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E-BANKERさん
平均点: 6.00点 書評数: 1862件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1282 6点 夢・出逢い・魔性- 森博嗣 2016/10/16 00:05
数えてVシリーズも四作目となった本作。
舞台はいつもの“那古野”ではなく、東京・渋谷というのが異質かも。
2000年発表。

~二十年前に死んだ恋人の夢に怯えていたN放送のプロデューサーが殺害された。犯行時、響いた炸裂音はひとつ。だが、遺体にはふたつの弾痕があった。番組出演のためテレビ局にいた小鳥遊練無は、事件の核心に位置するアイドルの少女と行方不明に・・・。繊細な心の揺らぎと瀬在丸紅子の論理的な推理が際立つシリーズ第四作!~

これはまた・・・不思議な雰囲気を纏った作品だ。
読了した後、何となく頭に浮かんだのは「ボーダレス」という単語或いはフレーズ。

いつもの舞台である那古野を飛び出し、日本の中心・東京で事件に巻き込まれるところも、何となくボーダレス。
今回は小鳥遊のある特徴が事件の核心に繋がるのだが、男とか女とか性別を超えたところにあるボーダレス(・・・ってネタバレしてるような・・・)
真犯人がプロデューサー殺害に至る経緯というか動機についても、オイオイそんなことあるのかい?っていう意味で、ボーダレス(動機になりうるかどうかの境界ということ)だなと感じた。

今回のフーダニットもまたブッ飛んでいる。
「そんなとこから出してきたか!」とでも表現したくなるような存在なのだ。
作者らしく、事件の舞台は密室なのだが、密室構成のトリックはもはや二の次というか、あまり深い意図はない。
銃声と弾痕の差異の謎についても、実にアッサリ片付けられている。
密室や不可解現象の謎の構築に拘ったS&Mシリーズとは、やはりミステリーに対するアプローチの違いを感じてしまう。
どちらが好みかと問われると「前シリーズ」と答えてしまいそうだが、Vシリーズのスゴさも徐々に気付いてきたように思える。

今まで脇役扱いだった小鳥遊と香具山にスポットライトを当てた本作。
その代わりというか、保呂草の“おとなしさ”が不気味に感じた次第。次作に期待ということか?
(でも一番のサプライズは稲沢の正体だったりする。これって、あれだけの意味でよかったのか??)

No.1281 5点 赤髯王の呪い- ポール・アルテ 2016/10/16 00:04
1995年発表。
ツイスト博士シリーズ第一作とされている「第四の扉」刊行以前に私家版として発表された幻のデビュー作。
表題作のほか、シリーズ唯一の短編を三作収録の豪華版(?)

①「赤髭王の呪い」=~1948年ロンドン。エチエンヌは故郷アルザス在住の兄から届いた手紙に驚愕する。ある晩、兄が密室状態の物置小屋の中を窓から覗いてみると、16年前“赤髭王ごっこ”をしたために呪いで殺されたドイツ人の少女エヴァの姿があったというのだ。エチエンヌは友人から紹介されたツイスト博士に当時の状況を語り始めるが・・・~

何となく看板倒れで終わったような作品だった。オカルト&不可能趣味の多くは単なるこけおどしとして扱われ、まっとうなトリックはほとんどなかったような感じ。フーダニットも実に分かりやすい。最初から「もしかして・・・」と感じていたとおりの真相だった。やっぱりこれはシリーズ開始前の「周作」という扱いでよいのではないか。
②「死者は真夜中に踊る」=これも正直たいしたことはないんだけど、ラストだけはなかなか気が利いてる。その分①よりもむしろ短編らしくて好ましく感じた。玉がそんなうまい具合に作動するのかは甚だ疑問だけど・・・
③「ローレライの叫び声」=絶世の美女にして、男たちを狂わせるライン川の妖精“ローレライ”・・・。ラストはなぜこれで解決したのかよく分からなかったのだが・・・。「孔雀の羽」って結局何だったのか?? 当方の理解力不足なのか?
④「コニャック殺人事件」=コニャックとはフランスの都市。もちろん名物は「コニャック」。一応密室殺人事件がテーマで、密室内に毒物がどうやって持ち込まれたのかが最大の謎となる。青酸をこのように使っても人って死ぬのね、・・・死ぬのか?

以上4編。
もともとカーの影響を受け、不可能&オカルト趣味が特徴のシリーズだけど、本作もその色が濃く出た作品となっている。
ただし、本家取りとはいかず、スケールも緻密さもかなり劣後していると言わざるを得ない。
まぁ①でも書いたけど、これでは「習作」というか、アマチュア作品と呼ばれても仕方ないだろう。

ただし、短編三作はそれなりにまとまってはいる。
短いなりに、魅力的な謎の提示⇒切れ味の片鱗を感じるラスト、という雰囲気もある。
そういう意味では貴重な作品かもしれない。
(ベストは②かな。①は高く評価できない)

No.1280 3点 まほろ市の殺人 春- 倉知淳 2016/10/16 00:03
倉知淳(春)・我孫子武丸(夏)・麻耶雄嵩(秋)・有栖川有栖(冬)の四人が架空の街・真幌市を舞台に競演したシリーズ。
祥伝社から「幻想都市の四季」と銘打って発表された企画もの。
2002年発表。

~「人を殺したかもしれない・・・」。真幌市の春の風物詩「浦戸颪」が吹き荒れた翌朝、美波はカノコから電話を受けた。七階の部屋を覗いていた男をモップでベランダから突き落としてしまったというのだ。ところが、地上には何の痕跡もなかった。翌日、警察が鑑識を連れどやどやとやって来た。なんと、カノコが突き落とした男は、それ以前に殺され、真幌川に捨てられていたのだ!~

う~ん。
このシリーズの字数制限、分量は明らかに失敗。
短編でもない長編でもない、いわゆる「中編」というべきページ数なのだが、中途半端感がもろに出ている。
作者もその辺の処理に困ったのか、短編らしい切れ味もなければ、長編ほど練られたプロットもなく・・・という感じ。

紹介文のとおり、「死んだはずの男が、ベランダから覗き見し、二度も殺されてしまった」というのが本作の謎というか、もうこれ一本槍にストーリーは進んでいく。
しかもバラバラ殺人とくれば、もうそこは、例の島田荘司が得意なヤツだろうな・・・と思うよな、普通。
(バラバラの頭部がこうなって、腕がこうなって・・・ってね)
ただ、さすがに倉知淳はそんなありきたりの解法を許してはくれなかった!
でも、その代わりの真相がコレか?!!

「なんじゃこりゃ」である。
この光景というか風景って・・・ありえないほどシュールだろう!
これではミステリーというか、タチの悪い童話。
これを発表した作者というか、発表させた出版社には恐れ入りました。
私が責任者なら、担当者呼び出してコッ酷く叱りつけてやるけどね。

No.1279 8点 陸王- 池井戸潤 2016/10/08 22:04
池井戸潤の最新作。
名付けて『陸王』・・・って「民王」の続編かと思ったら、全く違うお話でした。
ハードカバーで600頁弱という分量にもかかわらず、数時間で読了するという快挙!

~埼玉県行田市にある老舗足袋業者「こはぜ屋」。日々、資金繰りに頭を抱える四代目社長の宮沢紘一は、会社存続のためにある新規事業を思い立つ。これまで培った足袋製造の技術を活かして「裸足感覚」を追求したランニングシューズの開発はできないだろうか? 世界的スポーツブランドとの熾烈な競争、資金難、素材探し、開発力不足・・・。従業員二十名の地方零細企業が伝統と情熱、そして仲間の強い結びつきで一世一代の大勝負に打って出る!~

これは・・・ある意味、作者の「集大成」とも言える作品なのではないか?
読後の印象としては、『(「下町ロケット」+「ルーズヴェルト・ゲーム」)÷2』とでも表現すればよいか。
まぁ悪く言えば、二番煎じであるし、いつものとおり勧善懲悪であるし、予定調和であるし、途中は山あり谷ありだけど最後はお決まりのハッピーエンドであるし、相変わらず銀行員は悪者だし・・・ということになる。

でもなんでだろう。
それでも「読ませてしまう」熱量が確かに存在するのだ、作品の中に!
これまでも再三再四同じようなことを書いてる気もするのだが、作者の作品には「なぜ働くのか」というものを超えて、「仕事とはなにか」或いは「働くとはどういうことなのか」、更に「幸せとはなんなのか」・・・あらゆる命題が読者に突きつけられているのだ。
私にはこれを単なるエンターテイメントとは受け取れない。
作品世界に浸りながら、自分自身の現状や仕事へのスタンス、これまでの人生やこれからの生き方・・・そうした様々なもので頭の中が渦巻いてしまう。

読了後しばらくして、これって「スポ魂(スポ根?)」だなって唐突に気付いた。
登場人物たちは根性丸出し、どんな苦難にあっても諦めることなく、逞しく前へ進んでいく。最初は斜に構えてたヤツもだんだんイイ奴に変わっていく・・・

いつの間にかスゴイ作家になったもんです。
でもこれが「集大成」と感じるということは、次も同じような話を書いたら、さすがに「エッー」って思うということではないか。
そういう意味では、作者もツライかもね。
(まったくミステリー書評ではない点、ご容赦ください)

No.1278 7点 ミンコット荘に死す- レオ・ブルース 2016/10/08 22:01
1956年発表。
キャロラス・ディーンを探偵役とするシリーズ三作目。
原題は“Dead for a Ducat”(これは『ハムレット』の逸話から取られているとのこと)

~十一月の深夜。歴史教師のキャロラスは、ミンコット荘の主人レディー・マーガレット・ピップフォードから電話を受ける。娘婿のダリルが銃で自殺したらしい。至急来てくれないかというのだ。早速駆けつけたキャロラスは、ベッドの上に血まみれで横たわるダリルの遺体と対面する。警察は自殺と判断するが、そう考えるにはいくつか不可解な点があることにキャロラスは気付いていた・・・。名探偵キャロラス・ディーン再び登場。緻密な細部と大胆なトリック。これぞ英国本格の真骨頂!~

この頃の作品らしい、非常に端正な本格ミステリー、という感じがした。
良くも悪くもオーソドックスな英国本格と言えそう。
事件関係者(らしい)人物が多めで、何となくてごちゃごちゃしている印象を与えているが、謎解きのプロットそのものはシンプルというか、実に納得性のあるものだと思う。

巻末解説者が本作について、「レトリックに頼ったもので、論理的完璧性はない」と辛口評価をしているけど、伏線はふんだんに張られているし、途中でピンとくる読者も多いのではないか?
こういう大掛かりなプロットで攻めるなら、殺人事件や背景に神秘性やら不可能趣味やら、その他派手な装飾を施す作家もいるだろうけど、サラっとまとめているのもそれはそれで良いと感じた。
「犯人足り得る七つの資格」という条件を持ち出し、キャロラスが真犯人を炙り出す終章の緊張感もなかなか。
(ただまぁ、ミスリード足り得る人物がいなさすぎという欠点はあるが・・・)

他の方も指摘されいるとおり、本作の仕掛けは前例があり、個人的にもどこかでお目にかかったような気はする。
でも、まずまず高評価したい作品。
“スゲエ変化球や高めの釣り球ばかり見てきたら、たまには130キロ台でもいいから、ストライクゾーンにコントロールされたストレートを見たい”・・・という感じか?
(分かりにくい表現で申し訳ない)
ビーフ巡査部長シリーズは未読なので、機会があれば手に取ってもいいかな。

No.1277 6点 屍人の時代- 山田正紀 2016/10/08 22:00
「人喰いの時代」の続編的位置付けでよいのだろうか?
~戦後の北海道を放浪する謎の名探偵“呪師霊太郎”・・・時を経てなお姿を現す不思議な探偵が遭遇した四つの不可思議な事件とその解決を描く。本来発売されることはなかった幻の作品~
なんと文庫書き下ろしで登場!

①「神獣の時代」=北海道のとある漁村(?)が舞台となる第一話。四編のなかでは一番ミステリーらしい仕上がりになっている。雪と氷に閉ざされた孤島で起こった足跡のない殺人がテーマなのだから・・・。こう書くと本格ファンなら「オオッ!」と喜びそうだが、最終的な黒幕として登場する○○には唖然とさせられる!
②「零戦の時代」=短編というより中編というべき分量の第二話。舞台は太平洋戦争中の海軍。海軍随一と呼ばれた零戦乗りの男の死をめぐる謎なのだが・・・。戦後四十年という時を経た後、呪師から驚くべき真相が示される。何となく連城の花葬シリーズを連想させる作品だった。
③「啄木の時代」=啄木とは当然歌人の石川啄木のこと。函館~東京での彼の生活をめぐる物語と、もうひとり、日活の全盛時代に登場した“第三の男”こと赤木圭一郎。なんの関連もないこの二人に関連して過去の事件の真相が語られる。啄木の逸話は本当の話なのかな?
④「少年の時代」=啄木の次は宮沢賢治というわけで、彼の作品世界が事件に投影される一編。そして登場する怪盗「怪人二十文銭」(すごいネーミングだ)。なんとなく物悲しさが漂う最終話。

以上4編。
前作(「人喰いの時代」)はもう少しミステリー色が濃かったと思うが、本作は一応ミステリーとしての体裁は整っているものの、より幻想的というか、何とも掴みどころのない作品世界となっている。
まずはこの世界観が合わなければ、ちょっと苦痛な読書になるかもしれない。
(途中、一体何が起こっているのか掴めないような感じ・・・だ)

時代設定も明治~平成という長尺なのだが、呪師霊太郎はいつでもどこでも神出鬼没。どうやら年も取らないよう。
今回は呪師が前面に出るというよりは、脇役として最後の最後で登場というパターンが多い。

ここまで変わった本格ミステリーも珍しい。
でも最後には何とも言えない余韻を残すのはさすがというべきか。

No.1276 6点 貴族探偵対女探偵- 麻耶雄嵩 2016/09/27 21:53
「あなたが推理するのではないのですか?」「まさか。どうして私がそんな面倒なことを?」
・・・でお馴染み(!?)の貴族探偵シリーズの作品集第二弾。
今回も使用人たちが大活躍・・・するのか?

①「白きを見れば」=探偵役は執事の山本が務める。完全なCC内で発生する殺人事件。後の作品に比べれば実にオーソドックスな一編と言える。ロジックをこね回しているとも言えるが・・・
②「色に出てにけり」=探偵役は料理人の高橋が務める。金持ちの別荘で起こる殺人事件。真顔で三股をかけるお嬢様など、相変わらずブッ飛んだキャラクターが登場。真相は割と分かりやすいと思うが・・・
③「むべ山風を」=探偵役はメイドの田中が務める。大学の研究室が舞台。アリバイと上座が犯人特定の鍵となるのだが、ティーカップのロジックは分かりにくい。
④「幣もとりあへず」=新潟県の山奥。座敷わらしを模した“いづな様”が出ると噂の旅館が事件の舞台。そして探偵役は運転手の佐藤が務める。これもアリバイとある仕掛けが犯人特定の鍵となるのだが、確かに真相には一瞬アッと思わされる。「そう来たか!」って。
⑤「なほあまりある」=愛媛県と高知県の県境の海上に浮かぶ小島・亀来島が舞台。登場人物が揃う一夜にして発生した連続殺人事件。これも怪しげな手掛かりが満載なのだが・・・。そして今回の探偵役はなんと・・・! そう来たか!

以上5編。
いやいやこれは実に企みに満ちた連作短篇集だ。
前作は「貴族探偵」という突飛な存在こそあるものの、ミステリーの骨組みそのものは正統派っていう気がしたが、本作は骨組みも何だか捻じ曲がっているように思えた。

でもこれは確信犯!
「遊び」と「本気」の境界線で読者を煙に巻く作者の腕前はさすがの一言だ。
あくまで前座でしかない高徳愛香ってなに? という気はするけど、そこはご愛嬌ってヤツだろう。
ロジックそのものは“ロジックのためのロジック”なのがちょっとキツイけど、まぁそこは作者の遊び心に付き合ってやろう・・・って感じ。
ということで、「負けるな高徳愛香」。以上!

No.1275 5点 大あたり殺人事件- クレイグ・ライス 2016/09/27 21:52
1941年発表のマローン弁護士シリーズ。
前作「大はずれ殺人事件」の続編的位置付けの作品。
原題は“The Right Muder”。小泉喜美子訳。

~『大はずれ殺人事件』で見当違いの殺人を探り当ててしまったジェークとヘレンは、新婚旅行でバミューダへ。一方、残されたマローンは大晦日だというのに、酒場でひとりグラスを重ねるだけ・・・。そんなとき、ドアを開けて入ってきたひとりの男はマローンの名をつぶやくと床にくずおれ息絶えてしまった。果たしてこれこそが社交界の花形モーナが予告した殺人なのか? 洒落た笑いを誘うユーモア本格ミステリーの傑作~

クレイグ・ライスは本作が初読みだった・・・
本作の前に「大はずれ」があることは分かっていたけど、「まぁいいか」と思って先に読了してしまった。
別段ネタバレがあるとかではないので気にする必要はないのだけど、やっぱり発表順に読んだほうがベターだろうな

まっ、それはともかく本筋なのだが・・・
終盤までは事件の概要までもが曖昧模糊として進んでいく感じ。
ふたりの死者がどちらも正体不明の“チューズデー”なる人物ということが判明。この辺りが事件全体を貫く大きな鍵となるのだが、探偵役のマローンも犯人に振り回されて、なかなか事件の筋が見えてこないのだ。
「これ大丈夫か?」と心配になるほどの混乱ぶりなのだが、終章の解決編はなかなか鮮やか。
チューズデイ氏の謎もきれいに解き明かされ、動機・背景もクリアになりめでたしめでたし・・・

といきたいところだが、これって結構後出しが多くないか?
動機に直結する、ある登場人物の秘密についても、それまで全く触れられてなかった気がするけどなぁー
さっきは「鮮やか」と書いたけど、「唐突」と紙一重のようなものだろう。
この辺は改善の余地があるように思えた。(って今さら改善できるわけないが・・・)

評価としては水準級ということでよいだろう。
(それにしてもマローンは飲み過ぎではないか?)

No.1274 5点 松谷警部と目黒の雨- 平石貴樹 2016/09/27 21:51
作者というと「笑ってジグゾー、殺してパズル」「だれもがポーを愛していた」しか思い浮かばなかった。
いずれも硬質というか、ある意味“無機質”なミステリーという印象だったが、本作の表紙を見ていると全然イメージが重ならない・・・
2013年発表のシリーズ第一弾。

~目黒本町のマンションで殺害された小西のぞみの身辺を調べていくと、武蔵学院大学アメフト部「ボアーズ」との関連が浮上、更にはボアーズの仲間内でこの五年で複数の死者が出ていることが判明した。これらは繋がっているのか? 松谷警部は白石巡査らと捜査に当たるが、関係者のアリバイはほぼ成立し、動機らしきものも見当たらない。過去の事件は不可解な点を残しながらも既決事項となっている。白石巡査は地道に捜査を進め、ついに犯人が分かったと宣言するが・・・~

冒頭で触れた二作と比べて、えらく普通のミステリーだな、というのが第一印象。
最大のテーマはアリバイ崩しを絡めたフーダニット、でいいのだろうか。
真犯人候補は最初から「ボアーズ」のメンバー内に限定されてるし、いかにも伏線っぽい材料があちこちに投げ出されている。
(ミステリー好きなら嫌でも気付くだろう・・・)

これって良く言えばフェアな本格ミステリーということなのだが、それよりも、個人的には書き始めたばかりの新人作家のような印象を持ってしまった。
別にうまくないわけではないのだ。
ていうか、きれいにまとめている。
「動機は無関係」で有名だった更科ニッキの生みの親らしく、それこそ取って付けたような動機なのだが、それ以外は消去法で真犯人が炙りだし可能な純正ミステリーに仕上がっている。
でもなぁー、あまりにも「トゲ」がないというか、丸め過ぎた感が強いのではないか?
(拙い表現ですが・・・)

それもこれも作者に対する期待の裏返しということ。
もう少しトンがったミステリーを期待したいところだけど、年齢から考えても難しいかな。
でもまぁーこれはこれで悪くはない。安定感という観点からは。
(ラストでタイトルの意味が判明。なるほど・・・そういうロジックだったのね)

No.1273 6点 アンドロイドは電気羊の夢を見るか?- フィリップ・K・ディック 2016/09/18 19:58
1968年に発表された伝説的SF作品。
ハリソン・フォード主演「ブレードランナー」の元ネタとなったことでも著名。

~第三次世界大戦後、放射能灰に汚された地球では、生きている動物を所有することが地位の象徴となっていた。人工の電気羊しか持っていないリックは、本物の動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた<奴隷>アンドロイド八人の首に掛けられた莫大な懸賞金を狙って、決死の狩りを始めた! 現代SFの旗手ディックが斬新な着想と華麗な筆致を用いて描き上げためくるめく白日夢の世界!~

正直なところ、作者の狙いやテーマを理解できたのかは全く不明。
・・・っていう感じだ。
訳者の浅倉氏は、作者のテーマは「現実の探求」と「物質的世界の背後に隠れた真実の発見」とあとがきで書かれている。
???
もともとSFはそんなに読んできてないし、作者の独特すぎる世界観もスッと頭に入ってこなかった。

アンドロイドVS人間というと、SFでは割と普遍的なテーマではないかと思うけれど、本作では両者の境界線がたいへんビミョーに書かれている。
アンドロイドかどうかを判定するテストが出てくるのだが、人間と思っていた人物が実はアンドロイドだったり、その逆もあったり、途中では主人公まで自身がアンドロイドではないかと疑心暗鬼になったりして・・・などなど、とにかくグラグラしているのだ。
そしてもうひとつの象徴が「動物たち」。
本物の動物と電気製の動物。
見た目にそれほどの差異はないのだが、人々は本物の動物を手に入れるため、危険な仕事にも手を染めていく・・・

これは物質的社会への警鐘なのか? はたまた単なるエンターテイメントの追求なのか?
終章。大枚をはたいて購入した“天然のヤギ”を死なせてしまった主人公に訪れる一匹の醜い動物。
これまでも実は・・・だったなんて!作者も人が悪いよ。

本当は再読したほうがいいんだろうなぁー。
(でも、あまり気が進まないかも・・・)

No.1272 6点 小さな異邦人- 連城三紀彦 2016/09/18 19:56
2000年以降に雑誌「オール讀物」誌に掲載された作品をまとめた短篇集。
惜しまれつつ亡くなってしまった作者の遺作のひとつとなった本作。
文庫落ちを機に読了。

①「指飾り」=不本意にも別れを告げられた元妻と思いを寄せられる同僚の間で揺れる中年男性。「指飾り」とはもちろん結婚指輪のことだが、ある街角のバーを舞台に三人、いや四人の関係が微妙に動いていく・・・
②「無人駅」=新潟・六日町の街、そして駅を舞台に起きるあるひと晩の物語。まさに一編の映画のような話なのだが、ラストも何とも言えない余韻を残す。
③「蘭が枯れるまで」=これは非常にミステリー色が濃い作品。「交換殺人」というと多くの作家が手を変え品を変え取り組んできたテーマだが、連城にかかるとこういう風になる・・・。実にトリッキーだ!
④「冬薔薇」=何とも言えない“重さ”を感じる一編。女性心理というか深層というか、こういうヤツを書かせるととにかく天才的な技量を発揮する。
⑤「風の誤算」=これも実に連城っぽい作品だ。何が連城っぽいのかと問われると困るのだが、「何なんだこれは?」と思わせながら、ついつい引き込まれて、最後は手練手管で丸め込まれる感覚とでもいうべきか・・・。水島課長のキャラクターも秀逸。
⑥「白雨」=どうも世評の非常に高い作品のようだが、個人的には合わなかった。こんな回りくどい復讐というか、意趣返しをやる人間ってどういう心してるんだ?
⑦「さい涯てまで」=浮気旅行を重ねるひと組の男女。これってやっぱり中年男性の永遠の憧れだと思う・・・(実感)。それほど技巧のある作品ではない。
⑧「小さな異邦人」=ひとりの少女目線で書かれているのが珍しい表題作。「誘拐」というと、「人間動物園」や「造花の蜜」などの傑作がすぐに思い浮かぶけど、それに比べれば「あまり・・・」というレベル。まぁ短編だし仕方ないか。

以上8編。
さすがに晩年の作品だけあって、ちょっとパワーダウンしたような作品が多いように思えた。
逆に言えば、それまでの作品が凄すぎただけで、本作も十分に水準以上なのは間違いないけれど・・・

しかしまぁ・・・男女の機微っていうか、こういうテーマで書かせると達者だよなー
人間の感情、心情こそがミステリーの原点ということを考えさせられる作品だった。
こういう作品を読めなくなるということが残念でならない。
偉大な作家だと再認識した次第。
(ベストは③かな。⑥や⑧は世評ほどはいいと思えなかった)

No.1271 4点 霧の旗- 松本清張 2016/09/18 19:55
1961年発表。
過去に数回映像化されている作品らしいが・・・一度も見てはいない

~殺人容疑で捕らえられ、死刑の判決を受けた兄の無罪を信じて、柳田桐子は九州から上京した。彼女は有名な弁護士・大塚欽三に調査を依頼するが、すげなく断られる。兄は汚名を着たまま獄死し、桐子の大塚弁護士に対する執拗な復讐が始まる・・・。それぞれに影の部分を持ち、孤絶化した時代に生きる現代人にとって法と裁判制度とはなにかと問うた野心作~

うーん。
こりゃどう考えても「逆恨み」だな。
何のあてもなく上京して、弁護を断られたからといって、弁護士に復讐心を燃やす・・・
ひとりの女性の狂気がテーマというのなら分かるのだが、紹介文によると「法と裁判制度の矛盾」が主題だという。
そういう社会派的作品だと勘違いしても仕方ないだろう。

ということでどうもテーマがはっきりしないまま終わったという感が強い。
途中の大塚弁護士の推理のくだりは冤罪事件を扱ったようになっているし、終盤は先に触れたとおり桐子の復讐譚が語られることになるし・・・
何とも救いのないラストも居心地が悪い。

そして復讐の標的となった大塚弁護士。
特に悪徳弁護士というわけでもないのにねぇ・・・多少小心というか保身に走ったというだけだろう。
それでここまで落ちぶれるとは
いやいや女の怖さっていうやつですな・・・
時代背景もあるとはいえ、毎週のようにゲス不倫やら政治家の不祥事が暴かれている現代では考えられないことです。

評価は高くはならないなぁー。あまり面白くなかったから。

No.1270 5点 サイモン・アークの事件簿〈Ⅲ〉- エドワード・D・ホック 2016/09/09 23:04
年齢二千歳(?!)、謎のオカルト探偵サイモン・アークが主人公のシリーズ第三弾。
作者の作品らしく、不可能犯罪てんこ盛りは今回も同様。

①「焼け死んだ魔女」=魔女の呪いで女子大生が次々に倒れるという怪現象が発生した名門女子大。真相は当然魔女の呪いではないのだけど、こんな化学的(そこまでいうほどでもないけど)な解決とは・・・。でもそれなら普通気付くよなぁー
②「罪人に突き刺さった剣」=村に伝えられた狂信的宗教。裸に頭巾という異様な男たちの集団のなかに死体がひとつ紛れ込んでいた! ただこのフーダニットはかなり強引。○でなくても見分けることはできそうだけど・・・
③「過去から飛んできたナイフ」=フレンチ・インディアン戦争の舞台で起こる異様な事件。凶器はなんと数百年前に使われたナイフ・・・っていうのが今回の謎。まぁ合理的といえば合理的なのだが、こじつけといえばこじつけにしか思えない。
④「海の美人妖術師」=海の中から現れ、男性を海中へ誘い込む美女。そう、まるでライン川にいるというローレライのように・・・。でも、この正体、分かってみれば何じゃそりゃ、的なやつ。化学的といえば化学的だが。
⑤「フェルファル城から消えた囚人」=ナチスドイツの残党を収監した古城で発生した、人間消失+殺人事件。四カ国の精鋭たちが見守るなかで発生した事件なのだが、トリックは昔から使い古されたやつだ。これも気付きそうなもんだが・・・
⑥「黄泉の国への早道」=六十四階建ての超高層ビル。屋上までノンストップのエレベーターに乗り込んだロックスターが忽然と消え失せ、何と地下のゴミ集積所で焼死体で見つかるというとびきりの不可能犯罪。正直、トリック自体はたいしたことのないものだが、見せ方というかプロットは実に作者らしくてよい。ただ、アレは遠目に見ても気付くと思うが・・・
⑦「ヴァレンタインの娘たち」=アメリカ中部の街・ヴァレンタイン。その名前にあやかって、聖ヴァレンタイン・デーの日に開催されたイヴェントで起こった殺人事件。これはまぁ最初から見えてたな。
⑧「魂の取り立て人」=スウェーデンはストックホルムが舞台となる一編。ただそれだけのような作品。

以上8編。
作者の不可能趣味溢れる作品集というと、本シリーズの他「サム・ホーソーン医師」シリーズがあるが、個人的には後者のほうが断然面白いと思う。
オカルトとミステリーの融合というテーマはいいのだけど、どうにも無理筋やこじつけが目に付きすぎてダメなのだ。

そうはいっても、稀代の短編の名手だから、一定の水準にある作品は並んでいる。
ということで、つぎは「怪盗ニック」シリーズだな。
(個人的ベストはやはり⑥かな。真相が意表をつく①の印象的ではある)

No.1269 8点 アトポス- 島田荘司 2016/09/09 23:03
1993年発表の御手洗潔シリーズ。
「暗闇坂の人喰いの木」「水晶のピラミッド」に続き、長大なスケールと圧倒的な重さで読者の度肝を抜いた超大作。
今回、満を辞して久々に再読したが・・・

~虚栄の都・ハリウッドに血で爛れた顔の「怪物」が出没する。ホラー作家が首を切断され、嬰児がつぎつぎと誘拐される事件の真相はなにか? 女優レオナ松崎が主演の映画「サロメ」の撮影が行われる水の砂漠・死海でも惨劇は繰り返され、蘇る吸血鬼の恐怖に御手洗潔が立ち向かう!~

いやぁー、分かっていたこととはいえ、『長かった!!』
初読のときも思ったけど、最初のエリザベートのくだり、こんな尺でいるか??
確かに読み物としては面白い。しかも抜群に!
エリザベートが老いの恐怖におののき、徐々に狂っていく様子は、何とも言えない寒気を覚えさせられた・・・
そしてラストのサプライズ! もう完全にB級ホラームービーだ。

やっと本筋の「死海の殺人」の章に入るのだが、
このトリックというか、仕掛けも・・・これではファンタジーとしか表現しようがない!
「伏線は張ってあるだろう!」なんて言ってはいけない。
ここまで荒唐無稽な話、誰が思い付くんだ!!
死海という特殊舞台、ウラン精錬所、回廊を持つ砂漠の中の建物、etc
よくもまぁ、こんなこと思い付くよなぁー
どんな構造してんだ、作者の頭の中は??
○○○ーの人々が砂漠の中をゾロゾロ歩くなんて、シュールすぎて思わず笑ってしまったほどだ。

・・・というような批判はいくらでもできる。
でも何なんだ、このパワーは!
読者をこれでもかと引込み、グイグイ読ませ、「こんなことあるわけないだろ!」って思わせながらも、最低限のロジックを構築する!
これこそが作者が当時主張していた「奇想」なのだろう。
とにかく、作品の持つ得体の知れないパワーと魔力に絡み取られた数日間。
やはり並みの作家ではない。チンケな批判なんてクソ喰らえだ!

興奮してすみません。(実はこの書評、酩酊状態でかなりハイテンションで書いてます)

No.1268 4点 21面相の暗号- 伽古屋圭市 2016/09/09 23:02
2011年発表。
第八回の「このミステリーがすごい」大賞を受賞した作者が贈るノンシリーズ長編。
作家デビュー前はパチプロとして生計を立てていたという経歴が活かされている?

~裏ロム販売で稼いだ三千万円を仲間と山分けした卓郎と相棒の美女シエナ。ところが、すべて偽札だったことが発覚する。さらにありえない記番号の一万円札が紛れていることに気付いたふたりは、かい人21面相からの暗号だと確信し、謎解きを始める。とき同じくして、製菓会社「すぎしょう」に、自社製品への毒物混入停止と引き換えに五千万円を要求する脅迫電話がが掛かってきて・・・~

『グリコ・森永事件』・・・いゃいや懐かしい。
ありましたねぇー
確かに当時は大騒ぎだった記憶があります。
本作を読んでみると、改めてスゴイ事件だったことが分かります。
劇場型犯罪の最たるもの。
そんなイメージを改めて強くした次第。
まだ小さかったので記憶は曖昧ですが、大阪府警を手玉にとった追跡劇なんかは頭の隅にこびりついていた・・・

“キツネ目の男”は結局実在したんですかねぇ?
事件の発端となった江崎グリコ社長の誘拐事件も、考えてみると、妙な感じがするしなぁ
(世の中には事件に関していろいろな文献が出ているんだろうから、その気になればいろいろと知ることはできるのだろうけど)
などなど、いろんなことを想像してしまった。

えっ!? 書評は・・・って??
すっかり忘れてた。
まっ、あまり褒められたものではありません。
プロットが十分練られないまま発表されてしまったということでしょう。
偽札の話も、暗号も、身代金受け渡しも、どれも中途半端なまま強制終了させてしまったようです。
短編は旨い作家なのにね・・・

No.1267 6点 貴婦人として死す- カーター・ディクスン 2016/08/29 23:56
1943年発表。
HM卿シリーズでいうと十四作目に当たる。カー中期の名作という評価も多いがさてどうか・・・

~戦時下イギリスの片隅で一大醜聞が村人の耳目を集めた。俳優の卵と人妻が姿を消し、二日後に遺体となって打ち上げられたのだ。医師ルークは心中説を否定、二人は殺害されたと信じて犯人を捜すべく奮闘し、得られた情報を手記に綴っていく。やがて、警察に協力を要請されたヘンリ・メルベール卿とも行動をともにするが・・・。張り巡らした伏線を見事回収、本格趣味に満ちた巧緻な逸品~

パッと見は地味ながら、実は味わい深い作品・・・
他の方も概ねこういう評価が多いが、やっぱり同様の感想を持った。
カーというとどうしても密室殺人を嚆矢としたトリックやオカルト趣味というところに目が行きがちになるが、中期の作品ともなると、そういう派手な衣装よりは、玄人受けしそうなミステリーらしいミステリーに矛先が向いてくる。
その中でも本作は出来のいい方なのだろう。
(巻末解説で山口雅也氏もえらく褒めています)

謎の中心は一見すると、断崖絶壁で急に消えた男女ふたりの足跡、というふうに見える。
他殺か自殺かという判断は思いのほか早く提示されるが、コイツが実はクセものなのだ。
終盤大詰めを迎えたところで、作品全体に仕掛けられた大いなる罠が発動される。
確かにまぁ伏線は張られているんだけど、そこは気付かないよなぁーっていうレベル。
こういう仕掛けをシレーっとやれる辺りがさすがに大作家といわれる所以だろうな。

HM卿は今回もお笑い全開!
電動車椅子を操るだけでも抱腹絶倒なのに(?)、街中を巻き込み、更なる混乱の渦を生み出していくことに・・・
本作では本当に脇役というべき存在で、最後の最後でようやく卿の推理が開陳されるのだ。

ということで、評価としては水準以上という感じかな。
ただ、他の佳作との比較ではちょっと落ちるのは否めないだろう。

No.1266 6点 予知夢- 東野圭吾 2016/08/29 23:55
「探偵ガリレオ」に続く湯川学=ガリレオシリーズ第二弾。
今回も超常現象を科学的にロジカルに解明(?)できるのか?
単行本は2000年の発表。

①「夢想る」=“ゆめみる”と読むらしい。幼い頃から自分の運命の人と思い続けてきた女性、森崎礼美。その女性が実在すると知った男性は夜部屋に押し入るのだが・・・。まぁ現実的な解決を付けるとしたらこうなるだろうなという真相。確かに猟銃については旨いなと思った。
②「霊視る」=“みえる”と読むらしい。別の場所で殺されたはずの女性を、ほぼ同じ時刻に別の場所で見てしまう現象・・・。これも幾多の怪異現象をロジカルに解き明かせばこうなるよなという真相。逆説とも言える解法はやはりさすがだ。
③「騒霊ぐ」=“さわぐ”と読むらしい。失踪した夫を探して欲しいという依頼を受けた草薙刑事。ある問題の一軒家を見張ることとなったふたりは思わぬ現象=ポルターガイストを体験することに! この解法が一番苦しいかな。科学的に正しいのかよく分かりませんが・・・(そういうこともあるということなんだろうな)。
④「絞殺る」=“しめる”と読むらしい。これは実にガリレオシリーズらしいトリック。工場が出てきた時点でそういう系のトリックなんだろうなという予想はついたけど、門外漢の私には湯川の説明がよく分かりませんでした・・・。
⑤「予知る」=“しる”と読むらしい(クドい?)。不倫相手が向かいの家で首吊り自殺を図った場面を目撃することになった男。実はその女性は三日前にも首吊り自殺をするところを別の人物から見られていた!?という強烈な謎。これもロジカルに解き明かせばこうなるよなという真相なのだが、とにかく旨いね。

以上5編。
今回は「オカルトとミステリーを融合すればこうなりました」というテーマで貫かれている。
一見すると超常現象なのだが、これとあれとなにかが組み合わさったため、こうなってしまったのです・・・
と、こういう展開なのだ。

こんなふうに書くと、単なる偶然の連続かと思われそうだが、そうではない。
割とあからさまに伏線やヒントが示されていて、読者が推理していくことは十分に可能な作りとなっている。
(何かしらの専門知識は出てくるけど・・・)

前作と比べてスケールという点では見劣るけど、ミステリー的な出来では一歩前進という感じかな。
とにかく読みやすくて、サクサク頁が進むこと請け合い!
(個人的ベストは①or②かな。⑤も捨て難い)

No.1265 7点 凍える牙- 乃南アサ 2016/08/29 23:54
1996年に発表され、その年の直木賞を受賞した作者の代表作。
女性刑事・音道貴子を主人公とするシリーズ第一作にも当たる。

~深夜のファミリーレストランで突如男の身体が炎上した! 遺体には獣の咬傷が残されており、警視庁機動捜査隊の音道貴子は相棒の中年刑事・滝沢と捜査にあたる。やがて、同じ獣による咬殺事件が続発。この異常な事件を引き起こしている怨念は一体何なのか? 野獣との対決の時が次第に近づいていた・・・。女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的な共感を集めた直木賞受賞作~

さすがに権威ある賞を受賞しただけのことはある作品だ。
圧倒的な筆力と何とも言えない熱量を感じさせる。
他の方も書かれているが、特に終盤、雪が釣り続く首都高速での追跡シーンは実に映像的でもあり、何ともいえない高貴で静謐な雰囲気を持つ名シーンだと思う。
そして貴子の女性刑事としての葛藤、闘い、そして昇華。
確かにこれはいわゆる女流ハードボイルドに連なる作品のひとつ。
(刑事の活躍や警察内部を描く警察小説的な見方もあるだろうが)

事件は衆人環視の中での大火災から幕を開ける。
かなりのインパクトを与えながら読者を惹きつける序盤。そして徐々に人智を超えた野獣の存在が明らかになってくる中盤。
ストーリーテリングもなかなかのものだ。
そして後半はとにかく野獣=ウルフドックの圧倒的な存在感に尽きる。
(思わずネットでウルフドックについて調べてみたけど、全然知らなかった。こんな動物がいるなんて・・・)

ミステリー的には最後まで捻りはないし、事件の構図も中途であっさりバラしてしまうなど、特段見るべきところはない。
でもまぁ本作ではそんなことは関係ないのかもしれない。
日々迷い続ける生き物である「人間」と、何の迷いもなくただ只管己の道を行く「ウルフドック」・・・
そのコントラストも作者の描きたかったことなのだろうか?
長さを感じず久々に一気読みしてしまうほど没頭してしまった。

No.1264 5点 盤上の夜- 宮内悠介 2016/08/21 18:44
単行本は2012年の発表。
表題作は第一回の創元SF短編賞 山田正紀賞を受賞した作者デビュー作でもある。
すべて「盤上」=ボードゲームをモチーフとした六篇で構成される作品集。

①「盤上の夜」=“囲碁”を題材とした表題作。四肢を失った美貌の女流棋士と、彼女の手足となってサポートする男性棋士。囲碁の世界でも人間VSコンピュータというのはよく話題になりますが、さて本編では?
②「人間の王」=“チェッカー”を題材としているのだが、寡聞にしてチェッカーという存在を知らなかった私。てっきりチェスのことだと思ってたけど、違うゲームなのね。双方が最善を尽くした場合、必ず引き分けとなることが証明された・・・ってそんなのありか?
③「清められた卓」=“麻雀”が題材となる本編。四人のプレイヤーが各自独特のキャラクターを持っているのが面白い。しかも新興宗教の女性教祖や小学生が参加する最強戦って・・・ありえる? 麻雀ファンには堪えられない展開&台詞。
④「象を飛ばした王子」=古代インド発祥の“チャトランガ”(=将棋のルーツのようなものか?)が題材。あのブッダの子供が主役として登場するのだが、隣の強国に攻め込まれる寸前という悩ましい状況。で、彼のとった行動とは?
⑤「千年の虚空」=“将棋”が題材。ある兄弟とひとりの奔放な女性による奇妙な共同生活。その中で生まれる愛憎渦巻くエピソードの数々・・・。結局将棋の場面はほとんどなし。
⑥「原爆の局」=再び①の世界&人物が描かれる最終話。ちょうど広島に原爆が落とされた日に行われていた囲碁の本因坊戦。そして、それを再現するかのようにアメリカの砂漠で行われている一局・・・結構シュールだ。

以上6編。
前評判が高いので、一体どんな佳作かと思って読んだわけだが・・・
うーん。正直なところ、良さが分からなかった。
で、そもそもこれってSFなんでしょうか? SFってなに?という疑問が次々に湧いてきた。

個人的には次作となる「ヨハネスブルクの天使たち」の世界観が実に良かっただけに、本作の世界観が合わなかったとしか言いようがない。
でもまぁこれがデビュー作だとしたら、確かにスゴイ作家だと言えるのかもしれない。
読者の評価云々とはちょっと違う次元の作品という感じにはなった。
私が読み手としてまだまだ未熟ということなのだろう。

No.1263 5点 鐘楼の蝙蝠- E・C・R・ロラック 2016/08/21 18:42
1937年発表。
全部で四十七編からなるマクドナルド主席警部登場作品のうちのひとつがコレ。
作者の作品は「悪魔と警視庁」に続いて二作目だが、女流作家というのは今回初めて気付いた・・・

~作家ブルース・アトルトンはドブレットと名乗る怪人物に執拗につきまとわれていた。彼の身を案じた友人の頼みで記者グレンヴィルは、ドブレットの住む荒れ果てた建物<鐘楼>を突き止めるが、戸口に現れた髭と眼鏡の男に追い払われてしまう。翌日、無人となった建物に入り込んだ彼は、地下室でブルースのスーツケースを発見する。一方、パリへ旅立ったはずのブルースはそのまま消息を絶っていた。通報を受けた警察が建物の調査に乗り出すと、壁の中から首と両手を切断された死体が・・・~

最初に書いたとおり、ロラックの作品も二作目なのだが、なにかちょっと惜しいような、なにか足りないような・・・
そんな気にさせられる作品だった。
紹介文を読んでいると、まさに本格ミステリー黄金期、猟奇的でおどろおどろしい、まるでカーのような雰囲気を想像してしまうのだが、実際には軽さというか、悪く言うと「薄さ」を感じさせる作品。

「どこが薄いのか?」
と問われれば、「全て」ということになるかな・・・
怪人物やら首のない死体やら、いかにもファンが喜びそうな材料が序盤から示されているのだが、それが疑似餌なのは明らか。
それはそれでいいんだけど、どうにもそれらすべてが必要性というか必然性のないものばかりに思えるのだ。
結局、真犯人っていったい誰をスケープゴートにしたかったのか?
(それが怪人物っていうなら、あまりにお粗末だろうし・・・) などなど

どうにも“ファンにウケそうな材料を取り揃えました!”感がありすぎて、それが「薄さ」に繋がっているのだろう。
ラストのサプライズも予定調和というレベル。
ちょっと辛口すぎるかもしれないけど、四十七編も続いたということは、人気のあったシリーズなんだろうな・・・
もしかして読み方が悪いのか?

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