されていた啓子の父親に、もう一発は彼を庇おうとした刑事に命中した! 九年もの歳月をかけて完成した、新・沢崎シリーズ第一弾~ 年明け早々に読了したシリーズ前作「さらば長き眠り」にあまりに興奮したため、時間を置かずにとった次作。 なのだが・・・本作のプロットは作者の九年間の苦悩を表すかのような錯綜ぶり。 冒頭に起こるのは、紹介文のとおりの銃撃事件。 しかしながら、事件は次から次へと発生&展開し、沢崎も複数の事件を同時に追いかけている状態に。 一応、最後にはすべての伏線が回収され、「さすがは原尞」「さすがは本シリーズ」ということには落ち着く。 結局、「愚か者」とは誰のことを言っているのか? これが本作のメインテーマということでいいのだろう。 確かにこの人物=愚か者というのは、序盤では想像できないサプライズだしミステリーとしてのツボを押さえているのだが、如何せんこれまでの作品のような何とも言えない気品と寂寥感は感じられなかったというのが本音。 それもやはり錯綜というか、詰め込みすぎということが原因なのだろうと思う。 まぁでもそれは本シリーズに対するハードルの高さの裏返し。 普通のレベルの面白さは楽々とクリアしている。 相変わらず魅力的なキャラ(特に女性)は出てくるし、錦織警部や相良などお馴染みの脇役も登場する。(今回出番は少ないが) さあ次作が楽しみだと言いたいところなのだけど・・・ もう無理なのかな・・・。 これほどのシリーズにはなかなかお目にかかれないのになぁ・・・ (強盗に入られる銀行が実在の銀行名なのはどうなのか・・・・・・) |
No.1197 | 6点 | ザ・ポエット- マイクル・コナリー | 2016/02/07 22:41 |
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作者といえばやはりハリー・ボッシュシリーズとなるのだが、一作目のノンシリーズ作品として書かれたのが本作。
先にノンシリーズ二作目の「わが心臓の痛み」を読んでしまったので、早速一作目を手にとったというわけなのだが・・・ 1995年発表。 ~デンヴァー市警察殺人課の刑事ショーン・マカヴォイが変死した。自殺とされた兄の死に疑問を抱いた双子の弟で新聞記者であるジャック・マカヴォイは、最近全米各所で同様に殺人課の刑事が変死していることを突き止める。FBIは謎の連続殺人犯を<詩人>(ザ・ポエット)と名付けた。犯人は現場に必ず文豪エドガー・アラン・ポーの詩の一節を書き残していたからだ。FBIに同行を許されたジャックは、捜査官たちとともに正体不明の犯人を追うのだが・・・~ さすがに安定感たっぷりというか、安心して楽しめる水準には仕上がっている。 いつもながら結構な分量だし、事件は派手に目眩くような展開。 そして、終盤以降は逆転につぐ逆転というサスペンスフルな展開が待ち受けている。 この辺りはツボを押さえたプロットだなと思わされるのだが、それを「予定調和」とか「想定内」と感じる向きもあるだろう。 でも相変わらずフーダニットというか、犯人像の作り込みに旨さを感じてしまうよな・・・ 今回は被害者が全員刑事という特殊性、そしてその前に必ず“餌”となる殺人事件を起こしている! そんなのってどんな人間なんだ? って思ってると、いかにも犯人ですといわんばかりの人物が別視点で描かれる。 「こりゃ当然ミスリードだろう」と思うのだが、ではなぜこういうミスリードを仕掛けてくるのか?という疑問が湧く。 こうなると作者と読者の化かし合いだ。 そしてやっぱり最終的には黒幕の出番となるのだ。 いかにもジェットコースターミステリーと思って敬遠する方もいるかもしれないが、大波小波に乗ってとにかく楽しめる作品ではある。 中盤がちょっと冗長なのがいただけないけど、それ以外は特に欠点はない。 でも欠点がないというのが欠点かもしれない。ということでこの評点に。 (必ず登場する美女。そして必ず主人公の男性とメイクラブ・・・でも今回は割とほろ苦!) |